ゲスト
(ka0000)
【陶曲】壊れゆく歯車
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/31 22:00
- 完成日
- 2018/06/11 00:04
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●職人
「は、はは…やった。やったぞ」
男が自らの両手を見つめ打ち震える。
眼前には倉庫の半分を占領する位の大きな作品――それは彼の自信作だ。
無機物から出来ているとは思えない程の精巧な造形で強靭な羽はワイバーンのそれに類似する。
だが、顔は全くの別物だった。すらっとしたシルエットに尖った嘴の様な口にはびっしりと生えた無数の歯。
空を飛ぶためだけに削ぎ落された筋肉のしなやかさは歴史に見る彫刻にも匹敵するだろう。
「あぁ、神よ…私にこんな素晴らしい力を与えて頂き感謝します」
そこで男はそう言葉し微笑む。
彼の周りにある長年作り上げてきた作品の数々も彼を静かに見下ろし、この時を祝福しているかのようにも見える。けれど、それはただの幻想…。物は所詮、物に過ぎない…筈だった。が、キィィと彼の傍にあった一体が音を立て首を男の方へと傾けると、こつこつと足音を立てて彼の元へと前進する。
「おやおや、我慢のない子だ。しかし、まあそろそろいいだろう。私の作品が世に出ればきっと皆驚くさ。そして、君達の素晴らしさを理解するに違いない」
男が己が作品をいつくしみ撫でる。
(これで大丈夫だ。私は認められる…苦労を掛けたあの二人にもこれできっと)
男の顔はとても穏やかだった。しかし、彼はもう――。
●不安
「やっと見つかったんですか! それは良かった」
物資が行方不明になる事件から数週間。
ハンターらの力で奪われた物資の全てとはいかなかったが、無事回収する事が出来た。
そして、ダウンタウンが絡んでいたとはいえ、事の始まりが軍とのいざこざではない事を知ってホッとしたのも束の間の事。事件は簡単には終わらない。なにせ物資を奪ったとされる犯人はクリムゾンウエストには存在しないはずの形をした無機物であったのだ。それはブリキの恐竜――リアルブルーで言う所の翼竜に当たるプテラノドンの形に極めて近い。そんなものであるから制作者の割り出しは簡単だと、そう思われていたのだが思ったより時間がかかったと見える。
「フ・マーレ全体も未だ歪虚の脅威に晒されているからな。畑違いの職種となると取次が大変だったんだ」
ギアに朗報を持ってきた工房長が申し訳なさそうに言う。
「別に構いません。それであのブリキを使う職人というのは」
「名はアリオ=ラムス。聞くところによると、精巧な造形が売りのブリキ玩具の職人だったそうだ。だが、拘りが強くてな。その技術をもっと生かしたいと大型のオブジェを作り始めてからは赤字も赤字。玩具だけを扱っていた頃はそこそこ立ち回っていたそうだが、今の工房はひどいものらしい」
ギアの様に需要のある武器関係ならともかく、オブジェとなれは確かに買い手を選ぶ。
名が売れていてパトロンの様な存在がいれば別だが、そうでない限り玩具からオブジェへの転向で食べていくのは難しいだろう。
「でその方の工房の場所はどちらに?」
「この番地らしいが、あまり近付かん方がいいと思うぞ。海に面した場所でもあるし、この場所の近くでも雑魔が出たと事件になった事があるらしいからな」
住所のかいたメモを手渡し、工房長はギアを気にかける。
「わかってます。けれど、この事はオフィスには伝えておかないと」
もしこの工房の主が今の事件に関わっていたのなら放置しておく訳にはいかない。
前回の事件の事もあるから自ずと連絡はいくだろうが、早いに越した事はないはずだ。
「すみません。行ってきます」
ギアはそう思い、そのメモ片手にオフィスへと走り出す。
がその時、事はすでに動き出していて、
「おい、ありゃなんだ?」
「竜?? いや、違う…鳥のようなってバケモンだぁ!」
ギアの行く先、メモにある方角には数匹の鳥。鳥と言っても異質な姿のそれに間違いない。
「ッ!?」
いつも冷静な筈のギアが目を見開き、奥歯を噛む。
自分の作った物が雑魔化する。それは想像以上に痛く辛いものだと彼は知っているから。
(アリオさん)
工房の中で無事だろうか。考えている暇はない。
突然現れた怪鳥をギアはどうする事も出来ず、ただハンターの要請に走るのが精一杯であった。
「は、はは…やった。やったぞ」
男が自らの両手を見つめ打ち震える。
眼前には倉庫の半分を占領する位の大きな作品――それは彼の自信作だ。
無機物から出来ているとは思えない程の精巧な造形で強靭な羽はワイバーンのそれに類似する。
