• 羽冠

【羽冠】炎を囲む夜の集い

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/28 22:00
完成日
2018/07/07 12:42

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●レーニエ・フォンヴェイユの至った結末
「――これは一体どうしたことだ!」
 フォンヴェイユ家の拠点に戻ったレーニエが叫んだ。
 ――出て来た時と何の変化もなかったからだ。

 王都に多数の歪虚が発生、マーロウも戦闘に巻き込まれたというのに……ここでは未だに全員が待機している。

「未だにマーロウ閣下よりの指示がなく……」
 問われた使用人が説明する。
「マーロウ閣下は戦っておられる! なぜ加勢しない?!」
「我々も何度か申し上げたのですが、レーヴィ様は兵を動かす必要は無いと……」

 マーロウのためにすら戦おうとしない父――
 レーニエは、それを知った時、全てを悟った。
 すなわち――あの男は勝ち馬に乗ることしか頭にないのだ!
 王家を倒そうとしないマーロウ閣下には力を貸したくないのだ!
 思想などない!
 自家の利益しか頭にない!

「これが……貴族なのか!」

 レーニエの中で溜まりきったものが決壊した。
 そして外へと飛び出した。背後に彼を呼び止めるいくつもの声を聞きながら……。 



●イサ・ミソラが描く未来図
 イサ・ミソラ……伊佐美空は転移者である。
 転移した場所がフォンヴェイユ領地だった彼女は、使用人の一人に発見され、フォンヴェイユに保護された。
 それからは使用人としてフォンヴェイユに仕えてきたが、覚醒者の適性があることがわかると私兵も兼任となった。
 レーニエが白馬隊を率いるようになると、その配属となり、彼と過ごす時間は長くなった。
 多くの戦いを、供に乗り越えてきた……。
 立場も生まれた世界も違うものの、強い絆が芽生えていた。

 飛び出したレーニエを見つけたのは彼女だった。

「レーニエ様……」
 第七街区……戦いで荒れ果てたこの場所で佇んでいたレーニエに、イサは背後から声をかける。

「イサか……私は失望したよ」
 半分だけ振り返って、レーニエは応えた。
「家には戻るつもりはない」

「そうですか……」
 イサは俯いた。
 そして、少しの間を置いて、顔を上げてこう言った。

「ならば、レーニエ。
 貴方は今より私のモノです」

「…………?!」
 レーニエは全身をイサに向けた。
 初めて呼び捨てで呼ばれた上、意味がわからなかった。

「抵抗は無駄です。私の方が強いのだから。
 これから私はハンターとして生計を立てていきます。貴方は私に養われなさい。それが一番いい。拒否権は認めません」

 レーニエは目を見開く。そして考える。イサはこんな言動をする娘だっただろうか。レーニエの知る彼女は、日常では貞淑で甲斐甲斐しいメイドで、戦場では忠実で頼れる兵士だった。
 これでは立場がまるで逆だ。
 立場……
 ああ、それなら今さっき捨てたのだった。

 二人の間を隔てる互いの立場の違いがなくなったことで、大胆になったのか――?

「――いいですね? 私のレーニエ」
 その通りだった。

 イサは黙ってレーニエをじっと見ている。拒否権はないと言いつつも返答を待っているようだ。



 長い沈黙のあと、レーニエが口を開いた。
「イサ、私は」
「何してるんだ君達は?」
 突然声をかけられた。二人は目を見開いて声のした方を向く。

 ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)がいた。

「行く場所がないのか? なら私と来い」
 ヘザーはそれだけ言って背を向けた。

 イサは少しの間考えてから、ヘザーについて行こうとした。
 そして、いまだ固まっているレーニエに気づき、視線で促す。
 レーニエも頷き、彼女に続いた。



●ジョセファ・スフォルツァ、王都へ
「王都に赴き、王女殿下に忠誠を示しなさい」
 ――お母様はそう言われました。律儀な方ですわ。

 娘を一人で放り出すとか、何考えてるのかしらと言いたくなりますけれど。

 実際来てみれば王都はごたごた。
 王都に住む方々の暮らしが荒むのは、心が痛みますけれど、わたくしにはどうにもできません。
 何日か街を巡回しましたけれど、独りでできそうなことはありませんでした。
 ですがある日、わたくしはとんでもない所に出くわしたのです。

