ゲスト
(ka0000)
【操縁】Malizia
マスター:風亜智疾
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/17 22:00
- 完成日
- 2018/05/28 03:01
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
■Invidia
エミーリオがそれに興味を持ったのは、本当に偶然だった。
随分と前に焼け落ちたのだろう村の片隅に蹲る青年から漂う、酷い執着の香り。
その源は何なのかと辿ってみれば、彼の手元には煤けはしたものの辛うじて形を留めた一枚の絵。
この廃屋だらけの村の中で唯一生命と呼べるその青年へとゲームを持ち掛け、そうして契約した。
いいな、と思った。ずるい、とも思った。
執着出来るだけの何かを持った青年が、酷く妬ましかった。
そして同時に、理解が出来なかった。
何故、妬ましく思う相手を排しないのかと。
《ヒト》に見られる『忍耐』やら『我慢』やら。
そういうものを、エミーリオは嫌いだし、苦手としていたから。
それが、今から約10年前のお話。
やがて青年は嫉妬の歪虚・エミーリオとのゲームに負けた。
周囲はそう思うだろう。
けれど違う。エミーリオは嗤った。
エミーリオという歪虚にとって、あの青年はゲームの駒の一つ。
彼が用意した舞台上で演じる役者の一人にしかすぎなかったからだ。
この世界において《ヒト》という形を取る生き物は須らく嫉妬という感情を持ち合わせているものだと、エミーリオは思う。
そうでなければこの世界で『嫉妬』を好む歪虚が存在出来るはずがない。
他の歪虚の考えなど、エミーリオは知らない。
楽しそうなゲームであればちょっかいをかけるし、そうでないなら傍から見て楽しむだけだ。
そして今、彼は誰かの用意した大きな舞台よりも、自前の舞台の方が楽しくて仕方がない。
舞台に上がるためのチケットは既に、対戦相手に届けられた。景品だって、当の本人は気づいてないだろうがちゃんと用意してある。
ただ残念なことに、景品を入れておくために用意しておいた森の奥の鳥籠は使えなくなってしまったが。
「まっ、使えなくテモどうにでもなるからイイけどネっ! キャハハハハッ!!」
実際のところ、エミーリオという歪虚が絵本に固執する理由などない。
ただ気まぐれで始めたゲームの駒が、それに酷く執着していたから。それを中心に嫉妬を増長させていたから。
ゲームの駒を動かしていたら、対戦相手が出来たから。
その程度だ。その程度だった。
けれど、気づいたら使わない手はないのだ。
ジャルージーは《ヒト》が面白くて仕方がない。妬ましくて仕方がない。
何故あの絵本に『子狐』が出てこないのか。
出逢う人々を動物にして絵本に出すのなら、その中にどうして作者を表したものがいないのか。
けれど、作者はとある時から『子狐』と自身を動物として表しているらしい。
だというのに絵本には一度も子狐は出てこない。妬ましさを感じ取って愉しくて嗤いが止まらない。
もし万が一『子狐』が絵本に出てきたとしても、その子狐は決して不自由な姿ではないだろう。
他の動物たちと同じように動き回り、旅をし、遊びまわるのだろう。
現実の『足の悪い子狐』など、初めからいなかったかのように。
人間は愛しいと思うものに対して、よく妬ましさを抱くことがある。
それこそが嫉妬の歪虚たる自身の好物だ。
妬み嫉みは常に表に出るものではない。当人すらも知らず知らず胸の内で、大事に大事に育てられるものだ。
そうして当人がどうしようもなくなった時こそが、彼にとっての刈り入れ時。
だから待っていた。ずっと。ずうっと。
歪虚はずっとゲームを続けていた。
お互いの駒を潰し、どちらかが倒れればゲームオーバー。
「さぁ、ソロソロ次のゲームを始めようカ!」
退屈はダイキライ。我慢もダイキライ。
そんな自分にしては、待ってやった方なのだ。だから。
「楽しませてクレナイと、どーなってもシラナイよ!」
■paura
どうして。どうしてどうしてどうしてなんでなんでなんで。
その日。ある雑貨屋で働く男は、今度新しく別の街に出店するための品物を受け取り、新しい店舗へと届けている所だった。
相手はとある事情でなかなか出歩くことが出来ない人だったので、時間の都合がつくときにこちらから出向くようにしていたのだ。
庭の綺麗な一人で住む相手は、街から少し外れた場所にその居住を構えている。
以前、なぜ不便な場所に住むのかと尋ねたことがあった。
己の問いかけに相手は笑って、少しでも多く自立するためだと答えた。
周囲に人手が多いとつい頼りすぎてしまうから、と。周りも手を貸してくれるだろうから、と。
それにちょっとだけ、と。
「ほんのちょっとだけ、だけれど。毎日自由に動き回るみんなを見ていたら、いいなって思ってしまうかもしれないから」
目の前に迫る鋭い牙に、男は動けない。
鋭い牙のその更に向こうで、金の髪が風に揺れる。
