黒を断ずる玖の戦乙女

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/09/06 07:30
完成日
2018/10/03 11:08

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●罪人と花

 ゾンネンシュトラール帝国北部の小さな街。
 特にこれといった観光地も名産品もない、街道のそばにあるだけのその街に英霊フリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)がふらりと現れたのは夏の終わりが近づいている頃だった。
『花をくれないか。……花の名前はわからないが、欲しい花が8つあるんだ。昔、旧友に酷いことをしてな……せめて詫びに好きだった花や酒を、その……贈りたくて』
 花屋の軒先で大きな背をほんの少し曲げて、不器用にはにかむ。
 丁度店の前の花壇に水を撒いていた小柄な老婆――店主は目の前の傷だらけの大女に目を白黒させたが、すぐさま営業用の人懐っこい笑みを浮かべるとフリーデを店内に案内する。
「ええ、ええ。うちは帝国各地の花の名所から商品を集めていますからね。きっとお役に立てると思いますよ」
『ありがたい』
 店主に小さく会釈するフリーデの顔に、少しだけ伸ばした横髪がぱさりとかかった。
 その生真面目な姿勢に店主は「せっかくですから活きのいいお花を用意しましょうね、ハンターさん。あなたの真心がお友達にしっかりと伝わるように」と声を弾ませる。
 筋骨隆々とした体格はたしかに一般人のそれとは明らかに違うが――もっとも、今もなお一部の地域で罪人として悪名を馳せたフリーデリーケとしては知られぬままも華だろうと小さく目を伏せた。


●朽ちた霊廟にて

 フリーデリーケが訪れた小さな街。その近郊に忘れ去られた霊廟がある。
 小さな山の麓にある洞窟を切り拓き、祭壇と墓を連ねた――建設されたばかりの頃はそれは壮麗な様だったという。
 絶火の騎士フリーデリーケとともに戦ったという8人の女軍人をはじめとした開拓時代の軍人達が祀られたその地は、はじめの頃は多くの地元民が花や供物を捧げ彼らを地域の守り神として崇拝していた。
 しかし時の流れとは残酷なものだ。
 戦争により亜人が去ったことで平和が訪れ、帝政が民の生活を潤すようになると……次第に民は彼らのことを忘れていき、建設から200年を過ぎる頃には「壁の崩落など安全上の問題が発生した」と一般人に向けて進入禁止の御触れが出され……いつしか浄化に携わる人間のみが出入りする寂しい場所となっていた。

 とはいえ。そんな場所でも不届きな人間は易々と乗り込んでくるもので。
「兄貴、思ったよりもここは随分としけたとこですね」
「あー、まぁ絶火の騎士サマとか貴族皇族の墓所ってわけじゃねぇからな。……副葬品なんかも期待できないだろうなぁ」
 貧相なこそ泥がふたり、ぶちぶちと愚痴を言いながら霊廟を歩き回る。
 めぼしいものといえば祭壇の上にぽつんと立っている燭台と小さなゴブレット。浄化のために貼られた符の数々は金にはならないだろう。
「表の無駄に厳重な封印をぶち壊してまで入ったってのに、とんだ期待外れだよ……ったく」
 兄貴分が祭壇に唾を吐きかける。――すると、かさりと音がした。
「っ!!?」
 もしかして見張りでもいたのか、と慌てて振り返るふたり。
 しかしそこには生きている者はいなかった。……生きている者は。
『ありがとう、あなた達。ここを開いてくれて。ずっと入ってみたかったのよ、良いお友達になってくれそうな子がいそうな気がしてね』
 巨大な刀を背負った美しい女性騎士が胸に手を当てて、にこりと笑う。その騎士の姿が……まるで陽炎のように揺らいでいるのだ。
「な、なんだよ……お前」
『さあ、私にもわからないの。ただずーっと心に残っていることはあるわ。……私は生きている人が大嫌いってこと』
 騎士の手が刀の柄にかかる。これは、危険だ。こそ泥達は急いで背を向けて駆け出そうとしたが、既に遅かった。
 ――ぶつ。
 弟分の両脚から膝下が消える。
「うああああっ! 俺の足、俺の足ぃいいいッ!!?」
 地面に転がり泣き叫ぶ弟分。兄貴分もまた自分の左手がなくなっていることに気づくと――恐慌状態に陥った。
 兄貴分は洞窟の外に向かい、一目散に駆ける。手首に奔る猛烈な痛み、罪悪感、後悔、恐怖。それらが強い吐き気につながり、何度も転んで、泣いて、謝罪の言葉を繰り返しては、胃の中のモノを全て吐いて。
 ……外に出ると、彼はほど近く見える街に向かって「歪虚が出た、助けてくれぇええ!!」と叫ぶなり、地に膝をついて子供のように泣きじゃくった。


