ゲスト
(ka0000)
それでも尚、世界は巡る
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在10人 / 4~10人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2014/11/12 07:30
- リプレイ完成予定
- 2014/11/21 07:30
オープニング
少年はその日暮らしの毎日を過ごし、食べるだけの日銭を稼いでは友達と騒いで過ごしていた。それもどこかくだらない。と思いつつも他にやることがなくくて、惰性で過ごしていた日々だった。
どこかの誰かが言っていた。そんな世界が一瞬で変わることもあるのだよ。と。
そんな虫のいい話があるものか、あるなら教えてくれよ。などと思ったものだが。
初めて。そう、生まれて初めて。少年は笛の音色に胸をうたれた。
何の曲かなど無学の少年には知る由もなかった。どこかで聞いたようなメロディだが、全く聞いたこともないような。それでいて音色の一つ一つに胸の中に涼風が吹くようだった。長い長い一つの音は聞いているだけで頭の中に何かしらの思い出がよみがえる。短い音が連なると、揺り動かされている気分になった。楽しかった家族との思い出が目蓋の裏側でチラチラと揺れるのはしばらく流したこともない涙が溢れてくるからだろうか。
少年は音色の主を探した。人だかりの向こうだ。少年はその人垣を押し分けて前へ前へと進み、そして出逢った。
それはエルフの女性だった。見た目からしても少年よりは年上のようだった。長い髪の向こうで瞳を閉じて横笛を吹く。流しの楽師とは違うようだった。衣装は地味な旅装束だし、金を集めるような箱も置いていない。
笛の音が止まり、瞳がすぅ、と開いた。そして一瞬だけ少年の瞳とぶつかった。物静かながら、どこか悲しそうな吸い込まれるような翠の瞳に見つめられると一瞬でも、背筋に電撃が走る。
「ご清聴、ありがとう」
エルフの女性は静かに一礼をすると、拍手喝さいの中をまるで何も聞こえていないかのように笛をしまって、人垣を抜けていく。
少年は生息が漏れた。
人は変わる。少年はそれを実感していた。
次の日からもうその日暮らしなどはしなくなった。時間をもてあそぶ友人ともどことなく距離を置くようになった。心の中にいつも彼女の笛の音が響くのだ。あのメロディを思い出すと、茫漠とした時間を過ごすことに罪悪感を覚えるようになった。そして目を閉じては思い返す女性の澄んだ顔。思い返すだけで心臓が高鳴り、胸が苦しくなった。
一時の迷いかとも思った。だが、次の日は夢に出てきたし、その次の日は気が付けば仕事仲間に彼女の話を漏らしていた。その次も、また次の日も。
吟遊詩人が人を誘い、水底へと沈めるローレライという怪物かと真剣に悩むほどだった。
とうとう少年はいてもたってもいられず、酒場へと足を運んで彼女に思い切って声をかけた。
「あの……」
「何かしら?」
言葉を出せただけでも自分がエライと思ったほどだった。だが、彼女が振り返り、たおやかな仕草で少年に相対すると、少年はもう喉が枯れて、言葉一つまともに出せなくなってしまった。それからしばらく。少年は振り絞るようにして声を出した。
「素敵な……曲ですね。あの、オレ、すっごく感動しました……もう世界、ひっくりかえるくらいで。それであの……もう毎日忘れられなくって、曲も、だし、あなたのことも……」
しどろもどろながらも、少年は何とか声を絞り出した。
だが、言葉が進むにつれ、女性の顔は少し陰りを見せた。特に彼女への好意を伝えようとした辺りからだ。
「ありがとう、そう感じてくれる人がいてくれて、とても嬉しいわ。でも私は……ごめんなさい。あなたの気持ちにこれ以上は応えられないわ」
「え……」
「兄ちゃん、止めときな。人を困らせるものじゃない」
店のマスターは何やら困ったような顔をして、割って入って来た。その間を見計らうかのように彼女はするりとその場から立ち去って行った。その一つ一つが彼女には相応しい人間ではない、と言われているような気がして、少年は泣きそうになりつつマスターにその理由を聞こうと食い下がったが、マスターは無下に断る。
どうしてだろう?
