• 幻痛

【幻痛】ピリカ部隊、起動

マスター:近藤豊

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/08/29 22:00
完成日
2018/09/01 18:25

みんなの思い出

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オープニング

 怠惰の歪虚王ビックマーと幻獣王チューダが激突している頃、南のケリド川周辺では部族会議による作戦が進められていた。
「ボートはぶっ壊しておいたぜ。これで奴らはケリド川に入って渡らねぇといけねぇはずだ」
 自称「幻獣機導師」のテルル(kz0218)は、ケリド川南岸に展開された部族会議本陣へ戻ってきた。ビックマーとチューダの戦いをよそに南下を継続する武装巨人達。彼らの巨体でもケリド川は深く、浸かれば胸辺りまで沈んでしまう。
 ビックマー討伐作戦『ベアーレヤクト』を指揮するヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、武装巨人が事前に船を準備している可能性を予測。古代文明が残した魔導アーマー『ピリカ』であり、テルルの愛機でもある通称カマキリは船を捜索して事前に破壊する事に成功していた。
「ご苦労様でした。これで敵は深いケリド川に入る他ありません。辺境で聖なる川と呼ばれていますが、ここで敵を食い止めます」
 ヴェルナーの準備している作戦では武装巨人が川に入って進軍を開始した時点でケリド川南岸の本陣から遠距離攻撃を仕掛ける。武装巨人の兵装は近代兵器であるが故、川に身を沈めた状態での反撃は十二分には難しいはず。仮に進軍を強行したとしても川岸でスタンバイしているハンター達が迎撃する手筈になっている。
 そして――。
「退路は俺っち達がバッチリ押さえてやるぜ。うまく行けば、敵の大部分は川で立ち往生って訳だ」
 敵は同じようなシチュエーションを既に体験している。
 CAM稼働実験場『ホープ』を狙って進軍したヤクシー率いる怠惰の巨人達。
 その際にはナナミ川を渡りきった時点で川を決壊させて退路を断って巨人達に甚大な被害を与える事ができた。もし、その情報や記憶を持つ巨人達がいれば無理に進軍をせずに北岸へ引き返す事が想定される。
 そこでテルルがカマキリと共に北岸へ伏兵として現れ、北岸へ戻ろうとする巨人達を追い返す作戦だ。さらにテルル達は一人ではない。心強い味方も一緒だ。
「ピリカ部隊の練度はどうですか?」
「ばっちりだ。それにみんな歪虚をやっつけられるって気合い入っているぜ」
 魔導アーマー『ピリカ』に乗るのはテルルだけではない。
 先日チュプ大神殿で発見されたピリカを辺境のドワーフ達が修理。さらに幻獣の森に住むユキウサギやユグディラ達が操縦訓練を受けて戦う事ができるようになった。今まで巨人を相手に辛酸を舐めてきた小型幻獣達であったが、ピリカに乗って戦う事で仕返しができると士気も高めだ。
「俺っちのカマキリみてぇな奴もいるが、カブトムシやクワガタに似た奴もいるぜ。まあ頑丈さは折り紙付きだ。そう簡単にはやられねぇよ」
「分かりました。本陣が攻撃を開始した後、頃合いを見て合図を送ります。北岸に戻ろうとする敵を押し返して下さい」
「分かったぜ。歪虚の奴らを徹底的にぶっ潰してやるぜ!」
 テルルは羽ばたきながら、愛機のいる場所へと飛んでいく。
 飛ぶ、というより浮くに近い移動方法だが、本人はこれでも素早いつもりだ。
「チューダさんがビックマーと戦っている隙に、巨人達をここで一気に殲滅します。
 バタルトゥさんには最終防衛ラインの構築と迎撃態勢の準備をお願いしていますが……ここでどれだけ巨人を倒せるか。
 すべては、ハンターと部族会議の皆さんにかかっています」

