ゲスト
(ka0000)
【羽冠】理想の王国
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/06 15:00
- 完成日
- 2018/06/13 01:18
このシナリオは4日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●フォンヴェイユの五男
私は……何者かでありたかった。
貴族の子として生まれながら『領主』にも『侯爵』にもなれず、『フォンヴェイユの五男』として名前さえ記憶されないまま終わることは耐え切れなかった。
誰からも何も期待されず、軽視されるのが嫌だった。
満たされない自尊欲求。
それが私の原動力だった。
だから自分しかやらないことをやろうと思った。
それが歪虚退治だった。
常に歪虚に悩まされるリベルタース地方でその役をする者は重宝される。
覚醒者ではない分、知識を得ようと思った。
兵ではなく、指揮官として必要な知識を。
そうすれば自分だって戦える。
価値を見出されることが出来る。
――これが『レーニエ・フォンヴェイユ』の全てだ。
私には、それしかない。
マーロウ閣下はそんな私を認めてくれた。
この国に必要なのは歪虚と戦う戦士なのだと。
その時、私は生まれて始めて誰かに価値を見出された。
だから――私は私の価値のために戦う。
マーロウ閣下が理想とする王国にこそ、それはある。
そのためには手を汚すこともしよう。
これまでには無辜の民を扇動し、王女の評判を落とすよう仕向けた。
初めは近隣の王家派の貴族の領地で。二度目は王都で。
一度目は民の不満を焚き付けただけだったが、二度目は具体的な手段も用意した。商人や覚醒者を味方につけられたのでそれなりに大きな動きにはなった。
だが、結局はハンターに沈静化されてしまった。
ハンター……。
いったい何故ハンターは私達の邪魔をする?
歪虚と戦う立場であれば、歪虚との戦いを優先するマーロウ閣下と通じるところが多いのではないのか?
かれらは……理解できない。
イスルダ島では、敗北感を味わうことになった。
ハンター。強き者達。
ベリアル、メフィスト、茨の王……
王国を脅かす邪悪を討ち滅ぼしてきた存在。
かれらは、マーロウ閣下を認めないのか?
閣下よりも、王女の方がいいと?
であれば、やはり私とも相容れないだろう。
閣下の元でしか、私は輝けないだろうから……。
●マーロウ派の貴族
フォンヴェイユ侯爵家はマーロウ派の貴族である。
理由はいくつかあるが、その一番大きなものはマーロウが『貴族の権力を大きくする』考え方でいるからだ。
同じように考える貴族も多い。
そういったいくつかの貴族達と同じように、マーロウの指示のもとフォンヴェイユ侯爵も兵を王都に差し向けていた。
かれらはマーロウからの指示があり次第行動を起こす手筈になっていた。
フォンヴェイユの五男レーニエもその中にいた。彼は覚醒者ではないが、覚醒者で編成される私兵団『白馬隊(シュヴァル・ブラン)』の指揮官を務めており、領地に出現した歪虚を退治するのを主な活動としている。それは無論、相手が人間であっても強力な戦力として機能する。
かれらがマーロウからの指示を待っていたころ……
そんな折に、事は起こった。
「歪虚が王都内に出現した?!」
ここは王都イルダーナ某所、フォンヴェイユ家の面々が潜伏先としている屋敷である。
突如として彼らの元に、報が齎された。
この報を聞いたレーニエは、指揮官で父親でもあるレーヴィ・フォンヴェイユ侯爵の元にすぐさま駆け込んだ。
「父上! 出撃の許可を!」
「ならん」
「……何故です!」
「貴様もわかっていよう。マーロウ閣下よりの指示は『待機』。
下がるがよい」
「今は非常事態なのでは?」
「ならん」
「父上!」
「……」
レーヴィはそれきり何も言わなかった。
沈黙で意思が変わらぬ事を示してきたのだ。
「……くッ」
レーニエは踵を返した。返答もなく。
もとより一度として自分を認めてくれなかった父だ。
快く送り出してくれるわけがない。
――しかし、従う道理もない。
「白馬隊、集合!」
レーニエは自ら率いる手勢に招集をかけた。
「レーニエ様! 何処へ……?!」
部下とともに屋敷から出ようとしたところを、レーヴィの使用人に見咎められた。
「歪虚が王都に出現したならやることは一つだろう!」
「なりません! レーヴィ様の命は」
「それは聞けぬ!」
レーニエは静止するのも聞かず、外へ出た。
(いかにマーロウ閣下とはいえ、歪虚の襲来までは予測できなかっただろう……今は非常事態だ)
厩舎から葦毛の馬を出し、走らせるレーニエは道ながらそう考えていた。
●歪虚であるということ
利己的な動機で始めたことではあったが、歪虚を退治しなくてはならない真の理由も、レーニエは理解していた。
歪虚を目にする機会が多いからこそ、その恐ろしさを知っている。
自分のためだけではない。人の暮らす世界に存在させてはならない。
そういうものだ。本能でそう感じる。
(これは父上にはわからない……もしかしたら、マーロウ閣下でさえ自分ほどには。
