• 闇光
  • 戦闘

【闇光】浸食する悪意

マスター:T谷

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2015/12/24 07:30
リプレイ完成予定
2016/01/02 07:30

オープニング

 北荻から帝国へと広がる山脈の隅、そこに見つけた化石のような小屋に転がり込んで、エリザベート(kz0123)は体の中に泥のように澱む苛立ちを全て吐き出さんと大きくため息をついた。
 ハンター達との戦いから数日、オルクスの手によって戦域からの脱出には成功したものの、エリザベートの心は少しも晴れない。
「ああもう! 飛ぶ元気も残ってねぇし、こんなとこ裸足で歩いたらクソ寒ぃし! マジムカつくムカつくムカつくっ!」
 苛立ちのままに意味もない大声を上げて、エリザベートが辺りを適当に蹴りまくる。しかし、いつものような力は出ず、石の一つも砕けない。そのもどかしさに、より苛立ちは募っていく。
 やがて息も切れ、怒りをぶつける体力すら失ってしまいそうになる。
 こんな時にオルクスさえいれば、と彼女は思う。そうすれば、この怒りも共有し、笑い話にも出来るだろうに。
 オルクスの姿は、しばらく見ていない。ここでエリザベートが目を覚ましたとき、既にその姿はなかったからだ。
「……あんたさえいなけりゃ、もっと早く逃げれたっつーのに!」
 だからこの怒りの矛先は必然的に、唯一人捕獲に成功した人間に向けられる。
 確か、オウレルだとか呼ばれていた気がするが、そんなことはどうでもいい。
 たかだか人間の身で、単身エリザベートとオルクスに立ち向かった愚か者。
 その蛮勇も今では、全身血塗れで息も絶え絶え。おまけに逃げないようにと、エリザベートによって両の掌を木片で壁に磔にされて。
 ――しかし尚も、こちらを睨み付ける。
 当初は、この存在に妙な興味を覚え、それを捕獲したことに多少の満足感も覚えた。だが、今となっては忌々しさが上回る。
 すぐに殺すはずもない。元よりエリザベートの趣味と言えば、散々に痛めつけ、殺してくれと嘆願する声を尻目により痛めつけ、死にかけ声を出さなくなれば治してやり、そしてまた痛めつける。そういうものだ。
「おい、なんか言ったらどーよ。おうちに帰りたいでしょ?」
 胸部を蹴りつけ、爪先に感じる肋骨の軋みに愉悦を覚えながら、嘲るようにエリザベートが声を掛ける。
 だが、その男は一言も発さない。
 瞳孔が開き、焦点も合わない目はまともにこちらを見ているかも怪しいが、それでも、そこに点る炎は……反吐が出るほどに力強い。
 面白いと、エリザベートは思ってしまう。
 配下もおらず、帝国領内の拠点に戻る力もなく、ただ回復を待つこんな状況にあっても、彼女の嗜虐心は大いに煽られる。
 この男が泣き叫ぶところをみたいと、本能が叫ぶ。その姿を想像し、背筋がぞくりと快感に震えた。

 ――その想像を真にするため、エリザベートは男の目を強く見つめた。

 瞳から放たれるのは、禍々しくぎらつく不自然な赤い色。それが瞳孔から浸食し、体内のマテリアルを掻き乱す。
 意識、思考、倫理に常識、これまで培ってきたあらゆる感性が塗りつぶされる。
 はずだった。
「……なんで効かないのよ」
 しかし、エリザベートの魅了は、寸でのところで弾かれる。
 男は未だこちらを睨んだままで、彼女の言葉に少しも反応しない。言葉一つで命を投げ出す木偶人形に、なってはくれない。
 幾度試しても、結果は同じだった。
 おかしい。どう考えてもおかしい。そんな人間がいるはずがない。
 男の極端な消耗はこれまで操ってきた人間に共通する点で、そこを考えれば、魅了は通らなければおかしかった。
 彼女の思うがままに仲間を殺し、心を壊す怒濤のような自責の念に駆られ絶望の中で自ら命を絶つ。そんな面白い玩具になってくれないと、この苛立ちを晴らすことなど出来ないというのに。
「クソがっ!」
 再び男に蹴りを叩き込む。
 何度も。
 何度も。
 男は確実に弱っていく。だが、いくらその目を見ても、男は決してエリザベートの思い通りに動いてくれない。
 だから、また蹴る。
 何度でも。
「……そうだ」
 そうしている内に、エリザベートは思いついた。
「オルちゃんに頼めばいいんだ」
 簡単なことだった。
 あの頼もしい親友に頼めば、何でも叶えてくれるのだ。自分に力をくれた、あの時のように。
 欲しいものは、何だって与えてくれる。


