ゲスト
(ka0000)
【港騒】疑心暗鬼のコンチェルト
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/09 22:00
- 完成日
- 2018/06/22 03:03
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●へこむメリンダ
ポルトワールは同盟第一とも呼ばれる港湾都市だ。
漁港としても、同盟海軍の軍港としても発展している上に、極彩色の街と呼ばれる同盟の首都ヴァリオスと人気を二分するほどの観光都市でもある。
そのポルトワールにある同盟海軍の駐屯地で、ハンターたちの顔を見たメリンダ・ドナーティ(kz0041)は、拝むように手を合わせ頭を下げた。
「ほんっとに!! 申し訳ありませんでした!!」
結局『金色のカモメ亭』での事件の後、後始末のための大量の書類に埋もれることになり、まだヴァリオスに戻れないでいたのだ。
ハンターたちはメリンダの状況に苦笑しつつ、先日捕まえたならず者たちについて尋ねる。
「そうですね、なんだか妙な具合です」
メリンダの言うには、赤毛の男の動きがあまりに素人じみていて、到底ハンター、あるいは覚醒者には思えなかったらしい。
ジャンもいたので問題ない、ほかのお客のためにも出て行ってもらおうと思って反撃したが、結果的にハンターたちの手を煩わせてしまった。
仮にあの場にハンターがいなければ、自分はともかく、民間人にも迷惑をかけるところだったろう――。
メリンダはまた頭を下げた後で、ようやく本題に入った。
「あれだけ騒いでいた割に、連行されるときはずいぶん大人しくなっていましたよね」
メリンダを睨んでいた赤毛の男も、留置所に放り込まれてからは、別人のようにしょぼくれていたそうだ。
ほかの男たちも、派手な見かけが実に残念な有様らしい。
「いくらリーダーに見捨てられたとはいえ、あまりにも従順で。しかもひどく酔っていたようで、事件のことはほとんど覚えていないというんです」
ハンターたちは話を聞くと、また何か良い依頼があったら知らせてくれるように頼んで、駐屯地を後にした。
その足で、次の約束の場所へと向かう。
●ダウンタウンの密談
風光明媚で明るい観光都市ポルトワールには、様々な人が訪れる。
すなわち、良からぬ者も紛れ込みやすいということだ。
ダウンタウンと呼ばれる地域は、中心街区とは全く異なる雰囲気が漂っていた。
ここには、お決まりの「悪」が存在する。
社会に大きな影響を及ぼす犯罪には同盟陸軍が出動するが、発生する犯罪件数があまりに多いためどうしても後手に回りがちだ。
そんなダウンタウンがどうにか最低限の秩序を維持できるようになったのは、ここ数年のことである。
ハンターたちを待っていたのは、その立役者と噂される人物だった。
先日『金色のカモメ亭』で声をかけてきた、フードをかぶった女である。
「こんなところまで来てもらって悪いね」
ヴァネッサ(kz0030)はおそらく内心では全く悪いとは思っていない笑顔を見せた。
30代前半と思しきなかなかの美人だが、動きには無駄がなく、むやみに触れるとこちらの手が切れそうな鋭さが垣間見える。
彼女が無法者の中でも特に面倒な者をうまく潰していったことで、今のダウンタウンから「巨悪」は消えた。
だが逆に雑魚を仕切る存在も消え、比較的軽い犯罪が頻発するようになったのは皮肉なことである。
ハンターたちは、ダウンタウンの入り口あたりにある店の奥、ほとんど隠し部屋のようになったスペースに収まっていた。
食べ物や飲み物を前に、ヴァネッサが語る。
「この前はお疲れ様だったね。あの場で話をできればよかったんだけど、ちょっといろいろあってね」
意味ありげに目を細めるヴァネッサ。
「で、どうだった? あのお嬢さんは」
ハンターたちがメリンダから聞いた話を語ると、ヴァネッサは皮肉な笑みを口元に浮かべた。
「やっぱりか」
●ヴァネッサの頼み事
ヴァネッサは『金色のカモメ亭』での事件の後、ハンターたちを自分の息のかかった店に集めた。
そこで語ったことには、最近のポルトワールでは同様の事件が時々見られるのだという。
「ああいう連中は、普通は引き立てられるときに暴れたり、『覚えてろよ~』なんて芸のない台詞を叫んで笑わせてくれたりするんだがね」
だが一部の連中は、あっさり捕まり、その後も無抵抗で引き立てられていく。どうにも妙な具合だ。
そこで伝手を頼って調べた結果、そいつらの共通点が見つかった。
全員が酔っ払いだった。いやそれだけなら何も珍しいことではないが、全員、酒を飲み始めてからの記憶が抜け落ちていた。
つまりどこで飲んだのかも、何を飲んだのかも、誰と飲んだのかもすべて忘れていたのである。
「で、ここからが本題ってワケだが」
ヴァネッサは声をひそめる。
「その酒を売る店がどこかは分かった。逆に言うと、ちょいと調べれば分かるんだ。なのにどうして調査もされないんだと思う?」
ハンターたちは互いに顔を見合わせる。