直接歪虚と対峙しない限りは……)
「ヒョーッホッホッホ……向こうからやってきてくれましたねェ!」
青白い肌、人の上半身に下半身は複数の触手、背には蝙蝠の飛膜といった体の歪虚がレーニエ一行を見て、不気味に笑った。
「狂気(ワァーシン)とは……」
「失敬な! 我輩はれっきとした傲慢(アイテルカイト)ですぞ!」
歪虚が憤慨する間、同じような笑い声を上げながら、姿も様々な歪虚が現れた。
「信じられん、王都にこれほどの数が……?」
レーニエ一行は囲まれていた。
「手ごたえのない奴等ばかりで退屈していた所です。楽しませていただきましょうか!」
触手歪虚はまた、甲高い笑い声を上げた。
私は……何者かでありたかった。
貴族の子として生まれながら『領主』にも『侯爵』にもなれず、『フォンヴェイユの五男』として名前さえ記憶されないまま終わることは耐え切れなかった。
誰からも何も期待されず、軽視されるのが嫌だった。
満たされない自尊欲求。
それが私の原動力だった。
だから自分しかやらないことをやろうと思った。
それが歪虚退治だった。
常に歪虚に悩まされるリベルタース地方でその役をする者は重宝される。
覚醒者ではない分、知識を得ようと思った。
兵ではなく、指揮官として必要な知識を。
そうすれば自分だって戦える。
価値を見出されることが出来る。
――これが『レーニエ・フォンヴェイユ』の全てだ。
私には、それしかない。
マーロウ閣下はそんな私を認めてくれた。
この国に必要なのは歪虚と戦う戦士なのだと。
その時、私は生まれて始めて誰かに価値を見出された。
だから――私は私の価値のために戦う。
マーロウ閣下が理想とする王国にこそ、それはある。
そのためには手を汚すこともしよう。
これまでには無辜の民を扇動し、王女の評判を落とすよう仕向けた。
初めは近隣の王家派の貴族の領地で。二度目は王都で。
一度目は民の不満を焚き付けただけだったが、二度目は具体的な手段も用意した。商人や覚醒者を味方につけられたのでそれなりに大きな動きにはなった。
だが、結局はハンターに沈静化されてしまった。
ハンター……。
いったい何故ハンターは私達の邪魔をする?
歪虚と戦う立場であれば、歪虚との戦いを優先するマーロウ閣下と通じるところが多いのではないのか?
かれらは……理解できない。
イスルダ島では、敗北感を味わうことになった。
ハンター。強き者達。
ベリアル、メフィスト、茨の王……
王国を脅かす邪悪を討ち滅ぼしてきた存在。
かれらは、マーロウ閣下を認めないのか?
閣下よりも、王女の方がいいと?
であれば、やはり私とも相容れないだろう。
閣下の元でしか、私は輝けないだろうから……。
●マーロウ派の貴族
フォンヴェイユ侯爵家はマーロウ派の貴族である。
理由はいくつかあるが、その一番大きなものはマーロウが『貴族の権力を大きくする』考え方でいるからだ。
同じように考える貴族も多い。
そういったいくつかの貴族達と同じように、マーロウの指示のもとフォンヴェイユ侯爵も兵を王都に差し向けていた。
かれらはマーロウからの指示があり次第行動を起こす手筈になっていた。
フォンヴェイユの五男レーニエもその中にいた。彼は覚醒者ではないが、覚醒者で編成される私兵団『白馬隊(シュヴァル・ブラン)』の指揮官を務めており、領地に出現した歪虚を退治するのを主な活動としている。それは無論、相手が人間であっても強力な戦力として機能する。
かれらがマーロウからの指示を待っていたころ……
そんな折に、事は起こった。
「歪虚が王都内に出現した?!」
ここは王都イルダーナ某所、フォンヴェイユ家の面々が潜伏先としている屋敷である。
突如として彼らの元に、報が齎された。
この報を聞いたレーニエは、指揮官で父親でもあるレーヴィ・フォンヴェイユ侯爵の元にすぐさま駆け込んだ。
「父上! 出撃の許可を!」
「ならん」
「……何故です!」
「貴様もわかっていよう。マーロウ閣下よりの指示は『待機』。
下がるがよい」
「今は非常事態なのでは?」
「ならん」
「父上!」
「……」
レーヴィはそれきり何も言わなかった。
沈黙で意思が変わらぬ事を示してきたのだ。
「……くッ」
レーニエは踵を返した。返答もなく。
もとより一度として自分を認めてくれなかった父だ。
快く送り出してくれるわけがない。
――しかし、従う道理もない。
「白馬隊、集合!」
レーニエは自ら率いる手勢に招集をかけた。
「レーニエ様! 何処へ……?!」
部下とともに屋敷から出ようとしたところを、レーヴィの使用人に見咎められた。
「歪虚が王都に出現したならやることは一つだろう!」
「なりません! レーヴィ様の命は」
「それは聞けぬ!」
レーニエは静止するのも聞かず、外へ出た。
(いかにマーロウ閣下とはいえ、歪虚の襲来までは予測できなかっただろう……今は非常事態だ)
厩舎から葦毛の馬を出し、走らせるレーニエは道ながらそう考えていた。
●歪虚であるということ
利己的な動機で始めたことではあったが、歪虚を退治しなくてはならない真の理由も、レーニエは理解していた。
歪虚を目にする機会が多いからこそ、その恐ろしさを知っている。
