• 戦闘

咎人の涙

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2014/12/20 19:00
リプレイ完成予定
2014/12/29 19:00

オープニング

 夜のリゼリオの街、そこを今日もタングラムは上機嫌に酒瓶片手に歩いていた。
 鼻歌混じりに進むその行き先を人影が塞いだのはそんな時だ。きょとんとするタングラムに歩み寄り、少年はマントのフードを脱いでみせる。
「君が帝国ユニオンのタングラム……だね?」
「ええ、そうですが……って、君は……まさか」
「久しぶりだね。こんな形で再会する事になるとは思わなかったけれど」
 慌てて駆け寄るタングラムの腕の中に倒れこむ少年。その身体は傷だらけで、まともに出歩ける状態ではなかった。
「生きていたなら、教えて欲しかった」
「……ごめんなさい。でも、どうしてここに?」
 少年が取り出したのは小さな紙切れ。そこには「タングラムに会え」というメッセージが記されていた。
「変わり者の人間に、ね……」
 その人物がタングラムとこの少年の関係性を正しく把握していたかは定かではない。だがこの再会は二人にとって運命的な物だった。
 少年はこれまでの経緯を語った。タングラムはその言葉をじっと黙って聞き続ける。二人は狭い路地の壁に背中を預け、ニ十年以上前の出来事に想いを馳せる。
「君の言う通りだった。僕はあれからもずっと人を憎み……そしてエルフを憎み続けた。だけど、世界は何も変わらなかったよ」
「……どうして」
「それ以外にどうしたらいいのか分からなかったんだ。君もジュリもいなくなって、僕は……。だけど、今の君を見てわかった。君はハンターと、人間達と上手くやっている。“そういう時代”が来たんだよね?」
 かつて革命戦争が起こる前、エルフハイムと帝国の関係はずっと険悪だった。
 時折行われる人間の侵略行為、それにキアラはエルフハイムの執行者として立ち向かった。多くの同胞を救い、そして多くの人を殺めた。
 戦いはいつまでも続いて、しかし何も変わらない。ずっとずっと戦い続け、やがてそれにも疲れ、心が乾ききった時少年は森を出た。
「外の世界は、“器候補”の僕には刺激的だった。けどそれ以上に余りにも醜かった。人もエルフも大して変わらない。この世界を歪め続けている」
「キアラ……あなたはまさか、まだ器を救う為に戦っているというの?」
「それもあるけど、そうじゃないかな。僕は何も変えられない。もうとっくに諦めて、なんとなく生きてるだけだから」
 少年は寂しげに笑う。そうして膝を着き。
「そう、なんとなくさ。“女じゃないから器になれなかった”僕は、まだこんな格好をしてる。僕は何も変われなかった。そんな僕が世界を変えようなんて、そんな理想を抱くなんてね」
「キアラ……」
「教えて。僕は……間違えたのかな? 僕は……失敗したのかな?」
 ぽたりと溢れる雫が乾いたレンガに染みていく。
「僕にも君みたいに変われる未来があったのかな? “器”を……彼女達を救える可能性は……あったのかな?」
「馬鹿ね……本当に馬鹿です、あなたは。誰でも変われるわ。誰でもやり直せる。私があの人に変えて貰ったように……誰だって希望はあるのですよ」



 ――森の外で、人間からエルフを守る組織があると聞いた。
「あっしはジュリ、姉御の一番弟子ッス! 趣味は姉御の真似っ子! 宜しくな、新入り!」
 ――人間の迫害に苦しむエルフを救う。罪を償える手段があると思った。
「しかし心しなさい、キアラ。弱者を傷つけるだけの力は、ただの暴力と変わらないのですから」
 ――彼女達となら世界を変えられる。エルフハイムを変えられる。あの死の連鎖で守られた森を、呪いから解き放てるかも知れないと。
「正しくその力を使いなさい。もう二度と、同じ悲劇を繰り返さない為に」
 ……あんなに教えてくれたのに。僕は約束を守れなかった。
 誰も救えず。何も守れず。ただ時の流れに取り残され、憎しみに囚われるなんて。
 そんなのまるで、あの森のクソジジイ共と一緒じゃないか……。



