ゲスト
(ka0000)
名もなき道に、ささぐ花
マスター:赤羽 青羽

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在10人 / 4~10人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2017/04/02 07:30
- リプレイ完成予定
- 2017/04/11 07:30
オープニング
花の香りが鼻孔をくすぐった。
「はい、月之戸(つきのと)さまにプレゼント!」
穏やかな春の陽が、部屋の中まで注いでいた日だったと思う。
「私に……? どこで取って来たのだろうか?」
「ここに来る途中でね、咲き始めのすごく綺麗な道があったんです。本当に美しかったから、月之戸さまにも見せてあげたくて。リゼリオでもお仕事ばっかりでゆっくりしてないんでしょ?」
「桜の枝は、折ると樹が病気になることがあるんだが……」
「えっ、そうなんだ!? ごめんなさい。どうしよう」
手を伸ばす。
頭の形に添わせるように、真っ直ぐな黒髪に触れる。
「……次から気を付ければ良い。気持ちは嬉しかったよ」
「はい、帰りは一緒に見ましょう。月之戸さま」
薄桃色の花弁がはらりと散った。
●
霞みがかった空の下、淡い色の梢が揺れている。風がほのかな香りを運ぶ。
今日がちょうど満開だろう。
見事な桜の並木道だった。
両側から溢れ、零れ落ちる枝の下を、ハンターを乗せた馬車はゆっくりと進む。
たまたま乗り合わせたメンバーに緊急の任務を抱えている者はいない。
それならば、と、リゼリオへ向かう移動馬車を操る御者が、速度を落としたのだった。
気の抜けない仕事が続くハンターたちだ。たまにはこういうのも悪くないだろう。
美しい薄桃色の天蓋を見上げていると、突然馬車が止まった。
馬車の前に人影があった。
「急に止めてすまない。ここを通る者に警告を行っているのだ」
声を聞いて、初めてその姿が青年だと分かる。
それほど整った容姿をしていた。
青みがかったつややかな黒髪を頭の天辺でひとつに束ね、尾のように流している。
右耳の上からは白い角が半円を描いて伸びていた。色素の薄い銀の瞳は容易に表情を読ませない。
夜色の着物を身に纏い、腰には太刀が一振り、血色の鞘に収まっている。
鬼の武人、そして彼もまたハンターだった。
事情を聴かれ、青年は止まった馬車の縁に腰かけ話し始める。
「同業者の馬車だったとはな。私は月之戸(つきのと)。ここで1年前、同郷の少女が襲われたんだ」
桜の花弁が、降り始めた雪のように舞っている。
「助からなかった。見つかった時には、騎馬と共にとっくにな。刀と髪飾りが無くなっていたから物取りの線も一瞬考えたが……そこの桜の樹だ」
細い指が差す先には、深々と引き裂かれた桜の幹が、無残な傷跡を晒していた。
傷の形状からして爪痕だろうか。
それにしては傷が大きすぎるように見える。
幹の太さの三分の一ほどまでが抉り取られていた。
「獣だとしたら、あり得ないほどの体躯だ。複数の目撃情報から、私は歪虚に侵された獣だとみている。何人か商人が襲われたが、『胸元で何かが光った』ことや『現れる前に金属の音がした』ことで気付き、危うく難を逃れている」
そいつが現れるのを待っている、と月之戸は言う。
ここはリゼリオに向かうには便利な道だったが、他のルートも複数ある。
現れた雑魔に比べて被害が広がっていないのは、そういった理由もあるのだろう。
「あのう……」
黙って聞いていた御者がおそるおそる、ハンターたちに声をかけた。
「どうなさった」
「何か……妙な金属音が聞こえたような気がしたんですが……」
気のせいですかねぇ。と乾いた笑いを浮かべる御者の言葉を最後まで聞かず、月之戸は馬車から飛び降りた。
馬車の前方で白刃がきらりと、梢から漏れた光に輝く。
「ようやく会えたな」
声音が変わっていた。
白刃を直接素肌に当てたような、ひやりとする響きだ。
花影から現れたのは巨大な獣だった。
元の生物の原型は留めていないようだが、強いて言えば虎に骨格が似ている。
盛り上がり、黒光りした背は、並大抵の攻撃は弾いてしまいそうだ。
巨体ながら足音を殺している。が、歩くたびに『しゃん』という音が響く。
