ゲスト
(ka0000)
【空の研究】君の瞳と満月の約束
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在6人 / 4~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2015/11/17 15:00
- リプレイ完成予定
- 2015/11/26 15:00
オープニング
青く澄んだ瞳を儚く揺らめかせて、彼女は笑う。儚いがゆえのその美しさを、けれど彼女は一度たりとも自分の目で確かめたことはない。
彼女……、たったひとりの、イワンの妹。
「ねえ、お兄様、わたくし、見たいものがありますの……、たくさん、たくさん」
そう言って笑う彼女の口調に悲壮さは感じられず、それが余計に、イワンには痛ましかった。最後の最後まで、彼女は自分の目が見えるようになるものと信じていた。
生まれてすぐに熱病にかかってしまった彼女は、一命は取り留めたものの、あらゆる後遺症に悩まされた。視力を失ったのもその所為で、物ごころつくころにはすでに暗闇の中であった。父母の顔も、もちろん兄であるイワンの顔も、見たことはない。こんなに美しい瞳は何を写すことも出来ぬのか、と思うたびにイワンの胸は痛んだ。
「花も、蝶も、山も川も……、そしてお兄様のお顔も。見たいものは本当にたくさんありますけれど、でも、わたくしが一番見たいと思うのは、ね……」
妹の声が、ぼわぼわと妙な広がり方で響いた。ああ、もう少し、聞いていたいのに、と思ったところで、イワンは目覚めた。
「……夢……」
妹の声の余韻をかき消すように、落ち着きのない喧騒が耳に飛び込んできた。ああ、酒場にいたのだった、とイワンは思い出す。飲んでいるうちに寝てしまったらしい。
リンダールの森にほど近い、小さな町。イワンはここで生まれ育った。
「大丈夫ですか。うなされておいででしたが」
隣の席から、そう言葉をかけられた。
「すみません、うるさかったですか」
頭をかきつつ謝って、イワンは隣の席の人物へ目をやり、少し驚いた。黒いフードを目深にかぶり、顔がほとんど見えなかったからだ。声の調子からして年寄ではなさそうだが、男か女かはわからない。こんな町に旅人であろうか。
「悲しい夢をみておられたのですか」
「悲しい夢、ではないはずなんですけれどね。幸せだったころの、夢ですから。妹と、語り合う夢です」
「妹さんですか。仲がよろしいんですね」
「ええ、仲は良かったですね……」
怪しげな恰好とは裏腹に、その人物は上品な喋り方をした。イワンは悪い人ではなさそうだ、と気を許し、いつの間にか、妹のことを語り出していた。
「妹は、目が見えませんでした。そればかりか、体のあちこちに疾患があって、常にベッドで過ごしていました。僕と話すのをなにより楽しみにしてくれていて……、いつか目が見えるようになったら、なんてそんな話ばかりでしたが……。ついに、何も見せてやれなかった……」
「ついに、と言うと」
「はい、妹は、去年亡くなったのです」
しんみりとイワンが言うと、フードの人物はそうですか、とだけ言って深々と頭を下げた。下手な慰めの言葉よりも、誠意が見えた。
「妹が一番見たがっていたのは、月でした。空に浮かぶ月と言うのは、どんなにか綺麗なのでしょうね、と、あんまり何度も言うので、僕はかわいそうになって、つい約束をしてしまったのです。月の明かりを増やす賢人の話が伝わっているだろう、僕がその賢人の代わりに、お前の目にも届くくらいに月の明かりを増やしてやるよ、って」
「月の明かりを増やす賢人、ですか」
フードの人物が、ゆっくりと頭を上げた。
「ええ、この地域に伝わる、昔話のようなものです。単なる伝承だとはわかっているのですが、こういう話ができるには、なんらか似たような事例が過去にあったのではないかと、諦めきれずにいるのです。……約束、でしたから……」
もう、妹は生きていないけれど。
