ゲスト
(ka0000)
【港騒】虜囚たちのトロープス
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/04 07:30
- 完成日
- 2018/07/19 00:56
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●『金色のカモメ亭』にて
同盟の港湾都市ポルトワールは今日もにぎわっていた。
この都市の行政の責任者であるポルトワール都市統合本部代表のロメオ・ガッディ(kz0031)は、その光景を誇りつつも、繁栄の裏側に潜む闇を思えば心が重くなる。
その闇を「ほどほどに」コントロールしている、いわば裏の行政担当者はヴァネッサ(kz0030)だ。
彼女はロメオを『金色のカモメ亭』に呼び出し、現在ダウンタウンで起こっている事柄に触れ、『暫く軍の介入を阻止しろ』と言った。
ポルトワールの繁栄は同盟海軍を誘致したおかげでもあるので、ロメオとしては軍との関係を良好に保っておきたいところだ。
だがダウンタウンの治安をある程度維持するには、ヴァネッサの協力も必要なのだ。
この面倒で微妙なバランス調整を何年も経験しているロメオ。今日もまた胃がしくしくと痛む。
「ごちそうさん」
店主に声をかけ、帽子を目深にかぶりなおすと、目立たぬように店を後にした。
ロメオを見送りながら、店主のジャンは冗談めかして肩をすくめた。
「うーん、ちょっと同情しちゃうワ」
「しょうがないよ、キミだって店を壊されて怒っていただろう」
ヴァネッサはくっくと笑う。
「そりゃあネ。まさかドアをぶっ壊して逃げるなんて思わないじゃない?」
大柄な金髪の男が、腰に手を当てて可愛く怒っている。
「うん、めちゃくちゃだ。こんな表通りの店でまで騒ぎを起こすようなら、流石にお仕置きが必要だ」
ヴァネッサの青い目がほんの一瞬、鋭く光る。
「キャー、姐さん素敵! それで? その捕まえた連中に心当たりはアルの?」
「ない」
先日、ヴァネッサはハンターの協力を得て、ダウンタウンの一角にある怪しい店で6人の男を捕獲し、スパイスのような薬品を手に入れた。
彼らは軍に引き渡さず、自分の隠れ家で手下たちに「オハナシ」させているのだが、皆一様に口を閉ざしている。
身なりは、ダウンタウンでは金持ち過ぎず貧乏すぎず。軍の払い下げ品のようなごついブーツを履いている者もいる。
ヴァネッサはそのブーツの写真をジャンに見せた。
「これなんだけど、見覚えは?」
「……アタシに聞くの?」
「手っ取り早いからね」
ジャンは天井を見上げて、息をついた。
「支給品ネ。アタシも持ってたワ」
●同盟海軍駐屯地にて
中央司令部の廊下で遭遇した相手の姿に、メリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は内心で妙なざわつきを覚えた。
だがそんなことはおくびにも出さず、道を譲って敬礼する。相手も敬礼を返し、穏やかに話しかけてきた。
「ドナーティ中尉ではないですか。ポルトワールにおいででしたか」
「ええ、少々用があったものですから。フィンツィ少佐こそ、こちらでお会いするのは珍しいですね」
情報部所属のマヌエル・フィンツィ少佐は、意味ありげに目を細めた。
(どうせ私がやらかしたことなんて、とっくに知ってるのよね)
メリンダはそう思いつつも、報道官スマイルを崩さないままだ。
だがフィンツィ少佐の突然の問いには、思わず眉をひそめる。
「サリムという名前に聞き覚えはありませんか?」
「サリム……ですか? 同盟では珍しい名前ですね」
「ええ。黒髪黒目、背が高く体つきは筋肉質。年は30歳ぐらい、と聞いています」
そのとき、自分にナイフを突きつけてにやにや笑う男の顔が脳裏に浮かぶ。『金色のカモメ亭』での屈辱的な出来事。
勤めて冷静を装い(フィンツィの前では無駄なことだとわかっていたが)質問で返した。
「その方がどうかしたのですか?」
「ご存じでなければいいのです。何か思い出されたらお知らせください」
フィンツィの微笑は、メリンダが間違いなく「知っている」と確信しているように見えた。
●ヴァネッサのヤサにて
ハンターたちに向かって、ヴァネッサは1本立てた指を口元に当ててみせた。
それから暗い部屋の中の一隅を示す。
段差に膝をつくと、目の高さに細い隙間が開いている。その向こうでは、何人かの男たちが不安げにテーブルを囲んでいた。
人数は4人。いずれもそれなりに良い体格をした青年たちだ。
ダウンタウンの奇妙な古い酒場で捕獲したのは6人。そのうち、見るからに小悪党という風情だった2人は別の部屋にいる。
ヴァネッサは今度は手招きすると、足音も立てずに部屋を出ていく。
「いかにもチンピラでござい、って連中じゃないだろう?」
飲み物をすすめながら、ヴァネッサが尋ねてくる。
「これがまた口が堅くてね。何にもしゃべらないんだよ」
名前も、年齢も、出身も、なぜあそこにいたのかも、まったくしゃべらない。雑談にも応じない。
小悪党風情は監視役らしかったので、部屋を分けてみたが状況は変わらなかった。
なお、この2人はまた別の奴に小金で雇われていたと喋った。雇い主は彼らに身元を明かさなかったので、正体もわからない。
「4人が身につけていた物で、特徴的なのは軍の支給品ぐらいだ。ただしこれが身元を示すことにはならないだろうね」
