ゲスト
(ka0000)
【東幕】拷陀討伐戦
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/07/28 09:00
- 完成日
- 2018/08/06 20:00
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●???
荒野を突撃将軍“拷陀”が僅かな取り巻きと共に駆けている。
目指すは憤怒本陣。一先ずはあそこに戻って体勢を整える必要があるだろう。
「おのれ、紫草! ハンター!」
轟々と炎を噴出させており、その怒りは冷めていないようだ。
憤怒歪虚の中には、怒りに耐えきれず、自暴自棄となって人間に向かっていく者も多い。
ある丘を登ったところで、拷陀は足を止めた。
そこには、耳のようにぴょんと立っているような髪型が特徴の美女の姿をした歪虚が立っていたのだ。
「狐卯猾様……」
すぐに頭を下げる拷陀。
「この度は申し訳ございません! 必ずや立て直し――」
「いいのよ、拷陀。むしろ、“目的”は達したのだから、よくやったわ」
拷陀の台詞を狐卯猾は遮った。
幕府軍との戦力差を考慮すれば、困難だっただろう。幕府軍が慎重である事も、狐卯猾にとっては幸運だった。
「し、しかし……」
グググと拷陀は拳を握る。
紫草を後一歩という所まで追い詰めたのに、この状況だ。怒りが込み上げて来ない方が可笑しい。
「それなら、逆襲を許可するわ。拷陀は役目を果たした。後は、思うがままに怒りをぶつけなさい」
「よろしいのですか?」
「憤怒王として感謝している。拷陀が戦うというのならば、本陣に残っている戦力を増援として送るわ」
「必ずや、幕府の追撃隊を返り討ちにします!」
背をビシっと伸ばす拷陀に狐卯猾は微笑を浮かべ、踵を返した。
(全ては私の思惑通り)
ニヤリと口元が歪む。“目的”を達成した以上、拷陀は用無しだ。
問題があるとすれば、幕府軍が憤怒本陣に今、攻めて来られる事だが、拷陀が逆襲に出れば、その心配もないだろう。
●追撃隊後方陣地
拷陀が構築した拠点に最低限の兵力を残し、足の速い部隊を中心とした追撃隊が編制された。
その中には、馬が揃っていた十鳥城の軍勢も合流している。
「将軍様。増援となるハンター達が間もなく到着予定との事です」
側近の言葉に立花院 紫草(kz0126)は軽く頷いた。
転移門がある天ノ都から距離が離れている。ハンター達の為に、特別に高速馬車を用意した意味はあっただろう。
「それでは、いよいよ、追撃の総仕上げです。前線の仁々木 正秋(kz0241)にも連絡を入れて下さい」
「仰せの通りに……将軍様もご出撃されますでしょうか?」
紫草は首を横に振った。
どうも身体に違和感を感じてはいるが、それは口にはしない。
病み上がりだった所で傷を受けた事によるものか、それとも、ただ歳を取っただけか。
「拷陀の能力がある程度判明している以上、後はハンター達で十分でしょう」
微笑を浮かべて紫草は側近に答える。
高位の憤怒歪虚ではあるが、倒せないという程、絶望的でもないはずだ。
「憤怒本陣に動きは?」
「斥候からの情報によると、今のところ、動きは見られていないそうです」
「……出て来ますね。敵の増援が」
ピクッと紫草の眉毛が動く。
このまま追撃を許してはその勢いで憤怒本陣まで迫るかもしれないと憤怒側は考えるだろう。
事実、紫草はその想定もしていた。拷陀のような高位歪虚は討ち漏らすと後の脅威となるからだ。
憤怒側も馬鹿ではないだろうから、やすやす、本陣への侵入を許すとは思えない。
そうでなくとも、【蒼乱】時に攻め込まれて本陣を破壊されているのだ。
「拷陀を討伐するように厳命しますか?」
「必要があれば、幕府軍でハンター達をフォローしましょう。損害が出る事になりますが」
こうして、追撃戦は山場を迎える事になった。
●追撃隊
背を見せて逃げ出していた憤怒甲冑共が急に反転。
追撃隊である正秋ら、幕府軍に反撃を開始してきた。
「拷陀まで後少しというのに……」
正秋が太刀を振って憤怒甲冑を腕を切り落とす。
視界の中、荒野にポツンと拷陀が立っている。徹底抗戦のつもりか、その辺り一帯は炎に包まれていた。
「仕方ねぇよ。さっさと取り巻きを倒してしまおうぜ」
親友である瞬も先程から肩を並べて戦っていた。
他にも幕府軍の中から精鋭が集まっている。この様子なら、殲滅も問題ないだろう。
「ハンター達も間もなく到着するっていうし、余裕なんじゃねぇ」
「このまま敵がすんなりと倒されてくれるとは思えないんだ」
「正秋は無駄に真面目なんだよ。相手は手負いだぜ」
瞬はそう言うが、こればっかりは元々の性格にもよるだろう。
それに、正秋はどうしても不安が払拭できなかった。
(憤怒本陣が近い……もし、ハンター達が拷陀との戦闘中に敵の増援が来たら……)
高位歪虚との戦闘中に隙を見せる事は死を意味するだろう。
ハンターも絶対無敵という事はないはずなのだから。
(……拷陀を倒すまでに敵の増援が来たら、その時は……)
心の中で正秋は覚悟を決める。
これまで沢山の事をハンター達に助けて貰ったのだ。ここで命を張れないでどうするか。
(絶対に守る。だから……!)
正秋は全身の力を込めて眼前の敵を切り伏せたのであった。
荒野を突撃将軍“拷陀”が僅かな取り巻きと共に駆けている。
目指すは憤怒本陣。一先ずはあそこに戻って体勢を整える必要があるだろう。
「おのれ、紫草! ハンター!」
轟々と炎を噴出させており、その怒りは冷めていないようだ。
憤怒歪虚の中には、怒りに耐えきれず、自暴自棄となって人間に向かっていく者も多い。
ある丘を登ったところで、拷陀は足を止めた。
そこには、耳のようにぴょんと立っているような髪型が特徴の美女の姿をした歪虚が立っていたのだ。
「狐卯猾様……」
すぐに頭を下げる拷陀。
「この度は申し訳ございません! 必ずや立て直し――」
「いいのよ、拷陀。むしろ、“目的”は達したのだから、よくやったわ」
拷陀の台詞を狐卯猾は遮った。
幕府軍との戦力差を考慮すれば、困難だっただろう。幕府軍が慎重である事も、狐卯猾にとっては幸運だった。
「し、しかし……」
グググと拷陀は拳を握る。
紫草を後一歩という所まで追い詰めたのに、この状況だ。怒りが込み上げて来ない方が可笑しい。
「それなら、逆襲を許可するわ。拷陀は役目を果たした。後は、思うがままに怒りをぶつけなさい」
「よろしいのですか?」
「憤怒王として感謝している。拷陀が戦うというのならば、本陣に残っている戦力を増援として送るわ」
「必ずや、幕府の追撃隊を返り討ちにします!」
背をビシっと伸ばす拷陀に狐卯猾は微笑を浮かべ、踵を返した。
(全ては私の思惑通り)
ニヤリと口元が歪む。“目的”を達成した以上、拷陀は用無しだ。
問題があるとすれば、幕府軍が憤怒本陣に今、攻めて来られる事だが、拷陀が逆襲に出れば、その心配もないだろう。
●追撃隊後方陣地
拷陀が構築した拠点に最低限の兵力を残し、足の速い部隊を中心とした追撃隊が編制された。
その中には、馬が揃っていた十鳥城の軍勢も合流している。
「将軍様。増援となるハンター達が間もなく到着予定との事です」
側近の言葉に立花院 紫草(kz0126)は軽く頷いた。
転移門がある天ノ都から距離が離れている。ハンター達の為に、特別に高速馬車を用意した意味はあっただろう。
「それでは、いよいよ、追撃の総仕上げです。前線の仁々木 正秋(kz0241)にも連絡を入れて下さい」
「仰せの通りに……将軍様もご出撃されますでしょうか?」
紫草は首を横に振った。
どうも身体に違和感を感じてはいるが、それは口にはしない。
病み上がりだった所で傷を受けた事によるものか、それとも、ただ歳を取っただけか。
「拷陀の能力がある程度判明している以上、後はハンター達で十分でしょう」
微笑を浮かべて紫草は側近に答える。
高位の憤怒歪虚ではあるが、倒せないという程、絶望的でもないはずだ。
「憤怒本陣に動きは?」
「斥候からの情報によると、今のところ、動きは見られていないそうです」
「……出て来ますね。敵の増援が」
ピクッと紫草の眉毛が動く。
このまま追撃を許してはその勢いで憤怒本陣まで迫るかもしれないと憤怒側は考えるだろう。
事実、紫草はその想定もしていた。拷陀のような高位歪虚は討ち漏らすと後の脅威となるからだ。
憤怒側も馬鹿ではないだろうから、やすやす、本陣への侵入を許すとは思えない。
そうでなくとも、【蒼乱】時に攻め込まれて本陣を破壊されているのだ。
「拷陀を討伐するように厳命しますか?」
「必要があれば、幕府軍でハンター達をフォローしましょう。損害が出る事になりますが」
こうして、追撃戦は山場を迎える事になった。
●追撃隊
背を見せて逃げ出していた憤怒甲冑共が急に反転。
追撃隊である正秋ら、幕府軍に反撃を開始してきた。
「拷陀まで後少しというのに……」
正秋が太刀を振って憤怒甲冑を腕を切り落とす。
視界の中、荒野にポツンと拷陀が立っている。徹底抗戦のつもりか、その辺り一帯は炎に包まれていた。
「仕方ねぇよ。さっさと取り巻きを倒してしまおうぜ」
親友である瞬も先程から肩を並べて戦っていた。
他にも幕府軍の中から精鋭が集まっている。この様子なら、殲滅も問題ないだろう。
「ハンター達も間もなく到着するっていうし、余裕なんじゃねぇ」
「このまま敵がすんなりと倒されてくれるとは思えないんだ」
「正秋は無駄に真面目なんだよ。相手は手負いだぜ」
瞬はそう言うが、こればっかりは元々の性格にもよるだろう。
それに、正秋はどうしても不安が払拭できなかった。
(憤怒本陣が近い……もし、ハンター達が拷陀との戦闘中に敵の増援が来たら……)
高位歪虚との戦闘中に隙を見せる事は死を意味するだろう。
ハンターも絶対無敵という事はないはずなのだから。
(……拷陀を倒すまでに敵の増援が来たら、その時は……)
心の中で正秋は覚悟を決める。
これまで沢山の事をハンター達に助けて貰ったのだ。ここで命を張れないでどうするか。
(絶対に守る。だから……!)
