• 空蒼

【空蒼】アポカリプス・カデンツァ

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/09/14 22:00
完成日
2018/10/04 11:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●次の任務
「ええ!? クリュティエが出るのに俺お休みなんですか!?」
「まあまあ。テセウスは前回出たでしょ。今回は妹に譲ってあげてよ」
「……妹?」
「そう。僕が作ったものはまあ色々あるけど、観測を元に作った歪虚の1号が君でしょ。で、クリュティエが2号だから、便宜上君の妹ってワケ」
 キョトンとする赤毛の青年。
 創造主の言葉に納得したのか、ぽんと手を打つ。
「そっかー。妹かー。じゃあ仲良くしないとダメですね」
「そうだね。ついでに、他の黙示騎士達とも仲良くなっておいてくれると助かるな」
「え? シュレティンガー様の同僚さん達とですか? どうしてです?」
「万が一の備えだよ。今後、戦いが激しくなる一方だし、黙示騎士の誰かが欠けることも考えられるでしょ。そうなった時に、テセウスに黙示騎士になって貰いたいんだ」
「……俺が? 黙示騎士……?」
「そうだよ」
「え。それマジですか?」
「うん。大マジ」
「えええええ!?」
「何を驚いてるの? 僕が作った子だもん。進路としては妥当でしょ? それとも嫌だった?」
「いえ、ご指名は嬉しいんです! でもマクスウェルさんは笑ってばっかりいるし、イグノラビムスさんは寝てばっかりだし、ラプラスさんの話は難しくて良く分かんないし……仲良くなれるのかなーってちょっと心配で」
「あはは。大丈夫だよ。皆変わってるけど悪い子達じゃないし。テセウスもちょっと歪虚としては変わってるしきっと気が合うよ」
 青みがかった銀髪を揺らして笑う少年。自分より背の高い赤毛の歪虚の顔を覗き込む。
「いいかい? テセウス。もう一度言うから覚えておいて。黙示騎士の誰か1人が倒れたその時は、君が代わりにその座に就いて……黙示騎士として邪神ファナティックブラッドを守り、神の意思を遂行するんだよ」
「……はい。分かりました」
「うん。テセウスは素直ないい子だね。じゃあ、今回の君の任務。……『世界』を見ておいで」
「『世界』? それってどこでもいいんですか?」
「うん。テセウスが見たいと思ったところでいいよ」
「それが黙示騎士の修行になるんですか……?」
「もちろん! 何を見たのか、何を感じたのか……帰って来たら僕に報告してね」

●アポカリプス・カデンツァ
 SC-H01改めテセウスは、リアルブルーにある横浜みなとみらいにやって来ていた。
 シュレティンガーに『世界をみておいで』と言われて、どうせなら人が多くて楽しそうなところがいいと思ったから。
 ここからなら、シュレティンガー達が乗っているニダヴェリールに駆け付けられないこともない距離だ、というのも大きな理由の一つだった。
 ショッピングモール、公園や博物館には色々な人が沢山いて、見ているのはとても楽しかった。
 お店で売っているアイスクリームという食べ物(シュレティンガーから小遣いをもらって買った)も甘くておいしいということを知った。
 ヒトは沢山いる。沢山いすぎて正直邪魔くさいしさっさと滅びて欲しいとも思うけど。
 彼らが作ってきたものは、無駄が多いけれどキレイだし、楽しい。
 ――これもどうせ、自分達の神に喰われてもうすぐ消えてしまうのだろうけれど。
 ……いや。あれは消えるとは言わない。神の中で永遠に在り続けるのだとシュレティンガーは言っていた。
 創造主の言っていることは良く分からなかったけれど。それはそれでいいんじゃない?
 ……なーんて思っていたら、上空から変なものが飛来した。
 真っ白い無機質な身体。ロボットみたいな羽に頭には輪っかがついている。
 テセウスがそれの正体について考える暇もなく、彼目掛けて問答無用で光線をぶっ放して来た。
「うわっ。何だよ! アイス食べてる途中なのに!!」
 食べかけのアイスを地面に叩き落されて、白い物体を睨み付けるテセウス。

 ……そういえばシュレティンガー様、リアルブルーに行くなら使徒に気をつけろとか言ってたような。
 こいつがそうなのかな……?

「俺に喧嘩売る気? ……いいけど、俺、強いよ?」
 ニヤリと笑う赤毛の青年。
 ――観光の予定が変更になりそうだけど。まーいっかー。
 使徒から再び放たれる光線。
 咄嗟に避けるテセウス。
 それは彼の後ろにあった街路樹とベンチを焼いて――
 上空に集まって来る白い人型。無差別に始まる攻撃に、あちこちから悲鳴が上がり……みなとみらいにじわじわと混乱が広がりつつあった。


「……何だこれは。何でテセウスがこんなところにいるんだ?」
「レギ君どこかな……?」
「……早く救助に向かわないとマズいね」
 目の前に広がる光景に、眉間に皺を寄せるハンター達。
 東京湾沖に出現したニダヴェリール。
 その対応に当たるラズモネ・シャングリラを支援する為、援軍を率いる役目を負っていたレギ。
 みなとみらいから江東区を目指していた彼から『使徒の襲撃を受けた』という救援信号を受け、駆け付けたのだが……。
 来てみると近代的な街は混乱の最中で肝心のレギはどこにいるか分からず、テセウスと使徒が派手に交戦している状況だった。
 レギはこれまで暴走した事実が認められない為、軍の一員として活動することを許可されており、今回の作戦にも組み込まれていたのだが……まさか進路上に使徒がいるとは思わなかった。
 使徒は負のマテリアルを発しているものを狙う。レギもきっとどこかで追い回されているに違いない。
「急いでレギ君探そう」
「はい。私は一般民の避難誘導に当たりますね」
「頼む。俺はちょっとあの使徒追っ払ってくるわ」
 頷き合うハンター達。
 混乱するみなとみらいの街。使徒の攻撃を掻い潜りながら、ハンター達は駆け出した。

