ゲスト
(ka0000)
【CF】メリー・マイマイ ~聖夜爆発~
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/25 07:30
- 完成日
- 2014/12/28 18:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
色とりどりの灯りに彩られる崖上都市ピースホライズン。
そんなピースホライズンのもっとも賑わっている場所から離れた所に、温かみのある光で溢れた、静かで落ち着いた雰囲気の場所があった。
そこでは、雪が舞い散る中で天使が踊っていた。
他に、幼子を抱く聖母や、人間大の雪の結晶、スノーマン、大きな袋を持った赤い服の老人、トナカイなどの姿もあった。
それらはすべて芸術家達が造ったオブジェだ。
ここはピースホライズンにある多目的広場のひとつで、広さを生かしてオブジェの展示会場となっており、千本のキャンドルがそれを暗闇の中に浮かび上がらせている。
パーティ会場から離れてはいるため、知る人ぞ知るスポットとなっているが、街から離れていてほどよく静かな点とロマンチックな雰囲気から、(けしからんことに)カップルがイチャつくにはもってこいの場所だった……。
オブジェに囲まれるように、キャンドルの柔らかな光に照らされて、一組の男女が身を寄せ合っていた。
「どうだいキャリー……」
「素敵だわ、トニオ……」
「そうだ、君に渡すものがあるんだ」
アントニオはコートの中から、上品な包装紙に包まれた小箱を出した。
「開けても……いい?」
「ああ……」
キャロラインは目を輝かせていそいそと箱を開けた。
中にあったのは、ネックレスだった。
輝く銀の鎖の中央には、紛れもない本物のダイヤモンドが埋め込まれている。
「…………素敵…………」
「キャリー……」
「トニオ……」
もう言葉はいらない。
キャンドルの光に照らされて、若い二人は顔を寄せ合い、互いの唇を重ねようとする。
邪魔するものは、誰もいない。二人だけの世界だ…………
そう思っていたのに…………
チュドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
二人は、爆ぜた。
「「キャーーーーーーーーー!?」」
声を合わせて悲鳴を上げる二人。
真っ黒になっている。例えとかではなく、本当に近くで何かが爆発したのだ。特にキャロラインの美しい髪は散り散りで悲惨なことになっている。
視線を巡らす二人。
ある一点を凝視し、また叫び声をあげる。
その視線の先には……
「「カタツムリーーー?!」」
「ということがあったんだ!」
ここはピースホライズンのハンターオフィス。
アントニオとキャロラインは駆け込むなり今あった出来事をまくし立てた。
「僕はあれを知ってる! 前に家にも出たんだ! でもあれは前に見た奴とは違う。
爆弾を吐き出すんだ! 名付けてハニーイーターMkII!」
「いや名前はどうでもいいんですけど」
若い職員はこんな日に仕事しなければならない己の境遇を嘆き、心の何処かでリア充爆発しろと思いながら対応した。そしてほんの少しだけ歪虚に喝采を送らないでもなかった。
「ハンターを派遣して、それを退治すればいいんですね?」
「おねがいします!」
そんなピースホライズンのもっとも賑わっている場所から離れた所に、温かみのある光で溢れた、静かで落ち着いた雰囲気の場所があった。
そこでは、雪が舞い散る中で天使が踊っていた。
他に、幼子を抱く聖母や、人間大の雪の結晶、スノーマン、大きな袋を持った赤い服の老人、トナカイなどの姿もあった。
それらはすべて芸術家達が造ったオブジェだ。
ここはピースホライズンにある多目的広場のひとつで、広さを生かしてオブジェの展示会場となっており、千本のキャンドルがそれを暗闇の中に浮かび上がらせている。
パーティ会場から離れてはいるため、知る人ぞ知るスポットとなっているが、街から離れていてほどよく静かな点とロマンチックな雰囲気から、(けしからんことに)カップルがイチャつくにはもってこいの場所だった……。
オブジェに囲まれるように、キャンドルの柔らかな光に照らされて、一組の男女が身を寄せ合っていた。
「どうだいキャリー……」
「素敵だわ、トニオ……」
「そうだ、君に渡すものがあるんだ」
アントニオはコートの中から、上品な包装紙に包まれた小箱を出した。
「開けても……いい?」
「ああ……」
キャロラインは目を輝かせていそいそと箱を開けた。
中にあったのは、ネックレスだった。
輝く銀の鎖の中央には、紛れもない本物のダイヤモンドが埋め込まれている。
「…………素敵…………」
「キャリー……」
「トニオ……」
もう言葉はいらない。
キャンドルの光に照らされて、若い二人は顔を寄せ合い、互いの唇を重ねようとする。
邪魔するものは、誰もいない。二人だけの世界だ…………
そう思っていたのに…………
チュドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
二人は、爆ぜた。
「「キャーーーーーーーーー!?」」
声を合わせて悲鳴を上げる二人。
真っ黒になっている。例えとかではなく、本当に近くで何かが爆発したのだ。特にキャロラインの美しい髪は散り散りで悲惨なことになっている。
視線を巡らす二人。
ある一点を凝視し、また叫び声をあげる。
その視線の先には……
「「カタツムリーーー?!」」
「ということがあったんだ!」
ここはピースホライズンのハンターオフィス。
アントニオとキャロラインは駆け込むなり今あった出来事をまくし立てた。
「僕はあれを知ってる! 前に家にも出たんだ! でもあれは前に見た奴とは違う。
爆弾を吐き出すんだ! 名付けてハニーイーターMkII!」
「いや名前はどうでもいいんですけど」
若い職員はこんな日に仕事しなければならない己の境遇を嘆き、心の何処かでリア充爆発しろと思いながら対応した。そしてほんの少しだけ歪虚に喝采を送らないでもなかった。
「ハンターを派遣して、それを退治すればいいんですね?」
「おねがいします!」
リプレイ本文
●チュドーン!
