ゲスト
(ka0000)
深緑
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在6人 / 4~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2015/03/17 15:00
- リプレイ完成予定
- 2015/03/26 15:00
オープニング
●
ベッカートは驚嘆した。
執事から慇懃に案内された画廊で目にしたものは、
今日のゾンネンシュトラール帝国にあって最高峰のコレクションだった。
しがない画商の身では一生拝むことのできないと思っていた名画の数々――
多くは王国から持ち込まれた巨匠の傑作。加えて、旧帝国時代の退廃美が光る逸品。
それらが年代や作家の別なく、天井の高い迷路のような画廊の各所に配されている。
仄明かりの中を半ば茫然としてさまよい歩いた挙句、順路の突き当たりの壁に、更に驚くべきものを目にした。
画廊の最奥、コレクションの締めくくりを飾る一枚は、
他でもない彼自身がかつて二束三文で手放した、小さなガラスモザイクだった。
石膏板に埋め込まれた緑、茶、無色、3種類のガラス片から成る、赤子を抱く女性の画。
数々の名作を差し置いて鑑賞の終点に置かれたその粗末なモザイク画は、異様な存在感を放っていた。
「お気に召して頂けたかね」
振り返れば、禿頭にカイゼル髭の紳士が、赤絨毯の上を足音もなく歩いてきた。
画廊の主にして帝国随一の資産家、ルートヴィヒ・フォン・ペンテジレイオスその人だ。
「大変な光栄です。お招き頂いたことも……、
私が売った画なぞを、このような素晴らしい場所に飾って頂いたことも」
恐縮するベッカートの肩へ軽く手を置くと、ルートヴィヒは彼の頭越しに画を見やり、
「聖母子像だね」
「は?」
「リアルブルーの伝統的な画題だよ、現存する原始エクラ教の宗教画にも多い。
現代絵画にも似た画題の作品は数あるが、
かつての聖母崇拝の意義は薄れ、形骸化しているものが大半だ。しかし……」
ルートヴィヒはひとり奥の壁へ向い、片眼鏡を取り出して間近に画を見つめる。
「『彼女』は、この画に心を込めているね」
金満家のルートヴィヒが、貧乏画商の青年・ベッカートなどを招いた理由はひとつ。
「この画の作者の、他の作品を貰いたいな」
ベッカートは冷汗をかいた。
まさか、風変りで目についたというだけで帝都のとあるガラクタ屋から買い取り、
好事家相手の商売が上手い知り合いに流したものが、流れ流れてこんな超一流のコレクターに辿り着くとは。
もっとも、ルートヴィヒは大資本家かつ芸術愛好家として有名な一方、
傾奇者とでも呼ぶべきか、その奇矯な趣味と振る舞いでも知られていた。
「先程、その画の作者を彼女、とお呼びになられましたが、既に作者をご存じで?」
ベッカートが尋ねると、
「どこの誰とも知らないが、画を見れば分かる。
画は窓だ。じっと目を凝らせば、向こう側のことが様々見えるんだよ。
とはいえ、画に呼びかけて『もう1枚』とは注文できない。あの画をどこで手に入れた?