リプレイ本文

 みなとみらいの街は、混乱の坩堝にあった。
 逃げ惑う人々。あちこちから響く悲鳴と怒声。
 空を覆うように飛来する使徒を見て、ゾファル・G・初火(ka4407)はあんぐりと口を開ける。
「いやいや。ちょっとおかしいじゃン? お祭りだって聞いてたのになんだって戦争になってるんじゃン?!」
 ぼやくゾファル。
 今月は色々買いこんだ為、懐が苦しかった彼女。お祭りのアルバイトとしてCAMのデモンストレーターをやってくれと依頼され、この街にやって来ていたのだが……使徒が来るなんて聞いてない!!
 その光景を、カイン・A・A・マッコール(ka5336)もまた苛立たしげに見上げていた。
「せっかくゲィシャの生豆仕入れて来たのに、こんなところで暴れやがって……市街地のど真ん中じゃねえか」
「あ? 芸者がなんじゃン?」
「芸者じゃねえよ。ゲィシャ! コーヒー豆だよ! 高級品なんだぞ!?」
「コーヒー、良いですね。でもまずは、この状況を何とかしませんと。市街地の中での戦闘は気乗りしないのですが……場を納めましょう」
 こほんと咳ばらいをするセツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)にハッとするゾファルとカイン。
 そうだ。早いとここいつらに御退去戴かないと、お祭りもお買い物も台無しだ……!
「よし! ガルちゃん、あいつら狙い撃ちするじゃん……ってうわあああ。人いっぱいいるじゃンー!?」
「行け、レドリックス! 使徒引っ張ってこい! くれぐれも一般人には攻撃当てるなよ!」
 即座に愛機を起動して動き出すゾファル。カインのオートソルジャーが主の命を受けて動き出す。
「御免なさい、雹。一緒に観光という形ならよかったのですけどね……」
 真っ白いイェジドの毛並みを撫でるセツナ。雹は彼女に頭を擦り付けると、セツナを乗せ、風のように走り出す。
 そうしている間も続く使徒の攻撃。
 ショッピングモールの近くにあったベンチは拉げて――今また街路樹が倒れた。
 そして、道路に乗り捨てられた自動車が弾き飛ばされて嫌な音を立てる。
 刻一刻と広がっていく被害。ボルディア・コンフラムス(ka0796)は、ビキビキと青筋を立てて大きく息を吸い込んだ。
「……あンなぁ、テメェ等!! ケンカすンなら人のいねぇとこでやりゃあがれぇえぇ!!!」
「本当に全く持って同感だよね……。あっ。ボルディア君、気持ちは分かるけどそれ蹴り返すのやめて」
「うっせ! 俺が敵を引き付けるから真はとっとと一般人逃がせ!」
「はいよ」
 吹き飛んできたガードレールを蹴り返したボルディア。深い蒼色の毛並みのイェジドと共に駆け付けた鞍馬 真(ka5819)はそれを器用に避けると、荘厳な機械仕掛けの杖を構えて結界を展開する。
 真の所持する星神器「カ・ディンギル」はこういった混戦には強い。
 範囲は自分が中心にはなるが……それでも、一度に沢山の対象を守ることが出来る。
「レグルス! 怪我人や動けない人を重点的に探して避難させてくれ。使徒には攻撃するなよ?」
 真の叫び。
 仲間達が使徒と一般人を切り離す行動に出る中、穂積 智里(ka6819)はみなとみらいの地図を凝視していた。
「効率的な避難を考えると……地下道に誘導したら、一時的に使徒から一般の方を保護できませんかね」
「地下はやめておいた方がよろしいかと思います。今は地下鉄も止まっておりますし……出口が限られる為、一か所に人が殺到しパニックになる可能性があります」
「あ……。そうですよね」
「はい。使徒は幸い一般の方は狙いません。戦闘区域から離れるように誘導すれば二次被害も防げるかと思います」
 フィロ(ka6966)の言葉に頷く智里。蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)はパチリと音を立てて扇を閉じると、地図上の海を指し示す。
「ふむ。ではそれで決まりじゃな。使徒はこちら……海側から来よるようじゃ」
「神楽さんが港から人払いをするように申し入れています。そこに使徒を集めるようにすれば宜しいかと」
 関係各所への連絡で忙しくしている神楽(ka2032)に代わり、説明するエルバッハ・リオン(ka2434)。アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は考えるように首を傾げる。
「なるホド。ジャア、一般の人は海から離れるように誘導すればイイネ。ええと……一時避難に向いている場所はコウエン、だっケ?」
「はい。みなとみらい広域にはいくつか広い公園がありますので、そこを目指せばいいと思います」
「OK。公園だね」
「うん。分かったよ」
 仲間達に地図を見せて公園をの場所を示す智里に、頷く時音 ざくろ(ka1250)とイスフェリア(ka2088)。それを頭に叩き込んだアシェ−ル(ka2983)は、桜色のR7エクスシアを起動する。
「仔細了解しました! アシェール、いきまーす!!」
 逃げ惑う人々と使徒の間に割って入るR7エクスシア-DM。
 放たれた砲撃を受け止めて、身体が傾ぐ。
