ゲスト
(ka0000)
演想──獣道を踏む
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在5人 / 3~5人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2018/01/12 07:30
- リプレイ完成予定
- 2018/01/21 07:30
オープニング
「……。悪くなかったと、思うよ」
何かを言いかけてから、言い直した。そんな間があった。
「悪くなかった、ですか」
「よかったよ、って言おうと思ったんだ。でも君が満足しきっていないようだったから」
「……。納得は、してるんですけどね。やると決めたからには、全力は尽くしてきた……つもりです」
「うん。僕から見てもちゃんと納得させられるものだと思ったよ。この状況と環境でよくやったもんだなあと思うよホント」
それが。
本番前の最後の通し稽古を終えての、二人の役者の感想だった。
状況と環境。一人がそう告げたとき、もう一人──伊佐美 透(kz0243)──は少し肩を落としながら苦笑した。
異世界に転移し、力を得てハンターとして戦ってきたという特異な経験を経た者たち。あるいは、異世界それ自体の住人。さらには人とは異なる知的生命体。これらの存在をリアルブルーにおいて発信していきたい、という想いによってこの企画は立案された。
だが現在。クリムゾンウェストにその存在を根ざしていると言っていいハンターがリアルブルーで、計画的な活動を行うのは難しい。現状においては個人の都合に過ぎないわけで、理由もなく転移門がつかえるわけもない。
本番前の最後の稽古、といったが、本公演において、透を含めた通し稽古は実質これ一回きり。……それまでは、リアルブルー側における稽古は、目の前の役者が代役となって行っていた。
実質、ぶっつけ本番みたいなもので、まあ、かなりの無茶である。透が、そして、企画主である中橋源二が進もうとする先はまだ誰も踏み分けたことがない場所だ。
「『おかえり』、って、言うのはまだ早いのかなあ」
相手の言葉に、透は目を細めた。おかえり。その言葉は、確かに胸に染みた。舞台。客席。楽屋。それから、いつかまた共演出来たらいいねとかつて笑いあった存在。ああそうだ。帰りたいと望み続けてきたのは、ここだ。そして、だからこそ痛烈に感じている。足りない、と。
「……ちゃんと、戻ってきたいです。いつか必ず。……なるべく早く」
だからこそ、道なき道を行く決意をしたのだ。力づくでも進めば獣道ができるかもしれないと願って。
●
ところで、今回の企画においてハンターをこちらに呼ぶ──転移門を使用するためには、やはりそれなりに方便は必要だった。彼一人を移動させるためだけにというのはやはり、理由として苦しいものがあるからだ。だから今回。神奈川県内のとある小劇場で行われるこの劇において、ハンターオフィスには正式に依頼が出されていた。
鎌倉クラスタの影響をかんがみて、万が一のための警備要員として、ハンターの派遣をお願いしたい、と。
……それが通るということはつまり、実際、それがありえるという程度に鎌倉クラスタの脅威はまだリアルブルー側にとって消えきっていない、ということでも、ある。
「──……え」
幕が上がった劇のさなか。台詞の途中で透が発した声は。見せた動きは、明らかにイレギュラーなものだった。
公演中は消されているはずの非常灯、そして客席に明かりがともされたことで、観客たちにもはっきりと異常が周知される。
……やがて、劇の中断がアナウンスされる。県内にVOIDの出現が確認された。現在、ここは避難地域とはされていないが、状況の推移を確認し判断が必要になるかもしれないので一度公演をとめる、と。
客席からは、さまざまな想いがざわめきとなって漏れた。戸惑い。不満。不安。そのほとんどが……自分へと向かっていることを、透は意識した。
気圧されそうになりながら、踏みとどまる。演目は中断された。だが、まだ、幕は下りていない。自分は舞台の上にいる。この空気の中で、彼の意識はまだ、役者だった。リテイクが利かない生の舞台上、アドリブが求めれるアクシデントなんていつだって起こりえる。観客の視線を受けながら、咄嗟に、何をすべきなのか考えていた。彼らが透に期待を向けるのは、彼らが認識しうる唯一のハンターだからこそ、なのだろう。危機を打破しうる、希望の存在。それが分かって……自分は今、何を演じるのか。不安を取り除き、落ち着かせるために、何を言えばいい。たとえば堂々たる英雄を見せれば、彼らは安心するだろうか。だが。
もうひとつ、浮かび上がる想いがある。何を演じるべきかではなく、何を演じたいのか。なんになるために、自分はここに来た。ここまで、来た。その道のり。
「皆さん……──」
客席に向き直り、透は静かに歩み出た。
「これまでの、マナーのある観劇に感謝いたします。……そして、どうかそのまま、私たちに力を貸してください。
まもなく、我々の仲間が討伐に向かうことでしょう。どうか、彼らを信じてください。
他人にゆだねて、ただ待っているというのがどれほど恐ろしいことかは分かっています。だからこそ、任せろ、とは言いません。どうか、信じる、という形で、共に闘ってほしい。それがきっと、私たちの力になる。
これはあくまで渡し個人の想いですが。私は、全てを護り、導くことができるとは思っていません。この世界の一員として。共に歩むために、ここにいます──だからどうか、今、力を貸してください。静かに、信じて、待っていてほしい」
