• 調査

時計塔の町

マスター:西尾厚哉

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2015/07/16 22:00
リプレイ完成予定
2015/07/25 22:00

オープニング

 この町は水源が遠かった。
 細い水路は町の発展を促すには乏しく、当時の町長が錬金術師組合に相談した。
 錬金術師達は調査の末、町の中央に地下水を汲み上げる装置を設置することにした。
 できる限り耐久性があるように作られた装置だが、時折故障も生じる。そのサインとして動力を利用して動く時計塔を作りつけた。
 時計が狂うと故障が分かる。
 時計塔の四面の時間が変わって来ると、人々は装置の修理が完了するまでの水を溜め置く準備をした。

 ピア・ファティは立ち止って、広場の真ん中に立つ時計塔を見上げた。
「ベンカーさん」
 ピアは振り返る。
「ノアでいいよ」
 相手は笑う。
「ノアさん、この時計塔、上に鳥がとまってるの、知ってました?」
 ノアと呼ばれた男は眩しそうに目を細めて上を見る。
「鳥くらいいるだろ?」
「違うの。本当の鳥じゃなくて……彫刻かな、そういうのがあるの」
「へー。それがどうかしたの?」
「ん、ちょっとね……」
 答えたピアの胸に下がるペンダントには緻密に彫り込まれた鳥の文様があった。

 広場の時計塔から西に2ブロック行った先を右に折れて、2本目の路地を左側に。
 そこに『ベル時計店』がある。ピアは宿屋の主人に教えてもらった。
 ノア・ベンカーという男とピアが一緒にいるのには訳がある。
 実はピアはとんでもない失態をしたのだ。宿賃が足りなかった。
 ひょいと代わりに支払ってくれたのが居合わせたノアだったのだ。
「ベンカーさんは帝国通信社の記者だよ。よくうちに泊まってくれる」
 宿屋の主人に言われ、キシャって、何だろう? と思いつつ、ピアは有難く厚意に甘えることにした。
 とりあえず、借りたお金は返さないといけない。
 そしてこの町に住むところを探したい。
 時計店という限りは時計を売っているのだろうし、修理なんかもするのだろう。
 そういうことは得意だった。錬金術師の祖父が作っていたのをよく見ていたからだ。
 いいかもしれない。
「君、機導師ならハンター稼業すればいいじゃないか。でも、面白そうだ」
 ノアが悪戯っ子のように目を輝かせる。
「俺はこの町に何度も来てるけど、路地に時計屋があるなんて知らなかった。それって、いいネタかもしれない」
 ひょこひょこついて来るノアと一緒に、ピアは小さな路地の壁に『ベル時計店』の看板を探す。
 そして見つけた。
 表通りではないせいか、普通の木の扉があるだけだ。
 そっとドアを開ける。
「うわぁ……」
 店の中の光景は想像もしていないものだった。
 高い天井まで埋め尽くされた壁一面の時計の数々。
 四角い箱のようなもの、扇型のようなもの、大きな振り子を揺らすもの、いくつもの突起がくるくると回るもの……
「いらっしゃい。気に入ったものがあれば取りますよ?」
 男性に声をかけられ、ピアが返事をしようとした途端、ひとつの時計が時を知らせた。
 あっという間に方々から音が続く。
 驚いたのは、ひとつひとつがからくり時計だったことだ。
 窓から顔を出して揺れる子供、文字盤からか顔を出す小鳥、躍り出す娘、抱擁を交わすカップル。あちこちでオルゴールが鳴る。
「すごいな……」
 呟くノアの声もかき消された。
 ピアはぐるぐると顔を巡らせながら、ふと、高いところにある沈黙する時計を見た。
 数分後、ようやく静かになった時、
「どうですか?」 
 声をかけられてピアははっと我に返る。
「あ、違うんです。私、ここで働けるって聞いて……」
「ああ!」
 聞くなり男性の顔が輝いた。
「そりゃ有難い! 父さん!」
 声に奥からのっそりと男が現れた。
 白髪交じりの深い髭に片目に嵌められた拡大鏡。
「父のヘルマン・ベルです。僕は息子のテオドール。テオでいいですよ。父さん、ええと……」
「ピア・ファティです!」
 ピアはぺこりと頭を下げ
「あ、俺はただの付き添い」
 目を向けられてノアが手をあげる。ヘルマン・ベルはむっつりとしたままだ。
「妹が結婚して町を出たので困ってたんです」
 顔を輝かせるテオにピアは
「すみません、あの、一番上の時計……壊れてるんですか?」
 ピアの指差す方向を見て即座にヘルマンが
「そうじゃない」
 不機嫌そうに言う。
「見たい?」
 テオが慣れた様子で壁に立てかけた梯子を登り、時計をとってするすると降りて来た。
「一応これもからくり時計なんだけどね」
 少し埃を被ったシンプルな四角い時計だ。
 テオから受け取り、ピアはそっと時計を裏に返して嵌めこまれた板を外した。後ろからノアが覗き込む。
 小さな鳥が奥にいた。きっと時間がくればこれが出てくるのだろう。
「歯車が一個……足りないみたい?」
 ピアの言葉にテオが目を丸くした。
「時計のこと、分かるんだ?」
「祖父が……時計を作るのが好きでよく見てたから……あの、修理しましょうか」
 こういうのはすぐにでも直したいのがピアの性分。
 しかしヘルマンは
「その歯車は決まったものがある」
「え?」
「手に入らんよ。時計塔の中だ」
 時計塔? あの広場の?
 これにはノアがキラリと目を輝かせた。ネタの匂いだ。
「どうして時計塔の中に?」
 早速ポケットから手帳を出す。
「あの時計塔は錬金術師が作った。当時、わしはまだほんの若造で。錬金術師に憧れていたわしは工事を毎日眺めていた。そうしたら1人が顔を覚えてくれたんだ」
 昔を思い出すような表情でヘルマンは話す。
 錬金術に興味があるならと誘われたが、彼は既に家業の時計店を継ぐことが決まっていて断ったのだという。
 ヘルマンは初めて作った時計の歯車のひとつを彼に渡した。
『これを時計塔の中に入れてください。一人前になったら歯車の場所を聞きに行きます』
 テオがうんうんと頷いている。この話を父親から聞いていたのだろう。
「それで……聞いたんですか?」
 ピアの問いにヘルマンはかぶりを振って背を向けた。
「それは、あれですかね、自分はまだ一人前じゃないとかいう……」
 うずうずした様子でノアが尋ねる。
「違う」
 ヘルマンは背を向けたまま答えた。
「忙しくて忘れとった」
「あら」
「ええっ!?」
 ノアだけではなくテオも声をあげる。
「父さん、そんな風に言わなかったじゃないか」
「弟子で息子のお前にそんなかっこ悪いこと言えるか!」
 親子喧嘩勃発。
「あ、あの、その錬金術師って誰ですか?」
 私なら聞いてあげられるかもとピアは思う。
「……聞いておらん……」
 みんなでがっくし。
「ベルさん!」
 ノアが叫んだ。
「その歯車、探しましょう! 彼女、機導師です! 時計塔の中に入ってもらってですね、数十年ぶりに時計が動く! ロマンだ!」
「ちょっ……ノアさん」
 困惑するピアにノアが素早く囁く。
「一人が難しいなら仲間募れ。俺が費用出すから」
「でも……」
「無事、歯車が見つかったら借金帳消し、俺はネタを手に入れる。ギブアンドテイク」
「うっ……」
 借金帳消しにつられてしまったピアだった。

