• 戦闘

鉄火の女神

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
プレイング締切
2015/06/12 22:00
リプレイ完成予定
2015/06/21 22:00

オープニング


『リアルブルーにおける経済圏の拡大と資本の集中は極めて緩やかに進行したが、
 クリムゾンウェストと比して、遥かに広大な生存可能領域がその原因と考えられる。
 歪虚に対する団結の不要もまた、共同体の内外に様々な分裂と対立をもたらした。
 一方で、有史以来絶えることのない対人類戦争が、地球の技術発展に大きく寄与したことも確かである。
 人類間の闘争の技術は、人類対歪虚のそれと違って、対立する双方で容易に交換可能な性質を持ち……』

 青年画商・ベッカートがサロンで待たされている間、
 ルートヴィヒ・フォン・ペンテジレイオスの第2書斎からは、
 主の朗々たる声が、止むことなく響き渡っていた。
 執事曰く、主人は口述筆記の最中だそうだ。
 終わり次第面会が許されるとのことで、ベッカートはひとり、
 書斎からの声にそれとなく耳を傾けながら待っていたのだが、

『……「地球派」「蒼界派」などと呼ばれるこれら芸術諸派は、
 各時代毎の芸術、あるいは文化全般における旧弊へのアンチテーゼとして、己が活動を喧伝したものだが、
 多くは非知識階級出身の転移者がもたらす、伝聞に基づいた彼らの地球観は、
 リアルブルーに関する大量の記録資料がもたらされた今日、急速に更新されていくことだろう。
 しかし、誤謬の歴史もまた歴史の一部であれば……』

 話題が変わったかな、と思う。どこかで聞き損ねた箇所があったのだろう。
 恐ろしく高価な調度に埋もれて、ベッカートは物思いに耽る。
 貧民街の芸術家・マティ。ついこの間まで、ルートヴィヒの求めを果たすことで頭が一杯だったが、
 先日帝都で会ったときは、随分美しい女性だったのだなと今更ながらに感嘆した。
 彼女のほうも少しずつではあるが、自分に打ち解けてきてくれている気がする。
 別に、下心のある訳ではないが――

『お姉ちゃんのバカ!』

 何だ何だと身を起こす。突然、書斎のルートヴィヒが少女の声色を使ったかと思うと、

『「お姉ちゃんはひとりでイルニエルの家を守ってるつもりになって、
 私の気持ちなんて考えてくれたこと、なかったじゃない!」
 ……ベルス、舞台の中央で泣き崩れる。ゼゾ、マオの手を引いてベルスの下へと連れていくと、
 もう片方の手でベルスの肩に触れ……触れ……えー。

 戦争による共同体の解体と再構成は、同時に統治機構の効率化と、物的・知的財産の集約の契機ともなり、
 更なる飛躍に向けた、文明の揺籃期とすら呼び得ただろう。
 さながら、使い古した剣を火に投じて焼き直すかの如く……あー、何か違うな。上3行、削除。

 当会が選りすぐった作品は、いずれも今日の政治的・文化的一大革新の最中、
 正しく火中に生まれ出ずる新たな美の、誕生の歓喜と苦悶を内包した傑作である。
 帝国のみならず、西方世界一般の美術史上においても、不朽の価値を持つものと筆者は信じる……うー、
 マオ、「ゼゾ、貴方の手を通じて、妹の痛みが伝わってくるようだわ」。
 抑圧の化身、全員が剣を取り落とし、その場に倒れ伏す。
 戦争の鉄火はさながら、剣を火に投じて焼き直すかの如く、停滞した文明の再生手段でもあった。
 芸術愛好家諸氏におかれては是非、2度3度と足を運び、
 その煌々たる炎を眼に焼きつけ、来たるべき変革の時代の道行を照らす灯明として頂きたい……今日は終わり!』


 3人の筆記者が、ベッカートと入れ替わりに書斎を立ち去っていく。
 残された主人は安楽椅子にもたれ、
「私という人間は、実に思考力散漫でね。
 ひとつことにじっと集中するというのが、どうも苦手だ。
 思いつくままやりたいから、いっそ3枚同時に書いちゃおうと考えたのさ。
 パンフレットの序文も先程完成したよ」
「終わりの部分は、外で聞かせて頂きました。お素晴らしい名文で……」
「ひでぇもんだろ」
 ルートヴィヒがそう言って、舌を出す。
「ま、あれくらい俗文のほうが、鑑賞の邪魔にならなくて良いさ」
「は、ははぁ」

 話題は、後日に控えた帝都バルトアンデルスでの美術展覧会のこと。
 『鉄火の女神――革命13年の帝国美術』と題した現代美術展で、
 ルートヴィヒも出資金の大部分と、目玉作品の貸与を引き受けていた。
「主催者のエンゲルスとは昔、同じ先生のところに師事してまして。
 お互い絵描きにはなれず、歳もいくつも変わらないのに、あいつは随分出世したものです」
「今や、前衛芸術家たちのオピニオンリーダーか。しかし、私は君にも見所があると思ってるよ?」