正秋は全身の力を込めて眼前の敵を切り伏せたのであった。
リプレイ本文
●碧落の矢
ハンター達が拷陀へと向かう。
そんな中、ウィーダ・セリューザ(ka6076)は静かに矢を番えた。
幾何学模様が刻まれた魔法の矢は射程を伸ばす事が出来る。
「憤怒王も討伐されたんだから、さっさと解散してほしいものだ」
純白の弓身が大きくしなるほどに引き絞った。
拷陀との距離は相当、離れているはずなのだが、ウィーダは冷静に相手を見つめる。
体内のマテリアルが視力と感覚に集う――見える。そして、十二分に、矢は届く。
「悪いけど……ここはもう、ボクの間合いだ」
天空に向かって放たれた1本の矢が、戦闘の開始を告げた。
幾度か矢が飛んだ後、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は二の腕の筋肉を浮き出させながら、重機関銃を構える。
本来であれば、生身の人間が扱える代物ではないそれを、全身で確りと固定して銃口を拷陀へと向けた。
「あれが拷蛇か。ここで大威張りするのも今日が最後だ、続きは地獄でするがいい」
燃え盛る甲冑鎧。
仲間からの話によると、憤怒歪虚として高位の実力を持つらしい。
狙いを定めるコーネリアの斜め後ろにニーロートパラ(ka6990)も射撃位置についた。
「障害物の少ないということは、つまり、射線を遮るものが少ないということですよね」
この戦場においてはニーロートパラが言う通り、障害物はほとんどない。
敢えて言うならば、前線に向かっていく仲間のハンター達の後ろ姿が射線の邪魔になる位だが、援護射撃が行われる事が周知済みなので、大きな問題ではない。
「拷陀が属性を持っている場合、炎かと推測しました」
彼が番えた矢は水の力を秘めた魔矢だ。
そして、コーネリアが重機関銃に装填している弾にマテリアルを流し込む。
粉雪にも似たマテリアルが彼女の周囲を舞う。
「あれだけ炎を出しているんだ。試す価値はあるだろう」
二人の猟撃士が水の力を秘めた弾矢を放った。
後方からの援護射撃を受け、ハンター達はいよいよ接近戦に挑む。
その直前、茨のような幻影が広がった。天竜寺 詩(ka0396)が行使した魔法だ。
「拷陀は私達がタチバナさんに利用されていると言ったけど……私には拷陀こそあの狐女に利用されてるように見える」
彼が自らの意思で行っているのであれば、詩としては同情すべき事は何もない。
この場で決着をつけるのみだ。タチバナはそれを望んでハンター達を送り出した。ならば、それに応えるだけだ。
茨の魔法の後に、詩が唱え始めたのは癒しの魔法だった。
辺りは炎に包まれている。拷陀の能力によるものだ。防御力を無視してダメージを与えてくるのに対し、詩はお守り片手に癒しの力を使う事を選んだ。
その時、男女の歌声が戦場に流れる。ただの歌ではなく、奏唱士が持つマテリアルが籠った歌だ。
抵抗力を上げる力があるので、拷陀の能力に対抗できる。
「拷陀は武人でもあるだろうが、将だ。兵を扱うことで別の目的を狙っているかもしれないからな。注意は必要だろう」
「ったく……もう十分暴れただろうによ。だが、これでネングノオサメドキ、って奴だぜ」
歌っているのは龍崎・カズマ(ka0178)とボルディア・コンフラムス(ka0796)の二人だ。
二人とも戦闘力は十分に高いが、それでも仲間の支援を選択した。
そして、それは間違いでは無かった。敵は拷陀一人。敵のサイズが大きいならばまだしも、同サイズでは一度の攻撃で接近できる人数に限りがあるからだ。
「後衛支援っつても、戦ってない訳じゃねーからな」
ボルディアの言葉に詩とカズマは頷いた。
「戦うって決めたからこそ、私は私の役目を果たすよ」
「湧いて出てくる憤怒甲冑もいるだろうしな」
燃え盛る炎の中、揺らめくように憤怒甲冑が次々に姿を現した。
●友に捧げる雪柱
拷陀が召喚した憤怒甲冑を蹴散らしながら、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が一気に距離を詰めた。
「敵将は眼前……とはいえ、向こうも何の手立ても無しに待ち構えてるとは思えない」
「色々と厄介な能力ばかりね」
ユーリの言葉に応えたのはアイビス・グラス(ka2477)だった。
高位の憤怒歪虚なだけあって、拷陀が持つ力は脅威だ。
「でも、ここで討たなければ戦局は向こうに傾く可能性があるから、全力を以てここで討つ!」
「そういう事で、どの道、この戦場じゃ奇襲もできないのから、真っ向から挑むだけよ」
二人が立ち位置を目まぐるしく入れ替えつつ、突出。
憤怒甲冑の脇から抜け出すと、ユーリが愛刀を突き出した。
雷の如く放たれるマテリアルの一閃。それを真っ向から受け止めながら、拷陀が燃え盛る負のマテリアルの塊を投げつけた。
それをアイビスがパリィグローブで弾き落とす。
地面に落着した負マテの塊が爆発を起こし、二人は間合いを取った。
燃え上がった炎が収まるよりも早く、一人の侍――銀 真白(ka4128)――が拷陀へと肉薄する。
「この期に及んで取り逃がす訳にはいかぬ。ここで討ち取るぞ、拷陀」
「また、貴様か!」
刀と刀が打ち合う。
その火花が周囲の炎を呼んだのか、より一層、『憤怒の飛火』を燃え上がらせる。
直後、拷陀の背後に回った七葵(ka4740)が鋭い一撃を叩き込んだ。
そのまま駆け抜けると、真白の背後に延びた炎を陣羽織で振り払う。
「真白殿の援護には俺が入る」
「七葵殿、頼んだ」
二人は視線を合わせる。
この攻勢はハンター達の“奥の手”を隠す為のものだ。同時に相手の力を見抜き、排除する時間でもある。
だが、いつまでもという訳にはいかない。時間差を設けてしまえば敵に悟られる可能性があるからだ。
「行くぞ!」
七葵の持つ刀の先が眩く光った。
拷陀が二人の気迫を感じ、刀を一振りする。
「我輩に挑んだ事を後悔させてやろう!」
再び、炎の中から憤怒甲冑が現れた。
真白の影からユリアン(ka1664)が飛び出した。
疾影士としての力を使って隠れ潜んでいたのだ。
「正秋さん達に負担が行かない様に、この一太刀を」
マテリアルの羽根が舞う中、彼の刀が拷陀を捉える――が、後少しという所で、拷陀が持つ刀によって受け止められた。
「これが通じるの事は、分かっているんだ」
「また、その力か。だが、我輩には無意味だとも分かっているだろう」
不可思議なマテリアルの流れが、拷陀が持つ刀を包んだ。
その武器を能力の使用条件に指定できなくさせる疾影士の力だ。
拷陀は一度、自身の炎を鎮め、再び燃焼させる。そうする事で、付与されたステータスを無効化する事ができるのだ。
そこへ円形の投擲武器がかすめ飛んで行った。
リリア・ノヴィドール(ka3056)が放ったものだ。
「乗り掛かった舟、最後まで付き合いますなの」
「幾つでも幾らでも、我輩を弱体化させる事はできない!」
彼女が投げた投擲武器には毒のマテリアルが込めてあったのだ。
例え毒になっても拷陀には通じない。バッドステータスは無効化するから。
だが、二人の狙いはそこには無かった。付与したステータスが解除されてしまうのは分かっている事。観察したい事はその先にあったのだから――。
戦場に召喚された憤怒甲冑が増えてきているが、不動 シオン(ka5395)とニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)の二人の活躍もあり、拷陀と戦うハンター達の背後は守られていた。
「楽しみに待っていたぞ、貴様の首を叩き落とすその日をな。私のために血肉湧き踊る最高の戦場を作れ」
憤怒甲冑の1体を足蹴りして吹き飛ばし、刀先を拷陀に向ける。
一瞬、開いたスペースに突撃する事も出来たが、シオンは無理をしない。
ごり押しを避けてヒット&アウェイに徹する。
「此処までくれば拷蛇との無慈悲なデスマッチを存分に楽しむまで!」
今度は刀を振り回し、寄せ集まってくる憤怒甲冑を払う。
バランスを崩した憤怒甲冑の胸鎧を魔剣で貫き、払い捨てしつつ、マテリアルを込めるニャンゴ。
(今回の最大の敵は突撃将軍以上に、短期決着をと焦る心だと思料致します)
数で押し切れるという慢心が危険を呼び込む場合がある。
「一気呵成に仕掛ける場面で、余計な邪魔が入らないようにするのが一です」
だから、ニャンゴは憤怒甲冑の排除を優先した。
魔剣を振るいマテリアルの衝撃波を戦場に乱舞しながら、ニャンゴは炎の中を憤怒甲冑を倒し続けた。
