ゲスト
(ka0000)
【空蒼】世界の解を、思い描いた未来を
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/13 22:00
- 完成日
- 2018/08/18 08:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「はい! というわけで、ハンター芸能活動報告放送、気付けばエンディングのお時間となりました。本日は……」
タイミングと共に流し始めたエンディングテーマと共に、締めの言葉を告げる。出演した者たちが次々に、一言と共に別れを告げて、今回の放送も無事に終わった。
クリムゾンウェストからやって来た、あるいは帰って来た、ハンターたちによる芸能活動。その宣伝と報告をするWeb放送。
無事に、何事もなく。予定通り、自分たちの活動を報告して、少し冗句を交えて笑いを誘って。それ以上でも以下でもなく、きちんと終了した。
世界の激動は無論理解している。その上で、だからこそあえて彼らの姿を。いつも通りに。
伊佐美 透(kz0243)としては今現在その方針に対し、不満があるわけでは無い──不安があるだけで。
この放送自体は上手くいっている、と、思う。前回やった時は純粋にそう思えた。ぽつぽつと好評の声は聞こえていて……その中に『ハンターにもいろんな人が居て面白いと思った』という反応もあったことに。
まだ隔てられた形ではあっても、一人一人というものを見せていけるのだと、思った。少しずつ、『英雄』『超人』以外の姿を見せていくことが出来れば、別の理解も得られるだろうと。……いつか帰る場所に、かつての在り方で戻れるかもしれない、と。
……だけど、ゆっくりと、少しずつでも。そう悠長に構えているには、今の世界の変化はあまりにも激しすぎて。
己が望む未来を掴む方法はあるのだろうか。足掻こうが足掻くまいが、その答えはもはや決まっているのかもしれない。だが、それを識る事は叶わない中で。
『臨時ニュースです』
それでもやってくる。心を定めなければならなくなる、その時が。
『強化人間の施設で、またも暴走事件が発生いたしました──』
●
ドスン、と、地が揺らいだ。
訝しんで、友人たちと部屋を出る。異変を探すべく施設内を軽く歩いて……。
「何、これ……?」
そうして、廊下に穴が開いているのを発見した。直径一メートルほど、ど真ん中から崩れるようにして出来たのだろうそこから、地面が。深く穴を覗かせる状態で、見えている。
突如そこから何かがズルズルと音を立てて姿を現す。地面の穴から生えてきたそれは、巨大化したミミズ、を、もっと醜悪にしたような怪物だった。穴の中から2mほど姿を現したそれは上部が頭に当たるのだろうか、その部分だけよく見る狂気の個体を思わせる一つ目じみたフォルムがあった。それを顔とするなら口腔に当たる部分から、じゅるじゅると長く粘液を滴らせる触手を生やしている。あとは、ぶよぶよとしたミミズめいた胴体だ。黒ずんだピンク色が憎々しく蠢いて生理的嫌悪を催す。
「「「あああああぁあああっ!!!」」」
次の瞬間、上がった悲鳴は。
その姿を見た者たちだけじゃない、施設のあちこちで。同時に巻き起こった。
ここに居る強化人間たちが一斉に、頭を押さえて苦し気に呻き始める。
頭を真っ黒に塗りつぶそうかというような衝動。寒気。理解する。ずっと恐れてきたことが、とうとう自分たちにも、と。
「あ、あああ、あははははは……きた、アタシたちにも来た……やっと」
やっと。
傍の友人が零した言葉に、少女は震えた。
ああそうだ。ずっと恐れていたことは、その実、ずっと待ち望んでいたことでもあったのだ。だって、これで、もう、怯えなくていいんだ。いつ暴走するかと怖れ続ける日々はこれでようやく終わる。ここで、暴走さえ、してしまえば。
「駄……目っ!」
気力を振り絞って、少女は衝動に、誘惑に耐える。目の前の扉が開く。別の友人が部屋から出てきた……意志の光を失ったような瞳で。
「殺す……殺してやる……化け物どもを、全部……!」
「駄目ぇっ!」
止めるべく、少女は駆けだした。タックルするように絡みつき、暴れる相手を抑え込もうとする。そんな少女を、暴走した相手は容赦なく打ち据える。
「そんなの、駄目だよ! お願い、正気に戻って! 私たち、私たちは……!」
必死の少女に、頭を押さえて動けない一人が、諦めの声を上げる。
「もうどうにもならない! このまま狂うか仲間に殺されるか、あの化け物に殺されるか、それ以外に何がある!?」
絶望的。だが状況を踏まえれば正しい予測と言える叫びに。
「……私たちの状況は監視されてる! だからきっと、ハンターさんたちがここに来てくれる!」
「来たからって! それこそどうなるんだよ!? 暴走した強化人間として、まとめて殺されるだけだろ!?」
再び、叫ぶ、言葉に。
「違う!」
少女は、きっぱりと、叫び返した。
「ハンターさんたちは助けてくれる! 絶対に私たちを助けてくれる! 諦めさえしなければ!」
諦めようとする仲間の姿に。思い浮かぶ言葉があった。
助かる方法は分からない、きっと長く苦しむだけ、諦めて壊れた方が楽だ、と。
否定的なその言葉が、でも、少女を支えている。その指には、大したことない安っぽい輝きを放つ石が嵌まった指輪が輝いている。
「……本当、に?」
力強く言い放った少女の言葉に、ずっと傍らで呻いていた友人が頭を上げた。その瞳には、僅かに光が戻っている。そうして。
「誰か! まだ無事な奴は居るか! 皆頑張れ! ハンターさんたちが来るまで、僕たちがこの場所を抑えるんだ!」
飛び出してくる少年。その手には、少女と対になる指輪。
●
「すみません!」
事件をうけて行動を開始した一行に近づいてくる者が居た。一目で報道機関の人間と知れた。Web放送があった直後だ。ここにハンターが居ると分かって、動くだろうと読んでやってきたのだろう。
「事件のあった施設へ向かわれるのですね!? 一言お願いします! ──危険な強化人間たちは倒されるのでしょうか!?」
それを。
まっすぐに、期待に満ちた目で言われたことに、透は思わず動きを止めて相手を見返していた。
周囲の空気が変わっていく。報道機関の一言に、事態を理解した人々が顔色を変えていく。
「そっか! ハンターの人たちがもういるのか! それなら安心だな!」
「頑張れー! 強化人間なんてぶっ倒して!」
放たれる、熱狂的な声。視線。その温度。その意味。
憧れに満ちた目で、次々と叫ばれる。強化人間たちを──どうしろって? そんな気軽に言う事なのか? それは。
……違う。こうじゃ、無い筈だ。望んでいたものは。描く未来の姿は。
向かう先。何が起きているのか、何が出来るのか、この時点で分かっていたわけじゃない。それでも。
「俺は。俺が帰りたいと願う世界を守るために、戦いに行きます」
一言をというならば、それでも願う形を。口にしていた。
心に迷いはあったが、堂々と。半ば染みついた習性だ。メディアの前では望まれる自分を崩さない。
まだ曖昧な言葉。でも、結果として想いははっきりしてしまったと自覚した。
タイミングと共に流し始めたエンディングテーマと共に、締めの言葉を告げる。出演した者たちが次々に、一言と共に別れを告げて、今回の放送も無事に終わった。
クリムゾンウェストからやって来た、あるいは帰って来た、ハンターたちによる芸能活動。その宣伝と報告をするWeb放送。
無事に、何事もなく。予定通り、自分たちの活動を報告して、少し冗句を交えて笑いを誘って。それ以上でも以下でもなく、きちんと終了した。
世界の激動は無論理解している。その上で、だからこそあえて彼らの姿を。いつも通りに。
伊佐美 透(kz0243)としては今現在その方針に対し、不満があるわけでは無い──不安があるだけで。
この放送自体は上手くいっている、と、思う。前回やった時は純粋にそう思えた。ぽつぽつと好評の声は聞こえていて……その中に『ハンターにもいろんな人が居て面白いと思った』という反応もあったことに。
