重装兵士が隊列を組んで突っ込んだ。
　全員覚醒者なので、かつてリアルブルーで使われていたものの倍は分厚い鎧を着ているのに、さらに大重量の棘付きメイスを構えているのに速い。
　ガーゴイル型雑魔が逃げ腰になる。
　隅の１匹が一歩下がるともう止まらない。
　隊列に接触したガーゴイルが回転しながら宙を舞い、逃げた雑魔の背をメイスが砕く。
　都市守備隊８対雑魔８の戦いは、死者０軽傷４、残存雑魔４という形で終わったように見えた。

●１時間後。郊外食料庫
　生き残りの雑魔４体が逃げ込んだのは、都市外にある古びた倉庫だった。
　中身は万一に備え備蓄されていた麦。
　毒を武器とする雑魔ではなくても、雑魔を放置すれば土地や物にどんな悪影響が出てもおかしくない。
　故に、重装兵士達は接近戦に有効な武器に持ち替え突入し、直後ぶつかり合って耳障りな音が響かせた。
「下がるな」
「馬鹿下がれ！　荷物がっ」
　棚と棚の狭い空間で２人の大男が絡まり合う。
　その上から去年の麦がなだれ落ちてくる。
　きいきいと甲高い音を立てて小さな雑魔が飛び、棚と天井の間を飛ぶ。
「このっ」
　無理矢理メイスを持ち込んでいた兵が、追撃しようとして棚にしまわれていた袋を引っかけて破いてしまう。
　３年前の麦が溢れてメイスが流される。
「退却、しろっ」
　隊長が苦々しげに叫ぶ。
　兵士達は背後から何度も殴られるのに耐えて出入り口へたどり着き、最後の力を振り絞って追いすがる雑魔を振り払い、重い扉を閉めるのだった。

●ハンターギルド本部
　余程あわてていたのだろう。
　３Ｄディスプレイが前置き無しで現れ、ディスプレイに目を直撃されたハンターに悲鳴をあげさせる。
　目がー、目がーと何故か楽しそうなのは多分気のせいだ。
「都市の食糧備蓄への直接攻撃、だと？」
　別のハンターがディスプレイ上の依頼票に目を通し深刻な顔になる。
　ギルド本部が一気に緊迫した。
「すまん読み間違い。去年やその前の米や麦が入った倉庫に侵入されただけだった」
　こほんと咳払いをするハンターは、少し頬が赤くなっていた。
　緊張が解ける。
　依頼を物色中のハンターがディスプレイの前に集まってくる。
「うわめんどくせ」
「閉所戦闘かぁ」
「これ老朽倉庫じゃないか。８人で暴れたら下手すっと崩壊するぞ」
「倉庫ごと壊すのは？」
「壊したら立て替え費用ハンター持ちだってよ」
　ただでさえ面倒な依頼なのに、依頼人である領主があれこれ条件をつけているので難易度が数段上に上昇していた。
『回収できた穀物があれば炊き出し使われるです』
　との文面が加わっても、去ったハンターは戻ってこなかった。

　狭くて薄暗い場所での、小柄（全高１メートル前後）な雑魔相手の戦いです。


●戦場のおおざっぱな地図

壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁
壁棚　棚棚　棚棚　棚棚　棚壁
壁棚　棚棚　棚棚　棚棚崩棚壁
壁棚　棚棚　棚棚　棚棚　棚壁
壁棚　棚棚　棚棚　棚棚　棚壁
壁棚　棚棚　棚棚　棚棚　棚壁
壁棚　棚棚　棚棚　棚棚　棚壁
壁棚　棚棚　棚棚　棚棚　棚壁
壁棚崩　　　　　　　　　棚壁
壁壁壁壁壁壁出入口壁壁壁壁壁

１文字１スクエアです。上が北。
室内は床から天井まで５メートル。棚の高さは４メートルです。
棚は２０年前は頑丈でした。今はハンターが全力でぶつかると中身毎ごと弾けそうです。
壁は、１カ所につき１回だけならハンターの攻撃に耐えます。雑魔の攻撃は通じません。北側の壁についた明かり窓は小さくはめ込みで、雑魔は通れません。
棚から袋（古い麦入り）が突き出ている場所が多く、走るとよほど気をつけないとぶつかります。袋をどければ棚の向こう側を見通すことが出来ます。
２カ所盛大に崩れた場所があり、高さ２メートルの壁になっています。

●敵
全高１メートルのガーゴイル型雑魔。外見は脆い石で出来ているように見え、外見通りに打たれ弱いです。攻撃手段は射程１の爪のみ。
数は計４体。倉庫内にいるのは確実ですが倉庫内のどこにいるかは分かりません。
飛行能力はあっても非覚醒者の子供よりも遅く、飛んで勢いをつけて攻撃する等、飛行能力を攻撃に活かす知恵はありません。
一般的な雑魔と比べ、移動力を除き数割減の能力しか持たない雑魔です。しかし体の小ささを有効活用する知恵を持っています。

●ＮＰＣ
重装兵士３人。倉庫の外側から出入り口を固めています。固めている分貴族領の他の場所の守りが薄くなっているので、ハンターが交代を提案すると喜んで受け容れます。

●賠償とか
　倉庫が無事なら中身が全滅しても賠償請求されません。中身が無事なら、真冬に近くの都市で炊き出しに使われます。

　粉砕された棚と麦が入り混じっていると、炊き出しの際にすごく小さな木片が混じっているかも知れません。