何がいけないのか。生まれなのか? それとも俺がだらしない人間だから?
少年は泣きたくなった。今から変われというなら、奴隷にだって、聖導士にだってなる。どんな苦痛にだって耐える。この顔がいかぬというならナイフで削ってやってもいい。人は変われるということを彼女の音色は教えてくれたのだ。
それを見かねたのか唇を血がにじむほどに噛んでいた少年に、一人の酔っ払いが声をかけてきた。
「あんなぁ、レイチェルってのはよ、先日大事な人を亡くしたんだよ。40年の連れ添いらしいぜ? おめぇよ、そんなのに勝てるつもりか? 死んだ人間に勝てるのはゾンビと戦うハンターくらいってもんでねぇ、ック」
「40年……」
人は変われる。一秒もあれば十分に。
彼女は……変われないのか? エルフだから? 何十年もの思いを抱えて生きているから?
「いや、それでもこの気持ちは変われない。ぶつけてみるまで、いいや、実を結ぶまで、変わらないっ!!」
断固とした口調でいう少年に、酔っ払いは酒を煽りつつ、ふぅん? と呟き、まるで値踏みをするかのように、少年をじろじろと見まわした。
「へぇ、言うじゃねえか。んじゃよ。ヒントをやるぁ。その連れ添った男をよ、亡くした時な、レイチェルは後を追おうってしてたらしいぜ。それをハンターってのが止めてな。ああやって、立ち直らせてくれたんだってさ。もしやれるならよ。ハンターに聞いてみな」
「分かった」
ハンターを雇うには目が飛び出るような金額を積まなければならない。
だが、少年はそんな事にはへこたれなかった。毎日勤勉に働き、仕事の数も増やした。楽器や音楽など触れたこともなかったが、少しでも理解できるようになりたいと勉強も始めた。そしてレイチェルには目線を逸らされようとも、酒場には毎日通った。自分は変わったのだ。その自覚が彼を突き動かした。
そしてひと月以上の時間が過ぎて、彼女が次の町に移動すると知った前の日、ようやく少年はハンターオフィスにその依頼を出していた。
「大変、自分勝手な依頼で申し訳ないですが……、レイチェルのことを教えてほしいんです。そしてこの気持ちをちゃんと伝えるように……お願いいたします」
言葉遣いも少し変わった。仲間からは顔付きも変わったと言われた。
40年という積もる思いも彼女にはあるだろう。だけど、後ろ向きにはいて欲しくない。この世界の美しさは過去以上のものがあるのだと、気付いてほしかった。そして伝えたかった。
「ええと……お名前は」
「グイン、です」
その名はレイチェルが40年連れ添った彼と同じ名前だった。
どこかの誰かが言っていた。そんな世界が一瞬で変わることもあるのだよ。と。
そんな虫のいい話があるものか、あるなら教えてくれよ。などと思ったものだが。
初めて。そう、生まれて初めて。少年は笛の音色に胸をうたれた。
何の曲かなど無学の少年には知る由もなかった。どこかで聞いたようなメロディだが、全く聞いたこともないような。それでいて音色の一つ一つに胸の中に涼風が吹くようだった。長い長い一つの音は聞いているだけで頭の中に何かしらの思い出がよみがえる。短い音が連なると、揺り動かされている気分になった。楽しかった家族との思い出が目蓋の裏側でチラチラと揺れるのはしばらく流したこともない涙が溢れてくるからだろうか。
少年は音色の主を探した。人だかりの向こうだ。少年はその人垣を押し分けて前へ前へと進み、そして出逢った。