「自首しなさい。第十師団にはゼナイドがいる。彼女は罪に平等よ。エルフだからと贔屓はしないけれど、エルフだからと迫害もしない」
 キアラの生存を知れば追手がかかるのは間違いない。そしてタングラムも立場上、“どちらに加担してもいけない”。
「塀の中に居る事が一番安全だとわかるでしょう? 執行者は地の果てまであなたを追いかけ、必ず殺しに来る。奴らの執着心は狂っているわ」
「そしたら憎き帝国軍の仲間入り、かい?」
「違うわ。帝国は変わったの。あの人が変えてくれた。私が、そしてゼナイドが変えた。だからもう、帝国はエルフを傷つけるだけの敵じゃない」
「正直、君の言葉は信じられないよ。だけど、自分の目で確かめてみようと思う。どうせこの生命が消えてなくなるのなら、新しい風を見てみたいから」
 タングラムは優しく微笑む。そうしてキアラの頬を撫で、一歩身を引いた。
「今はここが私の居場所。私の守るべき仲間達。あの人が作ってくれた、大切な光。だから私はあなたと一緒には行けない」
「うん」
 ユニオンの中、ハンターに囲まれて笑うタングラムを見た。
 昔はあんな風には笑ってくれなかった。それはちょっぴり悔しいけれど。
「僕は、僕の道を行くよ」
 今度は上手に笑えた気がする。絶望を隠す作り笑いじゃない。
 今度こそ、償おう。自分に出来る形で世界を変える為に。あの森の呪いを――解き放つ為に。



「……泳がせるつもりはそうだったが、こりゃ予想外。大物が釣れ過ぎだぜ」
 リゼリオの街をふらつきながら歩くキアラを屋根の上に立つ黒い影が見下ろしている。
「まさかあの大逆の咎人がユニオンリーダーやってるなんてねぇ。爺さん共が知ったらなんて言うのやら」
 それ以前にジエルデが黙ってはいないだろう。どちらにせよこの事実を上に報告すれば、タングラムは執行対象者に名を連ねる事になる。
「いや、在り得ないよな普通。あいつは人間とは絶対相容れない筈だ。それがまさかハンターの中で堂々としてたらまず見つからねーよ」
 重罪を犯しながら外の世界で笑うタングラムと、未だその罪から開放されず森の中で泣き続けるジエルデ。そんな不条理があっていいのか?
「……やりきれねぇよなあ。流石に俺だってキレるぜ、アイリスさんよ?」
 拳を握り締め、男は黒衣を風にはためかせる。眼下に広がる人間の街はハンターの巣窟、ここで揉め事は起こせない。
「あのクソ女を一発ぶん殴ってやりてぇのは山々だが……今はこっちかね」
 人混みに紛れたキアラ。男は音もなく屋根から屋根へと飛び、頃合いを見て暗がりへと飛び降りていった。

解説

●???
キアラ・エルフハイムの護送。


●???
罪人、キアラ・エルフハイムを護送する。
帝国軍ではなくハンターに依頼をした人物の詳細は不明。
この依頼は冒険都市リゼリオから第十師団都市アネリブーベまでの護衛をハンターに任せる物である。
道中どんな障害があったとしてもキアラを保護し、アネリブーベまでの安全を確保せよ。


○???
キアラ・エルフハイムは帝国のビンゴブックに乗った罪人である。
それも相応の罪を認められた上、長年捕らえられていない高額賞金首である。
最終的にアネリブーベへ連れ込んだ者が賞金を受け取れる。
キアラが死亡していた場合賞金額は減少するものとする。


●???
『ハジャ』
非常に技量の高い疾影士。独特な近接格闘を扱う。
以前からキアラを追っている賞金稼ぎ。何を考えているのか得体の知れない男。

『賞金稼ぎ』
ハジャが手を組んだ賞金稼ぎ。キアラを奪い、自分達で賞金を貰うのが目的の小悪党。
ハジャとは所詮金がらみで手を組んだだけ。闘狩人一人、聖導士一人、猟撃士一人。


●???
『キアラ』
帝国領内で事件を起こしていた罪人。帝国軍に引き渡せば賞金がもらえる。
腕の立つ猟撃士だったが、現在は重体。なんとか歩ける程度で、戦闘には参加出来ない。


●特筆
OPはPL情報であるとする。

マスターより

お世話になっております、神宮寺です。

一応続き物ですが、物凄く続いてるわけでもないです。たぶん。
背景は非常に複雑ですが、要はムショまでエルフを連れて行くだけの依頼です。
なお、当依頼にタングラムはまったく出てきません。あしからず。

それでは宜しくお願い致します。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2014/12/27 02:30

参加者一覧

  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラック(ka0408
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • スカートを履いたイケメン
    リアム・グッドフェロー(ka2480
    エルフ|15才|男性|魔術師

  • 雲類鷲 伊路葉 (ka2718
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • 白狼鬼
    ネイハム・乾風(ka2961
    人間(紅)|28才|男性|猟撃士
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 護送計画【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/12/20 12:12:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/18 21:19:49