リプレイ本文

 この地の歪虚勢力を減衰させる好機――エアルドフリス(ka1856)は、対ビックマー討伐作戦『ベアーレヤクト』をそのように認識していた。
 かつてこの地を追われた者としても作戦に寄せる期待は大きい。
 既に幻獣強化システム『ラメトク』によって巨大化したチューダはビックマーと対峙。聖地付近にて激突しているのだが、部族会議はその裏で次なる一手を打っていた。
「巨人は多数、我々は12騎と少し……それでもやるしかないだろうな」
 エアルドフリスは茂みで息を殺していた。
 グリフォン『スキヤン』も地上に降ろして身を潜めさせる。
 道の前では武装巨人の群れがケリド川に向かって移動中なのだ。今回の作戦ではケリド川の対岸に布陣した本体がケリド川を渡ろうとする武装巨人を遠距離攻撃。胸近くまで体を水に浸かった状態では手持ちの近代兵器で狙い撃つ事は困難。
 エアルドフリスは大幻獣テルル(kz0218)率いる古代魔導アーマー『ピリカ』部隊と共にケリド川を引き返す巨人達を岸へ上げない為に迎撃する伏兵として隠れているという訳だ。
「あれがピリカね。見るのは初めてだから感慨深いわ」
 イェジドと共に隠れていたアイラ(ka3941)は、小声で呟いた。
 稼働するピリカが実践投入されたのは今回が初めて。間近で動くピリカを拝める機会は今後あるかもしれないが、帝国の魔導アーマーとは少し異なる外観に興味を惹かれていた。
 何故なら、アイラの前にいるピリカはカマキリのような外見をしている。それ以外にもカブトムシやクワガタなど昆虫を模した機体が多い。このような外見をしている理由は今を持って不明であるが、機能面を考えた場合はそう悪い事ばかりでは無さそうだ。
「……あ、ダメダメ。ピリカにばかり注目するのは後。今は真面目にやらないと」
 アイラは自らを律した。
 こうしている間にも武装巨人達はケリド川に向かって進軍中である。戦いの最中である事を忘れてはならない。合図を受けたなら、一斉に攻撃を開始しなければならない。
「それにしても……三年半か」
「え?」
 エアルドフリスの呟きを聞いたアイラが聞き返した。
 三年半――それは、奇しくも同じように巨人を相手に戦った作戦を思い出させる。
「ナナミ河。あの時はCAMの稼働実験場が狙われていたな」
 エアルドフリスの脳裏に蘇る記憶。
 あの時から考えてもエアルドフリス達は様々な戦いを経験した。
 多くの出会いと別れがあった。
 未だ歪虚支配地域は存在しているが、ハンターとして確実に力を付けてきた自負がある。
「この勢いで可能な限り取り戻したい処だが、さて」
 前を過ぎていく巨人達を、エアルドフリスは黙って見送る。
 この後の戦いが、辺境の地を取り戻す戦いになると信じて。


 別の茂みでは、テオバルト・グリム(ka1824)がユグディラ『にゃん太郎』と共に隠れていた。
「おうおう、こりゃまた大勢いるじゃねぇか」
 アサルトライフルを装備してヘルメットやアーマー身を包んだ巨人達。
 大小様々ではあるが、傍目から見ても2メートルから3メートルサイズの巨人が群れを成して闊歩している。
 合図次第でテオバルトは蒼機剣「N=Fシグニス」片手に挑まなければならない相手だ。身長差のある相手に対して正面から挑めば、どのような結果となるか――。
 しかし、一人で戦いを挑む訳では無い。
「にゃん太郎も付き合ってくれてありがとうな。
 ピリカの操縦も初めてで大変だろうけど、よろしく頼むぜ」
 にゃん太郎は古代魔導アーマー『ピリカ』のカマキリ型に騎乗していた。
 両腕に装備された二本の鎌。
 脚部にはガトリング砲が装備されている。
 チュプ大神殿で発見された機体を辺境ドワーフが改修している。ベースは古代文明の遺物なのだが、テオバルトにとっては心強い味方である。
「それと……奥さんに黙ってきた事は二人だけの秘密だぞ?」
 小声で信頼を寄せる相棒へそっと話し掛けるテオバルト。
 ピリカの操縦席でにゃん太郎は小さく頷いた。