「私はこの件に関して、軍を信用していないんだ」
だから本当の目的については黙って、メリンダに事件の探りを入れてきてほしい。
それを受けて、ハンターたちは駐屯地まで足を運んだのだ。
そして今日、また集まったハンターたちは、ヴァネッサの次の依頼を引き受けることになる。
ポルトワールは同盟第一とも呼ばれる港湾都市だ。
漁港としても、同盟海軍の軍港としても発展している上に、極彩色の街と呼ばれる同盟の首都ヴァリオスと人気を二分するほどの観光都市でもある。
そのポルトワールにある同盟海軍の駐屯地で、ハンターたちの顔を見たメリンダ・ドナーティ(kz0041)は、拝むように手を合わせ頭を下げた。
「ほんっとに!! 申し訳ありませんでした!!」
結局『金色のカモメ亭』での事件の後、後始末のための大量の書類に埋もれることになり、まだヴァリオスに戻れないでいたのだ。
ハンターたちはメリンダの状況に苦笑しつつ、先日捕まえたならず者たちについて尋ねる。
「そうですね、なんだか妙な具合です」
メリンダの言うには、赤毛の男の動きがあまりに素人じみていて、到底ハンター、あるいは覚醒者には思えなかったらしい。
ジャンもいたので問題ない、ほかのお客のためにも出て行ってもらおうと思って反撃したが、結果的にハンターたちの手を煩わせてしまった。
仮にあの場にハンターがいなければ、自分はともかく、民間人にも迷惑をかけるところだったろう――。
メリンダはまた頭を下げた後で、ようやく本題に入った。
「あれだけ騒いでいた割に、連行されるときはずいぶん大人しくなっていましたよね」
メリンダを睨んでいた赤毛の男も、留置所に放り込まれてからは、別人のようにしょぼくれていたそうだ。
ほかの男たちも、派手な見かけが実に残念な有様らしい。
「いくらリーダーに見捨てられたとはいえ、あまりにも従順で。しかもひどく酔っていたようで、事件のことはほとんど覚えていないというんです」
ハンターたちは話を聞くと、また何か良い依頼があったら知らせてくれるように頼んで、駐屯地を後にした。
その足で、次の約束の場所へと向かう。
●ダウンタウンの密談
風光明媚で明るい観光都市ポルトワールには、様々な人が訪れる。
すなわち、良からぬ者も紛れ込みやすいということだ。
ダウンタウンと呼ばれる地域は、中心街区とは全く異なる雰囲気が漂っていた。
ここには、お決まりの「悪」が存在する。
社会に大きな影響を及ぼす犯罪には同盟陸軍が出動するが、発生する犯罪件数があまりに多いためどうしても後手に回りがちだ。
そんなダウンタウンがどうにか最低限の秩序を維持できるようになったのは、ここ数年のことである。
ハンターたちを待っていたのは、その立役者と噂される人物だった。
先日『金色のカモメ亭』で声をかけてきた、フードをかぶった女である。
「こんなところまで来てもらって悪いね」
ヴァネッサ(kz0030)はおそらく内心では全く悪いとは思っていない笑顔を見せた。
30代前半と思しきなかなかの美人だが、動きには無駄がなく、むやみに触れるとこちらの手が切れそうな鋭さが垣間見える。
彼女が無法者の中でも特に面倒な者をうまく潰していったことで、今のダウンタウンから「巨悪」は消えた。
だが逆に雑魚を仕切る存在も消え、比較的軽い犯罪が頻発するようになったのは皮肉なことである。
ハンターたちは、ダウンタウンの入り口あたりにある店の奥、ほとんど隠し部屋のようになったスペースに収まっていた。
食べ物や飲み物を前に、ヴァネッサが語る。
「この前はお疲れ様だったね。あの場で話をできればよかったんだけど、ちょっといろいろあってね」
意味ありげに目を細めるヴァネッサ。
「で、どうだった? あのお嬢さんは」
ハンターたちがメリンダから聞いた話を語ると、ヴァネッサは皮肉な笑みを口元に浮かべた。
「やっぱりか」
●ヴァネッサの頼み事
ヴァネッサは『金色のカモメ亭』での事件の後、ハンターたちを自分の息のかかった店に集めた。
そこで語ったことには、最近のポルトワールでは同様の事件が時々見られるのだという。
「ああいう連中は、普通は引き立てられるときに暴れたり、『覚えてろよ~』なんて芸のない台詞を叫んで笑わせてくれたりするんだがね」
だが一部の連中は、あっさり捕まり、その後も無抵抗で引き立てられていく。どうにも妙な具合だ。
そこで伝手を頼って調べた結果、そいつらの共通点が見つかった。
全員が酔っ払いだった。いやそれだけなら何も珍しいことではないが、全員、酒を飲み始めてからの記憶が抜け落ちていた。
つまりどこで飲んだのかも、何を飲んだのかも、誰と飲んだのかもすべて忘れていたのである。
「で、ここからが本題ってワケだが」
ヴァネッサは声をひそめる。
「その酒を売る店がどこかは分かった。逆に言うと、ちょいと調べれば分かるんだ。なのにどうして調査もされないんだと思う?」
ハンターたちは互いに顔を見合わせる。
「私はこの件に関して、軍を信用していないんだ」