まだ隔てられた形ではあっても、一人一人というものを見せていけるのだと、思った。少しずつ、『英雄』『超人』以外の姿を見せていくことが出来れば、別の理解も得られるだろうと。……いつか帰る場所に、かつての在り方で戻れるかもしれない、と。
……だけど、ゆっくりと、少しずつでも。そう悠長に構えているには、今の世界の変化はあまりにも激しすぎて。
己が望む未来を掴む方法はあるのだろうか。足掻こうが足掻くまいが、その答えはもはや決まっているのかもしれない。だが、それを識る事は叶わない中で。
『臨時ニュースです』
それでもやってくる。心を定めなければならなくなる、その時が。
『強化人間の施設で、またも暴走事件が発生いたしました──』
●
ドスン、と、地が揺らいだ。
訝しんで、友人たちと部屋を出る。異変を探すべく施設内を軽く歩いて……。
「何、これ……?」
そうして、廊下に穴が開いているのを発見した。直径一メートルほど、ど真ん中から崩れるようにして出来たのだろうそこから、地面が。深く穴を覗かせる状態で、見えている。
突如そこから何かがズルズルと音を立てて姿を現す。地面の穴から生えてきたそれは、巨大化したミミズ、を、もっと醜悪にしたような怪物だった。穴の中から2mほど姿を現したそれは上部が頭に当たるのだろうか、その部分だけよく見る狂気の個体を思わせる一つ目じみたフォルムがあった。それを顔とするなら口腔に当たる部分から、じゅるじゅると長く粘液を滴らせる触手を生やしている。あとは、ぶよぶよとしたミミズめいた胴体だ。黒ずんだピンク色が憎々しく蠢いて生理的嫌悪を催す。
「「「あああああぁあああっ!!!」」」
次の瞬間、上がった悲鳴は。
その姿を見た者たちだけじゃない、施設のあちこちで。同時に巻き起こった。
ここに居る強化人間たちが一斉に、頭を押さえて苦し気に呻き始める。
頭を真っ黒に塗りつぶそうかというような衝動。寒気。理解する。ずっと恐れてきたことが、とうとう自分たちにも、と。
「あ、あああ、あははははは……きた、アタシたちにも来た……やっと」
やっと。
傍の友人が零した言葉に、少女は震えた。
ああそうだ。ずっと恐れていたことは、その実、ずっと待ち望んでいたことでもあったのだ。だって、これで、もう、怯えなくていいんだ。いつ暴走するかと怖れ続ける日々はこれでようやく終わる。ここで、暴走さえ、してしまえば。
「駄……目っ!」
気力を振り絞って、少女は衝動に、誘惑に耐える。目の前の扉が開く。別の友人が部屋から出てきた……意志の光を失ったような瞳で。
「殺す……殺してやる……化け物どもを、全部……!」
「駄目ぇっ!」
止めるべく、少女は駆けだした。タックルするように絡みつき、暴れる相手を抑え込もうとする。そんな少女を、暴走した相手は容赦なく打ち据える。
「そんなの、駄目だよ! お願い、正気に戻って! 私たち、私たちは……!」
必死の少女に、頭を押さえて動けない一人が、諦めの声を上げる。
「もうどうにもならない! このまま狂うか仲間に殺されるか、あの化け物に殺されるか、それ以外に何がある!?」
絶望的。だが状況を踏まえれば正しい予測と言える叫びに。
「……私たちの状況は監視されてる! だからきっと、ハンターさんたちがここに来てくれる!」
「来たからって! それこそどうなるんだよ!? 暴走した強化人間として、まとめて殺されるだけだろ!?」
再び、叫ぶ、言葉に。
「違う!」
少女は、きっぱりと、叫び返した。
「ハンターさんたちは助けてくれる! 絶対に私たちを助けてくれる! 諦めさえしなければ!」
諦めようとする仲間の姿に。思い浮かぶ言葉があった。
助かる方法は分からない、きっと長く苦しむだけ、諦めて壊れた方が楽だ、と。
否定的なその言葉が、でも、少女を支えている。その指には、大したことない安っぽい輝きを放つ石が嵌まった指輪が輝いている。
「……本当、に?」
力強く言い放った少女の言葉に、ずっと傍らで呻いていた友人が頭を上げた。その瞳には、僅かに光が戻っている。そうして。
「誰か! まだ無事な奴は居るか! 皆頑張れ! ハンターさんたちが来るまで、僕たちがこの場所を抑えるんだ!」
飛び出してくる少年。その手には、少女と対になる指輪。
●
「すみません!」
事件をうけて行動を開始した一行に近づいてくる者が居た。一目で報道機関の人間と知れた。Web放送があった直後だ。ここにハンターが居ると分かって、動くだろうと読んでやってきたのだろう。
「事件のあった施設へ向かわれるのですね!? 一言お願いします! ──危険な強化人間たちは倒されるのでしょうか!?」
それを。
まっすぐに、期待に満ちた目で言われたことに、透は思わず動きを止めて相手を見返していた。
周囲の空気が変わっていく。報道機関の一言に、事態を理解した人々が顔色を変えていく。
「そっか! ハンターの人たちがもういるのか! それなら安心だな!」
「頑張れー! 強化人間なんてぶっ倒して!」
放たれる、熱狂的な声。視線。その温度。その意味。
憧れに満ちた目で、次々と叫ばれる。強化人間たちを──どうしろって? そんな気軽に言う事なのか? それは。
……違う。こうじゃ、無い筈だ。望んでいたものは。描く未来の姿は。
向かう先。何が起きているのか、何が出来るのか、この時点で分かっていたわけじゃない。それでも。
「俺は。俺が帰りたいと願う世界を守るために、戦いに行きます」
一言をというならば、それでも願う形を。口にしていた。
心に迷いはあったが、堂々と。半ば染みついた習性だ。メディアの前では望まれる自分を崩さない。
まだ曖昧な言葉。でも、結果として想いははっきりしてしまったと自覚した。
リプレイ本文
「アイドルゆえ演ドル、いいではないか、ハッハッハ」
メディアに対してルベーノ・バルバライン(ka6752)は豪快に笑っていた。
「俺をクリムゾンウェストのき●しと呼んでも構わんぞ?」
出立時。ルベーノが目立ってくれているその影で、鞍馬 真(ka5819)は苛立たしげに舌打ちをした。勝手なことを言うなと言ってやりたい。だが透の立場を悪くしたくないと我慢する。
大伴 鈴太郎(ka6016)も暗い顔をしている。
(この先ダチや家族が歪虚に利用されても同じコト言えンのかよ……)
思っても、今それを訴えている場合ではなかった。真が一つ呼吸する。
「私は彼らを助けるつもりで行くよ。……透はどうする? 助けるつもりなら、共に戦わせてほしい」
話しかけた言葉に、結局は自分が透を拠り所にしているな、と自覚して自嘲する。
「助けたい……と、言うのかな」
ぽつりと、透は答えた。
「帰りたい場所が、歪んでいくのを見過ごすみたいで嫌なんだ。君が居るなら、心強いが。そんなのでも、助けてほしいと言っても良いんだろうか」
●
ハンターたちは事件が起きた施設へと集結する。
これまでの話を聞いて、アーサー・ホーガン(ka0471)は苦笑した。
「ぶっ『倒して』なんだな。画面の前は、まだまだ平和ってわけだ」
平和が保たれてるということなのだろうが。何よりなこったとアーサーは嗤う。当事者意識が芽生えたところで、画面の向こう側への対応が好転するとも考えにくい。
「……生死に関する命令は無し、ですか。成程……」
マッシュ・アクラシス(ka0771)は行動開始前、それだけを呟いた──語る程の事は無いですよ。仕事ですから、と。
ハンターたちは行動を開始する。
初めにミミズが出現した場所に当たったのはニーロートパラ(ka6990)だった。ソウルトーチの発動に成功すると、ミミズは標的をその場に居た強化人間から彼へと変える。触手の痛打が彼を襲う。
……結果がどうあっても、彼らを見捨てたりなどニーロートパラには出来なかった。彼らに罪はないのに、傷付けるなど。
そこへコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が駆けつける。
「相変わらず連中も甘いな。いつまでも同じ手段が通用すると思うなよ」
コンバージェンスからの威嚇射撃で移動を阻止する。続けざま、氷の弾丸を放って動きそのものを止めてやろうとしたところで、暴走した強化人間の少年が彼女に襲い掛かる!
