【MN】おいでよ☆共和国

マスター:KINUTA

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
8日
締切
2018/08/08 22:00
完成日
2018/08/18 01:46

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 クリムゾン大陸における足掛け4年の大戦が、ついに最終局面を迎えた。
 47年間続いたゲルマニア帝国が今、終わりを迎える。
 それが、軍部の専横に耐え、飢え、凍え、傷つき、肉親を失いながらも「国のため」と尽くしてきた臣民たちに与えられた報いであった。









 1918年10月2日。

 帝国副宰相は議会各党の指導者を召集した。
 最高軍司令部を代表するアレックス・バンダー少佐から戦況の偽りなきところを報告してもらい、休戦を結ばなければならない状態について議会の同意を得るためであった。
 これまで軍は「必ず勝つ」と宣伝していた。戦況が絶望的なことなどおくびにも出していなかった。
 だからこの時点まで国民としては、確かに最近調子が悪いようだがよもや負けることなどあるまいと信じ込んでいた。
 政界の指導者たちも似たようなものだった。
 そこに突然、以下の告白を聞かされたのである。


「敵側は非常に多量のCAM、ゴーレム、並びにアーマーを戦線に出動させて我が軍の陣地を突破し、多数の兵士を捕虜にしている。そして我が軍は、残念ながら敵に匹敵するだけの兵器を作る工業力を持ち合わせていない」
「軍の補充兵力もまったく欠乏してしまっている。我が軍の大隊の兵力は4月には800人であったのが、今や540人になってしまった。しかも歩兵22個師団を解散して、その兵力を他の部隊に回して、やっとこれだけの大隊兵力が保てる有様である」
「我が軍の損害は予想をはるかに上回っているが、特に将校の死傷者が多い。ある師団では2日間の戦闘で将校全員が死亡し、連隊長4人のうち3人が死亡した。下士官もまた破滅的な死傷者を出している」
「今や我が軍には予備兵力がまったくない。絶え間ない敵の攻撃に対してはただ退却あるのみである」
「以上の形勢に迫られて参謀総長と参謀長は、戦争を止めてこれ以上の犠牲者を出さないようにとカイザーに進言した」
「1日でも遅れれば、敵側はそれだけ勝利の目的に近づき、我々の耐え忍びうる条件で講和を結ぶ気がますます少なくなるだろう」
「ゆえに一刻といえど無駄にしてはならない。24時間ごとに情勢は悪化し、我が軍の弱点を敵側に明らかに示すことになるだろう」

 指導者たちの打撃は大きかった。
 多数派社会民主党首領スペットは青ざめ二の句が告げなくなった。
 帝国主義政策の遂行者だった国民自由党首領ルーカスは自分が死刑宣告を受けたかのような顔をした。
 一方、帝国の崩壊を待ち望んでいたエルフハイム党首領マリー・スラーインは喜びに顔を輝かせ、真っ先に部屋から出て行った。
 独立社会民主党首領コボちゃんは次の間で待っていた同志たちのところに駆け寄り、「わし、わしわしわし!(我々の時代が来た!)」と言った。
 こうして混乱が始まった。







 帝国領の一軍港における水兵の反抗に端を発した革命運動は、拡大の一途を辿る。
 11月4日には4万の武装した革命兵士が軍港を支配、軍艦もことごとく赤旗を掲げた。
 11月5日には北部の軍港、続けて南部、北部の大都市も労働者・兵士評議会の支配下に入る。
 11月8日には首都を残して、ほとんど全部の大都市が革命派の手に帰した。







 穏健民主派と自由派は社会革命を避けようとしていた。皇帝と皇太子は除くが、君主制は維持しようと考えていた。現在は敵国側と休戦協定をしているのだから、革命を起こすことは帝国にとって不利になるとも主張した。
 しかし、情勢は逼迫している。
 この上政府を支持すれば自分たちもまた大衆の支持を失うことを実感した彼らは、最終的に自らもまた革命運動に加わった。
 11月9日正午。政権は多数派社会民主党代表スペット、並びにカチャなどが宰相官邸のモグヤン公を訪れ政権の引渡しを要求した。それはすぐさま受け入れられた(実はこの日の早朝モグヤン公の方から極秘にスペットの来訪を求め、ためらう彼を説得し自分に代わって「帝国宰相」の職を引き継いでくれるよう頼み込んでいたのである)。
 かくして政権は革命派でなく、穏健左派のものとなった。
 しかし全市の街頭は革命派の民衆に支配されている。
 ――同日午後2時、朝から働き詰めで疲れきったカチャが、帝国議会議事堂の食堂で遅い食事を取っていたところ、50人ほどの労働者と兵士からなる一団がやってきて言った。

「ステーツマンとマゴイが王宮のバルコニーから演説しているから、すぐに来てくれ」

 それは結局誤報だったのだが、カチャとしてはこの局面で共産主義国家樹立宣言でもされたらおおごとなので、先手を打って大衆にこう呼びかけるしかなかった。

「全社会主義政党による労働者政府の樹立、君主制の崩壊、共和国万歳!」

 実はこれは、多数派社会民主党の統一見解ではなかった。同党の右派や党首スペットは、この局面での共和制以降を考えておらず、既存与党との連立政権を作ろうとしていたのである。
 そのためこの話を遅れて聞いたスペットは、顔中の毛を逆立ててカチャを怒鳴りつけた。

「勝手に何してくれとんじゃドアホおおおおおおお!」

 だが民衆が熱烈に支持した宣言を取り消すことは、最早不可能だった。このまま突き進むしかない。始まりがたとえようもなくグダグダであったとしても。
 ――ところでこのとき遠く離れた大本営では午前9時から皇帝を前にしての御前会議が行われていた。
 議題は、皇帝の退位についてである。
 皇帝はことここに至ってやっと少しは状況を理解し「ゲルマニア皇帝としては退位する。だが、プロイセンの王としては留意する」という中途半端な(彼本人としてはそうでもないが)決意を示したのだが、何もかもが遅すぎた。
 その日のうちに彼は、自分が皇帝でもなければ国王でもなくなったこと、更には帝国が消えてなくなり共和制に移行したことを知る羽目になる。
 残された道は、近隣君主制国家への亡命だけであった。







 敗戦国を取り囲む連合国は、来るべき講和に向けて着々と話し合いを進めていた。
 内容は、重要工業地帯を含む領土の6分の1を戦勝国に割譲すること、植民地と国外における権益の一切を手放させること、軍備を大幅に制限させること、天文学的な賠償金を求めること……。

「この兵力削減数を実現させるとすると、退役した連中が大量にあぶれることになりますね。彼らはそれを処理出来るでしょうか」

「知るもんですか。どうなろうと自業自得というものでしょう。彼らが戦争を始めたんだから。このまま地の底まで沈んでもらいたいくらいですよ、うちとしては」

「然り。戦争責任は全てあの国にある。戦時指導者900人の引渡しも要求しようじゃないか。彼らは戦犯として裁かれなければならない。わが国の世論は今、『カイザーを絞首刑に、ゲルマニア人から賠償を』一色だからね」


リプレイ本文

●その日の西部戦線



~前線基地~


 敵味方入り乱れての砲撃戦の末、大地はまるで原形をとどめなくなっていた。
 そこここに数限りなく空いた穴は、比喩でなく全て墓穴。
 大斧を大地に突き立てたボルディア・コンフラムス(ka0796)は、自身が率いる騎兵部隊を顧みた。
 一騎当千と謳われたつわものたちも、今や数えるほどしかいない。
 長く付き合ってきた自分の相棒も、戦場の露と消えた。