●戦のはじまり

(……よし、花と酒は一通り揃ったな。後は祭祀に関わる役人に目通りしてから、墓参りといこう。あの日のことを赦してもらえるなどとは到底思わないが……これからの世界のために戦うことを誓う。それが私なりのけじめだ)
 そうフリーデが両手いっぱいに花と酒瓶の入った袋を持ってハンターオフィスの前を通りかかったところ、ハンター達が慌ただしくオフィスを飛び出していく姿が目についた。
『どうしたのだ? 何か事件でも……』
「事件も何も、この近くの霊廟でヤバい歪虚が出たっていうんだよ。被害者の話を聞いたとこだと亡霊型歪虚らしいんだが、どうも霊廟で祀られている軍人達の遺骸を悪用しようとしているとかでさ」
『なんだと!? 霊廟で眠る軍人達を!!?』
 花と酒瓶が派手な音を立てて地に落ちる。そして次の瞬間、フリーデの腕には巨大な斧が握られていた。
『あそこには過去に過ちを犯した私を諌めてくれた大切な友が眠っているのだ。死してその心を穢されるなど……赦せるわけがない』
「フリーデ。今、オフィスで依頼を請け負ったハンター達が霊廟に向かっている。できることなら力を貸してもらえないか。俺も……力不足だが霊廟周辺の警戒に当たるつもりだ」
 初々しい顔のハンターにフリーデが頷いた。
『ああ、力を尽くす。……お前は無理をするなよ、命はあってこそのものだからな』


●目覚め

『……ん、んんん』
 霊廟の最奥に祀られた八架の棺。それが小さなうめき声とともに骨の腕によって開かれていく。
『……そう。貴女達、生きていた頃に仲間の手にかかって……酷い話ね』
 亡霊型歪虚は棺の蓋をひとつひとつ開きながら、優しい声をかけていく。
『貴女は腕の筋肉を傷つけられて戦えなくなったの? ……ええ、でも今は大丈夫よ。アンデッドならばどんなに体を傷つけられても戦える。いつか本当の私のお友達になってくれたら……そうしたら生きていた頃の綺麗な身体を造りなおすのもいいかもしれないわね』
 そうくすくすと笑いながら、亡霊型歪虚は骨の女軍人達を抱きしめた。
 だが、彼女は足元で先ほどのこそ泥が無残な姿で転がっているのを視界に収めると不愉快そうに顔をゆがめた。
(あの子のお兄さんだったかしら……途中で力尽きていればいいけど、もしかしたら助けを求めに行ったかもしれないわね)
 歪虚は女軍人達を不安がらせないように起こすと『行きましょう、自由な世界へ』と告げ、満面の笑みを浮かべた。

