ゲスト
(ka0000)
【羽冠】獣達の将帥
マスター:鹿野やいと
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/23 12:00
- 完成日
- 2018/05/11 09:56
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
イスルダ島は今なお敵地である。浄化が完全でない事や、自然発生する歪虚の数が多いという点も大きいが、何よりもまともな生産施設を設置できていないという点が問題であった。この為にイスルダ島に駐留する各部隊は本島側の港より海路で定期的に補給を受けている。その補給線が最近、歪虚の部隊により頻繁に分断されるようになっていた。イスルダ島への便を集約する港町へ送られてくる補給の隊列に対して行われた攻撃は一か月に十回を越える。敵の数は少数だが襲撃は巧妙で捕捉が難しく、兵を揃えて備えれば襲撃対象を変えて別の街を襲うなど、攻撃はいやがらせに徹していた。
兵を配置することを諦めた王国軍は少数精鋭のハンターを各補給隊列に忍ばせる作戦に方針を転換する。この方針であっても多くの戦力を遊ばせる事にはなるが、兵力を隠蔽するという意味ではこれ以上の方法は思いつかなかった。
参加したハンター達が襲撃に遭遇したのは依頼を受けて10日目のこと。街道を進む細長い隊列が横に広く小高い丘の足元に差し掛かった頃に歪虚の一団は現れた。笛の音か、あるいは獣の鳴き声か。丘の上から響く音を頼りに視線を走らせると、巧妙に偽装された歪虚部隊の姿が見えた。ハンター達はひそかに武器を手に取って持ち場に戻る。敵は整列した兵士達に気を取られ、こちらのハンターの位置を把握していない。致命的な一撃を加えるため、ハンター達はその瞬間の訪れを待った。
●
港町に繋がる街道に臨む小高い丘の陰、20騎を越える歪虚騎士が整列していた。騎乗するのは馬ではなくヴェロキラプトルに似た小型の竜。それが王国軍の補給隊が通りがかるのを息を殺して待ち構えていた。1匹の例外を除いて。
「まーだ理解出来ないんですか!? あったま悪いですねー! ちゃんと学校の教科学んでそれですか!? 元騎士が聞いて呆れてしまいますよ!!」
やかましくぎゃんぎゃん喋っているのは騎竜の中でも大柄な一体、鳥のような頭を持つオヴィラプトルに似た個体だ。名をドーピス。彼の言葉は彼の思考ではなく、ドーピスに跨る名も分からぬ大男の意思を翻訳したものである、らしい。ドーピス談のその話、既に多くの歪虚騎士達が5割は嘘だなと理解していた。フルフェイスヘルムで顔も見えない人物だが、こんな饒舌そうには見えない。声帯に異常があるらしく声を聞いた者は皆無だが、指示が端的で的確な事はドーピスの雑音過多な翻訳を通じても理解できた。
「う。騎士じゃねえ、貴族だ」
2名の隊長片方、ケプロンは思わず口答えしていた。貴族の嫡子であった彼のプライドは歪虚になった今も残っており、結果が見えた上でも黙っているのは苦痛だった。
「どっちにしろ低能なのは変わらないですけどねぇーーーーー!!!???」
首を頻繁に横に回転させながらドーピスは唾を吐きかける勢いでケプロンをまくしたてる。もう一人隊長、元騎士のヴァルナは放っておけばいつまでも喋り続けそうなドーピスの顔を強引に横にどけると、乗り手である大男に正面から向かい合った。
「話はわかりました。ですが、こんな小競り合いのような戦闘に本当に意味があるのですか? 私にはとてもそう思えません」
ヴァルナは鋭い視線で大男を射抜いた。平時には女性らしい柔らかさも残る彼女だが、戦歴ではケプロンを上回る。歪虚となり更に凄みも増したはずだが、目の前の大男にはそれでも通じない。黙っていた大男は目を開くと、彼女の視線に答えるようにヴァルナの視線を見つめ返した。ヴァルナはほんのわずかに視線がぶつかっただけで気おされてしまった。力量に圧倒的な差がある。圧力に屈して次の言葉が告げられない。そこへやかましい騎竜が割り込んできた。
「あーれー? もしかして逆らっちゃいます? ウルトラグレートな僕らの上司に逆らっちゃいます? 命要らない系女子? やだ、ばんゆー! でも心の広いドーピス様はグレートな上司との仲を取り持って仲裁してあげますね。お代は裸踊りで!」
「……は?」
「聞ーこーえーまーせんでしたーー!!? 裸踊りですよ! 貴方みたいな芸も何もなさそうな女らしさ皆無の武骨系筋肉女子にも出来る簡単なお題にしてあげたんですよ! これがほんとならワイン樽一気飲みのところを優しいドーピス様が裸踊りで許してあげると言ってるんです! みっともない感じでお願いしますね!!」
「いや、ちょっと……」
「それともそんな簡単なことも出来ないんですか!? ダメですよーそんなことじゃパワハラ上等の新組織で生きていけませんよ! ほら、脱いでください!! 脱いで脱いで!! 貧相なkンモゲェーーーーーー!!!!????」