だから本当の目的については黙って、メリンダに事件の探りを入れてきてほしい。
それを受けて、ハンターたちは駐屯地まで足を運んだのだ。
そして今日、また集まったハンターたちは、ヴァネッサの次の依頼を引き受けることになる。
リプレイ本文
●
ヴァネッサの説明に、トルステン=L=ユピテル(ka3946)は小さく息をつく。
「で、姐さんはメンドクセエ裏事情があると踏んでるワケね」
「そうでなけりゃいいとも思ってるけどね」
「俺、動くの嫌いなんだケド。ま、乗りかかった船だしな」
たまたま酒場にいただけのハンターたちだが、一度かかわった以上きっちりケリをつけたいと思うのは、彼だけではないだろう。
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)はマッピングセットを広げた。
「目的の建物の情報と、その周囲の見取り図をまとめるよ」
ヴァネッサの説明する付近の情報を地図に書き留めていく。
「それから目的のお酒の銘柄も。どんなお酒なのかわからないと、探せないよね」
「それが何でもありなのさ。だから余計におかしいんだ」
ただ、とヴァネッサは考え込むように呟く。
「暴れてる連中からは、独特のスパイスのような匂いがしたという話もある。料理屋じゃ、スパイスの匂いをかぎ分けるのは難しかったけどね」
ならば酒だけを置いてある場所なら、確認できるだろう。
「人を操る魅惑の酒か。そそるね」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)が含み笑いを漏らすと、ヴァネッサも小さく笑う。
「キミを取り押さえるのは面倒そうだ。試し飲みは勘弁だよ」
「では代わりに、依頼をやり遂げたご褒美をもらえないか? 酒よりも魅惑的なご褒美を、だ」
意味ありげに見つめる視線に、ヴァネッサは流し目で応える。
「ま、飴ぐらいはあげるさ。頼りにしてるよ」
「やれやれ。いい飴を期待していようか」
ヴァージルが苦笑しながら席を立った。日のあるうちに下見が必要だ。
そこでふと、マチルダの地図に目を落とす。
「路地裏が厄介だな。マンホールや暗渠、下水、ゴミ捨て場などは近くに無いか?」
「なんでもアリさ。下水がホントに流れてるかは怪しいけどね」
「じゃあそれも確認しないとね。急がなくちゃ」
マチルダも立ち上がる。
目的の建物はすぐに見つかった。
周辺は昼間だというのにどこか陰気で、人の気配はあっても生気が感じられない、ダウンタウンの中でも寂れたエリアだった。
だから元気そうなハンターが、集団でうろうろしていては目立つだろう。
「専業主婦ってやつだな、任せろ! 得意だぜ!」
役犬原 昶(ka0268)は潜入捜査と言いたかったらしい。色々突っ込みどころはあるが、役割はちゃんと理解している。
連れてきた猫を撫でると、目的の建物に向かわせた。
「猫なら潜入には持って来いだろ。いいか、ネズミなんかに気を取られんなよ?」
それからファミリアアイズで視線を共有し、猫の見る情景を追う。
トルステンとマチルダは、複雑に入り組んだ路地を進んでいく。
「とりあえず裏口があるかは確認しないとな。コッチが入るにも敵さん逃さない為にも大事だぜ」
「えっと、ここを右だね」
マチルダが地図につけた目印を確認し、迷わず目的地へと近づいていく。
目的の建物には裏口があったが、やはり内部の様子は全くわからない。
トルステンは建物の陰から覗いてあたりを確認し、マチルダが地図に状況を書き込んでいく。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)とヴァージルは店から少し離れた場所から通りを見る。
「酒ならかなり重いはずだな。魔導トラックや馬車を利用しているのか?」
だがこんなところを魔導トラックで走り回ったら、周囲の古い建物が壊れそうだ。
ルンルンにはトラックも馬もほとんど通らない道だと思えた。
「でも、こちらから出し入れした痕跡がないなら、他のどこか……地下通路とか、近隣の建物に出てるのかな?」
「可能性は高いだろうな。そのあたりは踏み込んでからか」
ふたりは日が暮れる前にその場を離れた。
それぞれの調査を終えて、再びハンターたちが集う。
「遅くなってすみません」
シバ・ミラージュ(ka2094)は、すっぽりとかぶっていたフードを外した。
「え? その髪……と、顔が」
マチルダが目を見張ったのも当然だ。シバは美しい銀髪を黒く染め、顔には煤を塗りたくっていたのだ。
「闇に紛れるためです」
いつもと変わらない調子で、シバは淡々とそう言った。
「前回はあまりお役に立てなかったので、今回は治安維持に貢献できればと思います」
「そりゃ頼もしいね。でも肩の力は抜いていくんだよ」
ヴァネッサの声は意外にも優しい。
「ありがとうございます。そうだ、魔導短伝話とトランシーバーはどうしましょうか」
「あんな人の気配のねえところで口をきいたら、目立つぜ」
トルステンはそう言いつつも、踏み込んだ時点で隠れるのは難しいだろうとも思う。