リプレイ本文

●薄闇の中で

『先の事はすまなかった。お前が胸襟を開いてくれたというのに……』
 洞窟でハンター一行と合流したフリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)はその中にアウレール・V・ブラオラント(ka2531)の姿を見つけると、足の運びこそ止めねど顔を伏せた。
 かつてフリーデが起こした暴走事件においてアウレールは彼女の心の傷に真っ向から向き合ったものの、その真摯さに動揺したフリーデの刃によって身体を貫かれていたのだ。
 かつて刺された腹を擦り「どうということはない、過ぎたことだ」とアウレール。彼は小さく息を漏らすとこう続ける。
「フリーデリーケ、過去のない人間がいると思うか」
『過去のない、人間?』
「人は誰も『過去』の積み重ねの上に立っている。故に人がそこにある限り、過去は無かったことに出来ない。たとえ既に物言わぬ存在だとしてもだ。……死者の蘇生など、人の一生の否定でしかないと私は思うのだよ。なればこそ、今貴女がやるべきことはひとつではないのか?」
 彼は視線の先をフリーデから前方へ移した。ただ前を見よ、と。
 Gacrux(ka2726)は普段こそ気だるげにしている三白眼に真剣な光を宿らせ、フリーデの背を押すように続ける。
「生前の功績に泥を塗られる前に、今ここで止めましょう」
『ああ。必ず』
 盟友の言葉に力強く頷くフリーデ。その姿を熱を帯びた瞳で見る少女がいた。絶火の騎士を含む英霊という存在を今まで身近に感じることのなかった莉(ka7291)だ。
(英霊……見るのは初めて。ひとの信仰がつくりだした精霊と聞いたことがあるけれど、たしかに強いマテリアルを感じる。一緒に戦えるの、光栄っていうのかな。少し、嬉しい)
 莉は掌中の黒い拳銃を強く握ると「頑張らなくちゃ、ね」と他者に聞こえない程度に小さく呟いて自身を鼓舞した。
 一方、馬上にある濡羽 香墨(ka6760)は兜の奥で唇の端を堅く結んだ。
(……死者の蘇生なんて、許せるわけがない。ましてやフリーデの……やることはやる)
 手綱を握る手に力が籠る。そんな親友を追う形で駆ける澪(ka6002)は彼女の気負いに気づいたのだろう。愛らしい声のトーンを落とし、友の怒りを柔らかに宥めた。
「無理はしないで。頑張ろう」
「……うん」
 香墨が振り向きざまに頷いた。澪は安堵したように微笑んだが、暗闇が支配する前方を見据えるなり再び顔を引き締める。
 狭い洞窟内でありながら巧みに馬を乗りこなすボルディア・コンフラムス(ka0796)は、フリーデに視線を送りながら深紅の髪を手荒く掻き上げた。
(斧使いの精霊がいるってンで、一度会ってみたかったンだよ。こんな時でもなけりゃあ手合わせでもしたかったが……そうも言ってられねぇな)
 まあ、互いに生還すればいつか機会もあるだろう。そう前向きに考え直したボルディアはフリーデに敢えて溌溂と声をかける。
「フリーデ、死者を冒涜するクソ馬鹿にはさっさとご退場してもらうとしようぜ!」
『ああ。この地に眠る人々はいずれも帝国の民のために力を尽くした軍人だ。その力を悪行に利用されてたまるものか。……ん?』
 力強い声に意気高く応じるフリーデ。――だが、その足が急に止まった。
「どうされたのですか、フリーデリーケ様?」
 自転車を扱いでいたフィロ(ka6966)が小首を傾げ、フリーデの隣で地に足をつけた。フリーデの顔が前を見つめたまま明らかに強張っている……フィロはそれに感ずるものがあったのだろう。彼女もまた前方を見つめた。
 暗闇の中に佇む観音開きの鉄扉。ここが霊廟の入り口だ。そこを睨みながらフリーデが呻いた。
『歪虚の傍に8つの負のマテリアルを感じる。……まさか!』
 声こそ潜めているが、すぐさま大斧を構え扉に向けて駆け出すフリーデ。咄嗟にフィロが両腕を広げ、彼女の突撃をあわやというところで食い止めた。
『そこを退け! 友の亡骸を奪われた不覚、何としても雪がねばならん!』
「いいえ、なりません。時間は有限ですが無限でもあります。焦らず戦い、広い視野で戦局をお見通し下さい。突出したせいで貴方が討たれたら、私達も、いつか英霊になった時顔を合わせるお仲間様も哀しみます」
『英霊に、だと?』
「英霊になるのに身体が必要だとは私は思いません。お仲間様を取り戻したら手厚く祭祀を行いましょう。きっといつか、皆様がフリーデリーケ様と同じ存在になられると信じます」
『……わかった。そうだな……そうなれば、いい……』
 己の迂闊さに気づいたのだろう、フリーデが項垂れる。澪はその背が不思議なほど小さく哀しいものに思えた。あの猛牛のごとき気質の英霊がここまで弱るとは。
(安易に気持ちを判るとは言わないけれど、友人の墓を荒らされるのがとても辛いことはわかる。でもだからこそ)
 澪はフリーデの前に立つと、敢えて凛とした表情を作った。彼女は顔を上げたフリーデに大きく頷くと魔を断つ者としての志を示す。
「焦ってはいけない。こんな事をする相手にだけは、絶対に負けては駄目」
 澪の隣に立った香墨もそれを支持するように頷くと、ホーリーセイバーの力をフリーデの斧に宿らせた。禍々しささえ感じさせる破滅の光が静かにフリーデの顔を照らし出す。
『ありがとう……そうだな。友の魂を救えるのは我々だけだ』
こうしてフリーデの声に力が取り戻されたのを感じ取ったアウレールはそれまで点灯していた光源を消した。
「フリーデリーケ、貴女は仲間達の戦の作法を熟知しているのだろう? ならば前衛か中衛で雷の力を用いて疾影士らを封じてほしい。頼めるか?」
『了解した。今、私にできることは……友が過ちを犯す前に眠らせてやることなのだな』
 フリーデの苦い呟きにボルディアが険しい表情で「お前には正直しんどいだろうけど。でもな、やるしかねぇよ。ここで止めなきゃどんだけの被害が出るか……」と重く頷く。
 ――そう。ハンター達がこの時点で警戒を始めるほど、霊廟からあふれる負のマテリアルの匂いは濃密になっていたのだ。そこでアルマ・A・エインズワース(ka4901)が小さく挙手をする。
「皆さん、僕に考えがあります。まずは僕の後ろに立たないでくださいねえ。危ないですから」
 アルマが扉に向かいマテリアルを練り上げる。すると彼が携帯していた白の小盾が宙に浮いて主を守るように旋回を始めた。そして仲間たちが無言で扉の左右に控えたのを確認すると――彼はにこりと微笑み、その腕に水のマテリアルを収束し始めた。


