●剣士の場合
「おのれぇっ」
　剣士は激怒した。
　雑魔発見の報を受け、生まれ育った街を守るため出陣したまではよかった。
　これまでも小柄な雑魔の２、３体ならまとめて倒したことがある凄腕であり、故郷を、なにより妻子を守るため生涯最高の攻撃を繰り出せるはずだった。
　なのに敵は地上５メートルを旋回し、剣士に尻を見せてあざ笑っている。
「ぐ、ぬぅっ」
　歯軋りしても事態は好転しない。
　剣や槍を使う腕はあっても射撃武器はさっぱりな彼は、覚醒状態が切れる前に街の防壁の内側へ逃げ帰るのだった。

●騎士の場合
　分厚い蹄が大地をうがつ。
　逞しい愛馬にまたがる騎士が全速力で雑魔へ近づき、並みの雑魔なら挽肉にできる大剣を振り下ろそうとした。
　が、大剣の射程に入る前に空へ逃げられてしまう。
　たかだか地表から４、５メートルとはいえ剣の間合いではない。
　歯軋りしながら予備のナイフや手斧を飛ばす。
　けれど剣に比べると経験が少なく、小猿型雑魔にかすりもしない。
　結局騎士も剣士同様街へ逃げるしかなかった。

●弓使いの場合
　当たれば１００メートル先のブレストプレートを貫通する弓が、雑魔の中での弱い個体に跳ね返された。
　射手が下手なのではない。風や地形が射撃に向いていないのでもない。
　羽付き雑魔が飛行能力と防御に特化しているため、いわゆる会心の一撃でないと有効打を与えられないのだ。
「矢は３桁用意した。落ちるまで撃ち続けっ」
　射手が舌打ちする。
　羽小猿は馬よりも遅く覚醒者が駆けるより速く飛び、弓使いから軽々と逃げおおせるのだった。

●依頼
　ハンターオフィス本部に投影されたディスプレイ３つに、３つの失敗場面の録画が再生されていた。
　再生終了後３ディスプレイが１つにまとまり雑魔の位置と戦力、報酬や貸し出し可能装備などが表示される。
「見かけは蝙蝠羽の小猿、ね。攻撃の威力と射程はナイフ程度。雑魚だ」
「常に地表５メートルを飛んでる訳でもないのか。長期戦に持ち込めば３メートルまで下がるなら長槍で突けるな」
「速度の項目を見ろよ。馬がないと追い切れないぜ」
「最大の問題は守りの厚さだろ。凄腕の術者かアサルトライフル持ちでないと防御抜けないぞ」
　うけるのを諦めたハンターがディスプレイの前から去っていく。
　宙に浮かぶ依頼票が慌てたように何度か明滅し、アサルトライフル貸し出しますの１文が追加されるのだった。

　鉄っぽい肌の羽付き小猿型雑魔が相手な依頼です。
　戦場は転移門がある地方都市から４キロメートルの、隣町へ通じる街道がある平地です。街道を中心に直径３キロメートルが平坦で避難も完了しています。

　雑魔が４体てんでばらばらにうろついているため都市間の交通が麻痺しています。
　ハンターが転移門で都市に朝到着してから２４時間以内に４体全てを倒せないと依頼失敗扱いなります。

　この雑魔４体は、勝てると判断した相手には攻撃をしかけ、迷ったときは地表５メートル飛びながら距離をとって観察し、勝てないと判断したら馬には負ける速度で逃げ出します。

　貸し出されるアサルトライフルはショップで販売中のものと同性能です。
　当日は晴れで風も微風が吹いているだけなので絶好の射撃日和かもしれません。

※重要
　この依頼では、ハンターが乗用馬に乗って戦闘を行っても乗用馬が失われることは絶対にありません。
　乗用馬を盾として使う等した場合は馬が怪我する可能性があります。

※とっても重要
　この依頼は特定職や特定装備必須の依頼ではありません。知恵とチームワークがあれば全員初依頼初期装備でもきっとなんとかなります。

　剣やハンマーのみで倒すのも浪漫溢れていて素晴らしいと思います。