ゲスト
(ka0000)
【CF】It's Party Time!
マスター:蓮華・水無月

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2015/01/01 12:00
- 完成日
- 2015/01/25 20:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
多くのお祭り好きの力を借りて、準備は既に整った。
彩られたイルミネーションは街を宝石のように照らし出し、運び込まれたモミの木には色とりどりの飾りつけが施されていた。
立ち並ぶお店の店員は紅白の衣装に身を包み、ラッピングされたプレゼントの山が街に到着する。
一体、誰の掛け声から始まったのだろう。いや、誰の掛け声だって関係ない。
ここは崖上都市「ピースホライズン」陽気で楽しいお祭りの街。
騒げる口実があるならば、踊れる舞台があるのならば、かの街は喜んでお祭りムードに染め上げる。
たとえそれがエクラ教由来だろうが、リアルブルー由来であろうが、お祭りである事に変わりは無いのだ。
各々が、好き好きに、その祭りの日を楽しめば良い。
ここはピースホライズン。水平線を望む平和の街。
クリムゾンウエストのクリスマスが今、始まろうとしていた。
時に、クリスマスと言えば様々な奇跡が起こる事でも知られているものであるが……この世界に果たしてどのような奇跡が舞い降りるのだろうか。
●
それはピースホライズンの某所に立つ、見た目は古びた屋敷である。古びた、それゆえにそこそこ大きな建物と、それなりに広い敷地を所有する場所。
その中から響いてくるにぎやかな声に、レオーナ・マンティエロ(kz0069)は「あらあら」と穏やかに目を細めて微笑んだ。
「もうずいぶんと賑やかなようですね」
「はっ」
彼女の傍らで頷くのは、ピースホライズンの市長たる彼女の補佐を務める初老の部下である。彼の顔にもどこか面白そうな、興味津々の表情が宿っているのは、恐らく気のせいではない。
12月を迎えようという頃から、この街はあちらこちらで市民たちが思い思いに、様々の催しを行ったり、聖輝節(セイキセツ)――この街ではクリスマスをこう呼ぶ者もいる――の準備に勤しんできた。その中には数多くの、ハンターの姿もあって。
この屋敷で今宵行われているというクリスマスパーティーも、そのハンター達の催しの1つ。何でも掃除やツリーの運搬、中で行われている演劇や仮装、その他にも市民なども招いた様々な催しの多くを、ハンター達が担っているのだという。
視察、という名目でレオーナがやって来たのは、それゆえ。ついでに言えば、彼女の部下の孫息子がこのパーティーに参加しているらしい、という話を聞きつけたからでもある。
楽しみですねと歌うように呟きながら、言葉通り楽しげに会場たる屋敷に足を踏み入れたレオーナに、幼い少女が声をかけてきた。
「レオーナさま! これどーぞ!」
「……? これは何かしら?」
「もらったの! ハンターさんたちが、みんなにもあげていいよって」
だからあげる、と無邪気に笑った少女が差し出した、小さなクリスマスブーツをレオーナは微笑んで見つめた。中にはアロマキャンドルやクリスマスリース、皮のコースター、人形といったものが入っていて、いかにも可愛らしい。
これはあなたが貰っておきなさい、と微笑み少女の頭を撫でて、レオーナは嬉しそうに会場を見回し、頷いた。
「市民の皆さんも、ハンターの皆さんも幸せそうでなによりですね」
「はい、市長」
「あら、いけませんよ。今日はクリスマスパーティーを楽しみに来たんですもの。あなたも自由に楽しんでいらっしゃい。――ここにはハンターの方もたくさんいらっしゃるのですもの、危険なことなんてきっとありませんよ」
ね、と茶目っ気たっぷりに片目をつぶって見せて、まるで少女のようにうきうきと会場の中へと消えていくレオーナの背中に、残された部下は「はぁ」と何とも言えない表情になった。それから少し考えて、1つ小さく頷く。
「――了解しました、レオーナ様」
そうして彼もまた、この賑やかなパーティーを楽しむべく、人混みの中を歩き出したのだった。
彩られたイルミネーションは街を宝石のように照らし出し、運び込まれたモミの木には色とりどりの飾りつけが施されていた。
立ち並ぶお店の店員は紅白の衣装に身を包み、ラッピングされたプレゼントの山が街に到着する。
一体、誰の掛け声から始まったのだろう。いや、誰の掛け声だって関係ない。
ここは崖上都市「ピースホライズン」陽気で楽しいお祭りの街。
騒げる口実があるならば、踊れる舞台があるのならば、かの街は喜んでお祭りムードに染め上げる。
たとえそれがエクラ教由来だろうが、リアルブルー由来であろうが、お祭りである事に変わりは無いのだ。
各々が、好き好きに、その祭りの日を楽しめば良い。
ここはピースホライズン。水平線を望む平和の街。
クリムゾンウエストのクリスマスが今、始まろうとしていた。
時に、クリスマスと言えば様々な奇跡が起こる事でも知られているものであるが……この世界に果たしてどのような奇跡が舞い降りるのだろうか。
●
それはピースホライズンの某所に立つ、見た目は古びた屋敷である。古びた、それゆえにそこそこ大きな建物と、それなりに広い敷地を所有する場所。
その中から響いてくるにぎやかな声に、レオーナ・マンティエロ(kz0069)は「あらあら」と穏やかに目を細めて微笑んだ。
「もうずいぶんと賑やかなようですね」
「はっ」
彼女の傍らで頷くのは、ピースホライズンの市長たる彼女の補佐を務める初老の部下である。彼の顔にもどこか面白そうな、興味津々の表情が宿っているのは、恐らく気のせいではない。
12月を迎えようという頃から、この街はあちらこちらで市民たちが思い思いに、様々の催しを行ったり、聖輝節(セイキセツ)――この街ではクリスマスをこう呼ぶ者もいる――の準備に勤しんできた。その中には数多くの、ハンターの姿もあって。
この屋敷で今宵行われているというクリスマスパーティーも、そのハンター達の催しの1つ。何でも掃除やツリーの運搬、中で行われている演劇や仮装、その他にも市民なども招いた様々な催しの多くを、ハンター達が担っているのだという。
視察、という名目でレオーナがやって来たのは、それゆえ。ついでに言えば、彼女の部下の孫息子がこのパーティーに参加しているらしい、という話を聞きつけたからでもある。
楽しみですねと歌うように呟きながら、言葉通り楽しげに会場たる屋敷に足を踏み入れたレオーナに、幼い少女が声をかけてきた。
「レオーナさま! これどーぞ!」
「……? これは何かしら?」
「もらったの! ハンターさんたちが、みんなにもあげていいよって」
だからあげる、と無邪気に笑った少女が差し出した、小さなクリスマスブーツをレオーナは微笑んで見つめた。中にはアロマキャンドルやクリスマスリース、皮のコースター、人形といったものが入っていて、いかにも可愛らしい。
これはあなたが貰っておきなさい、と微笑み少女の頭を撫でて、レオーナは嬉しそうに会場を見回し、頷いた。
「市民の皆さんも、ハンターの皆さんも幸せそうでなによりですね」
「はい、市長」
「あら、いけませんよ。今日はクリスマスパーティーを楽しみに来たんですもの。あなたも自由に楽しんでいらっしゃい。――ここにはハンターの方もたくさんいらっしゃるのですもの、危険なことなんてきっとありませんよ」
ね、と茶目っ気たっぷりに片目をつぶって見せて、まるで少女のようにうきうきと会場の中へと消えていくレオーナの背中に、残された部下は「はぁ」と何とも言えない表情になった。それから少し考えて、1つ小さく頷く。
「――了解しました、レオーナ様」
そうして彼もまた、この賑やかなパーティーを楽しむべく、人混みの中を歩き出したのだった。
リプレイ本文
折角のパーティーで、お洒落しない理由はない。
「どうでしょうか? 似合ってるといいんですけど……」
「うん、バッチリ♪」
故に星垂(ka1344)見立てのドレスを見下ろす、コーネリア・デュラン(ka0504)に星垂はこくり、頷いた。それにコーネリアはホッと息を吐く。
和風ドレスは初で不安だったけれど、星垂がそう言うなら安心だ。となれば次はこの、同ギルドの妹分のドレスを見立てる番。
「ほたるんにはどんなドレスが良いでしょう」
