ゲスト
(ka0000)
新たな一歩、新たな儀式
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/12 15:00
- 完成日
- 2018/06/17 13:46
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「覚醒者になるには、どうしたらいいですか」
少年というにもまだ幼すぎる彼は、父親の顔をじっと見てそう切り出した。
簡素な衣服は帝国製のものであったが、日に焼けたような地肌、丸みのある骨格、素朴な顔つきは北の辺境の人々そのものであった。
「精霊と契約する」
「じゃあ、精霊と契約するにはどうしたらいいですか」
父親の答えをそのまま復唱するのはこの時期の子供にはよくあることだ。
だが、その実情はもっと根が深い。これに安易に答えてしまうと、彼はそのまま実行に移してしまうからだ。
「あー……まだ早い」
「早くありません。僕は族長です」
幼いながらも、いや、幼いからだろうか。彼、ウルは全くゾールの懸命の誤魔化しも許さなかった。
仕方ないので憤怒の形相と全身の筋肉に力を込めて威嚇してみたものの、全くウルには通用しなかった。タコのように真っ赤に膨れ上がってもウルには全く動じず、ついには根負けしてしまった。
「まだ筋力ない。精神も未熟。子供では精霊、一人前と認めない」
「やってみなければわかりません」
どこまでも頑固であるウル。これでは埒が明かないので、ゾールはどっしりと胡坐をかいて構えてみせた。
「ではオレを動かしてみるといい」
ようやく4才。口は達者になったが、体は小さいウルが動かせるわけもない。わかっててそれをしてみせたのだ。
ウルはえいやっと押し始めるが、当然びくともしない。
「どうだ、無理だろ」
「トト様とカカ様の子です。諦めません」
その一言にうるっと涙がこぼれそうになるゾール。
「いよぉし! よく言った!! それでこそ我が子!!!」
「やった、やった! 動かせました」
ぴょんこぴょんこと跳ねて喜ぶウルの姿に、思わず胸が熱くなって立ち上がってしまったゾールは自分が言い出した勝負に決着がついてしまったことに気が付いた。
そして狼狽えるゾールに対して即座に後ろから杖の一撃が叩き込まれる。
話を後ろで聞いていた、ウルの育ての母となるレイアは杖をゆっくりしまうと、ウルに視線を合わせて話しかけた。
「ウル。精霊は儀式を経て契約する。その後も長い期間修行が必要になるの。故郷の精霊でもそんな大変だから、ここではどんな精霊がいるかも知らない。仲良くする儀式を考えないといけない。だからウル、今は覚醒者になれない」
「じゃあ故郷まで行って儀式をします。儀式の仕方を教えてください」
レイアは深い深いため息をついた。彼らの住まう土地はもう人間の土地ではなくなり歪虚の土地、北荻となってしまっている。
覚醒者でもそれなりの装備や準備がないと長時間はいられないような場所なのに、一般人のそれもまだ幼子のウルなど故郷に足を踏み入れる前に倒れてしまう。事実上、儀式は不可能なのだ。
それを理解させるためにゾールにしっかりと説明しなさいと言ったつもりだったのだが、それはゾールには難しすぎる内容であったようだ。
「私たちの故郷は歪虚のもの。今行けばウルは死ぬ。精霊も死んでいる。だから儀式はできないのよ」
「じゃあこの付近の精霊にお願いします」
「帝国の精霊、よく知らない」
「じゃあ知っている人にお願いします」
レイアもさすがに押し黙った。こういうところは誰に似たのやら。
「じゃあ勝手になさい」
「じゃあ勝手します」
失礼します。と丁寧なお辞儀をするとウルは立ち上がって外へと歩き出してしまった。
●
「で、二人とも根負けしちゃったから、手ごろな儀式を作ってやってくれってお願いされたワケ」
ようやく中央である帝都バルトアンデルスで仕事できるようになった記念に、ぱーっと贅沢して流行の服を買うなどして、ついでに口コミで噂の料理店でお酒を飲んでいた地方課のメルツェーデスでは赤ら顔でハンターオフィスに相談を持ち掛けていた。
「手ごろなって……そんなの聞いたことないですよ。あ、ハンターオフィスの奥にある装置を使わせるんですか?」
「そんな特別扱いする必要ないわよ。そもそも、どんな本格的な儀式したって、本当に覚醒者として活躍できるわけじゃないし、身体が持つとも思えないし。ハンターの考案したそれっぽい儀式を体験させて真似事だけすれば満足するでしょ」
いかにも投げやりなメルツェーデスの態度に受付員は苦笑いを隠すこともなく、承りました。と返したがメルツェーデスは上の空でぼやくのみだった。
「いつまで経っても帝国慣れしないんだから……」
