咎人の涙

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/20 19:00
完成日
2014/12/27 02:30

みんなの思い出

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オープニング

 夜のリゼリオの街、そこを今日もタングラムは上機嫌に酒瓶片手に歩いていた。
 鼻歌混じりに進むその行き先を人影が塞いだのはそんな時だ。きょとんとするタングラムに歩み寄り、少年はマントのフードを脱いでみせる。
「君が帝国ユニオンのタングラム……だね?」
「ええ、そうですが……って、君は……まさか」
「久しぶりだね。こんな形で再会する事になるとは思わなかったけれど」
 慌てて駆け寄るタングラムの腕の中に倒れこむ少年。その身体は傷だらけで、まともに出歩ける状態ではなかった。
「生きていたなら、教えて欲しかった」
「……ごめんなさい。でも、どうしてここに?」
 少年が取り出したのは小さな紙切れ。そこには「タングラムに会え」というメッセージが記されていた。
「変わり者の人間に、ね……」
 その人物がタングラムとこの少年の関係性を正しく把握していたかは定かではない。だがこの再会は二人にとって運命的な物だった。
 少年はこれまでの経緯を語った。タングラムはその言葉をじっと黙って聞き続ける。二人は狭い路地の壁に背中を預け、ニ十年以上前の出来事に想いを馳せる。
「君の言う通りだった。僕はあれからもずっと人を憎み……そしてエルフを憎み続けた。だけど、世界は何も変わらなかったよ」
「……どうして」
「それ以外にどうしたらいいのか分からなかったんだ。君もジュリもいなくなって、僕は……。だけど、今の君を見てわかった。君はハンターと、人間達と上手くやっている。“そういう時代”が来たんだよね?」
 かつて革命戦争が起こる前、エルフハイムと帝国の関係はずっと険悪だった。
 時折行われる人間の侵略行為、それにキアラはエルフハイムの執行者として立ち向かった。多くの同胞を救い、そして多くの人を殺めた。
 戦いはいつまでも続いて、しかし何も変わらない。ずっとずっと戦い続け、やがてそれにも疲れ、心が乾ききった時少年は森を出た。
「外の世界は、“器候補”の僕には刺激的だった。けどそれ以上に余りにも醜かった。人もエルフも大して変わらない。この世界を歪め続けている」
「キアラ……あなたはまさか、まだ器を救う為に戦っているというの?」
「それもあるけど、そうじゃないかな。僕は何も変えられない。もうとっくに諦めて、なんとなく生きてるだけだから」
 少年は寂しげに笑う。そうして膝を着き。
「そう、なんとなくさ。“女じゃないから器になれなかった”僕は、まだこんな格好をしてる。僕は何も変われなかった。そんな僕が世界を変えようなんて、そんな理想を抱くなんてね」
「キアラ……」
「教えて。僕は……間違えたのかな? 僕は……失敗したのかな?」
 ぽたりと溢れる雫が乾いたレンガに染みていく。
「僕にも君みたいに変われる未来があったのかな? “器”を……彼女達を救える可能性は……あったのかな?」
「馬鹿ね……本当に馬鹿です、あなたは。誰でも変われるわ。誰でもやり直せる。私があの人に変えて貰ったように……誰だって希望はあるのですよ」



 ――森の外で、人間からエルフを守る組織があると聞いた。
「あっしはジュリ、姉御の一番弟子ッス! 趣味は姉御の真似っ子! 宜しくな、新入り!」
 ――人間の迫害に苦しむエルフを救う。罪を償える手段があると思った。
「しかし心しなさい、キアラ。弱者を傷つけるだけの力は、ただの暴力と変わらないのですから」
 ――彼女達となら世界を変えられる。エルフハイムを変えられる。あの死の連鎖で守られた森を、呪いから解き放てるかも知れないと。
「正しくその力を使いなさい。もう二度と、同じ悲劇を繰り返さない為に」
 ……あんなに教えてくれたのに。僕は約束を守れなかった。
 誰も救えず。何も守れず。ただ時の流れに取り残され、憎しみに囚われるなんて。
 そんなのまるで、あの森のクソジジイ共と一緒じゃないか……。