「……すまねえな。こんなことになっちまったのも、指揮官としての俺の責任だ」

 団員は悔し涙を拭い、言う。

「そんなことはありません。今回の戦いが、あまりにも――あまりにもこれまでの戦いと違い過ぎたんです」

 そこはボルディアも痛感している。
 この度の大戦は後世から見れば、戦場の主役が覚醒者から一般人となった転換点だと見なされることだろう。
 CAMを操れば一般人でも覚醒者並みの働きができる以上、勝敗を決するのは一騎当千の覚醒者ではなく、数と工業力。その両方においてゲルマニアは敵国に負けた。
 しかしボルディアは、こうも信じている。

(CAMは火力に優れるが機動力で幻獣に劣る。故に、浸透戦術による防衛線の突破では覚醒者の突撃が必要不可欠だ)

 雪が舞い始めた。醜い大地は一時的に覆い隠され、見えなくなって行くだろう。

「……俺はもはや、戦場に立つことはねぇ。長い付き合いだった相棒もいなくなっちまったしな」

「団長、そんなことを」

「だが生きて帰れるなら、代わりに後進を育てよう。覚醒者と幻獣を主体にした部隊。名前は……「獣突撃隊」とでもするか。いつかまた戦争が起きる時、敵の喉笛を食い千切る顎になるように、な」

「団長……」




~野戦病院~



 看護卒の鳳城 錬介(ka6053)は数人の兵士が見守る中、負傷兵にフルリカバリーをかけていた。
 目茶苦茶に砕けていた下半身が強く暖かい光によって原型を取り戻していく。
 兵士たちは安堵しの息を吐き、錬介に礼を述べた。

「ありがとうなあ。能力者って言うのは全くすげえもんだ」

「こいつに何か、障害が残るようなことはねえか?」

 処置を終えた錬介は、彼らを安心させるように言った。

「大丈夫です。このまま一日安静にしていれば、全く元通りになりますよ」

 そこに、ユンカー出身の帝国陸軍大尉アウレール・V・ブラオラント(ka2531)、並びに少尉ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)がやってきた。
 敬礼の姿勢をとる錬介に、アウレールが聞く。

「今日は何人戦死した?」

「5人です、大尉殿。塹壕に固まっているところ、運悪く敵の砲弾が命中しまして。リカバリーも施せない状態でした」

「そうか……」

 聞いていいものかどうか少し迷ったが、錬介はやはり聞いてみることにした。ずっと思い続けていることを。

「大尉殿、我々は後どの位、ここにいなければならないのでしょうか」

 アウレールはその質問に、威厳を持って答える。

「もうしばらくだ。確かに攻勢は一時停滞しているし、物資も不足している。だが西部戦線はこの通り持ちこたえている。現在のさまざまな苦難を後少しだけ耐える覚悟があれば、将来は明るい。いずれ耐え切れなくなった連合国側から講和を申し込んで――」

 そこでアウレールは言葉を切り、少尉と共にその場から立ち去った。下士官の呼ぶ声が聞こえたからだ。

「大尉、緊急の打電が――」

「分かった、今行く」
  
 残された錬介は本来の業務に戻った。
 その一時間後である。本国から戦闘行為停止命令がもたらされたとの報が、耳に飛び込んできたのは。
 錬介はぽかんとした。ついで、呟いた。

「ようやく終わりですか……まさか負けるとは思いませんでしたが」

 同僚たちは悔しがっている。

「くそー、もう少し上がまともな作戦さえ立ててたら……」

「それより物資さえあったら……」

 だが錬介には、安堵だけがあった。これでもう、誰も死ななくてすむのだ。
 明るい表情で、手当てしている兵士に言葉をかける。

「……ん、良し。ちゃんと治りましたね。さあ、帰りましょうか」


 


●陣取りゲーム、序章。



 帝国国立図書館はいつも静かで薄暗い。水底のように。
 敗戦の一報がもたらされてよりこの方、立ち寄る人もとんと減り、さらに静けさが増した。




「さっむ。ここ、暖房入ってないんですかねえ。燃料不足深刻ですぅ」

 白い息を吐きながら星野 ハナ(ka5852)は、傍らに積み上げた各陣営の機関紙や新聞に片端から目を通す。

「今から勝ち上がるのはどこでしょぉ? 一緒に沈むのは勘弁ですぅ」

 零細政党の新人議員である彼女は現在、どうすれば有利かつ確実に自分の地位を確立出来るかを、のべつまくなし考えている。
 
「【内乱とは階級闘争の一形態である。それを避けようとしてはならない。国内の混乱が増大すればするほど、革命にとっては有利である】……はー、マゴイ女史過激なこと書きますねー」

 慌ただしく共産党機関紙を斜め読みし、ステーツマンが演説しているところを写した写真に目を留める。
 直に接触したことはないがハナは、この人物にうさん臭さを感じていた。
 特に理由らしい理由はないが――信用出来ないものを感じるのである。

「日和見するなら穏健派でしょうかぁ……例え革命が成功してもここが詰め腹切らされることはない気がしますぅ。革命ってハイリターンかもしれないけどハイリスク過ぎると思うんですよねぇ。お隣の国のギロチンの嵐が何も生かされてないじゃないですかぁ」

 やはり多数派で行こう。
 心を決めたハナは引っ張り出してきた新聞を棚に戻す。
 そのまま出て行こうとしかけ、ふいと出口付近にある机に歩み寄った。書き物をしている雨月彩萌(ka3925)が目に入ったので。

「司書さん、何書いてるんですぅ?」

 彩萌は眼鏡を押し上げ、淡々と言った。

「ああ、記録しているんです。今日誰が何を想いどんな行動を起こしたのかを」

「うーん、それっていわゆる日記ですか?」

「まあ、そんな感じのものです。この国の先に待つのが未来か破滅か。興味はありませんが、わたしはわたしの役目を果します。それが狂った世界でわたしの正常を証明する手段ですから」

「ふーん、そうですかぁ。じゃあ頑張ってくださいねぇ」

 おざなりの言葉を残してハナは去る。
 彩萌はペンを動かし文字をつづり続ける。


【前線の兵士たちの一部には、現実からずれた楽観認識を持っている者が、勝利を信じている者がいた。
 理由として、最前線では7月半ば以降、本国や戦線全体に関する情報――新聞や家族からの手紙含め――から遮断された状況にあったということが挙げられよう。加えてこの春の大攻勢から戦場に出てきたような者は、全体的な戦線の窮迫を実感仕切れていないところがあった。
だから、敗戦の報が届けられたとき、冷静に受け止めることが出来なかった。その傾向は帝国の支配階級、ユンカーの出身である者において、特に顕著だった……】