教えてくれれば、あるいは君が今後買いつけをやってくれるなら、とても助かるんだがね」
●
女が背負った籠の中身は、一日かけて拾い集めたガラスくず。
夕暮れどき、彼女が貧民街に程近い河岸で焚火をしている仲間たち――
老人と女、子供ばかりの浮浪者の集まりへ混じると、ぼろぼろのコートで着ぶくれた老婆が声をかけた。
「ご苦労さんだったね、マティ。稼ぎはどうだい?」
「駄目ね。何だか最近、脚がおかしいの。あんまり歩けなくて」
マティは焚火の前の地べたに座ると、脚を伸ばしてもみながら、顔を隠すようにかぶっていた頭巾を取る。
彼女はまだ若く、美しかった。しかし頬はこけ、薄汚れた肌は荒れ、
ざんばらに刈った金髪は鳥の巣のように膨れ上がっていた。
誰かが彼女へ、色も味もない野菜くずのスープが入った器を回す。
子供たちがマティの籠に入ったガラスくずを、真っ黒に汚れた麻袋へ空けた。老婆が、
「だいぶ溜まったじゃないか。明日、お前たちで売りにお行き」
それからマティへ振り返って、
「昼間、また奴らが来たよ。石ぶっけて追い返してやった」
「……やっぱり、私出てくよ」
「何言ってるんだい! もっとましなところへ行く当てがあるってなら別だけどね、
あんな連中のせいで抜けるなんてのは、なしにしておくれ」
マティは答えない。ただ、器を開いた脚の間に置いて、
ガラスで傷だらけになった自分の手をじっと見つめるだけだった。
『奴ら』というのは、マティが以前働いていた店の男たちだ。
勝手に逃げ出した彼女を、力ずくで連れ戻す気でいる。
脅されようが何をされようが死んでも戻るつもりはない、
しかし匿ってくれた仲間たちをこれ以上危険に晒すこともできない。
相手はやくざ者、何度もこけにされて黙っている筈はないし、
ことが起これば、まともな男手のないこの集まりは簡単に潰されてしまう。
●
見慣れぬ青年がひとり、手を振りつつ河辺の焚火へ歩いてきた。
子供たちが咄嗟に河原の石を拾い上げる。老婆も立ち上がり、
「何度来たってマティを返す気はないよ! 彼女は私らの仲間なんだからね!」
投石に見舞われると、彼はひゃっと声を上げて身を屈めた。
「違う! 僕は――画を買いに来ただけだ!」
青年は画商・ベッカートだった。
ガラクタ屋の証言を元に作者を探して帝都中歩き回り、
そうして遂に、河原の浮浪者の集まりに混じっていたマティを見つけたのだ。
「あなたがガラクタ屋に売った画、あれを高く買っているお方がいるんだ。
新作を売ってくれたら、この先それだけで食っていけるかも……」
ベッカートの言い分は決して大げさではない。
ルートヴィヒは、恵まれない芸術家のパトロンとしても有名なのだ。老婆が手を打って喜ぶ。
「やったじゃないか、マティ! あの画を売るって聞いたときは、勿体ないと思ったけどねぇ」
マティが作ったガラスモザイクの母子像。
ガラスくずのまま工場に売るより細工をしたほうが儲かるのではと考えたのだが、
まともな売り先もなく、ガラクタ屋には小銭で買い叩かれてしまった。
「私どもは金に糸目はつけません。断る理由はないかと……」
「いいえ、お断りします」
きっぱり答えるマティに、老婆とベッカートが揃って口をあんぐりと開けた。
「私は追われてる身で、もう画を描いてる暇なんかないの。
それに、画を売ってうっかり顔と名が知られたら、また奴らに追いかけられる……」
マティの意志は固かった。老婆の説得も効かず、ベッカートは頭を抱える。
折角作者を見つけたというのに、貧乏画商から成り上がるチャンスは儚くも消え――
いや、ここで諦めてなるものか。
「つまりですね、追っ手さえどうにかなれば、画を描く余裕も出てくると?」
「そりゃあね。でもあなた、ひ弱そうだし、とても助けてもらえるとは」
そこでベッカートは己の胸をぽんと叩いて、誇らしげに言った。
「仰る通り僕は貧弱だ! ですが絶対に解決してみせます……方法はある」
帝都のベッカートから連絡を受けたルートヴィヒは、簡単に言ってのけた。
「やりたまえ。ハンターを雇って問題を解決したまえ、金はいくらでも出す」
ベッカートは驚嘆した。
執事から慇懃に案内された画廊で目にしたものは、
今日のゾンネンシュトラール帝国にあって最高峰のコレクションだった。
しがない画商の身では一生拝むことのできないと思っていた名画の数々――
多くは王国から持ち込まれた巨匠の傑作。加えて、旧帝国時代の退廃美が光る逸品。
それらが年代や作家の別なく、天井の高い迷路のような画廊の各所に配されている。
