• 調査

貧民街探索

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
プレイング締切
2015/04/07 09:00
リプレイ完成予定
2015/04/16 09:00

オープニング


 ここはゾンネンシュトラール帝国の首都・バルトアンデルスの一角。
 『バルトアンデルス日報』の看板を掲げた、3階建ての薄汚れた事務所がある。
 紙巻煙草をくわえた女が、丁稚奉公の少年の自転車をさっとかわして、中へ入った。
 玄関ホールでは、受付係の男が新聞をかぶったまま、椅子で居眠りしている。
 すれ違いざま、新聞を手で叩き落として、
「給料分は仕事しな、フランツ」
 言いながら、細くて急な階段を1段飛ばしで上がっていく。
 2階の廊下を何歩か進み、磨りガラスの嵌ったドアを開ければ、
「おはよう、ドリス」
 もうもうと煙草の煙が立ち込めるオフィスの奥から、編集長のヴァルターが片手を挙げて挨拶した。
 一方、他の記者たちは彼女に見向きもせず、机にしがみついて一心不乱にペンを走らせている。

 『おはよう』とは言われたものの、時刻は既に正午過ぎ。
 窓の日除けの隙間から陽が差し込んで、オフィスの床に縞模様を作っていた。
 ドリスはつかつかとオフィスを横切って歩き、編集長と差し向かいになると、
「今日の仕事にかかる前に。例のアレ、詰めておきたいんですけどねぇ」
「……ん。ちょっと待った」
 編集長は手元の原稿にさっと赤を入れると、他の原稿と束にして、抱えて立ち上がった。
 ドリスの肩越しに、他の記者たちへ、
「タイプに回してくる。ついでに休憩してくるから、何かあったら下までな」
 声をかけると、ドリスを連れて1階へ下りた。


 『バルトアンデルス日報』――略称『バルツ』は、革命後にできた新しい、小さな新聞社だ。
 安価な大衆紙として、12年間あの手この手で部数を伸ばしてきたが、
 それでもこの古びた事務所を離れられない。
「うるせぇな」
 応接室のソファに踏ん反り返って、ドリスが言う。
 1階応接室の隣には事務室があって、タイピストたちもそこに詰めているから、
 タイプライターを叩く音が薄い壁越しにひっきりなしで聴こえてくる。
「で、特集記事の取材の件だったな」
「そうです」
 ドリスは卓上に置かれた、吸い殻で一杯の陶器の灰皿を引き寄せて、
「一昨日、バルデンプラッツ区で揚がったどざえもんですが――」
「よりにもよって城の裏手でな。ちんぴら風の若い男だ。
 鈍器で頭を割られていて、ポケットからはナイフと棍棒が見つかった」
「貧民街から流れてきたんじゃあ、ないですかね」
 ドリスは新しい煙草に火を点けると、向かいの編集長にも1本差し出す。
 編集長が受け取りながら、
「第一師団の担当部署もそう言ってる。ちんぴら同士の喧嘩で殺され、河に捨てられたんだろう。
 別段、特集記事を組むような話じゃないと思うがね。何か成算があるのか?」
「いやぁ、大した話じゃないですけど、近頃貧民街絡みで噂を耳に入れたもんで」

 近隣の住民曰く、貧民街で新しいトラブルが持ち上がっているらしい。
 元々治安の良くない場所ではあるが、最近は何かと物騒な話が多い。
 界隈で見慣れない人間の出入りが増えたとか、夜中に銃声を聴くことが増えたとか、
 つい先日も河原で乱闘騒ぎがあったとかなかったとか。
「別件で取材してても、第一師団がこのところピリついてる感じがあって。
 反体制派の動きも活発になってるし、その辺で連中も警戒してるんでしょうが、
 ウチもここらで一度、昨今の帝都の治安悪化を憂う……なんて特集を出したら良いかな、と。
 革命成金の自慢話だの社交界の流行だのって、読者はもう飽き飽きしてますよ?
 ウチの読者が求めてるのはね、もっと身近でリアルで、血沸き肉躍るバイオレンスな話題なんですよ」

「だがなぁ」
 編集長が、そっぽを向いて煙を吐く。
「噂、噂じゃ記事にならんぜ」
「だから現地で取材を――」
「貧民街でか? 俺は嫌だな。『バルツの女性記者、取材中強盗に遭う』なんて間抜けなネタは」
 ドリスはぐいとシャツの袖をまくって、腕に力こぶなど作ってみせるが、
 編集長は苦笑しながらかぶりを振るだけだった。
「単なる噂に過ぎなけりゃ、記事にはならない。
 逆に噂が本当だったら、お前さんを貧民街にやりたくない」
「何なら、護衛をつけますよ」
「あのなぁ、ウチの台所事情分かってるのかお前は――」