●不統一戦線



~独立社会民主党本部~



「腰抜け皇帝は国から逃げ出した。全くもって話にならん。独立社会民主党は俺に充分な戦場を与えられるのだろう?」


 横柄な口調で聞いてくる巨漢ルベーノ・バルバライン(ka6752)を見上げた党首コボちゃんは、近くにいた党員に吠えた。

「わし、わしわしわし!(誰だこんな無頼漢を呼んできたのは!)」

 すると党内急進左派――オップロイテの面々がすくと立ち上がり、これまた吠えた。

「わん、わわわわん、わん!(呼んだのは我々だ! 党首、連立政権に入ってからあなたは変節した!)」

「うー、うー、うぉーおーおーうー(現政権は土地や産業の国有化を宣言しようとしない! 社会主義に対する裏切りではないのか!)」

 すると党員のうちの右派がまたまた吠えた。

「うぉう、おうおう! うぉーん!(裏切りではない! 今我々が目指さねばならんのは国民生活の安定だ!)」

「ばうわう! ばうわう!(まずは民主主義に国民をなじませる事が先決、階級的独裁はその後だ!)」


 どうしたことかこの党、妙にコボルド率が高い。
 とりあえずまとまりがないことはよく分かったので、ルベーノは早々によそへ行くとした。



~多数派社会民主党本部~


 オルゴンエネルギー発見者にして精神分析学者のリナリス・リーカノア(ka5126)は机の上に立ち、高らかに持論をぶち上げている。

「敗戦の原因は、何よりもまず、旧社会制度による国民への性的抑圧だね。残念ながら我がゲルマニアは父権主義的かつ権威主義的な文化が色濃い……今こそ、その悪弊を改め歪められた国民性を正すとき! 人間は性的抑圧から完全に解放される事で、性エネルギーであるオルゴンを使う超人へ進化するんだ。プロレタリア革命はその超人にのみ可能なことなんだよ。だけど今国民はその段階に至っていない。だから現時点で革命を行うのは時期尚早だね。それより議会民主制での性的抑圧開放政策を充実させ早期の人間革命を――」

 議員たちは党首であるスペットに、延々続くトンデモ演説をどうにかしてくれという視線を向けた。
 スペットは傍らで汗をかいているカチャに半眼を向けた。

「……お前、まだあのイカレポンチと付きおうてたんか……」

「は、はあ、まあ」

「新聞ざたになる前にアレとはさっさと縁切れて、前にも言うたやんけ!」

「わ、私が誰を好きでも私の勝手でしょう!」

「限度があるわ! はよどっか連れてけ! これやと会議にならんやないか!」

「り、リナリスさん、ちょっと別のところに行きましょうか?」

「えー、あたしの話はここからなのにー。もっと喋りたいー」

 カチャに連れられリナリスが退場したことで、会議は再び平静さを取り戻した。
 スペットは猫ひげをひねって仕切りなおす。

「とりあえずやな、今回の全国労兵評議会大会で、左派急進勢力のイニシアチブを押さえたについては上出来や。次にせんならんのは共和国国民会議の全国総選挙や。いつまでも臨時政府を名乗っておれんしな。そのためには……」

 と言いかけたところでまた会議室の扉が開いた。
 カチャが戻ってきたのかと思ったら、違った。ハナだった。

「というわけでぇ、スペット党首よろしくお願いしますぅ。私ぃ、結構使いやすい駒だと思いますぅ」

「……誰やお前。ほして、何が「というわけで」なんや」

 ハナはテヘっと舌を出し、名刺を差し出す。

「あ、私星野ハナですぅ。現在零細政党所属なんですけど、この機会に多数派社会民主党へ鞍替えしたいと思いましてぇ」




~エルフハイム党本部~


 党首マリーは副党首であるメイム(ka2290)を前に、弾んだ声で言った。

「さあ、これからエルフハイムの完全なる独立に邁進するわよ!」

「ねーねーマリーさん。こんな情勢で独立運動ってどんな事するのー? 帝国は瓦解したけどあたし達、大した力ないよー。多数派とは方向性も違うみたいだし」

「もう、メイムったら分かってないわねえ。これから帝国の運命を決めるのは国内勢力じゃなくて国外勢力よ? 彼らと組むのよ」

 そう言ってマリーは、ふふんと鼻を鳴らした。自信ありげに。

「実のところね、すでに彼らとは話が付いているの。エルフハイムが独立することはもう規定路線。後詰めなきゃならないのは、どれだけ周縁部をこっちに割譲させられるかだけ」

「……そこまで展開が進んでいたとは知らなかったよ。でもさ、この時期に国外勢力と組んだら皆からの印象悪くならない?」

「皆って、誰のこと? おが屑パンと家畜用のカブ食べて生きてるゲルマニア原住民のこと?」

 祖国独立がうれしいのは分かるが、この手の失言が外部に漏れるとやっかいなことになる。帝国は崩壊したが、それを構成していた人々が消失したわけではないのだ。
 思いながらメイムは、話を切りかえる。

「そういえばこの間の革命派の声明、新聞で見た? ステーツマンって行方不明だったナルシス君じゃない? 写真だと顔そっくりに見えたんだけど」

 この話題はマリーにとって、非常な関心を呼び起こすものだったらしい。早速身を乗り出してくる。

「――やっぱり? 私もね、なんだかものすごく似てるなって思いはしてたのよ。でもね、でもナルシス君とは髪と目の色が違うし……」

 実際違うし全くの別人である。
 だがメイムにとってそのあたりの真偽はどうでもよかった。マリーの意識を既存の話題からそらすためだけに、このネタを持ち出したのだからして。

「そうなんだ。でも目とか髪の色って、覚醒とか何とかによって結構よく変わる物だしさ。そんなこだわって考えなくていいんじゃない? それより彼、今共産党の顔みたいになってるけどさー……どうなんだろ。実のところマゴイに踊らされてるんじゃないかな。このままだといずれ近いうちに首くくられちゃう気がして、あたしそれが心配なんだー」

 ちらとマリーの顔を見て、先ほどよりもなおこの話題に前のめりであるのを確認し、続ける。 

「ね、裏で手を回してマゴイやっつけない? 多数派社会民主党幹部とか独立民主党幹部とか、そこらあたりうまいこと唆せば、どうにか出来るんじゃないかと思うんだよね。マリーさんの手は綺麗なままで。そしたらナルシス君はマリーさんのものだよ」

 マリーは少し考えた。
 それから、メイムもあまり見たことがないようなずるい表情を浮かべた。

「……いいわね、それ。私、そもそもマゴイが嫌いなのよ。知ってる? あの女、エルフハイム独立に反対してんのよ。自分もエルフハイム出身のくせに」

「え、そうなの?」

「そうよ。『少数民族は支配階級を持たないため反動的に機能する。だから少数民族は支配民族に同化するべきである』だって。ふざけた理屈よねー」



~共産党本部~



「……今この段階で街頭デモを暴動に転化させることについては……私は反対だわステーツマン……時期尚早すぎる……」

「今が時期尚早と言うならいつがその時期なんだね、マゴイ。君は革命に賛成の立場なんだろう」

「……そう、賛成……だけど政治闘争は長期の仕事……条件が整わないうちに政権を奪取することは不可能……だから今は臨時政府の打倒を叫ぶべきではない……労兵評議会の充実にこそ力を注ぐべき……残念ながら今の労兵評議会は……共産主義を理解している人が多いとは言いがたい……だから私たちは先の全国労兵評議会大会で主導権を取れなかった……もっと啓蒙活動をしていかないと……」

「確かに大会において、我々が社会民主党に遅れを取ったのは事実だ。だがあの党の首脳部と支持大衆が求めるものとの間には依然大きな乖離がある。我々は力でもってそれを引き剥がすんだ。そして彼らに方向性を与える」

「……それは違う、ステーツマン……革命は大衆人民の自発性においてなされるべきもので……」

「君は大衆を買いかぶりすぎだ」

 マゴイとの会話を打ち切ったステーツマンは、部屋から出て行った。壁に寄りかかり腕組みしているルベーノにこう申し渡して。

「近いうち大規模なデモを起こす。それに参加してくれ」

 ルベーノはああ、と短く答えた。
 彼は雇い主の主義主張に興味はない。
 最も手っ取り早く戦いに近づけそうだからここに来たと言うだけの話である



●彩萌の手記


【11月10日。独立社会民主党、多数派社会民主党からなる臨時政府が誕生し、共和国の宣言が行われた。今後の進路について国民の意見は二つに分かれている。議会多数派支持者は民主共和国が成立したことに満足している。このまま秩序を維持し経済再建をしたいと思っている。だが革命の支持者はその次の段階を求めている。プロレタリアの独裁、社会主義革命、という。しかしそれに賛同するものは多くない。平和と民主主義とパンが手に入るなら、たいていの人は、それ以上を求めなくなる。】


