• 東幕

【東幕】ハンターと紫草の計略

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/07/06 19:00
完成日
2018/07/17 21:06

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●幕府軍の攻勢
 恵土城と十鳥城を飛び越えて構築された憤怒歪虚の拠点の北側を幕府軍が半円に囲んでいた。
 南側には両城が控えてある事もあるからだ。その配置を見て、憤怒歪虚を率いる拷陀は紫草の意図を見抜いた。
「……なるほど。如何にも紫草らしい事だな」
 腹の奥底から吹きあがる怒りを抑え込みながら、拷陀は冷静に幕府軍を見つめる。

 ――ここは紫草の思惑に対して真っ向から勝負を挑むか。

 ――あるいは、敢えて、紫草の罠に嵌ったと見せかけて逆襲するか。

「しかし、油断はならない。あの紫草の事だ。逆襲した所を待っている可能性もある」
 あの男はそういう男なのだ。
 それは拷陀が人間であった時から知っている。
 微笑をいつも浮かべているのは、手の内を見せない為。
 味方も敵も紫草には“駒”にしか過ぎない。憤怒歪虚を退け、東方を――いや、帝を救う事を目的として。
 愚かなハンター達はそれが分かっていない。紫草に良いように利用されているだけだ。
「……ならばこそ、我輩が全てを燃やし尽くすのみだ」
 紫草もハンターも、東方のあらゆるもの全てを、憤怒の地獄の炎で燃やし包んでしまえばいいのだ。
「そろそろ勝負時だろう。紫草、何事も思い描いた通りに進むとは思うな」
 突撃将軍拷陀から噴き出た猛烈な炎の先が、幕府軍の陣へと向いた。

●幕府軍本陣
 憤怒歪虚を囲む幕府軍の士気は旺盛であった。
 包囲戦は順調だ。勿論、損害が無い訳ではない。しかし、立花院 紫草(kz0126)が率いる幕府軍は優勢であった。
 事前の準備もあるし、何より、敵陣の状況が把握出来ているのは大きい。もっとも、それはハンターの調査の結果によるものだが。
「いよいよ“仕上げ”でしょうか」
 甲冑姿の紫草が側近にそう告げた。
 これまで、憤怒歪虚の拠点には、攻撃を仕掛け続け、ダメージを与えている。
 拠点を囲むような深い堀はすっかりと埋まっており、城壁を越える梯子も用意できた。
「攻城兵器も制空隊も準備が完了しております。後は紫草様のご命令一つです」
「十鳥城と恵土城にも“連絡済み”ですね」
 確認するように尋ねた紫草の言葉に側近は静かに頷いた。
「はい。恵土城の方からは城下町の状況故、多くの戦力は望めませんが、十鳥城からは代官である仁々木 正秋(kz0241)以下、精鋭隊が出陣するとの事です」
 それは想定通りの動きだ。
 その為に、両城を生かす行動をしてきたとも言える。
「紫草様……ハンター達ですが……いかが致しますか?」
「今回もハンター達には遊撃的な役割をお願いしています。彼らをこちらの都合で縛るよりも、彼ら自身が、望む事を行って貰った方が、大きい戦力となるでしょう」
「……“よろしいのですね?”」
 確認する側近の台詞に、紫草は微笑を浮かべて答える。
 わざわざ返事をする事ではない。
 少なくとも、ハンターが居なくても作戦は成功するだろう。その自信は、紫草にあった。
 課題としてあるのは拷陀の反撃と、想定外――獄炎の影のような化け物の発生――が無ければ問題は無い。
 そういう意味でいうと、ハンター達の存在が必要である。彼らの動きによっては幕府軍の損害に関わってくるからだ。
「必要であれば、私も戦場に出るとしましょう。きっと、拷陀は私でなければ止められないでしょうから」
「病み上がりですので、ご無理をなさらずに」
「大切な友人達に、縁談話を持ち掛けられる方が、私には都合が悪いですからね」
 その言葉に側近は苦笑を浮かべるのであった。

●十鳥城
 城では出撃準備に侍達が追われていた。
 幕府軍が憤怒拠点に攻勢を仕掛けているのは分かっていた。そして、ついに、総攻撃の連絡が来たのだ。
「それで、正秋! どうするんだよ! どこに出撃するんだ?」
 代官である正秋の右腕ともいうべき、瞬が慌てていた。
 総攻撃の連絡が来たが、十鳥城も出撃せよという命令だけで、詳細は何も無かったからだ。
「分からないけど、一先ず、準備は万全に」
「もし、攻城戦に参加するなら、兵器の用意も居るだろう? 追撃戦なら、機動力のある馬が居るだろう?」
 両手を広げて確認を取る瞬に正秋も困った顔になった。
「とりあえず、なんでも対応できるように全部準備するしか……」
「マジかよ……そりゃ、とんでもねぇ事だぜ」
「どうすればいいか……紫草様は、一体、何を望んでいるのだろうか……」
 頭を抱える正秋。
 十鳥城の戦力は大きい訳ではない。精鋭部隊といっても、その数は十数騎。歩兵や後方支援を合わせても100人にも達しないのだ。
 しかも、戦に必要なものを全部準備するのは、大変な事である。
 瞬がポンと手を叩いた。
「よし、じゃ、俺がバシって決めて――」
「ハンター達にも意見を求めようと思います」
 右腕の言葉を遮って正秋が宣言した。
 やはり、ここはハンターの意見も聞いておきたい。いや、彼らなら、紫草の思惑が何か、分かるかもしれないからだ。