 第六城壁の上においでになった王女殿下。
 そして、それに対峙するマーロウ大公。
 これだけでも大事件だというのに、これだけでは済みませんでした。
 空から現れた黒い騎馬。
 それを皮切りに、至る所に歪虚が現れたのです……。

 そこでわたくしはようやく自分に出来ることを見つけました。すぐさま両腰のホルスターから愛すべき殺戮の双子を解き放ったわたくしは歪虚に鉛弾を浴びせるべく躍りかかったのです。

 歪虚に対抗したのはわたくしだけではありませんでした。街の至る所から颯爽と現れたハンター達。王女殿下を守る役などはかれらがかっさらっていきました。



 ヘザー・スクロヴェーニ様とはそこで出逢い、背中を預け合って戦いました。

 そして戦いが終わった後、打ち上げをやるから来いと言われて、今は第七街区の外側にある広い場所にやって来ました。

 ヘザー様の姿がありません。
 どちらに行かれたのでしょうか……?



●ヘザー・スクロヴェーニと炎を囲む夜の集い
 夜になっていた。そこには愉愚泥羅やヘザーのハンター仲間、その他にも様々な人間が集まっていた。かれらの中心には薪が積まれている。
 木材を担いだヘザーがやってきた。誰かを伴っている。
 ジョセファは突如として二丁拳銃を抜き放った。
 ヘザーに向けたのではない。伴っている人物にだ。
「なぜ貴方がここにいるんですの?」
「よせ、今彼を撃つ必要はない」
 問うジョセファ。ヘザーは銃口の前に立ちふさがった。
「その方がどなたか、おわかりでして?」
「ああ、よく知っている。――レーニエ・フォンヴェイユ。マーロウ派の貴族だろう」
 レーニエは俯いていた。家の名が呼ばれた時、少しだけ体を強ばらせた。
 その側にはイサが付き従っている。
「――もう決着はついた」
 ヘザーはそう言って、一言付け加えた。
「終わったんだ」

「終わった……」
 ジョセファはこれまでの事を思い返す。
「我が領地でも大きな混乱があった、王女殿下の結婚問題に端を発する一連の騒動が……終わったのですか?」
「ああ、王家とマーロウ家のゴタゴタは……終わった。ここで終わらさなければならないんだ」

「私も異存はない」
 レーニエが口を開いた。
「もし許されるのなら……。
 マーロウ派の貴族としてではなく、一人の王国の民として、やるべきことをやっていきたい」

「……ずるいですわ、先に折れるのは」
 ジョセファはむくれた顔をして、銃を収めた。
「ですが、それならこれ以上銃弾を減らさなくて済みそうですわね……」



 ヘザーは持ってきた木材を薪に加える。戦いで壊れた家の一部だったものだ。そして、それに火を付ける。
 火は赤々と燃え上がり、闇夜を照らした。

「ようやく、立ち止まることができたんだ」
 ヘザーは炎を見ながら言った。
「考える時なんだ。これまでの事、これからの事を……」

リプレイ本文

●炎を囲む夜の集い
 王都イルダーナが歪虚の脅威に晒された日……
 全ての敵が撃退され、昼間よりは落ち着いた夜が訪れていた。

 ここは第七街区のとある場所……
 ここでは暗闇の中で篝火が燃えている。その周りに何人かが集まっていた。

 そこに大きな鍋と食材を担いだフィロ(ka6966)が訪れた。
 それを見つけたヘザーが歩み寄った。
「炊き出しなら、この火を使うといい」
「ありがとうございます」
 フィロは荷物をそのままで、恭しく一礼した。
「かまどが必要だな……皆、手伝ってくれ!」
 ヘザーが声をかけると、愉愚泥羅メンバーやヘザーの妹分であるミコト=S=レグルス(ka3953)が応じ、周囲で石を拾い集める。
 イサも自発的に手伝ったが、レーニエとジョセファは貴族として、使用人の仕事をとるような行動はとらなかった。
「ヘザーさん、見ていてくださいっ! このくらいすぐに片付けてみせますよ!」
「ああ、頼む!」
 中でもミコトは指示をするまでもなく動き始めていた。