それはエルフの女性だった。見た目からしても少年よりは年上のようだった。長い髪の向こうで瞳を閉じて横笛を吹く。流しの楽師とは違うようだった。衣装は地味な旅装束だし、金を集めるような箱も置いていない。
笛の音が止まり、瞳がすぅ、と開いた。そして一瞬だけ少年の瞳とぶつかった。物静かながら、どこか悲しそうな吸い込まれるような翠の瞳に見つめられると一瞬でも、背筋に電撃が走る。
「ご清聴、ありがとう」
エルフの女性は静かに一礼をすると、拍手喝さいの中をまるで何も聞こえていないかのように笛をしまって、人垣を抜けていく。
少年は生息が漏れた。
人は変わる。少年はそれを実感していた。
次の日からもうその日暮らしなどはしなくなった。時間をもてあそぶ友人ともどことなく距離を置くようになった。心の中にいつも彼女の笛の音が響くのだ。あのメロディを思い出すと、茫漠とした時間を過ごすことに罪悪感を覚えるようになった。そして目を閉じては思い返す女性の澄んだ顔。思い返すだけで心臓が高鳴り、胸が苦しくなった。
一時の迷いかとも思った。だが、次の日は夢に出てきたし、その次の日は気が付けば仕事仲間に彼女の話を漏らしていた。その次も、また次の日も。
吟遊詩人が人を誘い、水底へと沈めるローレライという怪物かと真剣に悩むほどだった。
とうとう少年はいてもたってもいられず、酒場へと足を運んで彼女に思い切って声をかけた。
「あの……」
「何かしら?」
言葉を出せただけでも自分がエライと思ったほどだった。だが、彼女が振り返り、たおやかな仕草で少年に相対すると、少年はもう喉が枯れて、言葉一つまともに出せなくなってしまった。それからしばらく。少年は振り絞るようにして声を出した。
「素敵な……曲ですね。あの、オレ、すっごく感動しました……もう世界、ひっくりかえるくらいで。それであの……もう毎日忘れられなくって、曲も、だし、あなたのことも……」
しどろもどろながらも、少年は何とか声を絞り出した。
だが、言葉が進むにつれ、女性の顔は少し陰りを見せた。特に彼女への好意を伝えようとした辺りからだ。
「ありがとう、そう感じてくれる人がいてくれて、とても嬉しいわ。でも私は……ごめんなさい。あなたの気持ちにこれ以上は応えられないわ」
「え……」
「兄ちゃん、止めときな。人を困らせるものじゃない」
店のマスターは何やら困ったような顔をして、割って入って来た。その間を見計らうかのように彼女はするりとその場から立ち去って行った。その一つ一つが彼女には相応しい人間ではない、と言われているような気がして、少年は泣きそうになりつつマスターにその理由を聞こうと食い下がったが、マスターは無下に断る。
どうしてだろう?
何がいけないのか。生まれなのか? それとも俺がだらしない人間だから?
少年は泣きたくなった。今から変われというなら、奴隷にだって、聖導士にだってなる。どんな苦痛にだって耐える。この顔がいかぬというならナイフで削ってやってもいい。人は変われるということを彼女の音色は教えてくれたのだ。
それを見かねたのか唇を血がにじむほどに噛んでいた少年に、一人の酔っ払いが声をかけてきた。
「あんなぁ、レイチェルってのはよ、先日大事な人を亡くしたんだよ。40年の連れ添いらしいぜ? おめぇよ、そんなのに勝てるつもりか? 死んだ人間に勝てるのはゾンビと戦うハンターくらいってもんでねぇ、ック」
「40年……」
人は変われる。一秒もあれば十分に。
彼女は……変われないのか? エルフだから? 何十年もの思いを抱えて生きているから?