「自首しなさい。第十師団にはゼナイドがいる。彼女は罪に平等よ。エルフだからと贔屓はしないけれど、エルフだからと迫害もしない」
 キアラの生存を知れば追手がかかるのは間違いない。そしてタングラムも立場上、“どちらに加担してもいけない”。
「塀の中に居る事が一番安全だとわかるでしょう? 執行者は地の果てまであなたを追いかけ、必ず殺しに来る。奴らの執着心は狂っているわ」
「そしたら憎き帝国軍の仲間入り、かい?」
「違うわ。帝国は変わったの。あの人が変えてくれた。私が、そしてゼナイドが変えた。だからもう、帝国はエルフを傷つけるだけの敵じゃない」
「正直、君の言葉は信じられないよ。だけど、自分の目で確かめてみようと思う。どうせこの生命が消えてなくなるのなら、新しい風を見てみたいから」
 タングラムは優しく微笑む。そうしてキアラの頬を撫で、一歩身を引いた。
「今はここが私の居場所。私の守るべき仲間達。あの人が作ってくれた、大切な光。だから私はあなたと一緒には行けない」
「うん」
 ユニオンの中、ハンターに囲まれて笑うタングラムを見た。
 昔はあんな風には笑ってくれなかった。それはちょっぴり悔しいけれど。
「僕は、僕の道を行くよ」
 今度は上手に笑えた気がする。絶望を隠す作り笑いじゃない。
 今度こそ、償おう。自分に出来る形で世界を変える為に。あの森の呪いを――解き放つ為に。



「……泳がせるつもりはそうだったが、こりゃ予想外。大物が釣れ過ぎだぜ」
 リゼリオの街をふらつきながら歩くキアラを屋根の上に立つ黒い影が見下ろしている。
「まさかあの大逆の咎人がユニオンリーダーやってるなんてねぇ。爺さん共が知ったらなんて言うのやら」
 それ以前にジエルデが黙ってはいないだろう。どちらにせよこの事実を上に報告すれば、タングラムは執行対象者に名を連ねる事になる。
「いや、在り得ないよな普通。あいつは人間とは絶対相容れない筈だ。それがまさかハンターの中で堂々としてたらまず見つからねーよ」
 重罪を犯しながら外の世界で笑うタングラムと、未だその罪から開放されず森の中で泣き続けるジエルデ。そんな不条理があっていいのか?
「……やりきれねぇよなあ。流石に俺だってキレるぜ、アイリスさんよ?」
 拳を握り締め、男は黒衣を風にはためかせる。眼下に広がる人間の街はハンターの巣窟、ここで揉め事は起こせない。
「あのクソ女を一発ぶん殴ってやりてぇのは山々だが……今はこっちかね」
 人混みに紛れたキアラ。男は音もなく屋根から屋根へと飛び、頃合いを見て暗がりへと飛び降りていった。