獣は右足をやや引きずるようにして道の中央に立ち止まった。
目の前に立ちふさがった青年を、普通の状態であれば睨みつけていることだろう。
常に動き回る瞳孔が、既にこの世のものではないと物語っている。
獣に続きコボルドらしき姿が現れるのを真っ直ぐみつめながら、月之戸は背中に向けて口を開いた。
「御者殿、ここは危険だ。馬車を安全な場所まで下げてくれ。……同業のかたがた。助力頂けないだろうか。私もハンター。相応の礼は心得ている」
●
「急な任務なんて、本当に大変なお仕事なんですね」
「すまない、今度こそ帰ろうと思っていたのだが」
馬を引く少女を、リゼリオの町外れで見送る。
頬を膨らませた横顔にひたすら頭を下げる。
「母上……当主には、夏までには必ず顔を出すと伝えてくれ」
「それはもちろん良いですけど……」
そこで私はようやく、懐の包みを思い出す。
布を解いて手で包むようにして、小さな掌に乗せた。
息をのむ音が聞こえる。
「つ、月之戸さま、これ……桜の簪(かんざし)……? こんなに素敵な物、頂けません! 月之戸さまのお給料、無くなっちゃう」
どれだけ薄給だと思われているのだろう。
苦笑いしながら、頭の上で結った少女の黒髪につけてやる。
「私は忘れっぽいからね。これを見て、来年は必ずと約束しよう」
淡い色の花と金属の薄板が、少女の頭の動きに合わせて、しゃん、と鳴る。
「……嬉しいです。大切にしますね」
「ああ。それよりも、一人で大丈夫だろうか。梗介に話を通してもいいんだが」
「平気ですよ。私も一族のひとり。いつまでも子ども扱いしないで下さいね」
少女は自らの腰につけた刀の柄に手を乗せ、頬を桜色に染めながらはにかんだ。
胸騒ぎを覚えるのは私の心配しすぎなのだろう。
手を振りながら遠ざかるその姿を、見えなくなるまで見送った。
「はい、月之戸(つきのと)さまにプレゼント!」
穏やかな春の陽が、部屋の中まで注いでいた日だったと思う。
「私に……? どこで取って来たのだろうか?」
「ここに来る途中でね、咲き始めのすごく綺麗な道があったんです。本当に美しかったから、月之戸さまにも見せてあげたくて。リゼリオでもお仕事ばっかりでゆっくりしてないんでしょ?」
「桜の枝は、折ると樹が病気になることがあるんだが……」
「えっ、そうなんだ!? ごめんなさい。どうしよう」
手を伸ばす。
頭の形に添わせるように、真っ直ぐな黒髪に触れる。
「……次から気を付ければ良い。気持ちは嬉しかったよ」
「はい、帰りは一緒に見ましょう。月之戸さま」
薄桃色の花弁がはらりと散った。
●
霞みがかった空の下、淡い色の梢が揺れている。風がほのかな香りを運ぶ。
今日がちょうど満開だろう。
見事な桜の並木道だった。
両側から溢れ、零れ落ちる枝の下を、ハンターを乗せた馬車はゆっくりと進む。
たまたま乗り合わせたメンバーに緊急の任務を抱えている者はいない。
それならば、と、リゼリオへ向かう移動馬車を操る御者が、速度を落としたのだった。
気の抜けない仕事が続くハンターたちだ。たまにはこういうのも悪くないだろう。
美しい薄桃色の天蓋を見上げていると、突然馬車が止まった。
馬車の前に人影があった。
「急に止めてすまない。ここを通る者に警告を行っているのだ」
声を聞いて、初めてその姿が青年だと分かる。
それほど整った容姿をしていた。
青みがかったつややかな黒髪を頭の天辺でひとつに束ね、尾のように流している。
右耳の上からは白い角が半円を描いて伸びていた。色素の薄い銀の瞳は容易に表情を読ませない。
夜色の着物を身に纏い、腰には太刀が一振り、血色の鞘に収まっている。
鬼の武人、そして彼もまたハンターだった。
事情を聴かれ、青年は止まった馬車の縁に腰かけ話し始める。
「同業者の馬車だったとはな。私は月之戸(つきのと)。ここで1年前、同郷の少女が襲われたんだ」
桜の花弁が、降り始めた雪のように舞っている。
「助からなかった。見つかった時には、騎馬と共にとっくにな。刀と髪飾りが無くなっていたから物取りの線も一瞬考えたが……そこの桜の樹だ」
細い指が差す先には、深々と引き裂かれた桜の幹が、無残な傷跡を晒していた。
傷の形状からして爪痕だろうか。
それにしては傷が大きすぎるように見える。
幹の太さの三分の一ほどまでが抉り取られていた。
