• 羽冠

【羽冠】ヘザー怒りの鉄拳 イスルダ血闘録

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/04/23 15:00
完成日
2018/04/30 14:43

みんなの思い出

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オープニング

●我が心よ狂え嵐のごとく
 王国歴1018年春――
 ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)は、イスルダ島へと向かう船の上にいた。
 今彼女の心は混沌としていた。他でもないシスティーナ王女の結婚問題が原因だ。

 王女が自分ではない誰かと結ばれる……
 それは決して許容できない。
 と言いたい所だが、自分が王女と結婚できるわけがない。さすがにそれはわかっている。
 現実の相手はマーロウ大公の孫。現実的ではある。そればかりか、この国の問題点である、王家と貴族の対立が結婚により解消するという利点さえある。
 国と民を愛する王女殿下ならば、『ただそれだけの理由で』結婚を承諾しかねない。
 ――愛が無くとも!
 ヘザーは煩悶した。
 怒りをマーロウにぶつけたい。
 だが、争いの原因となってしまう王女殿下の気持ちを考えると、そんなことはできない。
 だから何も……できはしない!

 しかし、考えることを止められない。何かをして疲労しなければ夜も眠れない。だから仕事に打ち込もうとした。
 イスルダ島へ行き、闘争心に身をゆだねたかった。無論、仕事である。何のとがめもない。

●理想の王国
 イスルダ島について一日目。ヘザーとその一団は歪虚を思い切り灰燼に変えて、野営地に戻った。
 今回は島に野営して複数日かけて掃討を行うことになっている。
 ヘザーと、同時に仕事を請け負ったハンターの他にも多くのハンターが参加している。
 そんなハンター達が集まる場所があった。
 野営地を広くとり、物資や食糧を広げている一団がいる。消耗品を支給したり、美味な食事を提供している。しかも無償で。
 その野営地の主と思しき人物はこう語った。
「歪虚と戦うハンターは皆仲間です。ですから皆で分け合いたいのです」
 旨い話ではあるが、理に叶ってはいる。
 利用しない手はない。
 ヘザーもまたそこに立ち寄った。
 簡易でありながらテーブルと椅子が野営地の外に用意されている。
 殺風景なイスルダ島にしては、海を見渡せる位置取りで風景もそう悪くはない。

「本日のメニューはオックステールシチューとライスでございます」
 何とメイド服の給仕が供してくれた。

 濃厚な風味と舌触りのシチュー。五臓六腑が温まった。
 味、雰囲気、売り物になるくらいの質である。
 ヘザーは落ち着いて食事ができた。

「お仕事お疲れ様です」
 帰ろうとしたころ、野営地の主と思しき人物が声をかけてきた。若く端正な、身なりの良い男だった。
「ああ……世話になったな。
 ご飯、美味しかった。ありがとう」
「食事一つでも士気に関わります。
 誰も、不味い食事のために命を懸けたくはありませんからね」
「それにしても、食事も補給物資もここまでの物が用意できるとは……」
「私一人が用意したものではありません。
 マーロウ大公様より賜った財で用意させていただきました」

 その名を聞いたとたん、ヘザーは固まった。

「マーロウ様は歪虚のいない理想の世界を作るために全力を尽くしておられます。
 そのために犠牲もあるでしょうが、理想のためには仕方のないこと。
 歪虚が居る世界では、真の意味で、人は豊かになれません。
 歪虚を滅ぼし、我々の世界の主導権を取り戻してはじめて、人は幸福を目指せるのです」

 男が語ったが、ヘザーはまったく聞いていなかった。

●マーロウ大公絶対殺すウーマン
(マーロウ……だと……!)
 ヘザーは激怒した。
 しかし、目の前にいる人間のしていること自体は善行であるし、直接世話にもなったし、なによりマーロウ本人ではない。

