ゲスト
(ka0000)
路地裏工房コンフォートと精霊
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在6人 / 4~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2016/09/08 07:30
- リプレイ完成予定
- 2016/09/17 07:30
オープニング
●
極彩色の街ヴァリオス、その外れの路地裏にひっそりと佇む宝飾工房。閉店後の部屋にはぼんやりとランプの明かりが灯っている。
工房の持ち主である老人はベッドに横たわって、住み込みの職人の少女を傍へと呼んだ。
「何、おじいちゃ、……エーレンフリートさん」
エーレンフリートと呼ばれた老人は、目許の皺を増やしながら穏やかに笑った。
少女、モニカの腕の中で小さな弟のピノは静かに眠っている。
「……いつもの、先生に、もう長くは無いだろうと、言われてしまってね」
細い声、掠れた呼吸の音が混ざる。
もう歳だから仕方ない、とはいえ、明日明後日に悪くなってぽっくりなんて事も無いだろうから、今の内に出来ることをしておくようにと言われたと、エーレンフリートの穏やかな低い声がゆっくりと告げる。
少女は寸時、呼吸を忘れた。
モニカはエーレンフリートとは何の縁もない。
寄る辺の無かったモニカとピノをエーレンフリートが保護し、彼がフマーレに持っていた喫茶店のウェイトレスをさせていただけだ。
喫茶店は既に閉めている。
医師の言葉は、エーレンフリート亡き後の2人の行く当てを案じてのことだろう。
エーレンフリートも、それを見届けなければ安心出来ないと皺の多い手でピノを撫でる。
「だからね」
エーレンフリートがモニカを見上げた。
「そろそろ、彼と君の秘密を打ち明けてくれてもいいのではないかな?」
君が常に負ぶっていなければ気が済まない程大切な彼に、何か事情があるのなら。
今なら守ることも、守り続けてくれる場所を探すことも出来るから。
モニカとピノがコンフォートに帰ってきて数ヶ月。
モニカの宝石や装飾の貴金属を扱う技術は、素人のエーレンフリートが見ても分かるくらいに秀でており、とても、こんな寂れた工房へ「弟子にして下さい」と飛び込んできて、喫茶店で働かされるようなものではない。
最近では、昔の、コンフォートがまだ賑わっていた頃の客や、その頃の品を引き継いだ持ち主が、修繕やリメイクに、或いは新しい掘り出し物を探しに来る程だ。
「……お祖父ちゃんにも、それは言えない。ピノはあたしの弟で、あたしはただ宝石が好きな田舎娘」
きっぱりと言い放って、モニカはふと目を逸らして微笑んだ。
「――なーんてね? 秘密なんて無い。ピノは、生まれたときにちゃんとお世話が出来なくて、すごい熱を出したり、咳が止まなくなったりしたんです。だから、離れるのが心配なの。あたしが傍にいないと、って」
それに、と、モニカは続ける。
「ピノはまだ1人で走れないんですよ」
くすりと笑ったモニカの声に釣られた様に、眠っていたピノもふにゃふにゃと笑う。
エーレンフリートは溜息を吐いて今夜はもう休むと目を閉じた。
●
翌日、エーレンフリートはベッドで半身を起こし本を読んで、モニカは持ち込まれた指輪のサイズを直していた。
不意にピノが手をばたつかせてモニカを呼んだ。
その直後ドアのベルが鳴る。
こんにちは、と客は分厚いレンズ越しの気弱そうな目で店内を見回した。
工房から続くドアを慌てて開けて飛び出してきたモニカに目を瞠って、ぺこりと深く頭を下げた。
「ここで、買った物だと思うので……」
そう言って、客は箱をカウンターに置いた。
褪せた常磐色の箱には店の名前が綴られていた。
「祖母の物なんです」
箱の中には割れたカメオと懐中時計が入っていた。
止まった時計は全く手に負えないと断ってから、モニカは懐中時計を天鵞絨を貼ったトレイに取り出す。
「…………私、ポルトワールから来たんです。魔法使いになりたくて。……学院に行きたくて。祖母はそこの出身なんです。でも、私は才能が無くて……」
割れてしまったカメオ、恐らく羽衣を纏う髪の長い女性の姿が掘られていたそれを並べ直しながら客は話しを続けた。
