• 反影

【反影】乱戦模様の火消し役

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
4日
締切
2018/05/04 19:00
完成日
2018/05/11 10:00

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 人と大精霊が和解し、王と称される歪虚がひそやかにことを進める。
 表面上は穏やかな時期ではある。
 しかし下っ端あるいは中堅の歪虚達は、まず生き延びるため努力する必要があった。

●ハンターオフィス出張所
「帰還中のハンターから連絡です。南下中の大型竜種2体を発見したそうです」
「リグ・サンガマから増援が到着しました。竜2頭との戦闘に入ると連絡が……」
 決戦から数日後、グラウンド・ゼロにぽつんと立つテントは喧噪で満ちていた。
「違います赤い大型竜2体です。えっ、今戦っているのは青い?」
「輸送隊から連絡です。赤い竜が……あ、護衛のハンターが撃退したとのこと」
 蜘蛛の子を散らすように逃げる中堅以下の歪虚と、移動中のハンターとその支援部隊が衝突を繰り返している。
「はい、いやそれシェオル型じゃないです。弾に余裕がないなら迂回してくださいよぉっ」
「承知しました直ちに援軍を手配します。ちょっと誰かー!」
 歪虚の主力は消えた。
 地に潜んでいるのか遠くに跳んだのかは分からないが、今グラウンド・ゼロで活動中なのは雑魚か雑魚に毛が生えた程度の歪虚がほとんどだ。
「すみませんよろしくお願いします! 報酬は2割増し出ますので、はいっ」
 戦力が減ったのはハンターも同じだ。
 リゼリオで休暇中のハンターも多いし、各国での依頼を受けて活動中のハンターもまた多い。
「CAMサイズの黒竜? お、おお落ち着いて下さい。高位歪虚かもしれないので刺激しないように……」
 結局どうなっているのかというと、砲弾1発で倒せそうな重傷歪虚を見逃さざるを得なかったり、消耗した部隊を見つけた竜が後ろ髪引かれながら飛び去ったりする場面が連続している。
「班長、もう一度大規模作戦をできませんか」
 オフィス職員の1人が上司にたずねる。
 同じ考えの職員は多いようで、トランシーバーや魔導スマフォ持ちの職員が上司にちらちら視線を向けている。
「無茶を言うな。予算はなんとか出来ても物資が足りない」
 大精霊が敵にまわるような戦場だったので弾薬の消費量もすさまじかった。
 浄化拠点にも物資が必要なので余裕は皆無だ。
「ですが勿体ないですよ。結構な大物歪虚を倒すチャンスです」
 10人近くのオペレーターが、通信を繋げながら深くうなずいた。
「……超人じみたハンターでも消耗するんだ。無茶な依頼にするんじゃないぞ」
 一瞬通信が途切れたタイミングで、職員が依頼票を書き上げ本部に送る。
 そろそろ3徹目は血走り正直怖かった。

●ドラゴン
『おーい生きてるかァ?』
 黒い竜が歩いている。
 大柄なCAM程度には大きいのに、熟練のハンター並の身のこなしで足音がほとんど発生しない。
『……』
 倒れたまま血を流す赤竜が、観念したかのように目を閉じた。
『随分と諦めが良くなったな』
 傷だらけの爪で赤竜のまぶたを突く。
 かすり傷すら付けない見事な力加減だ。それが赤竜の機嫌を急激に悪化させる。
『まだいけるだろう。とっとと逃げろ』
 腹を立てて赤竜が目を開ける。
 黒い竜は赤竜以上に傷だらけだった。
 しかし非常に上機嫌で、鱗も目も精気で輝いて見える。
『雑魚を食っても身につかない程度には強くなったんでな』
 黒竜ガルドブルムは鱗の下から鉄粉を取り出し、投げた。
 グラウンド・ゼロに満ちる膨大な負マテリアルの一部が破片に流れ込み、複数の鉄が蠢きながら形をなしていく。
『手下を貸してやる。俺に恩を感じるなら強くなって首を獲りに来い』
 初期型デュミナスに限りなく近い歪虚が、4体がかりで赤竜を持ち上げる。
 えっちらおっちら運ばれていく赤竜を見送るガルドブルムは、真面目な顔で考え込んでいた。
『人間の王国に戻ってマテリアルを漁るか? リアルブルーにでも渡れれば捗るんだがなァ』
 接近戦なら単独でハンターに負けかねない。
 ハンター部隊には遠距離戦でも勝てないかもしれない。
 そんな現状が、とても楽しい。
 ガルドブルムが空に戻る。
 見所のある同属を逃がすため、災厄の十三魔がグラウンド・ゼロを飛び回るのだった。