●心なき屍たち

「よろしいですか、アルマ様」
 金剛の力を宿したフィロが扉に手をかけると、アルマが小さく頷いた。彼の腕には強烈な冷気が既に宿っている。
「では、参りましょう」
 フィロが扉を一気に引くと、そのまま光源である灯火の水晶玉を輝かせながら全力で自転車を走らせ――アルマの射線上に収まらぬよう僅かに右へタイヤを滑らせた。続けて敵を引き付けるべく、叫ぶ。
「我が身は未だ若輩ゆえ、先達の胸をお借りします。……フリーデリーケ様のお仲間様、共にこの地の守護者になりましょう!」
 同時にアルマが霊廟内を優れた視覚で見通すと、陽炎のようにゆらめく顔の亡霊と重装備のスケルトンがこちらに俊敏な動きで接近する様が視認できた。その後方にロッドや杖を携えたスケルトンが左右に別れて追従する。
(範囲内にいるのは歪虚と、装備から判断するに闘狩人や疾影士でしょうか。まあ、やることをやるだけです!)
 そう考えたアルマは明るい声音で「おはようございます! それとおやすみなさいです!」と叫んだ。
 ――ビキビキビキィイイイイッ!!
 無数の氷柱が暗闇を引き裂くように一直線に現れ出る。そして敵の体を無慈悲に砕くと思われた氷だが――しかし!
 盾を構えた大柄のスケルトンが突如大股で突出したと思いきや、氷柱を成すマテリアルを巧みに受け流し……なんとその氷の力をアルマに向けて跳ね返した!
(カウンターバーストですか、少し悔しいですけど想定のうちですっ!)
 アルマの周囲を旋回していた盾がすぐさま氷柱の猛攻を受け止める。そのうちのいくつかはアルマの白肌を傷つけたが彼の心を折るには力が足りなかったようだ。
 一方、大柄のスケルトンはカウンターの反動だろうか、腕に大きなヒビが入ると怯むように一瞬膝を落とした。そこに馬に乗ったボルディアが果敢に飛び込んでいく。
「手前の身を挺して仲間を守ろうという気概は悪かねぇ。でも何百年も放置された骨で、俺の斧が受けとめられンのかぁ!?」
 豪快に笑いながら彼女が発動したものはソウルトーチ。後方に控える仲間たちの攻撃を一身に集めながら敵を駆逐しようという、強い意志のもとにある業だ。
 そこに早速惹きつけられる者があった。剣を持ったスケルトンが物陰から気配を隠しつつも、驚くほどの俊足でボルディアに接近するなり剣を二度振りぬいたのだ。赤褐色の逞しい肩から十字の形で血が流れだす。
(気配を消す能力……こいつは疾影士か、面倒くせえ!)
 続いてナイフを持った小柄なスケルトンが飛び出すやいなやボルディアの脇腹を浅く裂き――次に構えるフィロのもとまで一気に駆け抜けると身を低くしフィロの脚にナイフを突き刺した。
「くっ!」
 思わずよろめくフィロ。しかしスケルトンはそこに容赦なく再度ナイフを振り下ろした。フィロはそれを辛うじてマテリアルの障壁で受けたため腕に小さな傷を負う程度で済んだが――なんと不可思議なことにボルディアの脇腹にも再度傷が刻み込まれたのだ。
「あっちはアサルトディスタンスにアフターバーナー、しかもランアウトまで使いこなすのかよ!」
 自分のもとを容易く通り過ぎたスケルトンを見やったボルディアが思わず舌を打つ。
 そこに殺気が向けられた。陽炎の向こうにあるが如き美女――亡霊歪虚の大太刀がボルディアに向けて上段から振るわれたのだ。
「……っ!」
 もっとも、大振りな一撃は威力こそあれど軌道を読みやすい。ボルディアは咄嗟に手綱を引いてその攻撃を躱した。
「っ! いつまでもこっちが大人しくやられてくれると思ってンじゃねえぞ!!」
『貴女、いいわ。その溢れる生命力、たまらない。潰したくてゾクゾクするわ』
「はッ、残念だな。俺ァ、お前みたいな外道は大っ嫌いなんだよ!」
 ボルディアは歪虚を睨みつけながらも腕を負傷している闘狩人スケルトンを視界の隅にしかと収める。まずは、こいつだ。自分のやるべきことは見誤らない――彼女は炎のごとき闘志の裏に冷静な思考を秘めていた。
 その傍らで。
(ボルディア、無理はしてくれるなよ)
 戦友へ心の中で願いをかけ、アウレールが愛馬を左へ走らせる。彼の狙いも闘狩人であり、ボルディアが敵を引き付けている間にフィロと連携し敵の横っ面を叩こうという算段だ。
 既に彼の握る剣――かつて皇帝ヴィルヘルミナより下賜された金色の剣・ノートゥングには救済のための祈りが宿されている。次いで自身の生体マテリアルをその刃に伝達すれば、それは亡霊すらも断ち切る斬魔の剣と化した。
「塵は塵に!」
 まず腕を庇う闘狩人スケルトンに向けて彼が鋭い切っ先を馬上から突き出す。しかしその瞬間、奇妙な感覚が発生した。空間が曲がり、真っすぐに駆けていたはずの馬首が右に、曲がる。そして気が付いた時には。もう一体の無傷の闘狩人スケルトンの盾を砕いていた。
(ガウスジェイルだと? 厄介な!)
 アウレールが端正な顔を僅かに顰める。しかしスケルトンらの装備品には力を込めた一撃で砕ける程度の強度しかない事実が証明できたことは大いに意義があった。何せ、アウレールの一撃を受けたスケルトンの左腕は盾ごと粉砕され使い物にならなくなっていたのだから。
 すると死なばもろともとばかりに、そのスケルトンが全身の負のマテリアルを右腕の剣に集め、闇色の刃をつくり――アウレールの甲冑に覆われた脚を深く斬り裂いた。スケルトンの全身はその代償だろう、全身に細かいヒビが奔り、少しでも力を込めて触れるだけで今にも砕け散りそうだ。
 そこを見逃さないのがGacruxだった。
(限界まで力を注いだブラッドバーストですか、しかし今が好機!)
 彼は馬を疾走させるやいなや、緑色に輝く穂先の槍を静かに構えた。
「俺も帝国人です。国の礎を築いた先人達の手向けに、お相手致しましょう」
 声に宿るは先人への敬意と鎮魂の願い――彼の死者を葬る力と敵を威圧する強烈な意思を備えた刃は満身創痍のスケルトンを容易く砕き、その身を雪のように舞い散らせた。