解説

●町の広場にある時計塔の中に置いてあるという、からくり時計の歯車を探しに行きます。
依頼主はピア・ファティです。

●時計塔は約10階建ての建物の高さに相当します。
よくある四角柱の尖塔とお考えください。一辺はおよそ15mの正方形です。
上部の一部分のみ、見晴台のように開いています。時計の文字盤は見晴台の下です。
外壁は石造りですが、足掛かりはありません。
ところどころに小さな小窓がありますが、灯り取りであるため人は入れません。

●時計塔の管理鍵は町長が預かっています。
本来は人に貸し出すことはありませんが、ピアが機導師ですので説得は可能です。
内部図面なども保管されているかもしれませんが、ぎっしりと大きな歯車やら何やらが詰まっていると想像してもらっていいと思います。

●時計塔は町の水を確保するポンプの役目を担っているため、動きを止めることはもちろん、壊したり傷つけたりしてはいけません。

●ノアが記事にしたいと待っているので、うまく行ったら皆での写真撮影があります。
いいポーズをとってくださいませ。
(写真は嫌よ、という方は断っても大丈夫です)

【補足】
ピア・ファティ/16歳/機導師
 錬金術師の祖父に育てられた少女。
 祖父が亡くなったあと、イルリヒトに入った幼馴染のレイ・グロスハイム(現在は教官)に会いに行くが、彼との思い出のペンダント型時計を森の落としてしまい、ハンター達に探してもらったところ。
 レイの同僚であるトマス・ブレガ教官に落ち着き先を見つけたらレイと会う場をセッティングするから連絡してと言われ、今回の時計店に。

ノア・ベンカー/28歳/帝国通信社の記者(自称)
 新聞記者です。
 大きいものから小さいものまでネタ探しに飛び回っている人。
 飄々として、少しお調子者の雰囲気がある人です。

マスターより

お世話になります。西尾厚哉です。
今回は臭くありません。馬糞も出て来ないしピアのドレスも綺麗です。
……って、何の話だ。
でも、時計塔の中ではもしかしたらちょっとしたサバイバルかもしれません。
OPの情報を辿れば、歯車は難なく見つかると思います。
それではよろしくお願いいたします。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2015/07/24 03:30

参加者一覧

  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • 金糸篇読了
    イリアス(ka0789
    エルフ|19才|女性|猟撃士
  • 堕落者の暗躍を阻止した者
    レオン・フォイアロート(ka0829
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 時軸の風詠み
    ウィルフォード・リュウェリン(ka1931
    エルフ|28才|男性|魔術師
  • 時の守りと救い
    マキナ・バベッジ(ka4302
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/15 19:19:56
アイコン 相談用に
バジル・フィルビー(ka4977
人間(リアルブルー)|26才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/07/15 19:36:30