少年というにもまだ幼すぎる彼は、父親の顔をじっと見てそう切り出した。
簡素な衣服は帝国製のものであったが、日に焼けたような地肌、丸みのある骨格、素朴な顔つきは北の辺境の人々そのものであった。
「精霊と契約する」
「じゃあ、精霊と契約するにはどうしたらいいですか」
父親の答えをそのまま復唱するのはこの時期の子供にはよくあることだ。
だが、その実情はもっと根が深い。これに安易に答えてしまうと、彼はそのまま実行に移してしまうからだ。
「あー……まだ早い」
「早くありません。僕は族長です」
幼いながらも、いや、幼いからだろうか。彼、ウルは全くゾールの懸命の誤魔化しも許さなかった。
仕方ないので憤怒の形相と全身の筋肉に力を込めて威嚇してみたものの、全くウルには通用しなかった。タコのように真っ赤に膨れ上がってもウルには全く動じず、ついには根負けしてしまった。
「まだ筋力ない。精神も未熟。子供では精霊、一人前と認めない」
「やってみなければわかりません」
どこまでも頑固であるウル。これでは埒が明かないので、ゾールはどっしりと胡坐をかいて構えてみせた。
「ではオレを動かしてみるといい」
ようやく4才。口は達者になったが、体は小さいウルが動かせるわけもない。わかっててそれをしてみせたのだ。
ウルはえいやっと押し始めるが、当然びくともしない。
「どうだ、無理だろ」
「トト様とカカ様の子です。諦めません」
その一言にうるっと涙がこぼれそうになるゾール。
「いよぉし! よく言った!! それでこそ我が子!!!」
「やった、やった! 動かせました」
ぴょんこぴょんこと跳ねて喜ぶウルの姿に、思わず胸が熱くなって立ち上がってしまったゾールは自分が言い出した勝負に決着がついてしまったことに気が付いた。
そして狼狽えるゾールに対して即座に後ろから杖の一撃が叩き込まれる。
話を後ろで聞いていた、ウルの育ての母となるレイアは杖をゆっくりしまうと、ウルに視線を合わせて話しかけた。
「ウル。精霊は儀式を経て契約する。その後も長い期間修行が必要になるの。故郷の精霊でもそんな大変だから、ここではどんな精霊がいるかも知らない。仲良くする儀式を考えないといけない。だからウル、今は覚醒者になれない」
「じゃあ故郷まで行って儀式をします。儀式の仕方を教えてください」
レイアは深い深いため息をついた。彼らの住まう土地はもう人間の土地ではなくなり歪虚の土地、北荻となってしまっている。
覚醒者でもそれなりの装備や準備がないと長時間はいられないような場所なのに、一般人のそれもまだ幼子のウルなど故郷に足を踏み入れる前に倒れてしまう。事実上、儀式は不可能なのだ。
それを理解させるためにゾールにしっかりと説明しなさいと言ったつもりだったのだが、それはゾールには難しすぎる内容であったようだ。
「私たちの故郷は歪虚のもの。今行けばウルは死ぬ。精霊も死んでいる。だから儀式はできないのよ」
「じゃあこの付近の精霊にお願いします」
「帝国の精霊、よく知らない」
「じゃあ知っている人にお願いします」
レイアもさすがに押し黙った。こういうところは誰に似たのやら。
「じゃあ勝手になさい」
「じゃあ勝手します」
失礼します。と丁寧なお辞儀をするとウルは立ち上がって外へと歩き出してしまった。
●
「で、二人とも根負けしちゃったから、手ごろな儀式を作ってやってくれってお願いされたワケ」
ようやく中央である帝都バルトアンデルスで仕事できるようになった記念に、ぱーっと贅沢して流行の服を買うなどして、ついでに口コミで噂の料理店でお酒を飲んでいた地方課のメルツェーデスでは赤ら顔でハンターオフィスに相談を持ち掛けていた。
「手ごろなって……そんなの聞いたことないですよ。あ、ハンターオフィスの奥にある装置を使わせるんですか?」
「そんな特別扱いする必要ないわよ。そもそも、どんな本格的な儀式したって、本当に覚醒者として活躍できるわけじゃないし、身体が持つとも思えないし。ハンターの考案したそれっぽい儀式を体験させて真似事だけすれば満足するでしょ」
いかにも投げやりなメルツェーデスの態度に受付員は苦笑いを隠すこともなく、承りました。と返したがメルツェーデスは上の空でぼやくのみだった。
「いつまで経っても帝国慣れしないんだから……」
リプレイ本文
●
薄暗い中、ランプシェードによって色づいた灯りがボトルやグラスに反射してチラチラと輝くバーにて。
「彼らは帝国慣れせんのじゃあない。此処で生きていく為にああしてるのさ」
エアルドフリス(ka1856)はカウンターで並ぶメルツェーデスにそう語り掛け、解ってるじゃあないのかね? と問いかけた。
「解るわけないわよ。むしろあたしの苦労を解れっての。だから儀式なんか任せた。どうせわかんないし」