「アシェール、大丈夫!?」
「損傷軽微! 問題ありません!」
 心配そうなざくろに答えるアシェール。そのまま使徒を睨み付ける。
 ――街は大切だ。……家が壊れたら、泣くだけじゃ済まない。
 元引きこもりとしては割とガチで死活問題だ。
 だから、これ以上は壊させない――!
 次の瞬間、背部から膨大なマテリアルを放出する桜色のR7エクスシア。使徒の視界を塞ぐように、光の翼を広げる。
「ここは私が引き受けます! 皆さんは一般の方を避難させてください!」
「了解! 無理はしないでね! X桜姫! 避難誘導の手伝いお願い!」
 ざくろの命に従い、動き出すオートソルジャー。その巨体を生かし、使徒の壁になるように立ちはだかる。
 そしてアルヴィンは、逃げ惑う人々に近づくとにこやかな笑みを浮かべて、芝居がかった動きで一礼した。。
「やァ。皆さん、ごきげんよう」
 アルヴィンの育ちの良さを感じさせる優雅な一礼。
 その動きは美しく、目を引いて……非日常の中に突然現れた優美な日常に、人々が虚を突かれたように動きを止める。
「僕達は怪しい者ではないヨ。依頼を受けて君たちを助けに来たンダ。落ち着いて話を聞いて貰えるカナ?」
「ざくろ達が来たからもう大丈夫。皆はざくろ達が護るから。今誘導するからついてきてね」
「…………」
「……? ……顔赤いけど大丈夫?」
「……あ、ハイ」
「具合悪いのカイ? 僕のグリフォンに乗るカナ?」
 ざくろとアルヴィンの対応に、頬を染める女性たち。
 2人共揃いも揃って甘いマスク。リアルブルーにいる俳優に勝るとも劣らないイケメンだ。しかもそれが救世主ともなれば、女性陣がぼーっとしてしまうのも頷ける。
「アルヴィンさんもざくろさんも罪深いですね……」
「別な方向にパニックになる前に誘導しないとね」
 ぼそりと呟くエルバッハに苦笑するイスフェリア。
 彼女は箒の上から魔導マイクを手にすると、おもむろに口を開く。
「皆、突然のことで驚かれていると思いますが……使途は攻撃をしなければ皆さんを狙ったりしません。落ち着いて行動してください」
「怪我をしたり、急病で動けない方はいらっしゃいませんか? こちらで搬送します」
「……さっき足を撃たれた男の人がいたんだ! 連れて来る!」
「向こうにおばあちゃんがいたわね! 呼びに行きましょう!」
 イスフェリアの呼びかけと、エルバッハの魔導トラックにハッとする観光客達。
 少し落ち着きを取り戻し、周囲を見る余裕ができたのか闇雲に動き回るのを止め……集団心理も働いたのか、声をかけた場所から少しづつ動きが穏やかになる。
 その動きを確固たるものにする為に、智里とフィロも観光客に声をかけ始める。
「このまま真っ直ぐ進んでください。走らないでくださいね」
「使徒はイクシード・アプリ使用者を狙います。アプリのインストールや使用を行わず、速やかに避難して下さい」
 真摯に呼びかけ、誘導を開始する2人。
 フィロの案内に、観光客の男性が詰め寄る。
「ちょっと待ってくれ! こんな状況でイクシード・アプリを使うなって、じゃあどうすりゃいいんだ!」
「俺達一般人は黙ってやられてろっていうのか!?」
「落ち着いて下さい。……イクシード・アプリは力を与えてくれるように見えますが、決して良いものとは言えません」
「VOIDに対抗するような力を、アプリをインストールするだけで得られる……おかしいとは思いませんか? 美味しい話には裏があるものです。皆さんのことは私達がお守りします。VOIDや使徒との戦いは、どうぞハンターにお任せください」
 努めて冷静に言う智里とフィロに言葉を失う男性陣。
 ――自分達を守ってくれると思っていた連合議会すらも人類を裏切っていた。
 ハンター達はいつでもリアルブルーにいてくれる訳ではない。
 目の前にある危機に、藁をも掴むような気持ちになるのは理解できるし、そういう人たちに、こういう事実を突きつけるのはどうかと思うけれど……それでも。
 起こり得る悲劇を知っているからこそ、止めなくては――。
 智里とフィロは、幾度も幾度も、根気強く観光客達に言い聞かせて行く。
「そうじゃ。ここを真っ直ぐじゃ。ざくろという男を追ってゆけ。……どこか分からぬ? 大丈夫。すぐに分かる」
『皆ー! 大丈夫かな? こっちだよー! ざくろの場所が分からない人はとにかく海沿いから離れて、南西に向かって!』
 遠方から来た為、土地勘がないという観光客を案内する蜜鈴。
 ざくろのオートソルジャーに搭載されたソニックフォン・ブラスターから、彼の声が聞こえて来る。
 相棒のイェジドと共に一般人の誘導に当たっていたルシオ・セレステ(ka0673)は、声をかけられ振り返る。
 そこには、不安そうな顔をした女性が立っていた。
「あの、すみません。連れとはぐれてしまったんですが……水色の服で、ストライプのリュックを背負った女性を見ませんでしたか?」
「すまない。ちょっと見ていないな。蜜鈴さんはどうだい?」
「ふむ……。妾も心当たりはないのう」
「そうですか……。一緒に買い物に来たんですけど、あの子大丈夫かな……」