リプレイ本文

 馬車の車輪が狙撃され車体が大きく傾いた。攻撃されるのは分かっていたが、馬車全体を守るのは不可能だ。
 つんのめりながら手綱を離したリアム・グッドフェロー(ka2480)は恐慌する馬にストーンアーマーを施すが、正面からハジャと闘狩人が接近する。
 後方には狙撃体制に入った猟撃士と、それをカバーするように大盾を構えた聖導士。敵は前後衛に別れ襲撃に挑む構えだ。
 迎撃に出たエアルドフリス(ka1856)のスリープクラウドに闘狩人は姿を消すが、ハジャは光を纏い真上に跳躍。空中でナイフを投げ馬車と馬の連結を切断。着地と同時に闘狩人を強く叩き眠気を覚ます。
 猟撃士の第二射がリアムの頬をかすめ馬車に着弾する。リアムも銃を抜き近づく敵に発砲するが、解かれた馬車の馬は戦闘に驚き逃亡を開始した。
 同時にライフルを馬上で構えようとした雲類鷲 伊路葉 (ka2718)も、やはり借り物の馬が不安定でまともに銃を使えない。諦めて飛び降りる彼女の側を駆け抜け、愛馬故に銃声に堪えたネイハム・乾風(ka2961)がライフルを構える。
「やっぱり、相手にも狙撃手はいるよね……」
 瞳を見開くと同時に放たれた銃弾はハジャと闘狩人を側面から纏めて射線に収める。ハジャは回避するも、背後の闘狩人に命中する。
 馬から飛び降りた伊路葉も膝を着いて発砲。リアムの銃撃、エアルドフリスの魔法も次々に放たれ、ハジャは大きく後退を余儀なくされた。



 僅かに曇った空からは小雨が降り始めていた。
 結論から言えばハンターの護衛は万全。ハジャは道中仲間を引き連れ常に襲撃を狙っていたが、結局アネリブーベ直前のだだっ広い街道を戦場にしたのは不本意な選択であった。



「人が多い場所では邪魔も入って騒ぎになるし、あまり仕掛けて来ないと思うから、狙われるとしたら移動時になるのかな」
「先ずは馬車でも手配するかね。費用は依頼人に請求すれば良かろう」
 リゼリオを発つハンター達。ジェールトヴァ(ka3098)の言葉にエアルドフリスはルートを確認しつつ応じる。
「でも依頼人詳細が不明なんて事、本当にあるのかな……? そんな事出来るのは偉い人か依頼内容に直接干渉できそうなユニオンの内部者かな……」
「どう考えても訳有り、でしょうしね」
 首を傾げるネイハム。伊路葉はハンター達の側に立つ護衛対象、キアラへ目を向ける。
「咎人の護衛、ね……。張り切ってるね、雲類鷲さん……」
「そう見える? でも、確かにそうね。咎を負ったとしても、まだやり直せる。そういう機会があっていい筈じゃない」
 伊路葉の心情の変化はネイハム以外には分かりづらかったが、その言葉には熱がある。ネイハム的には厄介な案件だが、同僚に手を貸すのは吝かでもないようだ。
「同じエルフに狙われる、か。キアラ君は一体何をしたんだい? どんな罪を犯せばそうなるのか、興味があるね」
「色々だよ。でも、君も少しは知ってるんだろう?」
 僅かに表情を曇らせるリアム。そう、キアラは帝国の手配犯だ。その罪歴は調べれば分る事だった。
「答えられないならばいいよ。君を裁くのは私の役目ではないし。裁かれて償っても犯した事実が消える事もないしね」
 腕を組みふいと視線を外すリアム。ジェールトヴァは対照的に穏やかに微笑み。
「投獄され罪を償う、そのきみの選択を私は尊重するよ。エルフの長い生を償いに捧げるのは辛い道だろうけど、力になれたらと思っている」
「ありがとう、おじいさん」
 無邪気に笑みを返すキアラ。ロイド・ブラック(ka0408)は片目を瞑り。
「さて、そろそろ出発しよう。妨害は避けられないだろうからな。せいぜいおっかなびっくり進むとしようか」
 ハンター達はキアラを乗せた馬車とそれに付き添う複数の馬で移動を開始した。急ぎはしても危険な道は避け、夜はきちんと宿で過ごした。
 所詮相手は無法者であり、帝国軍に察知されたくないのは当然の心理だと言えた。
 町中で襲撃を仕掛けられず、人目の多い大通りも無理。好機を失ったハジャは、結局旅の終わりギリギリで仕掛けざるを得なかったのだ。