ショットを煽るメルツェーデスにエアルドフリスは笑った。
「そうでもないぞ、傍にいるってことが大切なんだ」
エアルドフリスは横目にしながら、グラスを傾ける。
「今日は傍にいてやる、だからあんたはボラ族の傍にいてやってくれんかね。マスター、スクリュードライバーを一つ」
●
「もう4歳か……早いな。俺の事覚えてる?」
「うん、山のところで走ってたとこから覚えてる」
ウルの答えにユリアン(ka1664)はますます目を細めた。まだ喃語も話せない時の出来事を覚えてくれているのだから。
「あたしは?」
「アーシュ。いつも一緒だよね? 忘れたの?」
ユリアンとの問答が羨ましくなって、つい尋ねたアーシュラ・クリオール(ka0226)の問いかけにウルは首を傾げた。そりゃあ暇なときはほとんど毎日いるんだから質問自体が間違ってる。残念なような、嬉しいような。
「興味深い問答である。一般的に記憶が定着するのは3歳ごろと言われる。この幼子の記憶力は特徴的である」
雨を告げる鳥(ka6258)は分厚い興味深く、ウルの瞳を覗き込んだ。目は澄んでいて、レインも少し見つめ返されることに自己の心がさざ波だった。
この子はまだ汚れを知らない。
それが返って、汚れきって歪虚に堕ちた実母スィアリと対照的な気がした。
「私は問う。ウルよ。まだ幼き時分で何故精霊の力を求め、何を為すのか」
「みんなを導くためです。族長は強くあるべきです」
言い澱みの一つもないウルの答えに、優しいまなざしの高瀬 未悠(ka3199)の相槌が止まった。
「そう……ねぇ、じゃあどんな精霊に会いたいのかしら」
みんな、の中に母への想いも含まれていることを感じてチリリと胸に痛みを覚えながら、さりげなく未悠は問いを変えると、今度は彼は困った顔をした。
「精霊って選べるのですか?」
うすぼんやりと精霊の助けを得て戦う、ということは理解していたようだが、具体的に精霊がどのようなものがいて、自分と近しい存在は何かというところまでは理解できていないようだった。
「精霊っていうのはたくさんいるからね。儀式で降りてきてもらったりするのもいれば、相性が良かったり、ひょんなことから出てきてくれる精霊もいる。ウルに良い精霊がいるといいんだけど。そういえば今覚醒者になろうって思った、切っ掛けってなんだったんだろう」
「ユリアン、助けてくれたから。カカ様泣きやんだの」
麦茶を差し出しつつ尋ねたユリアンの手が止まった。
ああ、レイアが脅されて仲間に刃を向けた時の話だ。確か時化た臭いがして、行かなくちゃって思ったんだよな。
「どこで、どんな縁が結果に結びつくかわかりませんね」
「うん、大きい柱が脚になったのすごかった。大きい物でも変えられるのすごいと思ったの」
ぼさぼさの髪の毛をかいて笑う金目(ka6190)だったが、ウルの真っ正直な言葉に、さらに頭を低くして笑った。
あれは覚醒者故ではなく細工師としての矜持なのだが、ウルにしてみれば同じことなのかもしれない。
「皆さんの精霊ってどんなのですか? どうしたら出会えましたか」
尋ねるウルに金目は少し俯いて笑った。
「……夕立に降られたようなもんです。突然のことで、夢か現かも定まらない曖昧な記憶の中……」
それから言いよどむ金目に代わって未悠が言葉を続けた。
「私も同じような感じ。転移してすぐね。ぼうっとしてたら黒猫がふいっと現れたの。これじゃ参考にならないわね。ユリアンやアーシュラは、ちゃんと出会ったイメージがあるけど」
「俺も似たようなもんだよ。騎士の訓練中ヘマをやらかして崖から落ちて。その時に助けるから目にならないかって。それが故郷の森にいた風の精霊だったんだ」
全員の言葉を聞いて、ウルはうーんと唸った。
「危険になると助けてくれるのかな」
「そうでもないよ。あたしは機械が好きだった。その機械とずっと触れてて、語り掛けてくれたような気がするから。他のみんなのもそうだけど、精霊はいつでも見てて、必要なときに、あたし達の心の声に呼ばれて、手を差し伸べてくれるんじゃないかな。だから、ただ危険に挑めばいいものじゃないよ」
静かに語るアーシュラには、いつものあっけらかんとした空気はなく、族長の求めに応じて自分の意見を差し込みながらも応える、真摯さが含まれていた。
「そうですね。だから儀式がある。ボラの文化にも」
金目はそこまで言って、ところで、ボラの儀式ってどんなのですかね。とアーシュラに尋ねた。
「ヤドリギを編んで輪を作り、泉で身を清めるんだって。この辺にヤドリギはないけど」
その言葉にレインはしばしウルを見つめて考えた。よく見れば衣装には、三つ巴が描かれている。
「私は推察する。三つ巴は生と死と転生の象徴であり。ヤドリギの輪もその意味を含む事を。輪廻であるならば素材から新たに何かを作るのも同義を得られるだろう」