その話題の上司の腕がドーピスの首筋の肉をつかみ上げていた。太い二の腕は膨れ上がって血管が浮き上がっており、今にも首の肉を引きちぎりそうだ。口から泡を吹いて暴れるドーピスは必死に命の危機を訴えるが全く意に介さない。そしてこのお喋りな竜を助けようとする仲間はこの場には誰も居なかった。ザマア、などの気持ちで見守るばかりである。
こうして潜伏した軍とは思えない騒がしさが一段落した頃、見計らったように一人の歪虚騎士が致命的な内容を口にした。
「あの、隊長」
「なんだ?」
「それが、王国軍に居場所がばれました」
ヴァルナはちらりと丘を越えた先の補給部隊を見た。明らかにこちらを指向して防御陣形を組みつつある。こうなっては奇襲の段取りに意味はない。
「くそっ、もういい。突撃だ!」
始まってしまったものは仕方ない。隊長二人は整列済みの部隊を率いて輜重隊への突撃を敢行した。
その背後で大男はようやく起き上がったドーピスに何事も無かったかのように跨る。彼は今回も遊軍として後方より戦場を見渡すつもりだった。未熟なまま戦場に投入され、未熟なまま歪虚になり、未熟なまま運用される部下に経験を積ませる必要がある。その為に自分は手出しをしてはいけない。そのように部下達には伝えている。そのはずなのだが。
「うっひょー! 食べ頃の牛さん発見! 赤身肉は最高ですよね! 僕もご飯に行っていいですか!? もう我慢できなーい!!!」
人の話を聞かない・待たない・遮るという最低の通訳は、乗り手の意思をまるで考慮することなく、補給部隊中央付近の荷運び用の牛めがけて全速力で走りだした。指揮官として赴任した彼には考えることがたくさんあるがまず一つ、仕事が終わり次第脅しでなくこの騎竜の太ももの肉をむしって食ってやろうと心に決めたのだった。
兵を配置することを諦めた王国軍は少数精鋭のハンターを各補給隊列に忍ばせる作戦に方針を転換する。この方針であっても多くの戦力を遊ばせる事にはなるが、兵力を隠蔽するという意味ではこれ以上の方法は思いつかなかった。
参加したハンター達が襲撃に遭遇したのは依頼を受けて10日目のこと。街道を進む細長い隊列が横に広く小高い丘の足元に差し掛かった頃に歪虚の一団は現れた。笛の音か、あるいは獣の鳴き声か。丘の上から響く音を頼りに視線を走らせると、巧妙に偽装された歪虚部隊の姿が見えた。ハンター達はひそかに武器を手に取って持ち場に戻る。敵は整列した兵士達に気を取られ、こちらのハンターの位置を把握していない。致命的な一撃を加えるため、ハンター達はその瞬間の訪れを待った。
●
港町に繋がる街道に臨む小高い丘の陰、20騎を越える歪虚騎士が整列していた。騎乗するのは馬ではなくヴェロキラプトルに似た小型の竜。それが王国軍の補給隊が通りがかるのを息を殺して待ち構えていた。1匹の例外を除いて。
「まーだ理解出来ないんですか!? あったま悪いですねー! ちゃんと学校の教科学んでそれですか!? 元騎士が聞いて呆れてしまいますよ!!」
やかましくぎゃんぎゃん喋っているのは騎竜の中でも大柄な一体、鳥のような頭を持つオヴィラプトルに似た個体だ。名をドーピス。彼の言葉は彼の思考ではなく、ドーピスに跨る名も分からぬ大男の意思を翻訳したものである、らしい。ドーピス談のその話、既に多くの歪虚騎士達が5割は嘘だなと理解していた。フルフェイスヘルムで顔も見えない人物だが、こんな饒舌そうには見えない。声帯に異常があるらしく声を聞いた者は皆無だが、指示が端的で的確な事はドーピスの雑音過多な翻訳を通じても理解できた。
「う。騎士じゃねえ、貴族だ」
2名の隊長片方、ケプロンは思わず口答えしていた。貴族の嫡子であった彼のプライドは歪虚になった今も残っており、結果が見えた上でも黙っているのは苦痛だった。
「どっちにしろ低能なのは変わらないですけどねぇーーーーー!!!???」
首を頻繁に横に回転させながらドーピスは唾を吐きかける勢いでケプロンをまくしたてる。もう一人隊長、元騎士のヴァルナは放っておけばいつまでも喋り続けそうなドーピスの顔を強引に横にどけると、乗り手である大男に正面から向かい合った。
「話はわかりました。ですが、こんな小競り合いのような戦闘に本当に意味があるのですか? 私にはとてもそう思えません」
ヴァルナは鋭い視線で大男を射抜いた。平時には女性らしい柔らかさも残る彼女だが、戦歴ではケプロンを上回る。歪虚となり更に凄みも増したはずだが、目の前の大男にはそれでも通じない。黙っていた大男は目を開くと、彼女の視線に答えるようにヴァルナの視線を見つめ返した。ヴァルナはほんのわずかに視線がぶつかっただけで気おされてしまった。力量に圧倒的な差がある。圧力に屈して次の言葉が告げられない。そこへやかましい騎竜が割り込んできた。
「あーれー? もしかして逆らっちゃいます? ウルトラグレートな僕らの上司に逆らっちゃいます? 命要らない系女子? やだ、ばんゆー! でも心の広いドーピス様はグレートな上司との仲を取り持って仲裁してあげますね。お代は裸踊りで!」
「……は?」