だが、顔は全くの別物だった。すらっとしたシルエットに尖った嘴の様な口にはびっしりと生えた無数の歯。
空を飛ぶためだけに削ぎ落された筋肉のしなやかさは歴史に見る彫刻にも匹敵するだろう。
「あぁ、神よ…私にこんな素晴らしい力を与えて頂き感謝します」
そこで男はそう言葉し微笑む。
彼の周りにある長年作り上げてきた作品の数々も彼を静かに見下ろし、この時を祝福しているかのようにも見える。けれど、それはただの幻想…。物は所詮、物に過ぎない…筈だった。が、キィィと彼の傍にあった一体が音を立て首を男の方へと傾けると、こつこつと足音を立てて彼の元へと前進する。
「おやおや、我慢のない子だ。しかし、まあそろそろいいだろう。私の作品が世に出ればきっと皆驚くさ。そして、君達の素晴らしさを理解するに違いない」
男が己が作品をいつくしみ撫でる。
(これで大丈夫だ。私は認められる…苦労を掛けたあの二人にもこれできっと)
男の顔はとても穏やかだった。しかし、彼はもう――。
●不安
「やっと見つかったんですか! それは良かった」
物資が行方不明になる事件から数週間。
ハンターらの力で奪われた物資の全てとはいかなかったが、無事回収する事が出来た。
そして、ダウンタウンが絡んでいたとはいえ、事の始まりが軍とのいざこざではない事を知ってホッとしたのも束の間の事。事件は簡単には終わらない。なにせ物資を奪ったとされる犯人はクリムゾンウエストには存在しないはずの形をした無機物であったのだ。それはブリキの恐竜――リアルブルーで言う所の翼竜に当たるプテラノドンの形に極めて近い。そんなものであるから制作者の割り出しは簡単だと、そう思われていたのだが思ったより時間がかかったと見える。
「フ・マーレ全体も未だ歪虚の脅威に晒されているからな。畑違いの職種となると取次が大変だったんだ」
ギアに朗報を持ってきた工房長が申し訳なさそうに言う。
「別に構いません。それであのブリキを使う職人というのは」
「名はアリオ=ラムス。聞くところによると、精巧な造形が売りのブリキ玩具の職人だったそうだ。だが、拘りが強くてな。その技術をもっと生かしたいと大型のオブジェを作り始めてからは赤字も赤字。玩具だけを扱っていた頃はそこそこ立ち回っていたそうだが、今の工房はひどいものらしい」
ギアの様に需要のある武器関係ならともかく、オブジェとなれは確かに買い手を選ぶ。
名が売れていてパトロンの様な存在がいれば別だが、そうでない限り玩具からオブジェへの転向で食べていくのは難しいだろう。
「でその方の工房の場所はどちらに?」
「この番地らしいが、あまり近付かん方がいいと思うぞ。海に面した場所でもあるし、この場所の近くでも雑魔が出たと事件になった事があるらしいからな」
住所のかいたメモを手渡し、工房長はギアを気にかける。
「わかってます。けれど、この事はオフィスには伝えておかないと」
もしこの工房の主が今の事件に関わっていたのなら放置しておく訳にはいかない。
前回の事件の事もあるから自ずと連絡はいくだろうが、早いに越した事はないはずだ。
「すみません。行ってきます」
ギアはそう思い、そのメモ片手にオフィスへと走り出す。
がその時、事はすでに動き出していて、
「おい、ありゃなんだ?」
「竜?? いや、違う…鳥のようなってバケモンだぁ!」
ギアの行く先、メモにある方角には数匹の鳥。鳥と言っても異質な姿のそれに間違いない。
「ッ!?」
いつも冷静な筈のギアが目を見開き、奥歯を噛む。
自分の作った物が雑魔化する。それは想像以上に痛く辛いものだと彼は知っているから。
(アリオさん)
工房の中で無事だろうか。考えている暇はない。
突然現れた怪鳥をギアはどうする事も出来ず、ただハンターの要請に走るのが精一杯であった。
リプレイ本文
●急行
『キィー、キィーッ』
奇声が上空に木霊する。ここ最近の同盟での歪虚の出現率は異常だ。
突然どこからともなく現れたり、深夜こっそり人を襲ったり…出方は違えど害がある事は明らかである。
そして、今度はとある男の工房付近――前回の事件を知る者なら驚きも少ないだろうが、そうでなければブリキの玩具が動いているだけで衝撃が走る。
「とりあえず私は先に行く! 援護と呼びかけは頼む」
その騒ぎを知って鞍馬 真(ka5819)が逸早く駆け出す。
元々の性分もある。自分より他人を優先する彼にとって今一番すべきなのは現地へ向かう事だ。
敵の出現を目視で捉えて、オフィスで情報を聞いたのはつい数分前の事。詳細までは把握していないが、それでもあの鳥のいる近くの工房主が関わっているかもと、それだけ解れば十分だ。
「私も行くわ!」
それに続いてカーミン・S・フィールズ(ka1559)も走り出す。
結局各々オフィスで通信機を借り出し、現地に向かう間にそれぞれの行動を相談する。