 蜜鈴の返答にしょんぼりする女性。彼女は励ますように女性の肩に手を置く。
「はぐれたのは友人かえ? 遊びに来たのに災難であったのう。この先にある公園が一時避難場所になっておる。友人もそこにおるかもしれんぞえ」
「本当ですか?! ありがとうございます! 行ってみます!」
「気を付けて行くんだよ」
 2人にぺこりと頭を下げて、公園の方に向かう女性。
 その背を見送って、ルシオはイェジドに跨る。
「……さて、ここはもう大丈夫かな」
「ん? ルシオ。何処へ行くのじゃ」
「ちょっと、テセウスに挨拶をして来ようかと思ってね」
「ふむ……。おんしはイェルズと懇意であったか。相分かった。ここは任せよ。……あやつは好かぬ。とっとと追い払って来るがよい」
「ああ、ありがとう。蜜鈴さんも気を付けて」
「うむ。ルシオもな」
 ひらひらと扇を振る蜜鈴。彼女に軽く頭を下げると、ルシオはイェジドに出発を告げる。
 仲間達と一緒に避難場所に案内していたレオライザー(ka6937)は、子供の泣き声がすることに気付いた。
「うわあああん! ママーー! どこーーー!?」
「どうした坊主。何泣いてんだ?」
 不意に声をかけられ、振り返る少年。そこにはテレビに出て来そうな変身ヒーローが立っていて……泣くのも忘れ、驚愕に目を丸くする。
「……おにいさん、だれ?」
「オレは星を護りし正義の獅子! レオライザーだ! オレが来たからにはもう大丈夫だ! 安心しな!」
「本当……?」
「ああ、本当だ。ほれ、飴玉やるから元気出せ。レオライザー印の飴だ。力が湧くぞ! その飴を食ったら避難所に行こう。なーに。心配はいらん。オレが連れて行ってやる」
 少年の顔を覗き込み、飴を握らせるレオライザー。少年はそのまま、彼の腰に縋りつく。
「ん? 坊主。どうした?」
「僕、避難所いきたくない。レオライザーと一緒がいい……」
「いいか坊主。オレは正義の味方だ。ここに困っている人は沢山いる。皆を助けなきゃならん。正義は公平に与えられるべきだ。言っている意味が分かるな?」
「……怖いんじゃないよ。僕男の子だもん。大丈夫。大丈夫だけど……」
 一層強くレオライザーに抱き着く少年。言葉ではそう言いながら、震えている。
 母親とはぐれ、再び1人になるのが怖いのだろう。
 レオライザーは小さくため息をつくと、少年の顔を覗き込む。
「仕方がないな……。坊主、俺と同行するからには、お前は正義の味方の助手として扱うぞ」
「……うん! 僕レオライザーのお手伝いする!」
「よーし! いい子だ。じゃあお前の目で、困ってる人を探してくれ。見つけたらオレに報せるんだ。ついでに母さんも探せよ!」
 そう言い、少年を肩車するレオライザー。
 こうなったら、戦闘は極力避けねばなるまいが……迷える少年の導き手になるのも悪くはない。
 仲間達が観光客達を案内している間、エルバッハの運転する魔導トラックは怪我人や病人、老人、子供を乗せて街中を縦横無尽に疾走していた。
 まずは真が結界を張って観光客を守っていたことに加え、ボルディア達が上手く使途を引き付けていたこと、また観光客達が動けない人の場所を教えてくれたり、イスフェリアが上空から街を見て、観光客の動きが鈍い場所を指示していた為、大きな混乱や戦闘に巻き込まれることもなく誘導することが出来ていた。
「イスフェリアさん。動けない人の場所、教えて戴けますか?」
「えっと……エルバッハさんの場所から2つ先の交差点でこちらに手を振ってる人がいるよ。怪我人がいるみたい」
「分かりました。急行します。他にも動けない人がいたらお知らせください」
「うん。分かった」
 エルバッハと魔導スマートフォンで会話をしていたイスフェリア。
 5歳くらいの女の子がこちらに向かって走って来るのが見えて、高度を下げる。
「あなた、どうしたの?」
「ねえねえ! お姉ちゃん魔法使いなの?!」
「えっ。違うけど……どうしてそう思ったの?」
「だって箒に乗って、マイクでお話してる! あたしテレビで見たもん!! ねえ、握手して!」
 目をキラキラさせる少女に困ったような笑みを向けるイスフェリア。
 更に高度を下げて、少女の手を取る。
「わたしは魔法使いじゃなくてハンターだよ。ここは危ないから、向こうにある公園に行ってくれるかな?」
「うん! 分かった!」
「1人で大丈夫? ママは一緒なの?」
「うん! あそこにいるよ!」
 そう言い、後方を指さす少女。そちらに目をやると、大慌てで走って来る女性が見えた。
「この子ったら……! 急に走ったら危ないでしょう! お忙しいのにすみません……!」
「いえ。可愛いお嬢さんですね」
「ありがとうございます……。ほら、行きましょう。お姉さんにお礼を言いなさい」
「魔法使いでハンターのお姉ちゃん、ありがと。またね!」
「うん。またね」
 母親に手を引かれ、満面の笑みでひらひらと手を振る少女に手を振り返すイスフェリア。
 オイマト族の子供達も可愛いけれど、リアルブルーにいる子も可愛い。
 ……いいなあ、子供。
 わたしもいつかあんな風に、子供を持つ日が来るかな……。
 いやいや。子供の前に相手だ。大体こんな出自を持つ自分に相手なんて――。