「聞ーこーえーまーせんでしたーー!!? 裸踊りですよ! 貴方みたいな芸も何もなさそうな女らしさ皆無の武骨系筋肉女子にも出来る簡単なお題にしてあげたんですよ! これがほんとならワイン樽一気飲みのところを優しいドーピス様が裸踊りで許してあげると言ってるんです! みっともない感じでお願いしますね!!」
「いや、ちょっと……」
「それともそんな簡単なことも出来ないんですか!? ダメですよーそんなことじゃパワハラ上等の新組織で生きていけませんよ! ほら、脱いでください!! 脱いで脱いで!! 貧相なkンモゲェーーーーーー!!!!????」
その話題の上司の腕がドーピスの首筋の肉をつかみ上げていた。太い二の腕は膨れ上がって血管が浮き上がっており、今にも首の肉を引きちぎりそうだ。口から泡を吹いて暴れるドーピスは必死に命の危機を訴えるが全く意に介さない。そしてこのお喋りな竜を助けようとする仲間はこの場には誰も居なかった。ザマア、などの気持ちで見守るばかりである。
こうして潜伏した軍とは思えない騒がしさが一段落した頃、見計らったように一人の歪虚騎士が致命的な内容を口にした。
「あの、隊長」
「なんだ?」
「それが、王国軍に居場所がばれました」
ヴァルナはちらりと丘を越えた先の補給部隊を見た。明らかにこちらを指向して防御陣形を組みつつある。こうなっては奇襲の段取りに意味はない。
「くそっ、もういい。突撃だ!」
始まってしまったものは仕方ない。隊長二人は整列済みの部隊を率いて輜重隊への突撃を敢行した。
その背後で大男はようやく起き上がったドーピスに何事も無かったかのように跨る。彼は今回も遊軍として後方より戦場を見渡すつもりだった。未熟なまま戦場に投入され、未熟なまま歪虚になり、未熟なまま運用される部下に経験を積ませる必要がある。その為に自分は手出しをしてはいけない。そのように部下達には伝えている。そのはずなのだが。
「うっひょー! 食べ頃の牛さん発見! 赤身肉は最高ですよね! 僕もご飯に行っていいですか!? もう我慢できなーい!!!」
人の話を聞かない・待たない・遮るという最低の通訳は、乗り手の意思をまるで考慮することなく、補給部隊中央付近の荷運び用の牛めがけて全速力で走りだした。指揮官として赴任した彼には考えることがたくさんあるがまず一つ、仕事が終わり次第脅しでなくこの騎竜の太ももの肉をむしって食ってやろうと心に決めたのだった。
リプレイ本文
何重にも重なった軽快に土を蹴る音がすぐそこまで迫っていた。ハンター達がそれぞれに幌や荷物、人の列の隙間から盗み見たそれは竜の騎兵隊。少数ながらも統一された装備を持つ立派な軍団であった。馬よりも強靭な皮膚を持つ竜と人を越えた力を持つ歪虚騎士、訓練を積んだとは言え元農夫主体の兵士達ではそう長くは持たないだろう。ハンター達はまず初めに、その損害に目をつぶることにした。
槍を構える兵士達は緊張の面持ちで号令を待つ。その指揮官たる壮年の分隊長も同じく恐怖が外に出ないように手綱を強く握りしめていた。
(これは勝てないな)
自分達だけでは戦力の差が大きすぎる。頼みの綱はハンター達だが伏兵となった為にそのほとんどが彼らからは見えない。分隊長はアーメットの隙間からちらりと、騎兵に混じる歩夢(ka5975)を流し見た。
「後は頼みます」
「任せてよ。期待してくれていい」
安請け合いにも聞こえる台詞だが今は信じる他に手は無し。彼らが手を尽くしてくれたことも十分に理解している。後は自軍の損害を如何に耐えるかのみだ。
「槍を構えろ!」
兵士達が一斉に槍を敵騎兵に向けて突き出して槍衾を形成する。その数十からなる鋭い穂先の群れに怯える素振りもなく、竜の騎兵達は速度を上げて王国軍に迫っていった。
王国軍と歪虚の騎兵が睨みあうのと同じタイミングで、補給隊列の最前列にもう片方の騎兵隊が迫っていた。これを守る兵は無く、御者達は慌てて馬車の陰に隠れる。彼ら非戦闘員を無視して騎兵達は先頭の馬車目掛けて走っていた。もとより補給線への打撃が最優先、敵の増援に囲まれる前に物資を破壊するか移動手段を無くしてしまう必要がある。
「手筈通りに動け!」
女性の歪虚騎士が声を張り上げると呼応して騎兵達は小さな壷のような何かを腰から取り外した。過去の襲撃の報告を見ていた者はそれが油入りとすぐに判断がついた。マッシュ・アクラシス(ka0771)、神楽(ka2032)、鵤(ka3319)の3人はその動きを予測しながらも敵が十分距離を詰めるまで息をひそめていた。
(そろそろいくっすよー)
小声で神楽が合図を送る。二人がうなづくのを確認したが、事態はそれより早く変化した。隊列の中央から人や竜の悲鳴が聞こえた。歩夢の設置した地縛符に足を取られた騎兵達の声だった。
「王国騎士団黒の隊、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)推参!お前らが無駄にした食料の恨み、思い知れッ!」