 取材に必要な準備、その経費を巡ってしばし言い争った後、
 根負けした編集長が『ハンターを雇え』と言い出す。
「もういっそ、雇うなら一流の人間を雇え。
 そんで取材も手伝ってもらえ……やばいところに足突っ込ませて、精々どぎついネタを取ってこい」
「ありがとうございます」
 満足げに煙草を燻らすドリス。編集長は渋面のまま、壁に貼られた今朝の新聞に目を向ける。
「まぁ……実際、ネタ切れは本当だからな。
 上手くすりゃ、今やってる『財界の騎士たち』シリーズの後釜にできるか……、
 そうそう。貧民街取材の前に、お前、シュトックハウゼン紡績の社長からインタビュー取ってこいよ」
「はぁ? 『騎士たち』の担当はクリストフでしょうが」
「奴さん明日から里帰りなんだ! 雑魔騒ぎで実家が壊れちまって、お袋さんひとりじゃ片づけられないし、
 他の兄弟は兵隊で辺境行ってて、手伝える身内は奴だけなんだそうだ」
「ったく……」
 立ち上がったドリスを見て、編集長が不意ににやり、と笑う。
「お前、その恰好でシュトックハウゼン氏に会いに行くなよな」
 その日のドリスは、男物の黒いフロックコート姿。おまけに煙草の灰まみれだ。
「へぇ、気をつけますわ」
 気のない返事をして、ドリスは早足で部屋を出ていった。
 まずは任されたインタビュー記事を片づけなければならないが、
 彼女の頭の中は、既に貧民街の取材と特集記事のことで一杯だ。


 『貧民街』とは、帝都バルトアンデルスの南東部、ブレーナードルフ区のある一部分を指す言葉である。
 革命以降の都市開発から取り残された古い集合住宅が、
 帝都中央を流れるイルリ河を背にして、ごみごみと立ち並んでいる。
 住民たちの多くは失業者で、職にあぶれた地方出身者や傷痍兵、前科者、
 故郷を離れたエルフやドワーフ、辺境移民と、抱えた事情は色々だ。
 社会的弱者である彼らの周囲には、常に貧困と暴力がつきまとう。
 口さがない帝国官吏たちは、彼らとその住居を犯罪の温床、帝都の膿と呼んではばからない。
 同区の住民たちも貧民街を危険地帯と見なして、近寄らないようにしている。

 しかし、ドリスは思う。
(実際のところどうなのか、外から眺めるだけじゃ分かんないんだよな)
 ジャーナリストの端くれとして、一度はその目で見、その耳で聞くべきことがある筈だ。
 そして記事にして、他の人々に伝えるべき何かが――

解説

 今回の依頼の目的は、『バルトアンデルス日報(バルツ)』の特集記事作りの為、
 帝都の貧民街を探索し、近隣で起こった事件や住民たちの生活について取材することです。

 取材範囲は以下の5つの区域に分けられます。
 それぞれ区域を分担し、取材に向かって下さい(誰も行かない区域があっても構いません)。
 また、どこか1区域の探索に、記者のドリスを同行させるよう求められています。

 A:酒場通り
 貧民街に程近い酒場、宿泊所、酒屋やその他商店の並びです。
 正確には『貧民街』と呼ばれる地域からは外れるのですが、
 少々いかがわしい店が多いことや、貧民街とも人の行き来が頻繁なことから、
 今回の取材に関しても何らかの情報を得ることができそうです。

 B:住宅街
 貧民街内部、築年数の経ったアパルトマンが並ぶ通りです。
 貧民街の標準的な住民たちは、ここで暮らしています。
 昼間、家に居残っているのは女性や子供が多く、
 よそ者に対する警戒心が強いので、取材の際は色々と工夫が必要でしょう。

 C:『シュタートゥエ』
 貧民街内部にある、うらぶれた酒場です。
 界隈の顔役であるちんぴらの頭目と、その手下たちの溜まり場になっています。
 彼らもよそ者を強く警戒しますが、欲深で金銭に目がないので、
 交渉次第では取材に応じてくれるかも知れません。

 D:河原のバラック
 貧民街近くの河岸で寝起きしている浮浪者たちのバラックです。
 住人は女性や子供、老人ばかりで、比較的温和な対応が期待できます。
 反面、街では立場が弱く、詳しい事情は知らないことがあります。

 E:裏路地
 貧民街のあちこちにある、暗く狭い裏路地です。
 ちんぴらや浮浪児たちの縄張りになっていることが多く、
 強盗その他の犯罪に巻き込まれる危険が大きい場所です。
 しかしそれだけに、他では入手できない情報が得られる見込みもあります。

マスターより

 今回は、帝都バルトアンデルスの貧民街を探索する社会見学?シナリオです。
 革命以降、ひたすらに軍事国家としての道を邁進する帝国ですが、
 その中で取りこぼされたものは決して少なくないでしょう。
 忘れた振りをして放っておくと、
 いつか手ひどいしっぺ返しを食らうことになるやも分かりません。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2015/04/15 04:57

参加者一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 無類の猫好き
    鹿島 雲雀(ka3706
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人

  • ルース・L・スパーダ(ka4513
    エルフ|30才|男性|疾影士
  • 撓る鋼鞭
    ノイ・ヴァンダーファルケ(ka4548
    人間(紅)|14才|女性|疾影士
依頼相談掲示板
アイコン 貧民街を探せ!
レイ・T・ベッドフォード(ka2398
人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/04/06 09:52:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/04 09:23:16