「とりあえずの案だ」
まず、明かりは布などで覆って最低限とすること。
通信機はなるべく会話に使わず、叩くことで意図を伝えること。
1回で人を発見、2回で証拠品を発見、3回で緊急事態発生、合流求む、という具合だ。
「了解です! ところで、窓はどうでした?」
ルンルンが訪ねると、昶が身を乗り出す。
「それが、どの窓も鎧戸が閉まってるか、がっちりカギがかかってるかでな。あんなボロ家で、逆に怪しくないか?」
猫ならちょいと窓も開けられるかと思ったのだが、鍵がかかっていてはどうしようもない。
だがそのおかげであの建物が「普通ではない」ことは分かった。
「侵入前に、今度はモフロウで試してみるぜ」
「あとは……万が一、あの建物から敵が逃げ出したときは。ヴァネッサさん、よろしくお願いします」
シバが頭を下げると、ヴァネッサがひらひらと手を振った。
「もちろん、そこからは私たちの仕事だ。キミ達も危険だと思ったら、無理せず応援を呼ぶんだよ」
●
モフロウの姿が闇の彼方に消えていく。
昶は意識を集中し、モフロウの見る光景を共有する。
「やっぱり窓は全部閉まってるな。屋上は……天窓なんかはなさそうだぜ」
その結果を聞いて、ルンルンが建物に近づいた。
「ルンルン忍法☆忍者センサー!」
生命感知の範囲内で生物の位置を把握する。
「……屋根裏にいるのはネズミさんかな? 1階の真ん中あたりは何もいません。あとはやっぱり地下室がありそうです」
そこに複数の反応があったのだ。ネズミにせよ他の何かにせよ、それらが存在する空間があることは予想できた。
ハンターたちはそれぞれの持ち場へ散る。
裏口を窺うのは昶とヴァージル、トルステンだ。
ヴァージルは衣服の下に隠した「 灯火の水晶球」の光で、裏口の扉を探り、低く唸った。
「こいつはまた、妙なことになってきたな」
「どうした?」
昶が肩越しに覗き込むと、一見普通のドアノブのカバーの下から、電子キーの暗証入力画面が出てきたのだ。これでは「ピッキング」は使えない。
「やっぱり、この建物はフツーじゃねえってことか」
トルステンはこうなったら多少強引にでも突っ込み、スピード勝負に賭けるべきだと主張する。
昶が頷いた。
「どうせ建物に入れば、見つかるのは時間の問題だ。ここでぐずぐずして、別の脱出ルートがあったら困るぜ」
「よし、腹を括るか」
鍵は高性能だが、ドアは建物相応だ。蝶番側を砕けば外れるだろう。
昶がドアに耳を当て、「超聴覚」で内部を窺う。内部には誰もいないようだ。
「おっしゃ! 行こうぜ!」
昶はにやりと笑うと、嬉々として蝶番めがけて拳を叩きこんだ。
シバは侵入開始の連絡を受け、行動に移る。
建物の入り口側に回ると、手持ちの鉄パイプでドアが開かないように細工。
それから店の脇にあった大きなゴミ容器を据え付け、窓の外にはロープを張り巡らせる。
(これで敵が逃げ出そうとした場合に、少しでも時間を稼ぐことができるでしょう)
シバはほとんど物音も立てずに作業を済ませると、再び道を挟んだ側の路地に身を隠した。
ふと見上げると、屋根に向かう人影があった。
(……お気をつけて)
シバはひっそりとふたりの無事を祈る。
マチルダは「マジックフライト」を付与した盾につかまり、目的の建物の屋根に上った。
「壁歩き」で窓を確認しながら登ってきたルンルンが、屋根裏部屋の窓を無言で示す。鎧戸もなく、静かに壊せば侵入できそうだ。
ルンルンがマスク「スターゲイザー」で中を覗き込むと、誰もいない。
ふたりは建物の中へ滑り込んだ。
マチルダが、スカーフで覆って光度を落とした「灯火の水晶球」を灯すと、部屋の内部がぼんやりと浮かび上がる。
ガラクタと埃がいっぱいの、よくある屋根裏部屋だ。
梯子を降りると3階は物置らしかった。整然と木箱や棚が並んでいる。
手近の木箱を開けてみると、中身は酒の小瓶だった。
マチルダが1本の栓を抜いて、匂いを確かめる。どうもスパイスという感じではない。
それから暫く周囲を探っていると、階下で大きな物音が響いて、ふたりは顔を見合わせる。
「私はあちらに行ってみますね」
「じゃあ念のために、援護するね」
「はいっ!」
マチルダが階段を降り、陽だまりの温かさで空間を満たす。それを見届けると、ルンルンは風のように階段を下りていく。
3階に戻ったマチルダは、いくつか細工を施すことにした。
さっき自分たちが入って来た窓の取っ手を、リボンでしっかり縛り付ける。
3階から屋根裏に上がる梯子の前には、木箱を移動させた。
「何をしたいのか分からないけど、怪しい実験には反対だよ」
こうして邪魔者の出入りを制限する作業を終え、マチルダは改めて調査を開始した。
●
1階の裏口から侵入した昶とヴァージルは、静かに狭い通路を駆け抜ける。
裏口傍の控室には、誰もいない。その先は厨房と狭い酒場風の店に繋がっていた。
衝立の奥に細い階段があり、2階へ通じているようだ。
ヴァージルは手すりに顔を寄せ、埃がたまっていないことを確認した。
床には靴跡が入り乱れている。
(軍用ブーツか?)