突撃するレイオスを支援するようにジャンク(ka4072)が敵に銃撃を加える。前列の罠にかかった敵はこれで兵士達の槍をもろに受けたが、後列はまだ機動力を維持している。彼らは仲間を援護するために迂回して王国軍を半包囲の形をとる。その横っ面を、正四面体の何かがぶつかっていった。
「な、なんだこいつは!?」
歪虚騎士達が見慣れない何かに驚き動きを止める。アシェ-ル(ka2983)のスペルフェアリー「ナシート」だが、通常のファミリアアタックと理解するまでに10秒程度の時間を要した。その足止めされた時間でまた1騎、乗騎より騎士が落ちた。
「良い調子だ。嬢ちゃん、そのまま頼むぜ」
ジャンクは更に追撃を加えていく。槍衾による平面からの攻撃とハンターによる立体的な攻撃により盾の防御は間に合わず、王国軍側の優位へと時間を追うごとに傾いていった。
一方で隊列前方に向かっていた部隊はすぐさま行動に移っていた。
「伏兵だ! 全周防御!」
騎兵達はすぐさま盾を構えて
「しかたありませんね、いきますよ」
近接戦闘を得意とするマッシュを先頭にハンター達が幌を跳ね上げて躍り出た。範囲攻撃可能なスキルで騎竜の部隊を攻撃する。敵は慌てずこれに備え、その多くの攻撃を部隊一丸となって受け止めた。
「思ったより上手くいかなかったな!」
全員で同時に攻撃を開始という想定だったが、歩夢の罠は発動タイミングが敵の移動速度や方向に影響される。最悪の結果にこそならなかったものの、完全な奇襲が見込めたハンター達の範囲攻撃を防いだり避けたりする余裕を与えてしまった。
悪い状況だが距離を詰められたのは幸いだった。神楽はライトニングボルトを放った後、敵指揮官に向けて更に一歩前へ飛び出す。
「さあて、これが本命っすよ~」
神楽は敵指揮官に向けて幻影触手を使用。竜に跨っていた女性の歪虚騎士を触手で引きずりおろし、敵の囲みの中から自身のほうへ引き寄せた。
「女騎士ゲットっす~!ケケケ、脱がせたらたっぷり楽しませてもらうっす~」
「貴様ぁ、なんのーーうぶっ!?」
触手の一本が口をふさぐ。最低なことにこのスキル、拘束のついでに舐めまわすかのように体をはい回り、鎧の下に入ろうとうごめき続ける。肌に触れた部分は粘土の高い液体を出し、拘束した彼女に万遍なく塗りたくっていた。
いやらしい笑みで見つめる神楽の横で、また同じようないやらしい笑みで鵤も彼女が暴れるさまを見ていた。
「お、お嬢ちゃんのパンツは白かー。かーわいいー」
「マジでー?」
「ズボンの破れたところからちらっとな」
「んーーーーーーー!!!」
大声で何事か(恐らく『ぶち殺すぞ』に類する罵声を)わめきながら体をはねさせるが、触手の拘束が解けるほどではない。無茶苦茶に暴れたことで触手の拘束が一層強まることになった。
指揮官を拘束して敵を煽る。他のハンターはそう聞いていたが、実際に始めると犯罪臭が酷かった。マッシュはその光景に怒りを燃やす歪虚騎士達からも更に距離をとり、荷台を守るふりをしてすっと二人への道を開ける
「最低ですね」
関わりあいになるのは避けよう。そういう雰囲気をにじませていた。マッシュの最初の防御が遅れたのは、以上のように無理からぬ事情があったのである。
混乱しながらも激突する両軍。刃が閃き血飛沫が舞う戦場にあって、その騎士と騎竜は我関せずの体を貫いていた。騎竜は今潰したばかりの牛の肉を憎たらしいほどの余裕で咀嚼している。
「部下は働いておるというのに、お前さんは暇そうじゃな」
のそりと大きな影が動いた。敵の指揮官に勝るとも劣らぬ巨漢の持ち主、バリトン(ka5112)だ。
「どれ、相手をしてもらおうかの」
鈍重そうな動きだが構えに隙は一切無い。
「わしはバリトン。傭兵同士はいざ知らず、騎士ならば闘う相手の名は知りたかろう」
普段ならそのような風情を守るよりは仲間の為に戦う男だ。今回は敵の正体を知るためにあえて饒舌にしている。対する大男はバリトンに何か話をしようとして、意味のある言葉を発する前に何度もせき込んだ。大男が喋れない代わりに騎竜が耳に響く甲高い声で喋り始める。
『悪いな。喉の調子が悪くて声が出ねえんだよ。こいつは代わりの通訳だ。うるさいが我慢してくれ。で、名前の話だったな。そいつも悪いが記憶に欠損があるんでな。自分の名前どころか、どこの誰かもわかんねえんだよ。だからな』
大男は槍を構えた。槍は穂先が三角形のパルチザン似で柄は全て金属。それを片手で容易に振り回す様から、敵の膂力がすさまじいことがうかがい知れた。
『手っとり早く済ませようや』
言葉と共に、ほとんどのタイムラグも無く騎兵は一体となって突撃してきた。リーチを生かして振り回すような一撃で、すれ違いざまにバリトンを狙う。
「むんっ!!」
素早くバリトンもその一撃に応戦。強烈な一撃をすんでの所で上方へと受け流し、距離が近づいたところで刀を翻して攻勢に転じ、瞬く間に二度切りつけた。大男は槍を引きつつ距離を取る。いや、距離を取ったのは騎竜だ。バリトンの刀の間合いを見切ったかのように間合いの一歩外へと抜け出した。大男が槍で突きを繰り出して牽制する間に、騎竜は絶妙な距離でバリトンの馬と距離を取った