 巨人達が通過したのを確認したハンター達は、合図を受けての一斉攻撃に備えて指定ポイントへの移動を開始する。
「テルル様、岸の状況は?」
 リアリュール(ka2003)は、前を移動するテルルへ話し掛けた。
 予定では巨人達がケリド川へ入った後、後方を塞ぐ形で布陣する予定だ。できるなら、周辺情報を事前に知っておきたかったのだ。
「ああ。障害物はねぇが、ピリカ部隊のみんなで前に出るぐらいの広さはあるぜ」
 テルルは愛機のカマキリに乗ってケリド川へ急ぐ。
 周辺に障害物らしきものは無さそうだ。草木はあるものの、リアリュールが狙っていた草を使った転倒トラップは難しそうだ。通常の人間ならともかく、巨人相手となればトラップのサイズも大きくなる為だ。
「合図で攻撃開始ですね。ティオーも頑張ってね」
 リアリュールの背後に追随する形でユグディラ『ティオー』も移動を開始する。
 クワガタ型のピリカ。
 特徴的なハサミを搭載した機体は、巨人に発見されないように複数の足を巧みに動かしながら移動している。
 テルルから簡単な操作法を教わっていたティオー。リアリュールの目から見てもピリカの捜査に手間取る様子はない。これなら実戦でも十分戦えるだろう。
「ティオーはテルル様と一緒にピリカ部隊と講堂を共にします。よろしくお願いしますね」
「おうっ! よろしくな、ティオー!」
 カマキリの操縦席で振り返るテルル。
 小さいながらも歪虚へ立ち向かう姿勢。リアリュールも気持ちを新たにケリド川へひた走った。


 対岸からの合図。
 部族会議本陣から発せられたそれは、北岸で待ち伏せしていたピリカ部隊の攻撃開始を意味していた。
「てめぇら、出番だ! 俺っち達の力を見せてやれっ!」
 テルルの号令と共にピリカが一斉に射撃を開始。
 さらに岸に近い巨人に向けてアイラが『白龍の息吹』を発動。
 放たれた光線が巨人達の意識を混濁させ、反撃させる暇を与えない。
「にゃん太郎、援護を頼むぜ!」
 テオバルトは、前進して間合いを詰めていく。
 後方からはにゃん太郎のカマキリ型ピリカに搭載された脚部ガトリング砲の援護射撃。
 テオバルトへアサルトライフルを向ける暇を与えず、巨人は防戦一方となる。
「いくぜっ!」
 N=Fシグニスの連撃。
 岸に近い巨人に振り下ろされる刃が腰部を連続で斬りつけて押し返す。
 無理に倒す必要は無い。重要な事は敵の退路を立ち続ける事。こうしている間にも本陣からの遠距離攻撃で巨人達はケリド川中央部に居続ける他なくなる。
「ガウッ!」
 岸へ上がろうとする巨人に向けてイェジド『月夜』がウォークライで迎撃。
 咆哮で巨人を威圧して岸へ上がろうとする速度を遅らせる。
 月夜は命令に従って接近された巨人を可能な限り川へ押し返そうとしていた。
 すべては――フェリア(ka2870)の強力な一撃の為だ。
「我が名はフェリア。皇帝の剣なり」
 フェリア(ka2870)は、エクステンドキャストで集中力を高めながら詠唱を続けていた。
 その詠唱が完了した後には頭上に三つの火球が誕生。燃え盛る火球が巨人達へと一気に降り注ぐ。
 実はケリド川は辺境では聖なる川として崇められている川だ。一般人が通る為には船が必須であり、巨大な体躯を誇る巨人であっても腰から胸にまで水を浸からせる必要がある。これが今までのように棍棒ならば水に浸かっても問題はないが、アサルトライフルなどの近代兵器となれば話は別だ。水に浸れば命中度にも影響する。この為、武装巨人達はアサルトライフルを水よりも上に掲げていた。
 つまり――巨人達は今、フェリアの火球を防ぐ術を持たない状態である。
「!」
 三つの火球が巨人に直撃すると同時に爆発。
 周囲の巨人も巻き込んで、水より上に炎の海を作り出した。
「ここまでは順調ね。だけど、この後の戦いを考えるならもっと減らしておかないと厳しいわね」
 フェリアは現在の戦況が部族側優勢と見ていた。
 それは真実だろう。だが、ヴェルナーによればこの戦いで武装巨人の多くを倒す必要があるという。何らかの作戦があるのは間違いないが、できるなら策を用いた上でより効果的な結果を掴み取りたい。
「だったら、もっと敵に向かって行くしかねぇだろ」
 テオバルトは、次なる武装巨人を目指して動き出した。
 ピリカからの援護射撃、さらには接近されてもピリカに装備された接近武器でうまく敵を押し返している。
「やっぱり押し寄せる敵を確実に押し返すべきなのかしらね……月夜!」
 フェリアは月夜を呼ぶと背中に飛び乗った。
 上陸しようとする武装巨人を機動力で確実に仕留める為に。
 