「…………そうだな。君、名前は?」
 ヘザーは何とかこれだけの言葉を口にした。

「レーヴィ・フォンヴェイユ侯爵の息子レーニエと申します」
 レーニエは恭しく礼をした。

「私は、ヘザー・スクロヴェーニ」
(ウェルズ・クリストフ・マーロウを殺す女だ)
 何とか後半は押さえた。

「君もハンターなのか」
「いえ。私は覚醒者ではありません。しかし仲間の力を借りて歪虚と戦っています」
「そうか。では君も戦いに?」
「ええ。明日早朝から」
「そうか……」

「では、これで」
 ヘザーは湧き上がる怒りを押し殺したまま、去った。



「ずいぶん低い声で喋る人だな……?」
 不自然さは歴然としていたが。

 ヘザーが去った後、そこに訪ねるものがあった。
「すみません!」
「何でしょう?」
 レーニエは柔和に応える。
「私、ヘルメス情報局の者ですが……」



●翌日
「歪虚の島ももう終わりだな。ベリアル、あんたの時代は良かった――」
 ここは港町跡。地面に寝転がって昔に思いを馳せるコウモリ型歪虚がいた。
「おっと! 誰か来やがったか!」
 コウモリはとっさに立ち上がり、飛び去った。
「このパダギエも焼きが回ったもんよ……」



 葦毛の馬に跨がった壮麗な一団が姿を現した。
「準備は良いか?」
 中央で指揮を執るのは、レーニエ・フォンヴェイユ。
「白馬隊(シュヴァル・ブラン)――」
 従うのはレーニエの私兵、シュヴァル・ブランである。
「今日はヘルメス情報局の記者が同行している。恥ずかしいところは見せられないぞ」
「はっ。問題ございません」
 傍らで、凛とした声がヘルムの奥で応えた。
「しかし、本当に護衛はしなくてよろしいので?」
「何、構いません。戦いを手伝いもしませんが」
 ヘルメス情報局の者だという男は応えた。覚醒者であるという。
「しかし、あなた方は我々に批判的だと思っていたが……」
「情報局は真実を提供するのみ。誰の味方でもありませんよ。マーロウ派の貴族がどんなものか……それを見定めに来たんです」
「解りました」

「そこにいるのはもしやレーニエ君! 奇遇だな!」
 そこにやたら元気な声が割り込んできた。
「あなたは……昨日の……」
「ヘザー・スクロヴェーニだ」
 ヘザーとその一団だった。ヘザーは大股でレーニエの前まで歩いてくる。
「あなた方も歪虚退治に?」
「そうとも。ここで遭ったのも何かの怨恨もとい縁。ひとつどちらが多くの歪虚を倒せるか競争といかないか」
「競争? 我々と……あなた方で?」
「そうだ。競争は多くの成果を出す」
「確かに、一理ありますが……誰が数えるのです?」
「それは自己申告で……」
「そういうことなら私に」
 ヘルメス情報局の男が提案してきた。
「私の相棒のパルムに数えさせましょう。歪虚が1人倒れるごとに音を鳴らさせます。私がそれを数える」
「あなたは?」
「ヘルメス情報局の者です。こんな面白い事見逃せませんからな」
「私達の事も書いてくれるのか?」
「面白い記事になりそうであれば」
「いいな! よろしく頼む」

 レーニエはそれを承諾した。
「では決まりだな。
 開始は三分後でいいか?」
「一分後で結構」
「ならそのように」
 そしてヘザーは時計を確認すると、大股で去っていった。



「――絶対に負かす。
 屈辱にまみれろ、マーロウ派」
 自陣に戻ったヘザーはレーニエに聞こえないようにそう言うのだった。

リプレイ本文

●ヘザー戻る
「というわけで彼らと競争することになった」
「なんでよ?!」
 仲間の元に戻ってきたヘザーが伝えるや否や抗議の声をあげたのはセレス・フュラー(ka6276)。競争は苦手だ。
「いいじゃない。楽しそうだよ!」
 対して夢路 まよい(ka1328)はテンション高めで同意。
「歪虚を倒すのに張り切って悪いことはそうないしね」
 クールに見えるコントラルト(ka4753)も乗り気だ。
「私情100%か……まあいいけどよ」
 輝羽・零次(ka5974)も敵を倒す事に変わりないと反対しない。
「ヘザーさんがやりたいというなら、どこまでも着いていきますっ! 
 だって、それが妹分っ!」
 そしてヘザーの妹分を自認するミコト=S=レグルス(ka3953)はひときわ強く同意していた。
(なんでみんな乗り気なの?!)
 セレスも結局、流されざるを得ないのだった。