 ――じゃあ、族長のお嫁さんになってよ!

 ふと、オイマト族の子供達の言葉を思い出してぼふっと赤くなるイスフェリア。
 そこに、魔導スマートフォンから通信音が聞こえて来た。
「こちらエルバッハです。避難経路に使徒1体を発見。迎撃します。……イスフェリアさん聞いていらっしゃいます?」
「あっ、ハイ! 応援に回ってもらうように皆に連絡するね!!」


「こんなところで戦闘になるとはな……。使徒っていうのは融通が利かないのか?」
「そうなんじゃないのかしら。まあレギも強化人間、そりゃ使徒にも狙われるわよねえ」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 早くレギ君探さなきゃ!」
 空渡で上空を駆け抜けながら呟くアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
 その後を、背中から羽根の幻影を生やしたリューリ・ハルマ(ka0502)と、フライングスレッドに乗ったアルスレーテ・フュラー(ka6148)が追いかける。
 3人はこの街のどこかにいるであろうレギを上空から探していた。
「ポロウ! レギ君を探してくれ! 負のマテリアルを感知すればいい!」
 アルトの指令を受けて、飛んでいくポロウ。
 レギとの通信は、救難信号を受信して以降途切れている。
 通信機を使徒に破壊されたのだろうか……?
 空からは粛々と公園に向かって移動する観光客の姿と彼らを誘導する仲間、使徒と交戦している仲間達と……そして、もう1か所はテセウスが応戦している場所だろうか。やけに派手に交戦しているところが1か所ある。
 更に、交戦している様子は見られないが……やたらと使徒が集まっている場所があった。
「上空から探索したのは正解だったみたいね。良く見えるわ……」
「リューリちゃん! 前方9時の方向! 使徒が集まってる場所分かる!?」
「うん! レギくんあそこかな!? ちょっと待って!」
 アルスレーテの呟きに頷くアルト。親友の声に応えて、リューリは野生の動物霊の力を宿らせ、聴覚を大幅に上昇させる。
 ――聞こえて来る足音。話し声。
 違う。これは避難している人のもの。レギじゃない。
 もっと近づいて、集中して……!
「……ぅゎ」
 リューリの耳が捉えたレギの微かな叫び。そこでポロウも1点で旋回し始めた。
「アルトちゃん! あそこにレギ君がいる!」
「双眼鏡からもばっちり捕捉したわ。走り回ってるわね、あの子」
「ポロウも見つけたみたいだ! 急ぐぞ!」
 使徒の群れをくぐり抜け、捕捉地点目掛けて急降下する3人。見ると、ビルを盾にするようにして逃げ回っているレギがいた。
「レギ君、やっほーーー!!」
「はいはーい! お姉さん達参上よー!」
「助けにきたぞ! 無事か!?」
「……!? リューリさん!? アルスレーテさんにアルトさんまで……。助けにきて戴いて光栄です。空から現れるなんて本当に天使だったんですね」
 突然空から現れた3人に目を見開くレギ。相変わらずの返答に、アルスレーテが苦笑する。
「切羽詰まった状況かと思ったんだけど、その割には余裕そうね? 助けに来なくても大丈夫だったかしら」
「いやいや、これは挨拶みたいなものなので!」
「レギ君の挨拶って面白いよね……って、肩怪我してるじゃない! 血出てるよ!?」
「ああ、足は逃走に必要なんで何とか死守してたんですけどね。この程度なら大丈夫です」
「これだけの使徒相手に逃げ回ってたのは確かにすごい逃げ足と言ってもいいのかな。さて、ちょっと失礼するよ」
 心配そうなリューリを宥めるレギ。アルトは地上に降り立つと、徐にレギを抱え上げる。
 まさにお姫様抱っこという状況。
 突然の出来事に一瞬茫然としたレギだったが、すぐに復活して暴れ出す。
「ほら、逃げるよ。……バランス崩れるから暴れないで欲しいんだけど?」
「ちょっ。ええ!? お姫様抱っこするなら逆じゃないですか!? 僕がアルトさんお姫様抱っこしたいですよ!?」
「ん? レギ君空飛べないだろ?」
「いやいや、そうじゃなくて! これはちょっと男の沽券に関わるというか……!!」
「そんな沽券とか今要らないから」
「ええええ!! 待ってくださいよ!?」
「だから暴れないでってば」
 アルトとレギのやり取りに堪えきれず噴き出すアルスレーテとリューリ。
 まるっきり姉弟喧嘩なそれを見て、2人は少年の頭をわしわしと撫でる。
「レギ、観念なさいな。逆に考えるとなかなかおいしい状況じゃないの?」
「そうだよ。傷口も開いちゃうし大人しくしててね」
「……嫌ならポロウの背中に投げるよ」
 アルトのダメ押しの一言でピタッと静かになるレギ。
 男の沽券より彼の天使の近くにいるという欲望を優先したらしい。
「レギって欲望に忠実よね……」
「ホント面白いよね……。アルトちゃんと姉弟みたい」
「そこは恋人って言って欲しいんですけど……!!」
 くすくす笑い続けるアルスレーテとリューリに抗議するレギ。
 アルトはため息をつくとレギを抱え直す。
「無駄口叩いてないで離脱するぞ! ……レギ君、しっかり捕まってろ」
「はい。……アルトさん、良い匂いしますね」
「変なこと言うとその場で捨てるよ? アルスレーテ、リューリちゃん。露払い頼む!」
「はいはーい」
「うん! 任せておいて!」
 懲りないレギを抱えて再び空渡を使い、走り出すアルト。
 後を追って来る使徒からの攻撃を、アルスレーテとリューリが弾き返す。