●一足お先に



 エルバッハ・リオン(ka2434)は思い切り眉をひそめていた。

「ここから下車して欲しい? 何故です」

 問う彼女に車掌は、しきりと頭を下げた。

「申しわけありません、この先の町は革命勢力の支配下に入ってるんです。連中勝手に検問をやっているんです。ですからあなた様は、危険かと……」

 自分は有力貴族の娘。そして将官。逮捕されないわけがない。思ってリオンはうめいた。

「最悪です。将官である以上、戦犯扱いで処刑される可能性が大です」

 みすみす捕まるわけいかないので勧めどおり下車し、荷を持って目的地への迂回路を歩いて行く。雪が降る、冷たくさびしい林の細道を。
 本来だったらこのまま次の町を通過し国外への路線に乗り換えるはずだった。
 既に国外での拠点も押さえているのに、こんなところでつまづくとは。とんだ災難だ。

「最悪です……」

 たとえ負けたにしてもこれほど革命勢力が跳梁跋扈するようになろうとは。
 考えれば考えるほどしゃくに障り、リオンは、ますます眉間を狭めて行く。

「余計な混乱を起こして逃亡の段取りに支障を発生させてくれたカチャさんには、いろいろとお仕置きをしたいところですが、『今』は我慢です」

 カチャは混乱を起こす立場ではなくむしろ押さえる立場なのだが、そこはリオンの理解が及ぶところではない。生まれも育ちもユンカーである彼女にとって社会主義と共産主義は同義語である。

「今度会ったらもう……声も出なくなるくらい苛めてやりますからね……フフ……フフフ……」




「点検が終わり次第すぐ出発だ! 反徒に嗅ぎ付けられると厄介だからな!」

 膨大な財宝が皇帝専用車両に連なった貨車に積み込まれて行く。
 まるで国一つが引っ越すかのような騒ぎ。
 護衛兵の一人である天竜寺 舞(ka0377)は、それを苦々しく見つめていた。
 帝政に異議を唱えるわけではない。
 が。
 しかし。
 これはちょっとないんじゃないのか? 
 敗戦の祖国に後足で砂かけたおす所業ではないのか、これは。
 国父ともあろうものがこれでいいのか?

「終わったぞ、総員乗り込んで配置につけ!」

 汽笛が鳴る。
 煙が勢いよく吐き出され、汽車が動き始める。国境を目指して。
 舞はある決意を秘め、隠の徒を発動させた。持ち場から離れ、貨車の先頭へと向かう。



●沸騰する街角で


 義勇軍一分隊の隊長アシェ-ル(ka2983)は、集まった隊員に言った。

「我々は治安維持のため、市民の安寧を守るため、ここにいます。その事を忘れないでください」

 錬介はいち義勇兵としてそれを聞いている。
 今回は流石に働き過ぎだと思うので暫くはのんびりしたい――そう考えていたのだが、現実は厳しかった。
 首都に戻ってくるなり部隊が解散されたのだ。雀の涙ほどの手当てで。幸い先に帰っていた同僚から義勇兵が募集されていると聞いたので応募し、このようになんとか入れてもらうことが出来たのだが……それにさえあぶれたものが街角にはわんさといる。
 皇帝や参謀は国外へ逃げてしまったそうだ。
 今度こそ長く平和が続くようにお偉いさんには頑張って頂きたいものだが。

(まあ、俺に出来ることは皆と一緒に前線へ飛び込んで死者が一人でも少なくなるよう努めるだけです)




 前線から帰って来てみれば祖国は、自分が見知っていたものとは違うものになっていた。
 陸軍大尉ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は冷たい空気を吐きながら、蒼光りする刀身をかざす。

「……寄らば斬る、行く手を阻むなら斬る」

 殺気を滲ませ自分を取り囲む人垣へ突進して行く。
 気迫に臆し、人垣が割れた。その一点目がけて突っ走る。

「逃げた!」

「お――追え!」

 追う声と銃声を振り切って小道から大通りへ。デモ隊と義勇兵が揉み合う最中にわざと飛び込み追っ手を巻く。
 この敗戦によって軍の権威は失墜した。その上層にいたものは帝国主義の手先として、国内でも糾弾の対象となった。
 既にあちこちで暴徒化した急進左派が、貴族、政府高官、軍高官などを襲ったりしている。袋叩きにされるだけならまだいいほうで、下手をすると行方不明になった挙句死体で発見ということも、ないではない。
 もっとも同様な狼藉は、右派から左派に対しても行われている。治安の悪化は目を覆うばかりだ。

「まさに負け戦、とはこのことね」



 アウレールは路上で大勢の聴衆を相手に、気炎を上げていた。

「我々は負けたのではない、背後から裏切り者どもに一突きされたのだ! 無頼な革命家共が跳梁跋扈し、この国をのっとろうとしている! 戦勝国は我らの苦境を少しも顧みず賠償をしろと言い募り、挙句の果てに父祖伝来の地までもぎ取った! 私の故郷は今や国境の外、エルフハイムの一部となり足を踏み入れることさえ出来ない! 我ら全線兵士同盟「絶火団」の使命は退役軍人の互助と治安維持、共産主義革命の阻止と将来的帝政復古! アカどもを一人残らずこの地から駆逐し、ゲルマニアの伝統に則った健全な社会の再建を目指す! 諸君らの職も確保する! 偉なる祖国を取り戻そうではないか!」

 割れるような拍手と、そうだ!という声が上がった。
 聴衆はその大半がくたびれ薄汚れた失業軍人だが、中に身なりのいいのがちらほら交じっている。現状では息をひそめている旧国家人民党の議員、並びに右派市民である。
 そこに左派のデモ隊がやってきてシュプレヒコールを上げた。

「「ユンカー、くたばれ! 帝国主義、くたばれ! ソヴィエト万歳!」」

 その後はお決まりの乱闘だ。なにしろ、双方血の気の多い連中が多数を占めている。

「アカが! そんなにソヴィエトが好きならゲルマニアから出て行け!」

「おまえらこそ皇帝の尻についてこの国から出て行け! 反動の犬!」






 エアルドフリス(ka1856)は左右の乱闘騒ぎを遠目に見、吐き捨てるように言った。

「社会主義革命だと……冗談じゃあない!」

 彼は青年医師だ。その肩書通り誠実に生きていれば特に何も恐れなくていいのだが、軍需産業と癒着した旧政府高官の奥方に取り入ることで立場を築き、出所不明瞭にして莫大な報酬を得ていたとあれば、そういうわけにはいかない。
 パトロンの高官は権力の座から滑り落ちた――ということは自分もおしまいということだ。
 このまま革命が進行すれば反動関係者として、革命化した連中に引っ括られるかもしれない。

「ちっ」

 舌打ちし足を速める。
 途中ディーナ・フェルミ(ka5843)に突き当たったが、彼は振り向きもしなかった。



 
 エアルドフリスに突き当たられ尻餅をついたディーナは、発砲音を耳にし慌てて伏せた。
 姿勢を低くし狭い裏道へ入る。怪我が治せても、痛いのはいやだ。
 壁と壁とに囲まれてようやくほっと出来たのもつかの間、異様な叫び声が耳に飛び込んできた。

「ヤェャァァァ↑アイィヤエ↑ヤゥィゥ……」

 それは乱闘鎮圧に来た義勇兵マルカ・アニチキン(ka2542)が発した呪文だったのだが、彼女が知る由もない。
 いっそうの恐怖に駆られ、走る。
 
(皇帝が居なくなって、戦争は終わったんだよね? なのに、何でみんなそんなに戦いたがるんだろう。戦ったからって、幸せになるとは思えないのに……それともほんの少しはましになる?)