●初動 機動力と索敵
 本当に時間がないのですぐ始まった。
 全員が騎乗したレーニエの白馬隊は機動力に優れる。
 対し、機動性はハンターも常に考えていることであり、ミコトはオイマト族の重装馬、コントラルトはエクウス品種の馬に、ヘザーと零次は魔導バイクに跨がっている。
 そしてセレスは魔導ママチャリ「銀嶺」。
「絵的に違和感なくない?」
 隣でコントラルトが指摘した。
「いいの! あたしはコイツと……風になる」
 一斉に発車。
 セレスが一番速かった。
 まよいだけは騎乗していない。徒歩で移動するのではなく杖に腰掛けた。フワリと浮き上がる。マジックフライトである。
 周辺が見渡せるほどの高みに到達。
「こちらまよい! 風が気持ちいいね。これから皆に歪虚の居場所を教えていくよ!」
 通信機と伝話で仲間に歪虚の位置を伝える試みだ。
 さらに、まよいが見ていない範囲は零次が双眼鏡でフォローする。
 白馬隊ではレーニエが索敵に専念していたが、空中からの視点に比べれば範囲が狭い。
 ハンター達は機動性では対等、索敵面では優位に立った。

●戦闘開始
 ミコトが馬を駆けさせ歪虚の一体に迫る。
 かつてのイスルダの戦いでも見た、獣を合成したような異形の姿だ。
 すれ違い様に、斧の一撃。
 反撃が来る。長い腕の先に並んだ尖った爪。
 ミコトはグローブで打ち払う。
 歪虚に一瞬の隙。ミコトは瞬時に体勢を立て直し斧を振り下ろす。
 頭蓋を両断し無に還した。
 別の歪虚が両横から迫る。
 右に3、左に2。
 視認した途端に右の三体が仰け反った。
「こちらは引き受ける!」
 追い縋るように、ヘザー。
 バイクの上から広角投射を放っていた。
 ミコトと背中を預け合う形で停止。
「ヘザーさん!」
「私もいつまでも助けられるばかりではいられないからな」
 かつてこの島でミコトに窮地を救われたヘザー。
 今は並んで戦っている。
 その事がヘザーには嬉しかった。

 別の方角では零次がバイクを走らせていた。
 歪虚の群れを見かけるや否や一直線に走る。
 その間、錬気を行いながら。
 障害物を利用してジャンプする。
「うおおおおおおりゃあああああああ!!!!」
 歪虚の頭上から急襲する形になった。
 唸るタイヤ。歪虚を轢き潰す。
 最低限の動きで着地。
 走行中に溜めた気を一気に放つ――青龍翔咬波。
 気の奔流が複数の歪虚を吹き飛ばした。
 別の方向から歪虚が迫る。
 体格で勝る獣とも人ともつかぬ歪虚が剣を振るう。
 零次は上半身を下げて避ける。
 避けつつ、懐に踏み込む。
「――ふッ!」
 拳のコンビネーションを叩き込む。
 防御を許さぬ、鎧徹し。
 獣は咆哮をあげて倒れた。
 思わぬ攻撃を受けた周囲の歪虚の中には逃げようとするものもいた。
 蛙型の歪虚が跳んで一気に離れる。
「! 逃がさん!」
 零次は歪虚の跳んだ先に一瞬で現れる。
 ――明鏡止水。
 拳を叩き付け、頭を地面にめり込ませる。
「さあ、次はどいつだ?」
 拳を頭の額の上まで上げ、次なる敵に備える。