三日月のようににたりと上げられた口角と、白磁のような肌を包むドレス。
そして何より、無機質に光る緑の瞳。
眼前の獣は普通の獣ではない。
明らかに無機質の……まるで石のようなもので出来た、ズタボロの布みたいなものを首に巻き付けた、それは。
「はっ、灰色おお――」
――ブラックアウト。
エミーリオがそれに興味を持ったのは、本当に偶然だった。
随分と前に焼け落ちたのだろう村の片隅に蹲る青年から漂う、酷い執着の香り。
その源は何なのかと辿ってみれば、彼の手元には煤けはしたものの辛うじて形を留めた一枚の絵。
この廃屋だらけの村の中で唯一生命と呼べるその青年へとゲームを持ち掛け、そうして契約した。
いいな、と思った。ずるい、とも思った。
執着出来るだけの何かを持った青年が、酷く妬ましかった。
そして同時に、理解が出来なかった。
何故、妬ましく思う相手を排しないのかと。
《ヒト》に見られる『忍耐』やら『我慢』やら。
そういうものを、エミーリオは嫌いだし、苦手としていたから。
それが、今から約10年前のお話。
やがて青年は嫉妬の歪虚・エミーリオとのゲームに負けた。
周囲はそう思うだろう。
けれど違う。エミーリオは嗤った。
エミーリオという歪虚にとって、あの青年はゲームの駒の一つ。
彼が用意した舞台上で演じる役者の一人にしかすぎなかったからだ。
この世界において《ヒト》という形を取る生き物は須らく嫉妬という感情を持ち合わせているものだと、エミーリオは思う。
そうでなければこの世界で『嫉妬』を好む歪虚が存在出来るはずがない。
他の歪虚の考えなど、エミーリオは知らない。
楽しそうなゲームであればちょっかいをかけるし、そうでないなら傍から見て楽しむだけだ。
そして今、彼は誰かの用意した大きな舞台よりも、自前の舞台の方が楽しくて仕方がない。
舞台に上がるためのチケットは既に、対戦相手に届けられた。景品だって、当の本人は気づいてないだろうがちゃんと用意してある。
ただ残念なことに、景品を入れておくために用意しておいた森の奥の鳥籠は使えなくなってしまったが。
「まっ、使えなくテモどうにでもなるからイイけどネっ! キャハハハハッ!!」
実際のところ、エミーリオという歪虚が絵本に固執する理由などない。
ただ気まぐれで始めたゲームの駒が、それに酷く執着していたから。それを中心に嫉妬を増長させていたから。
ゲームの駒を動かしていたら、対戦相手が出来たから。
その程度だ。その程度だった。
けれど、気づいたら使わない手はないのだ。
ジャルージーは《ヒト》が面白くて仕方がない。妬ましくて仕方がない。
何故あの絵本に『子狐』が出てこないのか。
出逢う人々を動物にして絵本に出すのなら、その中にどうして作者を表したものがいないのか。
けれど、作者はとある時から『子狐』と自身を動物として表しているらしい。
だというのに絵本には一度も子狐は出てこない。妬ましさを感じ取って愉しくて嗤いが止まらない。
もし万が一『子狐』が絵本に出てきたとしても、その子狐は決して不自由な姿ではないだろう。
他の動物たちと同じように動き回り、旅をし、遊びまわるのだろう。
現実の『足の悪い子狐』など、初めからいなかったかのように。
人間は愛しいと思うものに対して、よく妬ましさを抱くことがある。
それこそが嫉妬の歪虚たる自身の好物だ。
妬み嫉みは常に表に出るものではない。当人すらも知らず知らず胸の内で、大事に大事に育てられるものだ。
そうして当人がどうしようもなくなった時こそが、彼にとっての刈り入れ時。
だから待っていた。ずっと。ずうっと。
歪虚はずっとゲームを続けていた。
お互いの駒を潰し、どちらかが倒れればゲームオーバー。
「さぁ、ソロソロ次のゲームを始めようカ!」
退屈はダイキライ。我慢もダイキライ。
そんな自分にしては、待ってやった方なのだ。だから。
「楽しませてクレナイと、どーなってもシラナイよ!」
■paura
どうして。どうしてどうしてどうしてなんでなんでなんで。
その日。ある雑貨屋で働く男は、今度新しく別の街に出店するための品物を受け取り、新しい店舗へと届けている所だった。
相手はとある事情でなかなか出歩くことが出来ない人だったので、時間の都合がつくときにこちらから出向くようにしていたのだ。
庭の綺麗な一人で住む相手は、街から少し外れた場所にその居住を構えている。
以前、なぜ不便な場所に住むのかと尋ねたことがあった。
己の問いかけに相手は笑って、少しでも多く自立するためだと答えた。
周囲に人手が多いとつい頼りすぎてしまうから、と。周りも手を貸してくれるだろうから、と。
それにちょっとだけ、と。
「ほんのちょっとだけ、だけれど。毎日自由に動き回るみんなを見ていたら、いいなって思ってしまうかもしれないから」
目の前に迫る鋭い牙に、男は動けない。
鋭い牙のその更に向こうで、金の髪が風に揺れる。
三日月のようににたりと上げられた口角と、白磁のような肌を包むドレス。