「わかりました。ボラは鍛冶します。鍛冶でボラのシンボルを作って捧げます」
「私は探る。場所は精霊の集まる場所を。その地にて儀式は行われる」
アーシュラに案内されて、寝床に移動したウルを見届けた後も留まるレインに未悠が声をかけた。
「どうしたの?」
「私の精霊は白紙の本であった。そして誓約した、記すことを。ボラの民のことは詳しくは知らず、物語は断片的である。だが物語は何かに導かれるように動いているようにみえる。万事流転の調和が描かれている」
「レインの言葉は難しいけれど……本当は難しくないのよ」
未悠は寂しそうに笑って言った。
「ウルは親の愛情を感じ取っているんだと思うわ、風が吹くたびに。それらが響き合って形になる。レインの物語っていうのは、そういうことじゃないかしら。精霊もきっとそれを手伝おうと思って、流れを作ってくれているのよ」
ガルカヌンクが闇に包まれたあの時のウルが忘れられない。今もきっと、手を取ってくれない母親を無意識にまだ求め続けている。
くすり。精霊である黒猫が笑った気がした。そう言えるようになったんだね。って。
「大丈夫だよ。心配しなくても」
夜風に当たるため外に出たユリアンは、建物の外で心配そうにしているゾールとレイアの姿を見つけて、くすりと笑ってそう言った。
「ウルはみんなの想いも決して忘れたりはしないから、儀式はこなすだろうし、みんなと一緒に進んでくれるよ。俺みたいな風の精霊の影響を受けなきゃ、だけど」
普段はどっしりとした二人なのに。
そしてふと、あっさり旅を認めてくれた母親のことを思い出した。
●
満月が頂点から下り始める頃に鍛冶工房は白い輝きがぽうっと生まれた。
アーシュラの浄化術、白虹だ。そしてかまどの火がその後にくべられ灯りとなった。
「まず頭にロープを巻き付けて、そうそう、それが輪のサイズです。これに自分で鍛えた鉄線を巻きつけます」
「はいっ」
まだぷくぷくとした手は精巧には動かなくとも団子結びでロープを固定すると、続いて線路の鋲止に使う針金の束を金床に置くと、小さなハンマーを両手で持ち上げて落とす。
「あ……」
まだハンマーをちゃんと扱える力はないことがわかると金目は思わず手を出そうとしたが、それをアーシュラは引っ張って止めた。
「ウルは助けを求めていない」
「はぁ」
案の定、金床はハンマーの角がぶつかってできた小さな凹凸ができたが、ウルは気にした様子はなかった。その内、針金の束はハンマーで叩かれて波上にうねると、それを一本一歩ロープに巻き付けた。
「硬い……どうしたらいいですか」
うまく巻き付けられず苦戦するウルに助けを求められて、アーシュラは初めて金目にうなずいた。その瞳は決心と迷いがある。
金目はその意味を察すると、針金を火に入れたあと、しごくように叩くことで針金はくるりと弧を描いた。
ウルはすぐさま見様見真似で針金を扱い、えらく不格好ながらも針金を曲げていく。
「っ」
弾けた不純物が火花となってウルの顔を焼いた。
ウルは目に涙いっぱいためたが、それでも唇を噛んで耐えたのを見て、すぐに未悠がヒールをかける。
「強いのね……さすが族長だわ」
「ありがとうございます」
ウルは未悠にお辞儀すると、そのまままた作業を続け、花冠ならぬ鉄冠を完成させる。大きく針金の切っ先二つが飛び出ていたり、ただの絡まった針金の輪っかにしかみえないが、ウルの顔を見る限り、できばえば上々のようだった。
「いいできですねぇ。さすが美脚の民。タイ焼きを思い出しますね」
金目の爽やかな笑みに、むしろあれを被ったら痛い思いをするのではとおろおろしていた未悠は「う」と声を詰まらせた。
「それじゃ祭壇へ移動しよう」
川のほとりに移動したころには月はもう大地に顔を沈め始めていた。まだ空は暗いが、いくばくか黒から紺へと色が変じている気がする。
「メルさん、来てくれたんだ」
並ぶ参列者の中にメルツェーデスがいるのを見つけ、ユリアンが手を振った。
「そりゃあまあ……世話してるしさ。ところで最近見ないうちになんか変わった? 大人の顔してるじゃない」
「え、そうかな。メルさんこそ、なんか雰囲気が色っぽくなった気がするよ」
さらっと返したユリアンの言葉に、巫女として辺境の白い法衣をまとったエアルドフリスが言葉を遮るようにして立ち上がった。
「さぁ、主役のご登場だ」
その言葉に、ざわついていた空気が、夜の一番空気が張り詰めるこの時間と同じように、ぴたりと止まった。
ウルがゆっくりと歩いてくるのが見えた。
「 これより儀式を執り行う。ゾールとレイアの子、北風の一族の長、ウル。祭器を持って此処へ」
「はい」
エアルドフリスの言葉に従い、ウルは鉄冠を持って前に出ると、ゾールが徐に棍棒を岩にたたきつけて派手な音を鳴らした。ボラ族の詩の始まりだ。
