• 羽冠

【羽冠】システィーナ様の為に2

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2018/05/14 09:00
完成日
2018/05/20 19:23

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●王都イルダーナ 某所 夕刻
 ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)は街を彷徨っていた。
 彼女は相変わらず、例の王女の結婚問題のせいで落ち着きを得られず、その日はたまたまハンターオフィスにいい仕事がなかったこともあり、昼間から家で飲んだくれていたのだが、酔いを醒ましに街に出たのだった。

 公園のベンチに腰掛ける。
 自然と頭は色々なことを考えだす。



 何処に行けばいい? 何をすればいい?

 解らない…………。

 正しいこととは何だ。

 王女殿下とマーロウ大公の孫が結婚し、王国は一つに纏まる。
 一つに纏まった王国が歪虚に対抗する。

 王国が一つに纏まる?

 重要な局面ではいつもハンターが戦っていたじゃないか。
 いまさら貴族が加わった所でどの程度の恩恵がある?
 ベリアルも茨の王もメフィストも倒したのはハンターの力あってこそだ。
 貴族が大きな顔をして王国をめちゃくちゃにしないで欲しい。

 そうだ戦うことは私達に任せて……
 貴族は統治する民の幸せを考えてもらいたい……
 そうなればよいのだ。

 マーロウを王女殿下が無視できないのは政治的な意味が大きいのだろう。
 影響力があるという意味で。

 しかし王国の政治と、歪虚との戦いを一緒にしなくてもいいではないか。
 マーロウは政敵。
 歪虚と戦うために政敵と無理矢理一緒になる。
 それがどの程度の意味を持つというのか。

 王女殿下は民の幸せを真剣に考えられるお方だ。
 そういう方に国を治めて欲しい。
 違う考え方に染まって欲しくない。

 マーロウは邪魔だ………………

 しかしマーロウもまた王国の民である。ここが問題だ………………



「ヘザー。ここにいたのか」
 ヘザーの手前勝手で無責任な思考は突然名前を呼ばれたことで打ち切られた。

「……モーリス」
 ヘザーの初等教育時代の学友だったモーリスという男だ。

「今、大勢の人間が王女殿下のために集まって無茶なことをしようとしている。
 いつかのようにな……」
 そう言ったモーリスの言葉は何処か自虐的な響きがあった。
 彼自身、過去に人々に呼びかけ、歪虚を倒しに行こうと呼びかけたことがあった。
 システィーナ様の為に、と……。
 だがその試みはヘザーと、彼女に同調したハンター達によって阻止された。
 そして知った。自分は王女のためと言いながら、王女の心に添っていなかったことを。
「皆焦っているのさ。正しいことは何だ、何をすればいいのかと。
 その結果、正しくない行動を選んでしまうものもいる。
 たとえば僕はあの時、普通に王国民をしていればよかったんだ」

 ヘザーはベンチから立ち上がる。そして聞いた。
「そいつらはどこに行く気なんだ?」

「第二街区の貴族街。貴族の邸宅を襲おうとしている」

 ヘザーは走り去った。
 モーリスは一人、その背中を見送る。
 そうすることが自分の役割だと信じて。



●王都イルダーナ 大通り
「貴族が悪い!」
「「「貴族が悪い!」」」
「マーロウは黙れ!」
「「「マーロウは黙れ!」」」
 呼びかけに合いの手が入る。
 つい最近も別の土地で起きた群集の活動だ。
 それが今度は王都の中で起こっている。

「皆! 俺達が何を訴えようが貴族は聞く耳を持たない!
 しかし痛い目に遭えば無視できなくなるだろう!
 この国であんまり大きな顔をするようなら、俺達が黙ってないぞと、マーロウや貴族達に教えてやるんだ!」

「天誅を!」
「天誅を!!」

 今回の目的は最初から破壊活動なのである。
 罪のない王国の民は今、手に手につるはしやハンマーなどを持ち、行進している。その先頭には魔導アーマーまでがいる。
 この騒ぎを聞きつけ、ビジネスチャンスと見た商人がいたのだ。
 また、中には少ないながらも覚醒者が混じっている。
 そして、こんな騒ぎにもかかわらず騎士団の姿はない。