●愉悦と怒り

『あらぁ、其処の絶火の騎士さーん。貴女のお友達をハンターが次々と傷つけているわよ? せっかくこの世に戻って来られたのに可哀そうよねえ』
 スケルトンの最期を見届けた亡霊がフリーデに歪んだ笑みを向けた。しかしその挑発は今のフリーデには通用しない。
『この世に戻って来られただと? 友は臣民の剣や盾となるべく生涯を捧げた身。己が志と関わらず貴様の手駒に無理矢理加えられただけだっ!』
 フリーデは前に大きく踏み出すと雷の力を込めた大斧でナイフ使いのスケルトンの肩を砕いた。敵陣を駆け抜けるために極限まで軽く整えた装備は防御に何の役にも立たない。たちまち地に腰を落とし、全身を大きく震わせる。
 そこに生き残りの闘狩人スケルトンが報復とばかりに衝撃波をフリーデに放った。脇腹を抉られ呻くフリーデ。続いて暗闇の中から矢が放たれ、複雑な軌道を描きながら彼女の太腿を二度貫く。しかしフリーデは闘志を失うことなく、黙して再び斧を構えた。だが……その一連の流れに、アルマの中で何かが弾けてしまったようだ。
「……殺ス」
 それまでどこか戦いを楽しんでいたような笑顔が氷のように透徹になり、頭の中に冷酷な破壊のロジックが組まれていく。
 その静かな声に空恐ろしさを感じつつも、澪は聖導士スケルトンの姿を目で追った。本来なら後衛に控えているはずのそれは突出しすぎた疾影士スケルトンを救護したいのか、思いのほか前に歩み出ていた。そこで澪は刀を鞘に納めたまま、体を震わせる疾影士スケルトンへ接近した。
(この俊足のスケルトンを放っておいたらきっと香墨と後衛の仲間を傷つける。それだけは赦さない)
 まずは目にも止まらぬ早業で抜刀するとナイフを握る腕と首を二度の斬撃で見事に断ち落とした。そして今度は素早いステップで聖導士スケルトンに接近し、刃を向ける。
「あなた達の業、感嘆に値する。だから……私の全力をもって、応じる」
 澪の闘志に聖導士スケルトンの動きが僅かにたじろいだが、そこは心なき躯ゆえか。すぐさま再び前進し、ロッドを天に向かって突き上げた。そこから放たれたものは大いなる暗闇――負のマテリアルの塊が闘狩人スケルトンの腕のヒビを瞬時に癒していく。
 続いて闇から姿を現した魔術師スケルトンが漆黒の氷の矢をボルディアに向けて放った。
「ぐっ!」
 頭を庇うべくかざした手の甲を矢が掠め、ボルディアの指先が黒色に染まり凍えていく。――しかし彼女はその様さえも笑い飛ばした。
(痛え、痛えが……これはそンだけ俺が仲間を守れているって証なンだ。絶対に誰も死なせねえぞ!)