==========解説==========
●目的
憤怒歪虚勢力の減退あるいは消滅

●内容
憤怒拠点を攻め落とし、憤怒歪虚を撃退あるいは殲滅する

●憤怒拠点
空堀で囲まれ、掘った土で土塁を作り、その上に、城壁のようなものが四方に立っている。
城壁の内側はかなりの空間が広がっており、所々に天幕や建物のようなものも見える。
なお、空堀は幕府軍のこれまでの戦闘で埋められている。
土塁と城壁の高さは4スクエア、幅は3スクエアとする(場所によっては増減する)。

●味方勢力
立花院 紫草(kz0126)
幕府軍を率いる征夷大将軍。攻城戦及び追撃戦に必要な準備は整っている。
非覚醒者も多数であり、練度も様々だが、士気は高い。

仁々木 正秋(kz0241)
十鳥城の精鋭部隊を率いる代官。戦闘準備は整っていない。
数名の覚醒者がいるが、大部分は非覚醒者であり、数も多くはない。
何していいのか、良く分かっていない様子。

●敵勢力
突撃将軍“拷陀”
元武家の堕落者。燃え盛る炎に包まれた全身甲冑の姿をしている歪虚。
高位の憤怒歪虚の力を扱える。
※強力な歪虚の為、挑む際には危険フラグ相当となる※

憤怒甲冑 サイズ1 多数
怒りの顔が浮かんでいる和装鎧の歪虚。
刀や槍、魔導筒などで武装している。主に拷陀の周辺に取り巻いている。

リプレイ本文

●準備
 いよいよ、拠点への総攻撃が開始する――直前、立花院 紫草(kz0126)に一人のハンターが訪ねてきた。
 詩天救国の功労者でもあり、紫草の“友人”という事で通されたのは、アルマ・A・エインズワース(ka4901)だ。
「わふ! 紫草さーん」
 飛び込んで来た元気な犬のようなアルマを受け止める紫草。
「お元気そうでなによりです」
「拷陀と戦う時の切り札を持って来ました! その時が来たら、あげるのです!」
 そう前置きしてから飛びついたまま、アルマは紫草の耳元である事を告げた――。

●攻城
 幕府からハンター達に依頼された内容は遊撃的なポジションな為、特段の指示は無かった。
「将軍様の思惑はさておき、憤怒の拠点は落とさないといけないですからね」
 騎乗しながらエルバッハ・リオン(ka2434)が陰陽符を高く掲げる。
 指示がなくとも、目的は決まっているのだ。だから、やれる事は十分にあった。
「とにかく頑張りましょうか」
 掲げた符にマテリアルが集う。燃え盛る火球が幾つか現れ、彼女はそれらを城壁に向かって放つ。
 魔術師が扱う高度な魔法――メテオスウォーム――だった。
 城壁の一部があっけなく崩れ落ち、そこに幕府軍が殺到する。
 それらを迎え撃つ和装甲冑の姿をした憤怒共が、急激にその動きを弱めた。
 予め城壁近くまで近付いていた龍崎・カズマ(ka0178)がレクイエムを行使していたのだ。
(今のところ、罠らしいものはないか……)
 敵が拠点を作って防衛している以上、攻め寄せる幕府軍に対して罠があると推測していたのだ。
 一般的な攻城兵器の類はあるが、明確な罠というものは見つからない。
(それならそれで、敵の兵器を壊して潰していくだけだ)
 心の中で呟きながら、カズマはレクイエムによる援護を継続する。
 その援護を受けて、ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)が最前線で剣を振りながら拠点突入一番乗りを果たした。
「大将軍のお心など屑虫たる私に推察できるはずもございませんが……」
 いつもながらのネガティブな思考のまま、剣を無心に振るう。
 これまでの紫草の言動を見ていると策を講じているようだが、それが何かまでは分からなかった。
「私は駒にすらなり切れぬ虫ですので、ただただ剣を振るうのみです」
 魔剣に込めたマテリアルを放つと衝撃波となって憤怒甲冑を吹き飛ばした。
 どの道、敵を倒さなければ前に進めないのだ。出来る事は分かり切っている。
 最前線で幕府軍の兵士と共に戦うハンターを符術で支援しつつ、北谷王子 朝騎(ka5818)が注意深く、拠点内を観察する。
「どっかに敵の大将がいるはずでちゅ」
 突撃将軍“拷陀”の討伐は依頼の中に明示されていなかたった。
 だが、憤怒勢力の減退や消滅を狙う以上、避けては通れない敵であるはずだ。
 憤怒甲冑が放った火矢を盾剣で防ぐ朝騎。
「早く出てくるのでちゅ!」
 その視線は憤怒甲冑の軍勢の奥へと向けられていた。