●シェオル
 黒々としたシェオル・ノドが、無防備に歩いていたデュミナス型歪虚へ襲いかかる。
 分厚いシールドも超射程を誇る砲も、胸部装甲に密着されてしまうと役に立たない。
 操縦席へ通じるハッチがこじ開けられる。
 2本の腕と2本の足を持つノドが席に座り、どろりと形が崩れてコンソールとシートと混じる。
 デュミナス型歪虚が再起動。
 頭部センサーが鈍く光る。
 ときにコミカルですらあった雰囲気は完全に消え、人間の命を求める歪虚らしい歪虚として徘徊を開始した。

●討伐依頼
 グラウンド・ゼロに向かい偵察と歪虚討伐を行って下さい。
 現地は非常に危険ですので、戦闘開始までは集団行動をお願いいたします。

リプレイ本文

●赤い竜
 バリトン(ka5112)と赤竜の視線が正面から交差し、笑みというには禍々しすぎる表情が同時に浮かぶ。
「万全な時に遊んで見たかった気もするが」
 高速移動中の鞍の上で鞘から剣を抜く。
 重く、そして激しく揺れているはずなのに驚くほど安定している。
「よかろう。そちらがその気なら真正面から切り倒してくれる」
 竜の口が眩しく光る。
 余波だけで空気が高温を持つ。
 プラズマじみたブレスが飛び出す瞬間には、龍の巨体全体がが歪んで見えた。
 イェジドが速度を変えずに向きを変える。
 かなり高速なので赤竜の予想した進路からずれる。
 ブレスはイェジドの横3メートルの地面を赤熱させた。
「アレか」
 白い眉が片方だけ持ち上げられる。
 赤竜の後ろで何やら騒いでいる歪虚に見覚えがある。
「ろくでもないことを考える」
 戦狂いの竜が関わっていることを知ったバリトンが、一瞬で意識を切り替え戦いに没入した。
 赤竜が首を大きく横に振る。
 集束を甘くされたブレスが巨大な扇をつくる。
 イェジドが横へ跳び飛びながら身を捻る。
 およそ4分の3の確率で防ぐことができたはずだが、運悪く4分の1の側の結果になった。
 幻獣用の盾でさらに威力を減らされた後に毛皮と肌に到達する。
 イェジドが吼えた。
 痛みに耐えて闘志を燃やし、主を戦いの中心に連れて行く。
「行くぞイルザ」
 細かい指示など不要だ。
 バリトンとイェジドは完全に息を合わせて刃を振るう。
 刃本体が宙を切ったのは事実の一側面だ。
 技と気合いで生じた斬撃が、赤龍の上半身を包み込むように発生た。
 悲鳴は生じず鱗の砕ける音だけが響いた。
 グリフォンがいきなり加速する。
 その結果として飛行の精度が上昇し、不意打ち気味に放たれたブレスへの反応が間に合った。
 当たれば無事では済まないブレスがアティ(ka2729)の斜め上2メートルを通過。
 熱せられた空気がアティの顔を撫でた。
「これ以上近づかないで」
 アティの声は悔しさを隠せていない。
 広範囲ブレスは非常に避けづらい。