●激化と末路

 苛烈さを増す戦場において聖導士は通常ならば後衛に位置し、傷ついた仲間の治療と復帰を促すという大きな役割を担う。
 しかし香墨はその聖導士でありながら馬の腹を軽く蹴り、颯爽と前に進み出た。
「香墨っ!?」
 澪の案ずる声に香墨は「大丈夫」と兜の奥の顔を少しだけ和らげると、少女ならではの澄んだ声で歌を紡ぎ始める。
「……もう死んでるなら。そのまま寝てて。操り人形は、ゆるされないの……しんじゃえ」
 魂の安寧を祈る優しい歌が、歪められた死者を暗闇へ引き摺り落とす呪詛の詩となり響き渡る。その力は彼女が嵌めている旧き指輪により一層強まり――聖導士ならびに魔術師、そして疾影士スケルトン2体の身体を硬直させた。
 そこに崩れた壁の陰に隠れていた莉が魔術師スケルトンへ雷の力が宿った弾丸を込めた銃を向けた。強弾とエイミングで十分に狙いをつけた一撃を、祈るような気持ちとともにトリガーを引く。
「……味方の邪魔は、させない!」
 しかし戦闘経験の浅い莉の一撃はどうやら敵に見透かされていたようだ。鈍くなっているはずの身体がぐらりと揺れ、雷気を躱す。莉は下唇を噛みしめると、それならば――と次の策に打って出ることにした。
 一方、傷の塞がった闘狩人スケルトンにフィロとアウレールは即興ながらも苛烈な連携で再度深い傷を負わせていた。
「はああっ!」
 鎧通しの力が加わったフィロのブローが闘狩人の背骨を圧し折り、アウレールの威圧を帯びた魔法剣が肩先から腰までを一気に断裂させたのだ。
「あ、ああ……ああああ」
辛うじて残った片腕でアウレールの脚を掴み、何か言いたげに顎をがくがくと動かすスケルトン。その哀れな様にアウレールは眉尻を僅かに下げると――剣をその頭にまっすぐに叩き落とした。
「……貴女の守護の業はかつて多くの帝国民を救ったのだろうな。どうか今こそその御魂が救われんことを」
 灰となり宙に舞ったそれに彼は手早く祈りを捧げる。そして次の標的――亡霊に向けてフィロとアウレールは駆けだした。
 一方、アルマは闘狩人スケルトンの最期を見届けると、今度はフリーデを撃った猟撃士スケルトンを殲滅するべく目を凝らした。
 霊廟の奥に点在する崩落した壁や天井などの障害物……それらの間を2体のスケルトンが慎重にこちらを観察しながら行きかう姿が見える。どちらがフリーデを傷つけたのか? それは些細なことでしかない。そのどちらもが倒すべき敵なのだから。
「ふふっ、嫌なのは全部どっかんです……!」
 アイシクルコフィンで両者を巻き込むには全速力で奥に跳び込まなければなるまい。しかしこれならば、と彼は妖艶な笑みを浮かべるなり指先で三角のラインを紡いだ。
「光でじゅっと、逝っちゃってくださいねぇ!」
 ははっと笑いながら放ったデルタレイは驚くほど正確に猟撃士スケルトンらを撃ちぬいた。――もとより先のアイシクルコフィンで強力無比な魔力を見せつけたアルマである。光によって胸や頭を焼け落としたスケルトンらは恐れるように身を潜めた。
 アルマが猟撃士スケルトンらを圧倒している頃、ボルディアは疾影士と魔術師と亡霊を同時に相手取るという厳しい戦いを強いられていた。もちろんそれは彼女の望むところ。
(攻撃自体は受け止められても衝撃が無くなるワケじゃねぇ。脚を踏ん張り、斧の重量と回転力を活かしゃチャンスを逃すことはねぇんだよ……っ)
 傷が増えるに連れて不屈の心が流れる血に激しく燃ゆる炎のごとき生命力を与えていく――その力は時間が経過する度に身体を着実に癒していった。
「所詮お前らじゃ俺ン中の炎を消すのは無理なンだよ。喰らいな、砕火ッ!!」
 叫びとともに轟音を立てて牙のごとく立ち上る炎。それが上下から疾影士スケルトンを容易く呑み込む。ふたつの炎に隠されたものはひどく重厚な戦斧だ。炎と黒い鋼の重みに骨が呆気なく粉砕されていく――そう。ソウルトーチで意識を惹きつけられ、気配を隠す業を意識の外に追いやられた疾影士スケルトンはボルディアに叶うはずもなかったのだ。
『貴女最高よ! 潰したい、潰したい、いやもう潰すううぅううッ!!』
 亡霊はボルディアの生命力と戦闘能力に憎しみを超えて感激すら覚えたのだろう。満面の笑みで大太刀でボルディアの胸元を斬り裂くなり、返す刃に炎と風のオーラを纏わせた。
「……ぐっ!」
 痛みを堪えつつ手綱を引くボルディア。ややもすればその鍛え抜かれた体が斬り裂かれんといったところで――。
「間に合ったか」
 亡霊と雌雄を決するべく前進していたアウレールがガウスジェイルを発動させ、亡霊の刃を受け止めた。その腕からは血がとめどなく滴り落ちるが、彼は亡霊に向けて剣を正眼に構えた。