今のところ、『憤怒の飛火』に焼かれる続けるハンターはいない。
抵抗力を上げる歌の力が効果を発揮させている事もあるからだ。
「憤怒甲冑がここまで来ているか」
カズマは囲まれても慌てる事なく蒼機剣を操る。
必要に応じ、歪虚の動きを阻害する歌に切り替えようかと思ったが、少なくとも、現状は抵抗力をあげる事に専念した方が良さそうだ。
(拷陀が居る場所が特段、負のマテリアルが強いという訳じゃない……か)
アクロバティックな動きで身体を回転させて憤怒甲冑の攻撃を避ける。
気が付けば四方を囲まれたが、刹那、後方の一体が踊るように跳ねて消え去った。
「永遠に燃え続ける炎などあるものか。さっさと灰になってしまえ!」
砲身が焼き付けてしまうのではないかと思うほどの勢いでコーネリアが銃弾を叩き込んでいた。
幸いな事に、コーネリアが居る場所は拷陀の炎は届かない。
拷陀にとっては遠距離職は目の上のたんこぶなのだろうが、前衛と近接戦となっている以上は直接、手の出しようがない。
だから、憤怒甲冑が向かってくる事は予測済みだった。
「灰となって消え去れ!」
トリガーを引きっぱなしで、次々に迫る憤怒甲冑に砲身を向ける。
万が一、接近戦になったとしても、撃退できる自信もある。
接近してくる憤怒甲冑はコーネリアに任せ、ニーロートパラは拷陀への射撃を続けていた。
「優先すべきは、可能な限り早急に拷陀を討伐することです」
憤怒本陣から敵の援軍が出撃してくる可能性をハンター達は教えられている。
もっとも、敵援軍が現れたとしても幕府軍がフォローする事になっているのだが……損害を減らす為にも、拷陀の能力を鑑みれば、短期の決着は必然だ。
「長引けば、その分、消耗が激しくなることは明らかですから」
ただ攻撃するだけではなく、前衛の動きを見て、必要であれば支援の為の射撃も放つ。
射撃を繰り返す後衛の傍を“第二陣”が駆けていった。いよいよ、大一番の時だ。
第一陣が敵の気を引き寄せ、第二陣が必殺の総攻撃を行う。
これが、ハンター達の大まかな作戦であった。だが、『憤怒の飛火』が第二陣の面々に移りそうに見え、真白は焦った。
ここで流れが取られると、作戦に大きな支障がでるから。万が一にも討伐が遅れれば、幕府軍に被害が及ぶ――最悪、彼らの壊滅もあり得る。
「拷陀! いざ、尋常に!」
「力の差も分からぬ愚か者め!」
だから真白はわざと、炎に包まれた。僅かでも敵の気を引くためだ。
それなりにあった間合いを飛び越して、拷陀が真白の華奢な身体に刀を突き刺した。
「うおぉぉぉぉ!!」
そこへ愛刀と一つとなった七葵が突貫して、拷陀を吹き飛ばす。
真白は力が抜けたようにその場で崩れ落ち――七葵が支える。
一目でわかった。真白はもはや、戦闘不能な状態だ。彼は素早く薬を取り出す。
追撃を仕掛けようとした拷陀の前に、ユリアンが颯爽と割り込んだ。
「見ていましたか? リリアさん」
「もちろんですわ、なの」
『憤怒の飛火』の能力により付与されるバッドステータス。
それを受けた者に、拷陀は瞬間移動が可能なのだ。その仕組みをユリアンは見抜いた。
「憤怒炎上をトリガーにした疾影士のチェイシングスローに似ていますね」
それは投擲した武器に自身のマテリアルを紐づけて移動するスキルだ。
『憤怒の飛火』により炎上した負のマテリアルと自身の負のマテリアルを同調させて飛ぶのだろう。
「チェイシングスローは投擲武器が媒介となる。なら、『憤怒の飛火』の炎そのものが瞬間移動の媒介になっているはず」
「みんなに伝えて来ますなのね」
大事な情報も仲間に伝わらなければ意味はない。
拷陀の能力の解明と注意点。そして、『憤怒の飛火』そのものを解除すれば、奇襲攻撃はあり得ない。
リリアは第二陣や後衛に向かって駆け出した。
●女子力開花宣言
発煙手榴弾の煙が漂う中、カイ(ka3770)が潜みながら様子を伺っていた。
第一陣は狙い通り、その役目を果たした。
今は第二陣がいよいよ敵と接敵する。拷陀は反応が遅れているのか、代わりに憤怒甲冑が幾体か姿を現した。
「他にも奥の手があるかもしれないか」
それが何かは見当がつかないが、警戒しておいていいだろう。
「後は、飛び出るタイミングか……間違えると意味ない」
大事なのは第二陣の“ある事”だった。
その為の作戦なのだ。だから、彼はタイミングを見逃さずに戦場を注視していた。
なにせ、その機会はたった一度しかないのだから。
憤怒甲冑を払いのけ、ハンス・ラインフェルト(ka6750)が拷陀の間合いに入った。
「ようやく辿り着きましたよ。対価を払ってもらいたいですね」
勿論、支払いは拷陀自身である。
呼吸を整えてハンスは聖罰刃を突き向けた。
対して、拷陀は猛烈な炎を周囲に放つ。
「あつっ、物騒過ぎじゃないかな……!?」
炎をギリギリで避けつつ、ステラ=ライムライト(ka5122)がそう言った。
あの炎を受けてしまえば『憤怒の飛火』と連動してきっと、良くない結果になりそうだ。
もし、バッドステータスが付与されるような事があれば、仲間に助けて貰うしかない。
その代わりと言ってはなんだが、ステラは戦う事が出来る。ビュンビュンと軽快に刀を振るった。
「ここまで追い詰めた。もう、逃がさないんだから!」
「雑魚共が何人集まっても無駄だ」
今一度、炎を噴出させようとした拷陀の前に霧島 百舌鳥(ka6287)が立った。
「やぁ拷陀君! ボクは紫草君……は流石にド失礼か。立花院将軍の友人の代打と言うべきかな!」
「ふざけた奴め。紫草に関わりがあるなら、貴様から始末してくれる!」
ガウスジェイルを使うまでもない。
拷陀の強烈な一撃が彼を襲った。槍と防具で止めたが、拷陀の勢いはそれを上回った。
「荒事は専門外だからねェ!」
要は敵の気が引ければいい。
どんな強力な能力を持っていても、使わなければ意味がないのだから。
霧島が受けた傷は、和住晶波(ka7184)によって、すぐさま回復した。
「俺自身戦力にはならないが……これでも出来る事は、全てしていくつもりやさかい、よろしゅうに」
彼も紫草に縁がある人の繋がりでこの戦場に立っている。
戦場を見渡し、怪我をしている仲間が居れば、回復魔法を使う。
「俺は攻撃はできへん……せやから、というわけでもないが、回復はできうる限り受け持たせてもらう」
短期決戦である以上、攻勢を強めるのは当然だ。
しかし、無傷という訳にもいかない。拷陀の能力も、憤怒甲冑の攻撃もある。だから、戦い続ける為には回復も重要な役割なのだ。
「また湧いて出来ましたか。仕方ありませんね」
素早く愛刀を構えなおすハンス。
憤怒甲冑が懲りずに召喚されてきたからだ。
レイア・アローネ(ka4082)が魔導剣を豪快に大振りした。
攻撃を外した訳ではない。セレスティア(ka2691)やディーナ・フェルミ(ka5843)を守っての事だ。
優れた回復役である二人であるが、それ故に敵にも狙われやすいのだ。
「まだ食い止められる」
そう告げると魔導剣にマテリアルを込めた。
回復の間、時間を稼げばいいのだ。レイアの背後では、セレスティアがリザレクションを真白に行使していた。
極めて高位の法術だ。戦闘不能となった者を立ち直す事ができる。
「もう少しで終わります」
集中を続けながらセレスティアは言った。
幾度も戦闘不能から回復させる事はできないが、一度でも戦闘不能状態から復帰できるのは大きい意味を持つ。
特に、今回のように、圧倒的な攻勢が必要な場合は猶更の事だ。
「ここで拷陀を倒すの。でも、誰も欠けないで生還するの絶対なの」
ディーナもリザレクションが使えるが、今は不可思議な機械球を用いて、浄化魔法を使っていた。
狙い通り、『憤怒の飛火』の炎が消え去っていく。
あの負のマテリアルの炎は、ある種、汚染のようなものなのだろう。
「これで、瞬間移動が出来なくなるの」
「それだけじゃない。憤怒甲冑の召喚も、継続ダメージも無くなる」
憤怒甲冑を始末しながら、レイアが補足した。
敵の能力を封じれば、それだけ戦いやすくなる。
「可能なら、総攻撃の前に、できるだけ『憤怒の飛火』の炎を消しておきたいです」
リザレクションを唱え終えたセレスティアが呼吸を整える。
『憤怒の飛火』を残しておくと、敵が逃げてしまう可能性もあるからだ。狙っている総攻撃が一度だけしか使えないとなると、念には念を入れたい。
「怪我人をある程度、回復させたら、浄化魔法に切り替えます」
「その間は、私が回復に回りますの」
二人の聖導士がまさに第二陣を支えていた。