 バリトンほどの重装甲があれば耐えられもするだろうが、アティとグリフォン、そしてバリトンのイェジドも2度被弾すれば即死の可能性がある。
「確かに大物だな」
 アティよりも高くアティよりも前で歩夢(ka5975)が不敵に微笑んだ。
 赤竜は眼球を動かさずに歩夢を意識する。
 バリトンと比べると脆そうな歩夢に向け、射程が短い分広範囲のブレスをまき散らす。
「頼むぜ、相棒! くらってくれるなよ!!」
 ワイバーンが体を捻る。
 ブレスによる上昇気流を巧みに捉え、くるくると回りながら一気に距離を詰める。
 歩夢が符をばらまき、ばらまかれた符が陣を発動させて赤竜を光で包む。
「頑丈だなっ」
 並の全身鎧なら中まで焼ける威力があるのに、焼けたのは鱗の表面ともとからあった傷口だけだ。
 恐ろしく頑丈だ。痛みに耐え炎を吐くだけの根性もある。
 もしこの敵が万全な状態なら、歩夢は足止めだけして撤退していただろう。
「高位の術使いをこんな場所に寄越すだと」
 驚愕する赤竜の目は先程の光で眩んでいる。
 回避も受けも精度が落ちた状態ではバリトンの斬撃は防ぎきれず、既にぼろぼろの胸部に3つの深い傷を刻まれる。
 地面の一部が泥状になり竜の後ろ脚を掴む。
 体力の無い者なら足を引き抜くことすらできないが、赤竜は巨体と格に相応しい体力で以て足を引き抜き乾いた地面に足を下ろす。
 宙に生じた斬撃が何もない空で発動する。
 既に死が見えている状態でも大技は使わず、赤竜は炎を広範囲にまき散らすことでアティの接近を防いでバリトン主従の体力を減らす。
「高位歪虚はこれだから」
「たった数人に追い詰められた我が何を言っても負け惜しみよ」
 赤竜は巨体の割に酷く遅い。
 最大の攻撃力を持つバリトンと常に正面に向かい合うので背一杯で、歩夢に側面や後方をうろちょろされても邪魔もできない。
 光をもたらす陣が展開される。
 強力な抵抗力で回復したのにまた目が眩んでしまう。
「ワイルドカード、だな」
 赤竜を手の平で転がしているはずの歩夢が肩をすくめた。
 抵抗力をねじ伏せるには状態異常攻撃の強度が必要だ。
 それを高める手段は当然用意している。
 しかし使用可能回数が限られているのでそろそろ弾切れだ。
「時間制限ありか」
 歩夢は音だけで遠方の状況を確認する。
 アティが主従が追いつき攻撃をしかけることで邪魔してはいるのだが、4つのデュミナス型歪虚がライフルの装備を完了しこちらに向けていた。
 狙いは素人にしか見えない。
 つまり、実戦でしばらく撃ち続ければ初心者程度には上達する可能性があるということだ。
「こいつ相手に白兵戦はできないからな」
 呪符を惜しみなく使って新たな結界を作り出す。
 光が赤を僅かに削り、反撃のブレスが大地と宙を焼く。
「スキルが尽きるまでは付き合ってもらう」
 ワイバーンと共に体力を酷使する空中移動を行い、ひたすら攻撃術を使い続けるのだった。