「キャーーーーー!」
女が叫んだ。目の前には煤で真っ黒になった男がいる。
脇を見れば、カップルが闊歩する多目的広場で我が物顔でのさばる、巨大なカタツムリの姿を目の当たりにするだろう。
こうしてまた一組のカップルが逢瀬の邪魔をされた……。
「ハニーイーター何とか……ですか? カップルを優先して狙っているかはさておき、空気を読めない歪虚が出てきましたね」
現場を遠巻きに見据えて、エルバッハ・リオン(ka2434)は呟いた。
「ねえ、その格好さ」
「何か?」
「……寒くない?」
リンカ・エルネージュ(ka1840)が気になって仕方なかったのは、エルバッハの露出度の高い格好だった。
冬の寒空の下で、ビキニアーマー。
「訓練の一環です」
答えになっていなかった。本当は寒さよりも気になるところがあった。
胸が強調されている。すごく大きい。
「行きますよ」
「えっもう?!」
エルバッハは速攻でカタツムリの雑魔を見つけ出すと、一気に近づき、スリープクラウドを唱えた。
暴れまわっていた巨大カタツムリは、一瞬にして泥のように地面にへばりついた。
あまりの手際のよさに魅入る一行。
「……うん! ちょっと先を越された感があるけど、これで安心して仕事ができるね!」
最初に沈黙を破ったのはクレール(ka0586)だった。喜び勇んで現場へと駆けていく。
「よーしまずは邪魔なカップルを撤去だー!」
それに劣らぬ元気さでテンシ・アガート(ka0589)が続く。
「ええーて、撤去ー?!」
リンカが急いでその後を追いかけた。
「なあ、今のうちにあれ倒したほうがいいんじゃ」
「いいえ、物事には常に周到な準備が必要なのです」
これがハンターとして初の歪虚との戦いとなる城戸 慶一郎(ka3633)が緊張した面持ちで仲間に問うと、それまで無表情だったリナリア・リアナ・リリアナ(ka3127)が凄惨な笑みを浮かべた。
(何を企んでいるんだ……!)
慶一郎を、言い知れぬ予感が襲った。
●ハンターvsカップル
最初にクレール、リナリア、そして慶一郎がしたのは、現場に展示されているオブジェの保護だった。
「天使さんもトナカイさんもおやすみなさーい♪」
クレールは上機嫌だ。
大型テントに使う布を活用して、外傷や爆発の煤から保護するのが狙いだった。
「クレールさん。頼んでおいたものはできてるのですか」
大方被せ終わってから、リナリアが聞いた。
「モチのロンです!」
「頼んでおいたもの……?」
「あ、城戸さんの分も用意してあるよ!」
「俺の分……?」
慶一郎は眉をひそめた。
「ではそこの物陰でお着替えなのです」
「はーい! 出番だよー!」
荷物に向かって呼びかけながら、クレールは包みを取り出す。
「着替える……?」
この頃にはすでに、慶一郎の予感は危機感に変わっていた。
一方現場に居る人々の避難誘導をしていたテンシは驚愕していた。
「カップル達が二人っきりの世界に引き篭もって出てこないだって!? 何てこった!」
カップル達はそれぞれが強力な結界を備えており、近づくことも声をかける事も阻害していた。
「お、おそろしい! おそろしいよークリスマス補正!」
恋人をもったことのないリンカにとっては色々な想像をかきたてられるモノだったが、今この立場にあってはおそろしいの一言しか出てこなかった。
そんな二人が近くにいるにもかかわらず、そしてさっきまでは巨大カタツムリが暴れまわっていた現場だというのに、カップルは平然とイチャついていた。
「こうなったら――俺がその世界をぶち壊す!」
テンシはできるだけカップルの一組に近づくと、突然七輪を取り出して魚の干物を焼き始めた。
「んーーこの魚の焼ける匂い、 たまらん!」
食欲を刺激する香ばしい香りと、目に染みる煙がたちこめる。
「だめ、全然動じてないよーっ!」
と、リンカ。カップルはそのくらいの刺激には動じなかった。
「俺の中ではクリスマス感はもろくも崩れ去ったというのに!