「……ボク、フリフリひらひらした服は慣れてないんだけど」
楽しげなコーネリアに、そっと主張する星垂の言葉は届いてない様子。どんな服になるんだろ、と星垂は居心地悪げな顔になる。
そんな2人が目指すパーティー会場の屋敷の前で、だがリィン・ファナル(ka0225)は緊張していて。うろうろしている少女に、辰川 桜子(ka1027)が声をかける。
「リィンさん。どうしたの?」
「ひゃッ! は、初めまして……!」
「初めてじゃないわよー」
瞬間、びくんと驚いたリィンに桜子が笑った。その声にリィンも、相手に気づいて安堵の顔になり。
事情を聞くと桜子は、「じゃあ一緒に入りましょ」とリィンの手を握った。そうして、一緒に屋敷の扉を潜る。
メイン会場は玄関ホール正面の広間。そこから出て来たメイド姿の少女に、あ、とリィンは声をあげた。
「マリエルさんッ! メリークリスマスです」
「リィンさん!」
それにマリエル(ka0116)が嬉しそうにぺこん、と頭を下げる。が、そもそもお祭りを楽しんでおいでと送り出された事は忘れていた。
何しろ会場の忙しさに、つい手伝いを申し出て。休む暇もない、とどこか楽しそうなマリエルに桜子が気さくに手伝いを申し出る。
そうして向かった厨房ではジェールトヴァ(ka3098)らが、せっせと料理していた。彼は早めに来て荒れた中庭を整え、会場の掃除をし、さらにキャンドルなどの飾り付けや食料の買い出しも手伝っている。
「ブルーでいう『ぼらんてぃあ』として働いてみようと思ってね」
新たに増えた2人にもそう説明し、互いに自己紹介をすると、早速桜子とリィンも厨房を手伝い始めて。そんな風に支えられるパーティー会場に、ビスマ・イリアス(ka1701)もリューナ・ヘリオドール(ka2444)をエスコートし、足を踏み入れた所。
タキシードで見た目は整えたが、自分に華やかな場所は似合わないとビスマは思っている。だがリューナには良く似合うと、傍らをちらり見て。
「そのドレス似合ってるな」
「ありがとう」
主に胸元から目を反らしながら言ったのは、照れ臭さ故。そんなビスマにリューナは微笑み礼を言う。
彼女の経営する酒場『青薔薇亭』を手伝ってくれるお礼にと誘ったのだが、胸元を強調する黒のセクシードレスで来た甲斐は、充分あったようだ。
とまれ楽しく行こうと、人混みの中を歩き出す2人のような来客を迎えるのは、ルナ・レンフィールド(ka1565)達が奏でる音楽。例年は家族と楽団で演奏する彼女だが、今年はここで皆の素敵なひとときを彩りたくて。
依頼に臨む気持ちでリュートで奏でるのは、リアルブルーの物だというクリスマスソング。それに目を細め、ソアレ・M・グリーヴ(ka2984)はフルートを手に近寄った。
「ご一緒しても宜しくて?」
「勿論ですッ」
それに笑顔で応えたルナが、竪琴に持ち替え奏で出したのはクリムゾンウェストの曲。ふわりと微笑みソアレもそれに、旋律を乗せて行き。
曲が終わる。ルアと共に一礼する、ソアレにルア・アスキス(ka2985)は満足げに目を細めた。
「お綺麗ですよ、とても」
「あ、ありがと……あら?」
「おや?」
それに礼を言い掛けて首を傾げたソアレに、屋敷の探検途中に通りがかったアシェ・ブルゲス(ka3144)も驚き顔になる。アトリエにふらりと訪れたお嬢様がこんな所に、と近寄りかけてルアに気付き、ふうん、とにやにや笑い。
「ドレス綺麗だねー。とっても似合ってるよ! そこの彼氏さんの見立てかな」
「る、ルアとはそういう訳じゃ……ッ! その、専属の執事で幼なじみなんですの。ルア、アシェとは……」
「そうですね、ただの執事ですね……」
からかわれて、思わず全力否定したソアレの後ろで、ルアががっくり肩を落とす。彼女に少しも自覚がない事は知ってるけれど。
ぽむ、とアシェがルアの肩を叩いた。ソアレの男友達と最初は動揺したが、今は彼の慰めが有り難い。
その間にも、次の曲が始まっている。それに、わぁ、とレホス・エテルノ・リベルター(ka0498)は目を輝かせた。
このパーティーは、会場準備もハンターが手伝ったと聞く。自分も手伝いたかった、と思いながらも。
「まずは、おいしいものをいっぱい食べとかないと!」
「クリスも頂きますの!」
ぐ、と拳を握るレホスに、偶然隣に居たクリスティン・エリューナク(ka3736)も頷いた。一緒に来れなかった兄の分も楽しみ、お土産話をしてあげたい。
貰ったお菓子に目を細め、大きく綺麗なツリーに目を向けた。クリスマスが嬉しく楽しいのは、今日だけの特別、だからだ。
そう呟くクリスに、うんうんレホスが同意する。そうしてご馳走に手を伸ばす、2人のようなお客様に料理を出し終え、厨房へ戻る廊下に倒れている依頼での知人に、あら、と白藤(ka3768)は足を止めた。
「お久しさんやな」
「にゃぁ? ……お腹すいたんじゃもん」
それに、よろよろ顔を上げた泉(ka3737)がそう呟く。息絶え絶えに、まえはおせわになったんじゃもん、とかろうじての挨拶も。
そんな泉に、やれやれ、と白藤は息を吐き。次の瞬間、ひょいと泉を肩に担いだ。
「こないなトコで倒れとってもご飯は出てこんでー?」
「にゃぅ、ご飯♪ 誰が作ってるんじゃもん、しーちゃんじゃもん?」
それを聞いた途端、肩の上でぱたぱたする泉を連れて白藤は厨房へ戻る。名前の難しさ故だろう、突然の愛称呼びは嫌じゃない。
そんな腹ぺ子は泉だけじゃなくて。ルシエド(ka1240)もまた生まれて初めてのクリスマスパーティに、子供らしい好奇心で瞳を輝かせ、七面鳥や焼き立てパンのご馳走に夢中だ。
おいルシ、と天宮 紅狼(ka2785)が苦笑する。
「そんなに慌てなくても七面鳥は逃げねえよ。落ち着いて食え」
「………」
それに答えず幸せそうな顔で食べ続けるルシエドにとって、此処はまさに夢のような場所。貧民街ではせいぜい、漁る残飯が少し豪勢になる日だったから。
そんな彼にケーキは後で食べるよう忠告して、紅狼はワインとチーズを見繕う。子供が子供らしく楽しめる日を、今からでも味わわせてやりたいと願う。
ブーツの事も後で教えてやらなきゃなと、見守る紅狼の眼差しの先に居るルシエドのように、nil(ka2654)もクリスマスは初めてで。皆が楽しそうなのが不思議だと、会場を見て回る。
それは初めて見る、感じるもの。知らなかった、想像もつかなかったもの。
「……全てが、魔法みたいね……」
「本当、魔法みたいに幸せね!」
呟いたニルの独り言が聞こえ、シアーシャ(ka2507)は大きく頷いた。だってプレゼントも貰えて、ケーキもあって、ご馳走も食べられるなんてまるで、夢みたい。
出来れば素敵な出会いもあれば良いけれど、とちょっぴりおめかししてきたシアーシャに、ニルは眩しく目を細める。今宵限りなのだろう楽しい魔法は、けれども凄い事だ。
その言葉にシアーシャがくすぐったく笑う。その笑顔に目を細め、自分は楽しいのか考えていた。
●
「メリークリスマス! 今は空いてますか?」
「おやいらっしゃい、皆さん。大丈夫ですよッ」
持参した酒をお裾分けしながらのフレデリク・リンドバーグ(ka2490)の言葉に、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は笑顔になった。今は仕事中だから、酒は後でありがたく頂くことにする。
彼女がやっているのは屋敷の一角を借りての手作り体験工房。簡単な材料も、道具もすべて自前で持ち込んだ。
初心者でも不安なく出来るよう、作りたい物を作る為のアドバイスも惜しまない。そんなソフィアの工房で、【神託隊】の皆とリアルブルー由来だというミサンガを作りに来たジュード・エアハート(ka0410)は、早速空いた席にちょこんと座る。
作りたいのは海の紺と波の白、自身の瞳の色とたる深緑で編んだミサンガ。どの色合いの紐が良いか選ぶ、今日は苺ショートケーキをイメージした女装姿のジュードの手元を見て、あ、とユリアン(ka1664)が嬉しそうになった。
「俺もその色にしようと……チャームはお守りと同じ銀と銅の月桂樹の葉で」
「じゃあお揃いだね♪ 俺は銀の羽根にしようと思ってるんだー」
「おお、確かにお揃いっぽい……あれ? ソフィアさん、こんな感じで良いのかな?」
ふと編紐を迷ってしまったユリアンに、ソフィアが問題ないと大きく頷く。それに礼を言い、せっせと編み始めた彼の反対側ではエアルドフリス(ka1856)が、真鍮の葉のチャームを前に置き、青と黄の紐を組んでいて。
