• 日常

見えない闇、見えない光

マスター:DoLLer

このシナリオは5日間納期が延長されています。

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 3~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2017/10/12 15:00
リプレイ完成予定
2017/10/26 15:00

オープニング

 爆竹が破裂するような音だった。
 そんな胸を打つ音を間近で耳にし、硝煙が立つ拳銃を前にして、さらには頬を電撃のような衝撃と焼けつく痛みがかすめたとしても青年は身じろぎ一つしなかった。
 それどころかそのリボルバーを向けた女に対して怖れもなく、また敵意も見せないように静かに近づいていく。
「あ、あ、あぁ……」
 女が撃ったことを後悔しているのは震える手と瞳ですぐわかった。
 そしてそれでも発砲しなければいけないような状態であることも。
「大丈夫、もう歪虚はいないよ」
 青年は跪いた後、撃鉄の間に骨ばった指を挟んで暴発するのを抑えながら、さしたる力もこめずに銃とその手を床に向けてやりながら囁いた。
「ああ、ああ」
「大丈夫、君は何も悪くない。何も問題ない」
 震えが大きくなる女に囁き続けた。
 混乱する彼女にそう呼びかけるのは、もう何十回目だろうか。昨日は落ち着きを取り戻すのに1時間以上かかった。その前の日も、更にその夜も。その間ずっとそうして囁き続けたのだから言葉として数えれば千など容易に越えてしまう。
「歪虚が……襲ってくるの」
 かすれた声で女が囁いた。
「君が倒した。もう全部終わったんだよ」
 彼女の瞳の中に映っているのは自分ではなく、もはや過去となった戦禍の光景だ。そんな中を彼女は歯を食いしばって、心に鞭うって、あらゆるものを犠牲にして……勝利し、帰ってきた。
 その代償は、覚めない悪夢。
「ここは君の家だ。誰も襲ってこない」
 彼女はそれには答えなかった。
 頭では当にそんなこと理解しているのだ。ハンターを辞めて戻ってきた街だ。目の前にいるのが自分が帰ってくるまで待ってくれていた恋人であることも。
「闇に乗じて……来るのよ。人の皮を被ってやって来るのよ」
「来ないよ。ほら、僕の血は温かいだろう?」
 青年は銃を握っていた手に自分の手を重ね合わせて囁いた。
 そうして何度も何度も彼女の疑念に大丈夫と言い続けて、母親のようにしてその背をさすってやり、揺りかごのように身体を押してやって数刻。張り詰めた心の糸がようやく緩んだのか、彼女は青年の腕の中でようやく寝息を立て始めた。
 ベッドに戻すべく持ち上げても良かったが、それではまた彼女が飛び起きてしまうだろうと、青年はそのままシーツを手繰り寄せて彼女を包むとそのまま壁にもたれかけさせた。
 そして青年は窓から覗く遅めの月光をぼんやりと見上げた。
「いつになったら終わるか、な……」
 月影に浮かぶ青年の眼窩は落ちくぼみ、頬から顎にかけたラインは皺がより凹凸がはっきりと浮かび上がっていた。
 この人の為なら死んでもいい。
 彼女と再会した日に口にしたそんな歯の浮くようなセリフにも、今は甘い恋愛小説では味わう事のない底知れぬ闇を感じていた。


