• 日常

船の卒業試験

マスター:ユキ

このシナリオは5日間納期が延長されています。

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2014/08/02 19:00
リプレイ完成予定
2014/08/16 19:00

オープニング

※このシナリオは原則として戦闘が発生しない日常的なシナリオとして設定されています。

 自由都市同盟の南東沖近辺で歪虚の活動が活発化している。その知らせは各国の中枢のみならず民衆にまで口伝てに響きわたっていた。中でも行商の類の人間たちの間ではやれどこの海で船が沈んだとか、やれどこの街で物資が不足しているらしいといったまさに今その瞬間を反映した生きた情報が飛び交っていた。彼らの間では新鮮な情報こそが最大の商品の1つなのだから、当然とも言える。
 そんな彼らの行動が如実に現れた光景が今、王国の中心を流れる2本の運河に見られた。街道と並んで国内の流通を支える大動脈のそこは、いつも緩やかな流れで船を、人を、商品を運んでくれる。その運河の様子に個々数日、変化が見られていた。

「おい、何処見てやがんだ! ふらふら操舵しやがって……商品に傷でもついたらどうしてくれる!」
「ア゛ァ!? こっちゃあてめぇみてぇな小舟じゃねぇんだよ! そっちが避けやがれってんだ!」

 普段でも1日に数十艘の船が往来する運河はその川幅も広く、流れも緩やかでめったに事故も起きない。船頭同士のトラブルも数えるほどしか起きないのが常だった。しかしここ数日、運河の交通量は目に見えて増え、1艘1艘が積む荷の量も増えている。その原因はやはり歪虚だ。自由都市同盟との海上貿易にリスクが伴っている現状、元々海上貿易に力を入れていた大手の商人たちがリスクを負って船を出すか安全を優先するか、あるいは国内貿易へと切り替えるかと思案を巡らせている中、以前から国内貿易で細々と活動していた商人たちはこれを好機と見て早速取引に励んでいた。普段よりもより多くの品を扱い、多くの利益をあげる。そのためにより多くの船を出し、より多くの荷を積んで運河を行き来しているのだった。
 けれど船に詰める荷には限界がある。そこで商人たちは「新しい船を作ってくれ」と彼らに依頼した。今回の依頼主である船大工たちへ。


「……にしても、『積み荷になってくれ』とは、なぁ……」
 水につけた指先が描く軌跡をぼーっと眺めながら、穏やかな川の流れに揺られるハンターは、明らかに退屈していた。
「ス、スミマセン……僕なんかのために……」
「8回目ね。船を出してから貴方が謝った回数。船を出す前を入れたらたぶん20回は言ってるんじゃないかしら?」
「え、と……その……スミマセン……」
「……9回目。ほら、前見て! 船がきてるわよ!」
 櫂をとる青年はおどおどとした様子で何度も苦笑し、謝罪を口にしていた。

 船大工コンラード・フランチェスカ。
 フランチェスカと言えば、父のダヴィデはそこそこ名の知れた船大工で、大型のガレー船などは専門外だが、王国の運河を往来する交易船の何割かは彼の工房で手がけたものだ。工房には彼の腕を学び、盗み、いずれは独立しようとする若者たちが集い、毎日造船に修繕と忙しなく働いていた。その中にあって、ダヴィデの息子であるコンラードはいつまでたっても半人前の船大工だった。昼間は父に厳しく指導され、時には罵声を浴びせかけられる日々。周りの職人たちからは「底抜けコンラード」などと揶揄されていた。半人前だから底の抜けた船しか作れない。底が抜けているから何を教わっても全て抜け落ちていつまでたっても成長しない。そんな「ダメな跡継ぎ」コンラードが、今回はじめて一人で船を作ったのだという。
「造船の依頼が増えて、手が回らなくなっちまってな。しょうがなくこいつに1艘作らせたんだが、仮にもこいつは商品だ。売った船に欠陥があったら工房の信用に関わる」
 そこで依頼人であるダヴィデがハンターたちに頼んだ仕事は、『コンラードの作った船の積み荷になること』だった。
「商品を積んでなにかあっちゃなんねぇ。かといって、重さに耐えられる船かどうか確かめる必要もある。じゃあいらない材木でも積んでみるか? いやぁ、今は船の往来が激しい。もしも材木をぶちまけちまって、他の船を巻き込んだらえれぇことになる」
 ではどうするか? そこでダヴィデが考えたのは、『ハンターたちに積み荷になってもらうこと』だった。人間が積み荷ならば、船が沈んでも積み荷が散乱することもなく、沈んだ船の回収もできる。かといって職人たちは造船で忙しい。ハンターたちならば、もし船が沈んでも死ぬことはないだろう、というわけだ。