 戦闘が開始されてしばらく後、ハンター達とピリカ部隊は確実に上陸しようとする巨人を押し返していた。
 これはヴェルナーからの依頼通りであり、正しい動きとも言える。
 だが、この状況は出る杭を打つような作業である。敵により大きな被害を出す為には、フェリアのように遠距離から強力な攻撃を叩き込むか――敵に近づいて痛打を与える他無い。
「『STAR DUST』出撃する!!」
 南護 炎(ka6651)のガルガリン『STAR DUST』は、武装巨人のいる川に向けて前進を開始した。
 南護の目的は、囮だ。
 武装巨人も巨人用ナイフなどを装備して迎撃するだろう。だが、南護はあくまでも接近戦を仕掛ける事で敵の注目を集める。こうする事でピリカ部隊への攻撃を少しでも減らすのだ。
「テルル! ピリカ部隊! 巨人を殲滅するぞ!!」
「やってくれるじゃねぇか! おい、アイツを援護するぞ。絶対に死なせるな!」
 南護の行動に影響されたのだろうか、テルルが南護への援護射撃をピリカ部隊へ命じた。
 各機から発射される遠距離攻撃が南護付近の巨人達に向けられる。
「うおおおおっ!」
 水中に下半身を浸した状態のSTAR DUST。
 斬艦刀「雲山」を振り抜き、近づく巨人達に斬りつける。
 一見、危険な囮となっているが、この結果敵の陣形を乱す結果となる。その影響はすぐに他のハンターへ目に見える形となってもたらされる。
「乱戦の可能性は上がったが……敵に上陸以外の目標が生まれたか」
 スキヤンの背中に飛び乗ったエアルドフリスは、スキヤンと共に高らかに上空へと舞い上がる。
 イヌワシ『アナム』を飛ばしてファミリアズアイで敵の状況を観察。敵の動きを味方と共有していたが、巨人は味方と連携せずバラバラと上陸を試みていた。これだけならば迎撃するだけで良いのだが、川中央の敵に打撃を与えてはいない。
 南護が囮役になって敵の目を惹く事で川中央にいる巨人にも動きが見られるようになったのだ。
「テルル様」
「あん? テルルでいい。なんだ?」
「テルル。我々はあんた方の部隊の成功を願っている。その為には相互理解と事前準備が大事という訳だね」
「ああ。さっきそう言ってピリカ部隊の射的距離を聞いてたな」
「今から敵の攻撃を妨害する。射的距離にいる巨人は徹底的に叩いてくれ」
 そう言い残したエアルドフリスは、スキヤンに水面近くを飛行させる。
 同時にエアルドフリスは詠唱を開始する
「円環の裡に万物は巡る。理の護り手にして旅人たる月、我が言霊を御身が雫と為し給え」
 巨人の近くへ到達すると同時に青白い雲状のガスを振りまいた。
 円環成就弐――満月の幻影と共に巨人達を夢の世界へと誘う。
 川の中であっても強力な睡眠は巨人達に抗えない。
「今だ! 眠っている巨人をやっちまえ!」
 テルルはピリカ部隊の一部にエアルドフリスが眠らせた巨人を攻撃させる。
 ただの肉の的と化した巨人を狙い撃つ。
 それ程難しい攻撃ではない。次々と巨人はケリド川で打ち倒されていく……。