 彼らを見つけたヘザーは、前に回りこみ、たった一人で群集の前に立ちはだかる。

「止めろ! こんなことをしても王女殿下は喜ばない!」

 声の限りに叫んだ。
 しかし大勢の人間が群れているのに対して一人の言葉がどれだけの意味を持つのだろう。

 魔導アーマーが迫り、ヘザーを撤去しようと腕を伸ばした。それはさながら作業機械が障害物を除去するような動きだった。

 だがそこに割り込み、魔導アーマーの腕を弾き飛ばしたものがあった。

「無茶するんじゃねえぜ、ヘッド!」
「一人で突っ走るなよ!」

 現れたのは、ヘザー率いるギルド『愉愚泥羅』の面々だった。

「お前達、どうしてここに……」
「野暮なことは言いっこなしじゃ」
 メンバーの一人、閃姫が片目を閉じて言った。
「私達だけじゃない」
 アハズヤは自分達とは違う方向を指さす。

 そこには、彼女と思いを同じくするハンターの姿があった。



「邪魔をするな!」
「かまわねえ、蹴散らせ!」
「貴族達に天誅を与えるのだ!」
「システィーナ様のために!」
 群衆は口々に怒声をあげる。

「多少痛い目に遭わなきゃわからねーみたいだな」
「駄目だ! 怪我をさせては!」
「しかしヘッド……」
「王国の民を傷つけては、王女殿下が悲しむ。
 可能なら、彼ら自身が自身を傷つける事からも守らなければならん」
「そんなこと言ってる場合かよ?」
「なら戦意が削げればいい!
 できるはずだ……私と君達なら!」
 ヘザーは力強い視線で、仲間達を見た。



「オレたちの邪魔するんなら容赦しないぞー! パパから悪い奴はやっつけろっていわれてるもんねー!」
「貴族連中がムカつくってわかんねーのか。俺がムカつくってことは殴っていいってことだ!」
「私、王家派だから。難しいことはわかんないけど、貴族を倒せば王家のためになるよね?」
 ヘザー達に挑むように現れた三人の人物。1人は少年、若い男、若い女だ。
「こいつら……覚醒者か」
「子供までも……精神的に未熟な者を扇動してまで!」
 年嵩の愉愚泥羅メンバーが憤慨する。
「まず戦力になりうる奴らを戦闘不能にするんだ。そして一般人から士気をなくさせる!」
 ヘザーが指示を出す。
「こんなところでいいか?!」
 ……が、やはり不安なのか、意見を求めるようにハンターの方を見た。

リプレイ本文

●援軍の到着
「ヘザーさん! 大丈夫?」
「ミコト!」 
 ヘザーを気遣うミコト=S=レグルス(ka3953)。ヘザーの妹分である彼女が駆けつけていた。そして思う。
(相手が悪ければ何をしてもいい……それは一番危険な『正義』の形)
 ヘザーのためだけでなく、暴徒となってしまった無辜の民のために彼女はここにいるのだ。

「我々はハンターだ。君達の危険行為を止める為に来た!」
 最前列ではキャリコ・ビューイ(ka5044)が呼びかけていた。手には勲章が光っている。それが意味するように自分達はベリアルやメフィストを倒したハンターであり、今すぐ止めないと実力で排除するとも言った。

「やってみろー!」
 こう返ってきた。

「成程、成程、いやこれは如何にも不味い」
 群集の反応を見たマッシュ・アクラシス(ka0771)は首を横に振り、ヘザーに零した。
「なんとか穏便には、ならないものですかかねえ……義憤だけではどうにもならない事も有りましょう」
「穏便さんなら旅に出た。キョウトあたりにな」
 ヘザーも半ば自棄になってこう返した。
(このままでは、いささか不利益ですな……)
 マッシュはそう判断し、自ら厄介事に首を突っ込んだ。

「悲しいなァ……」
 悲哀と共に煙を吐き出す、シガレット=ウナギパイ(ka2884)。
 ハンターからしたら無辜の民は護るべき人々。それから刃を向けられているという現実がここにある。
 同盟の人間であるシガレットから見れば、よけいにその悲しさが際だって見えた。

(バカバカしくて笑えてくるぜ)
 一方ボルディア・コンフラムス(ka0796)はシガレットとは対照的に冷笑していた。
(テメェのやりたい事を、他人の名前を使って理由をすり替えて実行するたぁな。分かってる奴も分かってねぇ奴も、分かってて煽る奴も……)

 王国名門騎士の家の出であるヴァルナ=エリゴス(ka2651)の内心はどうか。
 彼女の場合、王女への気遣いが真っ先に来る。
(このままではかれらは賊となってしまう……殿下に己を想う民を討たせる訳にはいきません。必ず止めてみせます)
 現在もこうして、群集を前にして王女を思慮している。