「あっと、すまねえ…俺様ちゃん、超がっかりんこじゃん」
そんな中、一人だけ歩みの遅い者がいた。それはゾファル・G・初火(ka4407)だ。流れに身を委ねて喧嘩上等と意気込むも、冷静に考えたら現在最悪の状態。ベッドの上は性に合わないと抜け出してきたはいいが、やはり普段通りには動けない。
「ちくしょー…これじゃあ何しに来たか判らないぜ」
チッと舌打ち一つ零して、近くにあった小石を蹴る。
逃げてくる人々の誘導くらいは出来るだろうが、正直自分に合っているとは思えない。思い切って、囮にでもなってみるかと思うも、流石にそれは仲間に止められそうだし足手纏いになったら元も子もない。
「あー…どうするか?」
考えるのは大の苦手であるがとりあえず思案する。そこで親子連れが彼女の横をすり抜けたのを見て、
(うっしゃ、俺様にできる事めーけっ)
彼女が不敵に口元をつり上げた。
「ほぉ…オモチャごときで俺を止められると思うなよぉ!?」
現地に到着と同時にボルディア・コンフラムス(ka0796)が敵のいる上空を見上げ言葉する。その近くでは既に真とカーミンがそれぞれ近くに住民が残っていないか確認し、場合によっては建物の中へ隠れるようにと呼び掛けて回っているようだ。とはいえ、鳥の出現から既に数十分。騒ぎになっていた事もあって、心配した程人は多くない。
「これならすぐに戦闘に…って、ッ!」
がそう思った瞬間、視野に飛び込んできたのは小さな影。空渡で視点を上げていたカーミンがそれを発見する。
「西地区通りからすぐ先の路地、子供がいるわ」
そこで彼女がそれを追いつつ、皆に連絡を入れる。そうして、路地を曲がった先に見たのは緊迫の光景。
子供は子犬を追いかけていたらしい。やっと捕まえてホッとしている所に飛来するのはもちろん怪鳥だ。
「ッ、させないわよっ!」
そこで咄嗟にスキルを発動して、ぐんっと身体が軽くなり髪が揺れる。子供には一体何が起こったか判らなかったであろうが、彼女が鳥と子供の間に割って入り、鳥の攫いを回避したのだ。が、流石の彼女もその後の攻撃までは予測できない。
「ヤバいッ、耳を塞げ――ぇ!!」
真の声が飛んだ。それと同時に、掴み切れなかった鳥からの怒声の様な叫びが周囲一帯に木霊する。
「ちょっ、やってくれるわねっ!?」
子供を抱え込み庇ったまま、カーミンの言葉。
「うらぁぁ、テメェの相手はこっちだぜっ!」
「大丈夫ですか!?」
とそこへボルディアとアニス・エリダヌス(ka2491)が到着して、丁度降りてきていた一匹を彼女達は逃さない。
「飛べねぇ鳥にしてやんぜっ」
巨大な斧を肩に乗せたまま、ボルディアが炎檻で怪鳥を引き寄せる。そのパワーにブリキの羽が悲鳴を上げて、一部形を変えている。
「邪魔はさせません」
そう言うのはアニスだ。仲間の援護に来たのか残りの二匹がこちらにやってくるのは見取り、月花墓標で妨害を計る。
(この距離ならいける)
そのスキルで一時停止した鳥に真が追い打ち。彼自身はさっきの音波は辛うじて免れていたらしい。
付近の壁を足場に距離を詰めると魔導剣を振り被る。
「くっ、出遅れたか」
そこで言葉したのはロニ・カルディス(ka0551)だった。
戦闘に適した場所を探していた彼であったが、ここで戦闘が始まったのを知り慌ててこちらに来たようだ。
「獲物は…後一体か。そいつは俺が引き受けよう」
冷静に状況を判断し、彼がブルガトリオを発動する。
すると無数の闇の刃が怪鳥を貫いて、奇声をあげつつ地に落ちる。
「ハッ、飛べない鳥は…あー、ただの木偶か?」
ボルディアから軽口が漏れる。怪鳥とは言え、所詮ブリキ製だ。強力なスキルにかかれば一溜りもない。
「……とりあえず、やったようね」
子供とわんこを安全な所に避難させてきたカーミンが言う。
「そのようですね。後は中だけかと…」
アリオの工房――そこはとても静かだった。
●倉庫
広さは地図で見た限り、馬込みの馬車が三台入る位か。一部火を扱うからか煉瓦造りになっているが、入り口部分は鉄製のようだ。そんな重い引き戸をボルディアがゆっくり開いていく。中はまだ日があるというのに、薄暗かった。工房の上が住まいになっているという事もあって天窓もないから仕方がない。僅かな灯りを頼りに進むと、アリオが生み出したのであろう作品の数々が飾られた棚が目に入る。
「これがアリオさんの作品…」
アニスが棚に並んだ小さな作品を前に呟く。
多分初期のものだろう。その作品は本当に細かくて、ブリキ製とは思えぬ程の出来栄えだ。
「この小鳥とかよくできてるな」
正直芸術とかそういうのは判らない真であるが、それでも本物と見紛う程のその作品の凄さは判る。
「アリオ、いるのか?」
「…おや、お客ですか?」