自分のためだけではない。人の暮らす世界に存在させてはならない。
そういうものだ。本能でそう感じる。
(これは父上にはわからない……もしかしたら、マーロウ閣下でさえ自分ほどには。
直接歪虚と対峙しない限りは……)
「ヒョーッホッホッホ……向こうからやってきてくれましたねェ!」
青白い肌、人の上半身に下半身は複数の触手、背には蝙蝠の飛膜といった体の歪虚がレーニエ一行を見て、不気味に笑った。
「狂気(ワァーシン)とは……」
「失敬な! 我輩はれっきとした傲慢(アイテルカイト)ですぞ!」
歪虚が憤慨する間、同じような笑い声を上げながら、姿も様々な歪虚が現れた。
「信じられん、王都にこれほどの数が……?」
レーニエ一行は囲まれていた。
「手ごたえのない奴等ばかりで退屈していた所です。楽しませていただきましょうか!」
触手歪虚はまた、甲高い笑い声を上げた。
リプレイ本文
●光明
王都を駆ける者達の姿があった。
あるいはバイクを走らせ、あるいは空を飛び。
かれらは向かう。
その先に、助けを必要とする同朋がいるからだ。
「隊長、背後より新手が!」
「うむ。後列で対応せよ」
突如として向かってきた四騎のバイクに対し、歪虚隊長は冷静に対応した。歪虚達は一斉に魔法の矢を放ち、迎撃した。
――だが、その程度では。
「私達は止められないよ!」
バイクでこの距離なら攻撃を受けるのはせいぜい一度きり。夢路 まよい(ka1328)は意にも介さずに前へと進む。
「援護に来たっすよ~~~!!!」
大声で呼びかける、神楽(ka2032)。窮地に陥った兵を鼓舞するために。
「すぐに行くわ、待っていて」
コントラルト(ka4753)も大声かつ早口で自らの存在を誇示し、
「絶対に、そなたらを死なせるものか……!」
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)もまた、己の意思を宣言する。
白馬隊の名の由来たる葦毛の馬達も倒され、スキルも全て使い果ててしまった。
このままではやられる――
そう思い始めた頃、
レーニエは閃光が奔るのを見た。
眼前の歪虚が仰け反ったり身体を強ばらせたりしている。
――背後から攻撃を受けているとわかった。
そこで、声が聞こえた。
自分達を救いに現れた、『人』の声が。
「援軍かっ!」
闘狩人の男の、武器を持つ疲れきった腕に、再び力が宿る。
「何としてでも持たせろ! 希望を失うな!」
反射的にレーニエが叫んだ。彼の部下達は頷き、再び闘志を燃やす。
「今更遅い! 一人残らず殺してくれる!」
先頭の歪虚が脅すように言った。
「そんなこと、させないっ!」
突然の、否定の言葉。
それはレーニエ達の頭上から発せられた。
声の主は、歪虚とレーニエ達の間を遮るように降り立つ。
――ミコト=S=レグルス(ka3953)。
ヴィルマから飛行の術を施された武器で、空からレーニエ達の下に参上した。
「ここから先は、うちらが相手になるよ!」
そして、もう1人。
降り立ったフライングスレッドから立ち上がった彼の体の表面では、帯電しているかのように電流が奔っている。
――キヅカ・リク(ka0038)。
その輝きが、威嚇するように増した。ソウルトーチ。歪虚の注目は自然と集まる。
「右に同じ……かかって来い!」
歪虚達――四人のハンターが現れた方と反対側――はキヅカに攻撃を加えた。
歪虚の剣が、魔法の矢が彼を襲う。
だが、聖鎧機「ヴァルトブルグ」に護られた彼を傷つけることなどできはしない。
「この程度なら!」
キヅカは聖機剣「マグダレーネ」を掲げる。それを持つ手でフォースリングが輝いた。
五条の光が放たれる。それは圧倒的な破壊力をもって歪虚達を貫いた。
間髪を入れずにミコトがライデンシャフト零式を手にし、踏み込んだ。
キヅカの攻撃目標から漏れた個体に接近。
強く大地を踏みしめ、
――獅子が吠えた。
低い姿勢から、一瞬の内に繰り出される怒涛の連撃。
攻撃を終えると飛び退き、敵の攻撃に備えて構え直す。
「ハンター……なのか?」
レーニエが誰にともなく言った。
その時、彼の耳は戦場には異質なものを聞いた。
穢れし魂
もたらす災禍
精霊の加護にて
幻のものとせん
それは歌だった。
そう思い至ると同時に、バイクが一騎、敵陣を突破してきてレーニエの前で反転、背を向けた。
「歌が聞こえる範囲から出てはだめよ」
コントラルトだ。首だけを向けてレーニエに言う。
そしてアンチボディでレーニエを癒やした。
「敵の能力はわかる? 懲罰は?」
「ああ、魔術に似た能力を使う。懲罰は今の所使われていない!」
コントラルトの問いに闘狩人が答える。
「わかったわ」
コントラルトは短く応えると、攻撃に転じた――堕杖「エグリゴリ」から火炎を発した。
機導術の炎は凄まじい威力で、瞬く間に歪虚を無に還していく。
「業火」の称号の通りに。
レーニエはその背中を見ていた。
(――だが、その親切は痛い)
穏やかに、静粛に歌い踊るのはまよいとヴィルマ。
マテリアルを活性化させるアイデアル・ソング。歌はまよい独自の幻葬歌だ。