 はにかむベッカートだが、胸中は複雑だ。
 かつての同輩の大見せ場。応援したくもあり、けちをつけたくもあり。
 もっとも、今回の展示作品には、
 彼がルートヴィヒに売ったマティ作のモザイク画2枚も加わっており、その点は素直に喜ぶことができた。
「ありがとうございます……?」
 礼を言いつつ、ベッカートの目は書斎の一隅に吸い寄せられる。
 何やら、白い布を被せられた大きな塊がひとつ。
「気になるかね? そうそう、君には特別、あれを早めに見せておきたかったんだ。
 展覧会へ急遽出品が決定した、私の所蔵品だ」


 覆っていた布を取り払うと、中から現れたのは、建物から剥されたと思しき1枚の石壁。
 灰色の壁面には、黒いペンキでジグザグのマークが書きつけられていた。
 そのマークは、稲妻あるいは木の根を模しているようにも見え、
「昨日、会場の外壁に落書きされていたんだ」
 こともなげに言うルートヴィヒだが、ベッカートはマークの正体に得心行って唖然とする。
「ヴルツァライヒ……」
「如何にも。いつかのビラ事件で、少々話題になったね。
 この印が実際何を表しているのかは未だ不明だそうだが、意図は明白。脅迫だ。
 エンゲルスはすぐ消せと騒いだんだが、たまたま居合わせたもんで、壁ごとうちにもらってきたんだ」
「彼、あるいは展覧会に対する脅迫、でしょうか?」

「どうかな、私のせいかも知れんよ。何せほら――私宛ての脅迫状がこんなに!」
 書斎の棚から、手紙の分厚い束を取り出すルートヴィヒ。
 手渡された手紙をベッカートが確かめると、どれもここ1週間以内の消印となっていた。
「この分だと、私が確実に姿を見せる開会初日を狙ってくるな。会場に火をつけるという脅迫もあった」
 当人は至って淡々としているが、成る程、革命後の帝国を否定する反体制派にとり、
 新体制下の経済を支える大資本家・ルートヴィヒは、不倶戴天の敵に違いない。その上、彼は――
「会場警備にハンターを参加させるよう、手配しておいたよ」
「それは心強い。マティの一件でも、彼らは見事な働きを見せてくれましたし……」

「展覧会初日に、ハンターと暗殺者の大立ち回りか。うむ、実に帝国の現在を象徴した事件となるな」
 髭をつまみながら、ルートヴィヒはしげしげと石壁を見下ろす。
「私が死んだら、死体が匂い出すまで、これと一緒に会場へ飾っといてくれ」

解説

 今回の依頼の目的は、帝都バルトアンデルスで開催される美術展覧会において、
 開場前日~初日の2日間、会場施設および来場者を警護することです。
 展覧会に対しては、反体制組織ヴルツァライヒと思しき複数の人物から、
 書面その他による脅迫とテロ予告が為されています。

 展覧会場は帝都北岸、バルトアンデルス城に程近い場所にある、3階建ての巨大な洋館。
 周辺には政府関連施設や企業のオフィスが立ち並び、日中は人通りの多い場所ですが、
 夜間は反対に、憲兵隊の警邏や残業者を除いて、ほとんど人気が絶えてしまいます。
 会場内と周囲の通りには警備員が常駐していますが、全員が非覚醒者。
 装備も警棒のみで、戦闘能力はあまり高くありません。
 開場前夜は、準備に追われる関係者や施設への攻撃が危惧されます。

 展覧会初日は著名な芸術家や評論家、その他帝都の有名人がこぞって来場し、
 出資者であるルートヴィヒも、この日に会場を訪れる予定です。
 多数の来場者に混じってヴルツァライヒの人間が侵入、要人暗殺を試みる恐れがあります。

 警備の方法や方針については概ね、依頼を受けたハンターに任されていますが、
 万が一会場内で戦闘を行う場合は、来場客や展示物に被害の出ないよう、くれぐれも注意して下さい。

マスターより

 当方のシナリオで過去2度ほど登場した、帝国の大資本家・ルートヴィヒ。
 彼が出資する美術展覧会と、そこに集まる人々を狙って、
 反体制派組織ヴルツァライヒがテロを予告しています。

 軍事国家として何かと無骨なイメージのある帝国ですが、
 時には芸術で、人々の心に潤いを与える必要もあるでしょう……多分。
 どうかヴルツァライヒの企みを挫き、展覧会を守って下さい。
 また、アートにご興味のあるハンターの方へも、
 一風変わった帝国の現代芸術をタダ見できる機会として、ご活用頂ければ幸いです。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2015/06/20 22:41

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • Slum Nail
    リーゼロッテ(ka1864
    人間(紅)|20才|女性|疾影士
  • 時軸の風詠み
    ウィルフォード・リュウェリン(ka1931
    エルフ|28才|男性|魔術師
  • 闊叡の蒼星
    メリル・E・ベッドフォード(ka2399
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 絵師目指す者
    アルテア・A・コートフィールド(ka2553
    人間(紅)|12才|女性|機導師
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/08 20:43:11
アイコン 仕事の時間です
真田 天斗(ka0014
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/06/12 21:39:31