そして何より、無機質に光る緑の瞳。
眼前の獣は普通の獣ではない。
明らかに無機質の……まるで石のようなもので出来た、ズタボロの布みたいなものを首に巻き付けた、それは。
「はっ、灰色おお――」
――ブラックアウト。
リプレイ本文
■火華
急行した現場でハンターたちが見たのは、血濡れた絵本を左腕で抱えニタリと嗤う金糸のジャルージー。
その両サイドで石の羽を打ち鳴らすウッチェッロたちと、石が擦れ合うような唸り声を響かせるピエトラルーポだった。
「やぁ。また酷い舞台の準備かい、エミーリオ」
飽きないね、と肩を竦めつつ腕の中の物語を見つめるルスティロ・イストワール(ka0252)の言葉に、エミーリオは耳障りな嗤い声をあげる。
「キャハハッ! もう舞台《ゲーム》はハジマッテる。キミたちだってわかってるクセに!」
「いいぜ、そんなにゲームが好きならのってやるよ。お前の盤上で勝負しようか」
掌で遊ぶように回され歪虚へ向けられた武器は、絵本を抱いたエミーリオの手を嘗て貫いた『射光』。
神代 誠一(ka2086)の腰で揺れる真白の標を視界に入れた歪虚は、面白くなさそうに頬を膨らませた。
「いいナァ。ボクもそれがホシイなぁ」
キン、と。空気が凍ったような気がした。
「そうか……お前がエミーリオか」
成程、聞いた通りに悪そうな顔をしている。と。グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)がわざとらしく首を傾げて告げる。
緑の目を細めて見返してくるエミーリオへと、彼は軽く両手を上げてみせた。
「おっと失礼。俺のことは気にしなくていいぜ」
自分は他のメンバーほどエミーリオとの因縁を持っているわけではない。
自分よりも遥かに殺気立っている他の主役たちに集中したらどうだという彼の態度に、どうやらエミーリオは不信感を持っているようだった。
それも当然だろう。
彼だって、嫉妬の歪虚に対して優しいわけでは決してないのだから。
「逃す気とか欠片もないから覚悟しとけよ?」
小さく上げられる口角。狙いは上空の蒼い鳥。
「さあ」
小さく息を整えたレイレリア・リナークシス(ka3872)は、紫水晶の瞳に敵を映す。
前回は全員でやっと一矢報いることが出来た。その敵へ。
「最初から全力で参ります。一網打尽にしてみせましょう」
――彼女の二つの火華によって、正しく戦いの火蓋は切って落とされた。
■煌矢
レイレリアの生み出した二つの焔が爆ぜる。
舞い上がる砂埃と煙のその向こうで『盾石』を発動させたエミーリオが盾を崩して笑みを浮かべた。
(他は――)
上空の蒼鳥は片方が高度を落とし、もう片方はどうやらうまく防御したらしい。
地を往く石狼はややダメージが通っただろうが、やはりこちらも直撃とはいかなかった。
攻撃と同時、前衛たちがそれぞれの目標へと走り出す。その後方で。
光と闇の煌きを放つ矢を番えた浅緋 零(ka4710)が、赤い瞳で静かに上空の蒼鳥を見据えていた。
ただただ静かに。ただただ厳かに。
相反する力を込めた制圧の矢を空へと放つ。
鋭い雨のようなその攻撃に、蒼鳥が動きを止めたのをグリムバルドは見逃さなかった。
自身の立ち位置を前衛を巻き込まぬ場所へと移動させ、上空で動きを止めた蒼鳥目掛け炎の魔扇を発動させる。
灼熱のエネルギーが蒼鳥を巻き込み、二羽のウッチェッロはその高度をさらに下げる。
「流石に硬いな」
急行中に聞いていた情報通り硬さだけは一人前のようだ。
撃破とまではいかなかったが、それでも高度を落とすことには成功したから結果は上々ともいえる。
「まだまだ。更に追い込んで見せましょう」
レイレリアの声と冴え冴える零の瞳が、蒼鳥を捉えて離さない。
他方、石狼へと肉薄したのは鞍馬 真(ka5819)と誠一、ルスティロだ。
「あまり趣味のいい配役じゃないな」
ルスティロが放った魔矢を持ち前の俊敏性で石狼が回避する。
それを囮にした真は、スキルを発動させ普段以上の勢いと加速をつけた二刀を振りかざした。
「悪いが、その姿が許せないんだ……!」
石狼の首元ではためく布に、不快感だけが増していく。
その想いすら力に変え、白光の刃を縦一閃。石狼は飛び上がってそれを避けるも、続けて襲い来るのは血色の大剣、横一閃。
大剣の重みを利用した遠心力を利用して、真は体を回転させると更に石狼の胴を薙ぎ払う。
歪な鳴き声が響く。
そこに文字通り跳躍するように移動してきたのは誠一だ。
手にした赤い光は彼の怒りそのもの。
噛みつかんばかりに牙を振るう石狼へ赤光を一投。残される影を利用し不意を突いて更に一投。
これには俊敏性の高い石狼でも対応は出来なかった。
大きな鳴き声と共に崩れ落ち礫へと変貌する狼を一瞥し、次の敵へと目を向けた。
ジャルージーは嗤っている。
■金煌
敵も黙ってはいなかった。
高度を落としつつも片方の蒼鳥が耳を劈くような鳴き声を放つ。
「――っ!!」