 喧騒が聞こえなくなるところまで来て息を整え、とぼとぼと家に帰り着く。
 途中、壁に貼られたポスターに目が行った。今年3月に発行された、第八次戦時公債購入を求めるポスターだ。誰がしたものか、「嘘つき」という殴り書きがしてある。

(あの時は確か、勝利は目前だと言われていたっけ)

 あれからもう8カ月、たったの8ヶ月。
 食糧不足と燃料不足をなんとかしてもらいたいのだが、どこに訴えれば聞いてくれるのか。右も左も毎日喧嘩してばかり。
 本格的に革命が始まったら、どこにも行けなくなる。そんな噂も聞いた。

「……逃げちゃおうかな」

 こんな都会じゃなくて田舎なら、いいや、よその国ならもう少し落ち着いて生活出来るんじゃないだろうか。
 短絡的かつ切実な思いに矢も縦もたまらなくなった彼女は、その日のうちに目ぼしい家財を売り払い、旅支度を整えた。
 夜陰に紛れ、線路沿いに歩きだした。


(この国から逃げようとする人は……きっと私だけじゃない)



●エアハート家の事件


 ジュード・エアハート(ka0410)は書斎に入っていく。
 政府高官「であった」父が電話機相手に声を張り上げている。

「滞っている納入品の支払い? 私に聞かれても分かりませんよ!」

 もうこの人も終わりだなと思いつつ、彼は父に話しかけた。

「ねえパパ。取り込んでるところ悪いんだけど」

「何だ、後にしなさい! 私が忙しいのが分からないのか!」

「ごめんね。でも、ママがさ、ボクたち置いて行っちゃうみたいだから」

「あん?」

「エアルドフリス先生とどこかに行っちゃうみたいだから。2人がそんな話してるの聞いたんだ。今さっき。寝室のベッドにいたんだ、2人とも。前からそういうこといっぱいあったけど」

 父親は受話器を投げ出し寝室へ走った。
 するとそこには、息子が言ったとおりの光景があった。

「きっ……貴様ら……」

 怒りに声を詰まらせた彼は寝室のチェストに飛びつき護身用の銃を取り出す。
 エアルドフリスは自身の医療鞄から同じように護身銃を取り出した。
 奥方が動いた。
 エアルドフリスをかばおうとしたのか、それとも夫をかばおうとしたのか、単に逃げようとしたのか、そこは分からない。
 二つの銃声が重なる。
 奥方が倒れた。どさんという音を追いかけるようにして、床に血だまりが広がる。
 続いてまた銃声が響いた。
 今度は父親が倒れた。
 追いかけてきた息子のジュードがアサトライフルで、後方から頭を撃ったのだ。
 固まるエアルドフリスの側に歩み寄った彼は、熱さの残る銃口を彼の眉間に押し当てた。

「もー、エアさんんひどい。俺のこと置いてきぼりにするつもりだったんだ?」

 すねたような上目使いをくれてから、改めて艶っぽい笑顔を見せる。
 親のあずかり知らぬところであったが、実は彼もすでにエアルドフリスの『愛人』となっていた。

「でも、これで俺を選んでくれるよね? ねえ、一緒に連れて行ってよ。お願い。俺、家の隠し財産や取引材料になりそうな書類の在りか全部知ってるし、エアさんさえいれば他にはなーんにも要らないから」

 追い詰められた末に逆上したエアルドフリスは、噛み付くように言った。

「――じゃあさっさと隠し財産と書類のところに案内しろ! 俺はこんな所じゃあ終わらん。此処まで這い上がったんだ、革命なんぞで失くしてたまるか!」




●アクシデント


 舞は気配を殺し貨車の先頭車両まで行き着いた。
 外側に出、雪つぶてを浴びながら連結部の繋ぎ目を外す。
 重い荷から解放された先頭車両は勢いを増し、みるみるうちに遠ざかっていく。
 貨物車両の警備をしていた兵は、徐々に速力が落ちて行くことを不審がり窓から顔を出す。そして自分たちが置いて行かれていることを知る。
 
「おーい! おーい! 待ってくれー!」

「連結が、連結が外れてるぞー! 止まれえー!」

 空に向け矢継ぎ早に銃を撃ち大声を出す彼らに、舞が待ったをかけた。
 まず自分が連結を外したことを述べてから、説得を試みる。

「陛下が亡命するのは構わない。けど我が祖国と国民にはこれから未曽有の困難が待ち構えてるんだ。この財産はその為にこそ使われるべきじゃない? それが陛下の皇帝としての最後の務めだと思わない?」

 皆薄々そういう気分は持っていたのだろう。正面切って反論してこない兵士が多かった。
 だが、筋金入りの帝政派も数人いる。

「使うも使わないも、それは陛下がお決めになることだ。我々がそれを云々するのは僭越というものだ」

「こんな乱れた状態の国に貴重な財宝を置いて行ったら、社会主義者や共産主義者どもの餌食にされるだけのことだ」

 舞は彼らに反論する。

「そうなったとしても、このまま財産持って亡命するよりよっぽどマシ。陛下の名誉は傷つかない。かえって同情が集まる」

「貴様……皇室護衛兵の身でありながらよくもそんなことを……さてはアカの思想に染まりおったな! 恥を知れ恥を!」

「アカとかアカじゃないとかそういうことじゃないだろこれは!」

 大モメにモメているところ、車両の外から声が聞こえてきた。

「おい、なんだこの貨車は」

「誰かいるのかー」

 もしや追っ手かと、護衛兵の間に緊張が走る。
 能力者の舞がまず様子を確かめに出た。するとそこには兵士と民間人がごっちゃになった10人ほどの一団がいた。
 先頭にいるのは――ユーリ。亡命の最中似た境遇のものを拾っているうち、こんな大所帯になってしまったのである。
 ちなみにその中には、ディーナもいる。線路脇をとぼとぼ歩いているところ、声をかけてもらったのだ。

「あれ、陸軍のヴァレンティヌス大尉? なんでこんなところに」

「それはこっちが聞きたいのですが……なぜ皇室護衛兵のあなたがたがこんなところにいるのですか?」

 後ろから例の帝政派が出てきて怒鳴る。

「そんなことはお前たちの知ったことではない! それよりもこの非常事態に、ゲルマニア臣民たるものがこんなところで何をウロウロしている。この窮地に国を捨てるものは非国民だぞ!」