……こうなったらナッツ正(気)拳の出番だね!」
テンシはナッツを手にして気合を込めた。
「どうするの、それ?」
「まあ見てなって!」
テンシは駆け出した。
カップルの作り出す二人の世界結界を気合で押し返して駆け寄っていく。
「うおおおおおおおおおおお!」
テンシの手が神速で動く。
そして――
カップルの男の方の鼻にナッツを詰め込んだ。
「何しやがる!」
美男美女カップルだったが、鼻にナッツを詰め込まれてはいかなるイケメンも台無しだ。当然怒った。
追う男。逃げ惑うテンシ。見守るリンカ。
ちなみに干物はこの後ハンター達が美味しく頂きました。
追いかけられることで避難誘導は結果的に成功したが、テンシは無駄に走って疲れてしまった。
「怒らせるのはやめよーよ」
「くっ……ナッツ正(気)拳が使えないとなると……
俺は一体どうすればいいんだ!」
強敵に出会ったヒーローのような表情をするテンシ。
「フツーに頼むってのは……ダメかぁ」
リンカにも普通に話を聞いて貰える自信はない。それでも次のカップルのもとへと進む二人。
「あ……」
そこでエルバッハと鉢合わせした。
エルバッハがカップルへと近づいていく。すると……
……なんとカップルの男の方の視線が動いている!
エルバッハはビキニアーマーの童顔巨乳。
仕方がないことだったのかもしれない。
「ここは危ないですから、安全な場所に避難してください」
エルバッハは、自らビキニをずらしながら、言った。
犯行の意図は明らかだった。何が訓練なものか。
「はい」
素直にうなずく男。
「痛だだだだだだた」
女がその耳を引っ張る。が、興を削がれたこともあって、カップルは離れていった。
こんな調子でエルバッハは次々と人々を誘導(誘惑?)していった。
しかし、何組めかのカップルはエルバッハを無視した。そこでエルバッハは近づいて、男の体を横から引き寄せ、
『男の顔を胸に埋めた』。
そして耳元で囁いた。
「お願いだから、安全な場所に避難してくださいね」
それはそれは甘い声だったという。
男がいつまで経っても離れないので女が無理矢理引き剥がした。そして鉄拳を顔に見舞った。
「最ッ低!」
女は怒りもあらわに踵を鳴らして去っていく。
男はと言うと、去っていく女とエルバッハの間で視線を彷徨わせてから、最終的に指示に従って避難した。
――破局、不可避。
一行はクリスマスの雰囲気に呑まれた勢いカップルだったのだろうと思うことにした。
「男って、悲しい生き物なんだよな……」
テンシは、とても切なげに一人ごちた。
その頃、広場には新たに異形のモノが増えていた。
長い首、長い脚、黒光りする体、その姿はどこからどう見ても鞘翅目オサムシ科マイマイカブリ、カタツムリを捕食する昆虫である。
……少なくとも本人達はそう思っている。
「ナードであるわたしは知っているのです。
カタツムリを倒すのは、いつだってマイマイカブリだ、なのです」
と、リナリア。発案は彼女だ。リナリアとクレールが着ているのは、クレールが鍛冶の技を振るって作り上げた金属パーツを、黒く染めた着ぐるみ『まるごとうさぎ』に装着することで完成したまるごとマイマイカブリだ。
「とんでもない世界に来てしまった……」
慶一郎の表情は暗い。彼だけは材料が足りず猫耳カチューシャとスーツにパーツを装着したものを着ており、その中途半端さがかえって怪しさを際立たせている。
「本日のメインイベントー!」
うつむく慶一郎をよそにクレールが何かの開始を宣言した。
「エレクトリカルマイマイパレードッ!