 ややあって石を重ねたかまどが完成した。篝火から火種を取り、かまどに点火する。
「何を作るんですかっ?」
「はい。野菜とソーセージを入れた簡単なポトフでございます」
 ミコトに聞かれたフィロはうやうやしく一礼した。
 ミコトはあまりにフィロの態度が丁寧だったので首をかしげる。一方でイサはフィロに同類の匂いをかぎ取っていた。
「この方は、使用人気質のようでいらっしゃいますね」
「無差別に奉仕するのか……?
 それにしても随分多いな」
「100名分程ご用意させていただいてございます」
 奉仕者として完成された所作で接されてヘザーはなぜか照れた。
「ここにはそんなに沢山居ないが……被害にあった人達に配るのかな」
 フィロは頷く。
「お腹の中から温まると落ち着きますし、名案も浮かびましょう」

 篝火と炊き出し、この二つがあると遠目にも目立つ。気になって来る人も現れだした。

「やっほー! また会ったね」
 夢路 まよい(ka1328)はその中の一人だった。レーニエを見つけて声をかける。
「先程は、お世話になりました」
 イサが一礼した。王都での戦いでは彼女に救われた形になる。
「あれ? 他のみんなは一緒じゃないの~?」
 イサとだけ一緒にいるのを見たからだ。明らかに冷やかしのニュアンスがあった。
「ああ、ちょっと訳があってね……」
 とレーニエ。戦闘の中で出会った時より態度は軟化している。
「へぇ~隅に置けないね!」
 対するまよいは、部分的に察していた。間違ってはいない。

 一方でジョセファに声をかけていた者があった。神楽(ka2032)である。
「お嬢も来てたんすね。道理で戦闘中に聞きなれた銃声がする筈っす。お嬢がいるならマーロウなんか無視して会いに行けばよかったっす」
「まあ猿! 活躍は聞いてますわ。
 マーロウ大公を説得して『触手王』の座に輝いたとか」
「微妙に違ってるっすね」
 マーロウと触手には何の関係もない。
「これで『スケベ大王』『覗きの王』『触手王』の三冠王ですわね!」
「何で知ってるっすか?」
 ここまで話して、神楽はレーニエに気づいた。
「また会ったっすね! ここにいるって事はお嬢と付き合う気になったっす?」
「何の話ですの?」
 レーニエより先にジョセファが反応した。
「彼は私と君をくっつけたがっている」
 レーニエの言葉が終わらないうちに、ジョセファは拳銃を抜き放ち発砲した。
「うわっちゃあ?!」
 神楽の足元に炸裂した。

「おい、今銃声がしたぞ、何があった?」
 ちょうどそこに現れた所だったジャック・J・グリーヴ(ka1305)が問い質した。視線の先にはレーニエがいる。
「穏やかではないな……歪虚か?」
 クローディオ・シャール(ka0030)も一緒だ。
「歪虚ではありません、変態です!」
 答えたのはジョセファだった。
「そうか。今は戦いが終わった直後なのだから穏やかに願いたい」
 クローディオは紳士的に咎める。
「ごめんなさい……」
「気にしてないっすよ」
 神楽がそう言ったが、ジョセファが謝ったのはクローディオに対してだった。
「はぁ~しかし思った以上にひでぇ有様だなオイ。ちと休憩だなキューケー」
 安堵したジャックはクローディオにそう声をかける。復興の手伝いをと思いここに来たのだった。
 それを見たフィロが先程のポトフにパンを添えてジャックに差し出す。
「よろしければ、どうぞ」
「お、おう……」
 ジャックは赤面しつつ受け取った。