●激突
 膠着状態は僅かで終わった。

 魔導アーマーが、鎖に繋がれた鉄球をハンターに向かって振り下ろした。まるで建物でも解体するかのように――

 建物なら解体できた。しかし。
 鉄球はハンターの1人に当たって、
 ――跳ね返った。

「覚醒者にはアーマーでも勝てねえ」
 ボルディアは射抜くように魔導アーマーの搭乗席を視る。
 彼女を守るガミル・ジラク・アーマーには傷一つない。この程度の武器で、太刀打ちできる護りではない。
「こいつ、ムカつくぜ!」
 覚醒者の男がルーサーンハンマーを振り下ろした。ボルディアは先のように、避けもせず鎧の腕部で受け止めた。
「動かねえ……!」
 ハンマーはボルディアの上げた腕を、下ろさせることすらできない。
「すっこんでろ」
 ボルディアは男を押しのける。魔斧「モレク」――これも凶悪な業物――を掲げると、魔導アーマーに向かって振るった。

 片脚が――まるでニンジンか何かのように――飛んだ。

「暴徒鎮圧を邪神討伐か何かと間違えてやしないか」
 ヘザーは色んな感情がないまぜになってこう漏らした。



 別の魔導アーマーもまた鉄球でハンターに攻撃を加えていた。こちらでは、直撃の瞬間に目的が消え失せた。
「居ねえだと……!」
 地面にめり込んだ鉄球から視線を巡らせる。
 目標はだいぶ視線を上に、そして横に動かした所で見つかった。
 目標であるキャリコは、道路沿いの建物の壁に張り付いていた。
「警告はしたぞ。これより、敵対勢力の無力化を開始する」

「そういう訳ですので」
 マッシュが間髪を入れずジャッジメントを行使した。光の杭が現れ、魔導アーマーを貫く。
 魔導アーマーは行動が阻害された。搭乗者が苛立たしげに操作する中、キャリコが操縦席に向けてアンカーを発射した。
 それは操縦席の脇に突き刺さる。キャリコは壁を蹴った。同時にアンカーを巻き取る。糸を垂らした蜘蛛のように空中を舞い、キャリコは魔導アーマーの操縦席付近に着地した。
 搭乗者は声も出ない。引きつった顔でキャリコを見つめる。
 キャリコは拳銃剣を抜き、シートに搭乗者を固定しているベルトを切り取った。
「敵魔導アーマーを無力化! ヘザー! 敵の回収を頼む!」
 余りにも鮮やかだったのでしばし呆気に取られていたヘザーだったが、気づいて弾かれたように向かった。



 残る一機はヴァルナと相対していた。
「全員が全員堅いわけでも、素早い訳でもあるめえ!」
 搭乗者は実力差を目にしたにも関わらず果敢に攻める。
 振り下ろされる鉄球。
 しかし、それはヴァルナの剣によって軌道を反らされ、地面へとめり込んだ。
 ヴァルナは駆け出す。一気に魔導アーマーの腕に跳躍し、腕を蹴ってさらに跳躍した。両手剣を空中で振り上げる。
 火の粉のようなマテリアルが美しく舞った。
 落下とともに剣を振り下ろす。直撃の瞬間、凄まじい閃光が発し……次の瞬間には焼き切れたような跡を残して腕は地面に落ちていた。
「少なくとも私も貴方より強い。さあ、続けますか」
 ヴァルナは残心をとりつつ、凛として言った。



「貴族みたいに人を見下してる奴が一番ムカつくんだよ! お前もそうだ!」
 覚醒者の男はルーサーンハンマーでボルディアに殴りかかる。
「おまえが勝手に勝てねえ相手に喧嘩売ってるだけだ。ほらどけ」
 ボルディアは鎧に当てて防ぐ。揺らぎもしない。無視して魔導アーマーに向かう。
 男は懲りもせず得物を振り上げた。しかし、その足元に銃弾が撃ち込まれた。
「貴様の相手はァ……俺だ」
 シガレットが銃を向けて立っていた。
「ほれ、こっちゃ来い。逃げやしねえから」
 男は挑発に乗って、シガレットに向かう。
 一気に距離を詰め、振り上げた得物を叩きつける。
 シガレットはこれを盾で受け止めた。
「アレに挑むたァ……命知らずだな貴様」
「あぁ?!」
 男はもはや狂犬だった。
 シガレットはなおも繰り出される攻撃を盾で受け止め、何度かいなしてから太股を銃で撃ち抜いた。
「うぐっ……!」
 男はバランスを崩し膝を突いた。
「しばらく大人しくしてなァ」
 シガレットは男の武器を蹴り飛ばした。
「貴様みてぇな若ぇのがこうだと悲しいぜェ。今は説教してる時間はねえ、後で近くの教会に行きな」
「待て、わざとか!」
「あ?」
「わざとアイツから遠ざけて生殺しにしてんだろ!」
 男はあごをしゃくってボルディアを指した。
「そりゃあそうだろ……
 俺達の仕事は命を救うことだ。

