ゲスト
(ka0000)
晩夏の虎
マスター:韮瀬隈則

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在6人 / 4~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2015/09/29 12:00
- リプレイ完成予定
- 2015/10/08 12:00
オープニング
●
──ひょう。
夏の名残の陽が傾くと、冷風が辺境の牧草地を駆ける。晩夏。いや、季節はもう秋である。
陽が落ちる速度も速くなった。
この一帯に点在する集落のひとつ。十数家族のひさしのうち集会場を兼ねた家の扉を、一人の若者が敲き、返事を待たず中へとはいる。彼のほか、その小さな集落の路上に人影はない。
「皆はさっき馬連れで南の集落に向かったぜ。日没前には余裕で着く。早馬もとばしているから、あっちの対処する時間もとれるはずだ」
ハンターの手配はそのあと。明朝以降になっちまうだろうが、待避が優先だろう。と、若者は家主の老人──佐々木寅次へ報告する。言外に、お前も早く出立しろとにじませて、支度の様子を伺う。
「ぬしも隊列を追え。殿役だろう?」
「じィさんもそうだろうが。なに手間取ってんだ。てか、そりゃなんだ?」
若者は老人の腹と額に巻かれた帯に眉をひそめた。古び汚れたほうの刺繍は結び目ばかりの虎の図柄。もう一本はこの部族特有の、しかし古びた同じく虎の刺繍。
集落の脱出時には本当に大切なものだけを持って逃げろ。それが急を告げた際の指令であるから、この布も老人の宝なのだろう。しかし仕舞ってあった小さな行李ごと馬に積めば済むことだろうに、何故わざわざ身につけるのか……
「これは千人針という。大昔にばァさんが作ってくれた、まぁ……護符だ。俺は少し工作を仕掛けてから出るつもりだ。遠くからもぬけの殻と判られては、追っ手の矛先が即座に隊列に向かう。やつらは夜襲をかけるつもりだろうからな、バレるのは時間の問題だろうが、時間稼ぎの悪あがきだ」
なに。ほんの十分ほど、灯火と煮炊きの偽装ですむ。すぐ追いつくさ。
ならばと手伝おうとする若者を制して早く行けと促す。不満げな顔に、家長命令だと少し笑って返す。
「家長に長老に先輩覚醒者に祖父、ね。立場を総動員でくんなよ。わかったから。家族で部下で後輩で孫の立場から、早く合流たのむぜじィさん」
若者のため息。ばたんと扉が閉まり、戸板越しに駆け去る蹄の音。
●
始まりは一月ほど前、強盗をしかけたゴブリンの討ち漏らしだ。
返り討ちにした数匹のうち、ほんの2匹。とどめを刺し忘れた個体が歪虚化し、始末の悪いことにコボルドを連れて、近隣に舞い戻ってきたらしい。
放牧中の少年が数刻前、道端に痕跡と遠目での群れを発見している。急報に、老人はゴブリンの逆恨みを確信。総員の一時退避と近隣同族への警報を策定した。
歪虚化ゴブリン2体。知恵を付け、率いるは歪虚化コボルド約30体。覚醒者とはいえ……老人と数ヶ月前に覚醒したばかりの若者2人では分が悪すぎた。
ここまでが、この集落一団に降り懸かった災厄である。
──救いは思いの外に早かった。
隊列が同族集落への道程を半分もいかぬころ、彼らは事態に即応するハンター達数名と邂逅する。
「たまたま収穫依頼で派遣された集落に、早馬が来てね。事情は聞いている」
一団に安堵の息がこぼれる。
──だが。
一人、険しい顔をした覚醒者の若者が、忌々しげに想定される状況を付け加える。
「敵の夜襲を想定し工作を行っている者が居る。遅滞工作? ああ、そのはずだったさ。とぼけやがって」
あのくそじじィ、居残るつもりで合流なんかする気なかったんだ。トラップで減らせる相手じゃねェっての!