●これまでを振り返る
 この場に集まった者達は他にもいる。
 イスカ――Uisca Amhran(ka0754)は篝火の灯りに照らされながら、目を閉じて立っていた。
 火灯りを浴びて夜の闇に浮かび上がるかのようなその姿は、神聖ささえ感じさせた。
「こんばんは、ヘザーさん」
 目を開けると、ヘザーの姿を見止めたので微笑み、挨拶した。
「イスカ、久しいな。何をしていたんだ?」
「これまでの戦いで、亡くなった人達の事を想っていました」
 これまでにあった大きな歪虚との戦い……彼女が見てきた記憶。
 様々な戦いがあった。複数回に渡るベリアルの侵攻、茨の王との戦い、メフィストの暗躍……その中で犠牲になった者達の中には、彼女と親しかった二人の人物も含まれていた。
「……君が言っているうちの一人とは私とも親しかった。
 あの時は、やりきれない思いをしたものだった……」
 ヘザーもまた、思い出していた。
「敵が討たれてもなお、虚しさは消えないものだが……それでも前に進まなくてはならないのだと思う。きっとそれが彼女のためにもなると感じているよ」
「はい。これまでの戦いの犠牲を無駄にしないために、今できる精一杯のことをしましょうっ」

 リュー・グランフェスト(ka2419)は、赤々と燃える炎を眺めながら、これまでの戦いを振り返っていた。
「終わった、か」
 そう呟く。
 今日、一つのことに区切りがついた。
「けど、何も変わってない気もする。
 これから始まるって気もする」
 リューは、今回の王国の騒動でそこそこは動いてはいたが、何かできたというほど明確なものは得られたという感覚はなかった。
 中途半端な気分だった。

 傍らでレイア・アローネ(ka4082)が彼の話を聞いている。
「今回は、互いに部外者に近いものだったな」
 レイアはそう感じていた。
「部外者……か。
 言ってみれば王国内部での内輪もめと言えなくはないな」
 二人の背後から、ヘザー。話に乗っかった形になった。
 フィロとミコトがポトフの椀を渡す。近くに居るものに配っていくスタイルらしい。
 ヘザーは話を聞きに入った。
「部外者でありながら、力を貸してくれた事に、王国民として礼を言わせてくれ。ありがとう」
「関係がないと言ってるわけではないぞ」
 レイアは椀を受け取りながら答える。
「ああ。無関係じゃない」
 リューがすかさず繋いだ。
「困ってる人がいれば、力を貸す!
 世界のどこでも、行けるならな」
「頼もしいな! 今回はどんな戦いを?」
 リューはヘザーに問われ、イスルダ島でのベリアルとの戦いを語った。

「そうか……ベリアルもついに逝ったか」
 ベリアルと直接戦ったわけではないヘザーだが、ベリアルの脅威を知らない王国民はいないだろう。
「ツッコミ所満載だったがな……」
 フルメタルはともかく、真・真ベリアルって。
「だがベリアルならまだ良い……政が絡む案件は厄介だった」
 今度はレイアが語った。
「どれだけ強くとも歪虚ならば斬ればいい。だが人間相手となると……」
「ああ、それは確かに。行動原理も歪虚とは違うしな」
「あー、うちも王都で暴徒の皆さんと戦ったときは色々悩まされましたっ」
 ミコトが思い返す。
「暴徒といえば、あの時には世話になったな、ボルディア」
 ヘザーもミコトと同じ事件を思い出し、そのとき目に入った別の人影に声をかけていた。
「ん? ああ……悪い。考え事してた」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)はじっと炎に向けられていた視線を、ヘザーに移す。
「何の話だった?」
「今回は人と対決する事が多くて、苦労したなって話さ」
「ああ……確かにな。暴徒もそうだがエクラ教会の腐敗とか、なんだかここ最近で人間社会の闇を見る機会がやたらと多かった気がするぜ」
「何でも屋っぽい活動が多かったよな」
「これで善いのかねえ……」
「どうした?」
「いや、なんでもねえよ」
 ボルディアはそう言って、また炎に視線を戻した。