 これは心ならずも故国を脱出してきた者たちに対し、非常に悪い印象を与えた。

「……そういうあなたがたこそ、この非常事態に何をこんなところでウロウロしているんですか」

「何積んでるんだ、この貨車に」

「ちょっと見せろよ」

「あ、おい、こら止めろ乗るな貴様ら! 憲兵を呼ぶぞ憲兵を!」

「へえ、呼んでみろよ。どうせあいつらも逃げたんだろ」

「おい、すごいお宝積んでるぞ!」

「触るな、汚い手で触るんじゃない! 皇帝陛下の私有物に! 罰が当たるぞ!」

「なんだと、皇帝はこんなもの持ってとんずらしようとしたのか!」

「とんずらとは何だ無礼ではないか!」


 舞は募ってくる騒ぎを止める気にもなれずその場に座り込む。
 ミーナもまた似たような気持ちだったので、同様に座り込む。
 品に手を触れる勇気はないディーナだったが、破られた袋から見えた金貨には正直目を奪われた。国債を買った分だけは返してもらいたくなった。
 そんなごたごたの最中、皇帝亡命の情報を聞きつけた評議会国境警備隊が束になってやってきた。
 その場にいた舞並びミーナたちは一時拘束されたが、すぐ釈放された(貨車の荷物は軒並み接収されたが)。
 幸いこの地方の評議会は急進派ではなく、現政権を支持する多数穏健派に属する人々で構成されていたのである。
 この一報はそのまま、ベルリンへ伝えられた。



 ちなみにこの騒ぎ、実はリオンも見ていた。林の奥から。
 しかし特に手助けすることなく、そのまま一人国境への抜け道を歩いていったのである。

「……やはり線路際の道を避けて正解でしたね。どこにアカの手先がいるか分かったものじゃない」

 大事なのは我が身であると割り切って。




●民主主義か独裁か





 現在首都では、これまでで最大規模のデモが行われている。
 




 臨時政府首領のスペットは組んだ両手に顎を乗せ、陰鬱に言った。

「こらあかんな」

 カチャも陰鬱に答えた。

「だから独立社会民主党系の議員を臨時政府から追い出さないほうがいいんじゃないかって、あれほど」

「あいつら勝手に辞めてったんやん。人民海兵団鎮圧の手法が間違うとるとかなんとかゴネて」

「まあそんな形はとってましたけど、実質追い出しですよね。続けて同系の警視総監を罷免しちゃったし……もう完全に敵対関係になっちゃってますよ。独立系とうち。共産党とは元からですけど」

「おお元からやな。あいつらとは仲良くなれる気が一ミリもせん」

 そこで、新人党員のハナが口を挟んだ。

「それでいいんですよぉ。急進左派ったら現実離れしたことばかり要求するんですもの。民衆はローリスクハイリターンを望むものですが、為政者はそんな甘い夢に酔うわけにはいきません……ところで党首、私小耳に挟んだんですけど、エルフハイム党首領のマリーさんが、マゴイさんの強制逮捕を唆して来たって本当ですかぁ?」

「本当や。カチャが受け付けたわ。なんやコボのところにも行ったらしな。向こうからは話にならないと突っぱねられたそうやけど」

「へえー、で、こっちはなんてお返事したんですぅ?」

 カチャは大きくため息をついて言った。

「逮捕なんて出来ませんと言いました。マゴイさんは法に触れることをしてないんですから」

「機関紙に扇動的な文章を発表し続けてますよぉ?」

「今は帝政時代じゃありません。集会結社思想の自由は認められています」

 ハナはやれやれと首を振る。

「今は確かに戦時じゃありません。でも非常時ではありますよ。超法規的措置が必要な場合もあると思いますがねぇ」

 スペットがぼそりと呟いた。

「せやな」

 我が意を得たハナは、手を打ち合わせた。

「さあ党首の敵はどなたですぅ? ジャンジャン倒してきますよぅ?」

「……取り合えずな、お前、国防相に任命するわ。あのデモ隊どうにかせえ」

「はいっ。それじゃあ義勇軍かき集めてきますねぇ。あと各方面からぁ、残存正規軍も呼ばないとぉ。あ、そうそうカチャさん。リナリスさんいち早く、騒ぎの現場に向かったそうですよ?」

「……エ? エエー!?」

 カチャは椅子を蹴倒して、許可も取らずに議場から退席する。
 入れ替わりに独立社会民主党議員が入ってきた。
 革命派と政権との衝突をなんとか回避させるため、調停に来たのである。

「うううを、わんわんわんわん!(軍を差し向けるのは待ってくれ!)」

「わおおおお、わおおおおおん!(交渉だ! 相手と十分な交渉をすべきだ!)」

 しかしスペットはいまさら彼らと交渉する気などなかった。

「ええい、やかましわ、この犬! 帰れ!」

「うー、うおー!(なんだとこの猫!)」

「ばわわわわ! うわわわわ!(やはり猫には社会主義の何たるかがわからんのだ!)」






「またすげえ人手だな……まだ増えるのか?」

 ボルディアは街区を埋め尽くす大群衆に目をやった。
 彼女とその残存部隊は、まだ生きている参謀本部の召集により首都に戻っている。デモ隊牽制のために。
 
「見る限りは大半素人集団ぽいんだけどな……その周りにいる奴がなあ」

 とりあえず赤いマフラーを口元に巻いたあの男は、間違いなく能力者。

「おい待て、革命委員会からはまだ動くなと……」

 そんな仲間の声を無視し、武装した義勇兵の塊を苦もなくふっ飛ばしている。
 ――とにかく向こうから始めたのだから、黙っているわけにはいかない。
 ボルディアは隊員に低い声で言った。

「いいか、雑魚は相手にするな。核になってる奴を狙え」

 幻獣たちが一斉に動き威嚇した。
 リーリーが走り、イェジドが唸る。ワイバーンが、グリフィンが飛ぶ。
 デモ隊の先頭は急襲に退いた。
 しかしその後方から機関銃部隊が現れた。轟音と火花を散らし幻獣の前進を阻もうとする。
 ファイアボールが爆発した。建物の壁に弾痕がつき、石畳が浮き上がり吹き飛ぶ。
 迷彩色のゴーレムが動く障壁となりデモ隊に向かう。

「ほう、これは少しは骨がありそうだな!」

 楽しげな声を上げてルベーノは、怪力無双で底上げした力を、鎧通しでたたき込む。
 ゴーレムの体が傾き路上に倒れた。
 その時デモ隊の脇をつく形で、複数の義勇軍部隊が現れる。
 先頭に立つのが、アウレールの『絶火団』である。

「蹴散らせ! 敵の前後を分断し包囲し、潰して行け!」

 続いて出てきたのがマルカ。

「私には見える、見えるのですよ巨大な電気箱の内壁が嬉しさで体液を流し濡れた柔らかい歯車に乗り咀嚼機関を通り抜けて脳髄の試写会で海綿状に視覚化され圧搾され耳から溶けた水晶体となって出る様がウヒャッフウ!」

 口走っている内容から察せられる通り、彼女は半分以上狂っていた(度を越した魔導研究のためだと周囲からは囁かれている)。
 杖に跨り空中浮遊、敵を攻撃しているのか味方を攻撃しているのかはっきりしない命中率で魔強焔の乱れ撃ち。
 危険だと見たアシェールは、部下に命じた。

「皆、一旦下がりなさい!」

 錬介は同僚たちと一緒に後方へ下がる。
 もつれ合っていた集団が割れた場所に、小柄な人影が走りこんできた。大きな荷を背負って。
 マルカは一瞬だけ我に戻り、言った。