彼女はそれにも冷静に対処した。殴打でひるませた後絞め落として一度気絶させる。そこからの生殺与奪については、強化人間対処組に任せることにしていた。
ただ、この隙にミミズは動きを回復し再び地中へと隠れてしまった。コーネリアはライフルを拾い上げると、ついでとばかりに目に付いた監視カメラを撃ち抜いてから捜索を再開する。
(もうここまで来ちまった以上、強化人間の名誉回復は無理だろうねぇ。あいつらが元の人間に戻ったりしない限りは)
そんな風に考えながらも龍宮 アキノ(ka6831)が機導浄化術・白虹を試すのは、だから純粋な実験という面が大きいのだろう。……結果は、これまでと同様。効果は無い。それを認めると、彼女はあっさりと強化人間への対応を機導剣やデルタレイによる攻撃に切り替えた。原則、本気で殺す気はないが、暴走が容易に止まらないならば致死も覚悟の上のようだった。
ステラ=ライムライト(ka5122)は、そこまで割り切れてはいない。
「またあの子たち……ちょっと痛いかもだけど、大人しくしててもらわなきゃ……っ」
彼女はまずはカメラの死角に位置取った。強化人間への攻撃は見られたくない。
「ごめんね、でも今はこうするしかないから……!」
活人剣からの次元斬が、離れた距離にいる強化人間を気絶させる。
門垣 源一郎(ka6320)は、先に施設職員に連絡を試みていた。
「施設内の戦闘で留意すべき事があれば教えてほしい……それから要救助者は居るか? 死体の回収も含めてだ」
まず分かったのは救助すべき一般人は居ないことだった。今となっては駐在は最低限にしていたそれは、隙を見て脱出したと。
それから。
「戦友であった強化人間を害するのは心苦しい。希望がなければ穏便に済ませるつもりだが、それで良いか?」
現場の心証を探るために源一郎はそう問いかけた。
そうして。
「お願い……してもいいのですか……あの子たちを……」
管理人の答はこうだった。
前から強化人間に接する仕事をしていた者たちは、まだ彼らに情を残している者も居る。そしてここの施設管理人は──ハンターの監視を付けるからデートのために外出したい、と言われて許可しているくらいなのだ。
連絡を取った成果は大きかった。施設図面がある位置とインフラの要所、そしてマスターキーが保管されている場所を入手する。
『俺達はお前達の味方っす。お前達を助ける為に多くの人が努力してるっす。だから諦めずに頑張れっす』
館内放送から響いてきたのは神楽(ka2032)の声だった。さらに神楽は警備室から監視カメラの映像を確認する。動かないものもあったが、見えない位置の情報含めて少しでも強化人間の状況やミミズの位置を探ろうとする。
フィロ(ka6966)は、暴走していない強化人間を保護するためのスペースの確保に走っていた。この施設の性質上、そのために使える場所の候補は幾つか上がる。やがて相応しい位置を見つけると、今度は落ち着かせるための毛布や食料、飲料水などの確保に回る。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は道すがら、出会った強化人間に呼び掛けながら駆け抜ける。暴走している者は……すぐに、鎮圧に踏み切った。頭を殴る、壁に叩きつけるなどして失神させる。暴れる成果もむなしく、強化人間たちは苦悶の声を上げながら倒れていった。
テオバルト・グリム(ka1824)はアクセルオーバーと壁歩きで駆け回りながら、暴走している子はやはり、軽く手足に攻撃を加えてから絞め落とし、そしてまだ無事な子たちには声をかけて回る。
「やあ少年少女達! テオさんだよ! 君達は凄いな。とても心が強い! 今なんとかなっているのは君達のおかげだ。ありがとう! 解決までもう少しだ。一緒にもうちょっと頑張ろうか!」
暴走に耐えている子はよく頑張ったと呼びかけ、暴走せずに動いている子は格好いいなと笑いかける。
そうしてテオバルトは、ここに居ると聞いていた、以前出会った少年少女を探していた。
「……名前聞いておけば良かった!」
そういえば確認していなかったとテオバルトは苦笑する。
先にその少年少女らと出会うことになったのはGacrux(ka2726)だった。拡声機を手に救助に来たことを知らせるべく施設を駆け巡っていた彼に、驚きの混ざった声がかけられる。
だが、驚きはGacruxのほうが上だったかもしれない──この状況で完全に正気を保っている様子に。
(強化人間の暴走を阻止することは……彼ら自身が希望を見出すことなのでは?)
予測を立てると、決意が湧き上がる。
(俺自身も強化人間を信じ切れずにいた──謝罪に、この場は身を挺して守る!)
角から、暴走していた強化人間が姿を現す。Gacruxは盾を掲げて前に出る。
「うがああぁあああ!」
そのまま、壁に盾で押さえつけられた少年が叫びを上げる。
嘆きを。怒りを。見つめながらGacruxは励まし続けて。
「貴方たちも声をかけて下さい! 俺の声よりもきっと届く!」
呼び掛けに周囲の子らが声をあげる。……だが、暴走した者の様子は一向に変わらなかった。最終的にはやむなく、消耗した少年を気絶させるしかなかった。
ミオレスカ(ka3496)もまた、暴走した強化人間を、諦めずに説得していた一人。
(おそらく、あの強化人間のみなさまは、悪人ではないです。一時的な暴走の方も、諦めずに接していけば、治まるかもしれません)
制圧射撃や、威嚇射撃は使用する。だが直接的な攻撃はしない。
「落ち着いて。どうか、ご自身の声に、耳を傾けて、下さい。こんなことを望んだりは、していないはずです」
言う事を聞かせる、ではなく、暴走している子自身の想いを呼び起こすように。ミオレスカの必死の思いも……実を結ぶことは、無かった。
ルベーノは衝動への抵抗のために動けないものに慈愛の祈りを試す。大きな効果は見受けられなかった。一先ず、動けない彼らをフィロが用意した場所まで運び込もうと……して。
すぐに、問題が発覚した。救援しようとした一人が、ミミズの粘液によってこの場に固着されていたからだ。移動させるにはまずそれを解除しなければならなかった。
──手あたり次第、そこら辺の者を襲ってはすぐに地中を移動……即ちあちこちに『移動不能』と『毒』をばら撒くことを目的に動くこのミミズVOIDの「設計思想」は何なのか。
蝕む毒の感覚は、言葉だけでは補えない程に抵抗する強化人間の心を弱らせる。
この場から逃げられないようにして、弱らせて、追い詰める。それがミミズに与えられた能力の、意図。
道すがらかけられていた、メアリ・ロイド(ka6633)や初月 賢四郎(ka1046)の使う機導浄化術・浄癒、高瀬 未悠(ka3199)のレジストが、結果として彼らを救っていたことも有る。だがそれらは、「暴走対策」として試されたもの。……無駄撃ちも、存在した。
この戦場の条件で、これまでに効果がない、と何度も報告されてきたそれを複数人が試すのは、もう少し慎重になるべきだったかもしれない。
その点で、チャクラ・ヒールの使用を「解毒」に絞っていた鈴の働きは大きい。最終的に、彼女によって暴走が防がれた者は間違いなくいるだろう。だがそれでも、彼女がそれを行えた回数は十分ではない。
「大丈夫か!? 動ける奴で動けない奴を抱えろ! 2人で1人で構わねぇ! 脱出するぞ!」
トリプルJ(ka6653)はやむなくトランスキュアを用いて自身は抵抗力で解除する。本来は移動不能は、更にレセプションアークを用いてミミズの足止めに使いたかったが……。
「任せろ、何往復でもしてきっとみんな助けてやる。VOIDの波動を受けなきゃ何とかなる……行くぞ!」
それでも、今、手間取る姿を見せるよりはこうした方がいい。俵担ぎでうずくまっている強化人間を一度に二体抱え、動ける者たちと一緒に移動を開始する。
最終的には。
機導浄化術・浄癒を数多く行え、救援要請に応じる用意をしていたアルマ・A・エインズワース(ka4901)が、施設中を駆け回ることになる大忙しとなった。暴走していない強化人間を一カ所に集める、という方針が瓦解しなかったのは彼の準備の賜物と言っていい──だが、それでも言わせてもらうならば。最大といえる火力の手がこれで完全に塞がったのは……惜しい。
……アニス・テスタロッサ(ka0141)は。
そうした、救助活動に奔走するハンターたちの中。一人淡々と、暴れる強化人間たちを撃ち抜いて回っていた。生きていようが死のうが構わなかった。抵抗さえしなければ。カメラも窓の位置も気にしない。彼女はその方針をブレさせることは一切無い。
やがて、身動きの取れないもの、あるいはまだ無事そうな強化人間たちは、フィロの用意した安息地に纏まり始める。
「諦めるな、そして生きろ。おまえ達ならそれができるッ!」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は入口に立ちふさがると、ディバインウィルを展開してさらなる安全を確保する。だが。
「もう……いいよ……」
蹲る少年の一人が、呻いた。
「……僕が、今ここで暴走しちゃったら……何もかも、無駄になる……から……だから……」
声が、か細くなっていく少年を。
「お前たちを守ろうと立ち上がった者達に、お前たちはそれでいいのか」
ルベーノが一喝する。
「術はある! 信じろ!」
堂々と言ってのける彼に、何人かが縋る視線を向ける。
「──諦めるのは勝手だし好きにすれば良い」
静かに割り込んできた声は。賢四郎のものだった。
「死は避けられない。自分も君たちもいつかは死ぬ──だが、それは今じゃない!! それを証明してやる!」
声は突如、叫びに変わった。声を張り上げさせたのは、後は保証できずとも”今”は守るという覚悟。それを示すという、堅固な意志。
そう言って彼が実施したのは機導浄化術・白虹だった。これまでにも試されてきて──そして、効果が無かったと実証されてきたもの。
「負のマテリアルの影響は止めた。後は君らの仕事だ」
それでも。賢四郎もやはり、堂々と言った。……プラシーボ効果を期待して。
強化人間たちに掛けられる声は、次々と上がった。
「皆様が誰かを守ろうと立ち上がり頑張ってきたのを知っています。だから今度は私達に皆様を守らせて下さい。夜は必ず明けます……皆様も希望を忘れないで下さい」
震える少年には毛布を掛けてやりながら、フィロが一人一人に声をかける。
「皆で円陣を組みましょう」
Gacruxはそう提案した。いつ暴走するとも知れない強化人間に躊躇わず腕を回し、肩を組む。
「あなた方が正気を保ち続けた事が、俺達の希望です。諦めなければ、応える者達が必ず現れます」
言葉と共にコール・ジャスティス。スキルで生まれた勇気は、しかしそれを自覚できる者には、支えにはなる。
……蹲っていた者が、一人、立ち上がった。ゆらりと。
振り上げられた表情は、瞳の輝きは。はっきりと己の意志を、意識を保った、それだった。
やはり──完全に暴走していないものであれば、その心を鼓舞することには効果がある!