なんといってもダウンタウンだ、質流れ品に盗品、横流し品なんてものはごまんとある。
「どうだ? あの場にいたキミたちとしては、連中の口を割らせるにはどうしたらいいと思う?」
ヴァネッサは、どこか面白がるように瞳を輝かせた。
同盟の港湾都市ポルトワールは今日もにぎわっていた。
この都市の行政の責任者であるポルトワール都市統合本部代表のロメオ・ガッディ(kz0031)は、その光景を誇りつつも、繁栄の裏側に潜む闇を思えば心が重くなる。
その闇を「ほどほどに」コントロールしている、いわば裏の行政担当者はヴァネッサ(kz0030)だ。
彼女はロメオを『金色のカモメ亭』に呼び出し、現在ダウンタウンで起こっている事柄に触れ、『暫く軍の介入を阻止しろ』と言った。
ポルトワールの繁栄は同盟海軍を誘致したおかげでもあるので、ロメオとしては軍との関係を良好に保っておきたいところだ。
だがダウンタウンの治安をある程度維持するには、ヴァネッサの協力も必要なのだ。
この面倒で微妙なバランス調整を何年も経験しているロメオ。今日もまた胃がしくしくと痛む。
「ごちそうさん」
店主に声をかけ、帽子を目深にかぶりなおすと、目立たぬように店を後にした。
ロメオを見送りながら、店主のジャンは冗談めかして肩をすくめた。
「うーん、ちょっと同情しちゃうワ」
「しょうがないよ、キミだって店を壊されて怒っていただろう」
ヴァネッサはくっくと笑う。
「そりゃあネ。まさかドアをぶっ壊して逃げるなんて思わないじゃない?」
大柄な金髪の男が、腰に手を当てて可愛く怒っている。
「うん、めちゃくちゃだ。こんな表通りの店でまで騒ぎを起こすようなら、流石にお仕置きが必要だ」
ヴァネッサの青い目がほんの一瞬、鋭く光る。
「キャー、姐さん素敵! それで? その捕まえた連中に心当たりはアルの?」
「ない」
先日、ヴァネッサはハンターの協力を得て、ダウンタウンの一角にある怪しい店で6人の男を捕獲し、スパイスのような薬品を手に入れた。
彼らは軍に引き渡さず、自分の隠れ家で手下たちに「オハナシ」させているのだが、皆一様に口を閉ざしている。
身なりは、ダウンタウンでは金持ち過ぎず貧乏すぎず。軍の払い下げ品のようなごついブーツを履いている者もいる。
ヴァネッサはそのブーツの写真をジャンに見せた。
「これなんだけど、見覚えは?」
「……アタシに聞くの?」
「手っ取り早いからね」
ジャンは天井を見上げて、息をついた。
「支給品ネ。アタシも持ってたワ」
●同盟海軍駐屯地にて
中央司令部の廊下で遭遇した相手の姿に、メリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は内心で妙なざわつきを覚えた。
だがそんなことはおくびにも出さず、道を譲って敬礼する。相手も敬礼を返し、穏やかに話しかけてきた。
「ドナーティ中尉ではないですか。ポルトワールにおいででしたか」
「ええ、少々用があったものですから。フィンツィ少佐こそ、こちらでお会いするのは珍しいですね」
情報部所属のマヌエル・フィンツィ少佐は、意味ありげに目を細めた。
(どうせ私がやらかしたことなんて、とっくに知ってるのよね)
メリンダはそう思いつつも、報道官スマイルを崩さないままだ。
だがフィンツィ少佐の突然の問いには、思わず眉をひそめる。
「サリムという名前に聞き覚えはありませんか?」
「サリム……ですか? 同盟では珍しい名前ですね」
「ええ。黒髪黒目、背が高く体つきは筋肉質。年は30歳ぐらい、と聞いています」
そのとき、自分にナイフを突きつけてにやにや笑う男の顔が脳裏に浮かぶ。『金色のカモメ亭』での屈辱的な出来事。
勤めて冷静を装い(フィンツィの前では無駄なことだとわかっていたが)質問で返した。
「その方がどうかしたのですか?」
「ご存じでなければいいのです。何か思い出されたらお知らせください」
フィンツィの微笑は、メリンダが間違いなく「知っている」と確信しているように見えた。
●ヴァネッサのヤサにて
ハンターたちに向かって、ヴァネッサは1本立てた指を口元に当ててみせた。
それから暗い部屋の中の一隅を示す。
段差に膝をつくと、目の高さに細い隙間が開いている。その向こうでは、何人かの男たちが不安げにテーブルを囲んでいた。
人数は4人。いずれもそれなりに良い体格をした青年たちだ。
ダウンタウンの奇妙な古い酒場で捕獲したのは6人。そのうち、見るからに小悪党という風情だった2人は別の部屋にいる。
ヴァネッサは今度は手招きすると、足音も立てずに部屋を出ていく。
「いかにもチンピラでござい、って連中じゃないだろう?」
飲み物をすすめながら、ヴァネッサが尋ねてくる。
「これがまた口が堅くてね。何にもしゃべらないんだよ」
名前も、年齢も、出身も、なぜあそこにいたのかも、まったくしゃべらない。雑談にも応じない。
小悪党風情は監視役らしかったので、部屋を分けてみたが状況は変わらなかった。
なお、この2人はまた別の奴に小金で雇われていたと喋った。雇い主は彼らに身元を明かさなかったので、正体もわからない。
「4人が身につけていた物で、特徴的なのは軍の支給品ぐらいだ。ただしこれが身元を示すことにはならないだろうね」
なんといってもダウンタウンだ、質流れ品に盗品、横流し品なんてものはごまんとある。