そして、その動作から攻撃に転じる――
一瞬で、静から動へ。
ヴィルマはこの瞬間、紫電の女王として君臨した。
鞭のように振るう電光が、次々と歪虚を襲っていく。
一方、まよいの唇が紡ぐ呪文は不思議な響きがあった――複数同時詠唱。
振るった錬金杖の軌跡から10個の星が生まれ、光の矢となって10体の敵を同時に射抜いた。
もはや人数差は何の問題もない。
コントラルトが敵陣を突破できた理由は、まよいとヴィルマの活躍のほか、神楽が射雷撃で進路上の敵を攻撃、かつ隊長を幻影触手で絡め取ったからでもあった。
「うおっ、なんと卑猥な!」
「その触手は飾りっすか!?」
神楽の幻影触手が歪虚の触手と絡み合う。
濃い。
「いくら下等な人間とはいえ、こんな戦い方を好むとは――」
この歪虚はたまたま原型がイカだっただけである。
「別に海産物を触手でうねうねしても面白くないっす!」
「だったら『触手を絡めるのはあっちの娘になさい!』」
神楽は歪虚の拘束を解いた。
そしてヴィルマの方を向く。
その目は明らかに正気を失っていた。
正直ではあったかもしれないが――(欲望に)
「なにい?! こう来たか!」
「危ない!」
その時危険を察したミコトのファントムハンドが神楽の足首を掴んだ。
神楽は顔から地面に突っ込んだ。そして引き摺られる。
そして近くまで来たところで、キヅカが機動浄化術・浄癒を施す。
神楽の異常はカートリッジに封じられ、うち捨てられた。
術が完了し、キヅカとミコトは一息つく。
「危ない所だった……」
「良かった……」
本当に。
「くっ……俺の触手が……! っす」
「えっちなのはいけないと思うよ!」
誰に対して怒っているのか定かではない神楽を遠目に見つつ、まよいが錬金杖を振る。
隊長含めた十体の歪虚が光に射抜かれ、何体かが消えた。
しかし、隊長はすぐさま攻撃の動作に移った。
「調子に乗るのはここまでです! 喰らいなさい!」
隊長が呪文を紡ぎ、魔術的な動作をする。
――しかし、何も発動しない。
「何ですってえ?!」
「下衆が……惨たらしく無為に死ね」
ヴィルマの軽蔑を込めた言葉。彼女がカウンターマジックをかけたのだ。
そして続けざまに放つライトニングボルト。
荒れ狂う紫電は彼女の怒りを示すように歪虚隊長とその取り巻きを焼いた。
「くっ……ならば今一度!」
体勢を立て直す歪虚隊長。なかなかにしぶとい。
――しかし、術はまた発動しなかった。
「ゲスが! 以下同文!」
今度はまよいが言った。今度のカウンターマジックは彼女だ。そして流星のような魔法の矢が言葉と供に歪虚に突き刺さった。
「何なんですかアナタ達は?!」
「少なくとも女の敵は死んだ方がいいと思ってることは確かかな!」
「今とどめをくれてやろう!」
ヴィルマの駄目押しとも言える雷撃が奔った。
それは言葉通りに、激しい火花とともに歪虚を跡形もなく消し去った。
「俺が、触手王っす……!」
神楽が、遠くから勝ち誇った。
反対側の歪虚もキヅカとミコトの活躍で倒された。中には変容を使って逃げようとしたものもいたが、目の前で変容したものを逃がすわけは無く、すべて討ち取られた。
●イサ
「皆様、こちらへ……」
戦いが終り、レーニエ達の状況を確認しようとした一行を、白馬隊の猟撃士が手招きした。
長い黒髪の、若い女だった。
レーニエ一行から少し離れた所でハンター達が一塊になると、彼女は語った。
「私は白馬隊のイサといいます」
彼女がレーニエに仕えるメイドでもあることを、イスルダ島で出会った者なら知っているかもしれない。
イサは語った。レーニエがマーロウ派の貴族であること。ハンターに反感を持っていること。フォンヴェイユの子でありながら、父の命に反して出撃したこと。そして。
「どうか、このまま私達を行かせてくださいませ」
こんな事を依頼された。
「いや……」
ヴィルマはやんわりと断った。
「であるなら、逆に捨て置けぬ」
「その人の気持ち、わかるよ」
キヅカが言った。彼自身、親に一方的に価値を決められたように感じたことがあったからだ。
「でも、その人の価値を認めてあげられる人はきっと……居るから」
彼が出会えたように。
「よし、俺に任せるっすよ!」
何か閃いたのか、あるいは前から考えていた事があったのか、神楽は一人意気込んでレーニエに向かっていく。
他の面々も彼に続いた。
●接触
「この状況で全員生存とは、流石は高名なシュヴァル・ブランを率いる英雄っす! あ、俺は神楽っす。よろしくっす」
偉い人に取り入る三下の見本のような言動で、レーニエの心を開きにかかる神楽。
レーニエは黙って神楽を見る。
そこで神楽は――
スフォルツァの末娘を紹介した。
「スフォルツァは私を敵視している。
あの家が懇意にするハンターというのは貴公だな?」
明らかに機嫌が悪い。
レーニエは神楽のことを知っていたような口振りで続ける。
「ならば、貴公も相応しく振る舞うべきだ」
「敵視しているのはレーニエさんじゃないですかっ……!」
ミコトだった。
レーニエの態度に、彼女なりに感じるものがあった。
「目の前で誰かが傷ついたり、泣くのがイヤだから助ける、それじゃダメなんですか?