岩井崎 旭(ka0234)がゴースロン種のシーザーと共に戦場を駆ける。
人馬一体となった彼を包むようにマテリアルが周囲に広がった。
霊闘士としての力で自身と仲間を支援しつつの突撃だ。
「突撃将軍か、面白れぇ! それじゃあ、いよいよ負けられねーな!」
魔斧を振り上げ、行く手の邪魔をする憤怒甲冑へ叩き込んだ。
腕の筋力のみで斧を素早く引き上げる。
「行くぜシーザー! 攻撃した勢いを落としていられるかよ!」
愛馬は主の意図を読み、駆け出す。
その後ろをミィリア(ka2689)が魔導バイクで付いて行っていた。
第一陣の戦闘状況を太刀を振るって様子を見ていた。
そして、機会が訪れた。アサルトライダーズの隊長が身体を張って道を切り開いてくれた。
「行きます、でござる!」
全身に込めたマテリアルを両手いっぱいに広げ、天を仰ぎ見た。
この瞬間、ミィリアが持つ心の刃が、拷陀の動きを阻害する――はずだった。
「!?」
狙った行動が思うように発動しなかった。
それでも強引に彼女は体内のマテリアルを活性化させて放つ。桜吹雪が拷陀を取り囲んだが、それも一瞬の事。
確実に掛けるには強度がやや不足したか……。
「易々と術に掛かると思うな!」
拷陀が吠えると周囲の炎がより一層、燃え上がった。
ここまで来て、作戦を失敗させる訳にはいかない。ミィリアは今一度、先程の力を試す。
飛翔音を響かせながら、矢が降り注いだのは、ちょうど、そんなタイミングだった。
「言ったよね、ここはボクの間合いだって」
援護射撃を飛ばしてきたのはウィーダだった。
拷陀の能力について仲間からの連絡を受けた直後だ。飛火による瞬間移動を抑え込めれば確実に作戦が成立する。
「ボクからは逃げられない」
マテリアルを込めて放たれた矢は、光の雨となって拷陀に直撃。
確実に拷陀の動きが鈍くなった所で、ミィリアが背に担ぐ刀の柄を右手で構え、左腕を突き出す。
桜の花びらが一重、二重……と渦を巻いた。
「これが、今季一番の女子力でござるぅ!」
一瞬、集束したような桜吹雪が爆ぜると一帯に広がった。
「ぐ……炎が、俺の炎が出ないだと!」
驚愕する拷陀。
ハンター達の作戦がここに成立した。
瞬間移動できなければ、奇襲攻撃する事も、逃げ出す事も出来ないからだ。
●騎士の王の力
戦況の行方を見て、自然とハンター達はリュー・グランフェスト(ka2419)の周囲に集まってきた。
「ついに拷陀との決着の時。リュー、私の持てるありったけの力をお前に託そう…!」
支援役を守り続けていたレイアが戦友へと告げる。
拷陀が間合いを取ろうとした先に衝撃波を放って牽制しつつ、集まってきた仲間達の怪我の状況を確認。
「それほど大きな怪我を負った者はいないようだ」
回復支援を続けていたセレスティアやディーナに告げる。
「まだ炎が残っている所は、私が浄化します」
星剣を掲げてセレスティアが言うと、マテリアルを集中させる。
拷陀は能力を封じられているから、新たに『憤怒の飛火』が出現する事はない。
奇襲される事もなくなったが、継続ダメージは続いているので、浄化して炎を消す意味は十分にあるのだ。
「私の方は、いつでも回復できますの。だから……」
ディーナが周囲に告げながら、憤怒甲冑で僅かな傷を負ったリューを回復させる。
最後の総仕上げは彼が鍵なのだ。万が一でもリューが倒れる訳にはいかない。
「世界の力を魅せて下さいの」
「グランフェストくん、騎士の王の力を」
二人の台詞に頷きながら、リューは周囲を一度、見渡してから剣先を拷陀へと向けて宣言した。
「決着の時だぜ、拷陀! 俺の……いや、ハンターの力、見せてやるよ!」
突き出した剣を天に掲げる。
幾体もの龍を形作った炎が、生き物のように荘厳な作りの剣の周囲を飛ぶ。
剣の名は“星神器エクスカリバー”。大精霊の力をインストールした星神器と呼ばれる武具の一つである。
「王の剣。その権能を今ここに! 全てを、守るために!」
猛烈なマテリアルの流れが剣から放たれて、リューの周囲を巡る。
武器の威力というのは持ち手と込められたマテリアルによって個人差が生じる。過去、数多の英雄は、圧倒的な威力を持っていた。リュー自身もその一人かもしれない。
だが、騎士の王の剣は、たった一人の英雄を作る為のものではない。持ち主の力を分け隔てなく広めるためにあるのだ。
ハンター達の持つ武器に、龍を形作った炎が付与されていく。
その様子を見て拷陀は慄いた。
「なにを……なんだ、その力は!」
「これが、世界の意志というものかもしれませんよ」
槍を構えた霧島が、その感触を分析しながら鋭い刺突を繰り出した。
その威力は、彼のものではない。リューのものと同じである。
それは、どんなに武器の扱いや威力が低くても、だ。晶波は星剣を確りと握って前に進みでた。
「百舌鳥さん、私も一振り行きはる」
「ここは早急な撃破が必須だ。一手も無駄にはできないだろう」
誰が攻撃しても同じ威力が出るのであれば、攻撃の数は多ければ多い程、良い。
苦し紛れに拷陀が反撃してきた。いつでも庇う事ができるように霧島は彼の傍で構える。
炎がぐっと延びたが、霧島はそれを腕で受け払いきった。その隙に晶波は剣を振るうが、それは簡単に避けられてしまう。
「当てる事だけが目的ではないんや」
「援護、感謝しますよ」
大振りになった晶波の軌道は、わざと、拷陀に避けさせるものであった。
避けた先のスペースで待ち構えていたのはハンスだったからだ。
「このマテリアル。素晴らしい一撃になります」
踏み込んだ足を軸に円を描くようにクルっと姿勢を入れ替える。
遠心力が十分に乗った斬撃を拷陀の横っ腹へと叩き込んだ。
残った憤怒甲冑が拷陀を守るように割って入ってくる。
だが、ユーリは慌てはしなかった。体中を駆けるマテリアルを解放し、オーラを纏う。
「纏めて払わせて頂きます」
蒼姫刀から放たれた桜吹雪の幻影が、敵を包む。
「ここで一気にケリをつける!」
タイミングを合わすようにアイビスがユーリの脇から飛び出した。
「道を開きます」
ユーリは力強く踏み込む。マテリアルが真っ直ぐに伸びる迅雷と化した。
その圧倒的な威力は、割り込んできた憤怒甲冑共を粉砕。拷陀にまで届き、体勢が崩れる。
消え去っていく憤怒甲冑を側転からの後方宙返りで最後の間合いを詰めるアイビス。
拳に最大限のマテリアルを込めた。
「天・誅・殺!」
「ぐぬぁぁぁ!」
強烈な打撃を与え、アイビスは勢いそのままに抜けた。
まごまごしていると次の攻撃の邪魔になるからだ。
「もはや何も言うまい」
「私のような虫けらにこんな大層な力……」
仲間の援護受けつつ、憤怒甲冑を打ち倒していたシオンとニャンゴの二人が、それぞれ、武器を構えて騎乗している馬に合図を出した。
一気にトップスピードに入り、二頭が並んで走る。
拷陀には二人のチャージを避ける術を持たなかった。
「くそう。飛火が使えれば、こんな事には!」
「楽しめたぞ、拷陀」
「作戦通りに進んだという事ですね」
拷陀は能力を使う事もできず、シオンとニャンゴの強力な突撃をその身で受け止めるしかできなかった。
激しい衝撃だったが、それでも、まだ拷陀は立ち続ける。
「まだまだだ! 我輩は! 我輩らの無念を!」
恐ろしい程の執念を拷陀は見せた。
本土本陣からの敵の増援は、まだ姿を現さない。
周囲で戦う幕府軍も今のところは有利な状況のようだ。もっとも、敵の増援が来たら、どうなるか分からないが。
ただ、拷陀との戦いの流れは完全にハンター側が掴んでいた。
後は、“ナイツ・オブ・ラウンド”の効果中に、どれだけ、ダメージを与え続ける事ができるかだ。
「その攻撃で倒しきれなくても、次の突撃!」
精霊の力で巨大化した旭が、再び突っ込んだ。
まだ残っていた憤怒甲冑の幾体かが、哀れにも轢かれていく。しかし、旭もトドメを差している場合ではない。
目標はあくまでも、拷陀なのだから。
これまでの戦いでも分かるが、拷陀は間違いなく、高位の憤怒歪虚だろう。
万が一でも討ち漏らしたら、後々、厄介な事になるはずだ。特に『憤怒の飛火』の能力は乱戦時では極めて危険だと容易に想像できる。
「これで、仕留めるッ!!」
巨大化した旭の影から飛び出したのはステラだった。
旭が繰り出した暴風のような一撃の後、無防備になった拷陀へ、大上段に構えた聖罰刃を振り降ろした。
派手に斬られた拷陀はヨロリ崩れ落ちかける。
しかし、膝が大地に付く前に、気合の雄叫びと共に強引に立ち上がる。どうやら、闘志は失っていないようだ。
「一度に攻撃できる人数は限られているからな。凌ぎ切れば、我輩にもまだ勝機がある!」