(互角、とはいかんな)
今の交差は互いに力量と間合いを図るための攻防だった。致命傷を受ける事は無かったが、埋めがたい戦力の差を自覚せねばならなかった。恐らくこの場の全員で戦わなければ勝てない相手だ。それを理解したところで同時にバリトンは別の疑問と違和感にぶつかった。
「楽しませてくれるのう」
再び手綱を引き、今度はバリトンが敵との間合いを詰める。迎え撃つ大男も同じく騎竜を走らせた。槍と刀、壮絶な打ち合いが始まった。
●
拘束のスキルにも限界はある。歪虚の女騎士は神楽の呼び出した触手を強引にひきちぎり、神楽が再び触手を呼び出す前に接近戦へともつれ込んだ。槍と盾を失った彼女は腰の剣を―――抜かずに格闘戦にもつれ込み、蹴られて転んだ神楽の上に馬乗りになった。お尻の感触が下腹部に、などという甘い話はない。女性の体重でも勢いをつけて乗られたら吐くほど痛いものだ。神楽が青い顔で肺の空気を吐き出しているところに構わず、女騎士は何度も鉄拳を振り下ろした。
「この! クソガキ! よくも! あんな目に!!」
「いた! いたい! や、やめ……た、助けてーーー!」
醜態をさらしたことが余程恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしている歪虚の女騎士。一方的に殴られて顔が赤く腫れていく神楽。それを見た仲間達はーーーー。
「ごめんね神楽くん、一人でなんとかして。おっさん今忙しいんだわ」
秒で見捨てていた。酷い話だが薄情者と糾弾する余裕も神楽になかった。
(忙しいのは本当だからな)
事前の攻撃で奇襲が半ば不発となったことがあとの状況に響いていた。騎兵達は混乱から素早く立ち直り、連携してハンター達と刃を交えている。こうなると防御の薄い鵤には分が悪く、マッシュに守ってもらう事にも限界が来ていた。
「あなたを見捨てたらもう少し長く戦えますけど?」
「そいつは止めて欲しいなあ」
へらへら笑いながらも鵤は敵の動きを注視する。騎兵達もダメージを受けている為、崩れそうになっているのは同じだ。後はどちらがそれを先に崩すかという勝負になっている。手数の多さだけ敵が有利だが、個人の質では上回っている。
一方で罠に嵌った部隊は壊滅の危機に瀕していた。統制が効いて立ち直りが早い点では同じだったが、こちらは混乱が回復する間を与えなかった。
「それじゃもう一回、行っきますよー!」
アシェールの使う白竜の息吹が立ち直ろうとする部隊を混沌に叩き込む。混乱が収まらないままでは各個に応戦する他ない。そこを歩夢の五色光符陣が吹き飛ばし、ジャンクが1騎ずつ潰していく。
「鴨撃ちだな。こっちはなんとかなりそうだが……」
ジャンクは牽制射撃を撃ち込みつつ周囲に目を走らせる。全体としては優勢だが一歩間違えれば崩れかねない危うさもあった。速やかに制圧して他所の援護に向かう必要がある。
その思考を打ち切るように、馬車の荷台から何かがぶつかる大きな音がした。荷台に積んでいた木箱の一部が崩れ落ち、誰もが驚いてそちらに視線を送る。
「な、な、なんですか一体!?」
巻き添え食って荷台から転がり落ちたアシェールが荷物の間から顔を出す。荷台に吹き飛んできたのはバリトンだった。崩れた木箱の上で何事も無かったかのようにバリトンは体を起こす。体の何か所にも傷を作っていたが、本人は平然としていた。
「やれやれ。とんだ貧乏籤だわい」
豪傑同士の戦いは容易に他者の踏み込めない領域に達している。無造作に立ち上がりながらも刀を手放さないバリトンだが、それでも足元が不安定では隙も出来る。大男は容赦なくその隙をつくべく、騎竜を全速で走らせた。
「させるかよ!!」
レイオスが横から飛び込み大男に切りかかる。一撃は難なく受け止められたが、その間にバリトンは態勢を立て直した。レイオスの加勢でもって状況は2:1となったが大男の威圧感は変わらなかった。レイオスはバリトンが立ち上がったのを確認すると、二人で大男を囲むように足を動かした。
「答えろ。お前たちは誰の指示で動いている?」
レイオスが剣を突き付けながら問う。大男は槍を肩に担ぎなおし、騎竜の手綱を握った。
『誰、と言われても困るな。俺は俺が必要だと思ったことをしてるだけだ。こんな僻地に大層な謀略なんぞは…………』
男(の拡声器替わりをしていた騎竜)は唐突に黙り込んだ。何事かとハンターのみならず、騎竜も不思議そうに乗り手を見る。大男は手綱を握っていた手の指を開いたり閉じたりしていた。手の指の感覚を確かめるように。
「あ、話終わりました?」
間の抜けた質問をした騎竜は問答無用で頭をこづかれて悲鳴を上げるが、乗り手が恐ろしいのか律儀に仕事は再開した。
「てっしゅーーー!!! みなさん、てっしゅうですよーーーーーーーーー!!!!!!!」
鼓膜が破れるかと思うほどの大音量で騎竜が叫んだ。声は戦場の騒音の中を突き抜けて全体に広がり、すぐさま歪虚の騎兵部隊が動き始める。倒れた仲間を助け起こし、指揮官を守って素早く後退を開始した。驚くハンターを後目に大男も騎竜を走らせ、その後ろをついて殿となった。