 崩れた城壁以外からの突入も開始され、戦場の報告が逐一、本陣に入ってくる。
 中には“拷陀”出陣の情報も入ってくる。紫草が席から立ち上がろうとした気配を見せた時だった。
「一騎打ちとか考えてねえよな?」
 リュー・グランフェスト(ka2419)だった。
 彼はとある友人からの繋がりで、この戦場に立っていた。
「まずは拠点から追い出す必要がありますからね」
「勘弁してくれよ、総大将はどっしり構えてるもんだぜ……あれの相手は頂いてくぜ!」
 魔導剣と魔剣の二刀を構え、リューは敵拠点に向けて駆け出した。

 拠点内での戦闘は幕府軍に優勢に動いていた。
「……今回はどれだけ被害を抑えるか、に重点を置いた方がいいかな」
 幕府軍兵士に対し、符術による援護を行いつつ、シェルミア・クリスティア(ka5955)がサーベルを振るう。
 レイオス・アクアウォーカー(ka1990)も武器を振るいつつ、シェルミアの台詞に同意する。
「そうだな。ずいぶんと上等な砦が出来てるからな」
 拠点を半円に取り囲んでいる以上、幕府軍は最初から敵を拠点から追い出すつもりなのだ。
 でなければ、完全に包囲して殲滅戦を選択していたはず……。
「となると……向こうの抗戦を少しでも早く諦めさせて退かせる事を第一かな」
「なら、こいつは攻略し甲斐がありそうだ」
 その意図を狙うのであれば、攻勢を強めるしかない。
「ニンジャバリアー!」
 二人のハンターの後ろから、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)の元気な声が響いた。
 ルンルン忍法で幕府軍を支援して、少しでも損害を減らして勝利する為に、彼女が出来る事は、符術による最大限の援護だ。
 幕府軍は非覚醒者が多いので、憤怒甲冑と対抗する為にも覚醒者の援護はありがたい。
 拠点の中から幕府軍を追い出そうと新手の憤怒甲冑の軍勢が迫るが、その先頭が泥状の結界に足を取られる。
「ルンルン忍法、泥沼の術!」
 動きが遅れた憤怒甲冑に対し、シェルミアとレイオスの剣の技が飛んだ。

●撃退
「紫草、出てこい!」
 戦場に突撃将軍“拷陀”の叫び声が響いた。敵将のおでましだ。
 この時を待っていたかのように、取り巻きの憤怒甲冑を氷嵐が包み込む。
「……氷よ、切り裂く氷の嵐となり、全てを凍てつかせよ!」
 エルバッハが魔法を放つ。
 憤怒甲冑は炎属性を内包しているようで、水属性である彼女の魔法の効果は絶大だった。
「露払いします。リューさん、行って下さい」
 拷陀までの道が開けるのも一瞬の事。
 すぐに新手の憤怒甲冑が行く手を塞ぐ。
 それらに対して、幾本かの光矢が貫いていく。
「ルンルン忍法、五方手裏剣……シュリケーン!」
 クルっと回転して豊満な胸を弾ませながら、ルンルンも忍術(魔法)を唱える。
 仲間達の援護を受けつつ、リューが左右の手に剣を持ち、立ち塞がる憤怒甲冑を文字通り、粉砕しながら拷陀へと迫る。
「俺が相手だ!」
「貴様らハンター共は、いつも邪魔ばっかしおって!」
 紋章剣の輝きを発するリューの剣を受け止める拷陀。
 彼の攻撃はそれでは終わらず、素早い斬撃を二度、三度と繰り出す。
「えぇい! こうなれば……」
 グッと腕に力を籠める拷陀。
 対して、スッと脇から飛び出した朝騎が符術を放つ。
「お見通しでちゅよ!」
 拷陀の周囲に符が舞うと共にマテリアルの不可思議な力が発揮される。
 黒曜封印符と呼ばれる強力な封印術だ。術者が動けなくなるが、対象となった者の術を封じる事が出来る。
 身動きが出来なくなった朝騎を狙って幾体もの憤怒甲冑が迫るが、エルバッハが魔法で牽制する。
「させませんよ」
 ハンター達に絶好の機会が到来した。
 ルンルンはカードをばら撒くように宙に投げると、術を行使する。
「忍法ニンジャパワー! リューさん、今です!」
 リューは力強く頷くと、マテリアルを剣に込め直した。
 そして、二刀の剣先を拷陀に向ける。
「紋章剣・散華・星竜!」
 ドンっと大きく踏み込んで剣を繰り出す。
 剣撃が拷陀の燃え盛る甲冑に切り刻んだ。だが、リューも無事ではない。
 封印されているとはいえ、拷陀は絡繰りの籠手を振り回す。強烈な打撃を受けつつも、リューは間合いを取った。
「おのれ、ハンター共め……許さんからなぁ!」
 拷陀は捨て台詞を言い放つと合図のように右手を高く挙げた。
 刹那、周囲に取り巻いていた憤怒甲冑がハンター達と拷陀の間に割って入り――拷陀は背を見せて逃げ出したのだった。