「みんなにやめておけって言われたんです。それを、祖母だけが応援してくれて……その時にこれを」
ヴァリオスの小さい店で買った物だがちょっと前に不注意で落として仕舞った上に、馬車に踏まれてしまったと祖母は言っていた。
お前の魔法で、直してくれと。
「――結局、本当に才能無くて……実家に帰ることになりまして」
1つも欠けた破片の無いカメオを眺めてモニカは考え込む。
「魔法でくっつけて欲しいと言われたんですか?」
客は頷いた。そして、出来なかったと溜息を吐いた。
「私は、魔法が使えないんです」
そう魔法で何でも直されちゃ、うちみたいに修理くらいしか稼ぐあての無い店は、商売あがったりなので、とモニカは笑う。
「時計は時計屋さんに頼んで下さい。この辺だと表に出た向かいの、2つ目か3つ目の角にあります。カメオというか、蓋の方はどうにかなると思います。少し手を入れても良ければ、目立つ割れ目に小さい石なら埋め込んで、切れてしまっているので縁のデザインも、面影を残しながら流行風にするくらい。ですけどね……これくらいで。……いつまでにいりますか?」
期日だけを空けた伝票を見せると客は意外そうな顔をした。
もっと費用が掛かると思ったと。
そして、出来るだけ早いほうが良いと言った。
「――では、時計の修理の終わる頃に合わせましょうか」
モニカの提案に、客は言われた通りに時計屋を目指す。
しかし。
「あ、あれれ?……嫌だなぁ、私って何でこんなに方向音痴なんだろう……ええと、ええと」
時計屋さん、確か場所は聞いたはずなんだけど。
目を閉じて真剣に思い出そうと考え込む彼女は、自身の周囲が淡く輝いて、光りの微風を起こした小さな精霊が彼女の背中を、ぽん、と押したことに気付かない。
「あ、そうそう、思い出した!」
時計屋に走って向かい、修理を依頼する。
パーツが幾つも傷んでおり、直るのは1週間後だと告げられた。
それをモニカに伝えると、では蓋も1週間後にと預かりの控えを渡されてこう言われた。
「――今更かもですが、うちを見付けるの、大変じゃなかったですか?」
こんなに小さい店だもの。
そう言われて、え、と思わず首を傾げた。
●1週間後
箱に収められた懐中時計を抱え、余り多くは無い荷物を背負って、客はハンターを待つ。
時計に蓋を付け直して貰いながら、実家までの長い道程を話すと、危ないことになりそうだったら雇うと良いと勧められた。
何度も世話になっているとも言われて、ハンターオフィスまでの道も聞いた。
当たり前のように迷子になりかけたが、考え込んでいる内に唐突に思い出して、オフィスの前へ辿り着いた。そこで偶然依頼を見に来たハンターに出会い、手伝われながら依頼を出した。
「なんであの人、私なんかをハンター仲間だと思ったんだろう……」
小さな精霊が背後でくすくすと笑っている声に、彼女は気付かず首を傾げた。
極彩色の街ヴァリオス、その外れの路地裏にひっそりと佇む宝飾工房。閉店後の部屋にはぼんやりとランプの明かりが灯っている。
工房の持ち主である老人はベッドに横たわって、住み込みの職人の少女を傍へと呼んだ。
「何、おじいちゃ、……エーレンフリートさん」
エーレンフリートと呼ばれた老人は、目許の皺を増やしながら穏やかに笑った。
少女、モニカの腕の中で小さな弟のピノは静かに眠っている。
「……いつもの、先生に、もう長くは無いだろうと、言われてしまってね」
細い声、掠れた呼吸の音が混ざる。
もう歳だから仕方ない、とはいえ、明日明後日に悪くなってぽっくりなんて事も無いだろうから、今の内に出来ることをしておくようにと言われたと、エーレンフリートの穏やかな低い声がゆっくりと告げる。
少女は寸時、呼吸を忘れた。
モニカはエーレンフリートとは何の縁もない。
寄る辺の無かったモニカとピノをエーレンフリートが保護し、彼がフマーレに持っていた喫茶店のウェイトレスをさせていただけだ。
喫茶店は既に閉めている。
医師の言葉は、エーレンフリート亡き後の2人の行く当てを案じてのことだろう。
エーレンフリートも、それを見届けなければ安心出来ないと皺の多い手でピノを撫でる。
「だからね」
エーレンフリートがモニカを見上げた。
「そろそろ、彼と君の秘密を打ち明けてくれてもいいのではないかな?」