「なんじゃったんじゃ、一体」
「……さあ」
バリトンの思考の中で言葉に出来なかった違和感と疑問が形になっていく。あれほどの力を持ちながらなぜ闘わないのか、あの性格でなぜ前線に出ないのか。手を出さずに監視していただけではなく、彼自身にも満足に戦えない理由があったのではないのだろうか。それも彼らにとっての政治的な理由ではなく、彼自身の体調に関わる致命的な理由でもって。
疲労したハンターが見送る中、鮮やかな手際で残存する騎竜部隊は撤退していく。戦闘としての戦果は十分ではないが、追撃するほどの余裕や再編成を行うほどの時間は無かった。
●
ハンター達は指揮官を討ち取る事は出来なかったものの、当初の予定通り物資を守ることには成功した。これ以後の彼ら騎兵隊による補給部隊への襲撃は成りを潜め、発生するのは組織されない歪虚との偶発的な戦闘のみとなった。しかし敵を撃破しきれなかったことが不安として現地の王国軍の意識にこびりつき、手厚い護衛部隊を解散するにはしばらくの時間を要することとなった。
槍を構える兵士達は緊張の面持ちで号令を待つ。その指揮官たる壮年の分隊長も同じく恐怖が外に出ないように手綱を強く握りしめていた。
(これは勝てないな)
自分達だけでは戦力の差が大きすぎる。頼みの綱はハンター達だが伏兵となった為にそのほとんどが彼らからは見えない。分隊長はアーメットの隙間からちらりと、騎兵に混じる歩夢(ka5975)を流し見た。
「後は頼みます」
「任せてよ。期待してくれていい」
安請け合いにも聞こえる台詞だが今は信じる他に手は無し。彼らが手を尽くしてくれたことも十分に理解している。後は自軍の損害を如何に耐えるかのみだ。
「槍を構えろ!」
兵士達が一斉に槍を敵騎兵に向けて突き出して槍衾を形成する。その数十からなる鋭い穂先の群れに怯える素振りもなく、竜の騎兵達は速度を上げて王国軍に迫っていった。
王国軍と歪虚の騎兵が睨みあうのと同じタイミングで、補給隊列の最前列にもう片方の騎兵隊が迫っていた。これを守る兵は無く、御者達は慌てて馬車の陰に隠れる。彼ら非戦闘員を無視して騎兵達は先頭の馬車目掛けて走っていた。もとより補給線への打撃が最優先、敵の増援に囲まれる前に物資を破壊するか移動手段を無くしてしまう必要がある。
「手筈通りに動け!」
女性の歪虚騎士が声を張り上げると呼応して騎兵達は小さな壷のような何かを腰から取り外した。過去の襲撃の報告を見ていた者はそれが油入りとすぐに判断がついた。マッシュ・アクラシス(ka0771)、神楽(ka2032)、鵤(ka3319)の3人はその動きを予測しながらも敵が十分距離を詰めるまで息をひそめていた。
(そろそろいくっすよー)
小声で神楽が合図を送る。二人がうなづくのを確認したが、事態はそれより早く変化した。隊列の中央から人や竜の悲鳴が聞こえた。歩夢の設置した地縛符に足を取られた騎兵達の声だった。
「王国騎士団黒の隊、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)推参!お前らが無駄にした食料の恨み、思い知れッ!」
突撃するレイオスを支援するようにジャンク(ka4072)が敵に銃撃を加える。前列の罠にかかった敵はこれで兵士達の槍をもろに受けたが、後列はまだ機動力を維持している。彼らは仲間を援護するために迂回して王国軍を半包囲の形をとる。その横っ面を、正四面体の何かがぶつかっていった。
「な、なんだこいつは!?」
歪虚騎士達が見慣れない何かに驚き動きを止める。アシェ-ル(ka2983)のスペルフェアリー「ナシート」だが、通常のファミリアアタックと理解するまでに10秒程度の時間を要した。その足止めされた時間でまた1騎、乗騎より騎士が落ちた。
「良い調子だ。嬢ちゃん、そのまま頼むぜ」
ジャンクは更に追撃を加えていく。槍衾による平面からの攻撃とハンターによる立体的な攻撃により盾の防御は間に合わず、王国軍側の優位へと時間を追うごとに傾いていった。
一方で隊列前方に向かっていた部隊はすぐさま行動に移っていた。
「伏兵だ! 全周防御!」
騎兵達はすぐさま盾を構えて
「しかたありませんね、いきますよ」
近接戦闘を得意とするマッシュを先頭にハンター達が幌を跳ね上げて躍り出た。範囲攻撃可能なスキルで騎竜の部隊を攻撃する。敵は慌てずこれに備え、その多くの攻撃を部隊一丸となって受け止めた。
「思ったより上手くいかなかったな!」
全員で同時に攻撃を開始という想定だったが、歩夢の罠は発動タイミングが敵の移動速度や方向に影響される。最悪の結果にこそならなかったものの、完全な奇襲が見込めたハンター達の範囲攻撃を防いだり避けたりする余裕を与えてしまった。
悪い状況だが距離を詰められたのは幸いだった。神楽はライトニングボルトを放った後、敵指揮官に向けて更に一歩前へ飛び出す。