ぐらり。まるで平衡感覚を狂わされるような。そんな錯覚が後方の蒼鳥対応のメンバーを襲う。
次の瞬間。
もう片方の蒼鳥が大きく、巻き起こした風を鋭い刃に代えるような一撃を放った。
事前に全体の防御力を上げ、スキルで更に防御を行っていたグリムバルドはまだ立つことが出来たが、レイレリアと零は直撃を受けて膝をついてしまう。
「クソっ」
比較的グリムバルドの傍にいたレイレリアよりも、僅か離れていた零が次狙われてしまえば危険だ。
エナジーショットを零へと放ち、次弾を装填する。
瞬く間に再生していく傷を確認して、零はゆっくり立ち上がった。
赤く赤く光る瞳に、風を巻き起こした蒼鳥を捉え。
番えた矢は絶対零度。上乗せしたスキルによって放たれた矢は加速して蒼鳥を貫いた。
崩れ落ちた片割れに構うことがないのは、蒼鳥がゴーレムという無機物だからだろうか。
いっそ哀れだと、レイレリアは思う。
グリムバルドが放った次弾のエナジーショットで回復したレイレリアが、中空に緑の紙片を投げ放つ。
「まだ序盤です。ここで崩れるわけにはいきません」
迸る雷は神の怒り。
直撃を受け、蓄積したダメージに耐えきれなくなった蒼鳥が地に墜ちる。
最後に蒼鳥が見たのは、金に煌く、瞳。
全てのゴーレムが沈黙し、地には礫だけが落ちている。
全員の視線の先には――舞台の主催でメインディッシュ。
嗤うジャルージー、エミーリオ。
■舌戦
パチ、パチ、パチ。
場違いな音を生み出しているのは、小脇に血塗れの絵本を抱えたエミーリオだった。
「オメデトー! 今回は上手にコマをどけられたネ!」
眇められた零の視線が、絵本へと向けられたのを確認して歪虚は嗤う。
「欲シイ? でも、あーげナイ! これはボクのだよ。これからタノシイ愉しいことに使うんだ!」
エミーリオの緑目は、絵本の更に向こう――それを描いた『彼女』を捕えているようで。
眼鏡の奥、瞳に殺意の光を強く灯した誠一が口を開いた。
「『彼女』に危害を加えるというなら許さない」
今この場にいるものは、少なからず絵本を描いた彼女がどういう想いでそれを作り上げているのか知っている。
この場にいる誠一と零の二人は、彼女が『特別』な呼び名を許す相手。
そして。だから。そう。
「俺は、彼女の瞳にお前が映るだけでも不快だ」
それは誠一が見せつけた『嫉妬』と『殺意』。
嫉妬の歪虚が最も好む感情を、惜しみなく。いっそ腹を食い破らんばかりに与えてやる。
そっと撫でるように腰に結わえられた約束の標に触れれば、エミーリオは面白くなさそうに目を細めた。
「なんでボクの獲物を盗っちゃうのカナー」
「盗ってねぇし、もし盗られたって言うならお前の執着がその程度だったって事だろ」
吐き棄てる様に告げられる言葉に、ジャルージーの口角が凶悪に引き上がった。
「……イイヨ、面白い。なら、でかいクチ聞けなくしてあげるヨ!」
力強く叩きつけられた歪虚の爪先。
そして。
グリムバルドの展開する修祓陣が展開して――。
■淡赤
まず真っ先に行動に移したのは真だった。
「ハロー、エミーリオ。ずっと斬りたいと思っていたよ」
「それはドウモ!」
全ての力を込めた三連撃を、生み出した石盾で防ぎつつエミーリオは嗤う。
まだ余裕だとでもいうのだろうか。だが、石盾にはしっかりと大きな罅が入っている。
「さて、僕の相手も頼もうか? 僕もカーバンクルも、あまり期限が良くはないからね」
逆サイドから友である精霊の爪を生み出したルスティロが引き裂かんとするも、歪虚が打ち付けた爪先から離れた眼前の地面から鋭い棘が生み出された。
回避が間に合わず裂かれた腹部がその程度で済んだのは、グリムバルドが張った陣のおかげだろう。
ふらつきつつも咄嗟に淡赤の衣を生み出し傷を癒していく。
追撃しようというのか、右腕を振り上げたエミーリオへと、レイレリアとグリムバルドが連続で雷を落とし。
「キャハハハッ! いいねイイネ! 今日はちょーっとホンキかな!?」
「ご冗談、ってな」
「こちらはいつでも本気ですよ」
避け切れなかったのか纏うドレスに穴を開けられたエミーリオが嗤い声をあげた。
「楽しそうで何より」
皮肉に告げられた誠一の言葉に、甲高い嗤い声がピタリ、止まった。
「……キミ、ほんっとイラつくね……?」
エミーリオが纏う空気が、瞬間切り替わる。
愉し気に遊んでいたはずの、その空気が。はっきりと。
目の前にいる不特定多数のハンター。ではなく。
神代誠一という、一個人を殺さんと。そう、はっきりと。
だが誠一は怯まない。当然だ。
何故なら彼自身も、凍えんばかりの膨れ上がった殺意を、エミーリオという歪虚にただただ向けているのだから。
「もう彼女が見れないくらい、お前の瞳に俺を焼き付けてやる」
常の温厚な声からは想像も出来ない、冷え切った声音。
自身の親指でトンと指し示したのは、拍動する己の心臓だ。
「――狙いに来いよ。遊ぶんだろう?」
「ニンゲンごときが生意気ナンダヨっ……!!」
殺意が、暴発していく。
■石斬