 睨みあうふたつの存在――そこに割り入る者がある。自転車を全速力で走らせ、それを踏み台にする勢いで飛び込んできたフィロだ。
「戦に惚けて私どもの存在を失念されるとは、なんて迂闊な御方っ!」
 拳の先から構成されたマテリアルの刃が鎧通しの力を宿し、亡霊の甲冑に向けて振り落とされる。しかし敵もさるもの。大太刀を斜に構え、その拳を受けようとした。だが、それこそがフィロの狙い。拳にソードブレイカーの力が瞬時に宿り、大太刀の切れ味をたちまち鈍ら同然に変えてしまう。
『何っ!?』
「もはや貴方様に業を使う事は叶いません。どうか早急に剣を棄て、死者として正道を歩まれんことを」
 軽やかに着地した途端メイドらしい慇懃な態度で胸に手を当て一礼するフィロ。そこに追い打ちをかけるようにGacruxがソウルエッジの付与された槍で歪虚の胸当てを斬り裂くと――その内側に鼓動する禍々しい闇色の「核」が露わになった。彼は歪虚に憐れむように、それでいて嘲笑うように息を漏らす。
「歪虚は所詮、歪められた存在。影に捻じ曲げられた言葉など、何も響きはしませんよ」
 その言葉に歪虚が初めて感情を爆発させた。
『ふざけるんじゃないわよ。……あなた達、私に助けられた恩を忘れたの!? 命令よ、すぐにハンターどもをぶち殺しなさいっ!!』
 荒げた声にスケルトン達がすぐさま反応する。まずは今まで後方からひたすら射撃による支援を繰り広げてきた猟撃士スケルトンが姿を現し、矢筒から矢を全て番えた。
(危ないっ! 皆を守らないと……!)
 莉が咄嗟に銃で威嚇を行ったが、それでも猟撃士の脚は止まらず。むしろその弾道により彼女の隠れ場所が敵に悟られてしまった。もう一体の猟撃士スケルトンがここぞとばかりにハウンドバレットを放つ。
 香墨が辛うじてそれを盾で耐えるも、初弾ばかりは間に合わなかったようだ。莉の薄い胸から血が噴き出す。
「……勝手に死なないで。こまる……!」
 すぐさまアンチボディによる応急処置で止血に成功するも動かぬ莉を死なせるものかと、香墨は一旦後方へ下がるべく馬首を返した。
 そこに先ほどの矢を目いっぱいに番えたスケルトンがその先端を香墨達に向ける。そして同時に魔術師スケルトンが杖に負のマテリアルを集める様も――澪とフリーデは見とがめていた。
(莉にとどめを刺し、香墨の心を折るつもり!? そんなの、絶対に赦さない!!)
 ふたりは頷きあうと丁度その2体がほど近い場所にいることを察し、まずは澪が刀を抜いた。彼女の選んだ業は――次元斬。命中率こそ低いが、当たれば十分な威力がある。少なくとも敵の攻撃の手を止めるきっかけにはなるかもしれない。
「傷つけさせない……香墨も皆も私が守る……!」
 斬ッ!!
 空間が抉られるように刃が奔る。もとよりアルマの猛撃により脆くなっていた猟撃士スケルトンの上半身がバラバラになった。しかし魔術師スケルトンの呪詛は止まらず、その矛先がふたりに向かう。
「あああッ!!?」
 強烈な重力が澪とフリーデに圧し掛かり、四肢を地に圧しつける。そこに聖導士スケルトンが嘲笑うようにロッドを突き出し、澪に闇の力を向けたが――傍にいたフリーデが身体を軋ませながら大きな背で彼女を守った。
「ぐうっ!」
「澪っ、フリーデ!!」
 香墨が悲鳴を上げる。だが次の瞬間再び氷の刃が地から次々と飛び出し、聖導士と猟撃士スケルトンの身体を粉々に粉砕した。
 それと時同じくして、魔術師スケルトンを砕く者がいた。ボルディアが砕火でその骨を残さず焼き切ったのだ。
「余所見はいけねえな……こんなイイ女をほっとくなんざ、女の扱いがなっちゃいねぇ」
「フリーデお姉さんを傷つける者は僕が赦しません……悪い子は絶対零度の闇の中で永遠に漂ってくださいねえ?」
 ボルディアの声は覇気に溢れ。アルマの声音はとても優しいはずなのに、ひどく冷たく暗い響きを宿していた。そのふたつの声に歪虚が恐怖する。
『嘘よ、こんなの信じないわ。過去の英雄を味方につけたのに、それが全滅するどころか私の力まで封じられるなんて……』
 よろりと脚をふらつかせる歪虚。その胸の核に深く祈りの剣を突き刺す者がいた――アウレールだ。
「灰は灰に、塵は塵に。貴公は闇に還り、力得ることなく永久に彷徨うのだ。いいな?」
 魔を断つ力が核を正確に砕き、亡霊の甲冑がぼろぼろと灰となる。それにあわせて陽炎の如き顔も白けて実体を得たと思いきや――薄い硝子のように儚くひび割れ、崩れ落ちた。