「ヴォラー、ヴォラー」
最初は低く、徐々に勇ましく。
ゾールの雷の精霊が、レイアの囁く風の精霊が具象化して、エアルドフリスもまた覚醒し雨音を響かせた。
「精霊の集会みたいだ」
ユリアンの気ままな風の精霊が、未悠の自由闊達なる黒猫の姿が、アーシュラの電光が響く。戦場ではこうなるのも見慣れてはいたが、全員が儀式に臨む姿は威容といえた。
金目にはそれが少々眩しかった。自分の精霊は……そういうものではないから。
「私は問う。 契るは帝国の精霊。汝に望郷を捨て、帝国に在れと求められれば何と答える」
「精霊に国は関係ありません。精霊のいる限り、どこにでも行きます」
「名も知らぬ100の帝国の民と隣に在るボラの民。救えるはどちらかのみならば、どちらを選ぶ」
「助けられる人から順番に、です」
言い訳してるわけでも、問答が理解できていないわけでもないようだった。
たくさんの師から、ウルはそう学んだと胸を張る。それは子供らしい無邪気さと、真っすぐさを感じさせ、レインはしばし言葉をつぐんだ。
「貴方の母は世の理を説き、貴方の一切を断じた。その先に何を示す」
「えーと……」
ウルは言葉に詰まった。
どう答えるのか、みんなが注視する中、メルツェーデスが叫んだ。
「ヴォラー! 言いたいことなんでも言ったらいいのよ!!」
「ヴォラー! ヴォラー! 自由に示せ」
アーシュラも吼えるようにして、勇気を与える。
「スィアリは世の在り方を説明して、生きることは間違いだと言ったんだが、それについてはどう思うってことだ」
司式のエアルドフリスがそっちウルに耳打ちすると、ウルは悩むのを止めて顔を上げた。
「ボラは生きることも死ぬ事も導くのが仕事だよって言います」
そうして鉄冠を掲げると、そこにいる全員がヴォラーと叫んだ。
よく言ったという喝采と、希望を込めて。
「ウルよ。貴方の言葉。その想い。確かに聞き届けた。貴方に聖獣の微笑あれ」
レインが結びの言葉を終えると同時に、エアルドフリスが空へと朗々と辞を述べた。
「汝、ウルの志は確かに受け取った。精霊よ。ウルに加護を与えたまえ」
空は茜色へと色を変え、朝日の光条が雲を七色に染めた。
●
「よくやったね! さっすが族長!」
思いっきり抱きしめるアーシュラにウルは恥ずかしそうだった。
「なんかドキドキした。ありがとうっ。これで故郷にも行ける?」
ウルは無事に儀式を終えて、自信たっぷりの顔だった。
「まだまだだ。質問をちゃんと答えられなかっただろう。精霊の姿も見えてなかったじゃあないか。まだまだ修行がたりんね。俺の部族だと歴史暗唱でできないだけで棒でゴツンだぞ」
エアルドフリスは笑って彼のやる気をうまく御しながら、苦笑した。
ユリアンや未悠の持っていた精霊保護感謝状と彼らの語り掛けで、精霊は山ほど集まってきていた。レインが策定した場所も良かったのだろう。だが、残念ながらウルには一切気づくことがなかったようだ。
「うーん。このシンボルが失敗したかなぁ」
「そうは思いませんけどねぇ。むしろ出来が良すぎたんじゃないですかね」
金目は鉄冠を眺めてそう言った。ボラ族の宝にしようなどと言ってる人間もいるくらいだから、見た目はともかく、これにこもった想いというのは相当なものだと改めて金目は理解していた。
「そんなに慌てる必要ないさ、必要なら俺と精霊が一緒に手伝ってあげるから」
「じゃあ剣、剣教えて」
ユリアンにフォローされるとウルは早速修行だーっと外へユリアンを引っ張り出し、チャンバラごっこを始めた。
「お疲れ様。様になってたわよ。さすがは巫女ね」
見送るエアルドフリスに未悠が声をかけた。
「……精霊には結局儀式しても会えんかったよ。出会ったのは全て喪った後だ」
ぽつり、と言うエアルドフリスに未悠も視線を床に落とした。
「私は出会った時にね、災難だったねお姫様。って声をかけられたわ。意志を放棄して生きることもできたのにねって。精霊はなんでも知ってる……本当に必要な時も知ってるのかも、しれない」
「かもしれんね」
強い想いが成熟した時に精霊は初めて姿を現すのだとしたら。
「強い想いが呼び寄せるっていうんならさ、俺たちも呼ばれたのかもしれんねぇ」
「そうね」
みんな思ってる。
ウルに加護あらんことを。
薄暗い中、ランプシェードによって色づいた灯りがボトルやグラスに反射してチラチラと輝くバーにて。
「彼らは帝国慣れせんのじゃあない。此処で生きていく為にああしてるのさ」
エアルドフリス(ka1856)はカウンターで並ぶメルツェーデスにそう語り掛け、解ってるじゃあないのかね? と問いかけた。
「解るわけないわよ。むしろあたしの苦労を解れっての。だから儀式なんか任せた。どうせわかんないし」