誠一へと視線を向けていたエミーリオの隙をついて、ルスティロが精霊の赤尾を伸ばし拘束を試みる。
しかし、その眼前へ反り立った石盾がそれを許さない。
勢いよく飛び上がったエミーリオが盾を超え、そのままルスティロへと蹴りを放った。
「―――っ!!」
歪虚の外見のせいもあるが、想像していたよりも遥かに重い一撃にルスティロがよろめく。
追撃をさせぬようにとレイレリアが護符から雷を生み出し、隙を見てグリムバルドがエナジーショットを放つ。
それでもダメージは深く、完治には至らない。
エミーリオが苛立ちを隠さぬままに次の目標に、再度誠一を捕えようとして。
――氷の矢が、その背を貫いた。
よろめいた歪虚の背後。
上手く隙をついてそこに立っていたのは、赤い髪を揺らす鬼子だった。
「ねぇ、痛い……? 冷たい……?」
「お前っ……」
「……それとも、レイの矢じゃ、何も、感じない……?」
凍える氷は、冷たさの次に灼熱の痛みを連れてくる。
よろめきつつ体勢を立て直そうとするエミーリオを、誰も見逃さない。
零に向けられた視線を引き戻すように、真が駆け出す。
エミーリオは咄嗟に地に爪先を叩きつけ石棘を生み出し攻撃するが、それに足を、腹部を、腕を、頬を裂かれても。
ボロボロになっても真は足を止めなかった。
「クソっ!!」
生み出された石盾目掛け、真は声を張り上げ二刀を振りかぶる。
「石なら何度も斬ったことがある。その程度で防げると思うな!」
一撃、小さい罅に。二撃、更に深い罅へ。
そして終撃。咄嗟に作られた石盾だったせいか、それは通常の強度からは遥かに劣るものだったのだろう。
遂に石盾は、崩れ落ちた。
同時に体力の限界だったのか、真が崩れ落ちる。
振り上げられた歪虚の右腕を見上げ、それでも彼は笑った。
「残念だったね。本命は私じゃないよ」
ゲーム。それは、歪虚にとっては力比べ。彼にとっては知恵比べ。
倒れた者。次の矢を番える者。戦友を癒す者。再度拘束を試みる者。雷で牽制する者。
そして、今までの己。
それら全てが、彼にとっての駒だった。
アクセルオーバー発動。新緑のオーラを身に纏い、肉体を加速させ。
ナイトカーテン発動。相手の認識から逃れ、必殺の一撃を、今。
大きく見開かれたエミーリオの緑目が、認識外から眼前に現れた影を疾る者を捕えた。
次の瞬間。
「ヴェラを映した『生意気』な瞳、貰うぞ」
――太陽の光のように輝く杭が、無防備な歪虚の左目を貫いた。
■絶叫
「アアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
迸る絶叫が耳を裂く。
貫かれた左目を押さえるためにあげられた腕から、絵本が滑り落ちる。
残された右目に浮かぶのは殺意。殺意、殺意殺意サツイ。
「殺ス……お前はゼッタイ! コロス!!」
痛みに激昂したエミーリオが、攻撃の直後距離を取ったはずの誠一へと一瞬で肉薄する。
放たれた矢を回避し、雷を足で蹴り破るように打ち破り、束縛の尾を引きちぎり。
振り上げた右腕は、鋭い槍そのもの。
回避が間に合わず誠一は右肩から左の腹部にかけて袈裟懸けに裂かれた。
グリムバルドの陣も回復も施されても間に合わない。
歪虚はもう何度目か、怒りに任せて爪先を地面に叩きつけ、鋭い棘を生み出し誠一の脚部を深く裂く。
よろめいて、それでも倒れないのは誠一の意地か、それとも。
痛みを堪えつつもその鋭い殺意だけはエミーリオから外さない彼を援護すべく、再度陣形を整えようとしたその隙を、歪虚は見逃さなかった。
一気に反転し、歪虚が駆け出す。
自身が受けた傷では長期戦は不利だと悟ったのだろう。
追うことは出来た。それでも追うことは得策とは言えなかった。
回復手段は限られていて、既に底を尽きかけている。
そして被害は前衛を中心に大きかった。
状況はこちらに圧倒的有利で終わる。ならば、二兎は追うべきではない。
捨て台詞すら残さずに、姿を消したエミーリオを確認したところで、今回の戦闘は終了となった。
■絵本
残されたのは、血まみれの絵本。
被害に遭った男の遺体は、それ以上害されることなく残されていた。
男はまるで、荷物――絵本たちを守るように、それに覆いかぶさって息絶えていた。
せめて絵本が無事で残っていたのなら、彼女の元へと思っていたが。
地に濡れたそれを持ち帰ることが、果たして彼女のためになるのだろうか。
零はそっと目を伏せる。
「このまま、は……また、使われるかも、だから……」
ごめんね、ヴェラ。
偶然仲間が持ち合わせたマッチを擦り、絵本へと火を落とす。
せめて優しい物語と共に、男も安らかに眠れますように。
「もう……ヴェラの想いを、利用なんて……させない」
灰になっていく物語を胸に、各々想いを新たに刻んでいく。
操られた縁の舞台の幕引きまで、あと――。
END
急行した現場でハンターたちが見たのは、血濡れた絵本を左腕で抱えニタリと嗤う金糸のジャルージー。
その両サイドで石の羽を打ち鳴らすウッチェッロたちと、石が擦れ合うような唸り声を響かせるピエトラルーポだった。