 ――時は少し遡る。
 ハンター達が露払いを始めた頃。
 使徒と激しくやりあう赤毛の歪虚をわざわざ探し出すまでもなく、その現場を見つけることが出来ていた。
 車を踏み台にして跳躍し、大剣で使徒の腕を跳ね飛ばしたテセウス。
 そこにペガサスに乗ったエステル・ソル(ka3983)が近づいて来た。
「SC-H01さん! 一般の方を巻き込んで暴れるのはいけないのです! 使徒さんもちょっと場所考えるですよ!」
「俺はSC-H01じゃなくてテセウスですよ!! あいつらが先に喧嘩売って来たんですって!」
 使徒の攻撃を受け流しながら、こちらを見ずに答えるテセウスに、目を丸くするエステル。かくりと首を傾げる。
「いつの間にお名前変わったです……?」
「上司にお名前貰ったみたいだよ。呼びにくい名前卒業出来てよかったじゃない。……ところで今日はどうしたの? 何だってこんなところに来たのさ」
「遊びに来たんですよ!」
「ふーん。それにしては随分派手に暴れてるね。君の遊びっていうのは使徒と戦うことかい?」
「……だったらちょっとお仕置きが必要だね」
 ジュード・エアハート(ka0410)の問いに答えるテセウス。指をパキパキと鳴らして剣呑な目線を向けて来るラミア・マクトゥーム(ka1720)に、ぶんぶんと首を横に振って見せる。
「違いますって! 観光に来たんですよ!」
「………は? 何だって??」
「だから! 観光!!」
 歪虚から『観光』という言葉が出てくると思わず、一瞬固まるラミア。
 羊谷 めい(ka0669)が小首を傾げる。
「……カンコウって、見物して回る、という意味のあの行動ですよね?」
「そうです! 俺、戦う気なかったんですよ!」
 叫びながら使徒の攻撃を受け流すテセウス。
 ――使徒は、積極的に攻撃しなければハンターを狙わないというのは本当らしい。
 使徒のレーザーはハンター達に当たることはなく……後方の道路を焼いた。
「ああ! もう! 街壊れちゃう! ちょっとテセウス止まって!」
「嫌ですよ! 止まったら俺狙い撃ちされるじゃないですか!!」
 無茶振りしてくるシアーシャ(ka2507)に猛然と言い返す赤毛の歪虚。
 ふと彼女は焼け焦げたベンチの近くに、食べかけのアイスクリームが落ちていることに気が付いた。
「アイス落ちてるけど、これって……」
「それ俺のアイスーーー!!」
「これ、どうしたの? まさか奪ったわけじゃないよね?」
「そんなことしませんよ! シュレティンガー様からお小遣い貰って買ったんです! 美味しくて気に入ってたのに!!」
 テセウスの返答に驚きを隠せないエステルとラミアは恐る恐る口を開く。
「……本当に、純粋に観光してたです?」
「だからそうだって言ってるじゃないですか!!」
「……アンタ、なんで歪虚のくせに観光なんてしてるのさ?」
「シュレティンガー様の命令が『世界を見てこい』だったんですよ! だから本当に見てただけです!!」
 テセウスの叫び。それまで黙って話を聞いていたジュード。緑の双眼で赤毛の歪虚を捉える。
「要するに君は、ヒトの世界のルールに従って観光していた訳だ。そうしたら使徒が襲って来た、と。それで合ってる?」
「合ってます!!」
「あー、そう。それは使徒が悪いねー」
「そうでしょう!? 俺今日は良い子にしてました!! 今日だけじゃなくていつも良い子ですけど!!」
「何が良い子だ! 調子に乗るんじゃないよ馬鹿!」
 ジュードの同情的な様子にえっへんと胸を張るテセウス。
 叱り飛ばすラミアに、めいは困ったような笑みを浮かべる。
 ――何というか。この赤毛の歪虚はオリジナルである青年の真面目さをまるっと取っ払ったような印象を受ける。
 あの人もここまででなくても、真面目すぎなくていいと思うのだけれど……。
 もちろん、それも美徳ではあると思う。
 生まれた経緯からして歓迎するべきではないが、行動がどうにも子供っぽくて……イェルズの弟のような、そんな雰囲気を感じてしまう。
 相手は歪虚だ。こんな印象を持つのは間違っているのかもしれないけれど……。
 めいがそんなことを考えている間も、ハンター達とテセウスの会話が続いていた。
「……そっかー。戦いに来たわけじゃないのに、残念だったね」
「事情は良く分かったけど……テセウス。とりあえず落ち着いて周囲を見てみよっか」
「ん……?」
 シアーシャの言葉にこくりと頷くテセウス。ジュードに言われて、周囲を見渡す。
 そこで初めて、周囲に被害が出ていることに気づいたらしい。心底驚いた顔を見せる。
「え……? 何でこんなに壊れてるんです!?」
「だからアンタと使徒が暴れたからだろうが!!」
「いたっ! ひどい! シュレティンガー様にも殴られたことないのに!!」
 テセウスに裏拳を入れるラミア。
 どうやらこの歪虚、『目の前にあること』しか目に入らないらしい。
 視野が狭いところも丸っきり子供だなー……とジュードは思いながら続ける。
「状況を理解して貰えてよかったよ。今日の君の目的は破壊じゃない。だったら、ここで戦わなくていいよね?」
「……ああ、はい。シュレティンガー様は『見てこい』とは言いましたけど『壊せ』とは言ってなかったです。叱られちゃうかなー……」
「今からでも遅くないので、移動して欲しいのです。そうすればきっとシュレティンガーさんにも叱られないで済むです」
「そうそう。ここで暴れ続けて、面白い物とか綺麗な物まで壊しちゃったらつまらないでしょ?」
「確かにそうですね。でもどこに移動すればいいんです?」
 エステルとジュードの提案に素直に頷くテセウス。
 首を傾げる彼に、歩夢(ka5975)がトランシーバーを手にしつつ、目配せする。
「あー。それについてはちょっと待ってくれ。……こちら歩夢。神楽さん、そちらどうなってる?」
『こちら神楽っすー! 関係各所に連絡ついて許可取れたっすよ! 人払いが完了っす。誘導してOKっすよ!』
「……という訳だ。俺達に同行して貰ってもいいかな。ついでに使徒を誘導する餌になってくれ」
「いいですよ!」
 歩夢の提案にあっさりと頷くテセウス。ラミアは赤いグリフォンに跨ると、赤毛の歪虚を手招きする。
「……後ろ、乗りなよ」
「いいんですか? 俺、負のマテリアル沢山あるからこの子具合悪くならないかな」
「そこはちょっと抑えな。ガイドはしてやらないけど、上空からなら街を見せてあげるよ。観光、したかったんだろ?」
「ありがとうございます。……今日は、名前教えてくれます?」
「……ラミア・マクトゥーム。ラミアでいいよ」
「ラミアさん! いい名前ですね! 俺テセウスです! よろしくお願いします!」
「あんたの名前は知ってるっての」
 そっぽを向きながら頷くラミア。
 歪虚のくせに観光したがったり、人のグリフォンを気遣ってみたり。
 真っ先に断罪すべき相手のはずなのに――本当に調子が狂う。
 ……あたしも、姉さんの変な癖が伝染しちゃったかな……。
「じゃあ、先行くよ」
「ああ、頼んだ! 俺達もすぐに追いつく」
 上空に舞い上がるラミアを見上げる歩夢。
 彼女のグリフォンは空を1周すると、港を目指して――。