●訪れた安らぎ

 静けさを取り戻した霊廟。
「わふ! ここ、もっかい綺麗にするです。みんなでするです!」
 こんなアルマの提案から始まりフィロ達の尽力もあって十分な清掃と死者の埋葬が行われ、香墨の懸命な治療により澪と莉が一命を取り留めて自力で歩けるほどにまで回復し、激戦の痕跡が消えたにも関わらず――フリーデが最初に漏らしたものは涙声の謝罪だった。
『すまない、すまない……私がもっと先に来ていたらこんなことには……』
 その実、スケルトン達がその遺骸をのこすことは叶わなかった。棺の中には襤褸切れ同然の装束と武器の破片しか存在しない。フリーデは何度も拳を床に叩きつけた。自分への怒り、友を守れなかった無念、それらをどう胸に収めれば良いのかわからない。だがその腕を掴み、止める者がいた。
「やめろ」
『アウレール……?』
「罪も罰も亡き友も、その全てが今を形作る。彼女らを大事に想えばこそ、己を大事にしろ」
『……』
 その言葉に土に塗れた手が止まった。戸惑いを交えた瞳がアウレールの顔を見つめ、次の言葉を待つ。
「貴女は友を救うために全力を尽くし、現在の友も守り抜いた。これは十分すぎる戦果だ。……言っただろう、私はそんな貴女を赦すと。誰かの未来、串刺し程度で開けるなら安いものだ」
 最後のフレーズにはちょっとした皮肉――に見せかけた茶目っ気が含まれていて。フリーデは泣き出しそうな瞳のまま「ありがとう」と破顔した。アウレールは「それでいい」と応えると、墓に深紅の花束を供える。旧時代の帝国軍人には誇り高き赤がよく似合う。
 ボルディアは東方から取り寄せた銘酒「詩天盛」を惜しげもなく開けると、祭壇に並べられた小さなゴブレットにそれを注いで墓に静かに供えた。
「東方の酒は飲んだことねぇだろう。気に入ってくれるといいけどな」
 一方、アルマはそんなフリーデを見て安堵したのか満面の笑顔で彼女に抱き着いた。
「フリーデさーんっ! わぅ、わふー。いいこいいこ、ですー」
 歌うように言葉を紡ぎながらフリーデの無造作な髪をくしゃくしゃと撫でるアルマ。その無邪気さには先の冷酷さなど一片も感じさせない。
『な、何をするのだ!?』
 顔を真っ赤にして彼を引き離そうとするフリーデ。しかしアルマは負けじと彼女の腕にしがみついて首を愛らしく傾げる。
「わふ? いい事したり、がんばったら褒めて貰わないとだめですよー」
『いい事、とは?』
 困ったように眉を下げるフリーデにアルマはにこ、と微笑んで両手を広げた。
「たくさんがんばったです! お友達が『間違った』ので、止めてあげたです! それってすごく大事なことですー」
「そうか……それも友を大切にする、ということなのだな。昔無理を通した私を友が命懸けで諫めてくれたように……」
 フリーデが噛みしめるように呟く。その姿をGacruxは見つめながら――胸ポケットに納めているある女性のポートフォリオに手を当てた。
(大切な者が穢されたなら、俺ならどうしようか……)
 フリーデのように怒り狂うのか、それとも悲しみで胸が張り裂けるのか……それは今のところはわからない。
 ただ、一度死んだ身というフリーデに彼は静かにこう問うた。
「フリーデ、消滅した歪虚の魂は何処へ向かうのでしょう。元の魂は、星に還って往くのでしょうか」
 その問いにフリーデは一旦瞼を落とした後、真摯なまなざしでこう答えた。
『私には……わからない。私はフリーデリーケ・カレンベルクの記憶と姿を継承しているが、これは歴史書と民間の信仰によって構成されたものに過ぎない。本来の彼女の魂がどうなったのかさえ知らない私が歪虚の行く先など、わかるはずもない』
「そうですか……いえ、聞いてみただけですよ」
 本当はわかりきっていたことだと、Gacruxが薄く笑って小さく肩を竦めた。だがフリーデは彼に続けた言葉は思いのほか、優しい響きがあった。
『ただ……フィロが言っていたように、その存在を大切に想う誰かがい続けるなら……その存在を正しいと信じる誰かが増えてくれたなら……いつか英霊となって帰還することもあろう。罪人の私が英霊となったように』
 その言葉に三白眼をきょとんとさせたGacrux。そうだ、可能性は全くのゼロじゃない。想いがあるかぎり、愛するものや敬うものを信じるかぎりは――。彼はようやく嫌みのない笑顔を浮かべた。
「フリーデ、良かったら朝まで話をしませんか。俺で良ければですが」
『そうだな、互いに心の内を明かすのも悪くないだろう。どの道、この街の役場には祭祀を行うよう交渉するためしばらく滞在するつもりだったしな……』
 もっとも祭祀の再興には一旦崩壊している霊廟の整備が必要となるため、全くの無条件で行ってもらえるとは思えない。そのためには帝国の軍事作戦に力を貸すことで、資金や資材の支援を行うつもりだとフリーデは強い意志をもって語った。覚悟を決めた彼女にアルマが微笑む。
「僕、フリーデお姉さんだいすきです! お姉さんが大事なもの、僕も大事、するですー!」
 そんな彼に『お前は強いのか可愛いのか、よくわからない奴だな』とフリーデは笑うと……『皆、ありがとう』と目を優しく細めた。

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  • ボルディアせんせー
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  • フリーデリーケの旦那様
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重体一覧

  • 比翼連理―瞳―
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  • 寡黙なる狙撃手
    ka7291

参加者一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • 寡黙なる狙撃手
    莉(ka7291
    人間(蒼)|13才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
アウレール・V・ブラオラント(ka2531
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/09/05 16:17:59
アイコン 相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2018/09/06 02:57:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/01 23:10:54