●水辺にて
　大きな河から枝分かれしてできた小さな川が行き止まってできる小さな池。大人は子どもたちに言う。近づいたらいけないよ。落ちたら溺れてしまうからね、と。そうは言っても、子どもにだって池に行きたい理由はある。
　この日、12歳のブルーノと8歳のルチアの兄妹は、兄が作った小型の船を浮かべるために池にやって来た。洗面台やお風呂だけでは物足りなかったのだ。
「ママには内緒」
「わたしたちだけの秘密ね！」
　そう言って、手を繋いでやって来たふたりは、ブルーノの自信作を池に浮かべて遊んでいた。彼がひっそりと夜更かしをして作っていたその船は、大きさを比較するものさえなければ、本物の船であるかのように堂々と水面を滑っていく。
「お兄ちゃんすごいわ！　本当のお船みたい」
「ありがとう。いつか本当の船を作りたいんだ」
　妹の賛辞を、兄は素直に受け取った。照れて頭を掻く兄の表情が、ふと強ばる。妹も同じものを見て、兄にしがみついた。
　池の中から、白く、骨張った手が水を滴らせながら現れた。その手は、ブルーノが何週間もかけて作った力作の船を、まるでゴミでも片付けるかのようにわしづかみにして水の中に沈めていく。
「お兄ちゃんの船が！」
「だめだルチア！　ヴォイドに違いない！　ママたちにしらせないと！」
　もう、内緒だと言っている場合ではなかった。池に駆け寄ろうとする妹を押しとどめながら、それでも船が惜しくて池を見たブルーノは悲鳴を上げた。
　落ちくぼんだ眼窩の、色の白い人によく似たものが、池から顔を出していたのだ。池の表面には、その下になにかが泳いでいるかのように水が動いている。
（雑魔が何体かいる！）
　ブルーノは妹の手を引いて一目散に逃げ出した。

●ハンターオフィスにて
「本物の船であれば、大惨事だった」
　オフィスでハンターたちに事件のあらましを説明した職員はため息を吐いた。
「いや、そうは言っても力作だったらしいから、ブルーノくんにとっては間違いなく大惨事だろうね。今のところ、雑魔はその1体しか確認されていない。だが油断はしないでくれ」
　職員は紙に書かれた雑魔の絵をハンターたちに見えるように掲げた。ブルーノとルチアが描いた雑魔のイラストだ。
「こいつがその雑魔だ。おもちゃとは言え船一隻沈める凶悪な奴だよ。くれぐれも気をつけて」

●目的
小さな池に出た雑魔を討伐してください。

●敵情報
雑魔：3体
外見（共通）
・全身が薄い色をしており、やせ細った人間のような姿をしています。水の中にいますが、水辺に動くものが現れると出てきます。OP文章では水に浮かぶ船を沈めただけでしたが、陸に上がることも可能です。その場合は四つん這いで移動します。二足歩行も不可能ではありませんがバランスが取れません。
・全裸のような見た目です。表面は肌と言うよりも泥にちかい、ざらっとした感じです。
・口はO字型に開かれており、本来眼球がある場所は空洞になっています。

スペック（共通）
・移動速度は高速、と言うほどではありませんが、ものすごく遅い、と言うわけでもありません。普通の人間の四つん這い程度です。水の中だとそれなりに早いです（個体差あり。後述）。
・腕を振り回して攻撃してきます。無防備な人間が叩かれたら結構痛いかもしれません。
・警戒心を誘う雄叫びを上げます。用心深い人は行動をためらうかも知れませんが、気にしない人は気にしないでしょう。
・不利とみると水の中に戻りますが、水辺で人間がじっとしていると再び上がってきます。
・物理攻撃、魔法攻撃共に有効です。見た目通りの紙装甲です。
・どれか1体がOPに登場したおもちゃの船を持っています。

個別情報
雑魔A（白色）
・OP文章に登場した雑魔。
・共通スペックに特に追記することはありません。

雑魔B（薄紅）
・最も凶暴ですがスペックは他と変わりません。ただしやたらと攻撃的で一番前線に出てきます。

雑魔C（水色）
・最も素早いです（反射神経が良い印象）。
・雑魔Bと対照的にどちらかと言うとハンターから距離を置こうとする傾向にあります。

●その他
・池の深さは3メートル程度。地上から視認できるのは水深1メートル程度です。
・雑魔が水の中にいる状態で水に入ると、脚、腕、あるいは持ち物を掴んで沈めようとしてきます。

こんにちは、初めまして三田村薫と申します。
ホラー的なビジュアルが大好きなもので、今回は「水の中から現れる手」「四つん這いで駆け回る人型のナニカ」を取り入れてみました。
少年少女を脅かした不届きな怪物を、是非とも皆さんの手で討伐して頂ければと思います。