それでも、月明かりを届けるために、努力をしたい。
「自己満足かもしれませんけど」
「そうとは限らないんじゃないですかねーえ」
フードの人物が突然、素っ頓狂な口調になって、イワンはぽかん、と口を開いた。
「あと七日、待ってごらんなさーい。そして伝承をよく読み返してみることですねーえ」
それだけ言うと、フードの人物はすらりと立ち上がって酒場を出て行った。イワンは慌てて追いかけたが、その姿は、もうどこにも見当たらなかった。
ふと、空に目を移すと、夜空には半月が鈍く光っていた。
その次の日の朝、イワンは街から姿を消した。
彼女……、たったひとりの、イワンの妹。
「ねえ、お兄様、わたくし、見たいものがありますの……、たくさん、たくさん」
そう言って笑う彼女の口調に悲壮さは感じられず、それが余計に、イワンには痛ましかった。最後の最後まで、彼女は自分の目が見えるようになるものと信じていた。
生まれてすぐに熱病にかかってしまった彼女は、一命は取り留めたものの、あらゆる後遺症に悩まされた。視力を失ったのもその所為で、物ごころつくころにはすでに暗闇の中であった。父母の顔も、もちろん兄であるイワンの顔も、見たことはない。こんなに美しい瞳は何を写すことも出来ぬのか、と思うたびにイワンの胸は痛んだ。
「花も、蝶も、山も川も……、そしてお兄様のお顔も。見たいものは本当にたくさんありますけれど、でも、わたくしが一番見たいと思うのは、ね……」
妹の声が、ぼわぼわと妙な広がり方で響いた。ああ、もう少し、聞いていたいのに、と思ったところで、イワンは目覚めた。
「……夢……」
妹の声の余韻をかき消すように、落ち着きのない喧騒が耳に飛び込んできた。ああ、酒場にいたのだった、とイワンは思い出す。飲んでいるうちに寝てしまったらしい。
リンダールの森にほど近い、小さな町。イワンはここで生まれ育った。
「大丈夫ですか。うなされておいででしたが」
隣の席から、そう言葉をかけられた。
「すみません、うるさかったですか」
頭をかきつつ謝って、イワンは隣の席の人物へ目をやり、少し驚いた。黒いフードを目深にかぶり、顔がほとんど見えなかったからだ。声の調子からして年寄ではなさそうだが、男か女かはわからない。こんな町に旅人であろうか。
「悲しい夢をみておられたのですか」
「悲しい夢、ではないはずなんですけれどね。幸せだったころの、夢ですから。妹と、語り合う夢です」
「妹さんですか。仲がよろしいんですね」
「ええ、仲は良かったですね……」
怪しげな恰好とは裏腹に、その人物は上品な喋り方をした。イワンは悪い人ではなさそうだ、と気を許し、いつの間にか、妹のことを語り出していた。
「妹は、目が見えませんでした。そればかりか、体のあちこちに疾患があって、常にベッドで過ごしていました。僕と話すのをなにより楽しみにしてくれていて……、いつか目が見えるようになったら、なんてそんな話ばかりでしたが……。ついに、何も見せてやれなかった……」
「ついに、と言うと」
「はい、妹は、去年亡くなったのです」
しんみりとイワンが言うと、フードの人物はそうですか、とだけ言って深々と頭を下げた。下手な慰めの言葉よりも、誠意が見えた。
「妹が一番見たがっていたのは、月でした。空に浮かぶ月と言うのは、どんなにか綺麗なのでしょうね、と、あんまり何度も言うので、僕はかわいそうになって、つい約束をしてしまったのです。月の明かりを増やす賢人の話が伝わっているだろう、僕がその賢人の代わりに、お前の目にも届くくらいに月の明かりを増やしてやるよ、って」
「月の明かりを増やす賢人、ですか」
フードの人物が、ゆっくりと頭を上げた。
「ええ、この地域に伝わる、昔話のようなものです。単なる伝承だとはわかっているのですが、こういう話ができるには、なんらか似たような事例が過去にあったのではないかと、諦めきれずにいるのです。……約束、でしたから……」
もう、妹は生きていないけれど。