剣や刀は、槍や弓と違って攻撃射程は限られている。この間にも弾矢が着実にダメージを与えてくるが、近接攻撃の同時タイミングというものは難しいものだ。
一つのスペースに無限の人間が入れる訳ではない。スペースに入り切れなければ、攻撃は届かない。
だが、中にはスキルを用いて本来の射程を伸ばす事が出来る場合もある。
リューはマテリアルが溢れ出す剣と一体になるような刺突を魅せた。
「紋章剣に死角はない。行くぞ、拷陀! 紋章剣『天槍』!」
龍が一矢飛ぶかように、マテリアルの塊が突き抜けた。
それを避けようとする拷陀だったが、仲間の影から突然、カイが飛び出る。
逆手に持ったダガーを手首の返しで素早く操りながら、拷陀の太ももに突き刺した。
それで、拷陀の回避動作が遅れた。鎧のつなぎ目にダガーが入ったのだろうか。ガキッ! っと金属音が響く。
「リューさん、いっけぇ!」
「みんな! リューに続くぞ!」
ステラと旭が、多くのハンター達が、それぞれが持つ武器を構えた。
全員が力が一つに――それを体現したハンター達の猛攻がリューの攻撃の後に続く。
「も、もはや、ここまで……援軍は、援軍は来ず、か……」
「使い捨てとは残念だったな」
最後まで粘る拷陀が憤怒本陣の方角を見つめ、カイが無常にも告げた。
正確に言うと、ハンター達の短期決戦が、援軍が来るよりも早かったという事なのだが。
「あんた自身より、負のマテリアルの方が使い勝手がいいらしい」
「……ここまでか」
ドサっと拷陀は荒野に仰向けに倒れた。
甲冑から噴き出る炎は収まり、今は古ぼけた全身甲冑だけとなった。
●突撃将軍の最期
全身甲冑の頭をボルディアは覗き込んだ。
面頬の奥に見えるのは弱弱しい光を放つ目だけだった。全身甲冑そのものが、本体なのかもしれない。
「聞かせろよ。テメェが紫草を恨む理由をよ。それぐらいの権利は、あるはずだぜ?」
「……幕府軍や紫草は、我輩らを見殺しにした。一蓮托生……先祖の願いを捨ててな」
西方世界と繋がるまで、東方は憤怒歪虚との戦いで劣勢だった。
幾つもの国や町が滅んだのは容易に想像できる――その中には、どうしても助ける事が出来なかった事も、きっとあっただろう。
「だから、我輩は名を捨てた」
「箕南鈴峯さん……ですよね」
詩の静かな言葉に拷陀は頭を僅かに上げた。
「なぜ、我輩の名を……」
「将軍が教えてくれたの。刀の腕以上に、武具を作る才能に恵まれた人って」
「そう……か、紫草が……」
力尽きて上げていた頭を地面に降ろす拷陀。
ボルディアがその近くに座り込んだ。
拷陀の全身甲冑が塵となって消え去っていく。これが堕落者と化した者の末路だ。
「詳しい事情は分からねぇが、紫草はテメェの事を認めていたんじゃねぇか」
「我輩らの死には、意味が……あった、のか……無駄……死にでは、無かっ……」
そこから先の言葉は聞き取れなかった。
ただ一つ言えるのは、一人の堕落者が、その最後に大事な何かに気が付いて逝けたという事だろう。
ハンター達の活躍により、突撃将軍“拷陀”を憤怒本陣に逃がす事なく、討ち取る事が出来た。
取り巻きと対峙していた幕府軍にも大きな損害なく、追撃戦は快勝にて終わったのであった。
おしまい
●惹禍の狐
憤怒本陣より手前の丘の上で、狐耳のような髪を持つ人型の憤怒歪虚――狐卯猾――が、戦闘の状況を見ていた。
援軍は間に合わなかったのは狐卯猾にとっては予想外であった。
「あの力、ただの覚醒者の力では無いわね……」
噂に聞く“守護者”とやらに絡む力なのかもしれない。
対策を急ぐ必要が生じる。
「……気が進まないけど。まぁ、拷陀。貴方はよくやったわ。後は、憤怒王である私に任せなさい」
高笑い声を残しつつ、狐卯猾が掻き消えるように居なくなった。
ハンター達が拷陀へと向かう。
そんな中、ウィーダ・セリューザ(ka6076)は静かに矢を番えた。
幾何学模様が刻まれた魔法の矢は射程を伸ばす事が出来る。
「憤怒王も討伐されたんだから、さっさと解散してほしいものだ」
純白の弓身が大きくしなるほどに引き絞った。
拷陀との距離は相当、離れているはずなのだが、ウィーダは冷静に相手を見つめる。
体内のマテリアルが視力と感覚に集う――見える。そして、十二分に、矢は届く。
「悪いけど……ここはもう、ボクの間合いだ」
天空に向かって放たれた1本の矢が、戦闘の開始を告げた。
幾度か矢が飛んだ後、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は二の腕の筋肉を浮き出させながら、重機関銃を構える。
本来であれば、生身の人間が扱える代物ではないそれを、全身で確りと固定して銃口を拷陀へと向けた。
「あれが拷蛇か。ここで大威張りするのも今日が最後だ、続きは地獄でするがいい」
燃え盛る甲冑鎧。
仲間からの話によると、憤怒歪虚として高位の実力を持つらしい。
狙いを定めるコーネリアの斜め後ろにニーロートパラ(ka6990)も射撃位置についた。
「障害物の少ないということは、つまり、射線を遮るものが少ないということですよね」
この戦場においてはニーロートパラが言う通り、障害物はほとんどない。
敢えて言うならば、前線に向かっていく仲間のハンター達の後ろ姿が射線の邪魔になる位だが、援護射撃が行われる事が周知済みなので、大きな問題ではない。
「拷陀が属性を持っている場合、炎かと推測しました」
彼が番えた矢は水の力を秘めた魔矢だ。
そして、コーネリアが重機関銃に装填している弾にマテリアルを流し込む。
粉雪にも似たマテリアルが彼女の周囲を舞う。
「あれだけ炎を出しているんだ。試す価値はあるだろう」
二人の猟撃士が水の力を秘めた弾矢を放った。
後方からの援護射撃を受け、ハンター達はいよいよ接近戦に挑む。
その直前、茨のような幻影が広がった。天竜寺 詩(ka0396)が行使した魔法だ。
「拷陀は私達がタチバナさんに利用されていると言ったけど……私には拷陀こそあの狐女に利用されてるように見える」
彼が自らの意思で行っているのであれば、詩としては同情すべき事は何もない。
この場で決着をつけるのみだ。タチバナはそれを望んでハンター達を送り出した。ならば、それに応えるだけだ。
茨の魔法の後に、詩が唱え始めたのは癒しの魔法だった。
辺りは炎に包まれている。拷陀の能力によるものだ。防御力を無視してダメージを与えてくるのに対し、詩はお守り片手に癒しの力を使う事を選んだ。
その時、男女の歌声が戦場に流れる。ただの歌ではなく、奏唱士が持つマテリアルが籠った歌だ。
抵抗力を上げる力があるので、拷陀の能力に対抗できる。
「拷陀は武人でもあるだろうが、将だ。兵を扱うことで別の目的を狙っているかもしれないからな。注意は必要だろう」
「ったく……もう十分暴れただろうによ。だが、これでネングノオサメドキ、って奴だぜ」
歌っているのは龍崎・カズマ(ka0178)とボルディア・コンフラムス(ka0796)の二人だ。
二人とも戦闘力は十分に高いが、それでも仲間の支援を選択した。
そして、それは間違いでは無かった。敵は拷陀一人。敵のサイズが大きいならばまだしも、同サイズでは一度の攻撃で接近できる人数に限りがあるからだ。
「後衛支援っつても、戦ってない訳じゃねーからな」
ボルディアの言葉に詩とカズマは頷いた。
「戦うって決めたからこそ、私は私の役目を果たすよ」
「湧いて出てくる憤怒甲冑もいるだろうしな」
燃え盛る炎の中、揺らめくように憤怒甲冑が次々に姿を現した。
●友に捧げる雪柱
拷陀が召喚した憤怒甲冑を蹴散らしながら、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が一気に距離を詰めた。
「敵将は眼前……とはいえ、向こうも何の手立ても無しに待ち構えてるとは思えない」
「色々と厄介な能力ばかりね」
ユーリの言葉に応えたのはアイビス・グラス(ka2477)だった。
高位の憤怒歪虚なだけあって、拷陀が持つ力は脅威だ。
「でも、ここで討たなければ戦局は向こうに傾く可能性があるから、全力を以てここで討つ!」
「そういう事で、どの道、この戦場じゃ奇襲もできないのから、真っ向から挑むだけよ」
二人が立ち位置を目まぐるしく入れ替えつつ、突出。
憤怒甲冑の脇から抜け出すと、ユーリが愛刀を突き出した。
雷の如く放たれるマテリアルの一閃。それを真っ向から受け止めながら、拷陀が燃え盛る負のマテリアルの塊を投げつけた。