●追撃
 拠点を放棄して拷陀と残存する憤怒歪虚や雑魔が南側に向かって敗走を始めた。
 いち早く飛び出たのは、ゴースロンに乗るレイオスだった。
「一気に駆ける。いくぞ、クミン!」
 愛馬と共に拠点から飛び出ると闘旋剣から大型のクロスボウへと持ち替える。
 拠点内の制圧は他のハンターに任せ、彼は憤怒歪虚の追撃を優先させていた。
「逃げてるとこ悪いが追撃させてもらう」
 相手は逃げる事でいっぱいだから、反撃は来ない。
 その時だった。敵の殿が急に反転してきたのだ。憤怒の特徴は怒りだ。恐らく、人間相手に敗走しているという事実が受け入れられずに自暴自棄になって向かってくるのだろう。
 追撃の手が一瞬緩む。
「……ッチ。大将軍は敵を完全に殲滅させるつもりはないのか?」
 テノール(ka5676)が憤怒歪虚を拳で粉砕させる。
 絶好のチャンスというのに幕府軍の動きが遅れているからだ。
 追撃準備を万全と期すつもりなのか、それとも、十鳥城の動きを試しているのか、その真意は紫草にしか分からない。
 次の標的を定めたテノールの前に、斥候を兼ねていたリリア・ノヴィドール(ka3056)が現れた。
「憤怒勢力は古街道を通って、南に向かって真っすぐ進んでいるわね」
 彼女はハンターや幕府軍が追撃しやすいように敵の動きを見張っていたのだ。その意味はあったという事だ。
 敵が憤怒本陣に帰るつもりであれば、南下しなければならないのは間違いない。
「十鳥城の方は?」
「距離が離れすぎて連絡が取れないようなの」
 リリアは魔導スマホを耳に当てながら答えた。
 その時、殿の憤怒数体を稲妻が貫く。
「十鳥城からも戦力が来るらしいけど……挟撃になるか並び立つかは状況次第だよ」
 新たな符を用意しながらシェルミアが追いついた。
 正秋や瞬の事も気になってはいるが、彼らの事だ。他のハンター達と既に行動を起こしているはず。
「アッチを信じて良いと思うわ。ここは私が引き受けるから、追撃を」
 憤怒を刀で突き刺し、払い捨てながらシェルミアは言った。
 追撃は速さが肝心だ。敵に立て直す隙を与えてしまう。
「分かった。ここは頼んだ」
「……無理はするな」
 レイオスとテノールはそう言い残し、追撃を開始した。

●出撃
 その頃、十鳥城から出撃したハンター達と仁々木 正秋(kz0241)が率いる部隊は敵の姿を探していた。
 ユリアン(ka1664)は集中していた意識を戻す。
「……憤怒甲冑を見つけた」
 イヌワシの視覚を共有して、大空から偵察を行っていたのだ。
 ただし、見つけたのは可笑しなものであった。
「陣みたいなものを作っていたようだけど……」
「陣? 拠点があるのに?」
 通信機越しに聞こえてきたのはアイビス・グラス(ka2477)の声だ。
 拠点を攻め寄せているはずの幕府軍の動きは分からない。距離が離れすぎていて通信が届かないからだ。
「拠点が落ちたから、急いで陣を作っている……とは思えないね」
 イヤリングに手を当てながらアイビスは首を傾げた。
 それにしては陣を作るタイミングが可笑しい。
 ユリアンは北の方角を見つめる。
「不測の事態に備えて、俺達をフリーにしたのは……」
「紫草さんは何か考えてるみたいだけど、私達は目の前の事を片付けないとね」
「敵陣のおおよその位置を真白さんや皆さんに伝えてられますか? 俺は敵の動きを見張っています」
 憤怒歪虚が何か企んでいるとユリアンは見たようだ。アイビスは通信を返す。
「任して。その情報、仲間達に必ず届けるから」