「そうだ……オレ達を、そして仲間を信じろ! その強い想いは誰かを救う力になる。マテリアルリンクと呼ぶ力に」
レイオスが叫ぶ。仲間の声、姿。促されるように、立ち上がろうとするものが、立ち上がれた者たちが命名に声をかけていく。
……しかし同時に、悪意も彼らを間断なく襲い続けている。
勿論これまでに、ミミズの討伐を目的とした者たちも動き続けている。
最初に攻撃に成功したのはマッシュだった。気配に瞬脚で急行する。鞭の形状に変化させた蒼機剣で急襲、避けようとするミミズを鞭の軌道を自在に変化させて翻弄する。更に追撃をかけようとして……。
反対側に、怯える強化人間の少女がいることに気がついた。一瞬の判断の後、マッシュは少女を一先ず、増援の要請をしながら少女を庇える位置へと移動する。だが、その隙にミミズは穴へと逃れてしまう。
「……ごめんなさい」
少女の詫びに、マッシュは「まあ……いいですよ」と苦笑する。少女はまだ、納得のいかない顔で。彼はそれに、
「強いて言えば……私個人としては……戦闘は、好きではありませんよ。苦手ですしね」
そう嘯いた。
少なくとも彼はそこまでの痛手と考えていなかった。攻撃機会が少ないだろうことは見越していて、そのために先ほどの一撃に毒は込めていた。
真、鈴、未悠、透はまとまって動いている。手分けできない分捜索範囲は狭まってしまうが、強化人間担当とミミズ担当を分けたう上で共に行動するというのは、まだ状況が混沌としている初動は動きに柔軟性があったとも言えた。
(待っていて。すぐに迎えに行くわ)
その思いを胸に未悠は駆け抜ける。聴覚を頼りに暴走耐える声が聞こえた位置に急行した。
「もう大丈夫よ。諦めないで頑張ってくれたのね」
未悠はそう言って抱きしめ、鈴と共に救助の意志を真っ先に伝える。そうする間に付近にミミズが出現したらしい情報を得ると、真と透は、迷わずこの場は二人に任せることにして現場に急ぐことが出来た。
真もここでソウルトーチ。ミミズはやはり一度は素直に真へと攻撃を加えてきた。真は苛立ちをぶつけるように火力を出し惜しまない。ソウルエッジから二刀で攻撃、更にリバースエッジで即座に力を解放する。
大ダメージを受けたミミズは……再び穴へと引っ込んでいった。
単独で動いていたアーサーは逆に、序盤は思うように動けなかった部分はある。強化人間に出会ったら、彼自身で弱らせてから押さえつけ、頸動脈を絞めて落としていたが、そうして一人で色んな事態にしっかり対処しようとしたがゆえに、ミミズを追える機会を逃さねばならないことも有った。
それでも、強化人間に対応していた者たちの働きにより、いずれはその機会がやってくる。彼もまたソウルトーチでミミズの意識を引くと、守りの構えが、ついにその移動を封じる。
連絡を受けたアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は自らの生命力から抽出したマテリアルを武器に纏わせ、持てる最大の火力を発揮してミミズの胴体を貫こうとした。貫通させて、剣が穴に引っかかるようにしてしまえばもう逃げられないだろうと。しかし、これほどの事態を引き起こすVOIDだ、その胴体を一気に貫く、というのは甘かったようだ。弾性のある皮膚に、ぬめる体液に突き出した刃は滑らされて、脇を切り裂くにとどまる。
そのミミズの体表に、氷の矢が飛来する。氷はそのまま砕けてミミズの表面に張り付き、その動きを鈍らせる。エルバッハ・リオン (ka2434)の術だった。暴れるミミズが反撃した。毒にアウレールが不快に顔を歪める。次に駆けつけたステラは敵の射程外から次元斬で攻撃する。
「こいつが……こいつがっ! 叩っ斬る!!」
地中までも透過する斬撃がミミズの全身を叩いた。
メアリと源一郎も到着する。源一郎が前に出る。彼がこの依頼に参加したのは、メアリの要請でだった。彼女から、自分の手で助けられる命は限られている、最善を尽くすために協力してほしい、と。彼自身の感情は今、意図的に抑制していて──その分だけ、他者の感情に寄り添う方法を探している。
「私の想いがこめてある。歪虚をぶったぎれ!」
メアリが叫んだ。源一郎の剣に多重性強化がかかる。ただ望まれるままに源一郎は踏み込んで、振りぬいた。苦悶に暴れるミミズが源一郎に体当たりする。だがここまでくればあとは集中攻撃だ……ついにミミズは、その長い胴体を床に沈めた。
──と、同時に。
「……え?」
キョトンとした声は、ホールのあちこちから上がった。何人もの強化人間が、その顔を上げている……これまでもなお、苦痛にあえいでいた者からも。
「暴走の兆候が無くなったのかい?」
ハンターでその可能性を真っ先に口にしたのはアキノだった。
「は、はい……。今、急に頭がはっきり冴えていって……」
「じゃあやっぱり、それもあのミミズが引き起こしてたってわけだねえ。たった今倒したって通話が入ってきてるからねえ」
アキノは、初めからその可能性を考慮していた。故に観察に集中していた。
今回に限りだが。アスガルドで行われた「呪法」に当たるのが、あのミミズそのものだった。そういう事なのだろう。楽観はできない。暴走抵抗中の鼓舞含め、アスガルドの件と照らし合わせると、どうにもできない状況もあるのだろう……むしろ対処可能な『場合もある』。その仮説に留めておくべきだ。そう、それでも今は──
「じゃ、じゃあ、僕たちはもう……!」
少年の一人が、歓喜の表情を浮かべかけた、その時。
『うおああああぁあああ!』
獣のような、吠える声は、別室……暴走した者たちを拘束し、閉じ込めていた場所から、聞こえた。
喜びの顔は一転、青褪めた絶望に変わる。
これでも……駄目なのだ。
ミミズの退治は、あくまで『これ以上の暴走者を増やすのを食い止めらた』、だけ。
暴走してしまったものはもう……どうしようもない。これまでと、同様に。
収まらぬ吠え声に。叫びに。ハンターの誰かが、悲痛な顔を浮かべて部屋を出ていく。
やがて……静かになる。
また……別の叫びが上がる。
それからまた……静かになる。
これまでも、拘束した後、目覚めた強化人間にそうせざるを得なかったように。
そんなことが、幾度か繰り返されて。
「うわあああああああん!」
耐える必要のなくなった少年少女たちは──哀しみのまま泣き崩れた。
フィロが。ミオレスカが。ハンターたちが。ただ抱きしめて、その号泣を受け止める。
「こんなの……昨日、まで、友達だったのに……暴れ、だして……嫌だったけど、止めなきゃって……。戦っ……た、けど……悲し、かった……辛かった、……それ……なのに……」
この感情に。
世界が目を向けることは、無い。
今彼らは『強化人間』、という言葉にひとくくりにされ。その一人一人に、生きた感情がある事を、人々は認識できない──。
●
事態の収束を感じ取ったのだろう。待っていましたとばかりに、メディアらしきものたちがハンターたちに殺到してくる。
次々に発せられるインタビューの内容──何とか飲み込もうとして喉に引っかかるオブラートのその中身は、『強化人間を倒さないのか、本当はどうしたいのか』その言葉を引きずり出してやろうという意図のものだった。
今回。『強化人間』の映像については、彼らはさほど期待してはいないのだ。何故なら市民に銃を向け害する姿がもう確認されているのだから。今回の事件からは、強化人間については、少なくともこれ以上悪化するような姿は取れないだろうと。
だからメディアが狙っていたのは、『ハンターが強化人間をどう扱うのか』、その姿だった。ソサエティが、軍が、処分に消極的なのはもう薄々かぎ取っているのだろう。ならば実際に対処することになるハンターは? 手加減を強いられ、苦痛に感じているのではないか? あるいは『弱き市民』を護るために、『現場』の『英雄』が『英断』する。不安に揺れる視聴者が求めるのはそれに他ならないと彼らは考えていて。だから
「保護したこいつらのその後の面倒までお前ら考えてんのか? 特に暴走しちまった連中だ」
「軍や財団に引き渡してハイ終わり、なんてのは、面倒だけ押し付ける自己満足だろ」
「ハンターが過度に強化人間を保護してんのも、俺からすりゃ異常だよ」
「全ての強化人間がってワケじゃねぇが、一線超えちまってるんだ。相応の対処を講じられるのは当然だろうよ」
アニスが、他のハンターたちに非難されたときに反論として用意していたこれらの台詞は、だからそれこそ、彼らに言ってやればもろ手を挙げて大歓迎されたかもしれない。それこそ彼女が望む方向に世論を加速させ、動かしたかもしれない、が。彼女はカメラには一切、興味を抱かなかった。どちらの意味でも。そして。
「ここにいたVOIDは強敵でした! 彼ら強化人間たちの援護がなければきっと負けてました!」
アウレールが悲痛な声で訴える。異文化交流というテーマで音楽番組に出演したばかりで、先ほどの放送にもいた彼の訴えを、戸惑いながらも取材陣は止めることはしない。