それから階段の裏、カウンターの足元など、怪しい場所を調べて回る。
その間に、トルステンは裏口の扉を立て直し、足元にロープを張り巡らした。仮に覚醒者ならこのぐらいのロープは即座に切ってしまうだろうが、ほんの1秒の足止めでも貴重な時間だ。
それからゆっくりと周囲を確認しながら進む。
厨房の床は特に念入りに調べた。隠し通路などは見当たらなかったが、整然と並んだ酒と、足元の埃の様子からして、誰かが出入りしているのは間違いないようだ。
そのとき、階段がきしむ音が聞こえた。
不意に、息を殺していた階段傍の昶に声がかかる。
「第二埠頭にはどの船が入った?」
低い男の声だった。あからさまな警戒の色が見える。
おそらく問いかけは暗号なのだろう。これは誤魔化しようがない。
ほんの一瞬の間で相手は事態を悟ったようだ。
「こっちへ来い! 怪しい奴だ!!」
その声が終わるか終わらないかのうちに、数人の足音が階上に響いた。
「ま、こうなると隠密維持は厳しいよな」
トルステンはすぐに諦め、通信機を1回だけ叩くと低く囁く。
「一気に押さえる」
昶はすぐに飛び退り、階段から距離をとる。
数人の男が下りてきたのを確認すると、「破滅の大地」で床を揺らした。
「あーここで暴れたら証拠ってのがなくなっちまうか? でもやっぱこっちのほうがやりがいがあるな! 派手に行こうぜ!」
かかかと笑いながら、慌てふためく男たちを煽る昶。
が、トルステンも巻き込まれた。
「チッ、上手く避けろよ」
トルステンは悪態をつきながら、銃で援護する。昶は周りに味方がいないのを幸い、縦横無尽に暴れまわっていた。
そのとき思わぬ方向からギャッという悲鳴が上がる。
ヴァージルが「壁歩き」で振動を逃れ、昶に意識の向いた敵を炎を纏う剣で打ち据えたのだ。
2階からは更に呪いの声が響く。
「何やってんだ! さっさとたたんじ……!!」
だがその声も途中まで。天井から舞い降りた忍者に、あえなく倒されたのだ。
忍者改めルンルンが2階から顔を出す。
「こっちは全員片付けましたよ!」
「おっしゃ!」
昶が答えながら、敵に手早くロープをかけた。
だが、まだ動く足音が残っている。暗い中だが相手には地の利があった。
トルステンは厨房への入り口に立ちふさがり、「ディヴァインウィル」の結界で裏口への通路をふさぐ。
(ここを通れなきゃ、表の入り口から逃げようとするだろ)
表から飛び出せば、シバが見張っている。ヴァネッサたちもすぐに駆け付けるはずだ。
そこでヴァージルの声が鋭く響く。
「あんな所にあったのか!」
同時に、ガラスが割れる音がそれぞれ別の場所で響いた。
明かりを掲げると、ヴァージルの投げた牛乳瓶が床で砕け、棚をずらしたところにできた空間まで、独特の匂いのする染みが点々と続いていた。
そしてもう1か所は、店の窓ガラスだった。誰かが飛び出していったのだ。
トルステンはそれらをすぐに魔導短伝話で知らせる。
●
警告と同時に激しい物音。そこから飛び出す人影。
シバは闇に紛れて走り出す。
(間に合わない! 一般人の動きじゃない、と信じますよ!)
シバの放った「ブリザード」の冷気が、飛び出してきたばかりの相手に命中する。
男はその場に膝をついて、歪んだ顔を上げた。
「やあ『お嬢さん』か、また会ったな」
「あなたは……」
確かサリムと呼ばれていた男だ。
シバは捕獲しようと、間合いを図る。
男はその意図を察して、口元に笑みを浮かべた。
「いいのかい? この騒ぎじゃすぐに陸軍が来るぜ。あんたらも困るんじゃないのか?」
男の言う通り、馬の蹄の音が近づいてくる。
(早すぎる)
その瞬間、男がそちらへ駆け出した。
シバは追うことを諦め、状況をヴァネッサと仲間たちに伝える。
●
それから数日後。
ヴァネッサはポルトワール都市統合本部のロメオ・ガッディ(kz0031)代表を『金色のカモメ亭』に呼び出した。
「それで、これが例の薬というわけか」
ロメオは疑わしそうにスパイス臭い薬包をつまみ上げる。ハンターたちが持ち帰った証拠品だ。
「何なのかはわからないけどね。異常に気が大きくなるみたいだよ」
「それで、俺にどうしろと?」
「何もしないでいてほしいだけさ」
「なんだって?」
あの日、ハンターたちとヴァネッサの一派は、互いに連絡を取り合い、地下通路に逃げ込んだ連中を捕らえた。
酒場の下にはやはり地下室があり、地下通路は2ブロックも先の安宿に繋がっていたのだ。
その持ち主を調べ上げたヴァネッサは、捕らえた者たちを自分の隠れ家の一つに連れて行った。
じっくり「話を聞く」ためである。
「そう。もし軍から何か言ってきたら、騒ぎのことは何も知らないで通してほしいんだ」
ロメオは思わず眉間を揉む。
「……あまり俺を困らせんでくれんか」
「大丈夫、そんなに長くはかからないよ。優秀なハンターの協力があればね」
約束のご褒美も渡したしね、とヴァネッサは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