それだけの単純な事が、そんなに難しいの?
手を伸ばせば、そこに届く誰かがいる筈なのに……!」
「それは力ある者の理論だ……!」
レーニエは返した。腹の底から搾り出すような声だった。
「私にはこれしかないのだ! だが貴公らは、それを容易く上回っていく! 私に無力さを思い知らせる!」
吹っ切れたのだろうか?
だが、憤りの対象はミコトではないようだ。
「指揮官としても部下を危険に晒した私は……!」
「でも、来てくれたんだろ」
キヅカだった。レーニエは彼を見る。
「自分が無力と感じていても、平民<ぼくら>を見捨てないでくれたんだろ。僕も、元々は平民だからさ」
「……何が言いたい?」
「だから、ありがとう」
レーニエは肩すかしを食らったように黙った。キヅカは続ける。
「別に僕らが嫌いなら嫌いでいいじゃん。全部が全部すきになれるわけないって。
だけど、もし叶うなら、
また、こんなことがあったら駆けつけてくれる、今のままの君で居てほしい」
キヅカが示したのは感謝と受容。
それこそがレーニエが求めて止まないものだったのかもしれない。
だが彼を認めない者が身近にいる以上、劣等感は消えない。
劣等感を背負わされている――。
キヅカのような人が身近に居れば、違ったのだろうか。
「そのような言葉をハンターから聞くとはな……」
「そういうとこだよ、レーニエ!」
「なに?」
割り込むように呼びかけたのはまよい。レーニエは彼女に向き直る。
「本当はわかってるんじゃないの?
今は人間どうしで喧嘩はしてる場合じゃない。だからレーニエもこうして来たんじゃないの?
いい加減貴族だの王家だのハンターだのそういう区別はやめなよ!」
区別を止める――
人として歪虚と戦う――
「そう簡単に割り切れるものか……!」
まよいの言葉は正しい。
だがレーニエにはこれまでの人生で、別のことが正しいとされていた価値観を持ってしまっている。
マーロウを基準としている今の彼には、区別する事が自然だった。
しばし沈黙が場を支配した。
「そうね、私に限るかもしれないけど」
沈黙を破ったのはコントラルトだった。
「王国派も貴族派もどうでもいいわ、私は私派だから」
それは堂々たる宣言だった。
姉が王国騎士だというのに。
「貴方、今ここにいるのは貴方の心に従ったからなのよね」
「自分が正しいと思ったことをした……結果はともかくな」
レーニエは応える。
「そうよね。そうした事自体が大事よ。
貴族派だからじゃなくて、貴方の心からその思いは生まれた。その心を、貴方が貴方をまず認めてあげて、その心に従って動いてみたらどうかしら? そうしたらたぶん私たちを理解できると思うわよ」
「貴公は……私を肯定するのか?」
「少なくとも私は、自分の心に従った貴方を認める。だって私もそうしているもの。
身体も気持ちも有限、だから私はやりたい事しかやらないわ」
「そなたが心から歪虚と戦いたいと欲するのであれば――」
引き取るように、ヴィルマが続けた。
「――我は助ける。王女派、貴族派に関係なくな。
共通の敵は歪虚。いがみあって足を引っ張りあっていては、敵の思うつぼじゃ。奴らはそういう人間同士の争いにつけ込んでくるからのぅ」
「立場を気にしないのか?」
レーニエは聞く。それが不思議だった。
「歪虚がおるというのに、人間同士で敵だの味方だの気にしておる場合ではない」
ヴィルマは間をおいた。そして語った。
彼女なりの王国のヴィジョンを――
「王国の未来を真剣に考えているという点では、王女殿下もマーロウ大公も、やり方は違えど同じ。
互いに互いの良い所を見つけ、手に手を取る未来などないかと、我は思うのじゃがのぅ」
「……貴公らもマーロウ閣下を否定するわけではないのか……
共に手を取る……か」
レーニエはしばし考える。
「……見えていなかった。自分のことばかり気にして。
人類は常に歪虚の脅威に脅かされている、ということを。
私は……愚か者だ……」
「またいちいち落ち込む!」
「こんな暗いイケメン始めて見たっす」
「心に従えとは確かに言ったけど……」
「自虐的じゃのう」
まよい、神楽、コントラルト、ヴィルマのそれぞれの反応である。
「確かに、いい加減目覚めるべきだ。手遅れになる前に」
レーニエはそう言って顔を上げた。
「争っている場合では……ない。
スフォルツァともな」
レーニエは神楽の顔を見る。
「時には、物事を単純に捉えた方がいい時もある」
今度はミコトの顔を見た。
「貴公は私の目標に……より近い所に居るようだ」
「目標って?」
「歪虚を倒す……」
レーニエはミコトの問いに応え前を見据える。
その横顔は美しかった。
「我々は帰還する。さらばだ。
また会うこともあるだろう」
戦いで死亡した馬は置いていくしかなかったが……
去るレーニエの後姿は、やはり、颯爽としていた。
「皆様、本当にありがとうございました」