そんな中、ロニが発した呼びかけに意外にも返事があって、その方向を見た一同はギョッとした。
目がやっと暗さになれてきたその先にはガリガリにやせ細った身体の白髪の男。情報では彼はまだ三十路過ぎた辺りであった筈だが、容姿は既に老人といっていい。そんな彼がかくりと首を後ろに曲げて面倒気に振り返る。
「おいおい、さっきのよりさらにデカいのかよ…」
その後方には巨大な怪鳥がいて、ボルディアが皆を庇う様ない位置に立ち、密やかに魔斧へと手を伸ばす。
(あ…駄目だこれ)
カーミンは彼の様子から直感的にそう悟って、静かにグラジオラスを発動した。
だが、彼女が最後尾だったからか他の仲間はそれに気付いてはいない。
「どうしてこんな事を?」
アニスが問う。
「どうして? ああ、なら私も問おう…何故皆私の大事なものを壊し奪うのかと?」
「それは…」
大事なもの…それは彼の作品群を指しているのだろう。動いた怪鳥達もやはりそれに当たるのか。
暫し答えに困るハンターを置き去りに、先に動いたのは男の後ろにある怪鳥だった。
男の嘆きを汲み取ったように首を上げ、一呼吸ののちハンターらにあの奇声を浴びせる。
「ああ、ついに君も空へ飛び立つか。この倉庫は狭いものなぁ」
が男は全くそれに動じず、愛おし気にその怪鳥に話しかける。
「チッ、やっぱダメだったって事かよっ」
耳を塞いでボルディアが言う。
「そうと判れば先手必勝だな」
そう言うのはロニだ。工房の棚に身を隠しつつ、奥のデカ物に狙いを定める。が、ガサガサッと間近で音がしてハッと振り向けばそこにはもう一体の怪鳥出現。作品に紛れてこちらを窺っていたらしい。
「アブねぇ!」
鳥に蹴られた棚がロニを襲う。物は小さくともパーツによっては鋭く尖っている部分もある。それを咄嗟にシールドで庇うが、そこへ飛来するのはさっきの怪鳥。それ程高くない天井ではあったが、それでも怪鳥が飛んで、シールドの端を掴み攫って行こうとする。
「気を付けて下さい。敵はあれだけではないようです」
ロニへのそれをアニスが妨害して、工房の中での怪鳥との駆け引きが始まった。
「おっと、始まったんじゃん」
下の階からの派手な物音にゾファルが呟く。
そう、彼女は今工房の上のアリオの自宅へ潜入中。妻子がいた、とする話もあるが部屋はがらんとしていて人の気配は全くない。床の汚れ様から見ると大分掃除などされていないようだ。
「大方、三行半突き付けて離縁でもされたか…ってそれを行方不明とは言わねーか。とするとやっぱり」
死――その言葉が過った時、彼女の視界に入ったのは悲しい光景。寝室のベッドに横たわる影に窓から光が射しこむ。二人はその光を浴びても静かに横たわったままだ。壁には子供が描いたのかあの怪鳥に似た翼竜の絵が飾られている。
「ああ、やっぱりかよ…」
アリオの妻と思しき女性はまだ幼い子を抱きしめて…経緯は判らない。
けれど、二人が息をしていない事は判る。
(傷がある訳じゃないようだし、衰弱死か? なんだか救われねぇなー)
彼女が柄にもなく心中で嘆く。そうして今連絡を入れるべきか三秒悩んだ後皆にこの事実を報告した。
「りょーかい。それは残念ね」
それを聞いてカーミンがアリオの背後へ。身隠しのスキルからのガーベラだからアリオに避ける術はない。
「もういいでしょう。あなたの負けよ」
アリオの背後に立ち、的確に足の腱を狙って聖機剣を振り切る。
すると薄い肉が僅かに切れて、ガクリとその場に崩れるだけで大きく反撃してこようという素振りもない。
(こいつ、一体何考えてんのよっ)
何もしない彼に戸惑う彼女。とはいえ、全く予想しなかった訳でもない。
「あなたに残されている唯一の方法…わかる?」
強気な態度で彼女が尋ねる。だが、アリオは動かなかった。ただ、眼前で戦う己が作品達を見つめるだけだ。
「ちょっとしっかりしなさいよ! その残った両手であんたの神とやらを作ってみなさいよ!」
間違い続けたこの男を彼女は救いたいと思っている。それがただのエゴだとしてもだ。
だが、男はまるでもう仕事は終わったとでもいうように動こうとしない。
「ハハッ、もういい。どうせもう何も残ってはいないのだから…君は、君の好きな様に羽ばたけばいい」
男が不気味にぼそぼそ呟いている。彼は堕落者だというのに、何処か諦めに近いものを抱いているようだった。
●悲哀
「おら、大丈夫かー」
作品らの下敷きになったロニにボルディアが手を差し伸べる。
その間に怪鳥二匹の相手をするのはアニスと真だ。真は武器をナイフに持ち替えて、狭い場所でも自分の持ちうる最大限の力で立ち回る。それを援護するアニスも支援だけには収まらない。仲間にアンチボディをかけた後は自らも前に出てパリィグローブで応戦する。
「徐々にあちらの耐久は下がっている筈です。後少しかと」
