• 戦闘

歯車のはじまり

マスター:西尾厚哉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2015/06/21 09:00
リプレイ完成予定
2015/06/30 09:00

オープニング

「お手紙ちょうだい、絶対ちょうだい」
 泣いて懇願すると、彼は少し困ったような顔をした。
「ピア、レイはこれから忙しくなる。困らせるようなことを言っちゃいかん」
 祖父のなだめる声。
「じゃあ、レイにこの時計、はんぶんこして。おじいちゃま、レイのためにはんぶんこして」
 祖父は私の為に作ってくれたペンダント型の時計から、歯車を3つ取り出してレイにお守りのペンダントを作ってくれた。
 ずっとずっと前の話だ。

「レイ・グロスハイムですか? はい。在籍してお…」
「会えますかっ!?」
 身を乗り出して叫んだピア・ファティに、イルリヒトの事務局員は反射的に体を反らせた。
 イルリヒトに入学したから、とっくの昔に卒業してどこかの師団の所属になっているのだと思っていた。
 あっちこっちの師団やら駐屯部隊やら、当たって探してもいないはずだ。
 小さい頃、一緒に育ったレイ。まだここにいたなんて。
「この書類に必要事項を書いて後日…」
 局員が差し出そうとした書類には目もくれず、ピアはまたしても身を乗り出す。
「ここまで辿り着くのに3年もかかったんですっ!」
「そう仰いましても…」
 規則ですからと突っぱねようとする局員の視界に入った人影があった。
 ピアの背後から近付いたその影は、彼女の頭上から腕を伸ばして書類の束を局員に差し出す。
「失礼。訓練に変更が出たので連絡をお願いします」
 ピアは頭上の腕を伝って、声の主を振り返る。若い男の声に一瞬それがレイではないかと期待を持ったが、残念ながらその顔には覚えがなかった。
「ご面会?」
 視線が合って、相手は少し微笑んでピアに言う。
「あ、あの、面会というか、レイ・グロスハイムに会いたくて」
 ピアの言葉に局員が「あ」と顔をしかめた。理由は青年の返答にあった。
「レイに?」
 青年の目が微かに好奇に光る。
「レイは第二訓練宿舎にいます。僕も今から行くところで。一緒に行きますか?」
「ブレガ教官、困りま…」
「はいっ!」
 またもや局員の言葉を遮って、ピアが叫ぶ。
 局員の額にピキキと青筋が立ったが、青年は笑ってピアに手を差し出した。
「じゃ、どうぞ」
「ブレガ教官!」
「僕が責任持ちますから」
 青年は局員に言い、ピアは顔を輝かせて青年の後に続いたのだった。