「獣だとしたら、あり得ないほどの体躯だ。複数の目撃情報から、私は歪虚に侵された獣だとみている。何人か商人が襲われたが、『胸元で何かが光った』ことや『現れる前に金属の音がした』ことで気付き、危うく難を逃れている」
そいつが現れるのを待っている、と月之戸は言う。
ここはリゼリオに向かうには便利な道だったが、他のルートも複数ある。
現れた雑魔に比べて被害が広がっていないのは、そういった理由もあるのだろう。
「あのう……」
黙って聞いていた御者がおそるおそる、ハンターたちに声をかけた。
「どうなさった」
「何か……妙な金属音が聞こえたような気がしたんですが……」
気のせいですかねぇ。と乾いた笑いを浮かべる御者の言葉を最後まで聞かず、月之戸は馬車から飛び降りた。
馬車の前方で白刃がきらりと、梢から漏れた光に輝く。
「ようやく会えたな」
声音が変わっていた。
白刃を直接素肌に当てたような、ひやりとする響きだ。
花影から現れたのは巨大な獣だった。
元の生物の原型は留めていないようだが、強いて言えば虎に骨格が似ている。
盛り上がり、黒光りした背は、並大抵の攻撃は弾いてしまいそうだ。
巨体ながら足音を殺している。が、歩くたびに『しゃん』という音が響く。
獣は右足をやや引きずるようにして道の中央に立ち止まった。
目の前に立ちふさがった青年を、普通の状態であれば睨みつけていることだろう。
常に動き回る瞳孔が、既にこの世のものではないと物語っている。
獣に続きコボルドらしき姿が現れるのを真っ直ぐみつめながら、月之戸は背中に向けて口を開いた。
「御者殿、ここは危険だ。馬車を安全な場所まで下げてくれ。……同業のかたがた。助力頂けないだろうか。私もハンター。相応の礼は心得ている」
●
「急な任務なんて、本当に大変なお仕事なんですね」
「すまない、今度こそ帰ろうと思っていたのだが」
馬を引く少女を、リゼリオの町外れで見送る。
頬を膨らませた横顔にひたすら頭を下げる。
「母上……当主には、夏までには必ず顔を出すと伝えてくれ」
「それはもちろん良いですけど……」
そこで私はようやく、懐の包みを思い出す。
布を解いて手で包むようにして、小さな掌に乗せた。
息をのむ音が聞こえる。
「つ、月之戸さま、これ……桜の簪(かんざし)……? こんなに素敵な物、頂けません! 月之戸さまのお給料、無くなっちゃう」
どれだけ薄給だと思われているのだろう。
苦笑いしながら、頭の上で結った少女の黒髪につけてやる。
「私は忘れっぽいからね。これを見て、来年は必ずと約束しよう」
淡い色の花と金属の薄板が、少女の頭の動きに合わせて、しゃん、と鳴る。
「……嬉しいです。大切にしますね」
「ああ。それよりも、一人で大丈夫だろうか。梗介に話を通してもいいんだが」
「平気ですよ。私も一族のひとり。いつまでも子ども扱いしないで下さいね」
少女は自らの腰につけた刀の柄に手を乗せ、頬を桜色に染めながらはにかんだ。
胸騒ぎを覚えるのは私の心配しすぎなのだろう。
手を振りながら遠ざかるその姿を、見えなくなるまで見送った。
解説
大型獣の雑魔の討伐依頼です。
最低目標は討伐ですが、依頼者の心情に配慮すると良い評価が得られるでしょう。
・この場所はどういう場所なのか
・依頼者は何を大事にしているのか
・依頼者に身の危険はあるか
以上に注意して行動してみて下さい。
『味方全体の行動把握に全力を注ぐ』
『敵を倒す事に集中する』
『馬車を逃がす事を優先する』
など、最優先する行動を決めて動くと良いかもしれません。
以下、戦場情報です。
【地形】
桜並木の一本道
頭上を桜の枝が覆っています。
道幅は馬車がすれ違える程度です。
左手は山、右手はレンゲの花が広がる平地です。
敵は山側から降りてくるようです。
【敵】
■獣の雑魔■
四足歩行。獣型の黒々とした雑魔。
もはや原型は不明ですが、巨大な虎に近い形です。月之戸の頭が顎の高さに位置するほど大きな相手です。
背は黒光りしていますが、腹側には毛皮が残っています。
走る速度は思ったほど素早くなく、右前脚を気にするように動きます。方向転換や攻撃動作自体は早いです。
巨大な爪と牙を有し、まともに攻撃を受ければ大ダメージは避けられません。
2本ある太い尾はリーチの長い薙ぎ払いを行います。