それでも、月明かりを届けるために、努力をしたい。
「自己満足かもしれませんけど」
「そうとは限らないんじゃないですかねーえ」
フードの人物が突然、素っ頓狂な口調になって、イワンはぽかん、と口を開いた。
「あと七日、待ってごらんなさーい。そして伝承をよく読み返してみることですねーえ」
それだけ言うと、フードの人物はすらりと立ち上がって酒場を出て行った。イワンは慌てて追いかけたが、その姿は、もうどこにも見当たらなかった。
ふと、空に目を移すと、夜空には半月が鈍く光っていた。
その次の日の朝、イワンは街から姿を消した。
解説
■成功条件
姿を消したイワンを探し出し、彼の目的に協力する。
■伝承
イワンがフードの人物に語っていた中に登場した伝承は以下のようなものである。
「満ちた月明かりを更に満たさんとする男あり。
光、注ぐことかなわず、
男、月に問う。
“汝の力、借り受けたし。如何すべからん”
月、笑みてのたまう。
“描け、三日目。描け、七日目。描け、十五。そして祈れ”
男、また月に問う。
“ふさわしき祈りは如何なるものか”
月、また笑みてのたまう。
“愛しき者へ祈れ。愛しき者のために祈れ。己が心を美しくせよ”
かくて、満たさず、磨けり。
ただ、ただ、祈りて、磨けり。
その者、月の明かりを増しし賢者となりぬ。」
■イワンの行方
ハンターに依頼があったのは、イワンが姿を消して六日目。
「月明かりを増やす」という目的のもと、町のはずれにある丘(町中でもっとも月が綺麗に見えるところ)へ向かったとみられる。丘の頂上への道は険しくはないが、足をとられやすい岩が多い。
また、丘の頂上付近には小さな泉があり、清らかな湧き水が豊富にある。
姿を消したイワンを探し出し、彼の目的に協力する。
■伝承
イワンがフードの人物に語っていた中に登場した伝承は以下のようなものである。
「満ちた月明かりを更に満たさんとする男あり。
光、注ぐことかなわず、
男、月に問う。
“汝の力、借り受けたし。如何すべからん”
月、笑みてのたまう。
“描け、三日目。描け、七日目。描け、十五。そして祈れ”
男、また月に問う。
“ふさわしき祈りは如何なるものか”
月、また笑みてのたまう。
“愛しき者へ祈れ。愛しき者のために祈れ。己が心を美しくせよ”
かくて、満たさず、磨けり。
ただ、ただ、祈りて、磨けり。
その者、月の明かりを増しし賢者となりぬ。」
■イワンの行方
ハンターに依頼があったのは、イワンが姿を消して六日目。
「月明かりを増やす」という目的のもと、町のはずれにある丘(町中でもっとも月が綺麗に見えるところ)へ向かったとみられる。丘の頂上への道は険しくはないが、足をとられやすい岩が多い。
また、丘の頂上付近には小さな泉があり、清らかな湧き水が豊富にある。
マスターより
今作より、新たに「空の研究」というシリーズをスタートさせていただきました。
何やら早々に怪しい人物出てきましたけど……、どうぞよろしくお願い致します!
さて。
イワンは一体何をしたらいいのか、あまりわかっていないようですが、ハンターの皆様におかれましては、何か考えが思いつくのではないでしょうか。ぜひ月明かりに挑んでくださいませ。
何やら早々に怪しい人物出てきましたけど……、どうぞよろしくお願い致します!
さて。
イワンは一体何をしたらいいのか、あまりわかっていないようですが、ハンターの皆様におかれましては、何か考えが思いつくのではないでしょうか。ぜひ月明かりに挑んでくださいませ。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2015/11/24 05:13
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/11/17 13:48:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/17 13:27:50 |