「やぁ。また酷い舞台の準備かい、エミーリオ」
飽きないね、と肩を竦めつつ腕の中の物語を見つめるルスティロ・イストワール(ka0252)の言葉に、エミーリオは耳障りな嗤い声をあげる。
「キャハハッ! もう舞台《ゲーム》はハジマッテる。キミたちだってわかってるクセに!」
「いいぜ、そんなにゲームが好きならのってやるよ。お前の盤上で勝負しようか」
掌で遊ぶように回され歪虚へ向けられた武器は、絵本を抱いたエミーリオの手を嘗て貫いた『射光』。
神代 誠一(ka2086)の腰で揺れる真白の標を視界に入れた歪虚は、面白くなさそうに頬を膨らませた。
「いいナァ。ボクもそれがホシイなぁ」
キン、と。空気が凍ったような気がした。
「そうか……お前がエミーリオか」
成程、聞いた通りに悪そうな顔をしている。と。グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)がわざとらしく首を傾げて告げる。
緑の目を細めて見返してくるエミーリオへと、彼は軽く両手を上げてみせた。
「おっと失礼。俺のことは気にしなくていいぜ」
自分は他のメンバーほどエミーリオとの因縁を持っているわけではない。
自分よりも遥かに殺気立っている他の主役たちに集中したらどうだという彼の態度に、どうやらエミーリオは不信感を持っているようだった。
それも当然だろう。
彼だって、嫉妬の歪虚に対して優しいわけでは決してないのだから。
「逃す気とか欠片もないから覚悟しとけよ?」
小さく上げられる口角。狙いは上空の蒼い鳥。
「さあ」
小さく息を整えたレイレリア・リナークシス(ka3872)は、紫水晶の瞳に敵を映す。
前回は全員でやっと一矢報いることが出来た。その敵へ。
「最初から全力で参ります。一網打尽にしてみせましょう」
――彼女の二つの火華によって、正しく戦いの火蓋は切って落とされた。
■煌矢
レイレリアの生み出した二つの焔が爆ぜる。
舞い上がる砂埃と煙のその向こうで『盾石』を発動させたエミーリオが盾を崩して笑みを浮かべた。
(他は――)
上空の蒼鳥は片方が高度を落とし、もう片方はどうやらうまく防御したらしい。
地を往く石狼はややダメージが通っただろうが、やはりこちらも直撃とはいかなかった。
攻撃と同時、前衛たちがそれぞれの目標へと走り出す。その後方で。
光と闇の煌きを放つ矢を番えた浅緋 零(ka4710)が、赤い瞳で静かに上空の蒼鳥を見据えていた。
ただただ静かに。ただただ厳かに。
相反する力を込めた制圧の矢を空へと放つ。
鋭い雨のようなその攻撃に、蒼鳥が動きを止めたのをグリムバルドは見逃さなかった。
自身の立ち位置を前衛を巻き込まぬ場所へと移動させ、上空で動きを止めた蒼鳥目掛け炎の魔扇を発動させる。
灼熱のエネルギーが蒼鳥を巻き込み、二羽のウッチェッロはその高度をさらに下げる。
「流石に硬いな」
急行中に聞いていた情報通り硬さだけは一人前のようだ。
撃破とまではいかなかったが、それでも高度を落とすことには成功したから結果は上々ともいえる。
「まだまだ。更に追い込んで見せましょう」
レイレリアの声と冴え冴える零の瞳が、蒼鳥を捉えて離さない。
他方、石狼へと肉薄したのは鞍馬 真(ka5819)と誠一、ルスティロだ。
「あまり趣味のいい配役じゃないな」
ルスティロが放った魔矢を持ち前の俊敏性で石狼が回避する。
それを囮にした真は、スキルを発動させ普段以上の勢いと加速をつけた二刀を振りかざした。
「悪いが、その姿が許せないんだ……!」
石狼の首元ではためく布に、不快感だけが増していく。
その想いすら力に変え、白光の刃を縦一閃。石狼は飛び上がってそれを避けるも、続けて襲い来るのは血色の大剣、横一閃。
大剣の重みを利用した遠心力を利用して、真は体を回転させると更に石狼の胴を薙ぎ払う。
歪な鳴き声が響く。
そこに文字通り跳躍するように移動してきたのは誠一だ。
手にした赤い光は彼の怒りそのもの。
噛みつかんばかりに牙を振るう石狼へ赤光を一投。残される影を利用し不意を突いて更に一投。
これには俊敏性の高い石狼でも対応は出来なかった。
大きな鳴き声と共に崩れ落ち礫へと変貌する狼を一瞥し、次の敵へと目を向けた。
ジャルージーは嗤っている。
■金煌
敵も黙ってはいなかった。
高度を落としつつも片方の蒼鳥が耳を劈くような鳴き声を放つ。
「――っ!!」
ぐらり。まるで平衡感覚を狂わされるような。そんな錯覚が後方の蒼鳥対応のメンバーを襲う。
次の瞬間。
もう片方の蒼鳥が大きく、巻き起こした風を鋭い刃に代えるような一撃を放った。
事前に全体の防御力を上げ、スキルで更に防御を行っていたグリムバルドはまだ立つことが出来たが、レイレリアと零は直撃を受けて膝をついてしまう。
「クソっ」
比較的グリムバルドの傍にいたレイレリアよりも、僅か離れていた零が次狙われてしまえば危険だ。
エナジーショットを零へと放ち、次弾を装填する。