「人の為に剣を振るうと考えるのなら――」
 レイアが再び口を開いた。
「敵は歪虚だけとは限らないのだろう。そういう意味では、私たちも政と無関係とは言えないのだろうな」
 レイアは納得しているようだった。あるいは、納得しようとしているのか。
 少なくとも、ヘザーにはそう思えた。

「政、ですか」
 フィロが考えるような顔で言った。
「私は王政も帝政も違和感を感じますので、議会制国家の出身かもしれません。ですから正直なところ、民までが王女派マーロウ派に分かれる現状がよく理解できません」
 実のところフィロには集団ヒステリーやアイドル活動に見えてしまっているくらいだ。さすがに口には出さないが。
「確かに異常なのかもしれない」
 ヘザーはそう応えたが、しかし、自分が異常だという自覚はまるでなかった。
 外から見ればそう見える可能性くらいはあるかもしれない、という程度だ。
「こうなった原因は、マーロウだけとも言えないのかもしれないな。
 これから、少しでも良くなっていければいいんだが」

「いいじゃねェの。ゴタゴタ大いに結構さ」
 違う方向からだ。
 そこにはフォークス(ka0570)がいた。座っていた彼女は立ちあがってヘザー達のもとに歩んでくる。
「争いの火種は飯のタネ、どうせ食うならウマいタネ。
 アタイは王国のこれまでを最前列から面白おかしく見ていたつもりだったが。
 それがなんだ? 予定調和ってヤツ?
 みんなでおてて繋いでゴールテープでも切るのかい?」
「気に入らないか? このエンディングは」
 ヘザーは自分とは違う意見の持ち主に、あえて語らせようとした。
「単に外敵の存在が内部の結束を強めてくれたってだけの話だろ。まるで歪虚が王家と貴族の仲を取り持ってくれたみたいだったな! マアなんて感動的なシーンなんでございましょう!」
「相変わらず口が悪いな」
 そうは言うがヘザーにはフォークスが悪意を持っているかどうか図りかねていた。
「善い子ぶんなヨ。歪虚が消えたら次の爪弾きは力を持ったアンタとかアタイとかになんのさ……それが人間ッて奴の性だ……」
「……そういう一面も、あるのかもな」
「ホントにわかってんのかいアンタ?
 ふん……まあいいサ……」
 フォークスはまた元の場所に戻って座った。

「あの方のおっしゃること、わかりますわ」
 ジョセファだった。
「わたくしも……歪虚がいなくなったら誰に向けて発砲すればよいのかしら……」
「そんな話だったっすか?」
 神楽(さっき発砲された)が傍らで首を傾げる。

「正義の形は人其々ですよね」
 ミコトだった。
「ハンターでも、王国でもそれは同じで。
 それでもうちとしては、皆が其々の視点で、色んな方向からこれはどうかな? 正しいかな? って皆で考えながら、正義の形を整えていくのが良いんじゃないかなって思うので。
 これをきっかけに、もっと良い未来の形を考えていける流れが生まれるといいですね」
「ああ。争いやすれ違いから繋がる『より良い未来』ってのもあるはずだ。
 雨降って地固まる!」
 ヘザーが力強く言った。
「ヘザーとレーニエも一時はあわや喧嘩、ってくらいの感じだったもんね!
 けっこー、大人だね!」
 まよいが被せるように言う。背伸びしながら。
「目的が同じなら人は協力し合えるのさ。マーロウは許さないが!」
 返すヘザー。台無しだった。