さあさあ早く逃げないと危険ですよー!」
クレールはエレクトリックショックの原理で体の表面をスパークさせ、あろうことかカップルを追い掛け回した。
「いつからここは人外魔境に?!」
「なにあれ怖い!」
逃げ惑うカップル達。
かれらも異変に気付かなかったわけではない。全力で見てみぬふりをしていたのだ。全てはロマンチックな夜のために……。しかし、それももう限界だった。
「ふっ、勝ったな。なのです」
その様子を見てリナリアはほくそ笑んだ。
そう……かれらはリア充に勝ったのだ。
「くっ、こうなりゃヤケだー!」
クレールにならってカップルを追い掛け回す慶一郎。
元ブラック企業勤務の彼にとって、ヤケでも周りを振り回す側に立てたことは……快かったかもしれない。
●忘れられないクリスマス
現場からは色んな意味で人が離れていった。ハンター達は次なる段階へと進む。
それは……カタツムリのデコレーションだった。
「これがクリムゾンウェスト流か」
「これは特例中の特例だから!」
勘違いしそうな慶一郎にリンカがフォロー。
未だ眠っているカタツムリはカラーパウダーをまぶされたりスプレーで着色されたり綿を付けられたりと、クリスマスらしい意匠に仕上がっていった。
みんなでクリスマスツリーを飾り付けするノリでデコレートされていくカタツムリだが、さすがに騒がしく感じたのか動き出した。
「あ、起きそうなのです」
「クレールちゃん、急いで!」
リナリアが気付き、リンカは近くにある特大クリスマスツリーに呼びかける。その枝の一つにマイマイカブリがよじ登っていた。クレールだった。
その背には大型テントが背負われている。クレールは両手でそれを広げると、飛び降りつつカタツムリに向かって振り下ろした。
「テントダンクシューッ!」
勢いをつけてテントを広げ、カタツムリの体に被せ、自らは着地する。カタツムリの身体の大半がテントの布に覆われた。
さすがに衝撃で起きた。テントを被ったままカタツムリが首を伸ばす。
「これで爆弾は怖くない! そして! お前の弱点をお見舞いしてやるぞ!」
テンシが手にしていたのは、岩塩だった。
「イヤーッ!」
岩塩を叩きつける。
それはカタツムリの体表の水分を吸って、体にくっついた。
「すげえくっつく! もう一個!」
楽しくなったので何個もくっつける。
だがカタツムリは丸太のような胴体を振るってテンシを薙ぎ倒した。
「グワーッ! 効かないだと!」
「でも綺麗にはなったのです」
リナリアが感想を漏らす。確かにキャンドルの光を帯びて仄かに光る岩塩は美しい。
ピンポイントで見れば。
「何してる、離れろよ!」
慶一郎の銃が火を噴いた。衝撃にカタツムリが体を縮める。
――銃を撃つのは初めてだったが、そんなことは問題じゃなかった。何もかもが、はじめてで、シゲキテキで、ぶっ飛んでいた。
目の前では綺麗にデコレートされた巨大カタツムリが暴れまわっているし、
隣では、いつの間にかいたマイマイカブリ(クレール)が満面の笑みで自分にタクトを向けて何かしている(防御障壁)。
慶一郎は思う――俺がしたのは転移じゃなくてやばい薬に手を出したんじゃないのか。
「どんな状況だよ!!!」
「大丈夫――」
傍らで、リナリアがふわりと微笑んだ。
「あなたもすでにこの世界の住人<こちらがわ>なのですよ」
微笑はすぐに邪笑に変わった。「畜生ーッ!」という慶一郎の叫びがこだました。
邪笑のリナリアがワンドを振り詠唱する。土煙が舞い上がり、生成された石が礫となって敵の体に突き刺さった。
その一撃が応えたのか、カタツムリは上体を持ち上げ、リナリアに振り下ろしてくる。
「やる気なのですか。上等なのです」
リナリアは飛び退いて避けた。
「――巨大カタツムリとはまるでわたしの暗黒面を象徴したかのような存在なのです」
何か語り始めた。
「閉じ篭る殻、鈍い動き、男女の別なく愛を注」
言い澱んだ。
「……ところがどっこい殻に篭らないとか爆弾撒き散らすとか、とんだアグレッシブマイマイなのです。アウトドア派なのです。
ある意味わたしよりもリア充風情を醸しているので見ていて心が痛いのです」
ポーズを決めて高速で詠唱する魔術師の姿がそこにあった。
「ですので――打ち倒すのです」
(喋った分)高速で詠唱を完成させワンドを向けると、ワンドの先端に水が渦巻き、水塊が射出されてカタツムリに激しく叩きつけられる。
カタツムリは苦痛に体を仰け反らせた。
「効いています。一気に押しましょう」
エルバッハが間髪を入れず詠唱した。風が巻き起こり、刃となってカタツムリを斬りつける。
「援護するよ! 普通の格好でごめん!」
リンカがマイマイカブリとビキニアーマーに恐縮しながらワンドを向ける。凝縮された火炎が一条の流星となって飛び、炸裂した。
三人の魔術師による波状攻撃。
炎が舞い、風が唸り、水が爆ぜ、土が抉る。
それはまるで夜空の下で舞い踊る精霊達の饗宴。溢れる生のマテリアルが見る者を魅了する。
その力が最高潮に達した時――クリスマスの奇跡か――双方向からのウインドスラッシュが竜巻を起こし、カタツムリの巨体を浮かび上がらせた。ウォーターシュートでさらに高く打ち上げられる。
天高く飛ばされたカタツムリの巨体は――
大爆発を起こし、夜空に大輪の花を咲かせた!