白馬隊の面々がレーニエに続く中、イサが一行に恭しく一礼した。
「私達は部下でしかないので、レーニエ様の気持ちを理解して受け入れてさしあげることができなかったのです。
丁寧に語りかけていただき、心より感謝いたします。
それでは……」
また一礼すると、レーニエ達を追いかけて走っていった。
一行はその場に残された。
王都での歪虚との戦いも、一段落着こうとしていた……。
王都を駆ける者達の姿があった。
あるいはバイクを走らせ、あるいは空を飛び。
かれらは向かう。
その先に、助けを必要とする同朋がいるからだ。
「隊長、背後より新手が!」
「うむ。後列で対応せよ」
突如として向かってきた四騎のバイクに対し、歪虚隊長は冷静に対応した。歪虚達は一斉に魔法の矢を放ち、迎撃した。
――だが、その程度では。
「私達は止められないよ!」
バイクでこの距離なら攻撃を受けるのはせいぜい一度きり。夢路 まよい(ka1328)は意にも介さずに前へと進む。
「援護に来たっすよ~~~!!!」
大声で呼びかける、神楽(ka2032)。窮地に陥った兵を鼓舞するために。
「すぐに行くわ、待っていて」
コントラルト(ka4753)も大声かつ早口で自らの存在を誇示し、
「絶対に、そなたらを死なせるものか……!」
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)もまた、己の意思を宣言する。
白馬隊の名の由来たる葦毛の馬達も倒され、スキルも全て使い果ててしまった。
このままではやられる――
そう思い始めた頃、
レーニエは閃光が奔るのを見た。
眼前の歪虚が仰け反ったり身体を強ばらせたりしている。
――背後から攻撃を受けているとわかった。
そこで、声が聞こえた。
自分達を救いに現れた、『人』の声が。
「援軍かっ!」
闘狩人の男の、武器を持つ疲れきった腕に、再び力が宿る。
「何としてでも持たせろ! 希望を失うな!」
反射的にレーニエが叫んだ。彼の部下達は頷き、再び闘志を燃やす。
「今更遅い! 一人残らず殺してくれる!」
先頭の歪虚が脅すように言った。
「そんなこと、させないっ!」
突然の、否定の言葉。
それはレーニエ達の頭上から発せられた。
声の主は、歪虚とレーニエ達の間を遮るように降り立つ。
――ミコト=S=レグルス(ka3953)。
ヴィルマから飛行の術を施された武器で、空からレーニエ達の下に参上した。
「ここから先は、うちらが相手になるよ!」
そして、もう1人。
降り立ったフライングスレッドから立ち上がった彼の体の表面では、帯電しているかのように電流が奔っている。
――キヅカ・リク(ka0038)。
その輝きが、威嚇するように増した。ソウルトーチ。歪虚の注目は自然と集まる。
「右に同じ……かかって来い!」
歪虚達――四人のハンターが現れた方と反対側――はキヅカに攻撃を加えた。
歪虚の剣が、魔法の矢が彼を襲う。
だが、聖鎧機「ヴァルトブルグ」に護られた彼を傷つけることなどできはしない。
「この程度なら!」
キヅカは聖機剣「マグダレーネ」を掲げる。それを持つ手でフォースリングが輝いた。
五条の光が放たれる。それは圧倒的な破壊力をもって歪虚達を貫いた。
間髪を入れずにミコトがライデンシャフト零式を手にし、踏み込んだ。
キヅカの攻撃目標から漏れた個体に接近。
強く大地を踏みしめ、
――獅子が吠えた。
低い姿勢から、一瞬の内に繰り出される怒涛の連撃。
攻撃を終えると飛び退き、敵の攻撃に備えて構え直す。
「ハンター……なのか?」
レーニエが誰にともなく言った。
その時、彼の耳は戦場には異質なものを聞いた。
穢れし魂
もたらす災禍
精霊の加護にて
幻のものとせん
それは歌だった。
そう思い至ると同時に、バイクが一騎、敵陣を突破してきてレーニエの前で反転、背を向けた。
「歌が聞こえる範囲から出てはだめよ」
コントラルトだ。首だけを向けてレーニエに言う。
そしてアンチボディでレーニエを癒やした。
「敵の能力はわかる? 懲罰は?」
「ああ、魔術に似た能力を使う。懲罰は今の所使われていない!」
コントラルトの問いに闘狩人が答える。
「わかったわ」
コントラルトは短く応えると、攻撃に転じた――堕杖「エグリゴリ」から火炎を発した。
機導術の炎は凄まじい威力で、瞬く間に歪虚を無に還していく。
「業火」の称号の通りに。
レーニエはその背中を見ていた。
(――だが、その親切は痛い)
穏やかに、静粛に歌い踊るのはまよいとヴィルマ。
マテリアルを活性化させるアイデアル・ソング。歌はまよい独自の幻葬歌だ。
そして、その動作から攻撃に転じる――
一瞬で、静から動へ。
ヴィルマはこの瞬間、紫電の女王として君臨した。
鞭のように振るう電光が、次々と歪虚を襲っていく。
一方、まよいの唇が紡ぐ呪文は不思議な響きがあった――複数同時詠唱。
