• 戦闘

血とアギトの花

マスター:須崎なう

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2017/06/14 22:00
リプレイ完成予定
2017/06/23 22:00

オープニング

●愉悦と正義の幻惑
 待ち遠しかった給料日を迎えた痩身の青年――ウィルズは、最愛の妹へのプレゼントを片手に、息を切らしながら路地裏を走っていた。
 両親が他界して三年。男手一つで二人分の食い扶ちを稼ぎ日々を送っていた彼にとって、妹は生きる意味に等しい存在だ。そんな妹の誕生日が迫っている、とあればプレゼントを手にしたウィルズがはしゃいで走りまわっても不自然ではない、と思うだろう。
 しかし、少なくともこのときは違っていた。
「――――はっ、はっ、はっ……」
 迷路のように入り組んだ路地裏を走るウィルズは、やがて袋小路へとたどり着く。何かに足を取られて転び、その手に抱えた妹へのプレゼントが宙を舞った。
「なっ、何が目的なんだ君たちは……っ!」
 身体を起こしながら振り返って、叫ぶ。
 地面に落ちたプレゼントを追跡者三人のうちの一人が乱暴に掴んだ。
「いやねェ、アンチャンが良さそうな物持ってぷらぷら歩いてるからさァ」
「さ、触るな! それは妹のためにグガッ!」
 男の拳がウィルズの腹部にめり込んだ。
「えー? よく聞こえなーいなァ」
 痛む腹を抱えて蹲るウィルズを他所に、リーダー格の男がプレゼントの包装紙を破り捨てる。中にあったのはウサギのぬいぐるみだった。
「ハ? なんだよこれ、いらね」
 無造作に地面に落としたぬいぐるみを、男が上から踏みつける。
(――ああ、またなのか。また、お前たちが踏み躙るのか……!)
 この街の治安はお世辞にも良いとは言えない。いや、最悪だと言える。
 そもそもウィルズの両親が死んだのも、元はこの男のようなチンピラが両親の職場を襲ったのが原因だった。
 両親の死を知ったとき、ウィルズは善良な人間として生きても損をするだけだと知った。
 それでも堅実に生きてきたのは、兄として曲げられないものがあったからだ。
 だがここに来て、理不尽を前にして、ウィルズの意思に明確な陰りが射し始める。
「しゃーねェな。とりあえずアンチャンや、脱げ。持ってるモン全部置いてってもらおうか。なぁに安心していいぜェ、ここじゃあどれだけ泣いても叫んでも、誰にも聞こえねぇからなァ。おいお前ら、両腕押さえと、け……や?」
 振り返ると、後ろにいたはずの二人が、いない。
 その代わりに、ぐしゃぬちゃ、ぐしゃぬちゃという何かを咀嚼するかのような水っぽい音が聞こえる。
「なんなんだよ、こりゃぁ……」
 男が壁となって、ウィルズにはその光景が見えない。しかし困惑と恐怖の滲んだ男の声音から、『何かが』がそこにいるのだと確信できた。
「ひ、ひぃ!」
 男は腰を抜かして倒れこみ、そのまま後ずさるようにウィルズの横までやってくる。そこでやっと、男が何に怯えていたのかを知った。
 それは植物だった。しかしそれはただの植物と思えないほど大きい。植物の背丈は、ざっと成人男性の二倍といったところだろうか。花弁があるはずの位置には口のようなものがあり、血で赤く濡れたおぞましい乱杭歯が並んでいた。
 恐怖で動けなくなるほどの光景。その光景を前にして、ウィルズの思考は不気味なほどに澄んでいた。
「……は、ハハ」
 弱弱しく伸ばしたウィルズの手が、隣で怯える男の衣服を掴む。
「ハハ、ハハハハ」
 掴んだ衣服を引っ張ると、立ち上がりかけていた男は呆気なく体勢を崩して転がった。
「……ぁ!?」
 男とウィルズの視線が交差する。しかしそれも一瞬のことで、大口を開いた恐怖が男の胴体に齧り付いた。
「ガァァァ! やっヤメ! やめてくれぇえええエエエ――――!!」
 男の抵抗も空しく、牙を突き立てられた身体から大量の血飛沫が散った。男の身体は小刻みに振動するだけになり、それもすぐに止まった。
 男の身体は乱杭歯の植物に引きずられる形で裏路地の暗がりに隠れる。続いてまたあの、ぐしゃぬちゃという水っぽい音が聞こえた。咀嚼している音の重複から、どうやら植物は一体だけではないようだ。
「アハハハ。アハハハハハ」
 ウィルズはすでに現実を見ていない。その心に残っているのは、受け入れがたい現実への拒絶と、男を手にかけたことで得た全身を満たさんばかりの愉悦感のみ。
 しかし何時までたっても、植物は襲ってこない。
 見るとその植物は地面と繋がっており、どうやら自ら動くことができないらしかった。
「そうか」
 ただ呟く。
「僕は…………助かったのか…………」
 そしてそれが、誤りの始まりだった。