「どうだ? あの場にいたキミたちとしては、連中の口を割らせるにはどうしたらいいと思う?」
ヴァネッサは、どこか面白がるように瞳を輝かせた。
リプレイ本文
●
一同は思わず、互いに顔を見合わせた。
トルステン=L=ユピテル(ka3946)が眉間にしわを刻む。
「口を割らねえ? 悪党の割に根性ある奴らだったってコトかよ……メンドーだな」
椅子に掛け直し、ため息をつく。
「ま、付き合うケドさ、ココまで来たら真相知りてーし」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)はヴァネッサの視線に、僅かに口元を緩める。
「人遣いの荒いお嬢さんだ」
「ご褒美はあったろ?」
「ああ、それは甘いご褒美だったな」
肩をすくめ、それでも仕事自体に不満はない様子だ。
隣ではパトリシア=K=ポラリス(ka5996)がにこにこしている。
「ヴァネッサは、アノ、ヴァネッサなのネ?」
「どのヴァネッサだろうな?」
「あ、えっとネ、ダウンタウンは、同盟の大好きな場所のひとつなんだヨ。入り組んだ路地も、逞し住人も。だからヴァネッサにはとってもお会いしたかったのヨ♪」
「それは光栄だ」
役犬原 昶(ka0268)がヴァネッサのほうへ身を乗り出した。
「おっそうだ、連中の写真を撮っても構わないか? 話し合いするにも、顔が分かってたほうがやりやすいからな!」
「ああ……ここにある」
「お、助かるぜ!」
ヴァネッサが写真を並べる。2人と4人の顔つき、纏う雰囲気は明らかに異なっていた。
昶がヴァネッサの顔を覗き込む。
「あと、俺たちは軍のことはよくわからねえし、まともに話をしてもらえる伝手も少ないだろ? メリンダにも話を聞きたいんだが、ダメか?」
ヴァネッサは僅かに片眉を上げた。
「それはダメだ」
「軍が捜査していない。つまり、何らかの形で軍が関わっているということか」
ヴァージルが切り出した。
「まあ確かに、陸軍が駆け付けるまでの時間は早すぎると言ってもいいぐらいだったな」
もっとも、あれが本当に陸軍としてだが、と付け加える。
「ただ、あの男……最初の店にいたサリムだったか。あいつは軍のほうへ逃げた」
普通ならやましいことがあれば、軍を避けるはず。軍が回収した、あるいは報告のため接触した、という可能性も考えられた。
「そういえば、あの酒場は今、どうなっているんだ?」
ヴァージルの問いに、ヴァネッサが肩をすくめた。
「今は空き家だ。一応見張らせているが、誰も近づきもしない。他にも拠点があるんだろうね」
「軍が何か絡んでるっぽいっていう姐さんの見立てには、とりあえず賛同しとく。予断は持たないよーに気をつけっけど」
トルステンは何か引っかかるという表情だ。
ブーツの写真をじっと見つめながら、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)も考え込む。
「軍の関係者だとして、目的は何なのかな? あの薬品をバラ撒く事で何か益があるのかな? そこがどうにも引っかかるんですよね」
「あ、それだ。軍なんて綺麗事じゃすまねーのは判るけど、組織として最終的に同盟市民の不利益になるよーなコトするか?」
トルステンは全員の顔を見渡す。
「軍が主体なら、別のヤバイ何かを釣ろうとしてた……してる? 内部の問題、とか? 何も語らない理由にならね?」
「軍の関係者かどうか、まずそこからかな」
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)がペンを手に考え込む。
「でもこの前の様子だと、メリンダさんは薬の事は知らないみたいだったね。4人だって、下っ端で目的とか大事なことは知らない可能性もあるよね?」
紙にペンを走らせ、考えをまとめていく。
「たとえば、上司の命令でとか。それでも実際にやってたことは言えると思うんだけどな」
パトリシアが写真を指でつついた。
「こないだ通報受けて、すぐに来たのハ、陸軍とゆう話。支給品のブーツは、どっちのモノ?」
パトリシアは不意ににっこり笑った。
「えっとネ、パティは『金色のカモメ亭』へ行って、ジャンとお話したいカナ?」
パトリシアはヴァネッサを正面から見据える。
「軍が絡んでたとしテモ、関わり方いろいろ。海軍さんに陸軍さん……軍にも、いろいろヨ。パティは軍も信じてるカラ、ワケを知りたい気持ち。仕事だカラ、ちゃんとお話の内容ハ気を付ける」
4人の尋問の前に、もう少し推理の材料が必要だという思いは全員同じ。
ヴァネッサはついに折れた。
「わかったよ。ただし、私のことは絶対に話さないこと。私が軍を信じていないように、軍も私を信じちゃいないからね」
●
まずは見張り役の2人に話を聞く。
マチルダは男に『自分の依頼を受けないか』と申し出た。
「こうして捕まったんだし、戻れないよね。いい条件を出すから、私に雇われてみない?」
少し年上の男が、小ずるそうな目でマチルダを見る。
「勿論、知ってることを話すっていう条件だけど。私たちはダウンタウンの平和を守りたいだけだから、事情によっては今の雇い主から匿ってあげる」
体格の良い若い男の前では、ルンルンがランプの明かりを近づけていた。
(ルンルン忍法、お袋さんが土鍋でカツ丼編んでくれたの術なのです!)