「「メリークリスマース!」」
いくつかの声が重なった。
そして静寂が訪れ、天から純白の奇跡が降り注いだ……。
●メリークリスマス
「素晴らしいっ!」
「え?」
白い粉(デコレーション用)がいまだ降り止まぬ中、ハンター達に初老の紳士が拍手しながら近寄ってきた。
「優勝は君達に決定じゃあ!」
呆然とするハンター達。
彼らは後に、この会場に展示されていたオブジェのコンテストが行われていた事と、カタツムリ出現~退治までの一連の流れが、「動く芸術作品」として審査員から最高の評価を受けた事を知るのだった。
周りを見れば、カップルも破局したカップルもみなハンター達に惜しみない拍手を送っていた。
「忘れられないクリスマスになったな……」
一面を眺め、慶一郎が呟いた。
ハンターオフィスに戻ってみると依頼人はパーティ会場にいると教えられたので、一行はそこへと向かった。
そこは年季を感じる、立派な屋敷だった。今では人が集まって賑やかなパーティが催されているが、ついこの間までここにも歪虚がいたらしい。
「その時もハンターの活躍で無事退治されたそうだよ」
パーティ会場でハンター達を迎えた依頼人アントニオはグラスを片手に語る。
どうやらクリスマスには歪虚も騒ぎたいらしい。
「許せないのです……リア充ども」
「いやリア充関係ないから!」
リナリアの理不尽な怒りをリンカが迎え撃った。
「これは私から。みなさんに」
依頼人の妻キャロラインはハンター達にひとつずつ、小さな箱を渡した。
「お仕事お疲れ様です。それと……メリークリスマス」
このカップルはちゃんと他の人々の事も見てくれている。
色々と疲れる物を目にした一日だったが、少なくともその時だけは、皆優しい気持ちになれたのだった。
「キャーーーーー!」
女が叫んだ。目の前には煤で真っ黒になった男がいる。
脇を見れば、カップルが闊歩する多目的広場で我が物顔でのさばる、巨大なカタツムリの姿を目の当たりにするだろう。
こうしてまた一組のカップルが逢瀬の邪魔をされた……。
「ハニーイーター何とか……ですか? カップルを優先して狙っているかはさておき、空気を読めない歪虚が出てきましたね」
現場を遠巻きに見据えて、エルバッハ・リオン(ka2434)は呟いた。
「ねえ、その格好さ」
「何か?」
「……寒くない?」
リンカ・エルネージュ(ka1840)が気になって仕方なかったのは、エルバッハの露出度の高い格好だった。
冬の寒空の下で、ビキニアーマー。
「訓練の一環です」
答えになっていなかった。本当は寒さよりも気になるところがあった。
胸が強調されている。すごく大きい。
「行きますよ」
「えっもう?!」
エルバッハは速攻でカタツムリの雑魔を見つけ出すと、一気に近づき、スリープクラウドを唱えた。
暴れまわっていた巨大カタツムリは、一瞬にして泥のように地面にへばりついた。
あまりの手際のよさに魅入る一行。
「……うん! ちょっと先を越された感があるけど、これで安心して仕事ができるね!」
最初に沈黙を破ったのはクレール(ka0586)だった。喜び勇んで現場へと駆けていく。
「よーしまずは邪魔なカップルを撤去だー!」
それに劣らぬ元気さでテンシ・アガート(ka0589)が続く。
「ええーて、撤去ー?!」
リンカが急いでその後を追いかけた。
「なあ、今のうちにあれ倒したほうがいいんじゃ」
「いいえ、物事には常に周到な準備が必要なのです」
これがハンターとして初の歪虚との戦いとなる城戸 慶一郎(ka3633)が緊張した面持ちで仲間に問うと、それまで無表情だったリナリア・リアナ・リリアナ(ka3127)が凄惨な笑みを浮かべた。
(何を企んでいるんだ……!)