アウレールは見せてきた芸能人としての姿さながら、気弱な少年を演じていた。
暴走は歪虚の仕業で彼らは被害者だと。彼らを助けたい、友達を苦しめる歪虚が許せないと悔し気に訴え掛ける。
悲しみに耐えながらそれでも戦場に立つヒーロー。演出された悲劇感は、それはそれで、視聴者が喜びそうな絵ではあった。
それでもなお、では暴走の危険性については、市民の不安にどう答えますか、などと聞こうとする取材陣が居て……。
「――テメェ等好き勝手言ってンじゃねぇえ!」
いい加減、ボルディアが切れた。
「俺はなぁ、テメェの命張って強化人間助けようとしてンだよ。なのに倒せだぁ?」
睨み付ける彼女の迫力に、報道陣は一瞬静まり返る。そうして、生まれた空白に。
「わふ、お兄さんお姉さん! 僕も質問したいです!」
アルマが、声を上げた。
「強化人間さん大事って言ったです。一緒に戦ってくれてる子いるです。ね、どうしていじめるです?」
一度のWeb放送をして、視聴者から『子犬系魔王の卵』『不思議ギャップキャラ』などと言わしめた彼の天性で、彼は遠慮をせずに畳みかける。
「歪虚さんとの戦いが全部終わったら、僕らの事もこんな風にいじめるです? 危険な覚醒者だって。こわいって」
扱いに困った彼らは、何とかならないものかと視線を彷徨わせ……やはりweb放送に参加していた、ニーロートパラの方へと視線を向けた。彼自身は、取材に向けて一切、何を言う事もなかった。彼は今回、強化人間への気持ちはただ、行動で示そうとした。ミミズからの攻撃に対し、ずっとかれらを守る対象として行動し続けていた。注目を惹きつけ、攻撃から庇い、妨害射撃も、子供たちが狙われたときのみに使用した。その姿を、カメラが納めている。それを見て判断してくれればいい、と。
そんな中。
「……透は、何か言いたいことは無いの? あるなら私が言うよ」
真が後ろの方でこそりと言った。透は、暫く考えて。
「ありがとう。でも今なら……自分で言えるよ」
そう言って彼は、前に出る。
「俺たちは、『英雄』という、それだけの一つの存在じゃない。世界を守る、敵を倒す……それ以外、何も考えずに、感じずにいられるわけじゃ、無いんです。それぞれに、思うこと、やりたいことがあります」
そしてそれは強化人間もだと、透は静かに告げた。自分たちは彼らの顔を見て、声を聞いて闘っている。そこに感情と、歪虚とは違う、命を感じているのだと。
「それを奪えというのは……俺には、容易いことでは、ないです」
それだけですと言って戻るとき、透はアニスが視線に入った。申し訳ない気持ちが、ある。
この戦いにおいて、多くの者がこう思っていた。『出来ることをする』と。きっとそれは強化人間を救う方法が分からない、それだけではない。必要と分かっていても、割り切ることが『出来ない』。だから『自分に』出来る方法で対処する。……それは結局、必要になった時は『出来る人間』ばかりに始末を押し付けることだと、それも……自覚している。それでも……歩みを止めるよりと。そう、だから──
「有難う。君のお陰だ」
色々な意味を込めて。もう一度、戻って透は真にそう言った。
最後に、鈴がゆっくり話し始める。
「オレはハンターって立場から逃げてた様なビビリだからさ、怖いのはワカるよ。けど、強化人間だって暴走したくてしてンじゃねぇ。自分で在る為に必死に抗ってる」
短気は……起きなかった。ホールに向かった時の、泣き崩れていた彼らの姿が忘れられない。
「少しだけ想像してみて欲しい。同じ立場になった時、自分が切り捨てられちまう世界を。気づいて欲しい。世界を護れンのは、偉いヤツらや覚醒者じゃねぇ、自分達だって事を。歪虚なんかに踊らされンのは悔しいじゃんかよ……」
素直な、必死の訴え。
記者たちはやがて、どちらかと言えば何か諦める様に散り始めた。だが。去り際に、真摯な目を向ける者が居て。それから、なおも居残るものが、幾つか。
「お疲れのところ大変申し訳ありません、私こういうものですが、今のお話についてもう少し詳しく──」
残った者たちが差し出した名刺には、フリーライターと、あるいは、新鋭気鋭のweb系メディアの名前があった。
テレビのニュースの多くは、今回の事件を、ハンターの活躍を称える形で報道した。映し出されたのは主にハンターの戦う姿──主にアニスの姿を使いたがったようだが、流石に一人ばかりでは不自然だったのだろう──で、彼らが強化人間に寄り添う姿は避けられ、闘う強化人間の姿をハンターと誤認させるような編集も見られた。
本当なら、神楽はネットに全ての動画をアップすることで、これらの編集に対抗しようとしていた。だが、それはリアルブルーにいられる時間に達成できることではなかった。
だがその中で、論調は似たような物の、ありのままに近い映像を流す局があった。この後日談として、芸能事務所に手紙が届く。取材を生かしきれなくて申し訳ない、必死で上司と掛け合ったが、今はこの形が精一杯だったと。そして、個人的に、貴方方の活動と気持ちを応援する、という言葉で締めくくられていた。
そしてこうした映像が映し出されたことは、無駄な抵抗に終わったわけでは無かった。
ネットのニュースサイトに、コラム記事に、幾つかの記事が錯綜した。
ある記事はボルディアやアルマの訴えを元に、今の強化人間の報道の在り方を強い口調で警告した。主に、元より大手メディアの在り方に反発的なものたちの間にこの記事はシェアされていった。
ある記事はアウレールや鈴の訴えを元に、強化人間に寄り添う視線を提起した。掲載された写真、ハンターたちが強化人間を守る姿、抱きしめる姿に、心ある者たちは胸を痛めた。そして、テレビで流された、戦う彼らは強化人間ではないか? という検証もネットで流れ始める。
そして。
エルバッハは、これまでの芸能活動の経験から、記憶にある、信頼出来ると思った記者と連絡を取った。ハンターの独占インタビュー、という状況に、相手は次に繋げるべく真摯に答える。
「犯罪行為を犯したなら無罪とは言いませんが、彼らも知らずにVOID技術を移植されたという事情もありますので、情状酌量の余地はあるのではないでしょうか」
その記事はエルバッハの主張を、今回知り得た事実を全て、曲げることなくかつ分かりやすく伝わりやすい形で纏めていた。今はまだ目立たぬ記事だが、誰もが目に触れられる場所にこれらが纏まれたことは、いつか意味を持つだろうか。
彼らの想いはそうして、リアルブルー人の目に届けられる場所へと載せられた。少しだけ。少しずつ。それは確かに、誰かの心を動かした。……そしてやはりそれは、僅かにだが彼らへと返る。
メディアに対してルベーノ・バルバライン(ka6752)は豪快に笑っていた。
「俺をクリムゾンウェストのき●しと呼んでも構わんぞ?」
出立時。ルベーノが目立ってくれているその影で、鞍馬 真(ka5819)は苛立たしげに舌打ちをした。勝手なことを言うなと言ってやりたい。だが透の立場を悪くしたくないと我慢する。
大伴 鈴太郎(ka6016)も暗い顔をしている。
(この先ダチや家族が歪虚に利用されても同じコト言えンのかよ……)
思っても、今それを訴えている場合ではなかった。真が一つ呼吸する。
「私は彼らを助けるつもりで行くよ。……透はどうする? 助けるつもりなら、共に戦わせてほしい」
話しかけた言葉に、結局は自分が透を拠り所にしているな、と自覚して自嘲する。
「助けたい……と、言うのかな」
ぽつりと、透は答えた。
「帰りたい場所が、歪んでいくのを見過ごすみたいで嫌なんだ。君が居るなら、心強いが。そんなのでも、助けてほしいと言っても良いんだろうか」
●
ハンターたちは事件が起きた施設へと集結する。
これまでの話を聞いて、アーサー・ホーガン(ka0471)は苦笑した。
「ぶっ『倒して』なんだな。画面の前は、まだまだ平和ってわけだ」
平和が保たれてるということなのだろうが。何よりなこったとアーサーは嗤う。当事者意識が芽生えたところで、画面の向こう側への対応が好転するとも考えにくい。
「……生死に関する命令は無し、ですか。成程……」
マッシュ・アクラシス(ka0771)は行動開始前、それだけを呟いた──語る程の事は無いですよ。仕事ですから、と。
ハンターたちは行動を開始する。
初めにミミズが出現した場所に当たったのはニーロートパラ(ka6990)だった。ソウルトーチの発動に成功すると、ミミズは標的をその場に居た強化人間から彼へと変える。触手の痛打が彼を襲う。
……結果がどうあっても、彼らを見捨てたりなどニーロートパラには出来なかった。彼らに罪はないのに、傷付けるなど。
そこへコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が駆けつける。
「相変わらず連中も甘いな。いつまでも同じ手段が通用すると思うなよ」
コンバージェンスからの威嚇射撃で移動を阻止する。続けざま、氷の弾丸を放って動きそのものを止めてやろうとしたところで、暴走した強化人間の少年が彼女に襲い掛かる!