色々混ざっているが本人はいたって真剣だ。
(確かこうやって顔を照らすところから「吐いたほうが楽になる」とか言って……あっ洗面器がいりましたっけ!?)
混乱しているが、ニンジャなので内心を悟られないように頑張っている。
「雇い主って、さっき聞いた……あっ、そうじゃなくて!」
この慌てた様子は演技だ。4人が先に口を割ったように見せかける作戦である。
男達はちらりと互いの顔を見て、にやにや笑いながら喋りだした。
「いい条件? おねえちゃんたちがお付き合いしてくれるんなら考えてもいいな」
見事なテンプレゲスだった。
トルステンが仕方なく会話に加わる。
「条件はそっちの回答次第じゃね? とりあえず今回の依頼の金額と、仕事内容が知りてー」
男達はハンター達の相場程度の金額を告げ、その2倍だ、と笑う。
「は? ぼったくりじゃね?」
トルステンが呆れると、男達はゲラゲラと笑った。
「俺達の仕事はあの酒場の見張りだ。そんで、そこで見聞きしたことを別の奴に教えて、金をもらってたんだ」
要するに、コウモリ。
「細けぇことは知らねえが、こういう仕事のプロはな、雇い主の事情には首を突っ込まねえんだよ」
なるほど、後ろ暗い仕事にはうってつけのチンピラだった。
次にマチルダは、ポルトワール都市統合本部に向かった。
ヴァネッサの依頼で来たと告げると、代表のロメオは軍の出動記録を調査してくれた。
「そうですね、該当の日時に陸軍の部隊が出動しています。記録によると近隣住民からの通報、とのことです」
「その後、何か連絡はあった? 犯人を捕まえたとかそういうことで」
「ええと……出動したものの、特に怪しいところはなく、すぐ帰還した、とありますね」
マチルダはさらに踏み込んでみる。
「その部隊の偉い人って、誰かわかるかな」
「出動した部隊の責任者は、ネスタ大佐ですね。ただこのクラスの将校になると、小さな事件1件ずつまでは報告も行っていないと思います」
マチルダは本部を出てすぐに、ロメオから聞いた内容を仲間に連絡する。
●
パトリシアは元気よく『金色のカモメ亭』の扉を開けた。
「こんにちはなのヨ。美味しいランチをくださいナ♪」
「あらいらっしゃ~い♪」
「俺も旨いもん食いたい!」
昶も嬉しそうに入ってくる。
客は他に誰もおらず、パトリシアと昶は魚介のトマトソースパスタをしっかり味わった。
もちろん、本来の目的もちゃんと伝える。
「話し難いコトは、きっとあるものネ。ジャンの負担にならない範囲デ、教えてネ?」
そうしてブーツのことやネスタ大佐のことなどを尋ねると、ジャンが少し遠くを見る目をした。
「あー、あの人ね。陸軍には珍しいタイプだったわねえ」
「珍し? 海軍とどう違うカナ?」
「同盟では海軍が優秀なのは知ってる? で、陸軍はいつも比較されちゃうんだケド、大佐は負けんぞーって頑張っちゃう人だったのヨ」
パトリシアは感心したように目を見開く。
「ジャンはいろいろよく知ってるヒトなのネ」
「……一応、元軍人なのよネ」
メリンダと知り合いなのも、先日の店での身のこなしも、経歴故だった。
昶がそこで写真を取り出す。
「それはそうと、この中に知ってるやつはいないか? 客の顔まで覚えてねえか?」
「うーん、知らないわネ。お客さんなら覚えてるのヨ?」
「そっかあ。そういえば軍人なら、メリンダが詳しいのか!」
その言葉に、ジャンがやや険しい表情になる。
「確かに軍属には詳しいかもネ。なあに、その人達、軍人?」
「いや、なんかガタイがいいし、辞めた軍人とかそういうのもありかって。ブーツの件もあるしな!」
昶がジャンを見る目は人懐こい。
だがジャンは困ったような笑顔を返す。
「そう。でも現役の軍人だったら、余計なことは絶対に喋らないと思うワ」
昶はトルステンと合流し、メリンダの元へ向かう。
「……というわけなんだよな。なるべくさり気なく聞き出さないと」
「なんだ、面倒なコトになってんな」
一応互いの役割を確認し、メリンダに会う。
「よ。何度も邪魔して悪いケド、ちょっと聞きたいことがあって」
トルステンは手土産の菓子を置いて、酒場の件で何か気づいたことがないかを尋ねた。
「そうですね、私は特に……」
昶がさらに続いた。
「あの件で上から何か言われなかったか? お咎めとか? 結構派手にやったから心配してたんだぜ」
「ありがとうございます。プライベートの出来事ですから、それ以上は特に」
その間、昶は超聴覚でメリンダの息遣いに気を配る。その上で、さらに踏み込んだ。
「そっか、なら良かったぜ。あいつらホント、クズだったしな。ひとりなんか名前聞いたよな。えーと……サリムだっけ?」
だが軍の報道官はプロだ。仮に「何かあった」として、他人に悟られないよう特別な訓練も受けている。
「ええ、いましたね。ハンター崩れのような印象を受けましたが、ソサエティは何と?」
「あ? 依頼以上のことは知らね……あっ、そうだ」