クソが! クソがっ! 若者の、堪えきれずほとばしる罵声。
●
もう70年も前になるか。
老人──寅次は、誰もいない集落を照らす灯火の下で回想する。
暑い夏、大陸で少年兵となってすぐ、敗戦の報を聞いた。終戦が即、交戦停止に連続するものではないことを知ったのは、あの時だったか。内地への撤退戦。彼の居た部隊にとって、戦闘の激しさはむしろ戦後からが本番だった。
とはいえ……
寅次の記憶は新兵の混乱したものであり、身体に残る傷のように破断されたものであり、この異世界にあってはどちらが夢現であったものか。撤退戦のなか、爆音とともに気を失い、気が付いたらここにいた。
自らの素性すらあやふやなままで、鮮明に残っている記憶は、出征前に急ぎ祝言をあげた幼馴染の新妻から差し出された粗末な布。
「私は寅年だから」
歳の数だけ結べるの。と、虎の刺繍。
武運長久。だが、最初の撤退戦は、寅次の預かり知らぬものとなった。次に巻き込まれた戦はここ、紅の世界で歪虚が相手だったためである。寅次を拾った部族もまた、ここ辺境で北の故郷を追われた旅の途中であったからだ。
「奇遇ね。この部族の護り神も虎なのよ。わたしも護り帯を贈ったら、また貴方は立ち上がってくれる?」
二本の帯をつけて、今度こそは。
幼馴染を護りきれなかった。無気力と怯えに苛まれていた寅次に、帯とともに勇気をくれた紅の世界の少女は、後に彼の妻となった。いまは集落の片隅の墓碑の下、彼を見守っている。
70年後のいまが、最後の撤退戦。
それが寅次にとっての現状である。
果たせなかった蒼の戦。覚醒の始まりだった紅の戦。そのふたつを背負って戦って──果てるつもりだった。
やがて日没。
集落の灯りをねめつける目。目。目。
──ひょう。
夏の名残の陽が傾くと、冷風が辺境の牧草地を駆ける。晩夏。いや、季節はもう秋である。
陽が落ちる速度も速くなった。
この一帯に点在する集落のひとつ。十数家族のひさしのうち集会場を兼ねた家の扉を、一人の若者が敲き、返事を待たず中へとはいる。彼のほか、その小さな集落の路上に人影はない。
「皆はさっき馬連れで南の集落に向かったぜ。日没前には余裕で着く。早馬もとばしているから、あっちの対処する時間もとれるはずだ」
ハンターの手配はそのあと。明朝以降になっちまうだろうが、待避が優先だろう。と、若者は家主の老人──佐々木寅次へ報告する。言外に、お前も早く出立しろとにじませて、支度の様子を伺う。
「ぬしも隊列を追え。殿役だろう?」
「じィさんもそうだろうが。なに手間取ってんだ。てか、そりゃなんだ?」
若者は老人の腹と額に巻かれた帯に眉をひそめた。古び汚れたほうの刺繍は結び目ばかりの虎の図柄。もう一本はこの部族特有の、しかし古びた同じく虎の刺繍。
集落の脱出時には本当に大切なものだけを持って逃げろ。それが急を告げた際の指令であるから、この布も老人の宝なのだろう。しかし仕舞ってあった小さな行李ごと馬に積めば済むことだろうに、何故わざわざ身につけるのか……
「これは千人針という。大昔にばァさんが作ってくれた、まぁ……護符だ。俺は少し工作を仕掛けてから出るつもりだ。遠くからもぬけの殻と判られては、追っ手の矛先が即座に隊列に向かう。やつらは夜襲をかけるつもりだろうからな、バレるのは時間の問題だろうが、時間稼ぎの悪あがきだ」
なに。ほんの十分ほど、灯火と煮炊きの偽装ですむ。すぐ追いつくさ。
ならばと手伝おうとする若者を制して早く行けと促す。不満げな顔に、家長命令だと少し笑って返す。
「家長に長老に先輩覚醒者に祖父、ね。立場を総動員でくんなよ。わかったから。家族で部下で後輩で孫の立場から、早く合流たのむぜじィさん」
若者のため息。ばたんと扉が閉まり、戸板越しに駆け去る蹄の音。
●
始まりは一月ほど前、強盗をしかけたゴブリンの討ち漏らしだ。
返り討ちにした数匹のうち、ほんの2匹。とどめを刺し忘れた個体が歪虚化し、始末の悪いことにコボルドを連れて、近隣に舞い戻ってきたらしい。
放牧中の少年が数刻前、道端に痕跡と遠目での群れを発見している。急報に、老人はゴブリンの逆恨みを確信。総員の一時退避と近隣同族への警報を策定した。
歪虚化ゴブリン2体。知恵を付け、率いるは歪虚化コボルド約30体。覚醒者とはいえ……老人と数ヶ月前に覚醒したばかりの若者2人では分が悪すぎた。
ここまでが、この集落一団に降り懸かった災厄である。
──救いは思いの外に早かった。
隊列が同族集落への道程を半分もいかぬころ、彼らは事態に即応するハンター達数名と邂逅する。
「たまたま収穫依頼で派遣された集落に、早馬が来てね。事情は聞いている」
一団に安堵の息がこぼれる。
──だが。
一人、険しい顔をした覚醒者の若者が、忌々しげに想定される状況を付け加える。
「敵の夜襲を想定し工作を行っている者が居る。遅滞工作? ああ、そのはずだったさ。とぼけやがって」
あのくそじじィ、居残るつもりで合流なんかする気なかったんだ。トラップで減らせる相手じゃねェっての!