 機動力に劣るまよいだったが、それでも障害物を完全に無視して移動できるという点では大きく、索敵だけでなく自ら敵に攻撃を仕掛ける機会もあった。
 上空から、廃墟の壁に囲まれていた歪虚五体を見つけ……まよいは無邪気に笑う。
 余りに、命のやり取りにそぐわない表情だった。
 腕を伸ばす。その指先でフォースリングが輝いた。
「それー!」
 掛け声とともに跨っている杖からエネルギーの矢が形成される。
 それは五本に分かれ、それぞれ歪虚の体を貫いた。
「さて、次は~」
 次なる獲物を探す。
 いつもの戦いとは少し違った気分で楽しめる。何しろ競争相手がいるのだ。
 ――だが歪虚にとっては人間は本能的な敵対心を煽る存在。
 感知できるのなら本気で襲いかかる。
 空を飛べば目立つ。風を切るように翼をはためかせ、鷹のような歪虚が襲い掛かった。
 まよいはそれを見て、目を輝かせる。
「じゃ、空でやろっか!」
 まよいは歪虚と空中戦を繰り広げる――敵意を受けながら、遊ぶように。

 一方、白馬隊。
 かれらは長射程・広範囲のスキルを備え、ある程度広がって動き、固まった歪虚は一気に倒すことを優先、それ以外は射程内まで踏み込んで攻撃した。
 そんな中闘狩人だけは攻撃せず、離れて移動していた。
 そして歪虚がある程度見える所に着くと、名乗りを上げた。
 歪虚はそのマテリアルに反応を示、彼の元に集まり始める。
 ソウルトーチだ。



「六時方向。歪虚が集まっていってるよ!」
 それをまよいが見ていた。通信で味方に教える。
「こちらで対応するわ」
 考えがあるのかコントラルトはセレスを伴い、報告のあった方向へと馬を走らせた。

 闘狩人を中心に歪虚が集まりつつあった。
 ソウルトーチで注意をひきつけ、同行する魔術師が範囲攻撃で一掃する。
 そういう手筈であった。

 だから集まりつつあった歪虚が突如光の矢に射抜かれた時は驚いた。

「これはいい所に出くわしてしまったわ」
「あんな所から……?!」
 コントラルトのデルタレイは射程が強化されている。弓の射程にすら匹敵する上、一度に三体を攻撃できるとあっては、この状況にうってつけであった。
 コントラルトは初めから相手の獲物を奪うつもりだったが、結果としてソウルトーチという相手の強みを無効化することになった。
「今は攻めた方がいいね!」
 セレスも銀嶺を走らせ、歪虚に切り込んでいく。

 そして近距離で歪虚と切り結び、しばらく経った頃。
「セレスさん、ちょっとどいて」
「?! うわ焦げる焦げる!」
 コントラルトはデルタレイを撃つだけでなく、歪虚の群れに接近して一気にファイアスローワーで焼き払いにいった。
 セレスが射程内にいたが、無事で済むと確信していた。
「そういう問題か!」
 セレスはアクセルオーバーを発動しつつ、チェイシングスローで(コントラルトの攻撃範囲から外れるように)歪虚に仕掛けていく。
「これは困ったわね? けれどこのまま続けるしかないわっ!」
「想定外の事態は起こるものさ」
 対して魔術師はライトニングボルトで対応、闘狩人も自ら攻撃に移った。
 真っ向勝負である。