瞬く間に再生していく傷を確認して、零はゆっくり立ち上がった。
赤く赤く光る瞳に、風を巻き起こした蒼鳥を捉え。
番えた矢は絶対零度。上乗せしたスキルによって放たれた矢は加速して蒼鳥を貫いた。
崩れ落ちた片割れに構うことがないのは、蒼鳥がゴーレムという無機物だからだろうか。
いっそ哀れだと、レイレリアは思う。
グリムバルドが放った次弾のエナジーショットで回復したレイレリアが、中空に緑の紙片を投げ放つ。
「まだ序盤です。ここで崩れるわけにはいきません」
迸る雷は神の怒り。
直撃を受け、蓄積したダメージに耐えきれなくなった蒼鳥が地に墜ちる。
最後に蒼鳥が見たのは、金に煌く、瞳。
全てのゴーレムが沈黙し、地には礫だけが落ちている。
全員の視線の先には――舞台の主催でメインディッシュ。
嗤うジャルージー、エミーリオ。
■舌戦
パチ、パチ、パチ。
場違いな音を生み出しているのは、小脇に血塗れの絵本を抱えたエミーリオだった。
「オメデトー! 今回は上手にコマをどけられたネ!」
眇められた零の視線が、絵本へと向けられたのを確認して歪虚は嗤う。
「欲シイ? でも、あーげナイ! これはボクのだよ。これからタノシイ愉しいことに使うんだ!」
エミーリオの緑目は、絵本の更に向こう――それを描いた『彼女』を捕えているようで。
眼鏡の奥、瞳に殺意の光を強く灯した誠一が口を開いた。
「『彼女』に危害を加えるというなら許さない」
今この場にいるものは、少なからず絵本を描いた彼女がどういう想いでそれを作り上げているのか知っている。
この場にいる誠一と零の二人は、彼女が『特別』な呼び名を許す相手。
そして。だから。そう。
「俺は、彼女の瞳にお前が映るだけでも不快だ」
それは誠一が見せつけた『嫉妬』と『殺意』。
嫉妬の歪虚が最も好む感情を、惜しみなく。いっそ腹を食い破らんばかりに与えてやる。
そっと撫でるように腰に結わえられた約束の標に触れれば、エミーリオは面白くなさそうに目を細めた。
「なんでボクの獲物を盗っちゃうのカナー」
「盗ってねぇし、もし盗られたって言うならお前の執着がその程度だったって事だろ」
吐き棄てる様に告げられる言葉に、ジャルージーの口角が凶悪に引き上がった。
「……イイヨ、面白い。なら、でかいクチ聞けなくしてあげるヨ!」
力強く叩きつけられた歪虚の爪先。
そして。
グリムバルドの展開する修祓陣が展開して――。
■淡赤
まず真っ先に行動に移したのは真だった。
「ハロー、エミーリオ。ずっと斬りたいと思っていたよ」
「それはドウモ!」
全ての力を込めた三連撃を、生み出した石盾で防ぎつつエミーリオは嗤う。
まだ余裕だとでもいうのだろうか。だが、石盾にはしっかりと大きな罅が入っている。
「さて、僕の相手も頼もうか? 僕もカーバンクルも、あまり期限が良くはないからね」
逆サイドから友である精霊の爪を生み出したルスティロが引き裂かんとするも、歪虚が打ち付けた爪先から離れた眼前の地面から鋭い棘が生み出された。
回避が間に合わず裂かれた腹部がその程度で済んだのは、グリムバルドが張った陣のおかげだろう。
ふらつきつつも咄嗟に淡赤の衣を生み出し傷を癒していく。
追撃しようというのか、右腕を振り上げたエミーリオへと、レイレリアとグリムバルドが連続で雷を落とし。
「キャハハハッ! いいねイイネ! 今日はちょーっとホンキかな!?」
「ご冗談、ってな」
「こちらはいつでも本気ですよ」
避け切れなかったのか纏うドレスに穴を開けられたエミーリオが嗤い声をあげた。
「楽しそうで何より」
皮肉に告げられた誠一の言葉に、甲高い嗤い声がピタリ、止まった。
「……キミ、ほんっとイラつくね……?」
エミーリオが纏う空気が、瞬間切り替わる。
愉し気に遊んでいたはずの、その空気が。はっきりと。
目の前にいる不特定多数のハンター。ではなく。
神代誠一という、一個人を殺さんと。そう、はっきりと。
だが誠一は怯まない。当然だ。
何故なら彼自身も、凍えんばかりの膨れ上がった殺意を、エミーリオという歪虚にただただ向けているのだから。
「もう彼女が見れないくらい、お前の瞳に俺を焼き付けてやる」
常の温厚な声からは想像も出来ない、冷え切った声音。
自身の親指でトンと指し示したのは、拍動する己の心臓だ。
「――狙いに来いよ。遊ぶんだろう?」
「ニンゲンごときが生意気ナンダヨっ……!!」
殺意が、暴発していく。
■石斬
誠一へと視線を向けていたエミーリオの隙をついて、ルスティロが精霊の赤尾を伸ばし拘束を試みる。
しかし、その眼前へ反り立った石盾がそれを許さない。
勢いよく飛び上がったエミーリオが盾を超え、そのままルスティロへと蹴りを放った。
「―――っ!!」
歪虚の外見のせいもあるが、想像していたよりも遥かに重い一撃にルスティロがよろめく。
追撃をさせぬようにとレイレリアが護符から雷を生み出し、隙を見てグリムバルドがエナジーショットを放つ。
それでもダメージは深く、完治には至らない。