ショットを煽るメルツェーデスにエアルドフリスは笑った。
「そうでもないぞ、傍にいるってことが大切なんだ」
エアルドフリスは横目にしながら、グラスを傾ける。
「今日は傍にいてやる、だからあんたはボラ族の傍にいてやってくれんかね。マスター、スクリュードライバーを一つ」
●
「もう4歳か……早いな。俺の事覚えてる?」
「うん、山のところで走ってたとこから覚えてる」
ウルの答えにユリアン(ka1664)はますます目を細めた。まだ喃語も話せない時の出来事を覚えてくれているのだから。
「あたしは?」
「アーシュ。いつも一緒だよね? 忘れたの?」
ユリアンとの問答が羨ましくなって、つい尋ねたアーシュラ・クリオール(ka0226)の問いかけにウルは首を傾げた。そりゃあ暇なときはほとんど毎日いるんだから質問自体が間違ってる。残念なような、嬉しいような。
「興味深い問答である。一般的に記憶が定着するのは3歳ごろと言われる。この幼子の記憶力は特徴的である」
雨を告げる鳥(ka6258)は分厚い興味深く、ウルの瞳を覗き込んだ。目は澄んでいて、レインも少し見つめ返されることに自己の心がさざ波だった。
この子はまだ汚れを知らない。
それが返って、汚れきって歪虚に堕ちた実母スィアリと対照的な気がした。
「私は問う。ウルよ。まだ幼き時分で何故精霊の力を求め、何を為すのか」
「みんなを導くためです。族長は強くあるべきです」
言い澱みの一つもないウルの答えに、優しいまなざしの高瀬 未悠(ka3199)の相槌が止まった。
「そう……ねぇ、じゃあどんな精霊に会いたいのかしら」
みんな、の中に母への想いも含まれていることを感じてチリリと胸に痛みを覚えながら、さりげなく未悠は問いを変えると、今度は彼は困った顔をした。
「精霊って選べるのですか?」
うすぼんやりと精霊の助けを得て戦う、ということは理解していたようだが、具体的に精霊がどのようなものがいて、自分と近しい存在は何かというところまでは理解できていないようだった。
「精霊っていうのはたくさんいるからね。儀式で降りてきてもらったりするのもいれば、相性が良かったり、ひょんなことから出てきてくれる精霊もいる。ウルに良い精霊がいるといいんだけど。そういえば今覚醒者になろうって思った、切っ掛けってなんだったんだろう」
「ユリアン、助けてくれたから。カカ様泣きやんだの」
麦茶を差し出しつつ尋ねたユリアンの手が止まった。
ああ、レイアが脅されて仲間に刃を向けた時の話だ。確か時化た臭いがして、行かなくちゃって思ったんだよな。
「どこで、どんな縁が結果に結びつくかわかりませんね」
「うん、大きい柱が脚になったのすごかった。大きい物でも変えられるのすごいと思ったの」
ぼさぼさの髪の毛をかいて笑う金目(ka6190)だったが、ウルの真っ正直な言葉に、さらに頭を低くして笑った。
あれは覚醒者故ではなく細工師としての矜持なのだが、ウルにしてみれば同じことなのかもしれない。
「皆さんの精霊ってどんなのですか? どうしたら出会えましたか」
尋ねるウルに金目は少し俯いて笑った。
「……夕立に降られたようなもんです。突然のことで、夢か現かも定まらない曖昧な記憶の中……」
それから言いよどむ金目に代わって未悠が言葉を続けた。
「私も同じような感じ。転移してすぐね。ぼうっとしてたら黒猫がふいっと現れたの。これじゃ参考にならないわね。ユリアンやアーシュラは、ちゃんと出会ったイメージがあるけど」
「俺も似たようなもんだよ。騎士の訓練中ヘマをやらかして崖から落ちて。その時に助けるから目にならないかって。それが故郷の森にいた風の精霊だったんだ」
全員の言葉を聞いて、ウルはうーんと唸った。
「危険になると助けてくれるのかな」
「そうでもないよ。あたしは機械が好きだった。その機械とずっと触れてて、語り掛けてくれたような気がするから。他のみんなのもそうだけど、精霊はいつでも見てて、必要なときに、あたし達の心の声に呼ばれて、手を差し伸べてくれるんじゃないかな。だから、ただ危険に挑めばいいものじゃないよ」
静かに語るアーシュラには、いつものあっけらかんとした空気はなく、族長の求めに応じて自分の意見を差し込みながらも応える、真摯さが含まれていた。
「そうですね。だから儀式がある。ボラの文化にも」
金目はそこまで言って、ところで、ボラの儀式ってどんなのですかね。とアーシュラに尋ねた。
「ヤドリギを編んで輪を作り、泉で身を清めるんだって。この辺にヤドリギはないけど」
その言葉にレインはしばしウルを見つめて考えた。よく見れば衣装には、三つ巴が描かれている。
「私は推察する。三つ巴は生と死と転生の象徴であり。ヤドリギの輪もその意味を含む事を。輪廻であるならば素材から新たに何かを作るのも同義を得られるだろう」