それをアイビスがパリィグローブで弾き落とす。
地面に落着した負マテの塊が爆発を起こし、二人は間合いを取った。
燃え上がった炎が収まるよりも早く、一人の侍――銀 真白(ka4128)――が拷陀へと肉薄する。
「この期に及んで取り逃がす訳にはいかぬ。ここで討ち取るぞ、拷陀」
「また、貴様か!」
刀と刀が打ち合う。
その火花が周囲の炎を呼んだのか、より一層、『憤怒の飛火』を燃え上がらせる。
直後、拷陀の背後に回った七葵(ka4740)が鋭い一撃を叩き込んだ。
そのまま駆け抜けると、真白の背後に延びた炎を陣羽織で振り払う。
「真白殿の援護には俺が入る」
「七葵殿、頼んだ」
二人は視線を合わせる。
この攻勢はハンター達の“奥の手”を隠す為のものだ。同時に相手の力を見抜き、排除する時間でもある。
だが、いつまでもという訳にはいかない。時間差を設けてしまえば敵に悟られる可能性があるからだ。
「行くぞ!」
七葵の持つ刀の先が眩く光った。
拷陀が二人の気迫を感じ、刀を一振りする。
「我輩に挑んだ事を後悔させてやろう!」
再び、炎の中から憤怒甲冑が現れた。
真白の影からユリアン(ka1664)が飛び出した。
疾影士としての力を使って隠れ潜んでいたのだ。
「正秋さん達に負担が行かない様に、この一太刀を」
マテリアルの羽根が舞う中、彼の刀が拷陀を捉える――が、後少しという所で、拷陀が持つ刀によって受け止められた。
「これが通じるの事は、分かっているんだ」
「また、その力か。だが、我輩には無意味だとも分かっているだろう」
不可思議なマテリアルの流れが、拷陀が持つ刀を包んだ。
その武器を能力の使用条件に指定できなくさせる疾影士の力だ。
拷陀は一度、自身の炎を鎮め、再び燃焼させる。そうする事で、付与されたステータスを無効化する事ができるのだ。
そこへ円形の投擲武器がかすめ飛んで行った。
リリア・ノヴィドール(ka3056)が放ったものだ。
「乗り掛かった舟、最後まで付き合いますなの」
「幾つでも幾らでも、我輩を弱体化させる事はできない!」
彼女が投げた投擲武器には毒のマテリアルが込めてあったのだ。
例え毒になっても拷陀には通じない。バッドステータスは無効化するから。
だが、二人の狙いはそこには無かった。付与したステータスが解除されてしまうのは分かっている事。観察したい事はその先にあったのだから――。
戦場に召喚された憤怒甲冑が増えてきているが、不動 シオン(ka5395)とニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)の二人の活躍もあり、拷陀と戦うハンター達の背後は守られていた。
「楽しみに待っていたぞ、貴様の首を叩き落とすその日をな。私のために血肉湧き踊る最高の戦場を作れ」
憤怒甲冑の1体を足蹴りして吹き飛ばし、刀先を拷陀に向ける。
一瞬、開いたスペースに突撃する事も出来たが、シオンは無理をしない。
ごり押しを避けてヒット&アウェイに徹する。
「此処までくれば拷蛇との無慈悲なデスマッチを存分に楽しむまで!」
今度は刀を振り回し、寄せ集まってくる憤怒甲冑を払う。
バランスを崩した憤怒甲冑の胸鎧を魔剣で貫き、払い捨てしつつ、マテリアルを込めるニャンゴ。
(今回の最大の敵は突撃将軍以上に、短期決着をと焦る心だと思料致します)
数で押し切れるという慢心が危険を呼び込む場合がある。
「一気呵成に仕掛ける場面で、余計な邪魔が入らないようにするのが一です」
だから、ニャンゴは憤怒甲冑の排除を優先した。
魔剣を振るいマテリアルの衝撃波を戦場に乱舞しながら、ニャンゴは炎の中を憤怒甲冑を倒し続けた。
今のところ、『憤怒の飛火』に焼かれる続けるハンターはいない。
抵抗力を上げる歌の力が効果を発揮させている事もあるからだ。
「憤怒甲冑がここまで来ているか」
カズマは囲まれても慌てる事なく蒼機剣を操る。
必要に応じ、歪虚の動きを阻害する歌に切り替えようかと思ったが、少なくとも、現状は抵抗力をあげる事に専念した方が良さそうだ。
(拷陀が居る場所が特段、負のマテリアルが強いという訳じゃない……か)
アクロバティックな動きで身体を回転させて憤怒甲冑の攻撃を避ける。
気が付けば四方を囲まれたが、刹那、後方の一体が踊るように跳ねて消え去った。
「永遠に燃え続ける炎などあるものか。さっさと灰になってしまえ!」
砲身が焼き付けてしまうのではないかと思うほどの勢いでコーネリアが銃弾を叩き込んでいた。
幸いな事に、コーネリアが居る場所は拷陀の炎は届かない。
拷陀にとっては遠距離職は目の上のたんこぶなのだろうが、前衛と近接戦となっている以上は直接、手の出しようがない。
だから、憤怒甲冑が向かってくる事は予測済みだった。
「灰となって消え去れ!」
トリガーを引きっぱなしで、次々に迫る憤怒甲冑に砲身を向ける。
万が一、接近戦になったとしても、撃退できる自信もある。
接近してくる憤怒甲冑はコーネリアに任せ、ニーロートパラは拷陀への射撃を続けていた。
「優先すべきは、可能な限り早急に拷陀を討伐することです」
憤怒本陣から敵の援軍が出撃してくる可能性をハンター達は教えられている。
もっとも、敵援軍が現れたとしても幕府軍がフォローする事になっているのだが……損害を減らす為にも、拷陀の能力を鑑みれば、短期の決着は必然だ。
「長引けば、その分、消耗が激しくなることは明らかですから」
ただ攻撃するだけではなく、前衛の動きを見て、必要であれば支援の為の射撃も放つ。
射撃を繰り返す後衛の傍を“第二陣”が駆けていった。いよいよ、大一番の時だ。
第一陣が敵の気を引き寄せ、第二陣が必殺の総攻撃を行う。
これが、ハンター達の大まかな作戦であった。だが、『憤怒の飛火』が第二陣の面々に移りそうに見え、真白は焦った。
ここで流れが取られると、作戦に大きな支障がでるから。万が一にも討伐が遅れれば、幕府軍に被害が及ぶ――最悪、彼らの壊滅もあり得る。
「拷陀! いざ、尋常に!」
「力の差も分からぬ愚か者め!」
だから真白はわざと、炎に包まれた。僅かでも敵の気を引くためだ。
それなりにあった間合いを飛び越して、拷陀が真白の華奢な身体に刀を突き刺した。
「うおぉぉぉぉ!!」
そこへ愛刀と一つとなった七葵が突貫して、拷陀を吹き飛ばす。
真白は力が抜けたようにその場で崩れ落ち――七葵が支える。
一目でわかった。真白はもはや、戦闘不能な状態だ。彼は素早く薬を取り出す。
追撃を仕掛けようとした拷陀の前に、ユリアンが颯爽と割り込んだ。
「見ていましたか? リリアさん」
「もちろんですわ、なの」
『憤怒の飛火』の能力により付与されるバッドステータス。
それを受けた者に、拷陀は瞬間移動が可能なのだ。その仕組みをユリアンは見抜いた。
「憤怒炎上をトリガーにした疾影士のチェイシングスローに似ていますね」
それは投擲した武器に自身のマテリアルを紐づけて移動するスキルだ。
『憤怒の飛火』により炎上した負のマテリアルと自身の負のマテリアルを同調させて飛ぶのだろう。
「チェイシングスローは投擲武器が媒介となる。なら、『憤怒の飛火』の炎そのものが瞬間移動の媒介になっているはず」
「みんなに伝えて来ますなのね」
大事な情報も仲間に伝わらなければ意味はない。
拷陀の能力の解明と注意点。そして、『憤怒の飛火』そのものを解除すれば、奇襲攻撃はあり得ない。
リリアは第二陣や後衛に向かって駆け出した。
●女子力開花宣言
発煙手榴弾の煙が漂う中、カイ(ka3770)が潜みながら様子を伺っていた。
第一陣は狙い通り、その役目を果たした。
今は第二陣がいよいよ敵と接敵する。拷陀は反応が遅れているのか、代わりに憤怒甲冑が幾体か姿を現した。
「他にも奥の手があるかもしれないか」
それが何かは見当がつかないが、警戒しておいていいだろう。
「後は、飛び出るタイミングか……間違えると意味ない」
大事なのは第二陣の“ある事”だった。
その為の作戦なのだ。だから、彼はタイミングを見逃さずに戦場を注視していた。
なにせ、その機会はたった一度しかないのだから。
憤怒甲冑を払いのけ、ハンス・ラインフェルト(ka6750)が拷陀の間合いに入った。
「ようやく辿り着きましたよ。対価を払ってもらいたいですね」
勿論、支払いは拷陀自身である。
呼吸を整えてハンスは聖罰刃を突き向けた。
対して、拷陀は猛烈な炎を周囲に放つ。
「あつっ、物騒過ぎじゃないかな……!?」
炎をギリギリで避けつつ、ステラ=ライムライト(ka5122)がそう言った。