慶一郎を、言い知れぬ予感が襲った。
●ハンターvsカップル
最初にクレール、リナリア、そして慶一郎がしたのは、現場に展示されているオブジェの保護だった。
「天使さんもトナカイさんもおやすみなさーい♪」
クレールは上機嫌だ。
大型テントに使う布を活用して、外傷や爆発の煤から保護するのが狙いだった。
「クレールさん。頼んでおいたものはできてるのですか」
大方被せ終わってから、リナリアが聞いた。
「モチのロンです!」
「頼んでおいたもの……?」
「あ、城戸さんの分も用意してあるよ!」
「俺の分……?」
慶一郎は眉をひそめた。
「ではそこの物陰でお着替えなのです」
「はーい! 出番だよー!」
荷物に向かって呼びかけながら、クレールは包みを取り出す。
「着替える……?」
この頃にはすでに、慶一郎の予感は危機感に変わっていた。
一方現場に居る人々の避難誘導をしていたテンシは驚愕していた。
「カップル達が二人っきりの世界に引き篭もって出てこないだって!? 何てこった!」
カップル達はそれぞれが強力な結界を備えており、近づくことも声をかける事も阻害していた。
「お、おそろしい! おそろしいよークリスマス補正!」
恋人をもったことのないリンカにとっては色々な想像をかきたてられるモノだったが、今この立場にあってはおそろしいの一言しか出てこなかった。
そんな二人が近くにいるにもかかわらず、そしてさっきまでは巨大カタツムリが暴れまわっていた現場だというのに、カップルは平然とイチャついていた。
「こうなったら――俺がその世界をぶち壊す!」
テンシはできるだけカップルの一組に近づくと、突然七輪を取り出して魚の干物を焼き始めた。
「んーーこの魚の焼ける匂い、 たまらん!」
食欲を刺激する香ばしい香りと、目に染みる煙がたちこめる。
「だめ、全然動じてないよーっ!」
と、リンカ。カップルはそのくらいの刺激には動じなかった。
「俺の中ではクリスマス感はもろくも崩れ去ったというのに!
……こうなったらナッツ正(気)拳の出番だね!」
テンシはナッツを手にして気合を込めた。
「どうするの、それ?」
「まあ見てなって!」
テンシは駆け出した。
カップルの作り出す二人の世界結界を気合で押し返して駆け寄っていく。
「うおおおおおおおおおおお!」
テンシの手が神速で動く。
そして――
カップルの男の方の鼻にナッツを詰め込んだ。
「何しやがる!」
美男美女カップルだったが、鼻にナッツを詰め込まれてはいかなるイケメンも台無しだ。当然怒った。
追う男。逃げ惑うテンシ。見守るリンカ。
ちなみに干物はこの後ハンター達が美味しく頂きました。
追いかけられることで避難誘導は結果的に成功したが、テンシは無駄に走って疲れてしまった。
「怒らせるのはやめよーよ」
「くっ……ナッツ正(気)拳が使えないとなると……
俺は一体どうすればいいんだ!」
強敵に出会ったヒーローのような表情をするテンシ。
「フツーに頼むってのは……ダメかぁ」
リンカにも普通に話を聞いて貰える自信はない。それでも次のカップルのもとへと進む二人。
「あ……」
そこでエルバッハと鉢合わせした。
エルバッハがカップルへと近づいていく。すると……
……なんとカップルの男の方の視線が動いている!