「わかりました。ボラは鍛冶します。鍛冶でボラのシンボルを作って捧げます」
「私は探る。場所は精霊の集まる場所を。その地にて儀式は行われる」
アーシュラに案内されて、寝床に移動したウルを見届けた後も留まるレインに未悠が声をかけた。
「どうしたの?」
「私の精霊は白紙の本であった。そして誓約した、記すことを。ボラの民のことは詳しくは知らず、物語は断片的である。だが物語は何かに導かれるように動いているようにみえる。万事流転の調和が描かれている」
「レインの言葉は難しいけれど……本当は難しくないのよ」
未悠は寂しそうに笑って言った。
「ウルは親の愛情を感じ取っているんだと思うわ、風が吹くたびに。それらが響き合って形になる。レインの物語っていうのは、そういうことじゃないかしら。精霊もきっとそれを手伝おうと思って、流れを作ってくれているのよ」
ガルカヌンクが闇に包まれたあの時のウルが忘れられない。今もきっと、手を取ってくれない母親を無意識にまだ求め続けている。
くすり。精霊である黒猫が笑った気がした。そう言えるようになったんだね。って。
「大丈夫だよ。心配しなくても」
夜風に当たるため外に出たユリアンは、建物の外で心配そうにしているゾールとレイアの姿を見つけて、くすりと笑ってそう言った。
「ウルはみんなの想いも決して忘れたりはしないから、儀式はこなすだろうし、みんなと一緒に進んでくれるよ。俺みたいな風の精霊の影響を受けなきゃ、だけど」
普段はどっしりとした二人なのに。
そしてふと、あっさり旅を認めてくれた母親のことを思い出した。
●
満月が頂点から下り始める頃に鍛冶工房は白い輝きがぽうっと生まれた。
アーシュラの浄化術、白虹だ。そしてかまどの火がその後にくべられ灯りとなった。
「まず頭にロープを巻き付けて、そうそう、それが輪のサイズです。これに自分で鍛えた鉄線を巻きつけます」
「はいっ」
まだぷくぷくとした手は精巧には動かなくとも団子結びでロープを固定すると、続いて線路の鋲止に使う針金の束を金床に置くと、小さなハンマーを両手で持ち上げて落とす。
「あ……」
まだハンマーをちゃんと扱える力はないことがわかると金目は思わず手を出そうとしたが、それをアーシュラは引っ張って止めた。
「ウルは助けを求めていない」
「はぁ」
案の定、金床はハンマーの角がぶつかってできた小さな凹凸ができたが、ウルは気にした様子はなかった。その内、針金の束はハンマーで叩かれて波上にうねると、それを一本一歩ロープに巻き付けた。
「硬い……どうしたらいいですか」
うまく巻き付けられず苦戦するウルに助けを求められて、アーシュラは初めて金目にうなずいた。その瞳は決心と迷いがある。
金目はその意味を察すると、針金を火に入れたあと、しごくように叩くことで針金はくるりと弧を描いた。
ウルはすぐさま見様見真似で針金を扱い、えらく不格好ながらも針金を曲げていく。
「っ」
弾けた不純物が火花となってウルの顔を焼いた。
ウルは目に涙いっぱいためたが、それでも唇を噛んで耐えたのを見て、すぐに未悠がヒールをかける。
「強いのね……さすが族長だわ」
「ありがとうございます」
ウルは未悠にお辞儀すると、そのまままた作業を続け、花冠ならぬ鉄冠を完成させる。大きく針金の切っ先二つが飛び出ていたり、ただの絡まった針金の輪っかにしかみえないが、ウルの顔を見る限り、できばえば上々のようだった。
「いいできですねぇ。さすが美脚の民。タイ焼きを思い出しますね」
金目の爽やかな笑みに、むしろあれを被ったら痛い思いをするのではとおろおろしていた未悠は「う」と声を詰まらせた。
「それじゃ祭壇へ移動しよう」
川のほとりに移動したころには月はもう大地に顔を沈め始めていた。まだ空は暗いが、いくばくか黒から紺へと色が変じている気がする。
「メルさん、来てくれたんだ」
並ぶ参列者の中にメルツェーデスがいるのを見つけ、ユリアンが手を振った。
「そりゃあまあ……世話してるしさ。ところで最近見ないうちになんか変わった? 大人の顔してるじゃない」
「え、そうかな。メルさんこそ、なんか雰囲気が色っぽくなった気がするよ」
さらっと返したユリアンの言葉に、巫女として辺境の白い法衣をまとったエアルドフリスが言葉を遮るようにして立ち上がった。
「さぁ、主役のご登場だ」
その言葉に、ざわついていた空気が、夜の一番空気が張り詰めるこの時間と同じように、ぴたりと止まった。
ウルがゆっくりと歩いてくるのが見えた。
「 これより儀式を執り行う。ゾールとレイアの子、北風の一族の長、ウル。祭器を持って此処へ」
「はい」
エアルドフリスの言葉に従い、ウルは鉄冠を持って前に出ると、ゾールが徐に棍棒を岩にたたきつけて派手な音を鳴らした。ボラ族の詩の始まりだ。