仄明かりの中を半ば茫然としてさまよい歩いた挙句、順路の突き当たりの壁に、更に驚くべきものを目にした。
画廊の最奥、コレクションの締めくくりを飾る一枚は、
他でもない彼自身がかつて二束三文で手放した、小さなガラスモザイクだった。
石膏板に埋め込まれた緑、茶、無色、3種類のガラス片から成る、赤子を抱く女性の画。
数々の名作を差し置いて鑑賞の終点に置かれたその粗末なモザイク画は、異様な存在感を放っていた。
「お気に召して頂けたかね」
振り返れば、禿頭にカイゼル髭の紳士が、赤絨毯の上を足音もなく歩いてきた。
画廊の主にして帝国随一の資産家、ルートヴィヒ・フォン・ペンテジレイオスその人だ。
「大変な光栄です。お招き頂いたことも……、
私が売った画なぞを、このような素晴らしい場所に飾って頂いたことも」
恐縮するベッカートの肩へ軽く手を置くと、ルートヴィヒは彼の頭越しに画を見やり、
「聖母子像だね」
「は?」
「リアルブルーの伝統的な画題だよ、現存する原始エクラ教の宗教画にも多い。
現代絵画にも似た画題の作品は数あるが、
かつての聖母崇拝の意義は薄れ、形骸化しているものが大半だ。しかし……」
ルートヴィヒはひとり奥の壁へ向い、片眼鏡を取り出して間近に画を見つめる。
「『彼女』は、この画に心を込めているね」
金満家のルートヴィヒが、貧乏画商の青年・ベッカートなどを招いた理由はひとつ。
「この画の作者の、他の作品を貰いたいな」
ベッカートは冷汗をかいた。
まさか、風変りで目についたというだけで帝都のとあるガラクタ屋から買い取り、
好事家相手の商売が上手い知り合いに流したものが、流れ流れてこんな超一流のコレクターに辿り着くとは。
もっとも、ルートヴィヒは大資本家かつ芸術愛好家として有名な一方、
傾奇者とでも呼ぶべきか、その奇矯な趣味と振る舞いでも知られていた。
「先程、その画の作者を彼女、とお呼びになられましたが、既に作者をご存じで?」
ベッカートが尋ねると、
「どこの誰とも知らないが、画を見れば分かる。
画は窓だ。じっと目を凝らせば、向こう側のことが様々見えるんだよ。
とはいえ、画に呼びかけて『もう1枚』とは注文できない。あの画をどこで手に入れた?
教えてくれれば、あるいは君が今後買いつけをやってくれるなら、とても助かるんだがね」
●
女が背負った籠の中身は、一日かけて拾い集めたガラスくず。
夕暮れどき、彼女が貧民街に程近い河岸で焚火をしている仲間たち――
老人と女、子供ばかりの浮浪者の集まりへ混じると、ぼろぼろのコートで着ぶくれた老婆が声をかけた。
「ご苦労さんだったね、マティ。稼ぎはどうだい?」
「駄目ね。何だか最近、脚がおかしいの。あんまり歩けなくて」
マティは焚火の前の地べたに座ると、脚を伸ばしてもみながら、顔を隠すようにかぶっていた頭巾を取る。
彼女はまだ若く、美しかった。しかし頬はこけ、薄汚れた肌は荒れ、
ざんばらに刈った金髪は鳥の巣のように膨れ上がっていた。
誰かが彼女へ、色も味もない野菜くずのスープが入った器を回す。
子供たちがマティの籠に入ったガラスくずを、真っ黒に汚れた麻袋へ空けた。老婆が、
「だいぶ溜まったじゃないか。明日、お前たちで売りにお行き」
それからマティへ振り返って、
「昼間、また奴らが来たよ。石ぶっけて追い返してやった」
「……やっぱり、私出てくよ」
「何言ってるんだい! もっとましなところへ行く当てがあるってなら別だけどね、
あんな連中のせいで抜けるなんてのは、なしにしておくれ」
マティは答えない。ただ、器を開いた脚の間に置いて、
ガラスで傷だらけになった自分の手をじっと見つめるだけだった。
『奴ら』というのは、マティが以前働いていた店の男たちだ。
勝手に逃げ出した彼女を、力ずくで連れ戻す気でいる。
脅されようが何をされようが死んでも戻るつもりはない、
しかし匿ってくれた仲間たちをこれ以上危険に晒すこともできない。
相手はやくざ者、何度もこけにされて黙っている筈はないし、
ことが起これば、まともな男手のないこの集まりは簡単に潰されてしまう。
●
見慣れぬ青年がひとり、手を振りつつ河辺の焚火へ歩いてきた。
子供たちが咄嗟に河原の石を拾い上げる。老婆も立ち上がり、
「何度来たってマティを返す気はないよ! 彼女は私らの仲間なんだからね!」
投石に見舞われると、彼はひゃっと声を上げて身を屈めた。
「違う! 僕は――画を買いに来ただけだ!」
青年は画商・ベッカートだった。