「いや、それでもこの気持ちは変われない。ぶつけてみるまで、いいや、実を結ぶまで、変わらないっ!!」
断固とした口調でいう少年に、酔っ払いは酒を煽りつつ、ふぅん? と呟き、まるで値踏みをするかのように、少年をじろじろと見まわした。
「へぇ、言うじゃねえか。んじゃよ。ヒントをやるぁ。その連れ添った男をよ、亡くした時な、レイチェルは後を追おうってしてたらしいぜ。それをハンターってのが止めてな。ああやって、立ち直らせてくれたんだってさ。もしやれるならよ。ハンターに聞いてみな」
「分かった」
ハンターを雇うには目が飛び出るような金額を積まなければならない。
だが、少年はそんな事にはへこたれなかった。毎日勤勉に働き、仕事の数も増やした。楽器や音楽など触れたこともなかったが、少しでも理解できるようになりたいと勉強も始めた。そしてレイチェルには目線を逸らされようとも、酒場には毎日通った。自分は変わったのだ。その自覚が彼を突き動かした。
そしてひと月以上の時間が過ぎて、彼女が次の町に移動すると知った前の日、ようやく少年はハンターオフィスにその依頼を出していた。
「大変、自分勝手な依頼で申し訳ないですが……、レイチェルのことを教えてほしいんです。そしてこの気持ちをちゃんと伝えるように……お願いいたします」
言葉遣いも少し変わった。仲間からは顔付きも変わったと言われた。
40年という積もる思いも彼女にはあるだろう。だけど、後ろ向きにはいて欲しくない。この世界の美しさは過去以上のものがあるのだと、気付いてほしかった。そして伝えたかった。
「ええと……お名前は」
「グイン、です」
その名はレイチェルが40年連れ添った彼と同じ名前だった。
解説
少年グイン(以下、小グイン)の気持ちをレイチェルに伝えて上げる手伝いをしてあげてください。
できることなら、彼女への恋情も成就してあげることが最適です。
レイチェルは長年連れ添った人間の男性グイン(以下、大グイン)と死に別れて、後追い自殺を図ったほどでしたが、ハンター達の説得で思いとどまりました(拙作「それでも世界は尚、美しい」より)
その後、大グインとの思い出の地を巡る旅に出たところで、小グインと出会います。
自殺するほど世を儚むことはなくなりましたが、レイチェルは依然として大グインのことを想っています。
●レイチェル
非覚醒者だが一応ハンター登録もしている。エルフ(100才手前)。横笛メインの楽師。
●大グイン
人間。有名な吟遊詩人。70才くらいで老衰で他界。40年前に世の中退屈だと思い込んでいたレイチェルに音楽で世界の喜びを伝えた。以後、40年連れ添う。
●小グイン
人間。15才くらい。世の中退屈だと思い込んでいたがレイチェルに音楽で世界の喜びを伝えられた。
できることなら、彼女への恋情も成就してあげることが最適です。
レイチェルは長年連れ添った人間の男性グイン(以下、大グイン)と死に別れて、後追い自殺を図ったほどでしたが、ハンター達の説得で思いとどまりました(拙作「それでも世界は尚、美しい」より)
その後、大グインとの思い出の地を巡る旅に出たところで、小グインと出会います。
自殺するほど世を儚むことはなくなりましたが、レイチェルは依然として大グインのことを想っています。
●レイチェル
非覚醒者だが一応ハンター登録もしている。エルフ(100才手前)。横笛メインの楽師。
●大グイン
人間。有名な吟遊詩人。70才くらいで老衰で他界。40年前に世の中退屈だと思い込んでいたレイチェルに音楽で世界の喜びを伝えた。以後、40年連れ添う。
●小グイン
人間。15才くらい。世の中退屈だと思い込んでいたがレイチェルに音楽で世界の喜びを伝えられた。
マスターより
レイチェルの立場に立つか、小グインの立場に立つかでシナリオの展開は大きく変わってきます。そしてどちらに思い入れを持つかも人によってことなるでしょう。(どちらにせよ成功判定は依頼者である小グインの立場から決定しますので悪しからずご了承ください)
ただし、参加者同士で話がかみ合わず、方向性がバラバラですと、当人たちもきっと困ることになるので、方向性だけは決めておいてください。
運命は巡ります。時の歯車と共に。
ただし、参加者同士で話がかみ合わず、方向性がバラバラですと、当人たちもきっと困ることになるので、方向性だけは決めておいてください。
運命は巡ります。時の歯車と共に。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2014/11/20 03:43
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/08 22:01:08 |
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相談卓 ルシオ・セレステ(ka0673) エルフ|21才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/11/12 02:36:36 |