「ヴォラー、ヴォラー」
最初は低く、徐々に勇ましく。
ゾールの雷の精霊が、レイアの囁く風の精霊が具象化して、エアルドフリスもまた覚醒し雨音を響かせた。
「精霊の集会みたいだ」
ユリアンの気ままな風の精霊が、未悠の自由闊達なる黒猫の姿が、アーシュラの電光が響く。戦場ではこうなるのも見慣れてはいたが、全員が儀式に臨む姿は威容といえた。
金目にはそれが少々眩しかった。自分の精霊は……そういうものではないから。
「私は問う。 契るは帝国の精霊。汝に望郷を捨て、帝国に在れと求められれば何と答える」
「精霊に国は関係ありません。精霊のいる限り、どこにでも行きます」
「名も知らぬ100の帝国の民と隣に在るボラの民。救えるはどちらかのみならば、どちらを選ぶ」
「助けられる人から順番に、です」
言い訳してるわけでも、問答が理解できていないわけでもないようだった。
たくさんの師から、ウルはそう学んだと胸を張る。それは子供らしい無邪気さと、真っすぐさを感じさせ、レインはしばし言葉をつぐんだ。
「貴方の母は世の理を説き、貴方の一切を断じた。その先に何を示す」
「えーと……」
ウルは言葉に詰まった。
どう答えるのか、みんなが注視する中、メルツェーデスが叫んだ。
「ヴォラー! 言いたいことなんでも言ったらいいのよ!!」
「ヴォラー! ヴォラー! 自由に示せ」
アーシュラも吼えるようにして、勇気を与える。
「スィアリは世の在り方を説明して、生きることは間違いだと言ったんだが、それについてはどう思うってことだ」
司式のエアルドフリスがそっちウルに耳打ちすると、ウルは悩むのを止めて顔を上げた。
「ボラは生きることも死ぬ事も導くのが仕事だよって言います」
そうして鉄冠を掲げると、そこにいる全員がヴォラーと叫んだ。
よく言ったという喝采と、希望を込めて。
「ウルよ。貴方の言葉。その想い。確かに聞き届けた。貴方に聖獣の微笑あれ」
レインが結びの言葉を終えると同時に、エアルドフリスが空へと朗々と辞を述べた。
「汝、ウルの志は確かに受け取った。精霊よ。ウルに加護を与えたまえ」
空は茜色へと色を変え、朝日の光条が雲を七色に染めた。
●
「よくやったね! さっすが族長!」
思いっきり抱きしめるアーシュラにウルは恥ずかしそうだった。
「なんかドキドキした。ありがとうっ。これで故郷にも行ける?」
ウルは無事に儀式を終えて、自信たっぷりの顔だった。
「まだまだだ。質問をちゃんと答えられなかっただろう。精霊の姿も見えてなかったじゃあないか。まだまだ修行がたりんね。俺の部族だと歴史暗唱でできないだけで棒でゴツンだぞ」
エアルドフリスは笑って彼のやる気をうまく御しながら、苦笑した。
ユリアンや未悠の持っていた精霊保護感謝状と彼らの語り掛けで、精霊は山ほど集まってきていた。レインが策定した場所も良かったのだろう。だが、残念ながらウルには一切気づくことがなかったようだ。
「うーん。このシンボルが失敗したかなぁ」
「そうは思いませんけどねぇ。むしろ出来が良すぎたんじゃないですかね」
金目は鉄冠を眺めてそう言った。ボラ族の宝にしようなどと言ってる人間もいるくらいだから、見た目はともかく、これにこもった想いというのは相当なものだと改めて金目は理解していた。
「そんなに慌てる必要ないさ、必要なら俺と精霊が一緒に手伝ってあげるから」
「じゃあ剣、剣教えて」
ユリアンにフォローされるとウルは早速修行だーっと外へユリアンを引っ張り出し、チャンバラごっこを始めた。
「お疲れ様。様になってたわよ。さすがは巫女ね」
見送るエアルドフリスに未悠が声をかけた。
「……精霊には結局儀式しても会えんかったよ。出会ったのは全て喪った後だ」
ぽつり、と言うエアルドフリスに未悠も視線を床に落とした。
「私は出会った時にね、災難だったねお姫様。って声をかけられたわ。意志を放棄して生きることもできたのにねって。精霊はなんでも知ってる……本当に必要な時も知ってるのかも、しれない」
「かもしれんね」
強い想いが成熟した時に精霊は初めて姿を現すのだとしたら。
「強い想いが呼び寄せるっていうんならさ、俺たちも呼ばれたのかもしれんねぇ」
「そうね」
みんな思ってる。
ウルに加護あらんことを。
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精霊に示すものとは(相談卓) 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/06/12 08:27:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/07 23:45:06 |