振るった錬金杖の軌跡から10個の星が生まれ、光の矢となって10体の敵を同時に射抜いた。
もはや人数差は何の問題もない。
コントラルトが敵陣を突破できた理由は、まよいとヴィルマの活躍のほか、神楽が射雷撃で進路上の敵を攻撃、かつ隊長を幻影触手で絡め取ったからでもあった。
「うおっ、なんと卑猥な!」
「その触手は飾りっすか!?」
神楽の幻影触手が歪虚の触手と絡み合う。
濃い。
「いくら下等な人間とはいえ、こんな戦い方を好むとは――」
この歪虚はたまたま原型がイカだっただけである。
「別に海産物を触手でうねうねしても面白くないっす!」
「だったら『触手を絡めるのはあっちの娘になさい!』」
神楽は歪虚の拘束を解いた。
そしてヴィルマの方を向く。
その目は明らかに正気を失っていた。
正直ではあったかもしれないが――(欲望に)
「なにい?! こう来たか!」
「危ない!」
その時危険を察したミコトのファントムハンドが神楽の足首を掴んだ。
神楽は顔から地面に突っ込んだ。そして引き摺られる。
そして近くまで来たところで、キヅカが機動浄化術・浄癒を施す。
神楽の異常はカートリッジに封じられ、うち捨てられた。
術が完了し、キヅカとミコトは一息つく。
「危ない所だった……」
「良かった……」
本当に。
「くっ……俺の触手が……! っす」
「えっちなのはいけないと思うよ!」
誰に対して怒っているのか定かではない神楽を遠目に見つつ、まよいが錬金杖を振る。
隊長含めた十体の歪虚が光に射抜かれ、何体かが消えた。
しかし、隊長はすぐさま攻撃の動作に移った。
「調子に乗るのはここまでです! 喰らいなさい!」
隊長が呪文を紡ぎ、魔術的な動作をする。
――しかし、何も発動しない。
「何ですってえ?!」
「下衆が……惨たらしく無為に死ね」
ヴィルマの軽蔑を込めた言葉。彼女がカウンターマジックをかけたのだ。
そして続けざまに放つライトニングボルト。
荒れ狂う紫電は彼女の怒りを示すように歪虚隊長とその取り巻きを焼いた。
「くっ……ならば今一度!」
体勢を立て直す歪虚隊長。なかなかにしぶとい。
――しかし、術はまた発動しなかった。
「ゲスが! 以下同文!」
今度はまよいが言った。今度のカウンターマジックは彼女だ。そして流星のような魔法の矢が言葉と供に歪虚に突き刺さった。
「何なんですかアナタ達は?!」
「少なくとも女の敵は死んだ方がいいと思ってることは確かかな!」
「今とどめをくれてやろう!」
ヴィルマの駄目押しとも言える雷撃が奔った。
それは言葉通りに、激しい火花とともに歪虚を跡形もなく消し去った。
「俺が、触手王っす……!」
神楽が、遠くから勝ち誇った。
反対側の歪虚もキヅカとミコトの活躍で倒された。中には変容を使って逃げようとしたものもいたが、目の前で変容したものを逃がすわけは無く、すべて討ち取られた。
●イサ
「皆様、こちらへ……」
戦いが終り、レーニエ達の状況を確認しようとした一行を、白馬隊の猟撃士が手招きした。
長い黒髪の、若い女だった。
レーニエ一行から少し離れた所でハンター達が一塊になると、彼女は語った。
「私は白馬隊のイサといいます」
彼女がレーニエに仕えるメイドでもあることを、イスルダ島で出会った者なら知っているかもしれない。
イサは語った。レーニエがマーロウ派の貴族であること。ハンターに反感を持っていること。フォンヴェイユの子でありながら、父の命に反して出撃したこと。そして。
「どうか、このまま私達を行かせてくださいませ」
こんな事を依頼された。
「いや……」
ヴィルマはやんわりと断った。
「であるなら、逆に捨て置けぬ」
「その人の気持ち、わかるよ」
キヅカが言った。彼自身、親に一方的に価値を決められたように感じたことがあったからだ。
「でも、その人の価値を認めてあげられる人はきっと……居るから」
彼が出会えたように。
「よし、俺に任せるっすよ!」
何か閃いたのか、あるいは前から考えていた事があったのか、神楽は一人意気込んでレーニエに向かっていく。
他の面々も彼に続いた。
●接触
「この状況で全員生存とは、流石は高名なシュヴァル・ブランを率いる英雄っす! あ、俺は神楽っす。よろしくっす」
偉い人に取り入る三下の見本のような言動で、レーニエの心を開きにかかる神楽。
レーニエは黙って神楽を見る。
そこで神楽は――
スフォルツァの末娘を紹介した。
「スフォルツァは私を敵視している。
あの家が懇意にするハンターというのは貴公だな?」
明らかに機嫌が悪い。
レーニエは神楽のことを知っていたような口振りで続ける。
「ならば、貴公も相応しく振る舞うべきだ」
「敵視しているのはレーニエさんじゃないですかっ……!」
ミコトだった。
レーニエの態度に、彼女なりに感じるものがあった。
「目の前で誰かが傷ついたり、泣くのがイヤだから助ける、それじゃダメなんですか?
それだけの単純な事が、そんなに難しいの?