●Happy Birthday
「チクショウ! なんだよこれ! なんなんだよこれぇぇ――――!」
 路地裏に誘い出された男が、断末魔を上げて死んだ。
 あれから五日が経つ。
 あの悲惨な出来事から生還したウィルズは、今日も街の清掃に勤しんでいた。
 業務は簡単だ。街で悪さを働く社会のゴミを噂や金で裏路地に誘導して、あの植物に食わせる。たったのそれだけ。
 自分は正義を執行しているのだ。ゴミがあの植物に喰われるたびに得る快感は、あくまで副次的なものに過ぎない。ウィルズはそう自分に囁く。
(これで、きっと喜ぶはず……)
 ――――ん?
(喜ぶ、とは、誰のことを言ったのだろうか……?)
 何かを忘れている気がした。とても大事な何か……。
 その思考も次の瞬間には霧散する。なぜなら、影が見えたのだ。また路地裏へと誰かが足を踏み入れた。そう、つまりはまたこの街からゴミが一つ消えるということ。
「今日の獲物はこれで最後にしよう」
 そうしたら、あの植物へ続く路地の入り口を封鎖して帰るのだ。
 振り返り、迷い込んだ誰かがちゃんと死んでいるのかの確認へと向かう。
 階段を下りて、狭い道を歩いて、腐臭の漂う裏路地へと歩き、やがて到着する。
「………………ぁぁぁ」
 小さな嗚咽が聞こえた。
 どこからだろう? ウィルズは疑問に思った。あたりに視線を向けても誰もいない。
「……ぁぁ、あああ」
 その声が、自分の喉から発せられていることに、遅れて気づく。
「ああ、……ああああ」
 意識が醒め、現実を迎え入れる。
 路地裏を真っ赤に染める鮮血を。
 鼻が曲がり拉げるほどの悪臭を。
 地獄を体現したかのような光景の中に、
 右半身を失い、虚ろな目から涙を垂れ流す妹を。
「…………ああ、あああ。ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

●兄と妹
 彼は知らなかった。
 帰りの遅くなった兄を心配して、妹が街で兄を探していたことを。
 彼は忘れていた。
 生きる意味とまで言った最愛の妹の誕生日が、今日だったことを。

●依頼
 翌日、ハンターオフィスで一つの依頼が受理された。
 それは、とある街で発生した植物型雑魔の討伐以来だった。

解説

【解説】
 目標:植物型雑魔三体の討伐

 依頼主はウィルズ。妹を失い憔悴しきっている様子だが、オープニングシナリオの内容は自分の犯した過ちを含め、概ねハンターたちに伝えている。

 植物型雑魔について
 ・大きさは成人男性二人分ほど。
 ・攻撃手段は花弁の位置にある口での噛み付き。
 ・酸を吐き飛ばすこともできる。
 ・外見のイメージはマリオのパックンフラワーに近い。
 ・雑魔は移動不能。三体は通路に沿って直線状に並んでおり、同時攻撃される可能性は低いが、無いとまでは言えない。

 フィールドについて
 ・裏路地の幅は一・五メートルから二メートル。迷路のように入り組んでおり、壁は石造り。
 ・夥しい量の血と腐った肉片が雑魔周辺に散乱し、滑りやすくなっている。
 ・昔から路地裏では悪事が横行しており、負のマテリアルがたまりやすくなっていた。

マスターより

 はじめまして。新人マスターの須崎なうと申します。これから、どうぞよろしくお願いします。

 オープニングの目標はシンプルで、植物型雑魔を倒すことです。
 今回のシナリオでは戦いづらい環境に潜む敵をどのようにして討伐するかという点を重視しています。
 また、過ちを犯したウィルズに対し、どう対応するかもリプレイに影響すると思います。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2017/06/22 22:37

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 慈眼の女神
    リシャーナ(ka1655
    エルフ|19才|女性|魔術師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 這い寄る毒
    皐月=A=カヤマ(ka3534
    人間(蒼)|15才|男性|猟撃士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 天使にはなれなくて
    メアリ・ロイド(ka6633
    人間(蒼)|24才|女性|機導師
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/11 11:41:27
アイコン 【相談】駆除について
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/06/14 03:32:49