 敵陣発見の報は十鳥城から出発したハンター達にアイビスから伝えられた。
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)が巨大な魔斧をドンと大地に降ろす。
「出し忘れでもねぇ作戦指示に……こりゃ、どうなっていやがるんだ」
「困りますね。何か考えがあるのだと思いますが……思い付きません」
 唸るように追随したのは鳳城 錬介(ka6053)だった。
 錬介は周囲の景色を見渡し、敵らしき影がない事を確認してから言葉を続ける。
「とにかく出来ることをしましょうか。高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する、というやつですね」
「……ま、案外、紫草は俺等がどう動くか見てるとか、そんな理由かもしれねぇな」
 考えても答えが出る事でもない。
 斧を肩に担ぐと横に並んだ十鳥城の侍の背中を力の限り叩いた。
「細けぇこたあ考えずに、いっちょ暴れてやろうぜ正秋! って、なんだ瞬の方か」
「マジ、背骨折れるかと思ったぜ……」
「正秋はどうしたんだよ?」
「別のハンターと話していたぜ、ほら」
 瞬が指さした方向には、仁々木 正秋(kz0241)と龍堂 神火(ka5693)が居た。
 今回、十鳥城側からのハンターの数が多い。ならば、戦力的なバランスを保つ為、非覚醒者を中心に龍堂に預ける事にしたのだ。
「よろしくお願いします」
「幕府軍は拠点の南側を開けて包囲していたそうで、わざと南に抜けさせたい……のかなと思います」
 逃げる相手を背後から追撃するのは、自軍の被害を少なくするには意味があるだろう。
「なるほど……つまり、消耗を抑えながらの追撃戦……」
「無理はしないで下さいね……この戦いで全部終わる、ってわけじゃ無いと思うので……」
 正秋に告げながら龍堂はカードデッキを確認する。
 なるべく、非覚醒者には遠距離戦に徹してもらう予定なので、当然、彼も術で遠くから戦いに参加する事になる。
 遠距離からの射撃戦になるのはミオレスカ(ka3496)も同様だった。
「正秋さん、馬の手配、お疲れ様でした」
「皆さんの的確なアドバイス、ありがとうございます」
 十鳥城の兵力も遊撃部隊として動くなら機動力の確保は絶対だったからだ。
 さすがに全員分の馬を用意するのは大変だったが、成し遂げた正秋の実力という事だろう。
 ちなみに別のハンターに言われた事もあり、正秋の心の中では、騎馬隊を作ろうと思っていた。転移門が無い以上、高機動力の兵種は必要だ。
 組織化されれば、十鳥騎馬隊とでも命名するだろうか。
「後方から援護しますので、正秋さん達は、存分に」
「助かります」
 正秋は物凄く丁寧に頭を深く下げる。
 前衛職は移動に徹しないといけないタイミングが生じる。そこを後方からの射撃で敵を牽制するのは前衛に立つ身としては頼もしい限りなのだろう。
 仲間達よりも一足先に進んでいた不動 シオン(ka5395)が敵陣を遠くに見つけた。
 連絡通り、柵と土塁で陣地を構築しているようだ。
「拷蛇直属の精鋭部隊なら、じっくりと私を楽しませてくれるのだろうな?」
 ニヤリと口元を緩め、シオンは愛刀の柄に手を触れる。
 彼女が欲しているのは、凶暴なる敵。望むは、残酷なる死闘。
 この餓狼に安息の時間はないようで、馬に乗らない彼女はジリジリと陣へと近づく。
「奇襲がもっとも効果的か。あとは、タイミングだけだ」
 側面あるいは後方からの襲撃になるだろうが、それだけだと決定打にも欠けるかもしれないからだ。

 静かに陣地に接近するのは、葛音 水月(ka1895)とステラ=ライムライト(ka5122)も同様だった。
 二人で身を寄せ合いながら、敵に見つからないように進む。自然と身体がくっつくが、気にするような状況でもない。
「紫草さん何考えてるのかな……あんまり考えずに叩き斬れ、ってことかな?」
 顔を寄せながらステラが水月に尋ねる。
 東方最強の侍であり、滅亡しかけたエトファリカ連邦国を救った策士でもある紫草の考えは、彼女には読み切れなかった。
 分かっている事は、とりあえず、憤怒を殲滅すれば良い事だ。
「そういう仕事だから……僕らは、僕らの仕事をしよーか」
「そうだよね! 深くは考えずに敵を倒すこ――」
 ステラの台詞は最後まで続かなかった。
 水月が手で彼女の口を押えたからだ。
「声が大きいよ」
 ニッコリと笑いながら注意する。見つかったら奇襲にならない。
 真剣な表情でステラはコクコクと頷く姿に、彼女の身は必ず守ろうと心の中で誓う水月であった。

●通信
 ザ、ザーとノイズの中、確かにリリアは声を聞いた。
 今は拠点から憤怒を追い出し、追撃中。もうじき、追いつくところであった。
「……ユリアンさん!」
「リリアさん、繋がって良かったです」
「それだけ、幕府軍の追撃部隊も近付いたって事ね。憤怒を拠点から追い出して、ここまで追撃してきたのよ」
 やや早口でのリリアの説明に被せるようにユリアンは告げた。
「憤怒がこの先にで簡易的な陣地を構築している」
「え……陣地。それって……」
「追撃隊の面々に知らせて欲しい。下手に突撃すると、逆襲に合う可能性も」
 敵陣の位置を知らせるユリアン。
 少なくとも敵の懐に無防備に飛び込む事は無くなった訳だ。
「十鳥城からの戦力は?」
「敵陣の背後に回っている最中です。なので、こっちから突けば、敵も驚くはず」
 最初から狙っていた訳ではないが、偵察とハンター間の情報共有が大きな成果を呼び込む事になりそうだった。