怪鳥の引っかきをグローブで堪えて、はじけ飛んだブリキ片を見て彼女は確信する。
「なら、いいが…もし他のも動き出したらしゃれに…クッ」
そう言いかけて、飛び来た怪鳥からの思わぬ作品落下の嫌がらせに真が奥歯を噛む。
「ああ、もう、だったら全部壊してやらぁぁ!」
そこで元々その懸念を抱いていたボルディアが豪快な行動に出た。それは文字通り破壊活動だ。
「あ、ああァァァ」
それには流石にアリオが反応。目の前で起こる惨劇に耐え切れなくなったらしい。
「やめろやめろやめろぉぉぉぉ!」
切った筈の腱はいつの間に再生しすくりと立つと、衝動的に傍にいたカーミンに掴みかかる。
「ちょっ、どこにそんな力がッ」
その不意打ちに壁まで追い込まれた彼女であったが、流石にそれ以上は仲間も許さない。
「動くなよっ!」
ロニが叫ぶ。それと同時にアリオへのジャッジメントを成功させ、身動きが取れなくなったのを悟ってカーミンは彼を振り払い、彼女は決心した。できれば黒幕を吐かせたかったが、あの様子では口を割る事はないだろう。それに造れと言っても動かなかった。ならば、もうここで止めを刺して眠らせてあげるのが最善なのだろう。
カーミンの聖機剣とハルバードがアリオの身体を切り裂く。案の定、歪虚となった身体からは血液は噴出さず、黒い霧が僅かにたち、そのままばたりと身体を打ち付けるのみだ。霧が消えると残ったのは、木乃伊の様なアリオの骸…。
「後はあれか」
苦しめられた一体を倒して真が皆に言う。
唯一残ったのはアリオの傑作――しかし、その大きさが仇となる。外への逃亡を計り天井を壊そうとするも慌てたのは上にいたゾファルのみ。彼女が離脱すると、下のハンターの手によって事は終結に向かう。一対五で、しかも皆熟練の猛者ばかり。ともすれば怪鳥に勝ち目はない。
「どうか安らかに」
闇の刃と炎檻で動きを封じられた怪鳥に真の衝撃波が胴体にヒビを入れ、アニスの錬金杖がスキルの力を借りて止めを刺す。動きにくい場所ではあったが、それでも何とかなるもんだ。
「終わったな」
倉庫に残党がいない事を確認して、皆が彼の元に集まる。
結局倉庫内で動いたのは怪鳥二体だけでアリオに全てを操るまでの能力は与えられてはいなかったらしい。
最後に何か聞き出せないものかとボルディアがアリオ達に深淵の声を発動する。
が、聞き出せたのは極僅かな声だけだ。
『お父さん、頑張ってるから…もう少しだけ、待ちましょうね…きっと、大丈夫だから』
掠れた声に咳が混じっていた。後から判った事だが、母子は病気にかかってらしい。
『急がなければ…二人の為に。作品さえ売れれば大金が入る筈だっ』
アリオからはその想いだけが強く残っていて…多分まだ人だった頃の強い気持ち。彼もまた家族のために必死だったという事はわかる。それがどこで歯車が狂ったのか…いや、その想いに今回の黒幕はつけ込んだのかもしれない。
「何にしてもやるせない結末ですね」
アニスが静かに言う。彼は自分が作ったものが人を傷つけているという事実を認識していたのだろうか。多分していなかったと彼女は思う。もし知っていたなら、もっとまともではいられなかっただろう。
「皆さん、お疲れ様でした」
報告を聞き終えたギアが目を伏せたまま言葉する。
「ギア、どうかしたの?」
その様子にカーミンが尋ねる。
「いえ、大した事では…僕も持ってたんです。彼の作ったブリキの小鳩を…」
するとギアはそう言い、部屋から見つかったそれを皆に見せる。
その鳩は皮肉にも嘴に四葉のクローバーを咥えていて、一層やるせなさが募るハンター達。
「まあ、こんなもんでしょうかねぃ…少しは楽しんでもらえたようですし、良しとしましょうか」
とある場所でぱちりと目を開き誰かが呟く。
だが、その呟きを聞いたとて誰も気になど止めず、あっという間もなく雑踏にかき消されるのであった。
『キィー、キィーッ』
奇声が上空に木霊する。ここ最近の同盟での歪虚の出現率は異常だ。
突然どこからともなく現れたり、深夜こっそり人を襲ったり…出方は違えど害がある事は明らかである。
そして、今度はとある男の工房付近――前回の事件を知る者なら驚きも少ないだろうが、そうでなければブリキの玩具が動いているだけで衝撃が走る。
「とりあえず私は先に行く! 援護と呼びかけは頼む」
その騒ぎを知って鞍馬 真(ka5819)が逸早く駆け出す。
元々の性分もある。自分より他人を優先する彼にとって今一番すべきなのは現地へ向かう事だ。
敵の出現を目視で捉えて、オフィスで情報を聞いたのはつい数分前の事。詳細までは把握していないが、それでもあの鳥のいる近くの工房主が関わっているかもと、それだけ解れば十分だ。
「私も行くわ!」
それに続いてカーミン・S・フィールズ(ka1559)も走り出す。