その傍らでは剣のチャームを前に、さてどれにしようかと自身の乏しいと自負するセンスを駆使して睨めっこするダリオ・パステリ(ka2363)。ちらりとその手元を見たエアルドフリスが『それで良いだろ』と1つを指さすと、うーむ、とそれを手に取りまた真剣な顔になる。
その様子を、自身は歯車と花のチャームを選び終え、今は濃緑の紐を選んでいたフレデリクは、懐かしく目を細めた。このミサンガは後で、小隊の皆で宝探しも兼ねてプレゼント交換をする予定なのだけれど、そんな事は兄が居なくなって以来で。
懐かしいなと呟くフレデリクに、発案者のアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)がふふんと誇らしげになる。1番に見つけるんダヨ、と白と蒼、金の紐を編みながら考えるアルヴィンの耳に、おや、と守原 有希弥(ka0562)の声が届いた。
「うちもご一緒させてもらって良いです?」
「もちろんダヨー♪ きみはどんなのを作るのカナ?」
それに、小隊モチーフの星を模した煌めくチャームを手に、明るく応えるアルヴィンだ。ソフィアも席はまだ空いている、と頷く。
助かりますと礼を言い、有希弥は隅に腰かけた。普段はゲームや料理に没頭して『休む』有希弥には、パーティーは羽根を伸ばすよりどこか、途方に暮れてしまっていたのだ。
クリスマスだからだろうか、折よく街中では珍しい天然石ビーズも買い求めたばかり。これも編み込めば見栄えがするだろう。
そう考える有希弥や【神託隊】達で賑やかな一角から、少し離れた部屋では真田 八代(ka1751)が、遠くからの喧騒を楽しみながらのんびりと過ごしていて。時折窓の外を行き交う人を眺めながら、穏やかな気持ちで思う。
(……見知った顔もいるけど、こうやって1人なのも偶には悪くない、かな)
だからもう少しだけ気まぐれに、この時間を楽しもう。そう思う八代の眼差しの先では赤いコートに黄色いマフラー姿の時音 ざくろ(ka1250)が、こちらはタイツとマフラー以外いつも通りのアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)と手繋ぎで行く所。
ざくろがにこっと微笑みかける。
「誘いに乗ってくれてありがとう」
「いえ……」
「……あら、アデリシアにざくろじゃないですか」
それに応えかけたアデリシアの上に、別の声が重なった。振り返れば、舞桜守 巴(ka0036)の良い笑顔。
巴、とざくろがわたわたアデリシアの手を放す。アデリシアも巴も、彼にとって大切な人だから。
はぎゅ、と巴に抱き付くざくろを、巴も抱き締め返した。
「ごめんね、朝、巴が近くに居なくて……ホントはざくろ、巴とも一緒したかったんだもん」
「はいはい、別に怒ってませんよ?」
「それでは3人でデート、ですかね」
放された手を見下ろしながら、それはそれで良いのですがとアデリシアは呟く。持ってきたプレゼントを想った。
手編みのセーターとマフラー、手袋。何とか間に合わせたのだから、折を見て渡さなければ。
こく、と頷きアデリシアは、放された手を繋ぎに行く。それを窓の外に眺めていたユキヤ・S・ディールス(ka0382)は、小さく微笑み歩き出した。
此方でもクリスマスを楽しめると思わなかったから、少し嬉しく、楽しい。何よりこの大きな屋敷で、人々が誰も彼も楽しげなのがなお嬉しい。
だから微笑みあちらこちらを見て回る、ユキヤとすれ違ったルトガー・レイヴンルフト(ka1847)も、興味深げに屋敷を見て回る。趣のある屋敷なのに、人の気配がないのは空き家だからか。
残念だと思うルトガーの鼻腔を、美味しげな匂いがくすぐった。途端、空腹を訴える胃に苦笑する。
(思う存分楽しむのが礼儀となるのだろう、な)
ならば料理を味わいに行くかと、足を向けたホールの前ではメーナ(ka1713)が赤白のワンピースに帽子を被り、壬生 義明(ka3397)の前でくるん、と回って見せている。
「似合うかしら!」
「おぉ、似合ってるねぇ」
「へへー。ありがとう、なのよ!」
ぱちぱちと手を叩く義明に、メーナは満足そうな笑顔になった。そうして足元の袋に詰めた、昨日焼いてきたクッキーの小袋をがさごそ確認する。
ツリー型や星型、見ても楽しく食べても美味しいクッキー。せっかくだから皆に配ろうと、義明と2人で計画した。
「パーティだから、楽しまなきゃ損だしねぇ」
「なのよ! 前に一緒した皆も居るかしら!」
メーナの言葉に義明も、先日一緒に行動した仲間を思い浮かべる。顔はちらほら見たが、さて。
そんなサプライズは実は、白神 霧華(ka0915)もこっそり計画していたりした。といってもこちらは皆が寝静まってからの、隠密ミッションの予定。
だから。
「今夜はちゃんと寝てないと、悪い子にサンタは来ませんよ?」
「やー!」
「寝る!」
「良い子にしてれば大丈夫だよッ」
そう念を押す霧華や周りの子供達に、エティ・メルヴィル(ka3732)はくすくす笑って飲み物を配る。とはいえエティも、欲しいプレゼントがあるけれど。
友人。貰う物ではないと解ってるけど、欲しいもの。
きっと、と会場を期待に輝く瞳で見回した。この中には未来のお友達もいるに違いないから、どんどん皆に出会って行かなくちゃ。
まずは、と霧華に話しかけるエティの向こう、雪の降り出した広場に集まる友人達は、寒さも忘れ楽しげだ。料理やお菓子も並べてのお茶会は、雪の中だとなお素敵だと柏木 千春(ka3061)は思う。
「すっごく綺麗! ホワイトクリスマス、だね!」
『ふふー。みんなとクリスマスパーティ、楽しい、ですっ』
降り積もる雪に目を細める千春に、メイ=ロザリンド(ka3394)もスケッチブックを手にそう楽しげな笑顔で。こうして顔馴染でクリスマスを過ごせるのが何より嬉しいと、思う。
お酒は飲まず、甘いお菓子を楽しむメイの手元を見て、シャンパンを味わっていたミィリア(ka2689)が、あ、と声を上げた。
「それもおいしそう! ミィリアにもちょーだいッ」
『はい、どうぞ』
「ありがとうでござるッ」
メイの渡した焼き菓子を、ミィリアは受け取り七面鳥の隣に置く。そんなミィリアや皆の笑顔にセレスティア(ka2691)も嬉しく、和やかな笑顔になった。そうしてふと、先程まで遊んでいた雪へと眼差しを向け。
「寒いけれど何だか暖かい……」
ふわり、そう思う。イルミネーションに輝く雪はとても綺麗で、何より皆と一緒だからだろうか。
楽しげな様子を見ていれば彼女もつい、一緒に賑やかに騒いでしまう。そうして、皆の可愛く綺麗な姿を見て和んだり。
クレール(ka0586)も今日はドレスを纏い、楽しみにやってきた。だが想像よりずっと、このひと時は煌らかだ。
綺麗な景色を見ながら友達と一緒にご馳走なんて、最高の贅沢だとしみじみ思う。満面の笑顔でだから、クレールはこう言った。
「皆、これからもよろしくね! 大好きっ!!」
それに異句同音に返ってくる「もちろん!」という声と笑顔。そうして顔を見合わせて、また楽しげにくすくす笑い合う。
そんな広場に面した窓の向こうでは、シェリア・プラティーン(ka1801)が困惑顔。金の絢爛な装飾の清楚な純白ドレスのせいか、身形の良い男達に囲まれがち。
それにティーア・ズィルバーン(ka0122)は、意外と慣れてないのか、と思い。颯爽と割って入り追い払う。
「大丈夫か?」
「助かりましたわ……」
礼を言うシェリアはだが、相手がティーアと気付かない。それに、彼も気付いて小さな吐息を1つ。
「俺だ。ティーアだ」
「ティーアさん!?」
それに驚きの声を上げたシェリアは、すぐ気付いていたと取り繕って。彼のスーツや撫で髪をしげしげ眺め、にっこりし。
「その様な身形も出来ましたのね。少しは見直しましたわ♪」
「どうも」
それに、苦笑して礼を言う。褒めているつもりなのは解ったから。
その頃屋敷の某所には、恋人達の姿がある。並べた料理や酒を前に、2人きりで。
「賑やかなのも良いが、今日は落ち着いた雰囲気が良いな」
「クリスマスですからね。大切な人と静かに過ごすのも、です」
月野 現(ka2646)の言葉に、頷く櫻井 悠貴(ka0872)の胸は高鳴る一方だ。異世界で迎える聖夜は、だが現と一緒なら喜びが強い。
それは現も同じで。どこか酔った心地に、甘えて笑う悠貴が、愛おしい。