●計略
「よし、ステラ!」
「うん!」
 水月とステラの二人が敵陣の背後にギリギリに近づいた状態から獲物を振り上げた。
 敵は拠点から敗走してきて一息つく前であったようで、立ち塞がる憤怒甲冑の反撃は散発的だ。
「いっけぇぇ! 次元斬! まとめて切り刻んじゃえ!」
 空間に広がるステラの斬撃。
 敵は北側からの追撃を気にしているだけあって、背後を突かれた憤怒の動きは明らかに緩い。
 その状況をより確かめようとして疾影士の力を使い突出する水月。
 ステラが慌てて援護に入る。もっとも、水月にとっては多少、孤立した程度で大した事ではないのだが。
「水月は私のもの! 触んないで!」
「僕は大丈夫だから熱くならない。落ち着いて?」
 ぷくっと頬を膨らませるステラ。
 水月は彼女を安心させるように、トンと肩を叩いた。そして、周囲の状況を見渡す。
 視界の中、ボルディアが憤怒に負けない苛烈な炎のオーラを全身から放ちつつ、憤怒甲冑を斧で粉砕していた。
「こんな所で引き籠もってるんじゃねぇぞ!」
 強力な一撃が振るわれる度に、憤怒甲冑が一体、また一体と消えていく。
 その傍を素早い身のこなしでアイビスが跳ねる。
「追撃していた幕府軍が北側から攻め寄せているようね」
「へっ! すげータイミングじゃねぇーか」
「敵はまさか、背後から襲われると思っていないから、体勢を整えられる前に、強襲あるのみ!」
 ボルディアの大斧が大振りに振るわれる。
 柵も土塁も関係なしに破壊していく様相は、どっちが化け物か分からない程だ。
 しかも、大振りになって隙を生じても、アイビスが素早くフォローに入り、付け入る隙を与えない。
「これでは物足りん。数の暴力で私を苦戦させてみろ」
 シオンもまた刀を振るって憤怒甲冑を切り刻んでいた。
 幾本もの炎に包まれた矢が飛来するが、それらを冷静にシオンは避け、あるいは払い落す。
「飛び道具ではなく、獲物を持って私にかかってこい!」
 おそらく、陣地で幕府軍の追撃の勢いを受け止め、そこを弓や銃などで反撃するつもりだったのだろう。
 背後からの奇襲に敵が混乱している証拠だ。
「まだまだ足らないぞ!」
 大声で叫ぶシオンを援護するように、後方から銃弾や矢が雨のように降り注いだ。
 龍堂とミオレスカが十鳥城の非覚醒者達と共に援護射撃を繰り返しているのだ。
「拠点の南側を開けていたのは、やっぱり、敵を敗走させる為かな」
「わざと……ですか」
 次弾を装填しながらミオレスカが龍堂の推測に応えた。
 同行している十鳥城の兵達に次の斉射タイミングを伝えつつ、龍堂は頷く。
「だけど、敵もそれは“分かっていた”。だから、ここで陣を用意して待ち構えた」
「幕府軍の追撃部隊を逆襲する為なら、確かに」
 それならば、拠点があるにも関わらず、陣地を構築していた理由になる。
 もし、十鳥城から出撃したハンター達が居なければ、敵陣地を発見していなければ、恐らく、幕府軍の追撃部隊は大きな損害を受けていただろう。
「それなら、ここが正念場という事ですね」
「えぇ、そういう事です」
 ミオレスカは銃口を、龍堂はカードを取り出した。
 目につく憤怒甲冑に狙いを定めていく。
「思いっきり暴れていいのなら、やりやすいぜ!」
 後方からの射撃で怯んだ憤怒歪虚の群れに対して、文字通り、突撃するボルディア。
 結局、計略というものは前線での動き次第という事になる。机上の空論では意味を成さない。
 確実に敵の裏を突いているのだ。ここは徹底的に叩き潰さなければ、折角のチャンスを無駄にする。
「正秋隊も深く突入したようね」
 ボルディアの背を守りながらアイビスが呟く。
 挟撃だけでこちらの作戦が終わっては意味がない。一部部隊は合流して敵を分断し、各個撃破できれば、より戦果を得られるというものだ。