 ロイドとジェールトヴァがキアラを連れ馬車を降りたのには理由がある。
 まず、木製の馬車は覚醒者相手にさして防御性能を持たないから。そして馬車が伊路葉とネイハムの銃撃の妨げになっていたからだ。
 本格的な戦闘に騎乗用の馬はついて来られない。初撃が終わるとすぐネイハムは愛馬を遠ざけた。伊路葉は移動しながら銃撃を行うが、複数の遠距離攻撃の最大のメリットは十字砲火による行動制御にある。
 馬車を囲むように配置していたハンター達だが、間に馬車がある事で全力を発揮できずに居た。ならば動かないのだし、もう降りてしまった方がよい。
 ネイハムと伊路葉、エアルドフリスはハジャへの対応を徹底する。三人で攻撃し続ければ幾らなんでも近づけない。その間に闘狩人がキアラへ迫るが、ジェールドヴァは大剣を盾で受け、ロイドが側面から殴り飛ばす。
「キアラ、こっちだ!」
「ハジャさん……今は抑えられているようですが……」
 雨の中目を細めるジェールドヴァ。今はただ逃げまわっているだけのハジャだが、彼には底知れない部分がある。
 笑いながらエアルドフリスの風の刃をかわすその横顔は戦いを楽しんでいるような……いや。ハンターを観察しているようにすら見える。
 後退するロイドを横目に銃を放つネイハム、そこへ敵後衛から銃と魔法による集中攻撃が飛来。慌てて馬車の裏に飛び込むが、傷を負ってしまう。
 その間に伊路葉に迫る闘狩人。咄嗟に太腿を撃ち抜くが構わず大剣を振り下ろしてくる。
「雲類鷲さん!」
 ライフルを手放し背後に跳ぶが、剣をかわしきれない。肩口を切り裂かれながら小銃を抜き、至近距離で発砲。さらにネイハムも側面から援護する。
 その間ハジャは大きく馬車裏に回り込む。リアムは銃を突き出し引き金を引くが、ハジャはリアムを組み伏せ、腕を捻り上げ盾にするようにエアルドフリスに向けた。
「ったくバカスカ魔法撃ちやがって。そんなん全部避けらんねーよ。おら、仲間の命が惜しかったら武器捨てなさいよ!」
 腕で首を締められもがくリアムだが、体格的にも脱出は困難だ。
「そこまでやるかねぇ……全く」
 冷や汗を流しつつ、目を瞑り杖を投げ捨てるエアルドフリス。リアムは首を横に振るが、男は両手を上げる。
「あっさり諦めるのな?」
「これでも俺は薬師なんだぞ、と。目の前の命を見殺しにするような真似は出来んよ」
 ハジャはリアムをエアルドフリスへと放り投げ、同時に地を蹴って距離を詰める。
 光を帯びた拳は刃より鋭く、二人を纏めて貫こうと繰り出された。

「――命数が尽きた時か歪んだ時が寿命。それが、自然の摂理ではないのかな」
 宿でささやかな食卓を囲みながらリアムは言った。
「私は人間が好きで里を出たんだ。私は人間になれはしない。だけど“善き隣人”として共に生きる事は出来る。そうして時を重ねたからこそ、わかった事がある」
 人もまた、この世界に存在を許された命の一つだ。
 誰かが人を作ったわけではない。エルフがそうであるように、人間もまた一つの“自然”の形なのだとリアムは悟った。
「確かに清浄な森がなければエルフの命数は減るだろうね。だけどその為に森に固執するのなら、その延命は“不自然”じゃないか」
 そんな言葉にキアラは目を瞑り、急に笑い始める。
「ただあるがまま生きる、それが自然に寄り添うという事ではないのかい?」
「……いや。全く君の言う通りだよ。君は実に正しい。君と同じ考えに至った者達の多くが、咎人としてエルフハイムを離れたように」
「ならどうして……!?」
「森の外に出た君だからわかった事があるように、外に出なかったからこそわかる事もある。君の里を羨ましく思うよ。僕もそうならよかったのにね」
 スープに映り込んだ寂しげな笑みの意味はわからないまま波紋に掻き消される。
 リアムはずっと考えていた。この道中、キアラの言っていた言葉の意味を……。