彼女はそれにも冷静に対処した。殴打でひるませた後絞め落として一度気絶させる。そこからの生殺与奪については、強化人間対処組に任せることにしていた。
ただ、この隙にミミズは動きを回復し再び地中へと隠れてしまった。コーネリアはライフルを拾い上げると、ついでとばかりに目に付いた監視カメラを撃ち抜いてから捜索を再開する。
(もうここまで来ちまった以上、強化人間の名誉回復は無理だろうねぇ。あいつらが元の人間に戻ったりしない限りは)
そんな風に考えながらも龍宮 アキノ(ka6831)が機導浄化術・白虹を試すのは、だから純粋な実験という面が大きいのだろう。……結果は、これまでと同様。効果は無い。それを認めると、彼女はあっさりと強化人間への対応を機導剣やデルタレイによる攻撃に切り替えた。原則、本気で殺す気はないが、暴走が容易に止まらないならば致死も覚悟の上のようだった。
ステラ=ライムライト(ka5122)は、そこまで割り切れてはいない。
「またあの子たち……ちょっと痛いかもだけど、大人しくしててもらわなきゃ……っ」
彼女はまずはカメラの死角に位置取った。強化人間への攻撃は見られたくない。
「ごめんね、でも今はこうするしかないから……!」
活人剣からの次元斬が、離れた距離にいる強化人間を気絶させる。
門垣 源一郎(ka6320)は、先に施設職員に連絡を試みていた。
「施設内の戦闘で留意すべき事があれば教えてほしい……それから要救助者は居るか? 死体の回収も含めてだ」
まず分かったのは救助すべき一般人は居ないことだった。今となっては駐在は最低限にしていたそれは、隙を見て脱出したと。
それから。
「戦友であった強化人間を害するのは心苦しい。希望がなければ穏便に済ませるつもりだが、それで良いか?」
現場の心証を探るために源一郎はそう問いかけた。
そうして。
「お願い……してもいいのですか……あの子たちを……」
管理人の答はこうだった。
前から強化人間に接する仕事をしていた者たちは、まだ彼らに情を残している者も居る。そしてここの施設管理人は──ハンターの監視を付けるからデートのために外出したい、と言われて許可しているくらいなのだ。
連絡を取った成果は大きかった。施設図面がある位置とインフラの要所、そしてマスターキーが保管されている場所を入手する。
『俺達はお前達の味方っす。お前達を助ける為に多くの人が努力してるっす。だから諦めずに頑張れっす』
館内放送から響いてきたのは神楽(ka2032)の声だった。さらに神楽は警備室から監視カメラの映像を確認する。動かないものもあったが、見えない位置の情報含めて少しでも強化人間の状況やミミズの位置を探ろうとする。
フィロ(ka6966)は、暴走していない強化人間を保護するためのスペースの確保に走っていた。この施設の性質上、そのために使える場所の候補は幾つか上がる。やがて相応しい位置を見つけると、今度は落ち着かせるための毛布や食料、飲料水などの確保に回る。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は道すがら、出会った強化人間に呼び掛けながら駆け抜ける。暴走している者は……すぐに、鎮圧に踏み切った。頭を殴る、壁に叩きつけるなどして失神させる。暴れる成果もむなしく、強化人間たちは苦悶の声を上げながら倒れていった。
テオバルト・グリム(ka1824)はアクセルオーバーと壁歩きで駆け回りながら、暴走している子はやはり、軽く手足に攻撃を加えてから絞め落とし、そしてまだ無事な子たちには声をかけて回る。
「やあ少年少女達! テオさんだよ! 君達は凄いな。とても心が強い! 今なんとかなっているのは君達のおかげだ。ありがとう! 解決までもう少しだ。一緒にもうちょっと頑張ろうか!」
暴走に耐えている子はよく頑張ったと呼びかけ、暴走せずに動いている子は格好いいなと笑いかける。
そうしてテオバルトは、ここに居ると聞いていた、以前出会った少年少女を探していた。
「……名前聞いておけば良かった!」
そういえば確認していなかったとテオバルトは苦笑する。
先にその少年少女らと出会うことになったのはGacrux(ka2726)だった。拡声機を手に救助に来たことを知らせるべく施設を駆け巡っていた彼に、驚きの混ざった声がかけられる。
だが、驚きはGacruxのほうが上だったかもしれない──この状況で完全に正気を保っている様子に。
(強化人間の暴走を阻止することは……彼ら自身が希望を見出すことなのでは?)
予測を立てると、決意が湧き上がる。
(俺自身も強化人間を信じ切れずにいた──謝罪に、この場は身を挺して守る!)
角から、暴走していた強化人間が姿を現す。Gacruxは盾を掲げて前に出る。
「うがああぁあああ!」
そのまま、壁に盾で押さえつけられた少年が叫びを上げる。
嘆きを。怒りを。見つめながらGacruxは励まし続けて。
「貴方たちも声をかけて下さい! 俺の声よりもきっと届く!」
呼び掛けに周囲の子らが声をあげる。……だが、暴走した者の様子は一向に変わらなかった。最終的にはやむなく、消耗した少年を気絶させるしかなかった。
ミオレスカ(ka3496)もまた、暴走した強化人間を、諦めずに説得していた一人。
(おそらく、あの強化人間のみなさまは、悪人ではないです。一時的な暴走の方も、諦めずに接していけば、治まるかもしれません)
制圧射撃や、威嚇射撃は使用する。だが直接的な攻撃はしない。
「落ち着いて。どうか、ご自身の声に、耳を傾けて、下さい。こんなことを望んだりは、していないはずです」
言う事を聞かせる、ではなく、暴走している子自身の想いを呼び起こすように。ミオレスカの必死の思いも……実を結ぶことは、無かった。
ルベーノは衝動への抵抗のために動けないものに慈愛の祈りを試す。大きな効果は見受けられなかった。一先ず、動けない彼らをフィロが用意した場所まで運び込もうと……して。
すぐに、問題が発覚した。救援しようとした一人が、ミミズの粘液によってこの場に固着されていたからだ。移動させるにはまずそれを解除しなければならなかった。
──手あたり次第、そこら辺の者を襲ってはすぐに地中を移動……即ちあちこちに『移動不能』と『毒』をばら撒くことを目的に動くこのミミズVOIDの「設計思想」は何なのか。
蝕む毒の感覚は、言葉だけでは補えない程に抵抗する強化人間の心を弱らせる。
この場から逃げられないようにして、弱らせて、追い詰める。それがミミズに与えられた能力の、意図。
道すがらかけられていた、メアリ・ロイド(ka6633)や初月 賢四郎(ka1046)の使う機導浄化術・浄癒、高瀬 未悠(ka3199)のレジストが、結果として彼らを救っていたことも有る。だがそれらは、「暴走対策」として試されたもの。……無駄撃ちも、存在した。
この戦場の条件で、これまでに効果がない、と何度も報告されてきたそれを複数人が試すのは、もう少し慎重になるべきだったかもしれない。
その点で、チャクラ・ヒールの使用を「解毒」に絞っていた鈴の働きは大きい。最終的に、彼女によって暴走が防がれた者は間違いなくいるだろう。だがそれでも、彼女がそれを行えた回数は十分ではない。
「大丈夫か!? 動ける奴で動けない奴を抱えろ! 2人で1人で構わねぇ! 脱出するぞ!」
トリプルJ(ka6653)はやむなくトランスキュアを用いて自身は抵抗力で解除する。本来は移動不能は、更にレセプションアークを用いてミミズの足止めに使いたかったが……。
「任せろ、何往復でもしてきっとみんな助けてやる。VOIDの波動を受けなきゃ何とかなる……行くぞ!」
それでも、今、手間取る姿を見せるよりはこうした方がいい。俵担ぎでうずくまっている強化人間を一度に二体抱え、動ける者たちと一緒に移動を開始する。
最終的には。
機導浄化術・浄癒を数多く行え、救援要請に応じる用意をしていたアルマ・A・エインズワース(ka4901)が、施設中を駆け回ることになる大忙しとなった。暴走していない強化人間を一カ所に集める、という方針が瓦解しなかったのは彼の準備の賜物と言っていい──だが、それでも言わせてもらうならば。最大といえる火力の手がこれで完全に塞がったのは……惜しい。
……アニス・テスタロッサ(ka0141)は。
そうした、救助活動に奔走するハンターたちの中。一人淡々と、暴れる強化人間たちを撃ち抜いて回っていた。生きていようが死のうが構わなかった。抵抗さえしなければ。カメラも窓の位置も気にしない。彼女はその方針をブレさせることは一切無い。
やがて、身動きの取れないもの、あるいはまだ無事そうな強化人間たちは、フィロの用意した安息地に纏まり始める。
「諦めるな、そして生きろ。おまえ達ならそれができるッ!」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は入口に立ちふさがると、ディバインウィルを展開してさらなる安全を確保する。だが。
「もう……いいよ……」
蹲る少年の一人が、呻いた。
「……僕が、今ここで暴走しちゃったら……何もかも、無駄になる……から……だから……」
声が、か細くなっていく少年を。
「お前たちを守ろうと立ち上がった者達に、お前たちはそれでいいのか」
ルベーノが一喝する。
「術はある! 信じろ!」
堂々と言ってのける彼に、何人かが縋る視線を向ける。
「──諦めるのは勝手だし好きにすれば良い」
静かに割り込んできた声は。賢四郎のものだった。
「死は避けられない。自分も君たちもいつかは死ぬ──だが、それは今じゃない!! それを証明してやる!」
声は突如、叫びに変わった。声を張り上げさせたのは、後は保証できずとも”今”は守るという覚悟。それを示すという、堅固な意志。
そう言って彼が実施したのは機導浄化術・白虹だった。これまでにも試されてきて──そして、効果が無かったと実証されてきたもの。
「負のマテリアルの影響は止めた。後は君らの仕事だ」
それでも。賢四郎もやはり、堂々と言った。……プラシーボ効果を期待して。
強化人間たちに掛けられる声は、次々と上がった。
「皆様が誰かを守ろうと立ち上がり頑張ってきたのを知っています。だから今度は私達に皆様を守らせて下さい。夜は必ず明けます……皆様も希望を忘れないで下さい」
震える少年には毛布を掛けてやりながら、フィロが一人一人に声をかける。
「皆で円陣を組みましょう」
Gacruxはそう提案した。いつ暴走するとも知れない強化人間に躊躇わず腕を回し、肩を組む。
「あなた方が正気を保ち続けた事が、俺達の希望です。諦めなければ、応える者達が必ず現れます」
言葉と共にコール・ジャスティス。スキルで生まれた勇気は、しかしそれを自覚できる者には、支えにはなる。
……蹲っていた者が、一人、立ち上がった。ゆらりと。
振り上げられた表情は、瞳の輝きは。はっきりと己の意志を、意識を保った、それだった。
やはり──完全に暴走していないものであれば、その心を鼓舞することには効果がある!