●強襲
 敵陣の後方から奇襲を仕掛け、混乱した隙を突いて、第二陣が深く抉る。
 今のところ、戦闘の経過は銀 真白(ka4128)が狙った通りとなっていた。
「将軍殿の意図は読めずとも、憤怒殲滅が目的とあらば、その様に動けば自ずと結果が出る筈」
「十鳥城側の戦力は寡兵……敵の真正面からぶつかるのは得策ではないからとの奇襲作戦だったが……」
 思った以上の状態になっているようだと七葵(ka4740)は続けながら、刀にマテリアルを集中させた。
 正秋が対峙した憤怒甲冑を側面から斬りかかる。
「お見事な作戦でした」
 意図して行うのは難しく、幸運もあってこその結果だが、結果は結果だ。
 戦場では何が起こるか分からない。そして、この不定要素こそ、ハンター達の役割であったかもしれない。
「かの将軍の意図ね……まぁ、私達が“どう動くか”なんて、既に織り込み済みじゃないかしらね」
 ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が真白と七葵の会話を聞いてそんな感想を呟く。
 同意するように真白は頷いた。
「私達ならきっと、将軍殿や拷陀の意図しない事も、出来ると」
「目的が敵の殲滅であれば、それに適った動きをすれば、後は俺達を信じたという事か……」
 ぶつかるように憤怒甲冑を降魔刀の刀先で貫きつつ、七葵が言う。
 別方向から飛来してきた槍の穂先を身体を捻って避ける。即座にユーリが槍の柄を叩き斬った。
「後は、味方の損失を少しでも抑えれば良い。なら、やる事は至極単純よ」
 頭を使う事はここまでだ。ここから先はハンターとしての戦闘力を最大限に発揮すればいい。
 蒼白の光を放つ蒼姫刀を高く掲げると、次の瞬間、彼女は憤怒甲冑の群れへと飛び込むとマテリアルで出来た白銀の雷を咲かせる。
 三人が道を開いて出来た空間にミィリア(ka2689)が正秋と共に身体を飛び込ませる。
「やれることを精一杯やれば、思惑わからずでも後からついてくるものがあるはず! で、ござる!」
「はい。力の限りに戦います!」
 二人が体内のマテリアルを燃やして、敵の注意を引く。
 ある意味危険な行為だが、勢いはハンター達にある。ミィリアと正秋の二人はめまぐるしく立ち回りつつ、お互いの背を守る。
 寄り集まってきた憤怒甲冑を、後方からの援護射撃と残った正秋隊の面々で一掃すると、拷陀の姿が見えた。

●奮戦
 追撃隊の中に紫草の姿もあった。
 心配するように天竜寺 詩(ka0396)が将軍の背に触れながら言った。
「絶対無理しないでね」
「大丈夫ですよ」
 紫草は病み上がりだった。
 拠点を攻める時に、ハンターに任せたのも、もしかして、まだ影響があったからかもしれない。
「アルマさん、ニャンゴさん、よろしくお願いします。私は魔法で援護しますので」
「大丈夫です! 取り巻きは倒しまくるのです!」
「私なぞ、命尽きるまで存分にやってきます……」
 やや不安が残る二人の反応だが、詩は知っている。この二人であれば、任せて間違いないと。
「では、行きましょうか。一足先にテノールさんが向かっているようですから」
 四人は一緒になって駆け出す。
 拷陀に単騎で戦っている状態のテノールをフォローする為だ。
 しかし、取り巻きの憤怒甲冑が邪魔に入る。
「わぅ、拷陀さんは紫草さんのです! とったらだめです」
 アルマから蒼い炎が出現すると、彼の持つ錬金杖からマテリアルの三角形が現れた。
 その各頂点から放たれた光の矢が立ち塞がる憤怒甲冑を直撃する。
「また、威力が上がりました? アルマ」
「分かります?」
 紫草に満面の笑みで振り返るアルマ。分かり易い反応だ。
 嬉しそうに立て続けに機導術を放ち、紫草の為の道を作る。
 そこに別方向から槍衾が紫草を狙う。だが、それらはニャンゴが払いのけた。
「……大将軍に届く刃を、この身で防ぐ事くらいは適うはず」
「こう取り巻きが多いと助かりますよ、ニャンゴさん」
「私のような虫けら以下の存在に、勿体ないお言葉……」
 こちらもいつも通りの反応だ。
 一方、テノールは拷陀の強力な刀捌きを篭手で受け流し、反撃に拳を繰り出していた。
 刀を振るったばかりというのに拷陀は刀を引き戻すとテノールの一撃を受け止める。不可思議なマテリアルの流れが呪いとなって拷陀の刀を包んだ。
「それを待っていた」
「ふん。だが、それは対策済みだ」
 拷陀は武器を炎と変えてみせると、新たな炎を生み出し、そこから、別の刀を引き出した。
「別に構わないさ」
 テノールは驚きもしない。
 彼は妹の為にも、拷陀の持つ隠し玉を出させておくのが目的だったからだ。