「さあて、これが本命っすよ~」
神楽は敵指揮官に向けて幻影触手を使用。竜に跨っていた女性の歪虚騎士を触手で引きずりおろし、敵の囲みの中から自身のほうへ引き寄せた。
「女騎士ゲットっす~!ケケケ、脱がせたらたっぷり楽しませてもらうっす~」
「貴様ぁ、なんのーーうぶっ!?」
触手の一本が口をふさぐ。最低なことにこのスキル、拘束のついでに舐めまわすかのように体をはい回り、鎧の下に入ろうとうごめき続ける。肌に触れた部分は粘土の高い液体を出し、拘束した彼女に万遍なく塗りたくっていた。
いやらしい笑みで見つめる神楽の横で、また同じようないやらしい笑みで鵤も彼女が暴れるさまを見ていた。
「お、お嬢ちゃんのパンツは白かー。かーわいいー」
「マジでー?」
「ズボンの破れたところからちらっとな」
「んーーーーーーー!!!」
大声で何事か(恐らく『ぶち殺すぞ』に類する罵声を)わめきながら体をはねさせるが、触手の拘束が解けるほどではない。無茶苦茶に暴れたことで触手の拘束が一層強まることになった。
指揮官を拘束して敵を煽る。他のハンターはそう聞いていたが、実際に始めると犯罪臭が酷かった。マッシュはその光景に怒りを燃やす歪虚騎士達からも更に距離をとり、荷台を守るふりをしてすっと二人への道を開ける
「最低ですね」
関わりあいになるのは避けよう。そういう雰囲気をにじませていた。マッシュの最初の防御が遅れたのは、以上のように無理からぬ事情があったのである。
混乱しながらも激突する両軍。刃が閃き血飛沫が舞う戦場にあって、その騎士と騎竜は我関せずの体を貫いていた。騎竜は今潰したばかりの牛の肉を憎たらしいほどの余裕で咀嚼している。
「部下は働いておるというのに、お前さんは暇そうじゃな」
のそりと大きな影が動いた。敵の指揮官に勝るとも劣らぬ巨漢の持ち主、バリトン(ka5112)だ。
「どれ、相手をしてもらおうかの」
鈍重そうな動きだが構えに隙は一切無い。
「わしはバリトン。傭兵同士はいざ知らず、騎士ならば闘う相手の名は知りたかろう」
普段ならそのような風情を守るよりは仲間の為に戦う男だ。今回は敵の正体を知るためにあえて饒舌にしている。対する大男はバリトンに何か話をしようとして、意味のある言葉を発する前に何度もせき込んだ。大男が喋れない代わりに騎竜が耳に響く甲高い声で喋り始める。
『悪いな。喉の調子が悪くて声が出ねえんだよ。こいつは代わりの通訳だ。うるさいが我慢してくれ。で、名前の話だったな。そいつも悪いが記憶に欠損があるんでな。自分の名前どころか、どこの誰かもわかんねえんだよ。だからな』
大男は槍を構えた。槍は穂先が三角形のパルチザン似で柄は全て金属。それを片手で容易に振り回す様から、敵の膂力がすさまじいことがうかがい知れた。
『手っとり早く済ませようや』
言葉と共に、ほとんどのタイムラグも無く騎兵は一体となって突撃してきた。リーチを生かして振り回すような一撃で、すれ違いざまにバリトンを狙う。
「むんっ!!」
素早くバリトンもその一撃に応戦。強烈な一撃をすんでの所で上方へと受け流し、距離が近づいたところで刀を翻して攻勢に転じ、瞬く間に二度切りつけた。大男は槍を引きつつ距離を取る。いや、距離を取ったのは騎竜だ。バリトンの刀の間合いを見切ったかのように間合いの一歩外へと抜け出した。大男が槍で突きを繰り出して牽制する間に、騎竜は絶妙な距離でバリトンの馬と距離を取った
(互角、とはいかんな)
今の交差は互いに力量と間合いを図るための攻防だった。致命傷を受ける事は無かったが、埋めがたい戦力の差を自覚せねばならなかった。恐らくこの場の全員で戦わなければ勝てない相手だ。それを理解したところで同時にバリトンは別の疑問と違和感にぶつかった。
「楽しませてくれるのう」
再び手綱を引き、今度はバリトンが敵との間合いを詰める。迎え撃つ大男も同じく騎竜を走らせた。槍と刀、壮絶な打ち合いが始まった。
●
拘束のスキルにも限界はある。歪虚の女騎士は神楽の呼び出した触手を強引にひきちぎり、神楽が再び触手を呼び出す前に接近戦へともつれ込んだ。槍と盾を失った彼女は腰の剣を―――抜かずに格闘戦にもつれ込み、蹴られて転んだ神楽の上に馬乗りになった。お尻の感触が下腹部に、などという甘い話はない。女性の体重でも勢いをつけて乗られたら吐くほど痛いものだ。神楽が青い顔で肺の空気を吐き出しているところに構わず、女騎士は何度も鉄拳を振り下ろした。
「この! クソガキ! よくも! あんな目に!!」
「いた! いたい! や、やめ……た、助けてーーー!」
醜態をさらしたことが余程恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしている歪虚の女騎士。一方的に殴られて顔が赤く腫れていく神楽。それを見た仲間達はーーーー。
「ごめんね神楽くん、一人でなんとかして。おっさん今忙しいんだわ」
秒で見捨てていた。酷い話だが薄情者と糾弾する余裕も神楽になかった。
(忙しいのは本当だからな)