右の胸元に何か光るものが刺さっているようです。
■周りの雑魔■
コボルドを元にした雑魔のようです。
覚醒者にとって強敵ではありませんが、『獣の雑魔』に集中すると狙ってくるでしょう。
常に5体ほどが現れ、攻撃の機会を狙っています。
【登場NPC】
■月之戸(16)■
舞刀士。リゼリオを拠点に活動するハンター。
青みがかった長い黒髪に銀色の瞳。
右側頭部に半円を描くように一本だけ角が生えている。
妖艶な外見と誠実な雰囲気を兼ね備えた鬼の青年。
基本的に穏やかな人物だが、スイッチが入ると何をするか分からない面がある。
剣の腕は悪くないが、冷静さを失い無謀な行動に出ているようだ。
■御者■
非戦闘員のおじさん。
4頭立ての馬車を操っている。
最低目標は討伐ですが、依頼者の心情に配慮すると良い評価が得られるでしょう。
・この場所はどういう場所なのか
・依頼者は何を大事にしているのか
・依頼者に身の危険はあるか
以上に注意して行動してみて下さい。
『味方全体の行動把握に全力を注ぐ』
『敵を倒す事に集中する』
『馬車を逃がす事を優先する』
など、最優先する行動を決めて動くと良いかもしれません。
以下、戦場情報です。
【地形】
桜並木の一本道
頭上を桜の枝が覆っています。
道幅は馬車がすれ違える程度です。
左手は山、右手はレンゲの花が広がる平地です。
敵は山側から降りてくるようです。
【敵】
■獣の雑魔■
四足歩行。獣型の黒々とした雑魔。
もはや原型は不明ですが、巨大な虎に近い形です。月之戸の頭が顎の高さに位置するほど大きな相手です。
背は黒光りしていますが、腹側には毛皮が残っています。
走る速度は思ったほど素早くなく、右前脚を気にするように動きます。方向転換や攻撃動作自体は早いです。
巨大な爪と牙を有し、まともに攻撃を受ければ大ダメージは避けられません。
2本ある太い尾はリーチの長い薙ぎ払いを行います。
右の胸元に何か光るものが刺さっているようです。
■周りの雑魔■
コボルドを元にした雑魔のようです。
覚醒者にとって強敵ではありませんが、『獣の雑魔』に集中すると狙ってくるでしょう。
常に5体ほどが現れ、攻撃の機会を狙っています。
【登場NPC】
■月之戸(16)■
舞刀士。リゼリオを拠点に活動するハンター。
青みがかった長い黒髪に銀色の瞳。
右側頭部に半円を描くように一本だけ角が生えている。
妖艶な外見と誠実な雰囲気を兼ね備えた鬼の青年。
基本的に穏やかな人物だが、スイッチが入ると何をするか分からない面がある。
剣の腕は悪くないが、冷静さを失い無謀な行動に出ているようだ。
■御者■
非戦闘員のおじさん。
4頭立ての馬車を操っている。
マスターより
はじめましてとこんにちは。
新人マスターの赤羽 青羽です。
『中ボス戦』です。
桜の梢が揺れる中、大きな敵と対峙します。少々危険な任務です。
皆さんは馬車で移動中、今回の件に遭遇します。
敵を倒す以外にも、どう戦うかが重要になります。
どのような気持ちをもって行動をとるかで結末が変化します。
戦闘後、ここにどんな風景が広がっているか想像しながら戦うと良いかもしれません。
新人マスターの赤羽 青羽です。
『中ボス戦』です。
桜の梢が揺れる中、大きな敵と対峙します。少々危険な任務です。
皆さんは馬車で移動中、今回の件に遭遇します。
敵を倒す以外にも、どう戦うかが重要になります。
どのような気持ちをもって行動をとるかで結末が変化します。
戦闘後、ここにどんな風景が広がっているか想像しながら戦うと良いかもしれません。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2017/04/10 23:11
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/31 11:54:24 |
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桜の追憶・敵討ち編 ディーナ・フェルミ(ka5843) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/04/02 06:10:38 |