エミーリオが苛立ちを隠さぬままに次の目標に、再度誠一を捕えようとして。
――氷の矢が、その背を貫いた。
よろめいた歪虚の背後。
上手く隙をついてそこに立っていたのは、赤い髪を揺らす鬼子だった。
「ねぇ、痛い……? 冷たい……?」
「お前っ……」
「……それとも、レイの矢じゃ、何も、感じない……?」
凍える氷は、冷たさの次に灼熱の痛みを連れてくる。
よろめきつつ体勢を立て直そうとするエミーリオを、誰も見逃さない。
零に向けられた視線を引き戻すように、真が駆け出す。
エミーリオは咄嗟に地に爪先を叩きつけ石棘を生み出し攻撃するが、それに足を、腹部を、腕を、頬を裂かれても。
ボロボロになっても真は足を止めなかった。
「クソっ!!」
生み出された石盾目掛け、真は声を張り上げ二刀を振りかぶる。
「石なら何度も斬ったことがある。その程度で防げると思うな!」
一撃、小さい罅に。二撃、更に深い罅へ。
そして終撃。咄嗟に作られた石盾だったせいか、それは通常の強度からは遥かに劣るものだったのだろう。
遂に石盾は、崩れ落ちた。
同時に体力の限界だったのか、真が崩れ落ちる。
振り上げられた歪虚の右腕を見上げ、それでも彼は笑った。
「残念だったね。本命は私じゃないよ」
ゲーム。それは、歪虚にとっては力比べ。彼にとっては知恵比べ。
倒れた者。次の矢を番える者。戦友を癒す者。再度拘束を試みる者。雷で牽制する者。
そして、今までの己。
それら全てが、彼にとっての駒だった。
アクセルオーバー発動。新緑のオーラを身に纏い、肉体を加速させ。
ナイトカーテン発動。相手の認識から逃れ、必殺の一撃を、今。
大きく見開かれたエミーリオの緑目が、認識外から眼前に現れた影を疾る者を捕えた。
次の瞬間。
「ヴェラを映した『生意気』な瞳、貰うぞ」
――太陽の光のように輝く杭が、無防備な歪虚の左目を貫いた。
■絶叫
「アアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
迸る絶叫が耳を裂く。
貫かれた左目を押さえるためにあげられた腕から、絵本が滑り落ちる。
残された右目に浮かぶのは殺意。殺意、殺意殺意サツイ。
「殺ス……お前はゼッタイ! コロス!!」
痛みに激昂したエミーリオが、攻撃の直後距離を取ったはずの誠一へと一瞬で肉薄する。
放たれた矢を回避し、雷を足で蹴り破るように打ち破り、束縛の尾を引きちぎり。
振り上げた右腕は、鋭い槍そのもの。
回避が間に合わず誠一は右肩から左の腹部にかけて袈裟懸けに裂かれた。
グリムバルドの陣も回復も施されても間に合わない。
歪虚はもう何度目か、怒りに任せて爪先を地面に叩きつけ、鋭い棘を生み出し誠一の脚部を深く裂く。
よろめいて、それでも倒れないのは誠一の意地か、それとも。
痛みを堪えつつもその鋭い殺意だけはエミーリオから外さない彼を援護すべく、再度陣形を整えようとしたその隙を、歪虚は見逃さなかった。
一気に反転し、歪虚が駆け出す。
自身が受けた傷では長期戦は不利だと悟ったのだろう。
追うことは出来た。それでも追うことは得策とは言えなかった。
回復手段は限られていて、既に底を尽きかけている。
そして被害は前衛を中心に大きかった。
状況はこちらに圧倒的有利で終わる。ならば、二兎は追うべきではない。
捨て台詞すら残さずに、姿を消したエミーリオを確認したところで、今回の戦闘は終了となった。
■絵本
残されたのは、血まみれの絵本。
被害に遭った男の遺体は、それ以上害されることなく残されていた。
男はまるで、荷物――絵本たちを守るように、それに覆いかぶさって息絶えていた。
せめて絵本が無事で残っていたのなら、彼女の元へと思っていたが。
地に濡れたそれを持ち帰ることが、果たして彼女のためになるのだろうか。
零はそっと目を伏せる。
「このまま、は……また、使われるかも、だから……」
ごめんね、ヴェラ。
偶然仲間が持ち合わせたマッチを擦り、絵本へと火を落とす。
せめて優しい物語と共に、男も安らかに眠れますように。
「もう……ヴェラの想いを、利用なんて……させない」
灰になっていく物語を胸に、各々想いを新たに刻んでいく。
操られた縁の舞台の幕引きまで、あと――。
END
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 10人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- やさしき作り手
浅緋 零(ka4710)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/12 03:07:45 |
||
相談卓 神代 誠一(ka2086) 人間(リアルブルー)|32才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/05/17 02:18:13 |