君が常に負ぶっていなければ気が済まない程大切な彼に、何か事情があるのなら。
今なら守ることも、守り続けてくれる場所を探すことも出来るから。
モニカとピノがコンフォートに帰ってきて数ヶ月。
モニカの宝石や装飾の貴金属を扱う技術は、素人のエーレンフリートが見ても分かるくらいに秀でており、とても、こんな寂れた工房へ「弟子にして下さい」と飛び込んできて、喫茶店で働かされるようなものではない。
最近では、昔の、コンフォートがまだ賑わっていた頃の客や、その頃の品を引き継いだ持ち主が、修繕やリメイクに、或いは新しい掘り出し物を探しに来る程だ。
「……お祖父ちゃんにも、それは言えない。ピノはあたしの弟で、あたしはただ宝石が好きな田舎娘」
きっぱりと言い放って、モニカはふと目を逸らして微笑んだ。
「――なーんてね? 秘密なんて無い。ピノは、生まれたときにちゃんとお世話が出来なくて、すごい熱を出したり、咳が止まなくなったりしたんです。だから、離れるのが心配なの。あたしが傍にいないと、って」
それに、と、モニカは続ける。
「ピノはまだ1人で走れないんですよ」
くすりと笑ったモニカの声に釣られた様に、眠っていたピノもふにゃふにゃと笑う。
エーレンフリートは溜息を吐いて今夜はもう休むと目を閉じた。
●
翌日、エーレンフリートはベッドで半身を起こし本を読んで、モニカは持ち込まれた指輪のサイズを直していた。
不意にピノが手をばたつかせてモニカを呼んだ。
その直後ドアのベルが鳴る。
こんにちは、と客は分厚いレンズ越しの気弱そうな目で店内を見回した。
工房から続くドアを慌てて開けて飛び出してきたモニカに目を瞠って、ぺこりと深く頭を下げた。
「ここで、買った物だと思うので……」
そう言って、客は箱をカウンターに置いた。
褪せた常磐色の箱には店の名前が綴られていた。
「祖母の物なんです」
箱の中には割れたカメオと懐中時計が入っていた。
止まった時計は全く手に負えないと断ってから、モニカは懐中時計を天鵞絨を貼ったトレイに取り出す。
「…………私、ポルトワールから来たんです。魔法使いになりたくて。……学院に行きたくて。祖母はそこの出身なんです。でも、私は才能が無くて……」
割れてしまったカメオ、恐らく羽衣を纏う髪の長い女性の姿が掘られていたそれを並べ直しながら客は話しを続けた。
「みんなにやめておけって言われたんです。それを、祖母だけが応援してくれて……その時にこれを」
ヴァリオスの小さい店で買った物だがちょっと前に不注意で落として仕舞った上に、馬車に踏まれてしまったと祖母は言っていた。
お前の魔法で、直してくれと。
「――結局、本当に才能無くて……実家に帰ることになりまして」
1つも欠けた破片の無いカメオを眺めてモニカは考え込む。
「魔法でくっつけて欲しいと言われたんですか?」
客は頷いた。そして、出来なかったと溜息を吐いた。
「私は、魔法が使えないんです」
そう魔法で何でも直されちゃ、うちみたいに修理くらいしか稼ぐあての無い店は、商売あがったりなので、とモニカは笑う。
「時計は時計屋さんに頼んで下さい。この辺だと表に出た向かいの、2つ目か3つ目の角にあります。カメオというか、蓋の方はどうにかなると思います。少し手を入れても良ければ、目立つ割れ目に小さい石なら埋め込んで、切れてしまっているので縁のデザインも、面影を残しながら流行風にするくらい。ですけどね……これくらいで。……いつまでにいりますか?」
期日だけを空けた伝票を見せると客は意外そうな顔をした。
もっと費用が掛かると思ったと。
そして、出来るだけ早いほうが良いと言った。
「――では、時計の修理の終わる頃に合わせましょうか」
モニカの提案に、客は言われた通りに時計屋を目指す。
しかし。
「あ、あれれ?……嫌だなぁ、私って何でこんなに方向音痴なんだろう……ええと、ええと」
時計屋さん、確か場所は聞いたはずなんだけど。
目を閉じて真剣に思い出そうと考え込む彼女は、自身の周囲が淡く輝いて、光りの微風を起こした小さな精霊が彼女の背中を、ぽん、と押したことに気付かない。
「あ、そうそう、思い出した!」
時計屋に走って向かい、修理を依頼する。
パーツが幾つも傷んでおり、直るのは1週間後だと告げられた。