ガラクタ屋の証言を元に作者を探して帝都中歩き回り、
そうして遂に、河原の浮浪者の集まりに混じっていたマティを見つけたのだ。
「あなたがガラクタ屋に売った画、あれを高く買っているお方がいるんだ。
新作を売ってくれたら、この先それだけで食っていけるかも……」
ベッカートの言い分は決して大げさではない。
ルートヴィヒは、恵まれない芸術家のパトロンとしても有名なのだ。老婆が手を打って喜ぶ。
「やったじゃないか、マティ! あの画を売るって聞いたときは、勿体ないと思ったけどねぇ」
マティが作ったガラスモザイクの母子像。
ガラスくずのまま工場に売るより細工をしたほうが儲かるのではと考えたのだが、
まともな売り先もなく、ガラクタ屋には小銭で買い叩かれてしまった。
「私どもは金に糸目はつけません。断る理由はないかと……」
「いいえ、お断りします」
きっぱり答えるマティに、老婆とベッカートが揃って口をあんぐりと開けた。
「私は追われてる身で、もう画を描いてる暇なんかないの。
それに、画を売ってうっかり顔と名が知られたら、また奴らに追いかけられる……」
マティの意志は固かった。老婆の説得も効かず、ベッカートは頭を抱える。
折角作者を見つけたというのに、貧乏画商から成り上がるチャンスは儚くも消え――
いや、ここで諦めてなるものか。
「つまりですね、追っ手さえどうにかなれば、画を描く余裕も出てくると?」
「そりゃあね。でもあなた、ひ弱そうだし、とても助けてもらえるとは」
そこでベッカートは己の胸をぽんと叩いて、誇らしげに言った。
「仰る通り僕は貧弱だ! ですが絶対に解決してみせます……方法はある」
帝都のベッカートから連絡を受けたルートヴィヒは、簡単に言ってのけた。
「やりたまえ。ハンターを雇って問題を解決したまえ、金はいくらでも出す」
解説
今回の依頼の目的は、
ガラスモザイク画の作者・マティを追うならず者を排除し、彼女の安全を確保することです。
マティを追うならず者たちは10~15人ほど、
内半数ほどがマティの関係者で、残りは助っ人として貧民街から雇われたちんぴらです。
彼らは棍棒やナイフ、拳銃で武装し、マティと浮浪者たちが暮らす河原へ押しかけてきます。
マティの仲間たちは30人近くいますが、老人と女性、子供ばかりで、
ならず者たちが本気で襲いかかってきた場合ほとんど抵抗できません。
彼らに代わってならず者たちを叩きのめし、マティの身柄を諦めさせて下さい。
相手は以前何度か追い返されたことから面子がかかっており、交渉のみでの解決は困難と思われます。
また、現場が帝都内である為、死者を多数出す等の大事は避けるようにして下さい。
ガラスモザイク画の作者・マティを追うならず者を排除し、彼女の安全を確保することです。
マティを追うならず者たちは10~15人ほど、
内半数ほどがマティの関係者で、残りは助っ人として貧民街から雇われたちんぴらです。
彼らは棍棒やナイフ、拳銃で武装し、マティと浮浪者たちが暮らす河原へ押しかけてきます。
マティの仲間たちは30人近くいますが、老人と女性、子供ばかりで、
ならず者たちが本気で襲いかかってきた場合ほとんど抵抗できません。
彼らに代わってならず者たちを叩きのめし、マティの身柄を諦めさせて下さい。
相手は以前何度か追い返されたことから面子がかかっており、交渉のみでの解決は困難と思われます。
また、現場が帝都内である為、死者を多数出す等の大事は避けるようにして下さい。
マスターより
帝国の首都・バルトアンデルスには様々な人間が暮らしています。
中には事情を抱え、まともな生活を送ることのできない人々も。
例え、そのきっかけが金持ちの道楽であっても、誰かが助けの手を差し伸べる必要があるでしょう。
ハンターの義侠心に期待しています。
中には事情を抱え、まともな生活を送ることのできない人々も。
例え、そのきっかけが金持ちの道楽であっても、誰かが助けの手を差し伸べる必要があるでしょう。
ハンターの義侠心に期待しています。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2015/03/24 00:36
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/03/16 22:23:53 |
|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/13 05:55:29 |