「ねぇ、もう……いいのよ」
 切り出したのは女の方からだった。
 外は明るいのだろう、時折戸板の隙間から漏れる風に合わせて秋風が光を運んでくれると彼女のクマのできてたるんだ下目蓋に支えられるように、サファイヤのような目が一際輝いた。
「私は迷惑でしかない。何度目を閉じても、何度目覚めても、私の心は戦場から帰ることができないのよ。戦友みんな置き去りにして一人生きた罰なんだから」
「みんなが命を託してくれたおかげで今があるんだろ。なのに君まで死んだら仲間の気持ちはどうなるんだ」
 ほとんど条件反射のように青年はそう口にしたものの、言葉に力は無かった。たった数か月、彼女の悪夢につきあって眠れぬ日々を送っただけで、情けないほどにこの身体は言う事を聞かなくなったからだ。
 虚ろな彼を見て、女は輝いた瞳から大粒の涙をこぼして彼の手を握りしめた。
「近くない未来、絶対に貴方を殺してしまう。今度こそ錯乱した私は歪虚と間違えて撃ってしまうかもしれない。私を慰撫する為に疲弊していく貴方の顔を、見るのが辛い。そうでなくても……どうしようもない私を、好きでいてくれなくなってしまう」
 堪えるようにして女の握る手に力がこもり、爪が食い込むのが分かった。
「貴方の為に戦うって決めたのに、貴方を殺してしまったなら……私の生は意味がなくなってしまう。だから……ね?」
「……うん」
 壁にもたれかかったままの青年はぼんやりと女の言葉に頷くしかできなかった。
 そしてそのままその手に愛用の銃を一つ握らされることも。
 どうしようもないのだろうか。
 彼女の言葉をぼんやりと聞きいりながら、青年は天を仰いだ。戸板の隙間から漏れる光がまるで後光のように見える。
 外では精霊が待ってくれているのだろうか、それともエクラの教える精霊がいるのだろうか。そんなことが頭の中を駆け巡っていると、ふと、青年の瞳に輝きが戻った。
 そして彼は握らされた銃を持って彼女に返した。
「そうだね。終わりにしよう。意地張っていたけど……無理だったよ。僕は非力な人間だった」
 その言葉に女は、懺悔に満ち溢れた顔をすると、宝石のような瞳と唇を引き絞って閉じた。
 青年はそのまま銃をゆっくり持ち上げると、女の手がはらりと外れる。そこまで来て青年は抜けきってしまった力を腕にかき集めると、そのまま狙いをしっかりと定めて引き金を引いた。

 爆竹が破裂するような音だった。
 そんな胸を打つ音を間近で耳にし、硝煙が立つ拳銃を前にして、さらには頬に火の粉のような衝撃と焼けつく光がかすめたとしても女は驚くしかなかった。
 光を閉ざしていた窓の戸板の留め金が吹き飛び、朝日が顔をうったのだから。
 信じられないような顔をする女に対して、青年は深く息を吐き出して、ゆっくりと笑顔を作った。
「助けてって、言おう。この世界は僕と君だけのものじゃないんだから」
 外れた窓からは闇を切り裂くような強い光が差し込み、闇にうずくまる二人を照らしてくれた。

解説

元ハンターの女性がいます。彼女は苛烈な戦場体験から日常生活も送れないような状態となっています。
彼女が一般的な日常生活を送ることができるようにすることが目的です。

基本情報
名前 ステラ
年齢 20代後半
職業 闘狩人
症状 幻覚(歪虚が見える、戦友の断末魔が聞こえるなど)、強迫観念(常に命を狙われている、訪人は歪虚が変装しているなど)
   ひどくなると錯乱し、覚醒して攻撃することもある。睡眠は極めて浅くちょっとのことで目が覚める。食事もほとんどとれない。
※実際には歪虚がいるなどは確認されていません。

依頼人はOPの青年
名前 ソルト 一般人 20代半ば。

一部のバッドステータスを回復するスキルを使えば、一時的に問題ない状態に戻りますが、徐々に現状に戻っていきます。
彼女がどんな戦場にいて、どんな体験をしたのかはオープニングの文章以上は明らかにしませんので、各自だいたい想像で補完してください。(想像に任せた結果、各位の行動に齟齬があったとしても、その意を汲んでできる限り補正いたします)

マスターより

ファナティックブラッドの世界を想うと、私は何故か落伍していく人達のことを考えてしまいます。
破滅を前に抗い続ける世界だからこそ、どんどんと道から外れていく人たちの姿を思い描いてしまうのです。
皆様のPCはきっとそれでも前を向いて歩いているのです。

そんな観点でお話を作らさせていただきました。
質疑応答は残念ながらできませんので、参加者各位のお気持ちに結果を委ねたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2017/10/21 19:07

参加者一覧

  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 不空の彩り手
    アシェ・ブルゲス(ka3144
    エルフ|19才|男性|魔術師
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 唯一つ、その名を
    Holmes(ka3813
    ドワーフ|8才|女性|霊闘士
依頼相談掲示板
アイコン 日常を取り戻すために(相談卓)
クレール・ディンセルフ(ka0586
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/10/11 18:42:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/08 20:16:30