「さて、と」
 リアリュールは他のハンターと別の戦い方を仕掛けていた。
 少し離れた場所から星弓「フェイルノート・スラッシュ」でシャープシューティング。
 狙うは巨人の一団から外れた武装巨人。
 放たれた矢は、巨人の肩口へ命中する。狙われている事に気付いた巨人は慌てて仲間の巨人がいる方へ進路を変える。
 そこには――。
「!」
 巨人に向けられるグレネードランチャー。
 爆炎に包まれる巨人。
 腕で爆炎から顔を守ろうとしているが、既にその位置は危険だと気付いていない。
 覆い隠した手を顔から離す前に、クワガタ型ピリカのハサミが腰に食い込んだ。
 痛みに顔を歪める巨人。
 泣き叫んだ処で誰も助けてはくれない。
 強力な力がハサミに加わり――そして、切断。
 巨人の上半身と下半身はバラバラとなり、ケリド川に流されていく。
「やったわね、ティオー」
 リアリュールは、茂みの中で静かに拳を握り締めた。
 一団から巨人が外れれば包囲網が崩壊する恐れもある。そこでリアリュールはシャープシューティングとフォールシュートを使い分けながら、離れた巨人を狙撃してピリカ部隊の前へと誘導していたのだ。
 ティオーの近くへ敵を誘導してしまうのは、所謂『親馬鹿』なのだろうか。
「このまま行けば、一番の戦果はティオーかしら……あ、次の獲物!」
 リアリュールは獲物を目視した後、フェイルノート・スラッシュに矢を番えた。

 一方、カマキリ型ピリカに騎乗するにゃん太郎とテオバルトは――。
「……連中め、攻勢をかけてきたか」
 南護の囮に目を奪われている一団が陣形を乱す事で敵の集団にも動きが出てきた。この為、集団で岸に上がろうとする巨人も現れ始める。
 テオバルトはそれらの一団を発見。アクセルオーバーで加速、すれ違い様に敵を斬り倒していく。
「どうだ!」
 N=Fシグニスに残る手応え。
 しかし、巨人もアーマーで装備している為に敵を完全に屠る事はできなかった。
 胸を斬られながらも、巨人はアサルトライフルをテオバルトへ構える。
 そこへ――。
「にゃん太郎!」
 巨人も岸に近づき過ぎてピリカ部隊の存在に気付いていなかったのだろう。
 間近まで接近していたにゃん太郎のカマキリ型ピリカ。
 両手に装備されていた鎌は、既に高々と持ち上げられている。
「!」
 振り返る巨人――だが、もう遅い。
 振り下ろされる頃には、巨人の脳天から鎌の刃が体を切り裂いていた。
 装備のせいで真っ二つとまではいかないが、巨人を絶命させるには充分な一撃であった。

「ありがとうな。フォローしてやろうと思ってたが、まさかフォローされちまうとはな」
 感謝の言葉を述べるテオバルト。
 フォローできたにゃん太郎は、とても嬉しそうだ。
 だが、一番嬉しそうなのは助けられたテオバルトの方かもしれない。