●炎の応酬
 戦闘開始時の映像と現実の光景を見比べ、リチェルカ・ディーオ(ka1760)が乾いた笑い声をあげた。
「ぜんぜん変わってないよー」
 広範囲の技や術が叩き込まれ続けているのに赤竜の見た目がほとんど変わっていない。
 絶対値では大きなダメージを与えている。
 いわゆる最大生命力が大きすぎるのだ。
 肩部大型砲と滑空砲の射程内にいる歪虚は赤竜1体とデュミナス型4体のみ。
 斜め後方の浮遊歪虚はまだ遠い。
 口径3センチの弾4つが飛来する。
 回避のリソースを削りに削ったダインスレイブではろくに躱すことができず、盾で受けても消しきれない衝撃がリチェルカを揺らす。
「接近戦するひとは今のうちに近づいてー」
 大型実体弾を発射する。
 200メートルを超える距離を駆け抜け、鱗数個を変形させて実体弾がめり込んだ。
「装甲あついよー」
「足止めはする。射撃を続けてくれ」
 紅蓮のカラーリングを施されたオファニムが、CAMにしては速い速度で赤い竜へ近づいていく。
 長距離ブレスは飛んでこない。
 赤竜は、範囲優先の攻撃でないとハンターに当たらないことを学習したのだ。
「よくもまああの傷で動き回るもんだ。竜ってのはこういうのばかりなのかね」
 リチェルカ機を完全に引き離す。
 ライフルが狙いを変更。
 30ミリ弾4つがソレル・ユークレース(ka1693)の機体へ近づく。
「竜が指揮官か? いや」
 操縦桿2本をきっかり指一本分だけ動かす。
 ソレル専用機グロリオサは、体を揺らすだけで4つの弾に当たらずすり抜けた。
「カリスマで統率する型か」
 竜が予め命令を与えていた様子はなく、今何らかの命令を出している気配もない。
 破滅と己のことしか考えない歪虚が、主君を助けるために必死に戦っているように見る。
「一番厄介な相手だな」
 赤竜に迫る。
 グロリオサの巨体が壁になって赤竜の動きを制限する。
 迎撃の横薙ぎブレスが飛来。
 ソレルはスラスターを使用させることで易々とブレスを躱して見せた。
 重機関銃が大量の弾を吐き出す。
 重を冠されているとはいえ大型の砲ではない。赤竜の鱗を1枚削り切る程度の結果で終わる。
 竜種歪虚が安堵の息を吐く。
 残りがこの程度の敵だけならなんとか勝てると考え、しかしその考えは次の数秒で消滅した。
 重機関砲が赤竜の後ろを向く。
 銃弾が大量に吐き出され、目立った能力のなデュミナス型に突き立った。
 装甲が引きはがされ内部の機構から派手な火花が飛び散る。
 赤竜とは比較にならない脆さであった。
「連携を崩すのは基本中の基本だ。どうやら、慣れていないようだな」
 赤竜が明確にソレルを意識した。
 他のハンターへの警戒を怠り、グロリオサに当てるつもりの近距離かつ横へ広範囲のブレスを思い切り吐き出す。
「舐められたものだ」
 コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が冷たくつぶやいた。
 銃も使わずエクスシアを駆けさせ、竜から70と数メートルの位置で速度を落とす。
 ブレスの迎撃はない。
 ソレル機を優先し過ぎているためだ。
 マテリアルライフルの銃口を赤竜に向けて、コーネリアは研ぎ澄まされた殺意と共に引き金を引いた。
 紫の光が地面と水平に伸びていく。
 竜鱗1つを見事に焼き切り、そこで止まらず肉を貫き脂肪を燃やしても止まらず反対側の鱗にまで達する。
「鉄人形が術を?」
「ただの武器だ。扱いこなせていない、な」
 魔導エンジンの出力をぎりぎりまで高めて威力増幅を継続。
 退路を断つことも目指して射撃途中でも出来る範囲で機体を歩かせる。
「巨体には効くだろう」
 竜眼がコーネリア機に向けられる。
 敵意はあるが憎悪はない。
 強敵であるという認識と明確な殺意がコーネリアに向けられている。
 なお、当のコーネリアはコクピットで渋い表情だ。
 この高威力直線型攻撃は4回しか使えない。