「美味しいですね。頭ぽわってします」
「ああ、美味しいな」
頷く現の言葉も、どこか甘い響き。並んだ飲物はどれも洒落て手が込んでいる。
それをゆっくり味わい、甘く寄り添う。密やかに、平穏に、幸福に。
そんな恋人達の過ごす部屋とは、反対側の2階テラスに出たケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は、ほぅ、と息を吐いた。人々を楽しませる歌姫の頃とは、今宵は何もかもが違う。
中庭は荒れていて、だからこそ美しい。何度もクリスマスの夜を見つめ、刻んできたのだろう。
(どんなクリスマスが在ったのかしら)
遠く想いを馳せる。耳を澄ませば聞こえそうに、思った。
●
「メリークリスマスッ! お招きありがとうッ」
彼女を見つけるなり、シアーシャはそう叫んで抱き着いた。だって今日は皆で踊ったり、ゲームして遊んだりして、それがとても楽しくて、幸せで。
そんなシアーシャに彼女、レオーナは嬉しそうに微笑する。支援した聖輝節で、幸せな人が増えるのは幸せな事。
シアーシャを抱き締め返した彼女が、有希弥を見る。先程はありがとう、と微笑むレオーナに有希弥は、いいえ、と首を振った。
開始当初、彼女に挨拶がてら鶏、鴨、七面鳥等を鴨油でじっくり煮たコンフィを差し入れたのだ。同じく来客用にも並べたコンフィは、ルトガーが色々な料理と共に食べ比べている所。
「ブルーの料理もこちらの料理も旨いな」
「だねぇ。あ、そうそう。あまりクリスマスっぽくはないかもだけど」
ルトガーの言葉に、同じく舌鼓を打っていたレホスが、持てるだけ持ってきた支給品で貰った缶ビールを並べる。飲んじゃって、と笑顔で薦めるレホスに、ならばとルトガーは手を伸ばし。
「そちらもどうだ」
「……え、ボクも? 地元のスペインだと飲酒OKな年齢だけど……」
あまり飲んだ事はないがちょっとだけ、と手を伸ばすレホスの傍らでは、会場で配られたプレゼントを嬉しそうに何度も見つめるシアーシャが居る。それに、製作者の1人として感慨深く微笑むソフィアはふと、有希弥に声をかけた。
「宝探しは良いんですか?」
「もう隠しました」
それに有希弥が肩を竦める。12月25日の星座石・誕生石・誕生石に石言葉の成功・不屈、成功の保証、聖なる契約を込めて編み込んだミサンガは、屋敷を黄道十二宮に見立てて山羊座の部屋で待って居る。
石の意味がそのままヒントになっているという、有希弥になるほどと頷いたソフィアの手元には、手すきの時に銀で作った鞄等につけられる桜のチャーム。最後に皆に配ろうか、考えるソフィアの眼差しの先で、ユリアンはパルムのパムと共に、ヒントの紙を手に宝探しを楽しんでいて。
『1.赤に埋もれた 2.甘い棺の下で眠る 3.私を射止めて』。確かこの辺りのテーブル、と探すユリアンと一緒に、キョロキョロしていたパムがぴょん、と跳ねる。
ああ、と微笑んでユリアンはガラスの器を取り上げた。ジュードの手土産の赤薔薇の砂糖漬け、その下には予想通りの物がある。
くす、と微笑んでお守りの腕輪と一緒に腕に通した。大事に撫で、あっちはどうなんだろと見やった中庭ではフレデリクが、はぁ、と溜息を吐いた所。
(エアさん、大人げないなあ……)
確かに自分のヒントは簡単だったが、だからって中庭を虱潰しに探すとは。そんな彼はちゃんと、ヒントの『青空から見える場所、緑に囲まれた、紅い華の女王の足元に』というメモと睨めっこし、赤薔薇の根元からミサンガを見つけている。
それに、ふん、とエアルドフリスは鼻を鳴らした。『幾つかの部屋から見れてこの部屋ではなく少し荒れてる』。ならば中庭以外になく、広いとはいえ限られたスペースならば虱潰しが効率が良い。
「俺は勝負事を譲るのは嫌いだ」
「だから大人げないんだってー♪」
そんなエアルドフリスにくすぐったく笑い、ジュードは大事なコインのペンダントを胸で揺らしながら次のヒントへと向かう。『永遠の彩』は常緑樹、それは玄関付近にも生えていて『幸運は其処から訪れる』、ならその先にある『ささやかな希望』は?
3人で玄関から中に入れば、壁際に小さな灯りが揺れる。その陰からミサンガを見つけたジュードを、エアルドフリスがふと見つめ。
他はどうなったかと、見回した廊下の先の厨房ではダリオが、食堂の食器棚からミサンガを見つけた所。彼が見せてくれた『・団欒の場 ・白や銀が眠る ・小さき剣の保管場所』のメモに、厨房での仕事をあらかた終えたジェールトヴァが微笑んだ。
「面白い事をやっているね。私も賄でも食べながら賑やかな会場の空気に触れたいな。一緒に良いかな?」
「無論である」
ジェールトヴァの申し出に、ダリオは力強く頷く。小隊仲間以外とも、機会があれば話してみたいと思っていたのだ。
そう告げるダリオに礼を言い、ジェールトヴァは作った鶏肉やサラダ、ポテトの残りを簡単に皿に盛る。それから君達は、と振り返った男に、白藤は困ったような顔になった。
「ごめんなー。うち死にそうな腹ペコほっていけんわ……」
「あぐあぐ……ご飯もお菓子も美味しいんじゃもん♪」
言いながらもどこか幸せそうな白藤の前では、全身で喜びを表現する泉が料理に夢中だ。顔も周りも食べかすだらけだが、ここまで美味しそうに食べてくれると作り甲斐がある。
急いで食べんでもまだまだあるよってな、と言う白藤はたまにつまむのみ。そうして泉を見守れば、自分の料理を食べてくれる人も居るのかと、不思議な喜びが胸に湧く。
「しーちゃんも食べるんじゃもん?」
「せやなぁ……」
泉の言葉にくすりと笑う、白藤達を置いて大広間へと戻ったダリオとジェールトヴァは、だがすぐにアルヴィンに捕まった。びし、と指さす彼の反対側の手には、ヒントの『・それは常に傍らにある ・それは振り返るとある ・それはそれがしが知っている
』という紙。
「僕にはお見通しダヨ♪」
「ふむ」
アルヴィンの言葉にダリオは素直に、背嚢を下した。隠すと思わせて隠さないのが用兵の妙、と入れてあったのだ。
それに満足げな笑顔になるアルヴィン達に、ユリアンが濃い目に入れた紅茶や果物のティーパンチを渡す。それを飲みながらルナの演奏を聞きに行くというアルヴィンを見送り、エアルドフリスは思案顔。
実はジュードにだけこっそり、革表紙の分厚い手帳を別に用意していて。いつ渡そうか、そして日頃心配させてる彼にまた心配させてしまう事を内密にしなければ、と息を吐き。
その眼差しの先でルナは休憩に頂いた料理やケーキの皿を片付け、次の曲の準備をする。エティの横笛や、飛び入り参加でやって来たシアーシャとも合わせ、奏でるのはリアルブルーの曲。
笑顔で楽しく、幸せに。リアルブルーでもこんなクリスマスなのかなと、思いながら息を通すエティの横笛が、伸びやかに会場を抜けて響き渡る。
その曲を耳にして、ふとケイは微笑んだ。彼女も知っているその曲の、歌詞も彼女の中にある。
故にそっと歌い出した声は、中庭へと響いて広がった。おや、と面白そうな顔になったアルヴィンに微笑んで、ルナは合わせるように奏でていく。
伸びやかに、彩りを添えるように。歌いながら、結局自分は歌わずにはいられないのだと、ケイの唇が笑みを描く。
これが彼女流のクリスマスプレゼントだと、さらに高らかに歌う彼女の声に、きっとケイ様ですわね、とクリスティンは嬉しくなった。周りで不思議そうな顔をしている子供達に、一緒に歌いましょう、と声をかけて彼女もまた歌声を紡ぐ。
リアルブルーの歌、そして教えて貰ったクリムゾンウェストの歌。子供達の幼い声と共に、楽しげに響くそれが会場を彩って。
――その歌声に耳を澄ませ、ああ、とユキヤは中庭で微笑んでいた。ケイの歌声を聴き分けて、素敵ですね、と微笑む。
響く冬の夜空は高く、舞い降る雪が冷たく輝き美しい。澄み渡る空も良いけれど、いつか消えてしまうと知ってなお雪の空も良いと思う。
やはり空は良いですねと、だからユキヤは小さく呟いた。この空のどこかにあるだろう、青の世界を想いながら。
●
3人のデートは再び、主にざくろにとっての危機を迎えていた。ようやく機会を見つけたアデリシアが、プレゼントを渡したのだ。
「これ……良かったら……」
「ありがとう! ざくろも、これ。気に入って貰えたら」
「……むぅ」
それにざくろもまた用意してきた、綺麗に包んだ彼の髪飾りとお揃いのブローチをアデリシアに渡し。残された巴はそれに複雑な顔。