 ま、ボルディアが殺すとは思ってねぇがなァ」

「見た目の凶悪さは似たようなもんだってんだコラァ!」



 一行は魔導アーマーから先に対応しようと考えていたが、一人一機でも対応できると踏み、覚醒者の相手もし始めた。

「お姉ちゃん、どうして悪い奴の味方するんだ!?」
「悪い奴の味方なんかじゃないっ……でも、していいことと悪いことがあるんだよ」
「悪い奴はぶっ飛ばせばいいじゃん! ヒーローみたいにさ!」
 年端もいかない少年にミコトが相対していた。幼くとも纏うオーラが覚醒を示している。
 少年はいきなり消えたように見えた。突然頭から突っ込んできたのだ。
 ミコトはグローブでガードする。少年は着地するや否や、後方に宙返りしつつ蹴り上げた。
 だが、ミコトはその一撃もいなした。
 ミコトは突如として手足に焔を纏った。頭上に獣の耳、腰に尻尾が形成される。
 その姿は、焔の獅子のようであった。
 変異はそれに止まらない。ミコトの体は魔導アーマーに匹敵する大きさになった。
 現界せしもの。
 そう呼ばれる技法である。
「か、変わった」
 少年はその威容に圧倒される。
 ミコトはリーチと体格差を利用して、少年を押さえ込んだ。そして言った。
「いい、ヒーローはそんなことしないの。誰かを悪い奴だと決めて、やっつけるなんて、そんなのは本当の正義じゃない。
 何が悪くて、何をすればいいのか、まず考えること。それがヒーローの第一歩だよっ」

「お……お止め下さい!」
 群集の中から男が飛び出し、ミコトの手にすがりついた。
 それが少年の父親だと、すぐにわかった。
「自分の子供にこんなことさせて平気なんですか?」
 ミコトは言った。父親はうつむいたまま何も言わない。
「ごめん、パパ……次はがんばるから……」
 子供にはまだわからない。自分がしたことの意味が。ただ親の言いつけを守れなかったことを謝罪するのみだ。



「えっと……邪魔するのはやめて。私達を行かせて!」
 覚醒者の女が言った。刀を構えている。
「この人達は王女様の邪魔をする貴族を倒そうとしているのよ!」
「それはあなたの利益になることなのですか?」
「えっ……?!」
 女の前に立ちふさがりマッシュが問う。問われて女は返答に詰まった。
 マッシュにはそれでわかった。
 この女はよく考えて参加しているわけではないと。
 問答は十分だった。

「あー、失礼します。私こういった事は不慣れでしてその……」
 マッシュはサーベルを抜き、言葉とは裏腹に的確な剣筋で打ちかかっていく。
 女は一気に考えを切り替え、刀で応戦した。さすがに舞刀士だけあって、簡単に攻撃を通しはしない。
 様々な方向から繰り出される斬撃をマッシュはサーベルとグローブを駆使して凌ぐ。
 両者立ち位置を何度も入れ替えて数合打ち合った。
 やがてマッシュが精密なヒッティングで、女の手首を打ち刀を落とさせた。当てたのは刃のない部分なので、斬ってはいない。
 マッシュはさらに踏み込み、足元を打って体勢を崩させる。そして喉元に切っ先を突きつけた。
「降伏してくれませんか」
「私……私……頼まれちゃったから……」
「理由は後で伺いますから」
 制圧にはそれで十分だった。



●無辜の民
 やがて魔導アーマーもすべて無力化された。だが一番厄介なのは、何の力も持たない一般人達だった。
 数が多い上に、武力を奮ってこない相手には武力で太刀打ちできない。
 ヘザー達が行く手を遮っていて、ヴァルナに請われた愉愚泥羅の聖導士やシガレットがディヴァインウィルで妨害したため、突破したり戦闘に乱入してくる者はいなかったが、彼らはそこで座り込みを始めた。
「ここを通せー!」
「お前たちは貴族に組するのかー!」
 もはや野次を浴びせてくるのみであるが、解散する雰囲気ではない。

「聞いて下さい! あなた方が騒ぎを起こせば、王女殿下はより追い詰められてしまいます。ご自身を慕う民を、反逆者として自ら裁かねばならない苦しみを味わせてしまうことになるのです!」
 ヴァルナは無力化した魔導アーマーの残骸の上から、アプレワンドで拡大した声で呼びかけた。
『障害を排除出来なかった』のを見ていくばくか冷静になったのか、ヴァルナの言葉に耳を貸し、心から王女を想う彼女に共感を覚えた者もいた。そういった者は、大人しく帰った。