「……にしても、本当船が多いなぁ」
「どの船もたくさん積んでるわねぇ」
 出立してから何艘もの船とすれちがった。馬や家畜を運ぶ船。稲穂や小麦を運ぶ船。商売の帰りなのか、空樽を積んで上機嫌の船頭。中にはのんびりと釣り糸を垂らしながら流れに身を任せる者も。陽は高く、風は穏やか。水音と川の揺れに、思わず欠伸が溢れる。
「もう少しいけば船着場があるわね。そこで戻りましょ。夕暮れには工房に戻れるでしょ」
「は、はい。スミマセン」
「……」
 陽に焼けた肌に、細いながらに引き締まった身体。日々の厳しい仕込みのおかげで体格は職人らしいソレに見えるのに、その表情は自信なさげで、言葉も尻すぼみ。まるで父親とは似ても似つかないその職人らしからぬ様子に、思わずため息を零すハンターたち。
 けれど、彼らはこの頼りない若き職人を最後まで見届ける必要があった。それは、出立前に依頼人であるダヴィデから伝えられた言葉。

 ――あいつに自信をつけてやって欲しい。

 出来の悪い跡継ぎでも、父親にとってはたった一人の子ども。息子が毎晩遅くまで工房の隅で一人櫂を削り、船を磨き、剥げた塗装を塗りなおしている姿を、父は知っている。船を愛おしそうに撫でる姿。優しくなげかける声。仕事の間はけしてみせることのない、最近では仕事の後でも自分には見せることのなくなった息子の笑顔。

「あいつは腕は悪くない。ただ、自信がないだけなんだ。あいつはあれだけ俺に怒鳴られても、毎日誰よりも早く工房に顔を出して、誰よりも遅くまで残っている。船が好きなんだよ。もったいねぇじゃねぇか。そんなんじゃ、あいつに手を入れられた船だって泣いちまうってもんさ。あいつももう明日で20。いっちょまえの歳になりがやったっていうのに、いつまでたってもよ……。だからよ……あいつの船を無事に連れて帰ってきてくれ。頼んだぜ」

 そういって渡された道中の駄賃が入れられた麻袋は思いの外膨らみ、重みを持っていた。依頼人の、父親の思いと同じように。

解説

●依頼概要
 造船工房の跡継ぎが作った試作品の船に同乗し、下流の船着場まで下った後に工房まで川をのぼって戻る。

●現地の状況
 王国内を走る2本の運河のうちの1本。海からは離れており、現在巷を騒がせている歪虚の影響はない。流れは穏やかで、天候も穏やかな晴れ。
 工房と下流の船着場の間には特に大きな街や村もなく、野原が広がっています。灯りなどはありません。海から離れた上流に位置するため、大型の帆船などの往来はありません。小型~中型の船が往来しますが、川幅も広く、よほど注意を欠いていなければ衝突することはないでしょう。
 ただし、今は国内貿易に力を入れる商人の往来のために船数は多く、積み荷も多く積んでいるためにやや操舵に難のある船もあるかもしれません。

●工程
 船は朝方に工房を出立しました。昼過ぎには船着場につきます。この時期は日も長いので、少し休憩をしても、夕刻には川をのぼって工房に戻ることができるでしょう。

●コンラードについて
 明日で20歳になる船大工見習いの青年。焼けた肌と細いながらに引き締まった身体だが、表情は穏やかというよりおどおどと自信なさげ。「スミマセン」が口癖。船作りや操船の腕はけして悪くないが萎縮しがち。大きな声を出したり他人へ指示を出すといったことは苦手。

●船について
 コンラードが手がけた船。父ダヴィデの造船技術を踏襲した、昔ながらの帆船。魔導技術などは一切用いていない。素人が見た限りでは特に不具合の見つからない仕上がり。 中型の船で帆は大きさの違うものが2つ。彼とハンター6人が乗ったところでびくともしない。

●船着場について
 折り返す予定の船着場の周りには小さな宿場町があります。酒場や食事処、交易品を取り扱う店などもあるでしょう。
 依頼人であるダヴィデから駄賃を預かっているので、よほどの豪遊をしなければ食事や土産を買う程度であれば金銭面の問題はありません。

マスターより

こんにちは。ユキです。

どこかで問題が発生すれば、それは商機と考えるのが商人さんたち。
その商人さんたちを、民衆の生活を支えているのは、職人さんたちの存在なのかもしれませんね。
機導術には劣る王国ですが、だからこそ自然と共存し魔法公害に悩まされることが少ないのも事実です。
けして便利とは言えませんが、昔から受け継がれる技術を後世へと繋げていくことも、大事なことではないでしょうか。
歴史があってこそ未来があり、過去の技術があってこそ発展がある。

とはいえ、皆さんにとっては1日の優雅な船旅。退屈かもしれませんが、大規模作戦や戦闘で疲れた身体と心を休めるのもまた、戦士の役目では?
どうぞ宜しくお願いします。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2014/08/15 04:13

参加者一覧


  • 伊出 陸雄(ka0249
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 戦場に咲く白い花
    コーネリア・デュラン(ka0504
    エルフ|16才|女性|疾影士

  • 最上 風(ka0891
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士
  • えがおのまほうつかい
    ベル(ka1896
    エルフ|18才|女性|魔術師
  • 誇り高きアルティフェクス
    ツィーウッド・フェールアイゼン(ka2773
    エルフ|35才|男性|機導師
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/29 01:44:35
アイコン 船旅のご相談
エイル・メヌエット(ka2807
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/08/02 02:06:25