「おっなんだなんだ活きのいいマテリアルじゃねーの!
 ってギャー! ハンターっ!」
 フラフラとコウモリの歪虚が飛んでくるなり驚いた。
「! あいつ確か!」
 セレスがそれに気づいた。すぐさま近づく。
「やいコウモリ! レッドバックはどうしたのさ!」
「げっおまえはいつぞやのハンター!
 ドクターならバドニクスと出撃してから帰って来てねえよ!
 傲慢らしくなくて付き合いやすい方だったのに……チキショー!」
「死んだの? あの時に……あっこら逃げるなっ!」
 パダギエはすぐさま逃亡した。
 セレスは追いかける。
 メイン+サブ+アクセルオーバー追加分で1ターンに63スクエアを走破できるママチャリがパダギエを追う。
 逃げられるわけがない。
 距離を詰めたセレスは投具の射程圏内からチェイシングスローを見舞おうとする。
 だが、パダギエはとっさに急降下し、そこにいた体の大きい歪虚を盾にした。
「あっ! ……逃げ隠れだけは上級並だね!」
 セレスは一人で歪虚の相手をせねばならなかった。その隙にパダギエは逃げてしまった。

 セレスがコントラルトの元に戻ると相変わらずクールな表情が迎えた。
「どうしたの、急に走りだしたりして……青春?」
「いやーちょっとED用の映像をね……」
 こんな適当な会話をぶっこいてる余裕も今だけということを、この時の二人は知らなかった。

●後半戦
「せえええええええいっ!」
 ミコトがラウンドスイングで一気に歪虚を薙ぎ倒す。
「さあっ! もう一息……あっ!?」
 その時降り注いだ矢の雨が、周囲の歪虚を無に還した。
「レーニエ……!」
 ヘザーが憎憎しげに言う。
 その視線の先ではレーニエが手で攻撃を指示していた。その傍らには猟撃士が控えている。
 先程の攻撃は、猟撃士の放ったフォールシュートだった。
「人の獲物を横取りとは……」
「いえ、貴方のお仲間の戦術があんまり優れていたもので」

「勝負においてはあらゆる手札の使い方が試される」
「……いつの間に……!」
「君というカードの真価を問おう」
 零次の前にも符術師が現れていた。
 投げたカードが光の刃となり、零次に向かっていった歪虚を討つ。
「……いいぜ。やられる前にやってやる」

「いい調べだわ……さしずめ空からの魔弾協奏曲と言った所ね。
 私とセッション願えるかしら?」
「んー? 一緒に遊びたいの?」
 上空のまよいに飛び掛かる歪虚を、機導師が地上から狙っていた。
 彼女の周りに現れたウインドウをタップするたびに美しい音色が鳴り、デルタレイが敵を撃った。

「競争らしくなってきたわね……」
 仲間からの通信で状況を把握したコントラルトが呟いた。
「絶対ラルくんのせいだよこれー!」
 セレスが抗議するもコントラルトは表情一つ変えない。
「そんなわけだからよろしくお願いするわね!
 うふふふ、腕が鳴るわ!」
「あ、なんかヘザーさんと似た感じっぽい」
 明るく宣戦布告をした魔術師の女にセレスが感想。
「これも勝負、勝つために手を尽くさせてもらうぞ?」
 歴戦の猛者じみた口調で、闘狩人の男が言った。
「私は最初からそのつもりなのだけど」
 コントラルトは、何事でもないように返した。



 それからの戦いは、まさに獲物の奪い合いであった。
 奪われないように一気に止めを刺すか、機会を伺うか。その判断を試される戦いとなった。



 以降ハンター、白馬隊は歪虚を次々と場所を変えて狩り続け、やがてこの位でいいと判断したヘルメス情報局の記者が終了を告げた。
 なお、彼は司会進行の様な形で、一行に場所移動なども促していたこともここに記しておく。



●結果発表
 そして、結果発表の時を迎えた。
 双方一列に並び、皆一様に真剣な表情でヘルメス情報局の記者の言葉を待つ。



「僅差でハンターの勝利!」
「いよっしゃあああーーーッ!」
 まずヘザーが大声をあげ、ハンター一行はそれぞれ勝利の喜びを分かち合う。
 対してレーニエは深刻な表情でうつむいていた。
「レーニエ様……申し訳ございません」
 猟撃士が深々と頭を下げた。
 長い黒髪の女だ。もし昨日レーニエに会った者なら、彼に仕えていたメイドだと気づくかもしれない。
「いや……私のせいだ」
 レーニエは仲間を責めはしなかったが、その表情は渋い。