トルステンは話題を変えるべく、捕獲した6人の写真をメリンダに示す。
「この中に見覚えのある奴トカいねーか?」
メリンダは質問には答えず、逆に聞き返してきた。
「この方たちが何か? 先日の酒場にはいらっしゃいませんでしたよね」
「あー、別件。軍の支給品が闇市場で見つかったらしいんだ。そいつらの仲間かもしれねーって」
そこでメリンダが、不意にため息をついた。
「……ハンターの皆様の為なら、個人としては可能な限り力を尽くします。ですが、こちらを探るようなご質問には何も申し上げられません。依頼主がどなたかは伺いませんが、互いに信頼関係がない限り、情報も共有できませんとお伝えください」
現状、メリンダには何も言えない。だがおそらく「何か」があった。
最低限の確認を終えて、アジトへ戻る。
●
再びハンターたちが集まる。
ヴァージルの提案で、4人の男たちはそれぞれが別の部屋に隔離された。
ヴァージルは、そのひとりと部屋に入るや否や、いきなり拳を突き出した。
「……いい反応だ。あんたも素人じゃないんだろう?」
男は無言で、ヴァージルの拳を顔の前にかざした腕で受け止めていた。
向かい合って椅子に座り、話を続ける。
「見捨てられたんだってな」
特に何が、と言わない。敢えて伝聞の形で話す。
バラバラにして、他の3人が口を割ったかもしれないと思わせるためだ。
「いいブーツだな。軍の支給品なんだってな」
だが男は口をつぐんだままだった。
トルステンもまた、別の部屋で無言の男と向き合う。
(こいつらがもし、特殊な任務に就いてた軍人だとすっと、そう簡単にクチは割らねーだろうな)
ポケットには例の薬が入っている。それに触れながら、トルステンはメリンダの言葉を思い出す。
「あのさ、あんたら軍属らしいじゃん? なんであんな所でチンピラに監視されてたワケ?」
反応はない。
トルステンは無言で、薬を差し出した。
「これが何なのかは知ってんのかよ」
無言。
指先で包みを撫でながら、トルステンが相手を冷たく見据える。
「へえ。んじゃ、このスパイスをそこいらにバラまいて、何が起きるか確認するしかねーカモ」
内心、自分のほうが「小悪党」になったような気がしてきたトルステンだった。
ルンルンはじっと相手の顔を見つめ続けていた。
相手の男は少々居心地悪そうに目を逸らしたが、やはり何も言わない。
(折角の糸口だもん、ちゃんと解決に繋ぐ道を造らなくちゃ……それも平和を守るニンジャの使命だもん!!)
ポーカーフェイスで相手に思惑を読ませず、雑談を続ける。
「あの薬って飲んだらどういう気分になるのか気になりますよね。楽しくなっちゃう?」
当てずっぽうだが、あながち間違ってもいなかったようで、男の指がピクリと動いた。
こうして順番にひとりずつを観察したが、やはり何もしゃべらない。
「こっちが疲れるぜ。今日はもうヤメ!」
トルステンがわざと大きな伸びをして、4人を集めた部屋を出る。
部屋には、ルンルンが式符で操る式神を仕掛けてある。
あの薬が広まることで、得をしている誰かがいるのは間違いないのだ。
「それをするからには、絶対何か理由があるはず何だからっ!!」
だから油断した男達が、何か一言でも漏らしてくれないかとルンルンは念じ続けた。
……やがて。
「……どうするんだよ」
「どうって、どうしようもないだろう」
「軍に引き渡されたらどうする」
「そのつもりがないから、こんな所に閉じ込めてるんだろうよ」
「でもあの薬を取られてるんだ、まずいよ」
その会話を確認し、ハンターたちは部屋に入った。
男達はまた口をつぐむ。
ヴァージルが酒瓶とコップを、4人が囲むテーブルに置いた。
トルステンがその傍に薬の袋を置く。
「このスパイス、飲んでみるか? 気が大きくなって何やったか忘れちまうんだろ?」
ヴァージルはそう言いながら、コップに薬を入れ、酒を注ぐ。
「薬を飲まされて話しちまったんなら、仕方ないんじゃないか?」
男達に緊張が走る。
パトリシアが入ってくると、興味津々という表情でコップを覗き込んだ。
「スパイスの効果はパティも気になり! 飲んでもらう? パティが舐めてみてもいいヨ♪」
「やめろ!!」
突然の耳慣れない声に、全員がそちらを見た。一番年上らしい男がコップを手で覆っている。
パトリシアはその顔から目を離さず、少しずつ距離を詰める。
じいっと、見つめ続ける。
そしてそうっと、コップを引っ張った。
男が上から押さえる。
引っ張る。
押さえる。
「……こいつはダメだ、お嬢ちゃん」
男が歯の間から絞り出すように言葉を発した。
「こいつはリアルブルー産の興奮剤……の模造品だ。クリムゾンウェスト人にはほとんど毒なんだ。だがこれに俺達の隊長の命がかかってるんだ」
他の3人の喉から嗚咽が漏れ出した。
<続>
一同は思わず、互いに顔を見合わせた。
トルステン=L=ユピテル(ka3946)が眉間にしわを刻む。
「口を割らねえ? 悪党の割に根性ある奴らだったってコトかよ……メンドーだな」