英雄になるのではなく。ヒーローとしてではなく、自分を見せたい。元の住人として、受け入れてほしい。それが自分が見せたいもので目指したいゴールだから、胸を張るのではなく、頭を下げて、望む。……それがこの場で正しいのかは、分からないと自覚しながら。
●
「ふぅーん……」
客席の中でもいわゆる関係者が集められる一角で声を上げたのは、40代ほどに見える女性だった。
「まあ、リスキーな企画ではあるのよね。公演日数や時間がろくに幅を持たせられないんだから。今は中断ってなってるけど、このまま中止になったら、また企画が立ち上がるもんかしら」
淡々とした口調は、どうでもよさそうに見せようとしている、そんなわざとらしさがあった。
「ここで。異世界の住人の話をリアルブルーの役者に聞かせて演じさせるだけじゃなくて。そいつにしか表現し得ないものを持ってると見せてやれなきゃ、たぶん次はない。正直、あたしはあんまり期待してなかったんだけどねー……一応、最後まで見てみたくはなった、かな」
だから頼むわね、と、同じく関係者席に集められていたハンターたちを見送って、女性はつぶやく。
「……もし無事再開できて、ブランク置いてもまだましな演技見せるようならまあ、後で楽屋にどんな面下げてくるか見に行っては、やるか」
何かを言いかけてから、言い直した。そんな間があった。
「悪くなかった、ですか」
「よかったよ、って言おうと思ったんだ。でも君が満足しきっていないようだったから」
「……。納得は、してるんですけどね。やると決めたからには、全力は尽くしてきた……つもりです」
「うん。僕から見てもちゃんと納得させられるものだと思ったよ。この状況と環境でよくやったもんだなあと思うよホント」
それが。
本番前の最後の通し稽古を終えての、二人の役者の感想だった。
状況と環境。一人がそう告げたとき、もう一人──伊佐美 透(kz0243)──は少し肩を落としながら苦笑した。
異世界に転移し、力を得てハンターとして戦ってきたという特異な経験を経た者たち。あるいは、異世界それ自体の住人。さらには人とは異なる知的生命体。これらの存在をリアルブルーにおいて発信していきたい、という想いによってこの企画は立案された。
だが現在。クリムゾンウェストにその存在を根ざしていると言っていいハンターがリアルブルーで、計画的な活動を行うのは難しい。現状においては個人の都合に過ぎないわけで、理由もなく転移門がつかえるわけもない。
本番前の最後の稽古、といったが、本公演において、透を含めた通し稽古は実質これ一回きり。……それまでは、リアルブルー側における稽古は、目の前の役者が代役となって行っていた。
実質、ぶっつけ本番みたいなもので、まあ、かなりの無茶である。透が、そして、企画主である中橋源二が進もうとする先はまだ誰も踏み分けたことがない場所だ。
「『おかえり』、って、言うのはまだ早いのかなあ」
相手の言葉に、透は目を細めた。おかえり。その言葉は、確かに胸に染みた。舞台。客席。楽屋。それから、いつかまた共演出来たらいいねとかつて笑いあった存在。ああそうだ。帰りたいと望み続けてきたのは、ここだ。そして、だからこそ痛烈に感じている。足りない、と。
「……ちゃんと、戻ってきたいです。いつか必ず。……なるべく早く」
だからこそ、道なき道を行く決意をしたのだ。力づくでも進めば獣道ができるかもしれないと願って。
●
ところで、今回の企画においてハンターをこちらに呼ぶ──転移門を使用するためには、やはりそれなりに方便は必要だった。彼一人を移動させるためだけにというのはやはり、理由として苦しいものがあるからだ。だから今回。神奈川県内のとある小劇場で行われるこの劇において、ハンターオフィスには正式に依頼が出されていた。
鎌倉クラスタの影響をかんがみて、万が一のための警備要員として、ハンターの派遣をお願いしたい、と。
……それが通るということはつまり、実際、それがありえるという程度に鎌倉クラスタの脅威はまだリアルブルー側にとって消えきっていない、ということでも、ある。
「──……え」
幕が上がった劇のさなか。台詞の途中で透が発した声は。見せた動きは、明らかにイレギュラーなものだった。
公演中は消されているはずの非常灯、そして客席に明かりがともされたことで、観客たちにもはっきりと異常が周知される。
……やがて、劇の中断がアナウンスされる。県内にVOIDの出現が確認された。現在、ここは避難地域とはされていないが、状況の推移を確認し判断が必要になるかもしれないので一度公演をとめる、と。
客席からは、さまざまな想いがざわめきとなって漏れた。戸惑い。不満。不安。そのほとんどが……自分へと向かっていることを、透は意識した。
気圧されそうになりながら、踏みとどまる。演目は中断された。だが、まだ、幕は下りていない。自分は舞台の上にいる。この空気の中で、彼の意識はまだ、役者だった。リテイクが利かない生の舞台上、アドリブが求めれるアクシデントなんていつだって起こりえる。観客の視線を受けながら、咄嗟に、何をすべきなのか考えていた。彼らが透に期待を向けるのは、彼らが認識しうる唯一のハンターだからこそ、なのだろう。危機を打破しうる、希望の存在。それが分かって……自分は今、何を演じるのか。不安を取り除き、落ち着かせるために、何を言えばいい。たとえば堂々たる英雄を見せれば、彼らは安心するだろうか。だが。