「強引にでも従えて手足にしてやるつもりだったが」
 機体を完全に使いこなせている感覚が無い。
 マテリアルライフルの最後の1発を撃ち終える。
「練習はここまでだ」
 搭乗口を蹴り開けるようにして足下へ飛び降りる。
 出来れば乗ったまま銃を使いたいが、そういう戦いは考慮されていない機体であるし回避と防御を考えると降りた方が安全だ。
 人間用スナイパーライフルの引き金を引く。
 先程より赤竜は遠くに移動していたのに、銃弾は余裕をもって届いて竜の奥にまで貫通した。
 赤竜の目が細められた。
 地を支配するバリトンと比べると非常に脆そうで、空を飛ぶワイバーン主従と比べると動きが鈍そうだ。
 実質的に己の鎧でもある広範囲ブレスを止め、生身のコーネリア目がけて比較的長射程ブレスを発射した。
「くくく」
 若い声が響く。
 発音は洗練され込められた感情は難解かつ複雑。要約すると非常にロリバアア風である。
「ようやく出番にありつけたわい」
 割り込んで来た機体にブレスが直撃。
 リアルブルーの戦車と比較すると安定に欠け装甲は薄い。
 しかし対歪虚戦の実体験に基づく設計および改造、それに加えて老練な技が加わると以下のようになる。
 盾と表面装甲だけでなく全関節を使って柔らかく受け止める。
 もちろん予備の回路がない部分では受けるのは出来るだけ避ける。
 崩れた姿勢を立て直す操作と同時に予備の回路へと切り替え、開戦時とほとんど変わらない姿で赤竜と相対した。
「蜘蛛戦では大した戦果も挙げられなかったからのう」
 さらに近づきながら2門の砲を構える。
 既に広範囲ブレスの間合いだ。
 竜種は油断なく炎を広げてヤクト・バウ・PBも巻き込む。
「残り物に福があるともいうが」
 CAMのサイズがダメージを3倍に急増させているはずなのに、ミグ・ロマイヤー(ka0665)のダインスレイブは中破に至っていない。
 全長6メートルの巨大盾がまずブレスを受け止める。
 対単体ブレスと比べると弱い範囲ブレスはこれだけで随分弱くなる。
 その後待ち構えているのは当たり易い箇所には厚く、当たりにくい箇所には適量に配置された装甲だ。
 たまに痛打を浴びることがあっても総合すれば平均以下のダメージになる。
「この大きさの赤竜とはのう、ミグにも運が回ってきたようじゃの」
 リアルブルーにおける枯れきった技術で出来た砲が赤い竜を向く。
 大きく、強く、歳経た竜は、その2門が持つ脅威に気付けはしたが対抗手段を思いつけない。
「存分に味わえ!」
 貫通弾と徹甲榴弾が鱗を貫通。
 片方は炸裂して肉を抉り、もう片方は進路上の肉と脂肪を押し退け反対側の鱗を破壊し突き抜ける。
 弾痕からブレス未満の熱が噴き出し肉と血と脂を焼いた。
「ぐ、まだ、だ」
 竜の片足から力が抜ける。
 倒れる前に力が戻るが拙い受け身しかとれず横向きに転がる。
「まさか」
 竜が唐突に気づく。
 ヤクト・バウ・PBは、射撃が下手だった。
 70メートル離れると半々でしか当たらない。
 移動力が最低限まで落ちている赤竜でも、最初から慎重に移動していたなら有利に射撃戦を行えた可能性があった。
「当たらないなら近づけばいい。単純じゃろ?」
 ミグが平然と言い切ると、竜は彼女こそが最大の脅威の1つと判断し突撃を決断した。
「いかせんぞ」
 前傾姿勢をとった赤竜にバリトンが猛攻を加える。
 イェジドのウォークライでは強度が足りずに滅多に止まらず、バリトンの攻撃は威力はあっても足止めの効果は無い。
 しかしただでさえ遅く、さらに隙を見せてしまった赤竜の傷が急速に深くなっていく。
 そうしている間もミグの猛攻は止まらない。
 山ほどの弾と交換手段を確保しているので常時2種の弾が飛ぶ。
 どちらも十分な威力と対巨大歪虚戦に向いた範囲攻撃力を持つ。
 竜は今から逃げても逃げ切る前に命を削り切られてしまうだろう。
「まだだ。私は勝つ!」
 滅びを至近に感じても、赤竜のブレスは熱さも鋭さも鈍らなかった。