「そうだ……オレ達を、そして仲間を信じろ! その強い想いは誰かを救う力になる。マテリアルリンクと呼ぶ力に」
レイオスが叫ぶ。仲間の声、姿。促されるように、立ち上がろうとするものが、立ち上がれた者たちが命名に声をかけていく。
……しかし同時に、悪意も彼らを間断なく襲い続けている。
勿論これまでに、ミミズの討伐を目的とした者たちも動き続けている。
最初に攻撃に成功したのはマッシュだった。気配に瞬脚で急行する。鞭の形状に変化させた蒼機剣で急襲、避けようとするミミズを鞭の軌道を自在に変化させて翻弄する。更に追撃をかけようとして……。
反対側に、怯える強化人間の少女がいることに気がついた。一瞬の判断の後、マッシュは少女を一先ず、増援の要請をしながら少女を庇える位置へと移動する。だが、その隙にミミズは穴へと逃れてしまう。
「……ごめんなさい」
少女の詫びに、マッシュは「まあ……いいですよ」と苦笑する。少女はまだ、納得のいかない顔で。彼はそれに、
「強いて言えば……私個人としては……戦闘は、好きではありませんよ。苦手ですしね」
そう嘯いた。
少なくとも彼はそこまでの痛手と考えていなかった。攻撃機会が少ないだろうことは見越していて、そのために先ほどの一撃に毒は込めていた。
真、鈴、未悠、透はまとまって動いている。手分けできない分捜索範囲は狭まってしまうが、強化人間担当とミミズ担当を分けたう上で共に行動するというのは、まだ状況が混沌としている初動は動きに柔軟性があったとも言えた。
(待っていて。すぐに迎えに行くわ)
その思いを胸に未悠は駆け抜ける。聴覚を頼りに暴走耐える声が聞こえた位置に急行した。
「もう大丈夫よ。諦めないで頑張ってくれたのね」
未悠はそう言って抱きしめ、鈴と共に救助の意志を真っ先に伝える。そうする間に付近にミミズが出現したらしい情報を得ると、真と透は、迷わずこの場は二人に任せることにして現場に急ぐことが出来た。
真もここでソウルトーチ。ミミズはやはり一度は素直に真へと攻撃を加えてきた。真は苛立ちをぶつけるように火力を出し惜しまない。ソウルエッジから二刀で攻撃、更にリバースエッジで即座に力を解放する。
大ダメージを受けたミミズは……再び穴へと引っ込んでいった。
単独で動いていたアーサーは逆に、序盤は思うように動けなかった部分はある。強化人間に出会ったら、彼自身で弱らせてから押さえつけ、頸動脈を絞めて落としていたが、そうして一人で色んな事態にしっかり対処しようとしたがゆえに、ミミズを追える機会を逃さねばならないことも有った。
それでも、強化人間に対応していた者たちの働きにより、いずれはその機会がやってくる。彼もまたソウルトーチでミミズの意識を引くと、守りの構えが、ついにその移動を封じる。
連絡を受けたアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は自らの生命力から抽出したマテリアルを武器に纏わせ、持てる最大の火力を発揮してミミズの胴体を貫こうとした。貫通させて、剣が穴に引っかかるようにしてしまえばもう逃げられないだろうと。しかし、これほどの事態を引き起こすVOIDだ、その胴体を一気に貫く、というのは甘かったようだ。弾性のある皮膚に、ぬめる体液に突き出した刃は滑らされて、脇を切り裂くにとどまる。
そのミミズの体表に、氷の矢が飛来する。氷はそのまま砕けてミミズの表面に張り付き、その動きを鈍らせる。エルバッハ・リオン (ka2434)の術だった。暴れるミミズが反撃した。毒にアウレールが不快に顔を歪める。次に駆けつけたステラは敵の射程外から次元斬で攻撃する。
「こいつが……こいつがっ! 叩っ斬る!!」
地中までも透過する斬撃がミミズの全身を叩いた。
メアリと源一郎も到着する。源一郎が前に出る。彼がこの依頼に参加したのは、メアリの要請でだった。彼女から、自分の手で助けられる命は限られている、最善を尽くすために協力してほしい、と。彼自身の感情は今、意図的に抑制していて──その分だけ、他者の感情に寄り添う方法を探している。
「私の想いがこめてある。歪虚をぶったぎれ!」
メアリが叫んだ。源一郎の剣に多重性強化がかかる。ただ望まれるままに源一郎は踏み込んで、振りぬいた。苦悶に暴れるミミズが源一郎に体当たりする。だがここまでくればあとは集中攻撃だ……ついにミミズは、その長い胴体を床に沈めた。
──と、同時に。
「……え?」
キョトンとした声は、ホールのあちこちから上がった。何人もの強化人間が、その顔を上げている……これまでもなお、苦痛にあえいでいた者からも。
「暴走の兆候が無くなったのかい?」
ハンターでその可能性を真っ先に口にしたのはアキノだった。
「は、はい……。今、急に頭がはっきり冴えていって……」
「じゃあやっぱり、それもあのミミズが引き起こしてたってわけだねえ。たった今倒したって通話が入ってきてるからねえ」
アキノは、初めからその可能性を考慮していた。故に観察に集中していた。
今回に限りだが。アスガルドで行われた「呪法」に当たるのが、あのミミズそのものだった。そういう事なのだろう。楽観はできない。暴走抵抗中の鼓舞含め、アスガルドの件と照らし合わせると、どうにもできない状況もあるのだろう……むしろ対処可能な『場合もある』。その仮説に留めておくべきだ。そう、それでも今は──
「じゃ、じゃあ、僕たちはもう……!」
少年の一人が、歓喜の表情を浮かべかけた、その時。
『うおああああぁあああ!』
獣のような、吠える声は、別室……暴走した者たちを拘束し、閉じ込めていた場所から、聞こえた。
喜びの顔は一転、青褪めた絶望に変わる。
これでも……駄目なのだ。
ミミズの退治は、あくまで『これ以上の暴走者を増やすのを食い止めらた』、だけ。
暴走してしまったものはもう……どうしようもない。これまでと、同様に。
収まらぬ吠え声に。叫びに。ハンターの誰かが、悲痛な顔を浮かべて部屋を出ていく。
やがて……静かになる。
また……別の叫びが上がる。
それからまた……静かになる。
これまでも、拘束した後、目覚めた強化人間にそうせざるを得なかったように。
そんなことが、幾度か繰り返されて。
「うわあああああああん!」
耐える必要のなくなった少年少女たちは──哀しみのまま泣き崩れた。
フィロが。ミオレスカが。ハンターたちが。ただ抱きしめて、その号泣を受け止める。
「こんなの……昨日、まで、友達だったのに……暴れ、だして……嫌だったけど、止めなきゃって……。戦っ……た、けど……悲し、かった……辛かった、……それ……なのに……」
この感情に。
世界が目を向けることは、無い。
今彼らは『強化人間』、という言葉にひとくくりにされ。その一人一人に、生きた感情がある事を、人々は認識できない──。
●
事態の収束を感じ取ったのだろう。待っていましたとばかりに、メディアらしきものたちがハンターたちに殺到してくる。
次々に発せられるインタビューの内容──何とか飲み込もうとして喉に引っかかるオブラートのその中身は、『強化人間を倒さないのか、本当はどうしたいのか』その言葉を引きずり出してやろうという意図のものだった。
今回。『強化人間』の映像については、彼らはさほど期待してはいないのだ。何故なら市民に銃を向け害する姿がもう確認されているのだから。今回の事件からは、強化人間については、少なくともこれ以上悪化するような姿は取れないだろうと。
だからメディアが狙っていたのは、『ハンターが強化人間をどう扱うのか』、その姿だった。ソサエティが、軍が、処分に消極的なのはもう薄々かぎ取っているのだろう。ならば実際に対処することになるハンターは? 手加減を強いられ、苦痛に感じているのではないか? あるいは『弱き市民』を護るために、『現場』の『英雄』が『英断』する。不安に揺れる視聴者が求めるのはそれに他ならないと彼らは考えていて。だから
「保護したこいつらのその後の面倒までお前ら考えてんのか? 特に暴走しちまった連中だ」
「軍や財団に引き渡してハイ終わり、なんてのは、面倒だけ押し付ける自己満足だろ」