「よし、自分が正しいと思うヤツは前に出ろ。一人一人写真撮って名前を記録したうえで主張を聞いてやる」
 ボルディアが前に出て呼びかけた。
 かれらに冷静さを取り戻させるのが狙いだった。集団となった時人が残酷になるのは、一人一人が名前の無い個人であり、「集団を構成する一要素」に過ぎないと認識しているからだ。だったら集団から個人を『切り取れ』ばいい――ボルディアはそう考えた。
「俺はベリアル戦で名誉勲章を貰ったハンターだ。その気になれば王女と面会できる」
 嘘だが説得力があった。王女はハンターとも懇意にしている。
「黒の騎士の知り合いも何人かいる」
 これは本当だった。黒の騎士は英雄視されている。少なくとも嘘の説得力は増した。
 群集の中からはボルディアの言うとおりにした者もいたが、ごく少数だった。それよりも冷静になったことで何割か帰ったことが大きかった。

 それでも帰らない人間がいた。結局かれらにも実力行使が必要だ……そう考えるのが自然な状況と言えた。
 キャリコは発煙手榴弾を手に取った。元々は魔導アーマーの搭乗席に投げ込もうと思って結局使わなかったものだ。
 それを群集に向かって、投げつけた。
 殺傷力のないただの煙だが、座り込みを妨害するのには十分だ。
 この行動が、これまでの流れで士気が削がれていた所へのとどめとなった。
 群集はあと僅かだった。

「よし……もう何もできないだろう」
 ヘザーは自分達の勝利を確信した。



●謎のいくつか
「皆……ありがとう。善き隣人でいてくれたな」
 ヘザーが礼を言っているのは、群集の行動を、命を奪うことなく止めてくれたことに対してだ。
 無辜の民を罪人にせずに済んだ。それが嬉しかった。

「しかしよォ、妙だなァ」
 シガレットが言った。拘束した者を治療し終え、一行に合流した所だった。
「ええ。なぜ騎士団も衛兵も来ないのでしょう」
 マッシュが引き継いだ。この騒ぎでそれは不自然だ。
「それだけじゃない。素人に毛が生えたような奴らだったけど、それでも素人じゃなかっただろ」
 ボルディアが指摘した。
「この行動は突発的なものではなく、計画されていた……?」
 ヴァルナが思案する。
「魔導アーマーがある時点で計画が必要になるはずだ」
 キャリコがそう言ってヘザーの顔を見た。

「……尋問してみよう」
 ヘザーは拘束した覚醒者や魔導アーマー搭乗者達を見た。



「この際だ、洗いざらいぶちまけてやろう」
 魔導アーマーの搭乗者だった男が言った。
「俺達を扇動した奴を知っている。そいつが金を受け取ってた所を見たんだ」
「どんな奴だった?」
 質問はヘザーがしている。
「フードを被っていて顔は見えなかった。服はマントで覆い隠していたな」
「街中で?」
「街中で」
「靴は汚れてなかった」
「……」
「手袋もしていたな。白いやつ」
「……」
「あとは……どこか姿勢もよくて……」
「おい私は名探偵でもなければ探偵でもない! はっきり誰か言え!」
「えっ、んなこと言われたってよ……」

「『貴族の使用人のようだった』って事じゃないのか」
 脇で聞いていた愉愚泥羅メンバーが助け船を出した。
「言われてみれば、そんな気もしたな」

「何でしょうか。つまり今回は、必ずしも義憤ばかりから発生したものではないと」
 マッシュが考えを述べる。
「じゃあ騎士団が来ないのも……」
「裏にいる貴族が根回しをしたから……?」
 シガレットの言葉をヴァルナが引き取った。騎士の家の出であるヴァルナにとっては考えたくない可能性ではあるが、残念ながら金で動く騎士も存在するのが事実である。

「誰が何のためにそんなことを……?」
 ミコトが深刻な表情になる。
「さあな。だがこれが仮に王女殿下を困らせるためにやってるっていうんなら……わかるよな」
 ヘザーはヴァルナの顔を見る。王女の心を思う彼女なら思い至るのではないかと思ったのだ。

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参加者一覧

  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/10 02:10:45
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シガレット=ウナギパイ(ka2884
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/05/13 18:14:15
アイコン 質問卓
シガレット=ウナギパイ(ka2884
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/05/13 11:38:49