「ったく、無駄に数ばかり増えやがって……! 物量のごり押しって古典的だが有効過ぎんだろ!」
「オラオラア! お前らの相手はこの俺様じゃンーー!!」
「お前らあたしについて来なー!!」
 次々と飛来する使徒に舌打ちするカイン。反して、ゾファルとボルディアは何故か高笑いをしている。
 神楽から人払い完了の知らせを受け、移動を開始したハンター達。
 攻撃を受けた使徒はカイン達を敵対生物とみなしたらしい。
 倒しても倒しても新手がやって来るが、カインとボルディアがソウルトーチを使っていた為か、使徒を港まで上手く誘導することが出来ていた。
「よし! 港に到着! 一斉に叩くぞ!」
「お任せを! 範囲攻撃をします。皆さん下がっていてください!」
「はいよー! でっかいのぶっ放してやるといいじゃン!」
「風穴あけとくれよ!!」
 カインの声に頷くセツナ。ゾファルとボルディアの声に応えるように、鞘に納めた太刀にマテリアルを込め――。
「……閃は貫き穿ち、数多を断つ。花は散りゆき、無へと消ゆ――!」
 抜き放たれる刃。流水の如き動きは、迷いもなく、曇りもなく――解き放たれた一閃は空を切り裂くように、使徒の群れを薙ぎ払う。
「たーまやーー!! ガルちゃんも負けてられないじゃン!」
「おらぁ! 消えろォ!!」
 追い打ちをかけるゾファルの砲撃。ボルディアの目にも止まらぬ連撃で使徒の数を減らしていく。
「おーおー。すげえなオイ。……お前ら、俺達に喧嘩売ったのが運の尽きだったな」
 呟き、女性陣が討ち漏らした使徒を綺麗に片づけていくカイン。
 避難誘導が大分進み、使徒への対応に移行する為に港へやってきたアシェールと真は、魔導スマートフォンを手に何やらやっている神楽に声をかけた。
「……神楽さん、隔離場所の確保お疲れ様です!」
「熱心にスマホを見てるけど何かあったのかい?」
「あ、アシェールさんも真さんもお疲れっす。いやぁ、イクシード・アプリをインストールしてみたらどうなるかと思って試してみてたっすよ」
「……え!? 危ないですよ!?」
「試したい気持ちは分からなくもないけど……万が一のことがあったらどうする気だい?」
「その時は一応『祓いしもの』で浄化しようと思ってたっすよ」
「『祓いしもの』は万能じゃないですよ。マテリアル由来のものしか浄化できないし、既存の汚染効果には効果はないですよ?」
「あ、そーっすよね」
「あ、って、きみね……。それで? 大丈夫なのか? 身体に異変は?」
「それが何も起きないっすよ」
「え? 全く? 全然変化ないんです?」
「そうっす。ハンターにはイクシード・アプリ効かないんすかね?」
「……憶測の話になるけど。イクシード・アプリは歪虚と契約を促すものなのだろう? インストールすることで契約に同意したとみなす……いわば略式のものだ。一方、私達ハンターは精霊と契約をしている。歪虚と直接契約でもしない限り、契約の上書きは出来ないんじゃないか?」
「あーー。なるほどっす」
「ともあれ、何もなくてよかったですね」
「本当だよ。……強化人間に続いて、仲間を手にかけないといけないなんて寝覚めが悪いにもほどがあるからね。気をつけてくれよ」
「ういっす。了解っす」
 アシェールと真に、軽い調子で敬礼を返す神楽。
 イクシード・アプリは一般人には有効だが、ハンターには効果がないというのが分かっただけでも収穫だったのかもしれない。