●レーニエの今後
 その、レーニエだったが。
 未だに場に溶け込めていない感じだった。
 それをわかってかわからずにか、まよいが笑いかける。
「レーニエとは歪虚退治競争も一緒に楽しんだし、ハンター達とはもうお友達だよね~?」
「……君はそういう風に思えるのか?」
 レーニエはそもそも、友達がいたことがない。
「ふふっ……レーニエ、戸惑っておるのかえ?」
 穏やかに語りかけたのは、ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)だった。 
「今までは信じた主義主張のため、突き進めば良かったのじゃろうな。
 じゃがそれだけでは足りぬ……今回の王国の一連の事件から、学んだのではないかな?」
「自分の主義主張だけでは争いを生む……争えば危険になる……そういうことか?」
「結果的に、そうなったのう」
「だが、私は今でもマーロウ閣下の理想は正しいと思える。だからといって王家と争おうとはもう思わないが」
「理想を捨てなくともよいのじゃよ。
 多大な犠牲やぶつかり合いで血が流れる前に、お互い立ち止まれたのは、良き機会じゃったのう。
 これから先は手探りじゃが、皆同じ。王国に住む者達貴族も民も手を取り合って、新しい王国が歩き出すのじゃよ」

「ちょっと待ったぁぁぁぁぁですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
 突然、何者かがレーニエとヴィルマの間に割り込んだ。
「萎れたマーロウ派貴族が居ると聞いてぇ、ちょっと言葉で殴りに来ましたぁ」
 星野 ハナ(ka5852)だった。
「きっ君は……?!」
「私はマーロウ派ですよぅ、決まってるじゃないですかぁ。ぽわぽわ少女と歪虚に苛烈なオジサマならオジサマに肩入れするでしょぉ?」
 肩入れしたのは、確かにレーニエもそうなのだが。
 理由が。
「今ごろそんなことを言うのか?」
「言いますぅ。私のアイドル視点と貴族の派閥何が違うと思ってるんですぅ?」
 そんな事、レーニエは知らない。
 ハナは構わず続けた。
「大体貴方、マーロウ派がどういう集まりか分かってますぅ?」
「それはマーロウ閣下の……」
 ここまで言いかけてレーニエは気づいた。
 自分と同じ志の『マーロウ派貴族』に会ったことがあっただろうか、と。
 ハナは返答が途中で詰まったのを見て、たたみかけるように言った。
「マーロウ様は歪虚殲滅のためなら諸共全てを失っても惜しくない方でしたぁ。王家派が権益固持ならぁ、歪虚憎しかマーロウ様が軟弱王家に牙を向いてる隙に両者から掠め取れるだけ掠め取りたい方がマーロウ派ですぅ」
 指摘、というか、言葉による打撃。
 レーニエはその意味について考えた。

「……なるほど。やはりそうか。どうやら私はマーロウ派の貴族ではなかったらしい」
「レーニエ様……」
 イサが思わず言った。呼び捨てにすることを忘れてしまっている。
「父上や兄上達に見下されるわけだ。私は貴族として失格だったということだな。――ならそう言ってくれれば良いものを。そんなことすら気づかずに、認められようとして努力してしまったではないか。目標すらも誤ったままに!
 どうしてくれる?」

「そんなモンに振り回されてんじゃねえぞクソ野郎!」
 レーニエの背後から一喝するものがあった。
 ――ジャックだ。
「てめぇの事なんざサッパリ知らねぇが貴族だってんならコレだけは覚えとけ。
 貴族って肩書はな、付属品だ。てめぇというメインに付属した"あってもなくてもどっちでもいい"モンだ。
 貴族がメインじゃ断じてねぇ。勘違いすんな!」

 ジャックはそれだけ言って通り過ぎていった。
 レーニエはしばらく、黙った。

「……これだけは言える」
 レーニエは、ハナに向き直った。
「私はこれから、貴族でありたいとは思わない。ハンターになる!」

「正気ですかぁ? あなたは民である前に貴族なんですよぉ?」
「貴族としての私には価値がない。それを教えてくれたのは君ではないか。
 ならそんなもの、私が気にかける必要もないな!」