「あ、リナリスさんお久しぶりです」

「あ、マルカさん久しぶりー。それはそれとしてみんな! 無益なことはもうやめよう! 今この国がするべきは争いじゃない……性の解放だよ!」

 全くあさっての主張に、左派も右派も一瞬静かになった。
 続いて我を取り戻し、そこにいるのが誰なのかを確かめる。

「誰かと思えばトンデモ学者じゃねえか!」

「何しに出てきたすっこめ!」

 予想出来たことだがブーイングの嵐。
 しかしリナリスは怯まない。

「落ち着いて聞いて。あたしはついにオルゴン兵器――オルゴンバスターを完成させたんだ! それがこれだよ!」

 彼女は背負っていた荷を降ろし、包んでいた布を外した。
 出てきたのは中に椅子が置かれた縦長の木製ボックス。
 アウレールは隣にいた団員に命じる。

「撃て」

 砕け散るオルゴンバスター。
 抗議するリナリス。

「ちょっと何すんの! 人の話は最後まで――」

 そこにもう一つ小柄な人影が飛び込んできた。リナリスを連れ戻しに来たカチャである。

「すいません皆さんすいません! 今すぐこの人撤収させますから!」

「あ、カチャ。ちょうどいいや、あたしの自説の証明と普及の為、協力してよ♪ 国民諸君! これこそが解放だ!」

 リナリスいきなりカチャの襟を大きくくつろげ、発育のいい胸を公の場であらわにした。

「ぎゃあああ何やってんですかちょっとお! すいません本当にすいません忘れてください今の!」

 カチャは片手で襟を押さえもう片手でリナリスを引きずりつれ去った。
 この予期せぬ一連の幕あい劇により敵も味方も、なんだか気がそがれてしまった。
 そこに炸裂するのがマルカの謎魔法。

「→↑↑↑←!!」

 魔杖ケイオスノーシスが一振りされるや乳よりも濃い霧が辺りを包み、何も見えなくなる。
 それは事態を膠着状態に陥らせた。





「お・ま・え・ら・なにしてん! なにしてんねん! 冗談抜きでしばきまわすぞホンマ!」

 シャアアと息を吐きスペットは、号外を床に叩きつけた。
 カチャは汗をかき目をそらす。ハナはそれを拾って読む。

「『臨時政府委員カチャ・タホ、異端学者と白昼の破廉恥騒ぎ』『良識的市民が眉を潜める事態に』『これで大丈夫なのか臨時政府!』」

 リナリスはキャッキャとうれしそう。

「やだー、あたしたちもう記事になってるね、カチャ♪」

「なってるね、カチャ♪やないわボケェ! こういう時期にスキャンダル出すのがどんだけ致命的かちったあ分かれや!」

 まだまだ続けたかったスペットだが、そこに電話がかかってきたので中断せざるを得なかった。

「おう、なんや……皇帝の持ち逃げ財産が確保された? マジか!」



●唐突な暗転



 白い霧に覆われた空間にルベーノはいた。マルカの謎魔法に巻き込まれたのだ。

「何だこれは」

 ぼやいたところ、後ろから声がした。

「……多分……何らかの結界魔法だと思われる……」

 振り向けば細身の女――マゴイである。デモの様子を見に来て巻き込まれたらしい。
 面会を申しこもうと思っていたのだが、ここで一緒になったなら好都合だと思い、言葉を返す。

「博識だな」

「……昔少しだけ魔法を齧ったの……私には才能がないから知識だけに終わったけど……」

 そこまで言って彼女は、はたと今気づいたような顔をした。 
 
「……そういえば、あなた何故いつも顔を隠しているの……」

 ルベーノは包み隠さぬ本音を告げた。

「戦場はある、が継戦するにはどうにも勢いが足りん。早晩革命の方は失敗するだろう。ならばわざわざ顔を晒してどうする。戦場はここだけではないのだからな」

 これだけ群衆が集まっているのに、革命委員会は協議を続けているばかり。味方をすると思っていた市内の軍、人民海兵団、保安隊が様子見の姿勢を崩さないので、行動に出ることを躊躇している。
 こんな体たらくで革命がなるなどと、到底思えない。
 そう続けて、さらに言う。
 
「趨勢の定まった戦場ほどつまらんものはない。俺は他国へ新たな戦いを求めに行くことにした。行きたければお前も連れていってやるが、どうする」

 マゴイは少し黙った。そして寂しげに笑った。

「……行かない……私は……革命はここで起きているのだから……」

 切れ長の黒い瞳からルベーノは目を知らした。自分が自分の信念とは違う何かを口走りそうになるのを恐れて。
 結界が薄らぎ晴れて行く。少し先に警視庁があった。デモ隊がそれを取り囲んでいる。

「……それではさようなら……元気で……」

 マゴイはルベーノに背を向けた。デモ隊のほうへもたもたした足取りで歩いていく。
 彼女の姿に気づいた人々が、じれったそうに声をかけた。
 
「同志マゴイ、革命委員会の結論はまだ出ないのですか」

「我々ずいぶん待っているのですが」

 ルベーノはその姿を見つめた後、きびすを返そうとする。
 そこで銃声が響いた。
 マゴイは頭を撃ち抜かれ路上に転がる。





 通りを見下ろせる建物の部屋。ジュードは構えていたライフルをカーテンの後ろに引っ込め、エアルドフリスに言う。

「やったよ、エアさん。あの人動きが遅いから超当てやすかった」

「よし、ならずらかるぞ」

 彼らは、いまだ首都に潜伏していた。警察に手配されていたからだ。目下ろくに捜査をする力もないとはいえ、それでも存在を認知されると面倒なことになる。
 持ち出した金を担保にして、高官との繋がりがあった非合法組織に身を潜め、脱出の機をうかがっていたところ、見知らぬエルフの男が接触を図ってきた。マゴイを暗殺してくれれば、エルフハイムへの亡命を支援するのだが、と。
 エアルドフリスたちはその話を受けた。偽造旅券を先渡しさせた後で。



 


 委員会からの足止めによってフラストレーションを溜め込んでいたデモ隊は、目の前で起きたマゴイの殺害でタガが外れた。
 革命委員会の指令を待つことなく勝手に動き始める。集団として固まったまま。
 協議を続行していた革命委員会は遅れてそれらの出来事に気づき、大慌てに慌てた。

「お、おい、連中どこに行く気だ!」

「まずい、止めろ!」

「この人数をどうやってだ!」

 




「マリーさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何、メイム」

「マゴイが殺されたっていう報が今入ってきたんだけどさ……」

「あら本当」

「……マリーさん、まさかコボちゃんやカチャさんが反応しなかったからって、自分で手を下してないよね」

「下してないわよ。マゴイがいなくなってくれたらいいのになあって、党の支持者に話しただけ」

「……」

 もしかすると、自分は党首の性格を見誤っていたかもしれない。そんな思いにとらわれているところに、とどろく群集の雄たけび。


 う、おおおおおおおおおおお!

 
 急いで窓辺に寄ってみれば見たこともない数の暴徒が、国会前広場に押し寄せてきている。

「とりあえず、ここから移動したほうがよさそうね」

「あ、うん……そだね……」





 防衛相ハナは状況の不利を悟り、一事撤退を即断した。


「党首、一旦ベルリン市内から移動ですぅ。買収した保安隊と人民海兵団が、勢いに押されて再度向こうに寝返っちゃいましたしぃ、独立社会党も中立宣言を出しましたしぃ、ポツダムからまだ軍隊が到着していませんですぅ」

「あいつら……後で覚えとれよほんま! ケツの毛ひんむしったるからな!」

「共和国防衛隊はどうなってるんですか!」

「あれは最初からモノの役に立ってませんねぇ……」




●彩萌の手記



【1月6日に起きたデモ隊による国会占拠は、完全にその場の勢いだけで成ったこともあって、数日後あっけなく瓦解した。 態勢を整えた臨時政府による反転攻撃によって。しかしそれは、共産党の力を失わせるにはいたらなかった。彼らと彼らの支持者は一時なりといえど国会を占拠したことで自信を深めている。ステーツマン以下有力な党員は地方に拠点を移した。ベルリンに戻ってきた臨時政府は布告どおり全国総選挙を行った……事態はなお流動的だ。しかして正式に共和国内閣が発足し】
 
