誰でも一度くらいは、『死んでしまった人に会いたい』と思った事がないだろうか？
　頭で分かっていても諦められなかったり、叶わないと知りながらも願ってみたり。理屈に合わない行動を起こす時もあるが、ある意味それが『生きる』という事なのかもしれない。
　だが、もしも本当に『死者と再会できる』としたら……？

「あぁ、お兄様……！」
「お爺ちゃん、また会えたね♪」
「お母様……今日もお美しい姿で嬉しいです」
　森の奥にある、廃墟と化した屋敷。その各部屋で、死者と再会した人々が歓喜の声を上げていた。正確に言えば、『生前の姿を模した幻影』ではあるが。
　外見は、故人に瓜二つ。手で触れる事は出来ないが、服も着ているし仕草も同じ。この幻影の『声』を聞いた者は誰も居ないが、表情も人間と同じように変わるらしい。
　しかし、体全体が若干透けているし、炎のように揺らいで見える。加えて、鎖骨と鎖骨の間……『天突』と呼ばれるツボの位置に、黒い宝玉が埋め込まれていた。
　それでも……二度と会えないと思っていた者が目の前に現れるのは、嬉しい事である。幻影自体は数分で消えてしまうが、個人に会えるという噂は少しずつ広まり、廃墟を訪れる人数は日に日に増していた。
「兄上、今日もお元気そうですね。っと……死んだ者に『元気』と言うのは、少々変でしょうか」
　返事が無い事を知りながらも、少女は幻影に語り掛ける。彼女は一週間前に兄を亡くしてから、毎日のようにココに来ていた。まるで、『兄が死んだ』という現実から目を背けるように。
「今日も……兄上は何も言ってくれないのですね。私の名前を、呼んで下さらないのですね……」
　少女が悲しそうな表情を浮べても、兄の幻影は何も言ってくれない。残酷とも言える沈黙に耐えられなくなったのか、彼女の瞳から涙が溢れ出した。
　俯いて涙を拭い、嗚咽を漏らす少女。その姿を目の当たりにし、幻影がゆっくりと歩み寄っていく。
　その手に、鈍く光る短剣を握って。
「え……？」
　少女が小さく声を上げた時、彼女の腹部には短剣が深々と刺さっていた。ワケも分からず顔を上げた先で、幻影が歪んだ笑みを浮かべている。
「あに、う……」
　問い掛ける言葉を遮るように、幻影の全身が霧状に変化。そのまま少女を飲み込み……体中のマテリアルを吸い尽くした。命ごと、全て。
　残ったのは、物言わぬ姿となった遺体のみ。
　霧状になっていた幻影は再び人の姿となり、短剣の柄を握って遺体を持ち上げた。静かに窓を開け、森の奥に向かって死体を無造作に投げ放つ。恐らく、証拠隠滅のつもりなのだろう。
　もしかしたら……この幻影が『彼女』の姿を模す日も、そう遠くないかもしれない。
　それから数日後、近隣で行方不明者の数が急激に増え始めた。その全員が『廃墟に出入りの多い者』だった事から、周囲の調査を実施。その結果、屋敷近辺のマテリアル量が不自然に低い事が発覚した。

　マテリアルのバランスが不自然に崩れているという事は、歪虚が関係してると見て間違いありません。『死者との再会』を餌に人々を集め、頃合いを見て『暴食』に移ったのでしょう。これ以上の被害者を出さないためにも、協力をお願いします。

　歪虚が潜んでいるのは、森の奥にある廃墟と化した屋敷。二階建てで敷地面積は広く、何年も人が住んでいた痕跡がありません。
　廃墟に行った事のある人達から聞いた情報によると、幻影が現れる場所は全部で６箇所。２階の東側、西側の個室。１階の北側、北東、北西の個室。地下の倉庫で、計６部屋です。
　部屋の広さは10m四方で、天井までは3m程度。家具や調度品はありません。これは、どの部屋も同じです。
　ですが、部屋によってマテリアル減衰量が違うため、歪虚の強さが若干変わります。２階の部屋は、駆け出しのハンター１人でも充分に戦えますが、１階の部屋は新人ハンターでは少々厳しいでしょう。地下は更に強くなっています。
　この６部屋に居る『死者の姿をした歪虚』を全て倒して下さい。『戦闘の音に気付き、他の部屋の歪虚が逃げる』というのを防ぐため、６部屋同時に攻略する事が必須となります。

　今回の歪虚は幽霊系なので、物理攻撃でダメージを与えられません。武器による攻撃を受け止める事は可能ですが、敵の体に触れる事は不可能です。
　敵を倒せる方法は、２つ。魔法スキルによる攻撃か、宝玉を壊す事です。
　魔法スキルの場合、歪虚のどこに当たってもダメージを与えられます。一定のダメージを与えたら幻影は消滅し、宝玉だけが残るので、これを破壊して下さい。
　最初から宝玉狙いで攻撃しても構いません。宝玉自体は物理攻撃も効くので、ハンターなら誰でも破壊は可能です。
　あくまでも故人の姿をコピーするので、生きている人物を思い浮かべても歪虚は出現しません。音信不通等で生死不明の相手なら出現します。

　この依頼に目を通して下さった方、参加して下さった方、過去に参加して下さった方に感謝を。
　香月丈流です。

　今回は『大切な人の姿をした敵』との戦闘になるので、能力値よりもプレイングが重要となります。
　基本的に、歪虚は短剣による近接攻撃を仕掛けてきますが、相手が武術の達人だった場合、短剣ではなく得意としていた武器を使います。
　拳法の達人なら手甲や脚絆、銃の名手なら銃で攻撃します。
　６体全部倒せなければ依頼は失敗となりますので、ご注意を。
　尚、地下室には窓がありませんので、照明の準備をお忘れなく。