●デュミナス型
 ダインスレイブが二門の滑腔砲を腰の横で構え、軽く腰を落とす。
 背中の補助腕2つが地面を抑え、衝撃に備えた体勢が整う。
「はっしゃー」
 衝撃が機体を突き抜けた。
 リチェルカの体にシートベルトがめり込む。
 現代技術による大砲が、装甲を抜き内部で爆発する徹甲榴弾を撃ち出した。
 空のデュミナスの腕が砕け黒々とした破片が散らばり落ちる。
 負の気配が濃い空気に融け地面に達する前に消えた。
「あてにくいなー」
 反動が異様なほど大きい。
 最大で200メートルは飛ぶのに、その上精密砲撃姿勢までとっているのに、敵までの距離が140メートルを割ると命中率が10割でなくなる。
 相手の回避や防御を考慮に入れる命中率はさらに落ちてしまう。
 しかしそれも相手次第。
 たまにハンターが乗っている超高性能機ならともかく、初期型デュミナスに近い機体が浮かんでも的にしかならない。
 2発の砲弾が黒いデュミナスを削りに削り、胸部と頭部だけが浮かんでいるような状況だった。
「ちょっと強い? どのバージョンかなー」
 違う向きからもう1機が接近中だ。
 同属の惨劇には気づいているようで、狼狽が感じられる動きで地面まで降りて徒歩に切り替えた。
「私だけでもいけるとおもうよ?」
「助かる」
 グロリオサが黒いデュミナスに背中を見せた。
 スナイパーライフルがグロリオサの背中を狙うが容易く回避される。
 弾が最も近づいたときでも5メートルを超える距離がある。
 残酷なほどの能力の差が存在した。
「面倒だと思うが、任せた」
「まかされたー」
 不用意にダインスレイブの間合いに踏み込んだ1体へ射撃を継続。
 今度も当たって胸部も頭部も砕け散る。
「鬼さんこちらー」
 105ミリ弾が飛来。
 ダインスレイブは盾で防ぎつつ悠然と歩く。
 黒の生き残りが2発目を撃つときには、ダインスレイブのプラズマキャノンの届く距離になっていた。
「……うんわたしが鬼だね」
 どちらも当たりもするし外れもする。
 ただ、攻撃成功率も攻撃の威力もリチェルカ機がずっと上だ。
 十数秒後、黒が撤退を決断する。
 180度反転すると同時に背中へ弾丸が直撃。
 そのまま貫通して存在の核を回復不能なまでに砕くのだった。
 口径3センチの鉄塊がアティの盾を押し込み肩へ衝撃を与える。
 CAMと正面から殴り合えるハンターでも耐久力はCAMに劣るのが普通だ。
 体を包むオーラの障壁も一瞬で消し飛ばされ、体の奥で破滅的な音が鳴った。
 ロザリオが光を放つ。
 アティの信仰心に反応したマテリアルが一定の方向を与えられ、癒やしの力としてアティの体内で発動する。
 臓腑も骨も何もかもが、戦闘開始前と同じ状態にまで回復した。
「まったく」
 アティが軽く嘆息する。
 意図せず致命打を当てることもあれば当たることもあるのが実戦だ。
 だから癒し手は歓迎されるしポーションが大量に持ち込まれることも珍しくない。
「痛いのが好きな訳ではないのよね」
 光の杭を発生させてデュミナス型歪虚へ撃ち込む。
 威力は十分なのだがCAMらしく頑丈で、4つも撃ち込まれたのにせいぜい中破程度の状況だ。
 グリフォンが地面を駆ける。
 攻撃直後の割には驚くほど速くしかも移動距離が長く、デュミナス型歪虚は攻撃のために大きく方向転換をする必要があった。