突然現れた自分が悪いのは解っているが、それでも面白くはない。そんな空気に気付いてざくろは、咄嗟にわたわた髪から愛用の髪飾りを外すと、これ、と彼女に手渡した。
「巴にはざくろの髪飾り…これで、いつも一緒だよ」
「……その、ありがとうございますわ」
にこッ、と笑ったざくろに照れ隠しでそっぽを向きながらしっかり受け取る、巴をちらり見るアデリシア。このまま3人でずっと居たいけれども、ざくろの1番を譲りたくもない。
そう思いながらアデリシアは、いっそ泊まっていきませんか、と提案した。
「隅っこの方の部屋を借りて」
「あら、良いですね」
「え……えぇ!?」
意気投合する女子2人に、ざくろが真っ赤になる。そんな3人にメーナは「メリークリスマス!」と声掛け、お菓子の包みを手渡した。
そうやってサンタ姿のメーナと義明が笑顔で、どんどんお菓子を配っていくうちに、袋はあっという間に空になる。それを手に、メーナは感慨深く頷いた。
「飾付けもキラキラ、とっても綺麗ね!」
「まったくだねぇ……ッと」
それに頷く義明が取り出した、最後の包みは彼女への物。この為に、お菓子を別に自分で作った。
それを、渡して笑う。
「メーナ、メリークリスマスだねぇ」
「ありがとう! 私もヨシアキに用意してきたのよ!」
それにメーナもまた、邪気を払うという柊モチーフの腕飾りを笑顔で渡した。ありがとうだねぇ、と受け取る義明もまた、笑顔。
そんな2人の隣を飲み物を手に通り過ぎ、部屋に戻った現は軽い驚きに目を見開いた。待っていた悠貴が、日頃とは異なる大胆なサンタドレスに着替えていたのだ。
恥ずかしそうな悠貴の震える眼差しに、驚きを通り過ぎて愛おしさを感じる。その衝動のまま、抱き寄せそっと口付けた。
「――似合ってるよ」
「その、恥ずかしいですけど似合うと言ってくれるなら嬉しい、です」
柔らかな感触に頬を赤らめ、悠貴はそっと彼の背中に手を回す。灯りを消して良いかと聞かれ、ますます赤くなって頷く彼女の額に、現はもう1つ口づけを落とし。
闇に落ちた部屋の中、雪明りの中でしっかりと抱き締める。彼らを邪魔するものは、この場には居ない。
密やかに大人の時を過ごす、恋人達とは違ってリューナは、乾杯、とグラスを掲げた。それからふと、ビスマに尋ねる。
「ビスマの料理も美味しいわよね。どこで覚えたの?」
「あぁ、亡くなった妻の看病中に身に着けた物が大きいかな」
「……そう。奥さんがいらしたの」
思い出すような眼差しのビスマに、リューナが瞳を伏せる。素敵な女性だったのだろうと呟いたのに、ビスマは微笑んだ。
自分と同じように、彼女にも背負う過去があるに違いない。だがこの場で聞くのは野暮だろうと気遣う彼に、リューナは自らヴォイドに襲われ死んだ夫の話をし。
くすり、笑う。
「そんな顔しないで。もう大分前の話よ。良くある話でしょ?」
それより踊ろうと差し伸べた、リューナの手をビスマは取った。そうして踊り出す広間の音楽が、聞こえてリィンは新たにサラダを作りながら、ほわりと胸の面影に想いを馳せる。
うふふ、と桜子が楽しげに音楽を口ずさんで言った。
「パーティーの手伝いも楽しくて好きよ、私!」
「はい。皆がニコニコして……楽しそうですね」
「楽しそうです……!」
頷いたリィンの前で、桜子に教わった照り焼きチキンを作りながらマリエルも大きく頷く。お互いに知っている料理を教え合って、新しい知識に驚いて、そんな時間はひどく楽しい。
記憶のないマリエルにとって、きっと今日は忘れ難いひと時になる。何もない自分が新しく積み重ねる、新たな友達との思い出のひと時。
そんな予感に胸を躍らせる、マリエルにくすくす笑って桜子は、リィンのサラダをひょいと覗いた。
「美味しそう! うちのもリィンさんに作って欲しいわー」
「サラダは得意なんです」
その言葉に、リィンははにかみながら言う。彼女の育った里のエルフは野菜を好んでいたので、自然と肉料理等よりは野菜料理が得意になったのだ。
そう説明するリィンに、へぇ、と桜子とマリエルが相槌を打った。そんな風に楽しくお料理する、3人と同じようにコーネリアと星垂も仲良しの友人同士で、今日を思い切り楽しんでいて。
常とは違って洋風の、大きめのリボンコサージュがついたドレスに居心地悪げな、星垂にけれども選んだコーネリアは満足げ。この妹分には、可愛らしいものも良く似合う。
「ふふ、ほたるん、可愛いです♪」
「うぅ……」
幾度目かの褒め言葉に、星垂はもぞりと身を捩じらせる。このフリフリひらひらした服は、本当に自分に似合っているのだろうか。
そんな居心地悪さも、だがパーティーの賑やかな雰囲気に浸れば薄れる。こういった催しには今まで縁がなかったし。
「コーニーさん、何食べてるの?」
「ケーキです。ほたるんも食べます?」
お姉さんの様に世話を焼く、コーネリアにこくり頷く星垂から少し離れた所で、ソアレはアシェに、ルアお手製の菓子包みを渡していた。が、眼差しはアシェの手の中に釘付けで。
ルアが小さな息を吐く。
「……それはお嬢様へのプレゼントではありませんよ?」
「はは。じゃぁ、僕からはこれを。2人で食べてねー」
そんな2人に笑って、アシェはお返しに道すがら買ってきたクリスマス用のお菓子BOXを渡した。そうしてひらりと手を振って、再び屋敷の探索へ出発する。
吹き抜けの階段を昇れば、階下にまだ見える2人の姿。それにまたくすくす笑い、聞こえてきた音楽に耳を傾ければ、自然と歌が口から流れ出す。
それは、この日への感謝と祝福の歌。伸び行く声は中性的で、つと眼差しを向けたソアレをルアが呼び。
「同じお菓子を差し上げます。――それからこれを」
そうして彼が出したのは、もう1袋のお菓子と柔らかな陽のように輝くネックレス。背後からつけ、「俺からのプレゼントだよ」と幼馴染の口調で囁けば、ソアレがほのかに赤くなり。
それから満面の笑みで彼女もまた、彼の瞳に合わせたカフスボタンの包みを取り出した。いつもありがとうね、と告げる彼女に目を細める。
そんな2人の頭上から続く、バルコニーでシェリアとティーアは、雪の夜空を見上げていて。降ったり止んだりを繰り返す、真白の雪が美しいと、シェリアは素直に思う。
素直に。――今日くらいは彼にも素直に。
「わ……私の事、いつも気にかけて頂いて、感謝しておりますの……」
「気にするな。俺が好きでやってることだからな」
そんなシェリアに、ティーアも今日ばかりはからかわず、真面目にそう返す。そうして細い腰を抱き寄せて、え、と戸惑う彼女の耳に、笑みを含んだ言葉を吹き込んだ。
『Shall we dance?』。踊りませんかと小さく意味も添えた彼に、彼女が返す答えはもちろん1つだけ。
そんな2人の眼下に広がる中庭の片隅で、プレゼント交換をしながらセレスティアはそわそわと、自分の所には誰のプレゼントが来るのだろう、と考える。そして自分のプレゼントは、一体誰に行くのだろうとも。
母の祖国の髪飾りである、桜の意匠の簪。きっと、誰が付けても似合うだろう。
ぐるぐると歌いながら回すプレゼントを、歌い終わると共に止める。そうして、せーの、で開けた千春へのプレゼントは、水玉の可愛いラッピングの施されたもの。
「わ、可愛い!」
『私のです』
出て来たたぬきのぬいぐるみに、歓声を上げた千春二名がそうスケッチブックを見せた。そっかー、と嬉しそうに大切に胸に抱き、大事にするねと笑顔になる。
それに笑顔で頷いた、メイにやって来たプレゼントはセレスティアの簪。微笑んだセレスティアが髪に着けてくれるのを、くすぐったく待っていたメイはお返しにと、セレスティア自身の元にやって来た髪飾りをつけてあげる。
わぁ、とそれにクレールが嬉しそうな顔になった。鍛冶の腕を目一杯ふるって、試行錯誤しながら全力で作り上げた、雪の花を模したその髪飾りには、実はこっそり見えない所にうっすらと、皆の名前が彫ってある。
この1年が本当に、皆のおかげで楽しくて。何とかしてその感謝を表現したくて――
「これも、大事にしますね!」
「うん! ミィリアが好きだなーッて思ったのを選んじゃったけど!」
エプロンと、花とリボンと鈴が可愛いストラップを手に嬉しそうに言ったクレールに、千春が編んだ手乗りサイズのクマのあみぐるみを見ていたミィリアが大きく頷いた。気に入って貰えると良いな、と照れたような笑顔の彼女ももちろん、貰ったあみぐるみを多いに気に入った様子。
ふふ、とそれぞれの手にしたプレゼントを見せ合って、幸せそうに微笑み合った。きっと次の新たしき1年だって、これと同じくらい――否、もっともっと楽しい日々になるに違いない。