「アルトから通信だ。レギを連れて無事に戦線を離脱したそうだ」
「エルバッハさんから通信です。観光客の方の避難誘導もそろそろ終了するとのことです」
 歩夢とめいの報告に頷くジュード。彼は相棒のユグディラに声をかける。
「クリム。テセウス怪我してるから回復してあげて」
「にゃ??」
「こいつは敵だって? そうなんだけど、自力で帰れないと困るからね」
 こくりと頷く白いユグディラ。主の言葉に従って、赤毛の歪虚に回復の術を使う。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。ねえ、テセウス。見て分かる通り、こいつら君がいる限りずっと湧いてくるし、今日はもう帰ったら?」
「そうだね。観光は仕切り直した方がいいかも」
「そうですね。うーん。もっとアイス色々食べてみたかったんだけどな」
「アイス気に入ったです? わたくしもアイス大好きです!」
 シアーシャの言葉にがっくり肩を落とすテセウス。
 アイスという単語にエステルが反応して……敵であることを思い出したらしい。
 アワアワしている少女を不思議そうに見つめているテセウスに、シアーシャが笑みを返す。
「他にも楽しいこと、たくさんあるよ。あたしもローマ楽しかったんだ」
「ローマ……?」
「リアルブルーのイタリアにある場所です。遺跡がとっても綺麗ですよ」
「へえ。機会があったら俺も行ってみようかな」
「うん。その時は、あたしもお付き合いしてあげてもいいよ」
「えっ。デートのお誘いですか? やったー! シュレティンガー様に聞いてみますね」
「わたくしは心に決めた人がいるのでデートしないです!」
 続くめいの解説。シアーシャの言葉に素直に喜ぶテセウスに反し抵抗を示すエステル。
 そこに、ルシオの呆れたような声が聞こえた。
「……その言葉をそう受け取るのかい? 本当に遠慮も戸惑いもない辺り、似たもの同士だね。君達は」
「あっ。お母さんだ! やっほー」
「君に母親呼ばわりされる謂れはないんだけどな……」
「だってあなたの名前知らないですし。俺のオリジナルの母親なんでしょう? だったら俺のお母さんみたいなもんじゃないですか」
「君は人の神経を逆撫でする才能があるようだね。……私はルシオだよ」
「ルシオ母さんですね! 覚えました!」
 悪びれる様子のないテセウスに、引き攣った笑みを返すルシオ。
 怒りを抑えるように、深呼吸をしてから目の前の歪虚を見つめる。
「ここで力ずくで君を捕縛して使徒に差し出すのが一番手っ取り早いとしても、そうはしないと私達は決めたんだ」
「あんたはあたし達とイェルズで決着をつけてやるんだから。こんなとこでしょうもない戦いに巻き込まれてんじゃないよ。テセウス」
「俺としては決着はどうでもいいけどね。速やかにおうちに帰って貰えると助かるかな」
「そうだね。妥協と言う言葉を覚えるのも、悪くないと思うけどね?」
「あ、これ、ざくろさんとアルスレーテさんから預かってます。これ持って早く帰れとのことでした」
 ラミアとジュード、ルシオを順番に見て考え込むテセウス。めいから、ざくろからの差し入れのみなとみらいのガイドブックと、アルスレーテが作ったツナサンドを受け取って、嬉しそうな顔を見せる。
「わーい! お土産だ! 分かりました! 俺、今日は帰りますね!」
 そのあまりにも子供っぽい反応に呆れを通り越して戸惑うハンター達。
 ――テセウスという歪虚は、取る行動がどうにもちぐはぐで……変り種のようであった。


 こうして、ハンター達は無事にレギを保護し、テセウスと使徒をみなとみらいの街から撤退させることに成功した。
 テセウスと使徒が派手に暴れた為、街や港に被害が出たものの、観光客は死亡者を出すことなく誘導することが出来、関係機関から感謝される結果となった。
 『世界を見に来た』というテセウス。彼の目的が本当にそれだけだったのかは分からなかったけれど――きっと近いうちに再会する機会があるだろう。
 ハンター達はそれまで、雌伏の時を過ごすのだった。

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MVP一覧

  • 導きの乙女
    イスフェリアka2088
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434

重体一覧

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    クリム
    クリム(ka0410unit002
    ユニット|幻獣
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    アルトリウス
    アルトリウス(ka0669unit005
    ユニット|自動兵器
  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    レオーネ
    レオーネ(ka0673unit001
    ユニット|幻獣
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ジュウオウキ
    X桜姫(ka1250unit007
    ユニット|自動兵器
  • ずっとあなたの隣で
    ラミア・マクトゥーム(ka1720
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    レガリア
    レガリア(ka1720unit003
    ユニット|幻獣
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    グリフォン
    グリフォン(ka2378unit003
    ユニット|幻獣
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    スチールブル
    スチールブル(ka2434unit002
    ユニット|車両
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシアディエム
    R7エクスシア-DM(ka2983unit002
    ユニット|CAM
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    パウル
    パウル(ka3109unit005
    ユニット|幻獣
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    パール
    パール(ka3983unit004
    ユニット|幻獣
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アサルトガルチャン
    ガルちゃん・改(ka4407unit004
    ユニット|CAM
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    レドリックス
    レドリックス(ka5336unit019
    ユニット|自動兵器
  • 洗斬の閃き
    セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    ヒョウ
    雹(ka5645unit001
    ユニット|幻獣

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    レグルス
    レグルス(ka5819unit001
    ユニット|幻獣
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka5975unit002
    ユニット|幻獣
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ユグディラ
    ユグディラ(ka6819unit005
    ユニット|幻獣
  • 獅子吼のヒーロー
    レオライザー(ka6937
    オートマトン|19才|男性|機導師
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/14 19:26:46
アイコン 相談卓
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2018/09/14 19:28:17