もうひとつ、浮かび上がる想いがある。何を演じるべきかではなく、何を演じたいのか。なんになるために、自分はここに来た。ここまで、来た。その道のり。
「皆さん……──」
客席に向き直り、透は静かに歩み出た。
「これまでの、マナーのある観劇に感謝いたします。……そして、どうかそのまま、私たちに力を貸してください。
まもなく、我々の仲間が討伐に向かうことでしょう。どうか、彼らを信じてください。
他人にゆだねて、ただ待っているというのがどれほど恐ろしいことかは分かっています。だからこそ、任せろ、とは言いません。どうか、信じる、という形で、共に闘ってほしい。それがきっと、私たちの力になる。
これはあくまで渡し個人の想いですが。私は、全てを護り、導くことができるとは思っていません。この世界の一員として。共に歩むために、ここにいます──だからどうか、今、力を貸してください。静かに、信じて、待っていてほしい」
英雄になるのではなく。ヒーローとしてではなく、自分を見せたい。元の住人として、受け入れてほしい。それが自分が見せたいもので目指したいゴールだから、胸を張るのではなく、頭を下げて、望む。……それがこの場で正しいのかは、分からないと自覚しながら。
●
「ふぅーん……」
客席の中でもいわゆる関係者が集められる一角で声を上げたのは、40代ほどに見える女性だった。
「まあ、リスキーな企画ではあるのよね。公演日数や時間がろくに幅を持たせられないんだから。今は中断ってなってるけど、このまま中止になったら、また企画が立ち上がるもんかしら」
淡々とした口調は、どうでもよさそうに見せようとしている、そんなわざとらしさがあった。
「ここで。異世界の住人の話をリアルブルーの役者に聞かせて演じさせるだけじゃなくて。そいつにしか表現し得ないものを持ってると見せてやれなきゃ、たぶん次はない。正直、あたしはあんまり期待してなかったんだけどねー……一応、最後まで見てみたくはなった、かな」
だから頼むわね、と、同じく関係者席に集められていたハンターたちを見送って、女性はつぶやく。
「……もし無事再開できて、ブランク置いてもまだましな演技見せるようならまあ、後で楽屋にどんな面下げてくるか見に行っては、やるか」
解説
OPに記述のとおり、神奈川県内にてイベントを催すにあたり、護衛として依頼を受けたという形で皆さんは集められたハンターとなります。
危惧のとおりに(?)非常事態が起きましたので、現場に急行して事態を収拾してください。
VOIDが確認された現場までの移動手段は確保されています。
場所はクラスタの被害は受けつつも比較的建物が破壊されずに残っている一角で、周辺に住民はいません。
●敵
絹光沢のあるデッサン人形のような白い人型の敵。
長剣を手にしたもの、小剣を手にしたもの、拳銃を手にしたものがおのおの二体ずつ計六体が確認されています。
【界冥】クラスタ包囲・東側白兵戦で確認されたのと同様の敵ですが、あのときほど学習はされていない模様。
ただ、それゆえにバラけて動いているので住宅街を索敵しつつの撃破が必要とされます。
強敵ではありませんが、時間をかけすぎたり人が暮らす地域に近づけすぎたりするとシナリオの結末が変化します。
危惧のとおりに(?)非常事態が起きましたので、現場に急行して事態を収拾してください。
VOIDが確認された現場までの移動手段は確保されています。
場所はクラスタの被害は受けつつも比較的建物が破壊されずに残っている一角で、周辺に住民はいません。
●敵
絹光沢のあるデッサン人形のような白い人型の敵。
長剣を手にしたもの、小剣を手にしたもの、拳銃を手にしたものがおのおの二体ずつ計六体が確認されています。
【界冥】クラスタ包囲・東側白兵戦で確認されたのと同様の敵ですが、あのときほど学習はされていない模様。
ただ、それゆえにバラけて動いているので住宅街を索敵しつつの撃破が必要とされます。
強敵ではありませんが、時間をかけすぎたり人が暮らす地域に近づけすぎたりするとシナリオの結末が変化します。
マスターより
三が日で何とかするといってぎりぎりまでかかってこのざまです凪池シリルです。
ここまで書きたいことに詰まるスランプは久々というかもしかして初めてかもしれません。才能の枯渇におびえつつ舞ってくれる人がいるかもしれないと信じて──! 皆様の暖かいご参加お待ちしております。ぐへえ。
ここまで書きたいことに詰まるスランプは久々というかもしかして初めてかもしれません。才能の枯渇におびえつつ舞ってくれる人がいるかもしれないと信じて──! 皆様の暖かいご参加お待ちしております。ぐへえ。
関連NPC
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2018/01/20 09:40
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/08 14:52:19 |
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![]() |
相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/01/11 16:07:42 |
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![]() |
質問卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/01/11 16:51:43 |