事前の攻撃で奇襲が半ば不発となったことがあとの状況に響いていた。騎兵達は混乱から素早く立ち直り、連携してハンター達と刃を交えている。こうなると防御の薄い鵤には分が悪く、マッシュに守ってもらう事にも限界が来ていた。
「あなたを見捨てたらもう少し長く戦えますけど?」
「そいつは止めて欲しいなあ」
へらへら笑いながらも鵤は敵の動きを注視する。騎兵達もダメージを受けている為、崩れそうになっているのは同じだ。後はどちらがそれを先に崩すかという勝負になっている。手数の多さだけ敵が有利だが、個人の質では上回っている。
一方で罠に嵌った部隊は壊滅の危機に瀕していた。統制が効いて立ち直りが早い点では同じだったが、こちらは混乱が回復する間を与えなかった。
「それじゃもう一回、行っきますよー!」
アシェールの使う白竜の息吹が立ち直ろうとする部隊を混沌に叩き込む。混乱が収まらないままでは各個に応戦する他ない。そこを歩夢の五色光符陣が吹き飛ばし、ジャンクが1騎ずつ潰していく。
「鴨撃ちだな。こっちはなんとかなりそうだが……」
ジャンクは牽制射撃を撃ち込みつつ周囲に目を走らせる。全体としては優勢だが一歩間違えれば崩れかねない危うさもあった。速やかに制圧して他所の援護に向かう必要がある。
その思考を打ち切るように、馬車の荷台から何かがぶつかる大きな音がした。荷台に積んでいた木箱の一部が崩れ落ち、誰もが驚いてそちらに視線を送る。
「な、な、なんですか一体!?」
巻き添え食って荷台から転がり落ちたアシェールが荷物の間から顔を出す。荷台に吹き飛んできたのはバリトンだった。崩れた木箱の上で何事も無かったかのようにバリトンは体を起こす。体の何か所にも傷を作っていたが、本人は平然としていた。
「やれやれ。とんだ貧乏籤だわい」
豪傑同士の戦いは容易に他者の踏み込めない領域に達している。無造作に立ち上がりながらも刀を手放さないバリトンだが、それでも足元が不安定では隙も出来る。大男は容赦なくその隙をつくべく、騎竜を全速で走らせた。
「させるかよ!!」
レイオスが横から飛び込み大男に切りかかる。一撃は難なく受け止められたが、その間にバリトンは態勢を立て直した。レイオスの加勢でもって状況は2:1となったが大男の威圧感は変わらなかった。レイオスはバリトンが立ち上がったのを確認すると、二人で大男を囲むように足を動かした。
「答えろ。お前たちは誰の指示で動いている?」
レイオスが剣を突き付けながら問う。大男は槍を肩に担ぎなおし、騎竜の手綱を握った。
『誰、と言われても困るな。俺は俺が必要だと思ったことをしてるだけだ。こんな僻地に大層な謀略なんぞは…………』
男(の拡声器替わりをしていた騎竜)は唐突に黙り込んだ。何事かとハンターのみならず、騎竜も不思議そうに乗り手を見る。大男は手綱を握っていた手の指を開いたり閉じたりしていた。手の指の感覚を確かめるように。
「あ、話終わりました?」
間の抜けた質問をした騎竜は問答無用で頭をこづかれて悲鳴を上げるが、乗り手が恐ろしいのか律儀に仕事は再開した。
「てっしゅーーー!!! みなさん、てっしゅうですよーーーーーーーーー!!!!!!!」
鼓膜が破れるかと思うほどの大音量で騎竜が叫んだ。声は戦場の騒音の中を突き抜けて全体に広がり、すぐさま歪虚の騎兵部隊が動き始める。倒れた仲間を助け起こし、指揮官を守って素早く後退を開始した。驚くハンターを後目に大男も騎竜を走らせ、その後ろをついて殿となった。
「なんじゃったんじゃ、一体」
「……さあ」
バリトンの思考の中で言葉に出来なかった違和感と疑問が形になっていく。あれほどの力を持ちながらなぜ闘わないのか、あの性格でなぜ前線に出ないのか。手を出さずに監視していただけではなく、彼自身にも満足に戦えない理由があったのではないのだろうか。それも彼らにとっての政治的な理由ではなく、彼自身の体調に関わる致命的な理由でもって。
疲労したハンターが見送る中、鮮やかな手際で残存する騎竜部隊は撤退していく。戦闘としての戦果は十分ではないが、追撃するほどの余裕や再編成を行うほどの時間は無かった。
●
ハンター達は指揮官を討ち取る事は出来なかったものの、当初の予定通り物資を守ることには成功した。これ以後の彼ら騎兵隊による補給部隊への襲撃は成りを潜め、発生するのは組織されない歪虚との偶発的な戦闘のみとなった。しかし敵を撃破しきれなかったことが不安として現地の王国軍の意識にこびりつき、手厚い護衛部隊を解散するにはしばらくの時間を要することとなった。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 マッシュ・アクラシス(ka0771) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/04/23 08:22:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/21 14:45:37 |