 岩の砕ける音にリアムとエアルドフリスは目を見開く。
 ハジャの拳はエアルドフリスが隠し持っていた短剣と、リアムが発動した岩の壁を挟んで減衰される。それでも光が瞬くと二人はふっとばされた。
「げほっ、ごほっ……! 良く、あれを見切れた……ね」
「いやまったく。自分でもなぜ防げたのか見当もつかん。多分次は無理だな」
 口の端から血を流しながら笑うエアルドフリス。ふっと、短剣から光が消えるのを見送り、改めて構え直す。
「退くわけにも行かなくてな。役者不足で申し訳無いが、遊んで頂くぞ」
「あ」
 指差すリアム。次の瞬間ハジャは馬車の上に飛び乗り、ネイハムの頭上を飛び越える。
 闘狩人は傷を負って守りに入っていたが、後方から聖導士のヒールを受け、自力回復も合わせて持ち直す。猟撃士は伊路葉と撃ち合い、頭上を通過したハジャへ銃を向けたネイハムに闘狩人が迫る。
「キアラ、もう少し早く移動出来んのか?」
「怪我人なもので……」
「抱えてしまえばいいんじゃないかな?」
「その通りだな」
 ジェールドヴァに言われキアラを抱きかかえるロイド。見れば背後から見る見るハジャが追い上げてくる。
「完全に突破されてしまったようだね」
 足を止め、振り返ると同時にシャドウブリットを放つジェールドヴァ。が、あっさり回避し、更に大地を吹き飛ばしながら猛加速する。
「キアラを頼む」
 ひょいとジェールドヴァにキアラを投げ渡し、その前に立ちはだかるロイド。
「正義とは人によって変わる物である。お前さんの正義にとやかく言うつもりはないが、ならば俺が俺の好みで妨害しても文句は無いな?」
 猛スピードで槍のように繰り出されたハジャの足がロイドの腹に突き刺さった。
 軋む身体。だがダメージは防具に任せその足を掴むと、有無を言わさずエレクトリックショックを発動する。
「こう言った“罠”の仕掛け方もある事をお教えしよう」
 接触状態からの放電はハジャにも避けられない。が、ロイドもまた電撃を影響を受けてしまった。二人同時によろけながら背後にたたらを踏む。
「今だったら!」
 走りながら小銃を連射するリアム。その弾丸をよろめきながら拳で撃ち落とすハジャへエアルドフリスがナイフを繰り出すが、ナイフは蹴りで弾かれてしまう。
 反撃の拳がエアルドフリスの横っ面に衝撃を走らせる。ぐるりと身体が回転し、しかしエアルドフリスは負けじと拳を握る。
「耐えただと!?」
 鼻血を流しながらハジャの顔面を狙ったパンチ。ハジャはカウンターを狙うが身体がしびれて僅かに動作が遅れた。
 炎を纏ったエアルドフリスの拳がハジャの顔面に命中し、爆発が男をくるくる回転させながら吹っ飛ばす。それでも受け身を取るのは流石だが……。
「そこまでにしておけ。見ろ、人が集まり始めた。帝国兵が駆けつけるのは時間の問題だ」
 ロイドの言う通り、騒ぎが長引きすぎた。こんな街道ド真ん中で銃声を轟かせていれば当然の結果だ。
「賞金が狙いならば引き際ではないかね? キアラの賞金額は高額だが、前科者になってまで執着する程得難いとは思えんが」
 全くもってロイドの言う通り。伊路葉、ネイハムと戦っていた襲撃者達は顔を目深に隠したまま、慌てて逃げ去っていった。
「ふう……酷い目にあった。接近戦に持ち込まるとなあ……」
「私達二人で三人抑えたのだから、上出来じゃないかしら。それより……お仲間は逃げ出したけれど、貴方はどうするのかしら?」
 傷を抑えながら溜息を零すネイハム。銃口を向けたままの伊路葉の声に、ハジャはすっと両手を上げた。
「やめやめ。もうこの先襲撃できる場所もねぇし、俺の負け。今回は諦めるよ」
「今回は……という事は“次”があるという事? こんなか弱い女性を追い回して、手段も選ばずに……貴方の力は唯の暴力ね」
「きれいな女に嫌われるのはヘコむぜ……正味言い返せねーし」
「其れ程の殺意は何処から来るもんなのか……解らんでもないがね」
 エアルドフリスの隣でリアムも複雑な表情を浮かべていた。
 人を傷つけただけならエルフには追われない。もし同郷の者に狙われるのなら、その罪は故郷に由来すると考えるべきだ。
「人間がお前を救ってくれると本気で考えてんのか?」
「救われたいわけじゃないよ。ただ……時は流れたという事を理解しただけさ」
 キアラはハンター達を眺め、それから目を瞑る。
「もう、呪いを解くべきなんだ。僕も……君達も」
「罪ってのは死ねば消えるのかね? なら随分と簡単な話だ。そんなに罰に固執するのなら、こいつを生かしてみちゃどうだい」
 キアラの肩を叩くエアルドフリスにニヤリと笑い、ハジャは背後へ跳ぶ。大きく距離を取ると、手を振り。
「せっかく助けたんだ。そいつの面倒、ちゃんと見てやってくれよな」
 そんな言葉を残し去っていった。
「……なんなのだ、あれは?」
「多分、彼も簡単にキアラさんを殺すつもりはなかったんじゃないかな?」
 怪訝な様子のロイドの隣でジェールドヴァは微笑むのであった。