「ハンターが過度に強化人間を保護してんのも、俺からすりゃ異常だよ」
「全ての強化人間がってワケじゃねぇが、一線超えちまってるんだ。相応の対処を講じられるのは当然だろうよ」
アニスが、他のハンターたちに非難されたときに反論として用意していたこれらの台詞は、だからそれこそ、彼らに言ってやればもろ手を挙げて大歓迎されたかもしれない。それこそ彼女が望む方向に世論を加速させ、動かしたかもしれない、が。彼女はカメラには一切、興味を抱かなかった。どちらの意味でも。そして。
「ここにいたVOIDは強敵でした! 彼ら強化人間たちの援護がなければきっと負けてました!」
アウレールが悲痛な声で訴える。異文化交流というテーマで音楽番組に出演したばかりで、先ほどの放送にもいた彼の訴えを、戸惑いながらも取材陣は止めることはしない。
アウレールは見せてきた芸能人としての姿さながら、気弱な少年を演じていた。
暴走は歪虚の仕業で彼らは被害者だと。彼らを助けたい、友達を苦しめる歪虚が許せないと悔し気に訴え掛ける。
悲しみに耐えながらそれでも戦場に立つヒーロー。演出された悲劇感は、それはそれで、視聴者が喜びそうな絵ではあった。
それでもなお、では暴走の危険性については、市民の不安にどう答えますか、などと聞こうとする取材陣が居て……。
「――テメェ等好き勝手言ってンじゃねぇえ!」
いい加減、ボルディアが切れた。
「俺はなぁ、テメェの命張って強化人間助けようとしてンだよ。なのに倒せだぁ?」
睨み付ける彼女の迫力に、報道陣は一瞬静まり返る。そうして、生まれた空白に。
「わふ、お兄さんお姉さん! 僕も質問したいです!」
アルマが、声を上げた。
「強化人間さん大事って言ったです。一緒に戦ってくれてる子いるです。ね、どうしていじめるです?」
一度のWeb放送をして、視聴者から『子犬系魔王の卵』『不思議ギャップキャラ』などと言わしめた彼の天性で、彼は遠慮をせずに畳みかける。
「歪虚さんとの戦いが全部終わったら、僕らの事もこんな風にいじめるです? 危険な覚醒者だって。こわいって」
扱いに困った彼らは、何とかならないものかと視線を彷徨わせ……やはりweb放送に参加していた、ニーロートパラの方へと視線を向けた。彼自身は、取材に向けて一切、何を言う事もなかった。彼は今回、強化人間への気持ちはただ、行動で示そうとした。ミミズからの攻撃に対し、ずっとかれらを守る対象として行動し続けていた。注目を惹きつけ、攻撃から庇い、妨害射撃も、子供たちが狙われたときのみに使用した。その姿を、カメラが納めている。それを見て判断してくれればいい、と。
そんな中。
「……透は、何か言いたいことは無いの? あるなら私が言うよ」
真が後ろの方でこそりと言った。透は、暫く考えて。
「ありがとう。でも今なら……自分で言えるよ」
そう言って彼は、前に出る。
「俺たちは、『英雄』という、それだけの一つの存在じゃない。世界を守る、敵を倒す……それ以外、何も考えずに、感じずにいられるわけじゃ、無いんです。それぞれに、思うこと、やりたいことがあります」
そしてそれは強化人間もだと、透は静かに告げた。自分たちは彼らの顔を見て、声を聞いて闘っている。そこに感情と、歪虚とは違う、命を感じているのだと。
「それを奪えというのは……俺には、容易いことでは、ないです」
それだけですと言って戻るとき、透はアニスが視線に入った。申し訳ない気持ちが、ある。
この戦いにおいて、多くの者がこう思っていた。『出来ることをする』と。きっとそれは強化人間を救う方法が分からない、それだけではない。必要と分かっていても、割り切ることが『出来ない』。だから『自分に』出来る方法で対処する。……それは結局、必要になった時は『出来る人間』ばかりに始末を押し付けることだと、それも……自覚している。それでも……歩みを止めるよりと。そう、だから──
「有難う。君のお陰だ」
色々な意味を込めて。もう一度、戻って透は真にそう言った。
最後に、鈴がゆっくり話し始める。
「オレはハンターって立場から逃げてた様なビビリだからさ、怖いのはワカるよ。けど、強化人間だって暴走したくてしてンじゃねぇ。自分で在る為に必死に抗ってる」
短気は……起きなかった。ホールに向かった時の、泣き崩れていた彼らの姿が忘れられない。
「少しだけ想像してみて欲しい。同じ立場になった時、自分が切り捨てられちまう世界を。気づいて欲しい。世界を護れンのは、偉いヤツらや覚醒者じゃねぇ、自分達だって事を。歪虚なんかに踊らされンのは悔しいじゃんかよ……」
素直な、必死の訴え。
記者たちはやがて、どちらかと言えば何か諦める様に散り始めた。だが。去り際に、真摯な目を向ける者が居て。それから、なおも居残るものが、幾つか。
「お疲れのところ大変申し訳ありません、私こういうものですが、今のお話についてもう少し詳しく──」
残った者たちが差し出した名刺には、フリーライターと、あるいは、新鋭気鋭のweb系メディアの名前があった。
テレビのニュースの多くは、今回の事件を、ハンターの活躍を称える形で報道した。映し出されたのは主にハンターの戦う姿──主にアニスの姿を使いたがったようだが、流石に一人ばかりでは不自然だったのだろう──で、彼らが強化人間に寄り添う姿は避けられ、闘う強化人間の姿をハンターと誤認させるような編集も見られた。
本当なら、神楽はネットに全ての動画をアップすることで、これらの編集に対抗しようとしていた。だが、それはリアルブルーにいられる時間に達成できることではなかった。
だがその中で、論調は似たような物の、ありのままに近い映像を流す局があった。この後日談として、芸能事務所に手紙が届く。取材を生かしきれなくて申し訳ない、必死で上司と掛け合ったが、今はこの形が精一杯だったと。そして、個人的に、貴方方の活動と気持ちを応援する、という言葉で締めくくられていた。
そしてこうした映像が映し出されたことは、無駄な抵抗に終わったわけでは無かった。
ネットのニュースサイトに、コラム記事に、幾つかの記事が錯綜した。
ある記事はボルディアやアルマの訴えを元に、今の強化人間の報道の在り方を強い口調で警告した。主に、元より大手メディアの在り方に反発的なものたちの間にこの記事はシェアされていった。
ある記事はアウレールや鈴の訴えを元に、強化人間に寄り添う視線を提起した。掲載された写真、ハンターたちが強化人間を守る姿、抱きしめる姿に、心ある者たちは胸を痛めた。そして、テレビで流された、戦う彼らは強化人間ではないか? という検証もネットで流れ始める。
そして。
エルバッハは、これまでの芸能活動の経験から、記憶にある、信頼出来ると思った記者と連絡を取った。ハンターの独占インタビュー、という状況に、相手は次に繋げるべく真摯に答える。
「犯罪行為を犯したなら無罪とは言いませんが、彼らも知らずにVOID技術を移植されたという事情もありますので、情状酌量の余地はあるのではないでしょうか」
その記事はエルバッハの主張を、今回知り得た事実を全て、曲げることなくかつ分かりやすく伝わりやすい形で纏めていた。今はまだ目立たぬ記事だが、誰もが目に触れられる場所にこれらが纏まれたことは、いつか意味を持つだろうか。
彼らの想いはそうして、リアルブルー人の目に届けられる場所へと載せられた。少しだけ。少しずつ。それは確かに、誰かの心を動かした。……そしてやはりそれは、僅かにだが彼らへと返る。
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質問卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/08/13 07:47:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/12 22:31:51 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/08/13 20:35:41 |