「いやいやちょっと待ってくださいっす。ハンターって言ったって、非覚醒者じゃないっすか?」
 神楽が横から割り込んだ。
 レーニエは神楽に顔を向けて答える。
「言葉で大公を説き伏せるのに覚醒者である必要はないだろう?」
「俺をひきあいに出されても困るっす」
「ご心配なく。レーニエに足りないところは、私が補います」
 そう言って前に出るイサ。
 神楽はそれを見て察した。
「ああ……貴族からヒモっすか。イケメンは羨ましいっすね」
 そして顔を伏せて、こんなことを言った。
「マーロウも折れたっすし、お嬢とボンをくっつけて強い私兵団をつくってその力で政争に介入して漁夫の利作戦は無理っすね」
 そんな神楽の首に何かが巻きついた。細い紐だ。
「銃殺が駄目でも絞殺ならよろしいわよね?」
「お嬢聞こえてたんすかグエーーーーーーッ!!」

「もちろん歓迎しますよっ! 実績だってあるし問題はありませんよねっ!」
 絞められている神楽は脇に置いて、ミコトが賛同した。
「困った時はヘザーさんやハンターに相談してくれれば力になりますよっ」
「はっはっは、何を言ってるんだミコト」
 ミコトはそう言われて、ヘザーに向き直る。まさか否定するとは思っていなかったのだ。
 ――が。
「困ってなくても力になる! 君とイサはたった今より愉愚泥羅のメンバーだっ!!!」
「やったーーー! おめでとうございますっ!」
「……喜んでいいことなのか、それは?」
「とりあえず、後ろ盾があるのはいいことでは」


●酒の席
「時に、何か足りぬ気がせぬかえ?」
 ヴィルマがだしぬけに言い、優雅な所作で何かを取り出す。
「折角の新たな門出じゃ。王国原産のワインが祝いの席には良いかと思ってのぅ。レーニエ、そなた飲めるかえ?」
 ロッソフラウだった。
「人並みには。ありがたく頂こう」
 レーニエはその場に座り、杯を手にする。ヴィルマが注いだ。
 ヴィルマは周りにも酒を勧めていく。
「こんな時は飲むに限る」
 リューもその杯を受けた一人だ。
「酒でウサを晴らすって訳じゃない。けど、なんか飲みたい気分だ」
「私も付き合おう」
 レイアもまた杯を手にする。
「……わかるぞ。そういう時もあるよな」
 うまく説明はできないが、リューの言う『こんな時』がどんな時か、ヘザーにもわかる気がした。
 杯を合わせる面々。
 乾杯の音が綺麗に響く。
「俺も秘蔵のシードルとウイスキーを開けるっすよ!」
 ジョセファの締め付けから逃れた神楽が輪に加わる。
 賑やかさはぐっと上がった。
「酔わせて既成事実を作るっす! 行けっす」
 イサにこんな事を勧めたりもしたが。
「良い考えです」
 そして乗っかられたり。
「さあ私のレーニエ。私の酌を受けるのです」
「……」
 魂胆が見え見えだったので、上手くは行かなかったが。

 フィロのポトフを肴に、イスカが歌ったりなどして、集まりは盛り上がっていく。

●王国の今後について
「ついに王女殿下……いや、女王陛下が戴冠なされるな」
 クローディオだった。
 新たに話題に登ったのは、王国の今後だ。
 これに対して、ヘザーが身を乗り出した。
「聞いている。あの時第六城壁の上で、即位を決められたと……」
 ヘザーは夢見るような表情になっている。
「ああ、王女殿下……いや、女王陛下。このヘザー……この日をどんなに待ち続けたか」
 傍らのミコトが、ああいつものだ、という表情になった。
 愉愚泥羅メンバーも苦笑いしながら見守っている。
 そんなことなどお構いなしに、ヘザーは感極まって叫んだ。
「思い起こせば20年前……!!!」



(略)



「女王陛下万歳! 女王陛下万歳! グラズヘイム王国に栄光あれ!」
 明後日の方向に向かって万歳三唱するヘザーという図が出来上がった。

「はぁ。長かったです」
 イスカがため息をついた。ヘザーは明後日の方向を向いているのでもう大丈夫だ。
「……でも、ほんとに。大事なのはここからですね。
 王女様が王位に就かれることは、終わりではなく、むしろ始まり……。
 どんな新しい王国を築いていくのか、女王様や私たちにも問われますね」
 クローディオも頷いて続けた。
「これからこの国を導いていくのは、新たな王となられる陛下と、王国民である私達だ」