<続>
ヴァネッサの説明に、トルステン=L=ユピテル(ka3946)は小さく息をつく。
「で、姐さんはメンドクセエ裏事情があると踏んでるワケね」
「そうでなけりゃいいとも思ってるけどね」
「俺、動くの嫌いなんだケド。ま、乗りかかった船だしな」
たまたま酒場にいただけのハンターたちだが、一度かかわった以上きっちりケリをつけたいと思うのは、彼だけではないだろう。
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)はマッピングセットを広げた。
「目的の建物の情報と、その周囲の見取り図をまとめるよ」
ヴァネッサの説明する付近の情報を地図に書き留めていく。
「それから目的のお酒の銘柄も。どんなお酒なのかわからないと、探せないよね」
「それが何でもありなのさ。だから余計におかしいんだ」
ただ、とヴァネッサは考え込むように呟く。
「暴れてる連中からは、独特のスパイスのような匂いがしたという話もある。料理屋じゃ、スパイスの匂いをかぎ分けるのは難しかったけどね」
ならば酒だけを置いてある場所なら、確認できるだろう。
「人を操る魅惑の酒か。そそるね」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)が含み笑いを漏らすと、ヴァネッサも小さく笑う。
「キミを取り押さえるのは面倒そうだ。試し飲みは勘弁だよ」
「では代わりに、依頼をやり遂げたご褒美をもらえないか? 酒よりも魅惑的なご褒美を、だ」
意味ありげに見つめる視線に、ヴァネッサは流し目で応える。
「ま、飴ぐらいはあげるさ。頼りにしてるよ」
「やれやれ。いい飴を期待していようか」
ヴァージルが苦笑しながら席を立った。日のあるうちに下見が必要だ。
そこでふと、マチルダの地図に目を落とす。
「路地裏が厄介だな。マンホールや暗渠、下水、ゴミ捨て場などは近くに無いか?」
「なんでもアリさ。下水がホントに流れてるかは怪しいけどね」
「じゃあそれも確認しないとね。急がなくちゃ」
マチルダも立ち上がる。
目的の建物はすぐに見つかった。
周辺は昼間だというのにどこか陰気で、人の気配はあっても生気が感じられない、ダウンタウンの中でも寂れたエリアだった。
だから元気そうなハンターが、集団でうろうろしていては目立つだろう。
「専業主婦ってやつだな、任せろ! 得意だぜ!」
役犬原 昶(ka0268)は潜入捜査と言いたかったらしい。色々突っ込みどころはあるが、役割はちゃんと理解している。
連れてきた猫を撫でると、目的の建物に向かわせた。
「猫なら潜入には持って来いだろ。いいか、ネズミなんかに気を取られんなよ?」
それからファミリアアイズで視線を共有し、猫の見る情景を追う。
トルステンとマチルダは、複雑に入り組んだ路地を進んでいく。
「とりあえず裏口があるかは確認しないとな。コッチが入るにも敵さん逃さない為にも大事だぜ」
「えっと、ここを右だね」
マチルダが地図につけた目印を確認し、迷わず目的地へと近づいていく。
目的の建物には裏口があったが、やはり内部の様子は全くわからない。
トルステンは建物の陰から覗いてあたりを確認し、マチルダが地図に状況を書き込んでいく。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)とヴァージルは店から少し離れた場所から通りを見る。
「酒ならかなり重いはずだな。魔導トラックや馬車を利用しているのか?」
だがこんなところを魔導トラックで走り回ったら、周囲の古い建物が壊れそうだ。
ルンルンにはトラックも馬もほとんど通らない道だと思えた。
「でも、こちらから出し入れした痕跡がないなら、他のどこか……地下通路とか、近隣の建物に出てるのかな?」
「可能性は高いだろうな。そのあたりは踏み込んでからか」
ふたりは日が暮れる前にその場を離れた。
それぞれの調査を終えて、再びハンターたちが集う。
「遅くなってすみません」
シバ・ミラージュ(ka2094)は、すっぽりとかぶっていたフードを外した。
「え? その髪……と、顔が」
マチルダが目を見張ったのも当然だ。シバは美しい銀髪を黒く染め、顔には煤を塗りたくっていたのだ。
「闇に紛れるためです」
いつもと変わらない調子で、シバは淡々とそう言った。
「前回はあまりお役に立てなかったので、今回は治安維持に貢献できればと思います」
「そりゃ頼もしいね。でも肩の力は抜いていくんだよ」
ヴァネッサの声は意外にも優しい。
「ありがとうございます。そうだ、魔導短伝話とトランシーバーはどうしましょうか」
「あんな人の気配のねえところで口をきいたら、目立つぜ」
トルステンはそう言いつつも、踏み込んだ時点で隠れるのは難しいだろうとも思う。
「とりあえずの案だ」
まず、明かりは布などで覆って最低限とすること。