結局各々オフィスで通信機を借り出し、現地に向かう間にそれぞれの行動を相談する。
「あっと、すまねえ…俺様ちゃん、超がっかりんこじゃん」
そんな中、一人だけ歩みの遅い者がいた。それはゾファル・G・初火(ka4407)だ。流れに身を委ねて喧嘩上等と意気込むも、冷静に考えたら現在最悪の状態。ベッドの上は性に合わないと抜け出してきたはいいが、やはり普段通りには動けない。
「ちくしょー…これじゃあ何しに来たか判らないぜ」
チッと舌打ち一つ零して、近くにあった小石を蹴る。
逃げてくる人々の誘導くらいは出来るだろうが、正直自分に合っているとは思えない。思い切って、囮にでもなってみるかと思うも、流石にそれは仲間に止められそうだし足手纏いになったら元も子もない。
「あー…どうするか?」
考えるのは大の苦手であるがとりあえず思案する。そこで親子連れが彼女の横をすり抜けたのを見て、
(うっしゃ、俺様にできる事めーけっ)
彼女が不敵に口元をつり上げた。
「ほぉ…オモチャごときで俺を止められると思うなよぉ!?」
現地に到着と同時にボルディア・コンフラムス(ka0796)が敵のいる上空を見上げ言葉する。その近くでは既に真とカーミンがそれぞれ近くに住民が残っていないか確認し、場合によっては建物の中へ隠れるようにと呼び掛けて回っているようだ。とはいえ、鳥の出現から既に数十分。騒ぎになっていた事もあって、心配した程人は多くない。
「これならすぐに戦闘に…って、ッ!」
がそう思った瞬間、視野に飛び込んできたのは小さな影。空渡で視点を上げていたカーミンがそれを発見する。
「西地区通りからすぐ先の路地、子供がいるわ」
そこで彼女がそれを追いつつ、皆に連絡を入れる。そうして、路地を曲がった先に見たのは緊迫の光景。
子供は子犬を追いかけていたらしい。やっと捕まえてホッとしている所に飛来するのはもちろん怪鳥だ。
「ッ、させないわよっ!」
そこで咄嗟にスキルを発動して、ぐんっと身体が軽くなり髪が揺れる。子供には一体何が起こったか判らなかったであろうが、彼女が鳥と子供の間に割って入り、鳥の攫いを回避したのだ。が、流石の彼女もその後の攻撃までは予測できない。
「ヤバいッ、耳を塞げ――ぇ!!」
真の声が飛んだ。それと同時に、掴み切れなかった鳥からの怒声の様な叫びが周囲一帯に木霊する。
「ちょっ、やってくれるわねっ!?」
子供を抱え込み庇ったまま、カーミンの言葉。
「うらぁぁ、テメェの相手はこっちだぜっ!」
「大丈夫ですか!?」
とそこへボルディアとアニス・エリダヌス(ka2491)が到着して、丁度降りてきていた一匹を彼女達は逃さない。
「飛べねぇ鳥にしてやんぜっ」
巨大な斧を肩に乗せたまま、ボルディアが炎檻で怪鳥を引き寄せる。そのパワーにブリキの羽が悲鳴を上げて、一部形を変えている。
「邪魔はさせません」
そう言うのはアニスだ。仲間の援護に来たのか残りの二匹がこちらにやってくるのは見取り、月花墓標で妨害を計る。
(この距離ならいける)
そのスキルで一時停止した鳥に真が追い打ち。彼自身はさっきの音波は辛うじて免れていたらしい。
付近の壁を足場に距離を詰めると魔導剣を振り被る。
「くっ、出遅れたか」
そこで言葉したのはロニ・カルディス(ka0551)だった。
戦闘に適した場所を探していた彼であったが、ここで戦闘が始まったのを知り慌ててこちらに来たようだ。
「獲物は…後一体か。そいつは俺が引き受けよう」
冷静に状況を判断し、彼がブルガトリオを発動する。
すると無数の闇の刃が怪鳥を貫いて、奇声をあげつつ地に落ちる。
「ハッ、飛べない鳥は…あー、ただの木偶か?」
ボルディアから軽口が漏れる。怪鳥とは言え、所詮ブリキ製だ。強力なスキルにかかれば一溜りもない。
「……とりあえず、やったようね」
子供とわんこを安全な所に避難させてきたカーミンが言う。
「そのようですね。後は中だけかと…」
アリオの工房――そこはとても静かだった。
●倉庫
広さは地図で見た限り、馬込みの馬車が三台入る位か。一部火を扱うからか煉瓦造りになっているが、入り口部分は鉄製のようだ。そんな重い引き戸をボルディアがゆっくり開いていく。中はまだ日があるというのに、薄暗かった。工房の上が住まいになっているという事もあって天窓もないから仕方がない。僅かな灯りを頼りに進むと、アリオが生み出したのであろう作品の数々が飾られた棚が目に入る。
「これがアリオさんの作品…」
アニスが棚に並んだ小さな作品を前に呟く。
多分初期のものだろう。その作品は本当に細かくて、ブリキ製とは思えぬ程の出来栄えだ。
「この小鳥とかよくできてるな」
正直芸術とかそういうのは判らない真であるが、それでも本物と見紛う程のその作品の凄さは判る。
「アリオ、いるのか?」