それをモニカに伝えると、では蓋も1週間後にと預かりの控えを渡されてこう言われた。
「――今更かもですが、うちを見付けるの、大変じゃなかったですか?」
こんなに小さい店だもの。
そう言われて、え、と思わず首を傾げた。
●1週間後
箱に収められた懐中時計を抱え、余り多くは無い荷物を背負って、客はハンターを待つ。
時計に蓋を付け直して貰いながら、実家までの長い道程を話すと、危ないことになりそうだったら雇うと良いと勧められた。
何度も世話になっているとも言われて、ハンターオフィスまでの道も聞いた。
当たり前のように迷子になりかけたが、考え込んでいる内に唐突に思い出して、オフィスの前へ辿り着いた。そこで偶然依頼を見に来たハンターに出会い、手伝われながら依頼を出した。
「なんであの人、私なんかをハンター仲間だと思ったんだろう……」
小さな精霊が背後でくすくすと笑っている声に、彼女は気付かず首を傾げた。
解説
目的 依頼人をポルトワールへ届ける
●地形
ポルトワールへ向かう少し狭い街道。
幅は2スクエア程度、両端は茂みや木で陰になっている。
道は踏み固められている。
カーブが多く、夏場に茂った草が遮蔽になっている場所が多い。
●エネミー
ゴブリン×~5×1~
統率の取れていないものが数匹の小さな群で茂みや木陰から飛び出してくる。
襤褸を纏っており、基本的には棍棒で戦うが、弓を扱う技術を持つ者が少なからずいる。
群は1つとは限らない。
●NPC
依頼人「コンフォートにたどり着けたのは……考えている内に、こっちだって、思ったから……かなぁ」
コンフォートの客の少女
魔法使いに憧れ、祖母の後押しもあって進学した元魔術学院の生徒ながら、魔術の才能が無く自主退学。
初対面のハンターに、覚醒者かと見間違われる程、小さな精霊に一方的に好かれており、
常に横や背後に寄り付かれているが、気付いていない。
ハンターの指示には従う。
小さな精霊
依頼人を気に入っている手乗りサイズの不定型な精霊。
方向音痴な依頼人を助けたりしているが、気付かないことを面白がっている。
コンフォートへ導いたのもこの精霊。
●地形
ポルトワールへ向かう少し狭い街道。
幅は2スクエア程度、両端は茂みや木で陰になっている。
道は踏み固められている。
カーブが多く、夏場に茂った草が遮蔽になっている場所が多い。
●エネミー
ゴブリン×~5×1~
統率の取れていないものが数匹の小さな群で茂みや木陰から飛び出してくる。
襤褸を纏っており、基本的には棍棒で戦うが、弓を扱う技術を持つ者が少なからずいる。
群は1つとは限らない。
●NPC
依頼人「コンフォートにたどり着けたのは……考えている内に、こっちだって、思ったから……かなぁ」
コンフォートの客の少女
魔法使いに憧れ、祖母の後押しもあって進学した元魔術学院の生徒ながら、魔術の才能が無く自主退学。
初対面のハンターに、覚醒者かと見間違われる程、小さな精霊に一方的に好かれており、
常に横や背後に寄り付かれているが、気付いていない。
ハンターの指示には従う。
小さな精霊
依頼人を気に入っている手乗りサイズの不定型な精霊。
方向音痴な依頼人を助けたりしているが、気付かないことを面白がっている。
コンフォートへ導いたのもこの精霊。
マスターより
よろしくお願いします。
朔コンフォート2作目となります。
魔術師よりも霊闘士向きの依頼人と、野良精霊。
某冒険都市へ寄り道しても構いませんが、無事にお家へ届けて下さい。
朔コンフォート2作目となります。
魔術師よりも霊闘士向きの依頼人と、野良精霊。
某冒険都市へ寄り道しても構いませんが、無事にお家へ届けて下さい。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2016/09/16 00:22
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/06 20:11:41 |
|
![]() |
相談卓 マキナ・バベッジ(ka4302) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/09/07 23:02:58 |