椅子に掛け直し、ため息をつく。
「ま、付き合うケドさ、ココまで来たら真相知りてーし」
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)はヴァネッサの視線に、僅かに口元を緩める。
「人遣いの荒いお嬢さんだ」
「ご褒美はあったろ?」
「ああ、それは甘いご褒美だったな」
肩をすくめ、それでも仕事自体に不満はない様子だ。
隣ではパトリシア=K=ポラリス(ka5996)がにこにこしている。
「ヴァネッサは、アノ、ヴァネッサなのネ?」
「どのヴァネッサだろうな?」
「あ、えっとネ、ダウンタウンは、同盟の大好きな場所のひとつなんだヨ。入り組んだ路地も、逞し住人も。だからヴァネッサにはとってもお会いしたかったのヨ♪」
「それは光栄だ」
役犬原 昶(ka0268)がヴァネッサのほうへ身を乗り出した。
「おっそうだ、連中の写真を撮っても構わないか? 話し合いするにも、顔が分かってたほうがやりやすいからな!」
「ああ……ここにある」
「お、助かるぜ!」
ヴァネッサが写真を並べる。2人と4人の顔つき、纏う雰囲気は明らかに異なっていた。
昶がヴァネッサの顔を覗き込む。
「あと、俺たちは軍のことはよくわからねえし、まともに話をしてもらえる伝手も少ないだろ? メリンダにも話を聞きたいんだが、ダメか?」
ヴァネッサは僅かに片眉を上げた。
「それはダメだ」
「軍が捜査していない。つまり、何らかの形で軍が関わっているということか」
ヴァージルが切り出した。
「まあ確かに、陸軍が駆け付けるまでの時間は早すぎると言ってもいいぐらいだったな」
もっとも、あれが本当に陸軍としてだが、と付け加える。
「ただ、あの男……最初の店にいたサリムだったか。あいつは軍のほうへ逃げた」
普通ならやましいことがあれば、軍を避けるはず。軍が回収した、あるいは報告のため接触した、という可能性も考えられた。
「そういえば、あの酒場は今、どうなっているんだ?」
ヴァージルの問いに、ヴァネッサが肩をすくめた。
「今は空き家だ。一応見張らせているが、誰も近づきもしない。他にも拠点があるんだろうね」
「軍が何か絡んでるっぽいっていう姐さんの見立てには、とりあえず賛同しとく。予断は持たないよーに気をつけっけど」
トルステンは何か引っかかるという表情だ。
ブーツの写真をじっと見つめながら、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)も考え込む。
「軍の関係者だとして、目的は何なのかな? あの薬品をバラ撒く事で何か益があるのかな? そこがどうにも引っかかるんですよね」
「あ、それだ。軍なんて綺麗事じゃすまねーのは判るけど、組織として最終的に同盟市民の不利益になるよーなコトするか?」
トルステンは全員の顔を見渡す。
「軍が主体なら、別のヤバイ何かを釣ろうとしてた……してる? 内部の問題、とか? 何も語らない理由にならね?」
「軍の関係者かどうか、まずそこからかな」
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)がペンを手に考え込む。
「でもこの前の様子だと、メリンダさんは薬の事は知らないみたいだったね。4人だって、下っ端で目的とか大事なことは知らない可能性もあるよね?」
紙にペンを走らせ、考えをまとめていく。
「たとえば、上司の命令でとか。それでも実際にやってたことは言えると思うんだけどな」
パトリシアが写真を指でつついた。
「こないだ通報受けて、すぐに来たのハ、陸軍とゆう話。支給品のブーツは、どっちのモノ?」
パトリシアは不意ににっこり笑った。
「えっとネ、パティは『金色のカモメ亭』へ行って、ジャンとお話したいカナ?」
パトリシアはヴァネッサを正面から見据える。
「軍が絡んでたとしテモ、関わり方いろいろ。海軍さんに陸軍さん……軍にも、いろいろヨ。パティは軍も信じてるカラ、ワケを知りたい気持ち。仕事だカラ、ちゃんとお話の内容ハ気を付ける」
4人の尋問の前に、もう少し推理の材料が必要だという思いは全員同じ。
ヴァネッサはついに折れた。
「わかったよ。ただし、私のことは絶対に話さないこと。私が軍を信じていないように、軍も私を信じちゃいないからね」
●
まずは見張り役の2人に話を聞く。
マチルダは男に『自分の依頼を受けないか』と申し出た。
「こうして捕まったんだし、戻れないよね。いい条件を出すから、私に雇われてみない?」
少し年上の男が、小ずるそうな目でマチルダを見る。
「勿論、知ってることを話すっていう条件だけど。私たちはダウンタウンの平和を守りたいだけだから、事情によっては今の雇い主から匿ってあげる」
体格の良い若い男の前では、ルンルンがランプの明かりを近づけていた。
(ルンルン忍法、お袋さんが土鍋でカツ丼編んでくれたの術なのです!)