●敵について
「で、具体的には、やっぱり敵をどうにかするってことなんだろうな」
 ジャックがクローディオの話を引き継ぐ形で言った。
「しっかし第六城壁の戦は偵察だったて話も出てるらしいじゃねぇか。
 そうすっとこの先が本番か?」
「ラズヴェートは倒されたが、指揮官の一人は撤退したと聞いている。となると、主だった敵は……」
 ヘザーがいつの間にか戻ってきていた。気持ちも落ち着いたようだ。
 これにイスカが頷き、こう述べる。
「ミュールちゃん……それにまだ敵の首領の一人、傲慢王が現れてません。
 メフィストさん、ベリアルさんと倒した今、きっとその姿を現すはず。
 新たな脅威に備えが必要ですね」

(………………ちゃん付け………………?)
 ヘザーはイスカの感覚がわからなくなった。

「ミュールを退けることには成功したが……
 イヴと呼ばれる存在、傲慢の王と相見える日も近いのかもしれないな」
 クローディオがこれを引き取った。
「イヴ……それがベリアルやメフィストを統べる存在の名なのですね」
 戦いの話には興味があるのか、ジョセファも話に加わる。
「一体どんな奴なのかしら……弾丸が通じれば良いのですが」
 ただし、気になるのは『撃って倒せるのか否か』だけらしい。

「……ここまで来たんだ」
 ジャックは急に立ち上がった。そして、クローディオの肩に右手を置いた。
 それから篝火に背を向け、すぐ近くにある少し高い丘に立って、夜空をしばし見渡した。

「もうコレが最後かもしんねぇ。
 だからよ、全部やれる事はやっときてぇんだ」



「ニケツしようぜクローディオーッ!」

「……いいだろう、ジャック。
 お前をヴィクトリアの背に乗せ、駆けようではないか」



 男二人は自転車に乗って駆けていく…………。
(※クローディオは素面)

 始まりは静かに、だが瞬時に加速する。
 障害物の少なくはないこの場所で、クローディオは巧みに方向転換して進む。
 景色は両側に別れるように、瞬時に通り過ぎていく。
 篝火は流星のように尾を引いて見えた。
 熱狂するジャック。頬を撫でる夜風が心地よい。
 熱狂はクローディオにも伝わり、ペダルを踏む足にもさらに力が漲る――

「なついろ、ですね……」
 イスカは、なぜかそんな言葉を口にしていた。


「……ともあれ、何かが起こりそして終わった。
 なら、また何か始まるだろう。
 その時に備えて力を貯めときゃあいい」
 静かに、そう言ったのはリューだった。
 彼が語るのは、当たり前と言えば当たり前の考え方。しかし――

(この世界を守る。
 その為に戦う。
 そう約束したのだから)

 ――背負うものは、とてつもなく大きい。



「イヴ? 結構じゃねぇか」
 フォークスが口元を吊り上げ、誰にとも無く言った。
 話に加わってこそいなかったもの、雰囲気は伝わっていたようだ。
「ウマいタネには、まだ困らなさそうだ」
 ――思わず、独り言が漏れた。



「さあ酒はまだあるっす! 騒ぐっすよ!」
 神楽が盛り上がるとヘザーが歓声をあげる。
「よし! 私も歌うぞ!
 聞いてくれ『夢と同じもので』」
「ヘザーさん、お供します!」
 ミコトが弾かれたように立ち上がり、息の合った振り付けを踊った。――昔取った杵柄である。
「わあ! それじゃ私もあいどるっぽい曲を次歌いますねっ!」
 イスカのスイッチも入り、熱狂はさらに増していく。
「ボルディアはやんねえの?」
「何でそこで俺に振るんだリュー!?」
 一方ではボルディアがリューの提案を体全体で拒否していた。



 宴は夜が明けるまで続いた……。

依頼結果

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重体一覧

参加者一覧

  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャール(ka0030
    人間(紅)|30才|男性|聖導士
  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

サポート一覧

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/28 20:46:31