通信機はなるべく会話に使わず、叩くことで意図を伝えること。
1回で人を発見、2回で証拠品を発見、3回で緊急事態発生、合流求む、という具合だ。
「了解です! ところで、窓はどうでした?」
ルンルンが訪ねると、昶が身を乗り出す。
「それが、どの窓も鎧戸が閉まってるか、がっちりカギがかかってるかでな。あんなボロ家で、逆に怪しくないか?」
猫ならちょいと窓も開けられるかと思ったのだが、鍵がかかっていてはどうしようもない。
だがそのおかげであの建物が「普通ではない」ことは分かった。
「侵入前に、今度はモフロウで試してみるぜ」
「あとは……万が一、あの建物から敵が逃げ出したときは。ヴァネッサさん、よろしくお願いします」
シバが頭を下げると、ヴァネッサがひらひらと手を振った。
「もちろん、そこからは私たちの仕事だ。キミ達も危険だと思ったら、無理せず応援を呼ぶんだよ」
●
モフロウの姿が闇の彼方に消えていく。
昶は意識を集中し、モフロウの見る光景を共有する。
「やっぱり窓は全部閉まってるな。屋上は……天窓なんかはなさそうだぜ」
その結果を聞いて、ルンルンが建物に近づいた。
「ルンルン忍法☆忍者センサー!」
生命感知の範囲内で生物の位置を把握する。
「……屋根裏にいるのはネズミさんかな? 1階の真ん中あたりは何もいません。あとはやっぱり地下室がありそうです」
そこに複数の反応があったのだ。ネズミにせよ他の何かにせよ、それらが存在する空間があることは予想できた。
ハンターたちはそれぞれの持ち場へ散る。
裏口を窺うのは昶とヴァージル、トルステンだ。
ヴァージルは衣服の下に隠した「 灯火の水晶球」の光で、裏口の扉を探り、低く唸った。
「こいつはまた、妙なことになってきたな」
「どうした?」
昶が肩越しに覗き込むと、一見普通のドアノブのカバーの下から、電子キーの暗証入力画面が出てきたのだ。これでは「ピッキング」は使えない。
「やっぱり、この建物はフツーじゃねえってことか」
トルステンはこうなったら多少強引にでも突っ込み、スピード勝負に賭けるべきだと主張する。
昶が頷いた。
「どうせ建物に入れば、見つかるのは時間の問題だ。ここでぐずぐずして、別の脱出ルートがあったら困るぜ」
「よし、腹を括るか」
鍵は高性能だが、ドアは建物相応だ。蝶番側を砕けば外れるだろう。
昶がドアに耳を当て、「超聴覚」で内部を窺う。内部には誰もいないようだ。
「おっしゃ! 行こうぜ!」
昶はにやりと笑うと、嬉々として蝶番めがけて拳を叩きこんだ。
シバは侵入開始の連絡を受け、行動に移る。
建物の入り口側に回ると、手持ちの鉄パイプでドアが開かないように細工。
それから店の脇にあった大きなゴミ容器を据え付け、窓の外にはロープを張り巡らせる。
(これで敵が逃げ出そうとした場合に、少しでも時間を稼ぐことができるでしょう)
シバはほとんど物音も立てずに作業を済ませると、再び道を挟んだ側の路地に身を隠した。
ふと見上げると、屋根に向かう人影があった。
(……お気をつけて)
シバはひっそりとふたりの無事を祈る。
マチルダは「マジックフライト」を付与した盾につかまり、目的の建物の屋根に上った。
「壁歩き」で窓を確認しながら登ってきたルンルンが、屋根裏部屋の窓を無言で示す。鎧戸もなく、静かに壊せば侵入できそうだ。
ルンルンがマスク「スターゲイザー」で中を覗き込むと、誰もいない。
ふたりは建物の中へ滑り込んだ。
マチルダが、スカーフで覆って光度を落とした「灯火の水晶球」を灯すと、部屋の内部がぼんやりと浮かび上がる。
ガラクタと埃がいっぱいの、よくある屋根裏部屋だ。
梯子を降りると3階は物置らしかった。整然と木箱や棚が並んでいる。
手近の木箱を開けてみると、中身は酒の小瓶だった。
マチルダが1本の栓を抜いて、匂いを確かめる。どうもスパイスという感じではない。
それから暫く周囲を探っていると、階下で大きな物音が響いて、ふたりは顔を見合わせる。
「私はあちらに行ってみますね」
「じゃあ念のために、援護するね」
「はいっ!」
マチルダが階段を降り、陽だまりの温かさで空間を満たす。それを見届けると、ルンルンは風のように階段を下りていく。
3階に戻ったマチルダは、いくつか細工を施すことにした。
さっき自分たちが入って来た窓の取っ手を、リボンでしっかり縛り付ける。
3階から屋根裏に上がる梯子の前には、木箱を移動させた。
「何をしたいのか分からないけど、怪しい実験には反対だよ」
こうして邪魔者の出入りを制限する作業を終え、マチルダは改めて調査を開始した。
●
1階の裏口から侵入した昶とヴァージルは、静かに狭い通路を駆け抜ける。
裏口傍の控室には、誰もいない。その先は厨房と狭い酒場風の店に繋がっていた。
衝立の奥に細い階段があり、2階へ通じているようだ。
ヴァージルは手すりに顔を寄せ、埃がたまっていないことを確認した。
床には靴跡が入り乱れている。
(軍用ブーツか?)