エルバッハはビキニアーマーの童顔巨乳。
仕方がないことだったのかもしれない。
「ここは危ないですから、安全な場所に避難してください」
エルバッハは、自らビキニをずらしながら、言った。
犯行の意図は明らかだった。何が訓練なものか。
「はい」
素直にうなずく男。
「痛だだだだだだた」
女がその耳を引っ張る。が、興を削がれたこともあって、カップルは離れていった。
こんな調子でエルバッハは次々と人々を誘導(誘惑?)していった。
しかし、何組めかのカップルはエルバッハを無視した。そこでエルバッハは近づいて、男の体を横から引き寄せ、
『男の顔を胸に埋めた』。
そして耳元で囁いた。
「お願いだから、安全な場所に避難してくださいね」
それはそれは甘い声だったという。
男がいつまで経っても離れないので女が無理矢理引き剥がした。そして鉄拳を顔に見舞った。
「最ッ低!」
女は怒りもあらわに踵を鳴らして去っていく。
男はと言うと、去っていく女とエルバッハの間で視線を彷徨わせてから、最終的に指示に従って避難した。
――破局、不可避。
一行はクリスマスの雰囲気に呑まれた勢いカップルだったのだろうと思うことにした。
「男って、悲しい生き物なんだよな……」
テンシは、とても切なげに一人ごちた。
その頃、広場には新たに異形のモノが増えていた。
長い首、長い脚、黒光りする体、その姿はどこからどう見ても鞘翅目オサムシ科マイマイカブリ、カタツムリを捕食する昆虫である。
……少なくとも本人達はそう思っている。
「ナードであるわたしは知っているのです。
カタツムリを倒すのは、いつだってマイマイカブリだ、なのです」
と、リナリア。発案は彼女だ。リナリアとクレールが着ているのは、クレールが鍛冶の技を振るって作り上げた金属パーツを、黒く染めた着ぐるみ『まるごとうさぎ』に装着することで完成したまるごとマイマイカブリだ。
「とんでもない世界に来てしまった……」
慶一郎の表情は暗い。彼だけは材料が足りず猫耳カチューシャとスーツにパーツを装着したものを着ており、その中途半端さがかえって怪しさを際立たせている。
「本日のメインイベントー!」
うつむく慶一郎をよそにクレールが何かの開始を宣言した。
「エレクトリカルマイマイパレードッ!
さあさあ早く逃げないと危険ですよー!」
クレールはエレクトリックショックの原理で体の表面をスパークさせ、あろうことかカップルを追い掛け回した。
「いつからここは人外魔境に?!」
「なにあれ怖い!」
逃げ惑うカップル達。
かれらも異変に気付かなかったわけではない。全力で見てみぬふりをしていたのだ。全てはロマンチックな夜のために……。しかし、それももう限界だった。
「ふっ、勝ったな。なのです」
その様子を見てリナリアはほくそ笑んだ。
そう……かれらはリア充に勝ったのだ。
「くっ、こうなりゃヤケだー!」
クレールにならってカップルを追い掛け回す慶一郎。
元ブラック企業勤務の彼にとって、ヤケでも周りを振り回す側に立てたことは……快かったかもしれない。
●忘れられないクリスマス
現場からは色んな意味で人が離れていった。ハンター達は次なる段階へと進む。
それは……カタツムリのデコレーションだった。
「これがクリムゾンウェスト流か」
「これは特例中の特例だから!」
勘違いしそうな慶一郎にリンカがフォロー。
未だ眠っているカタツムリはカラーパウダーをまぶされたりスプレーで着色されたり綿を付けられたりと、クリスマスらしい意匠に仕上がっていった。
みんなでクリスマスツリーを飾り付けするノリでデコレートされていくカタツムリだが、さすがに騒がしく感じたのか動き出した。
「あ、起きそうなのです」
「クレールちゃん、急いで!」
リナリアが気付き、リンカは近くにある特大クリスマスツリーに呼びかける。その枝の一つにマイマイカブリがよじ登っていた。クレールだった。
その背には大型テントが背負われている。クレールは両手でそれを広げると、飛び降りつつカタツムリに向かって振り下ろした。
「テントダンクシューッ!」
勢いをつけてテントを広げ、カタツムリの体に被せ、自らは着地する。カタツムリの身体の大半がテントの布に覆われた。
さすがに衝撃で起きた。テントを被ったままカタツムリが首を伸ばす。
「これで爆弾は怖くない! そして! お前の弱点をお見舞いしてやるぞ!」
テンシが手にしていたのは、岩塩だった。
「イヤーッ!」
岩塩を叩きつける。
それはカタツムリの体表の水分を吸って、体にくっついた。
「すげえくっつく! もう一個!」
楽しくなったので何個もくっつける。
だがカタツムリは丸太のような胴体を振るってテンシを薙ぎ倒した。
「グワーッ! 効かないだと!」
「でも綺麗にはなったのです」
リナリアが感想を漏らす。確かにキャンドルの光を帯びて仄かに光る岩塩は美しい。
ピンポイントで見れば。
「何してる、離れろよ!」
慶一郎の銃が火を噴いた。衝撃にカタツムリが体を縮める。
――銃を撃つのは初めてだったが、そんなことは問題じゃなかった。何もかもが、はじめてで、シゲキテキで、ぶっ飛んでいた。