手を伸ばせば、そこに届く誰かがいる筈なのに……!」
「それは力ある者の理論だ……!」
レーニエは返した。腹の底から搾り出すような声だった。
「私にはこれしかないのだ! だが貴公らは、それを容易く上回っていく! 私に無力さを思い知らせる!」
吹っ切れたのだろうか?
だが、憤りの対象はミコトではないようだ。
「指揮官としても部下を危険に晒した私は……!」
「でも、来てくれたんだろ」
キヅカだった。レーニエは彼を見る。
「自分が無力と感じていても、平民<ぼくら>を見捨てないでくれたんだろ。僕も、元々は平民だからさ」
「……何が言いたい?」
「だから、ありがとう」
レーニエは肩すかしを食らったように黙った。キヅカは続ける。
「別に僕らが嫌いなら嫌いでいいじゃん。全部が全部すきになれるわけないって。
だけど、もし叶うなら、
また、こんなことがあったら駆けつけてくれる、今のままの君で居てほしい」
キヅカが示したのは感謝と受容。
それこそがレーニエが求めて止まないものだったのかもしれない。
だが彼を認めない者が身近にいる以上、劣等感は消えない。
劣等感を背負わされている――。
キヅカのような人が身近に居れば、違ったのだろうか。
「そのような言葉をハンターから聞くとはな……」
「そういうとこだよ、レーニエ!」
「なに?」
割り込むように呼びかけたのはまよい。レーニエは彼女に向き直る。
「本当はわかってるんじゃないの?
今は人間どうしで喧嘩はしてる場合じゃない。だからレーニエもこうして来たんじゃないの?
いい加減貴族だの王家だのハンターだのそういう区別はやめなよ!」
区別を止める――
人として歪虚と戦う――
「そう簡単に割り切れるものか……!」
まよいの言葉は正しい。
だがレーニエにはこれまでの人生で、別のことが正しいとされていた価値観を持ってしまっている。
マーロウを基準としている今の彼には、区別する事が自然だった。
しばし沈黙が場を支配した。
「そうね、私に限るかもしれないけど」
沈黙を破ったのはコントラルトだった。
「王国派も貴族派もどうでもいいわ、私は私派だから」
それは堂々たる宣言だった。
姉が王国騎士だというのに。
「貴方、今ここにいるのは貴方の心に従ったからなのよね」
「自分が正しいと思ったことをした……結果はともかくな」
レーニエは応える。
「そうよね。そうした事自体が大事よ。
貴族派だからじゃなくて、貴方の心からその思いは生まれた。その心を、貴方が貴方をまず認めてあげて、その心に従って動いてみたらどうかしら? そうしたらたぶん私たちを理解できると思うわよ」
「貴公は……私を肯定するのか?」
「少なくとも私は、自分の心に従った貴方を認める。だって私もそうしているもの。
身体も気持ちも有限、だから私はやりたい事しかやらないわ」
「そなたが心から歪虚と戦いたいと欲するのであれば――」
引き取るように、ヴィルマが続けた。
「――我は助ける。王女派、貴族派に関係なくな。
共通の敵は歪虚。いがみあって足を引っ張りあっていては、敵の思うつぼじゃ。奴らはそういう人間同士の争いにつけ込んでくるからのぅ」
「立場を気にしないのか?」
レーニエは聞く。それが不思議だった。
「歪虚がおるというのに、人間同士で敵だの味方だの気にしておる場合ではない」
ヴィルマは間をおいた。そして語った。
彼女なりの王国のヴィジョンを――
「王国の未来を真剣に考えているという点では、王女殿下もマーロウ大公も、やり方は違えど同じ。
互いに互いの良い所を見つけ、手に手を取る未来などないかと、我は思うのじゃがのぅ」
「……貴公らもマーロウ閣下を否定するわけではないのか……
共に手を取る……か」
レーニエはしばし考える。
「……見えていなかった。自分のことばかり気にして。
人類は常に歪虚の脅威に脅かされている、ということを。
私は……愚か者だ……」
「またいちいち落ち込む!」
「こんな暗いイケメン始めて見たっす」
「心に従えとは確かに言ったけど……」
「自虐的じゃのう」
まよい、神楽、コントラルト、ヴィルマのそれぞれの反応である。
「確かに、いい加減目覚めるべきだ。手遅れになる前に」
レーニエはそう言って顔を上げた。
「争っている場合では……ない。
スフォルツァともな」
レーニエは神楽の顔を見る。
「時には、物事を単純に捉えた方がいい時もある」
今度はミコトの顔を見た。
「貴公は私の目標に……より近い所に居るようだ」
「目標って?」
「歪虚を倒す……」
レーニエはミコトの問いに応え前を見据える。
その横顔は美しかった。
「我々は帰還する。さらばだ。
また会うこともあるだろう」
戦いで死亡した馬は置いていくしかなかったが……
去るレーニエの後姿は、やはり、颯爽としていた。
「皆様、本当にありがとうございました」
白馬隊の面々がレーニエに続く中、イサが一行に恭しく一礼した。
「私達は部下でしかないので、レーニエ様の気持ちを理解して受け入れてさしあげることができなかったのです。
丁寧に語りかけていただき、心より感謝いたします。
それでは……」
また一礼すると、レーニエ達を追いかけて走っていった。
一行はその場に残された。
王都での歪虚との戦いも、一段落着こうとしていた……。
依頼結果
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相談卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/06/05 22:57:34 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/03 10:13:01 |