 シュターク・シュタークスン(kz0075)の得意なことと言えば、決して部隊の指揮などではない。むしろ全体を見て指示を出すなど苦手な部類で、そんな自分が団長などという地位にいること自体が不可解だ。
 とはいえ、それでもと言ってくれる仲間がいるなら、自分は旗印でい続けよう。そう考えてきた。
「ち、くっせえ気配だらけで、どこに強えのがいるかさっぱりだ」
 だが、自分よりも頼れる指揮官がいるとなれば話は別だ。面倒なことは、得意な奴に丸投げする方が間違いなく上手くいく。
 そして自分は、その分、得意なことを頑張ればいい。
 シュタークは、集まったハンター達に適当に声をかけ、付いてきてくれた者と共に別働隊として敵の群れを掻き乱す役を買って出ていた。
 敵はかなりの大所帯で、特に強力な個体も混ざっている。最小限の労力だけで敵の力を削ぐには、こういった役割も必要だと……そんな細かいことは考えていたかは定かではないが、とにかく戦場を走り回っていた。

 ――爆音と共に視界が真っ赤に染まったのは、逃げるゾンビを追って戦場の端近くまで出てしまったときのことだ。

「ぬあっ、何だおい!」
 耳が痛いほどの轟音。一メートル先も見えない程の赤い靄が、辺りを覆う。血と腐敗の臭いが、強烈に鼻を突く。
 誘い込まれた。シュタークの直感がそう告げる。
 そして、
「……っ、敵か!」
 次の瞬間に、無数の小さな矢が飛来する。咄嗟に剣を振るうも、間に合わず数本が肩や足に突き刺さった。
 音で耳をやられ、視界は悪く、さらには周囲の悪臭で敵の気配は感じ取れない。
「はっ、コザカしいって奴だなこりゃ! こんなもん、真っ直ぐ突っ込みゃ何の問題も……!」
 そう気勢を上げて大剣を振りかぶったシュタークが――たった一歩を踏み出して、がくんと膝を折っていた。
「……あ?」
 体に力が入らない。どさりと背後で、大剣が雪に落ちる。
 ダメージを受けた訳ではないはずだ。先程の矢も、一つ一つが針のような小ささで、刺さったところで大したものではない。
 そう思って、視線を下げる。
「あっはっは……なんつーか、しくったなぁおい」
 引き抜いた矢の先には、シュタークのものではないどす黒い血のようなものがこびりついていた。見れば傷口の周りが、既に黒く変色しつつある。
 毒だ。それも恐らく、覚醒者すら害するほどの強力なもの。
「悪ぃ。後、頼んだ」
 シュタークはそれでも、豪快な笑みを浮かべてハンター達に片手を挙げて見せた。


「……何も考えていない獣なんて、所詮こんなもの。やっぱり、相応しくなんてない。……姉さんの、足下にだって及ばない」
 赤い靄の向こうで、誰かが呟いた。

解説

・概要
 何者かの襲撃からシュタークを守り抜け。

・敵
 複数いると思われますが、詳細は不明です。

・場所
 平坦な雪原です。
 しかし爆発により地面が抉れ、また赤い靄によって視界が遮られてしまい、現在どうなっているかは不明です。

・補足
 シュタークを蝕む毒は、そう簡単に解毒できるものではないようです。

マスターより

今回エリザベート自体は出てきませんT谷です。

何かいろいろと起こっているようです。気をつけましょう。

関連NPC

  • 帝国軍第二師団長
    シュターク・シュタークスン(kz0075
    人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
  • 真紅の妖姫
    エリザベート(kz0123
    歪虚|18才|女性|歪虚(ヴォイド)
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2016/01/01 22:49

参加者一覧

  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 王国騎士団非常勤救護班
    クルス(ka3922
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士

  • 町田紀子(ka5895
    人間(蒼)|19才|女性|格闘士
依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
イーディス・ノースハイド(ka2106
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/12/23 22:58:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/22 01:10:16