色々混ざっているが本人はいたって真剣だ。
(確かこうやって顔を照らすところから「吐いたほうが楽になる」とか言って……あっ洗面器がいりましたっけ!?)
混乱しているが、ニンジャなので内心を悟られないように頑張っている。
「雇い主って、さっき聞いた……あっ、そうじゃなくて!」
この慌てた様子は演技だ。4人が先に口を割ったように見せかける作戦である。
男達はちらりと互いの顔を見て、にやにや笑いながら喋りだした。
「いい条件? おねえちゃんたちがお付き合いしてくれるんなら考えてもいいな」
見事なテンプレゲスだった。
トルステンが仕方なく会話に加わる。
「条件はそっちの回答次第じゃね? とりあえず今回の依頼の金額と、仕事内容が知りてー」
男達はハンター達の相場程度の金額を告げ、その2倍だ、と笑う。
「は? ぼったくりじゃね?」
トルステンが呆れると、男達はゲラゲラと笑った。
「俺達の仕事はあの酒場の見張りだ。そんで、そこで見聞きしたことを別の奴に教えて、金をもらってたんだ」
要するに、コウモリ。
「細けぇことは知らねえが、こういう仕事のプロはな、雇い主の事情には首を突っ込まねえんだよ」
なるほど、後ろ暗い仕事にはうってつけのチンピラだった。
次にマチルダは、ポルトワール都市統合本部に向かった。
ヴァネッサの依頼で来たと告げると、代表のロメオは軍の出動記録を調査してくれた。
「そうですね、該当の日時に陸軍の部隊が出動しています。記録によると近隣住民からの通報、とのことです」
「その後、何か連絡はあった? 犯人を捕まえたとかそういうことで」
「ええと……出動したものの、特に怪しいところはなく、すぐ帰還した、とありますね」
マチルダはさらに踏み込んでみる。
「その部隊の偉い人って、誰かわかるかな」
「出動した部隊の責任者は、ネスタ大佐ですね。ただこのクラスの将校になると、小さな事件1件ずつまでは報告も行っていないと思います」
マチルダは本部を出てすぐに、ロメオから聞いた内容を仲間に連絡する。
●
パトリシアは元気よく『金色のカモメ亭』の扉を開けた。
「こんにちはなのヨ。美味しいランチをくださいナ♪」
「あらいらっしゃ~い♪」
「俺も旨いもん食いたい!」
昶も嬉しそうに入ってくる。
客は他に誰もおらず、パトリシアと昶は魚介のトマトソースパスタをしっかり味わった。
もちろん、本来の目的もちゃんと伝える。
「話し難いコトは、きっとあるものネ。ジャンの負担にならない範囲デ、教えてネ?」
そうしてブーツのことやネスタ大佐のことなどを尋ねると、ジャンが少し遠くを見る目をした。
「あー、あの人ね。陸軍には珍しいタイプだったわねえ」
「珍し? 海軍とどう違うカナ?」
「同盟では海軍が優秀なのは知ってる? で、陸軍はいつも比較されちゃうんだケド、大佐は負けんぞーって頑張っちゃう人だったのヨ」
パトリシアは感心したように目を見開く。
「ジャンはいろいろよく知ってるヒトなのネ」
「……一応、元軍人なのよネ」
メリンダと知り合いなのも、先日の店での身のこなしも、経歴故だった。
昶がそこで写真を取り出す。
「それはそうと、この中に知ってるやつはいないか? 客の顔まで覚えてねえか?」
「うーん、知らないわネ。お客さんなら覚えてるのヨ?」
「そっかあ。そういえば軍人なら、メリンダが詳しいのか!」
その言葉に、ジャンがやや険しい表情になる。
「確かに軍属には詳しいかもネ。なあに、その人達、軍人?」
「いや、なんかガタイがいいし、辞めた軍人とかそういうのもありかって。ブーツの件もあるしな!」
昶がジャンを見る目は人懐こい。
だがジャンは困ったような笑顔を返す。
「そう。でも現役の軍人だったら、余計なことは絶対に喋らないと思うワ」
昶はトルステンと合流し、メリンダの元へ向かう。
「……というわけなんだよな。なるべくさり気なく聞き出さないと」
「なんだ、面倒なコトになってんな」
一応互いの役割を確認し、メリンダに会う。
「よ。何度も邪魔して悪いケド、ちょっと聞きたいことがあって」
トルステンは手土産の菓子を置いて、酒場の件で何か気づいたことがないかを尋ねた。
「そうですね、私は特に……」
昶がさらに続いた。
「あの件で上から何か言われなかったか? お咎めとか? 結構派手にやったから心配してたんだぜ」
「ありがとうございます。プライベートの出来事ですから、それ以上は特に」
その間、昶は超聴覚でメリンダの息遣いに気を配る。その上で、さらに踏み込んだ。
「そっか、なら良かったぜ。あいつらホント、クズだったしな。ひとりなんか名前聞いたよな。えーと……サリムだっけ?」
だが軍の報道官はプロだ。仮に「何かあった」として、他人に悟られないよう特別な訓練も受けている。
「ええ、いましたね。ハンター崩れのような印象を受けましたが、ソサエティは何と?」
「あ? 依頼以上のことは知らね……あっ、そうだ」
トルステンは話題を変えるべく、捕獲した6人の写真をメリンダに示す。
「この中に見覚えのある奴トカいねーか?」
メリンダは質問には答えず、逆に聞き返してきた。
「この方たちが何か? 先日の酒場にはいらっしゃいませんでしたよね」
「あー、別件。軍の支給品が闇市場で見つかったらしいんだ。そいつらの仲間かもしれねーって」
そこでメリンダが、不意にため息をついた。