●拷陀
 いよいよ、紫草が拷陀と刀を打ち合う。
 敵の取り巻きも必死になって紫草に迫るが、ハンター達もそれを阻止するように動く。
 その時になって、拷陀は背後から襲撃を受けていると知ったようだ。
「後ろからこの規模の襲撃だと……紫草! 貴様らしくもないな。貴重な戦力を無駄にするリスクを背負うなど!」
「残念ですが“これは”私の策ではありませんよ」
 紫草は視線を真白に向けた。
 それも一瞬の事で、すぐさま、激しく刀同士がぶつかり合う。
「……七葵殿、ミィリア殿」
 憤怒甲冑を切り捨てながら真白は二人の名を呼んだ。
 間違いなく、紫草は視線を向けた。まるで、合図かのように。
「タイミングを見計らって割り込むべきだな」
「一騎打ちでないなら、問題ないでござる!」
 視線を受け取ったのは七葵とミィリアも同様だった。
 拷陀の包囲が形成されていくが、それは拷陀も分かり切っていた事だった。
「ならば、これを喰らえ!」
 業火を伴いながら拷陀が両手を天に突きあげると辺り一面に、地獄の炎を感じさせる負のマテリアルが噴き出した。
 その力の前には防御力というものは意味を成さない。純粋な負のマテリアルの炎が身体を蝕むのだ。
「慌てる事ではありませんね」
 炎から出現した新手の憤怒甲冑を薙ぎ払い、紫草は刀先を拷陀へと向けた直後の事だった。
「終わりだ、紫草! 我らが怨念、受け取れぇぇ!」
 ハンターが割り込む以前に、拷陀は周囲に噴き出る炎の中へと消えたのだった。
 誰もが声を出す間もなく、次に拷陀が姿を現したのは紫草の足元。
 炎は……飛び移れるというのか。紫草の不意を突いて、鋭利な先端へと姿を変えた腕先の籠手で紫草の急所を叩き込んだ。
「詩さん、行って下さい!」
 仲間に呼び掛けながら、崩れ落ちた紫草から負のマテリアルを浄化する為、錬介が聖導士の力を行使する。
 致命傷を受けたようにも見えるが、今は出来る事を行うしかない。
 間に合うかどうか分からないが、意識を集中させ、回復魔法を唱える準備に入る。
「確実に急所に叩き込んだぞ! 紫草は死んだ!」
「だとしたら、代わりに私が、この身と刃を以て、貴方のその首獲りましょう」
 トドメを差される前にユーリが強引に割り込んだ。
 だが、負のマテリアルが確実に彼女を侵食していく。錬介は仕方なく、準備していた回復魔法から浄化魔法へと切り替える。
 汚染の元が解消されない限り、身体を浄化しても再び、負のマテリアルの炎によるダメージを受けてしまう。
「これ以上は好きにはさせない」
 七葵が斬りかかるが、炎が壁として出現した。
 それを力尽くで抑え込むと、その隙間にミィリアが飛び込む。
「ここで討ち取るでござる!」
「無駄な突撃だ! それで、侍のつもりか!?」
 身体を張っての突貫だったが、拷陀はユーリに振った拳を返し、ミィリアを地面へと叩きつけた。
「なに!?」
 拷陀が驚いた。ミィリアの背後から真白が刀を構えて突撃してきたからだ。
 最初から、それが三人の狙いだったのだろう。
「真白殿!」「真白!」
 仲間からの呼び掛けと共に、刀を突き出し、真白は地面を蹴った。
 燃え盛る炎の鎧を貫くと、その衝撃で、間合いを取る拷陀。
「……なぜ、動ける、紫草!」
 拷陀の視界の中には膝を付けて立ち上がろうとする紫草の姿があった。
 急所を狙った一撃だったが、アルマのアンチボディが役に立ったのだ。
 庇うように詩が紫草の眼前に立ち、それを見て拷陀が叫ぶ。
「貴様らは紫草にこき使われる哀れな存在なのだ! そこをどけ!」
「例えそうだとしても、役に立ちたいって思ったのは私自身の意思だよ! 貴方にどうこう言われる事じゃない!」
 死んでもどかない。
 そんな気迫の彼女の肩を、立ち上がった紫草がポンと触れた――ありがとう――そんな言葉を静かに告げながら。
「……おのれ、おのれぇぇ!」
 切り札、あるいは隠し玉を使い切ったのだろう。
 悔しがり、怒りに包まれた拷陀は、配下の憤怒甲冑もほぼ倒されたのを見て敗北を悟った。
 ハンター達を睨み、炎と共に消えて逃げ去ったのであった。


 ハンター達の活躍もあり、憤怒拠点を攻め落とし、追撃戦を有利に進めた。
 幕府軍の損害は想定以下であり、紫草の負傷は大きくなく、憤怒の勢力域を押し返したのであった。


 おしまい。


●拠点
 追撃戦を他のハンターや幕府軍に任せ、カズマは拠点内を調べていた。
 結局、拠点防衛の兵器はあったが、罠の類は無かった。
「罠は無いか……敵の数が多かったのは罠より兵力の回復に努めたからか?」
 口元に手を当ててカズマは疑問を口にしたが、答えるものはいない。
「ここは負のマテリアルの汚染が強いな……」
 浄化の必要もあるだろう。そう思いながら、カズマは南東の方角を見つめる。
 そこの空は真っ黒な雲に包まれていた――。

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MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエka1664
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラスka2477
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドールka3056
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白ka4128
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901
  • ―絶対零度―
    テノールka5676
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介ka6053

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • Monotone Jem
    ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドール(ka3056
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 甘苦スレイヴ
    葛音 ステラ(ka5122
    人間(蒼)|19才|女性|舞刀士
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2018/07/06 01:27:37
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/07/03 21:04:58