「…おや、お客ですか?」
そんな中、ロニが発した呼びかけに意外にも返事があって、その方向を見た一同はギョッとした。
目がやっと暗さになれてきたその先にはガリガリにやせ細った身体の白髪の男。情報では彼はまだ三十路過ぎた辺りであった筈だが、容姿は既に老人といっていい。そんな彼がかくりと首を後ろに曲げて面倒気に振り返る。
「おいおい、さっきのよりさらにデカいのかよ…」
その後方には巨大な怪鳥がいて、ボルディアが皆を庇う様ない位置に立ち、密やかに魔斧へと手を伸ばす。
(あ…駄目だこれ)
カーミンは彼の様子から直感的にそう悟って、静かにグラジオラスを発動した。
だが、彼女が最後尾だったからか他の仲間はそれに気付いてはいない。
「どうしてこんな事を?」
アニスが問う。
「どうして? ああ、なら私も問おう…何故皆私の大事なものを壊し奪うのかと?」
「それは…」
大事なもの…それは彼の作品群を指しているのだろう。動いた怪鳥達もやはりそれに当たるのか。
暫し答えに困るハンターを置き去りに、先に動いたのは男の後ろにある怪鳥だった。
男の嘆きを汲み取ったように首を上げ、一呼吸ののちハンターらにあの奇声を浴びせる。
「ああ、ついに君も空へ飛び立つか。この倉庫は狭いものなぁ」
が男は全くそれに動じず、愛おし気にその怪鳥に話しかける。
「チッ、やっぱダメだったって事かよっ」
耳を塞いでボルディアが言う。
「そうと判れば先手必勝だな」
そう言うのはロニだ。工房の棚に身を隠しつつ、奥のデカ物に狙いを定める。が、ガサガサッと間近で音がしてハッと振り向けばそこにはもう一体の怪鳥出現。作品に紛れてこちらを窺っていたらしい。
「アブねぇ!」
鳥に蹴られた棚がロニを襲う。物は小さくともパーツによっては鋭く尖っている部分もある。それを咄嗟にシールドで庇うが、そこへ飛来するのはさっきの怪鳥。それ程高くない天井ではあったが、それでも怪鳥が飛んで、シールドの端を掴み攫って行こうとする。
「気を付けて下さい。敵はあれだけではないようです」
ロニへのそれをアニスが妨害して、工房の中での怪鳥との駆け引きが始まった。
「おっと、始まったんじゃん」
下の階からの派手な物音にゾファルが呟く。
そう、彼女は今工房の上のアリオの自宅へ潜入中。妻子がいた、とする話もあるが部屋はがらんとしていて人の気配は全くない。床の汚れ様から見ると大分掃除などされていないようだ。
「大方、三行半突き付けて離縁でもされたか…ってそれを行方不明とは言わねーか。とするとやっぱり」
死――その言葉が過った時、彼女の視界に入ったのは悲しい光景。寝室のベッドに横たわる影に窓から光が射しこむ。二人はその光を浴びても静かに横たわったままだ。壁には子供が描いたのかあの怪鳥に似た翼竜の絵が飾られている。
「ああ、やっぱりかよ…」
アリオの妻と思しき女性はまだ幼い子を抱きしめて…経緯は判らない。
けれど、二人が息をしていない事は判る。
(傷がある訳じゃないようだし、衰弱死か? なんだか救われねぇなー)
彼女が柄にもなく心中で嘆く。そうして今連絡を入れるべきか三秒悩んだ後皆にこの事実を報告した。
「りょーかい。それは残念ね」
それを聞いてカーミンがアリオの背後へ。身隠しのスキルからのガーベラだからアリオに避ける術はない。
「もういいでしょう。あなたの負けよ」
アリオの背後に立ち、的確に足の腱を狙って聖機剣を振り切る。
すると薄い肉が僅かに切れて、ガクリとその場に崩れるだけで大きく反撃してこようという素振りもない。
(こいつ、一体何考えてんのよっ)
何もしない彼に戸惑う彼女。とはいえ、全く予想しなかった訳でもない。
「あなたに残されている唯一の方法…わかる?」
強気な態度で彼女が尋ねる。だが、アリオは動かなかった。ただ、眼前で戦う己が作品達を見つめるだけだ。
「ちょっとしっかりしなさいよ! その残った両手であんたの神とやらを作ってみなさいよ!」
間違い続けたこの男を彼女は救いたいと思っている。それがただのエゴだとしてもだ。
だが、男はまるでもう仕事は終わったとでもいうように動こうとしない。
「ハハッ、もういい。どうせもう何も残ってはいないのだから…君は、君の好きな様に羽ばたけばいい」
男が不気味にぼそぼそ呟いている。彼は堕落者だというのに、何処か諦めに近いものを抱いているようだった。
●悲哀
「おら、大丈夫かー」
作品らの下敷きになったロニにボルディアが手を差し伸べる。
その間に怪鳥二匹の相手をするのはアニスと真だ。真は武器をナイフに持ち替えて、狭い場所でも自分の持ちうる最大限の力で立ち回る。それを援護するアニスも支援だけには収まらない。仲間にアンチボディをかけた後は自らも前に出てパリィグローブで応戦する。