 ライフル弾が無防備な背中に小さな穴を開ける。
 前面胴部に比べると薄い装甲では防ぎきることはできず、機体内部の回路を広範囲に壊す。
「新兵でもここまで酷くはないぞ」
 再びエクスシアに乗り込んだコーネリアが、センサとHMD越しに冷たい視線を向けていた。
 銃撃が続く。
 アティとグリフォンが気になるデュミナス型は再度振り返る決断が出来ず、また背中に銃弾を受けて深刻なダメージを受ける。
 直接打撃を浴びていないはずの四肢からも火花が散り、頭部センサが不規則に明滅した。
「覚醒前の癖が抜けんな」
 軍人として平均以上だった自負はあるし実際そうだった。
 この距離なら狙撃程度容易い、というのは過去のこと。
 通信その他を妨害してくる歪虚に相手と戦う際、能力自体は上がっても使い勝手が変わってしまった心身ではどうにもうまくいかないことがある。
 引き金を引く。
 竜の血を浴びたデュミナスが、体勢を崩して思い切り地面に打ち付け動かなくなる。
「実用を考えるなら狙撃にはスキルが必須か」
 エクスシアを一歩横へ移動させる。
 30ミリ弾が肩部装甲ぎりぎりを通過する。
 アサルトライフル装備機は残り3体。
 距離がかなり縮まり、これ以上近づかれるとスナイパーライフルが使えなくなりそうだ。
 だがコーネリアは慌てない。
 短い信号で援護を依頼しながら、スナイパーライフルの間合いの内側に入ろう駆ける歪虚に自分から近づいた。
 ハルバードにマテリアル製の刃を生成する。
 デュミナス型が己の危機に気づいて距離を取ろうとするが判断も行動も遅すぎる。
「負け犬どもにはさっさとお引き取り願おうか」
 高レベルの回避術も分厚い盾も持っていないデュミナスでは防ぎきれず、マテリアルの刃が肩へ深々とめり込んだ。
「やはりいたか」
 強烈な加速にさらされている間もソレルは観察を止めない。
 猛烈な抵抗を続ける赤竜を中心に、北ではアサルトライフル機が抵抗を続け、南では巧く飛べないのに浮かんだ黒デュミナスが次々打ち落とされている。
 そして地平線すれすれで、ソレルの視線に気づいた黒竜がこちらを振り向いた。
 グロリオサが大きな剣を手に思い切りよく踏み込む。
 点ではなく線の攻撃は躱しづらい。
 デュミナス型は右脚から腰にかけて大きく抉られ細かな部品をこぼす。
「今回はやり合う気はないってことか」
 黒竜は別方向にいる何か、おそらく負傷した歪虚に気づいてそちらに消えた。
 剣の間合いから出て銃の間合いから一方的に攻撃しようとデュミナス型が全力移動。
 それを読んでいたソレルは大剣に比べると目立たない機関銃に切り替え、容赦なく銃撃を浴びせて止めを刺した。
 デュミナス型歪虚の士気が崩壊する。
 残る2機が武器を捨てて逃げ出して、いきなり泥に変化した地面に足を取られた。
「効くなぁ」
 術を仕掛けた歩夢が驚いている。
 CAM並に大きい歪虚は基本的に強敵だ。
 強度が高くないと状態異常攻撃が成功しないはずなのに、2機とも完全に引っかかっている。
「初期型がモデルだからか?」
 複数方向からの銃撃が2機のCAMを削る。
 移動力が低下しているだけで案外躱すが武器無しでは反撃もできない。
 まあ、歩夢も術を使い尽くしている訳だが。
「後は1頭だけか」
 銃撃が1体崩壊させる。
 歩夢のワイバーンがすり抜けざまに刃で切りつけ、最後の1体も討ち取られた。

