• 無し

なぐさめに奏でる音の、いとあはれなことよ

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
プレイング締切
2016/04/27 07:30
リプレイ完成予定
2016/05/06 07:30

オープニング

「思い知ったか。殺された友人の痛みを」
 屋敷の物置で父親は荒い息遣いでそう言うと、もう一度暗殺者であった少女の顔に蹴りを叩きこんだ。
 少女は元々器量の良い顔立ちではなかったが、その顔は赤黒く腫れあがり、鼻骨は折れて曲がり、歯も見える限りは砕かれたその顔は無残としかいいようがなかった。
 そんな彼女は血反吐をもらして呻いたが、それ以上は何も漏らさなかった。
「ご主人様。そろそろ死にますよ」
 横で見守っていた父親の守衛がさすがに眉をひそめて、そう声をかけると父親は苛立った顔そのままに、物置から出て行った。それを守衛は追いかけた。
「いいんですか? 暗殺者とはいえ、帝国法では不当な扱いや殺人は認められていませんよ。こんなことをしていたら……」
「法でさばけぬからっ! こうしておるのだろう!! 正当防衛は認められておる。奴から襲い掛かったためワシらはやり返しておるんだ。それにワシらの暗殺を画策したヴルツァライヒとやらの根城も聞き出さねばならん。これは正義なのだ」
 その憎悪まみれの言動に、守衛も長年の雇主に嫌悪に満ちた顔を表に出したが、当の本人はまるで気づいた様子もなかった。
 それどころか、彼の苛立ちはまだ収まってもいないようであった。
「あの小娘め。どんな責め苦を食らわしても悲鳴一つあげやせぬ。我が友が死んだときはどれほどの恐怖を味わったと思っているのだ。それを一つでもわからせてやらねば」
「それは無理ですよ。あれは歪虚ともつながっていたというカールの職業訓練施設で暗殺術を教えられた人間でしょう。心なんてとうに死んでいます。生に絶望しているから、ご主人様を狙うなどの暴挙に出られたんですから」
 暗殺者テミスの素性はすぐに本人の口から語られた。
 貧乏農家の生まれの彼女は口減らしの為に、働きに出された流れでカール・ヴァイトマンの職業訓練施設に入れられた。
 表向きは訓練施設とは言っていたが、そこはゾンビの生成工場でもあり、出来の悪い生徒はその素材に使われ、それを目の前で見せられた人間はゾンビにさせられないよう自ら感情を捨て、倫理をおのずから破り、人を殺めることも致し方なしと覚えさせられた。
 死の恐怖で震えるなどできるわけがない。この男よりもっと残酷な行為を見せられて感情は焼き切れているはずだ。
 もっともカール・ヴァイトマンも職業訓練施設も昨年にハンターによって壊滅し、非を問う相手もいない。いるとすれば過激派反政府組織ヴルツァライヒであるが、今まで誰もその全容を掴んだことはない。テミスもそもそも捨て駒のようなものだ。彼女をどうしようがヴルツァライヒがゆらぐこともあり得ない。
「心がない? いいや、あるはずだ。人間なのだから。現にあいつはうちの娘と一緒に音楽を……」
 父親はそこまで言うと、はたと止まり、ニヤリと笑った。
「そうだ。音楽だよ。おい、音楽家を連れてこい。毎日あそこで演奏してやれ。この前みたいな幸せな歌をヤマと歌わせろ」
「音楽、ですか」
 テミスが暗殺者だと判明したのは、退屈だと漏らした彼の娘の発案で、この屋敷でハンターによる音楽会が開催されたことであった。
 そこで気を許した父親に向かってテミスは刃を向けたのであったが、それはハンターによって留められた。
「そうだ。一緒に音楽に聞きほれてたと娘が言っていたからな。ちょっと耕してやればきっと涙の一つくらいこぼせるようになるだろう」
「世の幸せを覚えさせた後に絶望に突き落とし直すんですか。そこまでしますか……?」
「ワシに口答えするかっ。あいつは暗殺者。ゴミクズだっ。外道だ。人間などとひとくくりにするほうが間違っておるわっ。あれは娘の心にも傷をつけた。殺しても殺し足りないくらいなのだ。ありとあらゆる苦痛と恐怖でのたうちまわさねば気が済まぬっ!!」
 そんなアイデアを出す自体が、人倫に外れていると思うのだが。
 守衛は彼に気付かれないよう深いため息を漏らした。
 ヴルツァライヒの狙いはある意味成功したのかもしれない。彼の心の闇を暴いて破滅に導くというのなら。