「敵は人海戦術……力で押し切るつもりね」
 フェリアは再びメテオスウォームの詠唱を開始する。
 巨人達も危機感を強めてきたのだろう。時間が経過すると同時に強行的な手段を用い始める。
 それがフェリアの口にした人海戦術である。
 先頭の屍を踏み越え、後方の者が突破口を開く。
 川からの挟撃が続いて被害が拡大した結果ではあるが、攻勢は徐々に強まっていく。
「月夜、お願い」
 スティールステップで巨人の近接攻撃を回避した月夜は、フェリアを守るように前へ立ちはだかる。
 ここで一気に迎撃できれば、巨人の猛攻を防ぐ事はできる。
 その為には、可能な限り巨人を一度に片付ける必要があるのだ。
「おっと! ここから先は通さないぜ。とっとと戻りな!!」
 上陸を狙う巨人達の側面から南護のSTAR DUSTが雲山へ斬り掛かる。
 幸い、STAR DUSTを追ってきた巨人も巻き込まれる事で周辺は混乱し始める。
 ピリカ部隊の援護射撃も加わり、ケリド川北岸はまさに血みどろの戦場と化していく。
 それでも戦力を集める巨人。
 だが、それはハンター側も同じ考えだ。
「大丈夫? 支援するわ」
 イェジドと共に駆け込んできたアイラは、献身の祈りを使った。
 自らの力を南護へ分け与え、周辺に集まる巨人に対抗する力が生まれる。
「ありがたい! これでまだピリカ部隊を守れる!」
 南護は雲山を大きく振り回る。
 周辺の巨人を斬ると同時に威圧。少しでも巨人の侵攻を食い止める。
 だが、それでも完全には巨人の動きを止めるには至らない。
「イェジド!」
 アイラは、接近する巨人に向けてイェジドのブロッキングを指示。
 イェジドの強烈な体当たりは、巨人をよろめかせながらケリド川へと押し返す。
 吹き飛ばすまでには隙を生み出すには十分だ。
「乱戦か。ならば……!
 均衡の裡に理よ路を変えよ。生命識る円環の智者、汝が牙もて氷毒を巡らせよ」
 そこへエアルドフリスがスキヤンと共に飛来。
 岸へ降り立つと同時に氷蛇咬を叩き込む。氷の蛇が巨人に絡みついて食らい付く。
 さらにエアルドフリスはアイラに向かって叫ぶ。
「一体ずつ足止めしていては間に合わない。多数の巨人を同時に無力化するんだ」
「! 分かったわ」
 アイラは頷くと、再び白龍の息吹を唱えた。
 光線が放たれ周辺の巨人の意識を混濁させる。
 別の集団に対してはエアルドフリスが円環成就弐で巨人の意識を奪い去る。
 前方を進んでいた巨人が同時に多数足を止めた事で、巨人の侵攻が一時的に和らいだ。
 そこへ詠唱を終えたフェリアの頭上に三つの火球が姿を現す。
「悪いけど、ここで一気に終わらせるわ」
 再び巨人の頭上で炸裂するメテオスウォーム。
 無力化された巨人に炸裂し、多くの巨人を巻き込んでいった。