 いつもはバイクで移動するけれど、と言いつつ、ピアが馬で来たために合わせて馬で出発してくれた彼はトマス・ブレガといった。
 レイが彼と同じく教官をしていると知って、ピアはレイが偉くなったんだと少し誇らしく思う。
 もう10年以上会ってない。どんな雰囲気になっているだろう。
 訓練宿舎は馬で数時間も離れた場所だ。
 イルリヒトに行くまでにピアが通って来た道でもある。
 感情に任せて甘えてしまったけれど、と恐縮していたピアは、そのうちレイとの思い出話を夢中になってトマスに話していた。
 彼がひとつひとつに興味深そうに相槌を打ってくれたからかもしれない。だから長いと思えた3時間もあっという間だった。
 人里離れた場所にぽつりと建つイルリヒト第二訓練宿舎は古くいかめしい雰囲気の建物で、更に数キロ先に見える森にはピアは覚えがあった。そこを通って来たからだ。
 ちょうど何かの訓練が終わったのか、少し疲れたような顔の少年達が走って来た。
 その一番後ろから歩いて来る青年をトマスは指差す。
「レイだよ」
 歩きながら手に持ったファイルを見るその額に垂れかかった髪は間違いなくレイの金髪、こちらに気づいて向けた目も思い出にある灰色。
「レイ!」
 ピアは駆け出していた。
 腕を広げて彼にハグしようとした途端
「触るな! 臭い!」
 鋭い声が響いた。
「えっ…」
 ファイルを盾代わりにされ、ピアは慌てて自分の腕をくんくんと嗅ぐ。お風呂は入ったよ? 何で臭い?
 そして「あ」と思いだした。あの森。天気がいいからと寄り道した。そこで、踏んだのよね、何かの『落し物』
「でも、踏んだのは馬だし」
 などと呟きつつ…そういうことじゃなくて。
「レイ、見違えちゃった。ピアよ、小さい頃一緒に暮らした」
 言う途中で胡散臭そうに細めた視線を一度向けたきり、相手が歩き出してしまった。
 ピアは慌てて後を追う。
「ほら、歯車のペンダント、渡したじゃない。おじいちゃんがはんぶんこしてくれて…」
「それって、レイの部屋にあったやつ?」
 トマスが口を開くとぴたりと足が止まり、鋭い視線がこちらを向いた。
「外部の者は外に出ろ」
 記憶にあるレイとは違う冷たい口調だった。
 そっぽを向いて立ち去るレイをピアは呆然と見送った。
「レイはいつもあんな物言いだから。案外本当に忘れているのかも」
 トマスが慰めるように言う。
「でも…歯車のペンダントがあるなら、これを見たらきっと…」
 自分の胸元を探るピアの顔色から血の気が引いた。
 ない。
 いつも自分の首元にあるはずのペンダント型の時計が…ない。
「嘘…昨日お風呂の時はあったし、朝ごはんの時も…」
 くらーっとした。
 あれだ。森の中で馬がぐらついた時。油断してたからものすごく体勢を崩した。
「糞溜まり…」
「踏んだまり?」
 ピアの呟きにトマスが首を傾げる。
「もっ、森で馬が糞溜まり…落とした…ペンダント落としたああ! どうしようっ」
「ちょっと落ち着きましょうか」
 自分の胸ぐらを掴んで叫ぶピアに苦笑して、トマスは彼女を引き離す。
「森って、どこの森? まさか先にある森じゃないよね?」
「まさかもとさかもその森ですっ。お天気いいから寄ってみたんですっ」
 それを聞いてトマスは更に苦笑した。
「あの。そこ、ゴブリンの巣窟だよ? 運が良かったんだね」
「えっ…」
「んー、コボルトもいたな。因みに新人訓練生の訓練場でもある。でも、一応…」
 トマスはピアを上から下まで眺め回す。
「君、ハンターだし?」
「機導師…です…」
「ふうん…」
 何が面白いのか、トマスはくくっと笑った。
「でも流石に一人で相手できる量じゃないね。君、仲間を募ってそのペンダントやらを探して来たら。見つかったら僕がもう一度場をセッティングしてあげる」
「ほんとうっ?」
「まあ、もしハンター達で手余りなら加勢するよ。あそこは訓練場なわけだし」
 これにはピアも微かに眉をひそめる。
「ゴブリンにハンターが新人訓練生の力を借りることはないわ」
「ん、じゃあ、頑張って?」
 これは失礼、というように笑うトマスを少し見つめ、ピアはぺこりとお辞儀をして身を翻した。
 トマスは口を歪め、ぽそりと呟く。
「レイに機導師の幼馴染がね…」
 その2人の様子を二階の窓から見下ろしていた者がいた。
 レイだ。
「処分しとくべきだったな…」
 彼の呟きも誰にも聞こえてはいなかった。

 そしてその2人も知らぬところ。
 細く尖った指がちかりと光ったペンダントをとりあげていた。
 舐めるように眺めた後、それは自分の額にずぶずぶとペンダントを埋め込んだのだった。

解説

・ピア・ファティが無くしたペンダント型の時計を探すことが目的です。

・ピアが自分で無くしたと思っている森は、イルリヒトの訓練生(特に入学したての新人訓練生)の訓練場にもなっているコボルト、ゴブリンの巣窟です。

・見つけた=所在が明確になった、という解釈です。
 ピアの手元に戻る、戻らないは問いません。

・トマスが指示するイルリヒトの新人訓練生の力を借りることになると失敗となります。
 逆に言うと、そのような事態になる可能性もある、ということです。

・訓練生の力を借りることなく終わったとしても、「コボルト、ゴブリンの巣窟」以上の異変があった場合はイルリヒトに報告をしてください。
(相手はトマスやレイでも構いません)

・ピア・ファティについて
 18歳。機導師。Lvは13程度。
 持っているアクティブスキルは防御のものがメインです。
 明るく屈託のない性格で、生まれの関係から機械オタクでもあります。
 彼女の生い立ちは道すがら本人に聞くと喜んで話してくれるでしょう。
 興味のない場合は流してかまいません。

・レイ・グロスハイム、トマス・ブレガ について
 レイは23歳、トマスは24歳。共にイルリヒトの同期生でそのまま教官に。

 レイはピアが幼い頃一緒に育ったという人です。
 レイとピアを繋ぐものは、彼女のペンダント型の時計から祖父が取り出した3つの歯車のペンダントを
 レイが持っている、ということ以外はピアの思い出しかありません。

マスターより

皆さん、初めまして。
こちらでお世話になることになりました、西尾厚哉と申します。
イルリヒト機関を舞台にしたストーリーのほか、さまざまな場面で
少しずつ、皆さんと物語を紡いでいければと考えています。
どうぞよろしくお願いいたします。

リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2015/06/28 19:53

参加者一覧

  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • 時軸の風詠み
    ウィルフォード・リュウェリン(ka1931
    エルフ|28才|男性|魔術師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 時の守りと救い
    マキナ・バベッジ(ka4302
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • 戦鍛冶
    メリーベル(ka4352
    人間(蒼)|17才|女性|機導師
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/17 07:01:46
アイコン 相談卓
マキナ・バベッジ(ka4302
人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/06/21 07:57:09

 
 
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