 しかし、それで放っておくのも人道に反するというものだ。
 楽器や歌を準備し、帝国首都バルトアンデルスのハンターオフィスに集まった『あなた』達を、父親の娘と守衛が出迎えた。
 娘の方が丁重に頭を下げると、緊張した声で『あなた』達に話し始めた。
「音楽で暗殺者であったテミスの心を取り戻すこと。これが貴方たちにお願いする仕事内容です。それに加えてもう一つお願いがあるんです。その子、テミスと言いますが……心を取り戻したら、こっそり解放してあげてください」
 その言葉に応じて守衛はハンターオフィスにもちかけたもう一つの依頼を見せた。
 それは守衛と、この娘の連名で差し出された依頼であった。
 内容は、テミスという少女を解放し追手のかからないようにすること。であった。
「テミスが暗殺者だなんてしらなかった……でも私の我が侭にはいつもずっと付き合ってくれたのよ。それに音楽を聴いた彼女は本当にいいお友達になれそうだったの。あの子が悪いだなんてお父様も本当は思っていない。頭に血を上らせているだけ。だから……助けてくれないかしら」

解説

帝国のとあるお屋敷で音楽会を開催します。
ハンターは楽団員となって音楽をつかい、暗殺者の娘テミスの心を取り戻してください。

●登場人物(括弧内は名前)
テミス 暗殺者として訓練され、心を失った子です。暗殺の際、ハンターによって捕らえられました。今は物置に縛りつけられてひどい怪我をしています。10代前半。
父親(オード) 40才くらい 怖い人です。割と残酷なことをしていますが、今は頭に血を昇らせているだけ、とのこと。
娘(タニヤ) 10代前半 明るい子ですが、テミスが暗殺者だとは知らなかった為大変ショックを受けています。できれば彼女を助けたいと思っています。
守衛(アル) 50才くらい 父と娘を昔から護衛してきた人です。あまり父親が無茶を言う場合、辞表を出すこともやむを得ないかと考えています。テミスに対して一般的な憐憫は持っていますが罪は罪と思っています。本来ならば司法に預けるべきとは思っていますが、今回は娘に押された感じです。

●状況
基本的に音楽会は物置前か、その中ですることになります。この場所はよほどでないと移動させられません。
父親は音楽会は臨席します。
ちなみにそのままテミスを解放するのは簡単ですが、後で守衛さんや娘さんがとばっちりを食らうので、その辺を上手くしてあげてください。

マスターより

音楽の力を悪用するケース。です。
父親の依頼だけで終わり、後をどうするかをお任せにしても良かったのですが、そこはやはり皆様にはちゃんとした立場でいていただきたいと追加させていただきました。
任務内容より、それぞれの心情をおくみいただければ幸いです。

なお、このシナリオは拙作「なぐさみに奏でる音の、いとをかしきことよ」の続きとなっております。ここに至るまでの経緯はそちらをご確認ください。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2016/04/30 04:05

参加者一覧

  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 落花流水の騎士
    ルシール・フルフラット(ka4000
    人間(紅)|27才|女性|闘狩人
  • 咲き初めし白花
    ブリジット(ka4843
    人間(紅)|16才|女性|舞刀士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
依頼相談掲示板
アイコン 相談の卓
エステル・クレティエ(ka3783
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/04/27 00:52:50
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/24 02:10:37