 それを見たコントラルトがセレスに耳打ちした。
(ちょっとヘザーさんとサイクリングしてきてくれないかしら?)
 セレスは察して頷く。ほぼ間をおかずにヘザーが、
「ふははははは正しい王国民はマーロウ派の貴族などに負けるはずがないのだあああああ何をする」
「ヘザーさんあたしのチャリ乗りたいよね? 乗せてあげるよ! 風になれるよ!」
 勝ち誇ってレーニエをこき下ろしそうになるが、セレスに引っ張られて銀嶺に乗せられ、あっという間に視界から消えた。うわあ落ちる落ちる! などと聞こえたが誰も気にしなかった。
「その、今回はたまたま運が向いてたのさ」
 零次が自然と気を使うような口調で言った。
「いえ、敗因ははっきりしています。あなたがたの実力による勝利ですよ」
 レーニエは一瞬にして笑顔を作って応えた。
「いや、あんたらも強かった。普段はどんな活動を?」
「領内の警備、歪虚の退治が主な仕事です」
「ふーん、ハンターより地域に密着した感じだな」
「我が領内や周辺地域に現れる歪虚は多く、さらなる人材・設備の充実が求められています」
 遠まわしにマーロウの政策を支持している。
「ハンターの皆様なら、その必要さがわかるのではありませんか?」
 同意を求めるレーニエ。
 どう感じるかは自由だ。

 しばらく両者の健闘を称え合ったり、コントラルトがスキルで両陣営の傷を負った者を回復したりしつつ、歓談は続いた。

「ヘザーさんはすごいんですっ! いつも王女様のために危険を省みず頑張っているんですよっ! すごく格好いいんですっ!」
 ミコトは話の中で、ヘザーの人となりをレーニエに伝える。
 本人が聞いていたら泣いて喜んでいただろうが今はセレスと一緒に風になっている。
「そうか……どおりで……」
 レーニエはヘザーの昨日の態度を思い出した。
「王女殿下の人気はやはり高いようですね」
 王女あってのヘザー。レーニエの関心は王女に向かう。

「今日はありがとうございました。
 彼女にもよろしくお伝え下さい」
 レーニエはヘザーとセレスがまだ戻らないうちに、にこやかに別れを告げ、馬で去った。
 壮麗な葦毛の騎馬の一団がそれに続いた。



●記事『マーロウ派の貴族に迫る』より抜粋
 私はマーロウ派の貴族の一人、レーニエ・フォンヴェイユ氏の一日に密着した。
 イスルダ島の歪虚を退治すべくこの島を訪れたレーニエ氏は……出会ったハンターと倒した歪虚の数を競うことになった。
 ……結果としてハンターの勝利に終わる。挑んだハンターは王女の熱烈な支持者であった模様。
 レーニエ氏は敗北したもののハンター達の勝利を讃え、両者は和やかに別れた。

 ……しかし私は危惧する。
 言わば今回は王女殿下とマーロウ大公、それぞれの支持者が対立したと言えるが、この構図は今や王国全土に広がっている。
 このままいくと、遠くない将来、両者の支持者の対立が深まり、王国は二つに割れてしまうのではないか。
 その時王家は、マーロウ大公はどう動くのか。
 王国民はいかなる明日を生きるのか。
 そして我らの心強き友、ハンター達はいかなる選択を下すのか。
 我々は覚悟して待ち、見定める必要がある。

 報道として推測を記すのはいかがなものかとは思いつつ、敢えてここに記す。

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MVP一覧

  • 最強守護者の妹
    コントラルトka4753

重体一覧

参加者一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師
  • 拳で語る男
    輝羽・零次(ka5974
    人間(蒼)|17才|男性|格闘士
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさん(ka6276
    エルフ|18才|女性|疾影士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/04/20 18:09:26
アイコン 質問卓
通りすがりのSさん(ka6276
エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
アイコン 相談卓
通りすがりのSさん(ka6276
エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/04/23 10:54:26