• 日常

刀身研磨 私心摩耗

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
3日
プレイング締切
2016/07/12 12:00
リプレイ完成予定
2016/07/21 12:00

オープニング

※このシナリオは原則として戦闘が発生しない日常的なシナリオとして設定されています。

 朝の涼風が吹く、東方風の家屋が並ぶ通りを、一人の女が歩いていた。左手に刀を一振り提げ、右へ左へと視線を迷わせながら通りを行く着物姿の女は、名を正宗鞘という。
 やがて彼女は、一軒の家屋の前で足を止めた。軒上に提げられた木彫りの看板には、『包丁、刀の研ぎ、承ります』とあった。
 視線を下ろして、戸口の脇に掛けられた表札に目を遣る。
「唐梨子(からなし)……。じゃあ、ここに……」
 呟きを漏らし、開け放たれた戸を覆う暖簾へと腕を伸ばす。
 藍染の布に触れる直前、躊躇うように手が止まった。しばしの間を置いた後、暖簾を掻き分け、正宗はその奥へと踏み入れた。
 りん……りん──と、暖簾の下に取り付けられた鈴が、正宗の来訪を告げる。
 屋内は薄暗く、開かれた突き上げ戸から差す朝日が、申し訳程度に土間を照らしている。しばらくして陽が高くなれば、光量も増すだろう。
 土間に二、三歩踏み入ると、鈴の音が止む。すると、正宗の耳が別の音を捉えた。摩擦音とでも言うべきか、何かを擦り合わせるような音が、律動的に木霊している。
 聞き覚えのある音。やがて音源を見出した正宗は、そこに目当ての人物を見咎める。
 柄を外し、茎(なかご)を晒した刀身を研ぎ石に当て研磨する人物の後ろ姿を。そのしなやかな体躯と、肩口でざんばらに切られた黒髪の艶。それを見れば、女性であると判別できた。
 見覚えのあるその後ろ姿に呼び掛ける。
「お久し振りです、桔梗(ききょう)」
 その声に女性が振り返った。
 女性──唐梨子桔梗は正宗の姿を捉えると、その眼を見開いた。その眦には皺こそなかったが、そろそろ四十路に届くのではなかっただろうか。本人が然して気にした風もなく、そう言っていた。
「……お前か、正宗。こんな早朝に何の用だ」
 唐梨子は表情を整えると、また姿勢を戻し、刀を研ぎ始めた。
「東方からこちらに居を移したと風の噂で聞いたもので。それに貴女なら、この時間でも起きているだろうと思い、こうして伺いました」
 正宗は一旦口を噤み、しばらく逡巡した後、口を開く。
「……一つ、聞かせて貰っても良いですか」
「──町が襲われたんだ」
 正宗の問いに先んじて、唐梨子は答えを返した。更に問う。
「……それは、歪虚に?」
「いいや、人間だ。野伏せり、という奴だな。先の戦争で潰れた武家の残党の集まりだろう。……酷いものだったよ」
 一旦、研ぎ石から刀を離し、窓から差す朝日に翳しながら、研磨の具合を矯めつ眇めつ眺める唐梨子。その語調は淡々していて、それ故に彼女が垣間見たであろう惨状を、みなまで聞くまでもなく想像する事ができた。
 正宗の左手──鞘を握る拳の関節が白む。
「……すみません。私が留まってさえいれば」
「お前が居た所で──いや、お前が居ればどうにかなっていたかもしれん、確かにな。だが、あのまま留まっていれば、お前がどうにかなっていた事だろうよ。あの頃の東方は、今よりも更に乱れていた。お前が背を向けたのは、正解だったよ」
「私は別にっ──」
「違わんだろう。お前は、あの日々に耐えられなくなった。だから姿を消して、こちらに逃げて来たのだろう?」
「私は……」
「勘違いするな、別に責めているわけではない。寧ろ私はホッとしたよ、これでお前の刀を研ぐ必要がなくなったとね。何度お前の刀を研がされた事か知れんからな。もっとも──」
 唐梨子は、正宗の刀をチラリと見遣ると、鼻を鳴らす。
「未だに、その刀を捨てる気にはなれんようだがね」
「これは捨てられません、絶対に。もしその時が来るとするなら、それは──」
 刀を持ち上げ、正宗は言葉を切る。それを見た唐梨子は嘆息を漏らすと、手を差し出した。
「どれ、貸してみろ。まさか、ただ顔を見に来ただけではあるまい」
「……はい、お願いします」