それから階段の裏、カウンターの足元など、怪しい場所を調べて回る。
その間に、トルステンは裏口の扉を立て直し、足元にロープを張り巡らした。仮に覚醒者ならこのぐらいのロープは即座に切ってしまうだろうが、ほんの1秒の足止めでも貴重な時間だ。
それからゆっくりと周囲を確認しながら進む。
厨房の床は特に念入りに調べた。隠し通路などは見当たらなかったが、整然と並んだ酒と、足元の埃の様子からして、誰かが出入りしているのは間違いないようだ。
そのとき、階段がきしむ音が聞こえた。
不意に、息を殺していた階段傍の昶に声がかかる。
「第二埠頭にはどの船が入った?」
低い男の声だった。あからさまな警戒の色が見える。
おそらく問いかけは暗号なのだろう。これは誤魔化しようがない。
ほんの一瞬の間で相手は事態を悟ったようだ。
「こっちへ来い! 怪しい奴だ!!」
その声が終わるか終わらないかのうちに、数人の足音が階上に響いた。
「ま、こうなると隠密維持は厳しいよな」
トルステンはすぐに諦め、通信機を1回だけ叩くと低く囁く。
「一気に押さえる」
昶はすぐに飛び退り、階段から距離をとる。
数人の男が下りてきたのを確認すると、「破滅の大地」で床を揺らした。
「あーここで暴れたら証拠ってのがなくなっちまうか? でもやっぱこっちのほうがやりがいがあるな! 派手に行こうぜ!」
かかかと笑いながら、慌てふためく男たちを煽る昶。
が、トルステンも巻き込まれた。
「チッ、上手く避けろよ」
トルステンは悪態をつきながら、銃で援護する。昶は周りに味方がいないのを幸い、縦横無尽に暴れまわっていた。
そのとき思わぬ方向からギャッという悲鳴が上がる。
ヴァージルが「壁歩き」で振動を逃れ、昶に意識の向いた敵を炎を纏う剣で打ち据えたのだ。
2階からは更に呪いの声が響く。
「何やってんだ! さっさとたたんじ……!!」
だがその声も途中まで。天井から舞い降りた忍者に、あえなく倒されたのだ。
忍者改めルンルンが2階から顔を出す。
「こっちは全員片付けましたよ!」
「おっしゃ!」
昶が答えながら、敵に手早くロープをかけた。
だが、まだ動く足音が残っている。暗い中だが相手には地の利があった。
トルステンは厨房への入り口に立ちふさがり、「ディヴァインウィル」の結界で裏口への通路をふさぐ。
(ここを通れなきゃ、表の入り口から逃げようとするだろ)
表から飛び出せば、シバが見張っている。ヴァネッサたちもすぐに駆け付けるはずだ。
そこでヴァージルの声が鋭く響く。
「あんな所にあったのか!」
同時に、ガラスが割れる音がそれぞれ別の場所で響いた。
明かりを掲げると、ヴァージルの投げた牛乳瓶が床で砕け、棚をずらしたところにできた空間まで、独特の匂いのする染みが点々と続いていた。
そしてもう1か所は、店の窓ガラスだった。誰かが飛び出していったのだ。
トルステンはそれらをすぐに魔導短伝話で知らせる。
●
警告と同時に激しい物音。そこから飛び出す人影。
シバは闇に紛れて走り出す。
(間に合わない! 一般人の動きじゃない、と信じますよ!)
シバの放った「ブリザード」の冷気が、飛び出してきたばかりの相手に命中する。
男はその場に膝をついて、歪んだ顔を上げた。
「やあ『お嬢さん』か、また会ったな」
「あなたは……」
確かサリムと呼ばれていた男だ。
シバは捕獲しようと、間合いを図る。
男はその意図を察して、口元に笑みを浮かべた。
「いいのかい? この騒ぎじゃすぐに陸軍が来るぜ。あんたらも困るんじゃないのか?」
男の言う通り、馬の蹄の音が近づいてくる。
(早すぎる)
その瞬間、男がそちらへ駆け出した。
シバは追うことを諦め、状況をヴァネッサと仲間たちに伝える。
●
それから数日後。
ヴァネッサはポルトワール都市統合本部のロメオ・ガッディ(kz0031)代表を『金色のカモメ亭』に呼び出した。
「それで、これが例の薬というわけか」
ロメオは疑わしそうにスパイス臭い薬包をつまみ上げる。ハンターたちが持ち帰った証拠品だ。
「何なのかはわからないけどね。異常に気が大きくなるみたいだよ」
「それで、俺にどうしろと?」
「何もしないでいてほしいだけさ」
「なんだって?」
あの日、ハンターたちとヴァネッサの一派は、互いに連絡を取り合い、地下通路に逃げ込んだ連中を捕らえた。
酒場の下にはやはり地下室があり、地下通路は2ブロックも先の安宿に繋がっていたのだ。
その持ち主を調べ上げたヴァネッサは、捕らえた者たちを自分の隠れ家の一つに連れて行った。
じっくり「話を聞く」ためである。
「そう。もし軍から何か言ってきたら、騒ぎのことは何も知らないで通してほしいんだ」
ロメオは思わず眉間を揉む。
「……あまり俺を困らせんでくれんか」
「大丈夫、そんなに長くはかからないよ。優秀なハンターの協力があればね」
約束のご褒美も渡したしね、とヴァネッサは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
<続>
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/09 16:51:00 |
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ガサ入れ相談所 トルステン=L=ユピテル(ka3946) 人間(リアルブルー)|18才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/06/09 20:25:59 |
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MSより ヴァネッサ(kz0030) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 |