 手元に影がさしてきたので彩萌は顔を上げた。ハナが呆れたように見下ろしている。

「彩萌さん、まだそれ書いてたんですかぁ。マメですねぇ」

「ええ。図書館に納めようと思いましてね。読む人がいるかどうかは分かりません全部終える前にわたしが死ぬかもしれないし、完成したとして燃やされたり処分されたりするかもしれません」

「ずいぶん悲観的なんですねぇ」

「性格です――それでも、書くのを止められない。せめて自分がこの場所にいた証を残したいですから」



●なだめおだてて上らせる



 皇帝は、共和国政府から密かに派遣されてきた特使、アシェールの話を聞いていた。

「王家に伝わる家宝はお返し致します。しかし、その他のものについてはこちらにお引き渡しいただきたい。臣民の事を真に思うなら貧困の救済支援をすべきです。さすれば、民の心も戻ってくるでしょう」

「勝手なことを抜かしおる……」

 苦々しく言いつつも皇帝は、家宝が戻ってくる分については保証されることに、おおいに安堵していた。

「それで、いつか余が国に戻れるという確約は確かなのじゃな?」

「はい。国が整い人心が安定しましたら、お帰りいただいてもかまいません。皇帝ではなくプロイセン国王としてですが」

「ふむ。まあよかろう。しかしくれぐれも共産主義者どもにだけは国を明け渡すでないぞ」

「はい。それでは陛下、陛下をお慕いする人々のために、声明を出していただきたいのですが」





●交渉



 戦勝国は講和条件について、再び折衷を始めた。ほんの一時とはいえ共産勢力が首都を制圧したということへのショックが大きかったのである。
 敗戦国は憎い。しかし共産化されるのは恐ろしい。もしそうなったら賠償金も取れないばかりか、自国にまで赤化の影響が及んでくる可能性がある……。




「貧困の苦しさが恨みと変わり、次の世代に必ず禍根を残す。戦勝国と新政権は、平和のためにも積極的な復興支援を行うべき」……ゲルマニアがそんなことを言ってきたのかね」

「不愉快だね。我々脅しているのか」

「賠償支払いそのものは認めている!」

「割譲の点も譲れないね。とにかく実は譲れない」

「では、戦争責任条項の文を手直しするのはどうですか。「この戦争の責任はもっぱらゲルマニアとその同盟国にあり」とされている部分です」

「どう変えるというのです」

「「この戦争の責任はもっぱら戦争を企画し遂行したゲルマニア軍部とその同盟国軍部にあり」とするのです」

「……なるほど。国民全体の責任ではないとするわけですね」

「納得いきませんなあ。国民と兵隊は不可分ではないですか」

「まあそういうことを言わず……それと賠償金についてですが、支払方法にいま少し柔軟性を持たせれば……」

  


●共和国スタート


~国民議会改め国会~



「賠償支払い1320億マルク!? な、なんですかそれ! 受けられませんよこんなの、国民にどうやって説明するんですか!」

「受けるんや。もっぺん戦争する力はないさかいな。もううちと中央党は態度まとめたさかい」

「私辞任します」

 リナリスが間髪入れず言った。

「いいよー、あたし養ったげる♪」

「またどっから入ってきたんやこのトンチキ学者は……あんなカチャ、総額に問題があるのは確かやけど、支払い方法についても総額についても、交渉可能なんやで」

 と言ってからスペットは、新聞をカチャに手渡した。
 そこには皇帝から共和国に向けての電文が載っていた。

『国が平和であり栄えること、それが王たる余の望みである。そのために余は余の財産を汝らに寄付する。栄えあるゲルマニア兵よ、余のために騒乱を起こすなかれ。それは余の望みではない。』

 カチャは目を見張り、ついで疑わしそうに言った。

「……これ、本人の言葉ですか?」

「一応な。こいつがうまいことやりおったわ」

 と言ってスペットは、アシェールに目を向けた。
 アシェールは咳払いしてカチャに言った。

「困難でも投げ出さず、少しでも有利な条件で条約を結ぶべきです。皇帝の資産を返済に当て、経済政策と失業対策に邁進しなくては。特に帰還兵についての対策が急務です」

 国防相長官ハナがおおいに頷いた。

「共和国国防軍再編しましたけど、内訳はほとんど旧帝国軍人ですからね。どうしても思想的に右へ片寄りがちになるんですよねぇ……なるべくリベラルな人間を選抜するようにはしてますけど……」


 

~ベルリン・ビアホール~


「やはり陛下は臣民のことを考えてくださっている。我々の苦境を見かね、亡命の地から救いの手を差し伸べてくださったのだ」

 感慨深げに言うアウレールに団員は、口々に賛意を示す。

「さすが我らの陛下だ」

「このご恩に報いるためにも、やはりいち早くお帰り願わねば」

 ボルディアは、どうも信じかねるといった顔で、最近帰還したばかりの舞に言う。

「……自分から金出すような人格者だったか? あの皇帝」

 それに対し舞は、分かってるだろうと言いたげな調子で肩をすくめた。そして、アウレールに言った。

「大尉は、あたしたちみたいに国防軍へ入らないのか?」

「断る。我々絶火団は独立独歩を選ぶ。健全な社会再建のためにな」

 錬介は片隅にて、静かにビールを飲んでいる。正規兵として採用されたことを、しみじみありがたく感じながら。




~北海を臨む一小国~


 ユーリ率いる亡命者一団は、この国に落ち着いた。
 ユーリ並びに元兵士たちは、当地の自衛軍に迎え入れられた。ゲルマニア兵は優秀だから、是非来て欲しいということで。
 その他民間人はそれぞれの職を見つけた。
 ディーナは当地で聖導士としてのスキルを生かし、看護士としての口を見つけ働いている。
 彼女は今休憩時間。待合所で新聞を読んでいる。

「……『ヴェルサイユ平和条約締結さる』」

 あちこち領地が削られ借金だらけになったけど、とにかく少しは落ち着いたようだ。

「帰れるときが来るのかな……」


 呟く窓の外を、毛皮のコートをまとったリオンが通り過ぎていく。
 彼女も無事亡命し、結構な生活を送っているようだ。
 




~エルフハイム~


 とあるホテル。
 エアルドフリスはジュードと祝杯を挙げていた。

「うまくいったねエアさん。で、これからどうするの?」

「そうだな。まあ、ゆっくり考えるさ。ここまで来たら警察も来やしねえからな」

「もー、悪いんだエアさん」








 とあるバー。
 カウンターの隅で飲んでいたルベーノは、傍らに来た銀髪の男に対し、目だけ動かした。

「やあ、その節はどうも」

「……ステーツマン、生きていたのか」

「ああ。どうだい、もう一度私たちと一緒にやってくれないか。近いうち君の好きな戦いが起きそうなんだが」

「断る」

「――そうか、それは残念だ」

 銀髪の男は踵を返し、数歩歩いて立ち止まる。

「マゴイのことはとても残念に思っているよ、私も」

 ルベーノは何も答えなかった。
 ステーツマンもそれ以上何も言わなかった。そのまま、また歩き出し、立ち去っていく。

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MVP一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞ka0377
  • タホ郷に新たな血を
    メイムka2290
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531
  • 東方帝の正室
    アシェ-ルka2983
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバラインka6752

重体一覧

参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • エメラルドの祈り
    雨月彩萌(ka3925
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • また、あなたと
    リナリス・リーカノア(ka5126
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
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