それが確信出来て、嬉しくなってまた笑い合う、友人達と同じように紅狼もルシエドに、彼の為にと選んできたプレゼントを渡す。
「ほら、俺からクリスマスプレゼントだ。文字が勉強できる絵本。これを見ながらなら覚えやすいだろ」
「俺に、プレゼント…? 勉強もできる本か! すげー! ありがと紅狼!」
キョトンとした顔で受け取った、ルシエドはけれどもすぐに紅狼の言葉を聞いて、ぱっと顔を輝かせた。そのまま彼の首に抱き付き、大はしゃぎするルシエドに苦笑して、まずはこの本に自分の名前を書いてみるといい、と頭を撫でる。
そんな賑やかな様子を、八代はどこか気だるげな様子で眺めていて。けれども内心ではどこか、この時間が穏やかな心地がしていたりして。
不思議なものだと思いながら、自分で淹れたコーヒーを片手に窓の外へと視線を戻す。雪の白に染まる中庭も悪くないし、配られたクッキーも悪くないというか。
「……てか、美味しいな。このクッキー」
感心してもう1枚、と手を伸ばす八代の眺める窓の外では、ニルと霧華がせっせと人目につかないように、大きな靴下に見立てた袋にプレゼントを詰めていた。正確には、どこかから冬の海が見えないかとバルコニー始め、あちこち歩き回っていたニルとばったり出会った霧華が、強引に協力者に巻き込んだ。
それも悪くはないのかも知れない、とニルは思う。冬の刺すような澄み切った空気は嫌いじゃないし、その中で動き回るのも悪くはないし。
「あっちの木に吊るしても良いと思うんですよね。どう思います? 気付かれにくいでしょうか」
「え、と……」
ニルにそう意見を求める霧華は、人目についても誤魔化せるようにとサンタ姿。可能な限り沢山、と用意したプレゼントを見つけてもらうにはどうすれば良いか、真剣に考えを巡らせる。
きっと翌朝になれば、お酒を飲み過ぎて眠ってしまった者も起きてきて、このプレゼントに気付くだろう。はしゃぎ過ぎて、お腹が一杯で眠ってしまった者だって、大事な人の腕に抱かれてきっと、サンタに会う夢を見るに違いない。
今年の聖輝節の夜は、そんな風に過ぎてゆくのだった。
「どうでしょうか? 似合ってるといいんですけど……」
「うん、バッチリ♪」
故に星垂(ka1344)見立てのドレスを見下ろす、コーネリア・デュラン(ka0504)に星垂はこくり、頷いた。それにコーネリアはホッと息を吐く。
和風ドレスは初で不安だったけれど、星垂がそう言うなら安心だ。となれば次はこの、同ギルドの妹分のドレスを見立てる番。
「ほたるんにはどんなドレスが良いでしょう」
「……ボク、フリフリひらひらした服は慣れてないんだけど」
楽しげなコーネリアに、そっと主張する星垂の言葉は届いてない様子。どんな服になるんだろ、と星垂は居心地悪げな顔になる。
そんな2人が目指すパーティー会場の屋敷の前で、だがリィン・ファナル(ka0225)は緊張していて。うろうろしている少女に、辰川 桜子(ka1027)が声をかける。
「リィンさん。どうしたの?」
「ひゃッ! は、初めまして……!」
「初めてじゃないわよー」
瞬間、びくんと驚いたリィンに桜子が笑った。その声にリィンも、相手に気づいて安堵の顔になり。
事情を聞くと桜子は、「じゃあ一緒に入りましょ」とリィンの手を握った。そうして、一緒に屋敷の扉を潜る。
メイン会場は玄関ホール正面の広間。そこから出て来たメイド姿の少女に、あ、とリィンは声をあげた。
「マリエルさんッ! メリークリスマスです」
「リィンさん!」
それにマリエル(ka0116)が嬉しそうにぺこん、と頭を下げる。が、そもそもお祭りを楽しんでおいでと送り出された事は忘れていた。
何しろ会場の忙しさに、つい手伝いを申し出て。休む暇もない、とどこか楽しそうなマリエルに桜子が気さくに手伝いを申し出る。
そうして向かった厨房ではジェールトヴァ(ka3098)らが、せっせと料理していた。彼は早めに来て荒れた中庭を整え、会場の掃除をし、さらにキャンドルなどの飾り付けや食料の買い出しも手伝っている。
「ブルーでいう『ぼらんてぃあ』として働いてみようと思ってね」
新たに増えた2人にもそう説明し、互いに自己紹介をすると、早速桜子とリィンも厨房を手伝い始めて。そんな風に支えられるパーティー会場に、ビスマ・イリアス(ka1701)もリューナ・ヘリオドール(ka2444)をエスコートし、足を踏み入れた所。
タキシードで見た目は整えたが、自分に華やかな場所は似合わないとビスマは思っている。だがリューナには良く似合うと、傍らをちらり見て。
「そのドレス似合ってるな」
「ありがとう」
主に胸元から目を反らしながら言ったのは、照れ臭さ故。そんなビスマにリューナは微笑み礼を言う。
彼女の経営する酒場『青薔薇亭』を手伝ってくれるお礼にと誘ったのだが、胸元を強調する黒のセクシードレスで来た甲斐は、充分あったようだ。
とまれ楽しく行こうと、人混みの中を歩き出す2人のような来客を迎えるのは、ルナ・レンフィールド(ka1565)達が奏でる音楽。例年は家族と楽団で演奏する彼女だが、今年はここで皆の素敵なひとときを彩りたくて。
依頼に臨む気持ちでリュートで奏でるのは、リアルブルーの物だというクリスマスソング。それに目を細め、ソアレ・M・グリーヴ(ka2984)はフルートを手に近寄った。
「ご一緒しても宜しくて?」
「勿論ですッ」
それに笑顔で応えたルナが、竪琴に持ち替え奏で出したのはクリムゾンウェストの曲。ふわりと微笑みソアレもそれに、旋律を乗せて行き。
曲が終わる。ルアと共に一礼する、ソアレにルア・アスキス(ka2985)は満足げに目を細めた。
「お綺麗ですよ、とても」
「あ、ありがと……あら?」
「おや?」
それに礼を言い掛けて首を傾げたソアレに、屋敷の探検途中に通りがかったアシェ・ブルゲス(ka3144)も驚き顔になる。アトリエにふらりと訪れたお嬢様がこんな所に、と近寄りかけてルアに気付き、ふうん、とにやにや笑い。
「ドレス綺麗だねー。とっても似合ってるよ! そこの彼氏さんの見立てかな」
「る、ルアとはそういう訳じゃ……ッ! その、専属の執事で幼なじみなんですの。ルア、アシェとは……」
「そうですね、ただの執事ですね……」
からかわれて、思わず全力否定したソアレの後ろで、ルアががっくり肩を落とす。彼女に少しも自覚がない事は知ってるけれど。
ぽむ、とアシェがルアの肩を叩いた。ソアレの男友達と最初は動揺したが、今は彼の慰めが有り難い。
その間にも、次の曲が始まっている。それに、わぁ、とレホス・エテルノ・リベルター(ka0498)は目を輝かせた。
このパーティーは、会場準備もハンターが手伝ったと聞く。自分も手伝いたかった、と思いながらも。
「まずは、おいしいものをいっぱい食べとかないと!」
「クリスも頂きますの!」
ぐ、と拳を握るレホスに、偶然隣に居たクリスティン・エリューナク(ka3736)も頷いた。一緒に来れなかった兄の分も楽しみ、お土産話をしてあげたい。
貰ったお菓子に目を細め、大きく綺麗なツリーに目を向けた。クリスマスが嬉しく楽しいのは、今日だけの特別、だからだ。
そう呟くクリスに、うんうんレホスが同意する。そうしてご馳走に手を伸ばす、2人のようなお客様に料理を出し終え、厨房へ戻る廊下に倒れている依頼での知人に、あら、と白藤(ka3768)は足を止めた。
「お久しさんやな」
「にゃぁ? ……お腹すいたんじゃもん」
それに、よろよろ顔を上げた泉(ka3737)がそう呟く。息絶え絶えに、まえはおせわになったんじゃもん、とかろうじての挨拶も。
そんな泉に、やれやれ、と白藤は息を吐き。次の瞬間、ひょいと泉を肩に担いだ。
「こないなトコで倒れとってもご飯は出てこんでー?」
「にゃぅ、ご飯♪ 誰が作ってるんじゃもん、しーちゃんじゃもん?」
それを聞いた途端、肩の上でぱたぱたする泉を連れて白藤は厨房へ戻る。名前の難しさ故だろう、突然の愛称呼びは嫌じゃない。
そんな腹ぺ子は泉だけじゃなくて。ルシエド(ka1240)もまた生まれて初めてのクリスマスパーティに、子供らしい好奇心で瞳を輝かせ、七面鳥や焼き立てパンのご馳走に夢中だ。
おいルシ、と天宮 紅狼(ka2785)が苦笑する。
「そんなに慌てなくても七面鳥は逃げねえよ。落ち着いて食え」
「………」