 その後、作戦の方は順調に進行。
 本陣からの迎撃部隊が突入してケリド川に進行した巨人達の多くは倒される。
 ナナミ川の戦いが、この地でも再現された事になる。
「やったな、にゃん太郎! 大戦果だ」
 カマキリ型ピリカから降りたにゃん太郎を出迎えるテオバルト。
 南護の囮役もあった事からピリカ部隊には大きな被害もなし。にゃん太郎も初めてのピリカ騎乗ではあったが、十分過ぎる戦果を上げる事ができた。
 何より、いつもとは異なる支援がテオバルトには嬉しい限り。
 にゃん太郎もテオバルトを助けられて嬉しい様子だ。
「ティオーもお疲れ様」
 クワガタ型ピリカから降りるティオーをリアリュールは出迎えた。
 ピリカ部隊の一員として一斉射撃に参加。さらに接近する巨人をクワガタのハサミで迎撃していた。仲間の負傷には森の午睡の前奏曲を用い、傷を癒す事も忘れてはいなかった。
「二人とも初めてピリカを動かしたとは思えねぇ活躍だったぜ」
 ピリカ部隊を率いていたテルルが二人の活躍を褒め称える。
 実際、準備していたピリカ部隊だけでは火力が少なかった。ハンターの支援に加えてにゃん太郎やティオーの参加があった事が大きな戦果をもたらせた。
 さらに――。
「よくやったぜ。今回の作戦はピリカ部隊のおかげだ!!」
 STAR DUSTから降りた南護。
 囮を務めながら、ピリカ部隊に危険が及びそうだと判断した場合は庇護者の光翼とマテリアルカーテンで盾となっていた。人機一体や縦横無尽を駆使してケリド川沿岸で大立ち回りを演じていた。
 それでも、今回の作戦成功はピリカ部隊にあると考えているようだ。
「いや、俺っちだけじゃねぇ。こいつぁみんなの勝利だ」
「そうだね。だけど、今日ぐらいは褒められてもいいんじゃない?」
 そう言いながら、アイラはテルルの頭をそっと撫でた。
 初めての戦闘でピリカに乗っていたユキウサギやユグディラ達も疲れているだろう。でも、巨人に勝利したという大きな手応えは幻獣達に大きな勇気を持たせられた。
 今日ぐらいはよく頑張った、とアイラは褒めてあげたかったのだ。
「……ちっ。他の連中はともかく、俺っちを褒めても何も出ねぇぞ」
 軽く悪態をついてみせるテルル。
 褒められ慣れていない為の照れ隠しだろう。その証拠に円らな瞳に嬉しさが漏れ出ている。
「勝利の余韻に包まれている所で悪いが、ベアーレヤクトはまだ続くのだろう?」
 テルルの元へ歩いてきたエアルドフリス。
 既にビックマーを撃退すると同時にサイズは大幅に縮小させたという情報が舞い込んでいる。だが、ビックマーは侵攻を諦めていない事も合わせて報告されている。
 現実に引き戻されたテルルは、アイラの膝の上で真面目な顔へと戻る。
「おう。今、ノアーラ・クンタウ前に最終防衛ラインを構築中だ。ここで食い止められなきゃ……」
「辺境だけじゃない。帝国領内にも被害が出る、という事ね」
 フェリアは最悪のシナリオを敢えて口にした。
 ノアーラ・クンタウは帝国にとっても対歪虚の最前線。そこが一度ならず二度も陥落すれば、帝国内部でも士気に大きな影響を及ぼすに違いない。
「ああ。だが、ヴェルナーはそれ以外にも問題が発生するかもしれねぇって言ってたぞ」
「……予想はつく。あの連中か」
 エアルドフリスの脳裏に浮かんだのは、先の戦いで姿を見せた歪虚達であった。
 最終防衛ラインで何らかの介入を試みると考えて良いだろう。
「誰でもいい。俺達のやる事は変わらない。目の前の敵を倒すだけだ!」
 南護は、拳を強く握った。
 ビックマーを巡る戦いは、間もなく最終決戦を迎える。
 混迷が予想される戦いへ、ハンター達は身を投じる事になる。

依頼結果

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MVP一覧

  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856
  • 覚悟の漢
    南護 炎ka6651

重体一覧

参加者一覧

  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ニャンタロー
    にゃん太郎(ka1824unit002
    ユニット|幻獣
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    スキヤン
    スキヤン(ka1856unit002
    ユニット|幻獣
  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ティオー
    ティオー(ka2003unit001
    ユニット|幻獣
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    モーントナハト
    月夜(ka2870unit001
    ユニット|幻獣
  • 太陽猫の矛
    アイラ(ka3941
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イェジド(ka3941unit002
    ユニット|幻獣
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    スターダスト
    STAR DUST(ka6651unit004
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/08/26 17:11:58
アイコン ピリカ部隊の成功のための会議室
南護 炎(ka6651
人間(リアルブルー)|18才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2018/08/29 19:37:46