 目釘を抜き、柄から取り外した二尺刀身を眺め回す唐梨子。
 地肌は板目、刃紋は互の目、浮き出た地刃の働きは、地景に、金筋と稲妻。銘こそ刻まれていないものの、業物級の刀だ。
 刀身から視線を外すと、唐梨子は正宗を見遣る。彼女の額に浮いた汗に気が付くと、溜息を零した。
「……お前、相変わらず他人に刀身を握られるのが駄目なのか?」
「……昔程ではありません。多少は慣れました」
「そうだったな。確か最初は吐き出したんだったか」
「……あの時は迷惑を──」
 苦い表情を浮かべた正宗は、背後から床が軋む小さな音を聞き咎めて振り返る。移した視線の先には、一人の少年が立って居た。年はようやく十に届いた頃だろうか。
「起きたか、ナギ」
 唐梨子が少年に向けて声を掛ける。
「彼は……?」
「椥辻(なぎつじ)凪太(なぎた)だ。そうだな……、この子も私と同じ生き残りだよ。少々縁があってね。今は私が引き取っている」
「生き残り……」
 正宗は、少年──凪太の頭髪を見遣った。色が抜け落ちた、白髪を。
 凪太の不思議そうな視線に気付いて、正宗は視線を落とす。
「ええと、私は正宗鞘と言います。桔梗の……、昔の知り合いです」
 正宗の自己紹介を受けた凪太は、ぺこりと頭を下げると、懐から紙の束と、筆入れを取り出した。筆入れに納めた鉛筆を手に取ると、紙面に筆を走らせる。しばらくして、彼が掲げてみせた紙面には、こう記されていた。
『ぼくは椥辻凪太です
 はじめましてさやお姉さん』
「……!」
「──ナギ、すまないが朝食の支度を頼めるか?」
 凪太は唐梨子の言葉に頷きを返して、土間に下りて台所の方へと向かう。
「あの子は両親が殺されるのを目の当たりにしたらしくてね。本人は押入れに隠れていたので無事だったらしいが、それ以来、髪の色と声を失ってしまった」
 桶に溜めた水を刀身に掛けて研ぎ石に当てながら、唐梨子は静かな口調で告げた。
「どうやら、その時の事を憶えていないらしいのが、せめてもの救いか。いや、親の死に目を忘れた事は、何よりの不幸かもしれないな。──正宗」
「……何でしょうか」
「朝は済ませていないんだろう? あの子を手伝ってくれれば、同席しても構わないが?」



「何を作るのか、もう決めているんですか?」
 正宗に問い掛けられた凪太は、米を研ぐ手を止め、手拭いで水を拭き取ると、また紙と鉛筆を手に取った。
『だいこんのみそ汁とめざしをやきます』
「わかりました。では、私は大根を切りましょう。ええと、包丁は……」
 視線を彷徨わしていると、眼前に包丁の柄が差し出された。その刀身を握っているのは、凪太の小さな手。
 身体が凍り付いた。

 ──姉さんはどうして、僕を選んだの?
 命を殺す手応えが、柄越しに伝わる。
 ──どうして、どうして、ドウシテ?
 
「っ……」
 袖を引かれる感覚で我に返ると、視界に心配そうな表情を浮かべる凪太と『だいじょうぶですか』と書かれた紙が映る。
「──大丈夫ですよ」
 どうにか微笑みを浮かべながら、凪太の頭を撫でる。
 ひどく懐かしい感触が、手に伝わった。

解説

・目的
今シナリオは、ようするに参加PCが愛用する刀の設定を描写する事が目的である。
東方の研ぎ師に研ぎを頼むという設定上、東方、もしくは日本に由来する刀、槍、薙刀に限定する。一応、包丁も可能。

・NPC
正宗鞘
活殺流の(主に胸が)まな板剣士。一応、本編の方では身体的特徴を指摘されても、相手を斬ろうとはしない筈。
ちなみに彼女は家事全般(東方の文化水準でも)を一人でこなせる。得意料理は、かぼちゃの煮物。

唐梨子桔梗 紅 女性
東方の研ぎ師。パッと見は年齢不詳。一応、本人は三十台後半を自称している。
正宗とは、彼女が転移して来た頃からの知り合い。
一見するとスレンダーな着物美人だが、着痩せしているだけ。
ちなみに料理ができない。出汁も取らず、ただの湯に味噌を入れ、鮮魚をそのまま放り込んだものを味噌汁と呼ぶ。

椥辻凪太 紅 男性
十歳の男児。
両親を目の前で殺された際に、髪の色と声を失った。普段は筆談で会話する。字はそれなりに綺麗。声こそ出せないものの、表情は豊かで、人懐こく、素直な子供である。
物覚えが良く、家事はそれなりにこなせる様子。

・備考
研ぎは、化粧研ぎなど細かい注文も可能。詳しくない人は、適当に見た眼重視か切れ味重視かだけでも選んでください。
OP内では、刀身の説明だけしかしていないが鞘や鍔、柄などの設定を載せても構わない。
ちなみに正宗の刀は、彼女の苗字に引っ張られて設定してある。流石に「正宗」作の刀ではないだろうが、相州伝の刀である事は確か。
唐梨子は日本の刀について、ある程度の知識を備えており、五箇伝くらいは知っている。
勿論、愛刀に対する思い入れや、手にするに至った経緯について語って貰っても構わない。

唐梨子は、こちらに来て二、三カ月程経っているので、既に彼女や椥辻と知り合いであるという設定でも構わない。が、東方の頃からの知り合いはNG。

マスターより

 結局、日常で出しても暗くなるな、あのひんぬー剣士。

 いつものように、OPを読んでもはっきりしないでしょうが、今回は刀の設定大公開シナリオになりますね。

 一応断っておきますと、なんか五箇伝がどうとか、働きがどうとか宣っていますが、見事なまでの付け焼刃です。まあ、今回に限らないんですけどね、それは。
 ぶっちゃけ、刀剣女子に知識量で負ける自信があります。

 かぼちゃの煮物を始めての手料理にチョイスする感じの女子が好き。変化球のようで、その実王道中の王道というのが堪らんね。ま、単純にかぼちゃの煮物が好きなだけなんですけどね。トロトロのやつ。コチュジャンで味付けした中華風も良いんですよね~。

関連NPC

  • 活殺流剣士
    正宗 鞘(kz0190
    人間(リアルブルー)|19才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2016/07/21 00:26

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 感謝のうた
    霧雨 悠月(ka4130
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 双棍の士
    葉桐 舞矢(ka4741
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 背徳の馨香
    ブラウ(ka4809
    ドワーフ|11才|女性|舞刀士
  • 頼れるアニキ
    ケンジ・ヴィルター(ka4938
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
依頼相談掲示板
アイコン 刀身研磨 相談&雑談
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/07/11 22:12:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/10 01:23:50