●血戦
 負マテリアルの濃度が増し、ハンターだけでなく赤竜自身も圧迫されている。
 そんな状況で、朗らかな笑い声が高らかに響いた。
「活きの良い赤バラムツですねぇ」
 外装はいじられていないはずのエクスシアが異様に禍々しくしかも生気に満ちている。
 戦場への到着はやや遅かったが、距離160あたりからライフル弾を撃ち込みつつじりじり近づいて来る。
「手の届かない場所に本家バラムツが見え隠れするのがとってもムカつきますけどぉ」
 歩く、撃つ、歩く、撃つ、再装填、以下繰り返し。
 1撃の威力はあっても範囲攻撃でも連続攻撃もでもない。
 至近距離で凄まじい技を振るうバリトンや、これもほとんど至近距離で連続砲撃してくるミグの方が脅威のはずだ。
 けれど赤竜の本能はこの巨人こそが彼にとっての滅びだと断言している。
「歪虚竜種が全てバラムツなのか検証する必要があると思いますぅ」
 星野 ハナ(ka5852)の本日の化粧のノリは最高だ。
 特に唇が濡れたように艶やかで、女に慣れた者でも目が引きつけられる。
「バラムツだと?」
 赤竜はそれが何かは知らない。
 が、それが食べ物であることは分かる。
 殺意と区別できない食欲の気配を向けられているので誤解のしようがない。
「食べるってことですよぅ!」
 エクスシアの腰に、肉切り包丁じみた巨大斧が固定されていた。
 最早何発目からも分からない砲弾が竜鱗と肉を吹き飛ばす。
 壮絶な耐久力故にまだ生き残ってはいるが、そろそろ消滅しても全くおかしくない。
「こやつ」
 血と肉で出来た霧の中、ヤクト・バウ・PBが異常に気づく。
「この状況で一皮剥けるか!」
 ブレスの威力が弱まる。
 刃と砲弾と削られた分はそのままに赤い竜が目に見えて痩せ、動きの精度が。
 凶悪なほどに集中した熱が、幻獣とCAMに襲いかかった。
「一旦下がれ!」
 バリトンが飛び降りる。
 強く命じられたイェジドが高速で竜種から離れる。
 回避だけでなく防御も巧みなはずなのに火傷が深刻だ。
 ミグ機の状態はさらに酷い。もとより躱す機体ではないし、竜種の執念が動力の至近へ大量の熱を伝えることを成功させている。
「この程度か!」
 闘志は失わないけれども左から伝わる熱を感じる。
 今日で左腕ともお別れじゃのーと達観するミグは、いきなり熱が消えたのを感じ取った。
「間に合いました……よね?」
 アティとグリフォンがミグ機の至近にいた。
 赤竜を飛び越える危険な飛行を行ったため、主従揃って浅くない火傷を負っている。
 ミグからの感謝の言葉はない。
 少しでも速く歪虚を撃つのが礼儀であり感謝でもある。
 アティも継続される連続砲撃を満足そうに見下ろした。
「近づかないと使えないね」
 竜が炎を纏ってアティへ迫る。
 グリフォンが着地して回避と防御の能力を回復する。
 もうフライングファイトを使う余力は残っていない。
 だがアティの癒やしの力は健在だ。グリフォンに治癒して主従共にブレスに耐えられる状態を他乙。
「飛んで火に入る赤バラムツです!」
 赤竜とは別方向で禍々しいエクスシアが突入してきた。
 言動は少々過激でもハナはまだ冷静だ。
 アティ主従が盾にできるよう進路を微修正。
 その上で、近距離には向いていないライフルを背中に移動させ、超々重斧を両手で構えさせる。
「アンタの肉質を検証できる大事な機会ですぅ、肉寄こせですぅ!」
 恐るべきブレスにより機体前面か赤熱する。
 HMDに膨大なエラーが表示され、背後から注ぎ込まれる癒やしの力により中破程度に引き戻される。
 炎を抜ける。
 ブレスに意識を裂いていた竜の瞳に、驚きの感情が浮かんだ。
「スネ肉ぅ!」
 鱗と肉と骨が断ち割られる。
 爪がついたままの前脚が宙に舞い、ハナ機の足下へ突き刺さる。
「んー」
 満足そうな息と声。
 宙に残る熱が、前脚の断面をレアに焼いてなかなかの香りを発生させていた。
 戦場に光が満ちる。
 光のみの目潰しと、短距離超威力の必殺の一撃が同時に繰り出される。
 ハンター相手の死戦が赤竜を黒竜以上の使い手に押し上げていた。
「尾肉ステーキも」
 エクスシアがすり足で斜め移動。
 完全には躱せず左胸を消し飛ばされるが、マテリアルカーテンと何よりアティの援護が功を奏してハナへのダメージはない。
「いただくですぅ!」
 尻尾の先が綺麗に斬り飛ばされ、竜の巨体が揺れて首が伸ばされる。
 精妙な動きの必須要素の1つが失われ、赤竜の意図せぬ動きであった。
 バリトンの刃が閃き、赤い頭が宙へ舞った。

 遠い昔に竜に落ちた龍は肉も骨も残せず、ある女性に悔し涙を流させたという。

依頼結果

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MVP一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤーka0665
  • エクラの御使い
    アティka2729
  • (強い)爺
    バリトンka5112

重体一覧

参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • White Wolf
    ソレル・ユークレース(ka1693
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    グロリオサ
    グロリオサ(ka1693unit003
    ユニット|CAM
  • 雪の感謝
    リチェルカ・ディーオ(ka1760
    人間(紅)|17才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ダインスレイブ
    ダインスレイブ(ka1760unit008
    ユニット|CAM
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    グリフォン
    グリフォン(ka2729unit003
    ユニット|幻獣
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    カラミティ・ホーネット
    カラミティ・ホーネット(ka4561unit006
    ユニット|CAM
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イルザ(ka5112unit002
    ユニット|幻獣
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka5852unit003
    ユニット|CAM
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka5975unit002
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 追って追われて追いついて?
リチェルカ・ディーオ(ka1760
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/05/04 07:31:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/01 22:09:03