あの炎を受けてしまえば『憤怒の飛火』と連動してきっと、良くない結果になりそうだ。
もし、バッドステータスが付与されるような事があれば、仲間に助けて貰うしかない。
その代わりと言ってはなんだが、ステラは戦う事が出来る。ビュンビュンと軽快に刀を振るった。
「ここまで追い詰めた。もう、逃がさないんだから!」
「雑魚共が何人集まっても無駄だ」
今一度、炎を噴出させようとした拷陀の前に霧島 百舌鳥(ka6287)が立った。
「やぁ拷陀君! ボクは紫草君……は流石にド失礼か。立花院将軍の友人の代打と言うべきかな!」
「ふざけた奴め。紫草に関わりがあるなら、貴様から始末してくれる!」
ガウスジェイルを使うまでもない。
拷陀の強烈な一撃が彼を襲った。槍と防具で止めたが、拷陀の勢いはそれを上回った。
「荒事は専門外だからねェ!」
要は敵の気が引ければいい。
どんな強力な能力を持っていても、使わなければ意味がないのだから。
霧島が受けた傷は、和住晶波(ka7184)によって、すぐさま回復した。
「俺自身戦力にはならないが……これでも出来る事は、全てしていくつもりやさかい、よろしゅうに」
彼も紫草に縁がある人の繋がりでこの戦場に立っている。
戦場を見渡し、怪我をしている仲間が居れば、回復魔法を使う。
「俺は攻撃はできへん……せやから、というわけでもないが、回復はできうる限り受け持たせてもらう」
短期決戦である以上、攻勢を強めるのは当然だ。
しかし、無傷という訳にもいかない。拷陀の能力も、憤怒甲冑の攻撃もある。だから、戦い続ける為には回復も重要な役割なのだ。
「また湧いて出来ましたか。仕方ありませんね」
素早く愛刀を構えなおすハンス。
憤怒甲冑が懲りずに召喚されてきたからだ。
レイア・アローネ(ka4082)が魔導剣を豪快に大振りした。
攻撃を外した訳ではない。セレスティア(ka2691)やディーナ・フェルミ(ka5843)を守っての事だ。
優れた回復役である二人であるが、それ故に敵にも狙われやすいのだ。
「まだ食い止められる」
そう告げると魔導剣にマテリアルを込めた。
回復の間、時間を稼げばいいのだ。レイアの背後では、セレスティアがリザレクションを真白に行使していた。
極めて高位の法術だ。戦闘不能となった者を立ち直す事ができる。
「もう少しで終わります」
集中を続けながらセレスティアは言った。
幾度も戦闘不能から回復させる事はできないが、一度でも戦闘不能状態から復帰できるのは大きい意味を持つ。
特に、今回のように、圧倒的な攻勢が必要な場合は猶更の事だ。
「ここで拷陀を倒すの。でも、誰も欠けないで生還するの絶対なの」
ディーナもリザレクションが使えるが、今は不可思議な機械球を用いて、浄化魔法を使っていた。
狙い通り、『憤怒の飛火』の炎が消え去っていく。
あの負のマテリアルの炎は、ある種、汚染のようなものなのだろう。
「これで、瞬間移動が出来なくなるの」
「それだけじゃない。憤怒甲冑の召喚も、継続ダメージも無くなる」
憤怒甲冑を始末しながら、レイアが補足した。
敵の能力を封じれば、それだけ戦いやすくなる。
「可能なら、総攻撃の前に、できるだけ『憤怒の飛火』の炎を消しておきたいです」
リザレクションを唱え終えたセレスティアが呼吸を整える。
『憤怒の飛火』を残しておくと、敵が逃げてしまう可能性もあるからだ。狙っている総攻撃が一度だけしか使えないとなると、念には念を入れたい。
「怪我人をある程度、回復させたら、浄化魔法に切り替えます」
「その間は、私が回復に回りますの」
二人の聖導士がまさに第二陣を支えていた。
岩井崎 旭(ka0234)がゴースロン種のシーザーと共に戦場を駆ける。
人馬一体となった彼を包むようにマテリアルが周囲に広がった。
霊闘士としての力で自身と仲間を支援しつつの突撃だ。
「突撃将軍か、面白れぇ! それじゃあ、いよいよ負けられねーな!」
魔斧を振り上げ、行く手の邪魔をする憤怒甲冑へ叩き込んだ。
腕の筋力のみで斧を素早く引き上げる。
「行くぜシーザー! 攻撃した勢いを落としていられるかよ!」
愛馬は主の意図を読み、駆け出す。
その後ろをミィリア(ka2689)が魔導バイクで付いて行っていた。
第一陣の戦闘状況を太刀を振るって様子を見ていた。
そして、機会が訪れた。アサルトライダーズの隊長が身体を張って道を切り開いてくれた。
「行きます、でござる!」
全身に込めたマテリアルを両手いっぱいに広げ、天を仰ぎ見た。
この瞬間、ミィリアが持つ心の刃が、拷陀の動きを阻害する――はずだった。
「!?」
狙った行動が思うように発動しなかった。
それでも強引に彼女は体内のマテリアルを活性化させて放つ。桜吹雪が拷陀を取り囲んだが、それも一瞬の事。
確実に掛けるには強度がやや不足したか……。
「易々と術に掛かると思うな!」
拷陀が吠えると周囲の炎がより一層、燃え上がった。
ここまで来て、作戦を失敗させる訳にはいかない。ミィリアは今一度、先程の力を試す。
飛翔音を響かせながら、矢が降り注いだのは、ちょうど、そんなタイミングだった。
「言ったよね、ここはボクの間合いだって」
援護射撃を飛ばしてきたのはウィーダだった。
拷陀の能力について仲間からの連絡を受けた直後だ。飛火による瞬間移動を抑え込めれば確実に作戦が成立する。
「ボクからは逃げられない」
マテリアルを込めて放たれた矢は、光の雨となって拷陀に直撃。
確実に拷陀の動きが鈍くなった所で、ミィリアが背に担ぐ刀の柄を右手で構え、左腕を突き出す。
桜の花びらが一重、二重……と渦を巻いた。
「これが、今季一番の女子力でござるぅ!」
一瞬、集束したような桜吹雪が爆ぜると一帯に広がった。
「ぐ……炎が、俺の炎が出ないだと!」
驚愕する拷陀。
ハンター達の作戦がここに成立した。
瞬間移動できなければ、奇襲攻撃する事も、逃げ出す事も出来ないからだ。
●騎士の王の力
戦況の行方を見て、自然とハンター達はリュー・グランフェスト(ka2419)の周囲に集まってきた。
「ついに拷陀との決着の時。リュー、私の持てるありったけの力をお前に託そう…!」
支援役を守り続けていたレイアが戦友へと告げる。
拷陀が間合いを取ろうとした先に衝撃波を放って牽制しつつ、集まってきた仲間達の怪我の状況を確認。
「それほど大きな怪我を負った者はいないようだ」
回復支援を続けていたセレスティアやディーナに告げる。
「まだ炎が残っている所は、私が浄化します」
星剣を掲げてセレスティアが言うと、マテリアルを集中させる。
拷陀は能力を封じられているから、新たに『憤怒の飛火』が出現する事はない。
奇襲される事もなくなったが、継続ダメージは続いているので、浄化して炎を消す意味は十分にあるのだ。
「私の方は、いつでも回復できますの。だから……」
ディーナが周囲に告げながら、憤怒甲冑で僅かな傷を負ったリューを回復させる。
最後の総仕上げは彼が鍵なのだ。万が一でもリューが倒れる訳にはいかない。
「世界の力を魅せて下さいの」
「グランフェストくん、騎士の王の力を」
二人の台詞に頷きながら、リューは周囲を一度、見渡してから剣先を拷陀へと向けて宣言した。
「決着の時だぜ、拷陀! 俺の……いや、ハンターの力、見せてやるよ!」
突き出した剣を天に掲げる。
幾体もの龍を形作った炎が、生き物のように荘厳な作りの剣の周囲を飛ぶ。
剣の名は“星神器エクスカリバー”。大精霊の力をインストールした星神器と呼ばれる武具の一つである。
「王の剣。その権能を今ここに! 全てを、守るために!」
猛烈なマテリアルの流れが剣から放たれて、リューの周囲を巡る。
武器の威力というのは持ち手と込められたマテリアルによって個人差が生じる。過去、数多の英雄は、圧倒的な威力を持っていた。リュー自身もその一人かもしれない。
だが、騎士の王の剣は、たった一人の英雄を作る為のものではない。持ち主の力を分け隔てなく広めるためにあるのだ。
ハンター達の持つ武器に、龍を形作った炎が付与されていく。
その様子を見て拷陀は慄いた。
「なにを……なんだ、その力は!」
「これが、世界の意志というものかもしれませんよ」
槍を構えた霧島が、その感触を分析しながら鋭い刺突を繰り出した。
その威力は、彼のものではない。リューのものと同じである。
それは、どんなに武器の扱いや威力が低くても、だ。晶波は星剣を確りと握って前に進みでた。
「百舌鳥さん、私も一振り行きはる」