「……ハンターの皆様の為なら、個人としては可能な限り力を尽くします。ですが、こちらを探るようなご質問には何も申し上げられません。依頼主がどなたかは伺いませんが、互いに信頼関係がない限り、情報も共有できませんとお伝えください」
現状、メリンダには何も言えない。だがおそらく「何か」があった。
最低限の確認を終えて、アジトへ戻る。
●
再びハンターたちが集まる。
ヴァージルの提案で、4人の男たちはそれぞれが別の部屋に隔離された。
ヴァージルは、そのひとりと部屋に入るや否や、いきなり拳を突き出した。
「……いい反応だ。あんたも素人じゃないんだろう?」
男は無言で、ヴァージルの拳を顔の前にかざした腕で受け止めていた。
向かい合って椅子に座り、話を続ける。
「見捨てられたんだってな」
特に何が、と言わない。敢えて伝聞の形で話す。
バラバラにして、他の3人が口を割ったかもしれないと思わせるためだ。
「いいブーツだな。軍の支給品なんだってな」
だが男は口をつぐんだままだった。
トルステンもまた、別の部屋で無言の男と向き合う。
(こいつらがもし、特殊な任務に就いてた軍人だとすっと、そう簡単にクチは割らねーだろうな)
ポケットには例の薬が入っている。それに触れながら、トルステンはメリンダの言葉を思い出す。
「あのさ、あんたら軍属らしいじゃん? なんであんな所でチンピラに監視されてたワケ?」
反応はない。
トルステンは無言で、薬を差し出した。
「これが何なのかは知ってんのかよ」
無言。
指先で包みを撫でながら、トルステンが相手を冷たく見据える。
「へえ。んじゃ、このスパイスをそこいらにバラまいて、何が起きるか確認するしかねーカモ」
内心、自分のほうが「小悪党」になったような気がしてきたトルステンだった。
ルンルンはじっと相手の顔を見つめ続けていた。
相手の男は少々居心地悪そうに目を逸らしたが、やはり何も言わない。
(折角の糸口だもん、ちゃんと解決に繋ぐ道を造らなくちゃ……それも平和を守るニンジャの使命だもん!!)
ポーカーフェイスで相手に思惑を読ませず、雑談を続ける。
「あの薬って飲んだらどういう気分になるのか気になりますよね。楽しくなっちゃう?」
当てずっぽうだが、あながち間違ってもいなかったようで、男の指がピクリと動いた。
こうして順番にひとりずつを観察したが、やはり何もしゃべらない。
「こっちが疲れるぜ。今日はもうヤメ!」
トルステンがわざと大きな伸びをして、4人を集めた部屋を出る。
部屋には、ルンルンが式符で操る式神を仕掛けてある。
あの薬が広まることで、得をしている誰かがいるのは間違いないのだ。
「それをするからには、絶対何か理由があるはず何だからっ!!」
だから油断した男達が、何か一言でも漏らしてくれないかとルンルンは念じ続けた。
……やがて。
「……どうするんだよ」
「どうって、どうしようもないだろう」
「軍に引き渡されたらどうする」
「そのつもりがないから、こんな所に閉じ込めてるんだろうよ」
「でもあの薬を取られてるんだ、まずいよ」
その会話を確認し、ハンターたちは部屋に入った。
男達はまた口をつぐむ。
ヴァージルが酒瓶とコップを、4人が囲むテーブルに置いた。
トルステンがその傍に薬の袋を置く。
「このスパイス、飲んでみるか? 気が大きくなって何やったか忘れちまうんだろ?」
ヴァージルはそう言いながら、コップに薬を入れ、酒を注ぐ。
「薬を飲まされて話しちまったんなら、仕方ないんじゃないか?」
男達に緊張が走る。
パトリシアが入ってくると、興味津々という表情でコップを覗き込んだ。
「スパイスの効果はパティも気になり! 飲んでもらう? パティが舐めてみてもいいヨ♪」
「やめろ!!」
突然の耳慣れない声に、全員がそちらを見た。一番年上らしい男がコップを手で覆っている。
パトリシアはその顔から目を離さず、少しずつ距離を詰める。
じいっと、見つめ続ける。
そしてそうっと、コップを引っ張った。
男が上から押さえる。
引っ張る。
押さえる。
「……こいつはダメだ、お嬢ちゃん」
男が歯の間から絞り出すように言葉を発した。
「こいつはリアルブルー産の興奮剤……の模造品だ。クリムゾンウェスト人にはほとんど毒なんだ。だがこれに俺達の隊長の命がかかってるんだ」
他の3人の喉から嗚咽が漏れ出した。
<続>
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 5人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
作戦会議室 マチルダ・スカルラッティ(ka4172) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/07/03 22:57:59 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/03 20:58:52 |
|
![]() |
質問卓 トルステン=L=ユピテル(ka3946) 人間(リアルブルー)|18才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/07/03 14:43:12 |