それに答えず幸せそうな顔で食べ続けるルシエドにとって、此処はまさに夢のような場所。貧民街ではせいぜい、漁る残飯が少し豪勢になる日だったから。
そんな彼にケーキは後で食べるよう忠告して、紅狼はワインとチーズを見繕う。子供が子供らしく楽しめる日を、今からでも味わわせてやりたいと願う。
ブーツの事も後で教えてやらなきゃなと、見守る紅狼の眼差しの先に居るルシエドのように、nil(ka2654)もクリスマスは初めてで。皆が楽しそうなのが不思議だと、会場を見て回る。
それは初めて見る、感じるもの。知らなかった、想像もつかなかったもの。
「……全てが、魔法みたいね……」
「本当、魔法みたいに幸せね!」
呟いたニルの独り言が聞こえ、シアーシャ(ka2507)は大きく頷いた。だってプレゼントも貰えて、ケーキもあって、ご馳走も食べられるなんてまるで、夢みたい。
出来れば素敵な出会いもあれば良いけれど、とちょっぴりおめかししてきたシアーシャに、ニルは眩しく目を細める。今宵限りなのだろう楽しい魔法は、けれども凄い事だ。
その言葉にシアーシャがくすぐったく笑う。その笑顔に目を細め、自分は楽しいのか考えていた。
●
「メリークリスマス! 今は空いてますか?」
「おやいらっしゃい、皆さん。大丈夫ですよッ」
持参した酒をお裾分けしながらのフレデリク・リンドバーグ(ka2490)の言葉に、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は笑顔になった。今は仕事中だから、酒は後でありがたく頂くことにする。
彼女がやっているのは屋敷の一角を借りての手作り体験工房。簡単な材料も、道具もすべて自前で持ち込んだ。
初心者でも不安なく出来るよう、作りたい物を作る為のアドバイスも惜しまない。そんなソフィアの工房で、【神託隊】の皆とリアルブルー由来だというミサンガを作りに来たジュード・エアハート(ka0410)は、早速空いた席にちょこんと座る。
作りたいのは海の紺と波の白、自身の瞳の色とたる深緑で編んだミサンガ。どの色合いの紐が良いか選ぶ、今日は苺ショートケーキをイメージした女装姿のジュードの手元を見て、あ、とユリアン(ka1664)が嬉しそうになった。
「俺もその色にしようと……チャームはお守りと同じ銀と銅の月桂樹の葉で」
「じゃあお揃いだね♪ 俺は銀の羽根にしようと思ってるんだー」
「おお、確かにお揃いっぽい……あれ? ソフィアさん、こんな感じで良いのかな?」
ふと編紐を迷ってしまったユリアンに、ソフィアが問題ないと大きく頷く。それに礼を言い、せっせと編み始めた彼の反対側ではエアルドフリス(ka1856)が、真鍮の葉のチャームを前に置き、青と黄の紐を組んでいて。
その傍らでは剣のチャームを前に、さてどれにしようかと自身の乏しいと自負するセンスを駆使して睨めっこするダリオ・パステリ(ka2363)。ちらりとその手元を見たエアルドフリスが『それで良いだろ』と1つを指さすと、うーむ、とそれを手に取りまた真剣な顔になる。
その様子を、自身は歯車と花のチャームを選び終え、今は濃緑の紐を選んでいたフレデリクは、懐かしく目を細めた。このミサンガは後で、小隊の皆で宝探しも兼ねてプレゼント交換をする予定なのだけれど、そんな事は兄が居なくなって以来で。
懐かしいなと呟くフレデリクに、発案者のアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)がふふんと誇らしげになる。1番に見つけるんダヨ、と白と蒼、金の紐を編みながら考えるアルヴィンの耳に、おや、と守原 有希弥(ka0562)の声が届いた。
「うちもご一緒させてもらって良いです?」
「もちろんダヨー♪ きみはどんなのを作るのカナ?」
それに、小隊モチーフの星を模した煌めくチャームを手に、明るく応えるアルヴィンだ。ソフィアも席はまだ空いている、と頷く。
助かりますと礼を言い、有希弥は隅に腰かけた。普段はゲームや料理に没頭して『休む』有希弥には、パーティーは羽根を伸ばすよりどこか、途方に暮れてしまっていたのだ。
クリスマスだからだろうか、折よく街中では珍しい天然石ビーズも買い求めたばかり。これも編み込めば見栄えがするだろう。
そう考える有希弥や【神託隊】達で賑やかな一角から、少し離れた部屋では真田 八代(ka1751)が、遠くからの喧騒を楽しみながらのんびりと過ごしていて。時折窓の外を行き交う人を眺めながら、穏やかな気持ちで思う。
(……見知った顔もいるけど、こうやって1人なのも偶には悪くない、かな)
だからもう少しだけ気まぐれに、この時間を楽しもう。そう思う八代の眼差しの先では赤いコートに黄色いマフラー姿の時音 ざくろ(ka1250)が、こちらはタイツとマフラー以外いつも通りのアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)と手繋ぎで行く所。
ざくろがにこっと微笑みかける。
「誘いに乗ってくれてありがとう」
「いえ……」
「……あら、アデリシアにざくろじゃないですか」
それに応えかけたアデリシアの上に、別の声が重なった。振り返れば、舞桜守 巴(ka0036)の良い笑顔。
巴、とざくろがわたわたアデリシアの手を放す。アデリシアも巴も、彼にとって大切な人だから。
はぎゅ、と巴に抱き付くざくろを、巴も抱き締め返した。
「ごめんね、朝、巴が近くに居なくて……ホントはざくろ、巴とも一緒したかったんだもん」
「はいはい、別に怒ってませんよ?」
「それでは3人でデート、ですかね」
放された手を見下ろしながら、それはそれで良いのですがとアデリシアは呟く。持ってきたプレゼントを想った。
手編みのセーターとマフラー、手袋。何とか間に合わせたのだから、折を見て渡さなければ。
こく、と頷きアデリシアは、放された手を繋ぎに行く。それを窓の外に眺めていたユキヤ・S・ディールス(ka0382)は、小さく微笑み歩き出した。
此方でもクリスマスを楽しめると思わなかったから、少し嬉しく、楽しい。何よりこの大きな屋敷で、人々が誰も彼も楽しげなのがなお嬉しい。
だから微笑みあちらこちらを見て回る、ユキヤとすれ違ったルトガー・レイヴンルフト(ka1847)も、興味深げに屋敷を見て回る。趣のある屋敷なのに、人の気配がないのは空き家だからか。
残念だと思うルトガーの鼻腔を、美味しげな匂いがくすぐった。途端、空腹を訴える胃に苦笑する。
(思う存分楽しむのが礼儀となるのだろう、な)
ならば料理を味わいに行くかと、足を向けたホールの前ではメーナ(ka1713)が赤白のワンピースに帽子を被り、壬生 義明(ka3397)の前でくるん、と回って見せている。
「似合うかしら!」
「おぉ、似合ってるねぇ」
「へへー。ありがとう、なのよ!」
ぱちぱちと手を叩く義明に、メーナは満足そうな笑顔になった。そうして足元の袋に詰めた、昨日焼いてきたクッキーの小袋をがさごそ確認する。
ツリー型や星型、見ても楽しく食べても美味しいクッキー。せっかくだから皆に配ろうと、義明と2人で計画した。
「パーティだから、楽しまなきゃ損だしねぇ」
「なのよ! 前に一緒した皆も居るかしら!」
メーナの言葉に義明も、先日一緒に行動した仲間を思い浮かべる。顔はちらほら見たが、さて。
そんなサプライズは実は、白神 霧華(ka0915)もこっそり計画していたりした。といってもこちらは皆が寝静まってからの、隠密ミッションの予定。
だから。
「今夜はちゃんと寝てないと、悪い子にサンタは来ませんよ?」
「やー!」
「寝る!」
「良い子にしてれば大丈夫だよッ」
そう念を押す霧華や周りの子供達に、エティ・メルヴィル(ka3732)はくすくす笑って飲み物を配る。とはいえエティも、欲しいプレゼントがあるけれど。
友人。貰う物ではないと解ってるけど、欲しいもの。
きっと、と会場を期待に輝く瞳で見回した。この中には未来のお友達もいるに違いないから、どんどん皆に出会って行かなくちゃ。
まずは、と霧華に話しかけるエティの向こう、雪の降り出した広場に集まる友人達は、寒さも忘れ楽しげだ。料理やお菓子も並べてのお茶会は、雪の中だとなお素敵だと柏木 千春(ka3061)は思う。
「すっごく綺麗! ホワイトクリスマス、だね!」
『ふふー。みんなとクリスマスパーティ、楽しい、ですっ』