 ジェールドヴァは負傷者にヒールを施し、キアラも応急処置を手伝うと名乗りを上げた。
「ありがとう、キアラ。器用なのね」
 肌蹴た肩を手早く処置するキアラに伊路葉は目を瞑り。
「貴方の新しい人生を手伝ってあげるつもりが、手当してもらうなんてね」
「お姉さん達は十分僕を救ってくれたよ。少なくとも、僕に銃口を向けないでくれたから」
 そんな二人のやりとりをネイハムは少し離れた所で見つめる。
「うーん。努力はしたけど、ロイドさんとエアルドフリスさんの傷はちゃんと養生しないといけないね」
「……覚悟の上ではあったがな」
「あの野郎思い切り殴りやがって」
 腹に包帯を巻くロイド。エアルドフリスは腫れた頬を擦る。
 リアムは頃合いを見計らい、キアラに声をかける。
「私は、人を殺した君を簡単には許す事は出来ない。だけど、今の君は人と自然に接しているようにも思えるんだ。もしかして君は、最初は私と同じように……」
「言い訳はしないよ。でも、沢山殺した分、今度は殺さずに済むようにできたらと思ってる。僕を許さなくてもいい。だけどこの世界を変える為に、いつか力を必要とする時、手を貸してくれると嬉しいな」
 キアラから差し出された手を躊躇いがちに取るリアム。
「さよなら。またいつか」
 アネリブーベはすぐ側だ。ハンター達は咎人を帝国軍へ無事に引き渡した。キアラは最後、笑ってハンター達に頭を下げた。
「頑張った甲斐……あったね」
「Seize the Day」
 ネイハムの言葉に頷きながら呟く伊路葉。エアルドフリスは欠けたコインのペンダントに触れ寂しげに、しかしどこか安心したように笑みを浮かべた。

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MVP一覧

  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラックka0408
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856

重体一覧

参加者一覧

  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラック(ka0408
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • スカートを履いたイケメン
    リアム・グッドフェロー(ka2480
    エルフ|15才|男性|魔術師

  • 雲類鷲 伊路葉 (ka2718
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • 白狼鬼
    ネイハム・乾風(ka2961
    人間(紅)|28才|男性|猟撃士
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 護送計画【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/12/20 12:12:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/18 21:19:49