目の前では綺麗にデコレートされた巨大カタツムリが暴れまわっているし、
隣では、いつの間にかいたマイマイカブリ(クレール)が満面の笑みで自分にタクトを向けて何かしている(防御障壁)。
慶一郎は思う――俺がしたのは転移じゃなくてやばい薬に手を出したんじゃないのか。
「どんな状況だよ!!!」
「大丈夫――」
傍らで、リナリアがふわりと微笑んだ。
「あなたもすでにこの世界の住人<こちらがわ>なのですよ」
微笑はすぐに邪笑に変わった。「畜生ーッ!」という慶一郎の叫びがこだました。
邪笑のリナリアがワンドを振り詠唱する。土煙が舞い上がり、生成された石が礫となって敵の体に突き刺さった。
その一撃が応えたのか、カタツムリは上体を持ち上げ、リナリアに振り下ろしてくる。
「やる気なのですか。上等なのです」
リナリアは飛び退いて避けた。
「――巨大カタツムリとはまるでわたしの暗黒面を象徴したかのような存在なのです」
何か語り始めた。
「閉じ篭る殻、鈍い動き、男女の別なく愛を注」
言い澱んだ。
「……ところがどっこい殻に篭らないとか爆弾撒き散らすとか、とんだアグレッシブマイマイなのです。アウトドア派なのです。
ある意味わたしよりもリア充風情を醸しているので見ていて心が痛いのです」
ポーズを決めて高速で詠唱する魔術師の姿がそこにあった。
「ですので――打ち倒すのです」
(喋った分)高速で詠唱を完成させワンドを向けると、ワンドの先端に水が渦巻き、水塊が射出されてカタツムリに激しく叩きつけられる。
カタツムリは苦痛に体を仰け反らせた。
「効いています。一気に押しましょう」
エルバッハが間髪を入れず詠唱した。風が巻き起こり、刃となってカタツムリを斬りつける。
「援護するよ! 普通の格好でごめん!」
リンカがマイマイカブリとビキニアーマーに恐縮しながらワンドを向ける。凝縮された火炎が一条の流星となって飛び、炸裂した。
三人の魔術師による波状攻撃。
炎が舞い、風が唸り、水が爆ぜ、土が抉る。
それはまるで夜空の下で舞い踊る精霊達の饗宴。溢れる生のマテリアルが見る者を魅了する。
その力が最高潮に達した時――クリスマスの奇跡か――双方向からのウインドスラッシュが竜巻を起こし、カタツムリの巨体を浮かび上がらせた。ウォーターシュートでさらに高く打ち上げられる。
天高く飛ばされたカタツムリの巨体は――
大爆発を起こし、夜空に大輪の花を咲かせた!
「「メリークリスマース!」」
いくつかの声が重なった。
そして静寂が訪れ、天から純白の奇跡が降り注いだ……。
●メリークリスマス
「素晴らしいっ!」
「え?」
白い粉(デコレーション用)がいまだ降り止まぬ中、ハンター達に初老の紳士が拍手しながら近寄ってきた。
「優勝は君達に決定じゃあ!」
呆然とするハンター達。
彼らは後に、この会場に展示されていたオブジェのコンテストが行われていた事と、カタツムリ出現~退治までの一連の流れが、「動く芸術作品」として審査員から最高の評価を受けた事を知るのだった。
周りを見れば、カップルも破局したカップルもみなハンター達に惜しみない拍手を送っていた。
「忘れられないクリスマスになったな……」
一面を眺め、慶一郎が呟いた。
ハンターオフィスに戻ってみると依頼人はパーティ会場にいると教えられたので、一行はそこへと向かった。
そこは年季を感じる、立派な屋敷だった。今では人が集まって賑やかなパーティが催されているが、ついこの間までここにも歪虚がいたらしい。
「その時もハンターの活躍で無事退治されたそうだよ」
パーティ会場でハンター達を迎えた依頼人アントニオはグラスを片手に語る。
どうやらクリスマスには歪虚も騒ぎたいらしい。
「許せないのです……リア充ども」
「いやリア充関係ないから!」
リナリアの理不尽な怒りをリンカが迎え撃った。
「これは私から。みなさんに」
依頼人の妻キャロラインはハンター達にひとつずつ、小さな箱を渡した。
「お仕事お疲れ様です。それと……メリークリスマス」
このカップルはちゃんと他の人々の事も見てくれている。
色々と疲れる物を目にした一日だったが、少なくともその時だけは、皆優しい気持ちになれたのだった。
依頼結果
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MVP一覧
- ルル大学魔術師学部教授
エルバッハ・リオン(ka2434)
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サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 リンカ・エルネージュ(ka1840) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/12/24 21:46:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/20 23:09:21 |