「ここは早急な撃破が必須だ。一手も無駄にはできないだろう」
誰が攻撃しても同じ威力が出るのであれば、攻撃の数は多ければ多い程、良い。
苦し紛れに拷陀が反撃してきた。いつでも庇う事ができるように霧島は彼の傍で構える。
炎がぐっと延びたが、霧島はそれを腕で受け払いきった。その隙に晶波は剣を振るうが、それは簡単に避けられてしまう。
「当てる事だけが目的ではないんや」
「援護、感謝しますよ」
大振りになった晶波の軌道は、わざと、拷陀に避けさせるものであった。
避けた先のスペースで待ち構えていたのはハンスだったからだ。
「このマテリアル。素晴らしい一撃になります」
踏み込んだ足を軸に円を描くようにクルっと姿勢を入れ替える。
遠心力が十分に乗った斬撃を拷陀の横っ腹へと叩き込んだ。
残った憤怒甲冑が拷陀を守るように割って入ってくる。
だが、ユーリは慌てはしなかった。体中を駆けるマテリアルを解放し、オーラを纏う。
「纏めて払わせて頂きます」
蒼姫刀から放たれた桜吹雪の幻影が、敵を包む。
「ここで一気にケリをつける!」
タイミングを合わすようにアイビスがユーリの脇から飛び出した。
「道を開きます」
ユーリは力強く踏み込む。マテリアルが真っ直ぐに伸びる迅雷と化した。
その圧倒的な威力は、割り込んできた憤怒甲冑共を粉砕。拷陀にまで届き、体勢が崩れる。
消え去っていく憤怒甲冑を側転からの後方宙返りで最後の間合いを詰めるアイビス。
拳に最大限のマテリアルを込めた。
「天・誅・殺!」
「ぐぬぁぁぁ!」
強烈な打撃を与え、アイビスは勢いそのままに抜けた。
まごまごしていると次の攻撃の邪魔になるからだ。
「もはや何も言うまい」
「私のような虫けらにこんな大層な力……」
仲間の援護受けつつ、憤怒甲冑を打ち倒していたシオンとニャンゴの二人が、それぞれ、武器を構えて騎乗している馬に合図を出した。
一気にトップスピードに入り、二頭が並んで走る。
拷陀には二人のチャージを避ける術を持たなかった。
「くそう。飛火が使えれば、こんな事には!」
「楽しめたぞ、拷陀」
「作戦通りに進んだという事ですね」
拷陀は能力を使う事もできず、シオンとニャンゴの強力な突撃をその身で受け止めるしかできなかった。
激しい衝撃だったが、それでも、まだ拷陀は立ち続ける。
「まだまだだ! 我輩は! 我輩らの無念を!」
恐ろしい程の執念を拷陀は見せた。
本土本陣からの敵の増援は、まだ姿を現さない。
周囲で戦う幕府軍も今のところは有利な状況のようだ。もっとも、敵の増援が来たら、どうなるか分からないが。
ただ、拷陀との戦いの流れは完全にハンター側が掴んでいた。
後は、“ナイツ・オブ・ラウンド”の効果中に、どれだけ、ダメージを与え続ける事ができるかだ。
「その攻撃で倒しきれなくても、次の突撃!」
精霊の力で巨大化した旭が、再び突っ込んだ。
まだ残っていた憤怒甲冑の幾体かが、哀れにも轢かれていく。しかし、旭もトドメを差している場合ではない。
目標はあくまでも、拷陀なのだから。
これまでの戦いでも分かるが、拷陀は間違いなく、高位の憤怒歪虚だろう。
万が一でも討ち漏らしたら、後々、厄介な事になるはずだ。特に『憤怒の飛火』の能力は乱戦時では極めて危険だと容易に想像できる。
「これで、仕留めるッ!!」
巨大化した旭の影から飛び出したのはステラだった。
旭が繰り出した暴風のような一撃の後、無防備になった拷陀へ、大上段に構えた聖罰刃を振り降ろした。
派手に斬られた拷陀はヨロリ崩れ落ちかける。
しかし、膝が大地に付く前に、気合の雄叫びと共に強引に立ち上がる。どうやら、闘志は失っていないようだ。
「一度に攻撃できる人数は限られているからな。凌ぎ切れば、我輩にもまだ勝機がある!」
剣や刀は、槍や弓と違って攻撃射程は限られている。この間にも弾矢が着実にダメージを与えてくるが、近接攻撃の同時タイミングというものは難しいものだ。
一つのスペースに無限の人間が入れる訳ではない。スペースに入り切れなければ、攻撃は届かない。
だが、中にはスキルを用いて本来の射程を伸ばす事が出来る場合もある。
リューはマテリアルが溢れ出す剣と一体になるような刺突を魅せた。
「紋章剣に死角はない。行くぞ、拷陀! 紋章剣『天槍』!」
龍が一矢飛ぶかように、マテリアルの塊が突き抜けた。
それを避けようとする拷陀だったが、仲間の影から突然、カイが飛び出る。
逆手に持ったダガーを手首の返しで素早く操りながら、拷陀の太ももに突き刺した。
それで、拷陀の回避動作が遅れた。鎧のつなぎ目にダガーが入ったのだろうか。ガキッ! っと金属音が響く。
「リューさん、いっけぇ!」
「みんな! リューに続くぞ!」
ステラと旭が、多くのハンター達が、それぞれが持つ武器を構えた。
全員が力が一つに――それを体現したハンター達の猛攻がリューの攻撃の後に続く。
「も、もはや、ここまで……援軍は、援軍は来ず、か……」
「使い捨てとは残念だったな」
最後まで粘る拷陀が憤怒本陣の方角を見つめ、カイが無常にも告げた。
正確に言うと、ハンター達の短期決戦が、援軍が来るよりも早かったという事なのだが。
「あんた自身より、負のマテリアルの方が使い勝手がいいらしい」
「……ここまでか」
ドサっと拷陀は荒野に仰向けに倒れた。
甲冑から噴き出る炎は収まり、今は古ぼけた全身甲冑だけとなった。
●突撃将軍の最期
全身甲冑の頭をボルディアは覗き込んだ。
面頬の奥に見えるのは弱弱しい光を放つ目だけだった。全身甲冑そのものが、本体なのかもしれない。
「聞かせろよ。テメェが紫草を恨む理由をよ。それぐらいの権利は、あるはずだぜ?」
「……幕府軍や紫草は、我輩らを見殺しにした。一蓮托生……先祖の願いを捨ててな」
西方世界と繋がるまで、東方は憤怒歪虚との戦いで劣勢だった。
幾つもの国や町が滅んだのは容易に想像できる――その中には、どうしても助ける事が出来なかった事も、きっとあっただろう。
「だから、我輩は名を捨てた」
「箕南鈴峯さん……ですよね」
詩の静かな言葉に拷陀は頭を僅かに上げた。
「なぜ、我輩の名を……」
「将軍が教えてくれたの。刀の腕以上に、武具を作る才能に恵まれた人って」
「そう……か、紫草が……」
力尽きて上げていた頭を地面に降ろす拷陀。
ボルディアがその近くに座り込んだ。
拷陀の全身甲冑が塵となって消え去っていく。これが堕落者と化した者の末路だ。
「詳しい事情は分からねぇが、紫草はテメェの事を認めていたんじゃねぇか」
「我輩らの死には、意味が……あった、のか……無駄……死にでは、無かっ……」
そこから先の言葉は聞き取れなかった。
ただ一つ言えるのは、一人の堕落者が、その最後に大事な何かに気が付いて逝けたという事だろう。
ハンター達の活躍により、突撃将軍“拷陀”を憤怒本陣に逃がす事なく、討ち取る事が出来た。
取り巻きと対峙していた幕府軍にも大きな損害なく、追撃戦は快勝にて終わったのであった。
おしまい
●惹禍の狐
憤怒本陣より手前の丘の上で、狐耳のような髪を持つ人型の憤怒歪虚――狐卯猾――が、戦闘の状況を見ていた。
援軍は間に合わなかったのは狐卯猾にとっては予想外であった。
「あの力、ただの覚醒者の力では無いわね……」
噂に聞く“守護者”とやらに絡む力なのかもしれない。
対策を急ぐ必要が生じる。
「……気が進まないけど。まぁ、拷陀。貴方はよくやったわ。後は、憤怒王である私に任せなさい」
高笑い声を残しつつ、狐卯猾が掻き消えるように居なくなった。
依頼結果
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面白かった! | 14人 |
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質問卓 リュー・グランフェスト(ka2419) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/07/26 00:18:10 |
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相談卓 ウィーダ・セリューザ(ka6076) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/07/27 23:54:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/25 21:50:01 |