「徐々にあちらの耐久は下がっている筈です。後少しかと」
怪鳥の引っかきをグローブで堪えて、はじけ飛んだブリキ片を見て彼女は確信する。
「なら、いいが…もし他のも動き出したらしゃれに…クッ」
そう言いかけて、飛び来た怪鳥からの思わぬ作品落下の嫌がらせに真が奥歯を噛む。
「ああ、もう、だったら全部壊してやらぁぁ!」
そこで元々その懸念を抱いていたボルディアが豪快な行動に出た。それは文字通り破壊活動だ。
「あ、ああァァァ」
それには流石にアリオが反応。目の前で起こる惨劇に耐え切れなくなったらしい。
「やめろやめろやめろぉぉぉぉ!」
切った筈の腱はいつの間に再生しすくりと立つと、衝動的に傍にいたカーミンに掴みかかる。
「ちょっ、どこにそんな力がッ」
その不意打ちに壁まで追い込まれた彼女であったが、流石にそれ以上は仲間も許さない。
「動くなよっ!」
ロニが叫ぶ。それと同時にアリオへのジャッジメントを成功させ、身動きが取れなくなったのを悟ってカーミンは彼を振り払い、彼女は決心した。できれば黒幕を吐かせたかったが、あの様子では口を割る事はないだろう。それに造れと言っても動かなかった。ならば、もうここで止めを刺して眠らせてあげるのが最善なのだろう。
カーミンの聖機剣とハルバードがアリオの身体を切り裂く。案の定、歪虚となった身体からは血液は噴出さず、黒い霧が僅かにたち、そのままばたりと身体を打ち付けるのみだ。霧が消えると残ったのは、木乃伊の様なアリオの骸…。
「後はあれか」
苦しめられた一体を倒して真が皆に言う。
唯一残ったのはアリオの傑作――しかし、その大きさが仇となる。外への逃亡を計り天井を壊そうとするも慌てたのは上にいたゾファルのみ。彼女が離脱すると、下のハンターの手によって事は終結に向かう。一対五で、しかも皆熟練の猛者ばかり。ともすれば怪鳥に勝ち目はない。
「どうか安らかに」
闇の刃と炎檻で動きを封じられた怪鳥に真の衝撃波が胴体にヒビを入れ、アニスの錬金杖がスキルの力を借りて止めを刺す。動きにくい場所ではあったが、それでも何とかなるもんだ。
「終わったな」
倉庫に残党がいない事を確認して、皆が彼の元に集まる。
結局倉庫内で動いたのは怪鳥二体だけでアリオに全てを操るまでの能力は与えられてはいなかったらしい。
最後に何か聞き出せないものかとボルディアがアリオ達に深淵の声を発動する。
が、聞き出せたのは極僅かな声だけだ。
『お父さん、頑張ってるから…もう少しだけ、待ちましょうね…きっと、大丈夫だから』
掠れた声に咳が混じっていた。後から判った事だが、母子は病気にかかってらしい。
『急がなければ…二人の為に。作品さえ売れれば大金が入る筈だっ』
アリオからはその想いだけが強く残っていて…多分まだ人だった頃の強い気持ち。彼もまた家族のために必死だったという事はわかる。それがどこで歯車が狂ったのか…いや、その想いに今回の黒幕はつけ込んだのかもしれない。
「何にしてもやるせない結末ですね」
アニスが静かに言う。彼は自分が作ったものが人を傷つけているという事実を認識していたのだろうか。多分していなかったと彼女は思う。もし知っていたなら、もっとまともではいられなかっただろう。
「皆さん、お疲れ様でした」
報告を聞き終えたギアが目を伏せたまま言葉する。
「ギア、どうかしたの?」
その様子にカーミンが尋ねる。
「いえ、大した事では…僕も持ってたんです。彼の作ったブリキの小鳩を…」
するとギアはそう言い、部屋から見つかったそれを皆に見せる。
その鳩は皮肉にも嘴に四葉のクローバーを咥えていて、一層やるせなさが募るハンター達。
「まあ、こんなもんでしょうかねぃ…少しは楽しんでもらえたようですし、良しとしましょうか」
とある場所でぱちりと目を開き誰かが呟く。
だが、その呟きを聞いたとて誰も気になど止めず、あっという間もなく雑踏にかき消されるのであった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/29 21:49:54 |
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相談卓 カーミン・S・フィールズ(ka1559) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/05/31 08:40:49 |
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しっつもーん! カーミン・S・フィールズ(ka1559) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/05/31 13:29:34 |