クソが! クソがっ! 若者の、堪えきれずほとばしる罵声。
●
もう70年も前になるか。
老人──寅次は、誰もいない集落を照らす灯火の下で回想する。
暑い夏、大陸で少年兵となってすぐ、敗戦の報を聞いた。終戦が即、交戦停止に連続するものではないことを知ったのは、あの時だったか。内地への撤退戦。彼の居た部隊にとって、戦闘の激しさはむしろ戦後からが本番だった。
とはいえ……
寅次の記憶は新兵の混乱したものであり、身体に残る傷のように破断されたものであり、この異世界にあってはどちらが夢現であったものか。撤退戦のなか、爆音とともに気を失い、気が付いたらここにいた。
自らの素性すらあやふやなままで、鮮明に残っている記憶は、出征前に急ぎ祝言をあげた幼馴染の新妻から差し出された粗末な布。
「私は寅年だから」
歳の数だけ結べるの。と、虎の刺繍。
武運長久。だが、最初の撤退戦は、寅次の預かり知らぬものとなった。次に巻き込まれた戦はここ、紅の世界で歪虚が相手だったためである。寅次を拾った部族もまた、ここ辺境で北の故郷を追われた旅の途中であったからだ。
「奇遇ね。この部族の護り神も虎なのよ。わたしも護り帯を贈ったら、また貴方は立ち上がってくれる?」
二本の帯をつけて、今度こそは。
幼馴染を護りきれなかった。無気力と怯えに苛まれていた寅次に、帯とともに勇気をくれた紅の世界の少女は、後に彼の妻となった。いまは集落の片隅の墓碑の下、彼を見守っている。
70年後のいまが、最後の撤退戦。
それが寅次にとっての現状である。
果たせなかった蒼の戦。覚醒の始まりだった紅の戦。そのふたつを背負って戦って──果てるつもりだった。
やがて日没。
集落の灯りをねめつける目。目。目。
解説
●依頼内容
・集落を襲撃する歪虚化亜人の討伐
●敵情報
・歪虚化ゴブリン 2体
(弓職1体、魔法職1体)
・歪虚化コボルド 30体
(すべて近接職、武器範囲1から3)
ゴブリンは知恵を付け、この集落への執拗な復讐心をもつ
コボルドは我欲をゴブリンにコントロールされ、汚染した武器を持つ
●現地情報
岩地と平地が混じる牧草が生えた一帯
集落は平地に細い街道が通る脇にある
集落全域は約200m四方、中心地は50m×100mに平屋10戸ほどが向かい合って庇を並べる
中心地の住居以外の施設は、共同の井戸・大型かまど、など
集会場を兼ねた大きめの建物1戸以外は、簡素な造りの可燃構造
●NPC
・佐々木寅次
70年前に転移した日本人。覚醒者で霊闘士(ベルセルク)
この事態を生涯最後の撤退戦と位置づけ、集落に居残り工作を仕掛けている
・若者
寅次の孫。覚醒者で猟撃士(イェーガー)
ハンターと邂逅時、近隣同族集落へ退避する隊列の殿を務めていた
●その他
騎乗物を未所持のハンターには、乗用馬が貸し出されています。
順調な移動で、ハンターの到着は日没直前。敵の襲撃は日没後、となります。
地形の高低差や位置関係で、敵は集落侵入までハンターの到着は視認できませんが、無策のままでは異常を感知されるおそれがあります。
・集落を襲撃する歪虚化亜人の討伐
●敵情報
・歪虚化ゴブリン 2体
(弓職1体、魔法職1体)
・歪虚化コボルド 30体
(すべて近接職、武器範囲1から3)
ゴブリンは知恵を付け、この集落への執拗な復讐心をもつ
コボルドは我欲をゴブリンにコントロールされ、汚染した武器を持つ
●現地情報
岩地と平地が混じる牧草が生えた一帯
集落は平地に細い街道が通る脇にある
集落全域は約200m四方、中心地は50m×100mに平屋10戸ほどが向かい合って庇を並べる
中心地の住居以外の施設は、共同の井戸・大型かまど、など
集会場を兼ねた大きめの建物1戸以外は、簡素な造りの可燃構造
●NPC
・佐々木寅次
70年前に転移した日本人。覚醒者で霊闘士(ベルセルク)
この事態を生涯最後の撤退戦と位置づけ、集落に居残り工作を仕掛けている
・若者
寅次の孫。覚醒者で猟撃士(イェーガー)
ハンターと邂逅時、近隣同族集落へ退避する隊列の殿を務めていた
●その他
騎乗物を未所持のハンターには、乗用馬が貸し出されています。
順調な移動で、ハンターの到着は日没直前。敵の襲撃は日没後、となります。
地形の高低差や位置関係で、敵は集落侵入までハンターの到着は視認できませんが、無策のままでは異常を感知されるおそれがあります。
マスターより
韮瀬です。
ヨゴレ依頼ではありません。
ヨゴレ依頼ではありません。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2015/10/07 06:27
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/26 23:09:56 |
|
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相談卓 守屋 昭二(ka5069) 人間(リアルブルー)|92才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/09/27 21:43:53 |