降り積もる雪に目を細める千春に、メイ=ロザリンド(ka3394)もスケッチブックを手にそう楽しげな笑顔で。こうして顔馴染でクリスマスを過ごせるのが何より嬉しいと、思う。
お酒は飲まず、甘いお菓子を楽しむメイの手元を見て、シャンパンを味わっていたミィリア(ka2689)が、あ、と声を上げた。
「それもおいしそう! ミィリアにもちょーだいッ」
『はい、どうぞ』
「ありがとうでござるッ」
メイの渡した焼き菓子を、ミィリアは受け取り七面鳥の隣に置く。そんなミィリアや皆の笑顔にセレスティア(ka2691)も嬉しく、和やかな笑顔になった。そうしてふと、先程まで遊んでいた雪へと眼差しを向け。
「寒いけれど何だか暖かい……」
ふわり、そう思う。イルミネーションに輝く雪はとても綺麗で、何より皆と一緒だからだろうか。
楽しげな様子を見ていれば彼女もつい、一緒に賑やかに騒いでしまう。そうして、皆の可愛く綺麗な姿を見て和んだり。
クレール(ka0586)も今日はドレスを纏い、楽しみにやってきた。だが想像よりずっと、このひと時は煌らかだ。
綺麗な景色を見ながら友達と一緒にご馳走なんて、最高の贅沢だとしみじみ思う。満面の笑顔でだから、クレールはこう言った。
「皆、これからもよろしくね! 大好きっ!!」
それに異句同音に返ってくる「もちろん!」という声と笑顔。そうして顔を見合わせて、また楽しげにくすくす笑い合う。
そんな広場に面した窓の向こうでは、シェリア・プラティーン(ka1801)が困惑顔。金の絢爛な装飾の清楚な純白ドレスのせいか、身形の良い男達に囲まれがち。
それにティーア・ズィルバーン(ka0122)は、意外と慣れてないのか、と思い。颯爽と割って入り追い払う。
「大丈夫か?」
「助かりましたわ……」
礼を言うシェリアはだが、相手がティーアと気付かない。それに、彼も気付いて小さな吐息を1つ。
「俺だ。ティーアだ」
「ティーアさん!?」
それに驚きの声を上げたシェリアは、すぐ気付いていたと取り繕って。彼のスーツや撫で髪をしげしげ眺め、にっこりし。
「その様な身形も出来ましたのね。少しは見直しましたわ♪」
「どうも」
それに、苦笑して礼を言う。褒めているつもりなのは解ったから。
その頃屋敷の某所には、恋人達の姿がある。並べた料理や酒を前に、2人きりで。
「賑やかなのも良いが、今日は落ち着いた雰囲気が良いな」
「クリスマスですからね。大切な人と静かに過ごすのも、です」
月野 現(ka2646)の言葉に、頷く櫻井 悠貴(ka0872)の胸は高鳴る一方だ。異世界で迎える聖夜は、だが現と一緒なら喜びが強い。
それは現も同じで。どこか酔った心地に、甘えて笑う悠貴が、愛おしい。
「美味しいですね。頭ぽわってします」
「ああ、美味しいな」
頷く現の言葉も、どこか甘い響き。並んだ飲物はどれも洒落て手が込んでいる。
それをゆっくり味わい、甘く寄り添う。密やかに、平穏に、幸福に。
そんな恋人達の過ごす部屋とは、反対側の2階テラスに出たケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は、ほぅ、と息を吐いた。人々を楽しませる歌姫の頃とは、今宵は何もかもが違う。
中庭は荒れていて、だからこそ美しい。何度もクリスマスの夜を見つめ、刻んできたのだろう。
(どんなクリスマスが在ったのかしら)
遠く想いを馳せる。耳を澄ませば聞こえそうに、思った。
●
「メリークリスマスッ! お招きありがとうッ」
彼女を見つけるなり、シアーシャはそう叫んで抱き着いた。だって今日は皆で踊ったり、ゲームして遊んだりして、それがとても楽しくて、幸せで。
そんなシアーシャに彼女、レオーナは嬉しそうに微笑する。支援した聖輝節で、幸せな人が増えるのは幸せな事。
シアーシャを抱き締め返した彼女が、有希弥を見る。先程はありがとう、と微笑むレオーナに有希弥は、いいえ、と首を振った。
開始当初、彼女に挨拶がてら鶏、鴨、七面鳥等を鴨油でじっくり煮たコンフィを差し入れたのだ。同じく来客用にも並べたコンフィは、ルトガーが色々な料理と共に食べ比べている所。
「ブルーの料理もこちらの料理も旨いな」
「だねぇ。あ、そうそう。あまりクリスマスっぽくはないかもだけど」
ルトガーの言葉に、同じく舌鼓を打っていたレホスが、持てるだけ持ってきた支給品で貰った缶ビールを並べる。飲んじゃって、と笑顔で薦めるレホスに、ならばとルトガーは手を伸ばし。
「そちらもどうだ」
「……え、ボクも? 地元のスペインだと飲酒OKな年齢だけど……」
あまり飲んだ事はないがちょっとだけ、と手を伸ばすレホスの傍らでは、会場で配られたプレゼントを嬉しそうに何度も見つめるシアーシャが居る。それに、製作者の1人として感慨深く微笑むソフィアはふと、有希弥に声をかけた。
「宝探しは良いんですか?」
「もう隠しました」
それに有希弥が肩を竦める。12月25日の星座石・誕生石・誕生石に石言葉の成功・不屈、成功の保証、聖なる契約を込めて編み込んだミサンガは、屋敷を黄道十二宮に見立てて山羊座の部屋で待って居る。
石の意味がそのままヒントになっているという、有希弥になるほどと頷いたソフィアの手元には、手すきの時に銀で作った鞄等につけられる桜のチャーム。最後に皆に配ろうか、考えるソフィアの眼差しの先で、ユリアンはパルムのパムと共に、ヒントの紙を手に宝探しを楽しんでいて。
『1.赤に埋もれた 2.甘い棺の下で眠る 3.私を射止めて』。確かこの辺りのテーブル、と探すユリアンと一緒に、キョロキョロしていたパムがぴょん、と跳ねる。
ああ、と微笑んでユリアンはガラスの器を取り上げた。ジュードの手土産の赤薔薇の砂糖漬け、その下には予想通りの物がある。
くす、と微笑んでお守りの腕輪と一緒に腕に通した。大事に撫で、あっちはどうなんだろと見やった中庭ではフレデリクが、はぁ、と溜息を吐いた所。
(エアさん、大人げないなあ……)
確かに自分のヒントは簡単だったが、だからって中庭を虱潰しに探すとは。そんな彼はちゃんと、ヒントの『青空から見える場所、緑に囲まれた、紅い華の女王の足元に』というメモと睨めっこし、赤薔薇の根元からミサンガを見つけている。
それに、ふん、とエアルドフリスは鼻を鳴らした。『幾つかの部屋から見れてこの部屋ではなく少し荒れてる』。ならば中庭以外になく、広いとはいえ限られたスペースならば虱潰しが効率が良い。
「俺は勝負事を譲るのは嫌いだ」
「だから大人げないんだってー♪」
そんなエアルドフリスにくすぐったく笑い、ジュードは大事なコインのペンダントを胸で揺らしながら次のヒントへと向かう。『永遠の彩』は常緑樹、それは玄関付近にも生えていて『幸運は其処から訪れる』、ならその先にある『ささやかな希望』は?
3人で玄関から中に入れば、壁際に小さな灯りが揺れる。その陰からミサンガを見つけたジュードを、エアルドフリスがふと見つめ。
他はどうなったかと、見回した廊下の先の厨房ではダリオが、食堂の食器棚からミサンガを見つけた所。彼が見せてくれた『・団欒の場 ・白や銀が眠る ・小さき剣の保管場所』のメモに、厨房での仕事をあらかた終えたジェールトヴァが微笑んだ。
「面白い事をやっているね。私も賄でも食べながら賑やかな会場の空気に触れたいな。一緒に良いかな?」
「無論である」
ジェールトヴァの申し出に、ダリオは力強く頷く。小隊仲間以外とも、機会があれば話してみたいと思っていたのだ。
そう告げるダリオに礼を言い、ジェールトヴァは作った鶏肉やサラダ、ポテトの残りを簡単に皿に盛る。それから君達は、と振り返った男に、白藤は困ったような顔になった。
「ごめんなー。うち死にそうな腹ペコほっていけんわ……」
「あぐあぐ……ご飯もお菓子も美味しいんじゃもん♪」
言いながらもどこか幸せそうな白藤の前では、全身で喜びを表現する泉が料理に夢中だ。顔も周りも食べかすだらけだが、ここまで美味しそうに食べてくれると作り甲斐がある。
急いで食べんでもまだまだあるよってな、と言う白藤はたまにつまむのみ。そうして泉を見守れば、自分の料理を食べてくれる人も居るのかと、不思議な喜びが胸に湧く。
「しーちゃんも食べるんじゃもん?」
「せやなぁ……」
泉の言葉にくすりと笑う、白藤達を置いて大広間へと戻ったダリオとジェールトヴァは、だがすぐにアルヴィンに捕まった。びし、と指さす彼の反対側の手には、ヒントの『・それは常に傍らにある ・それは振り返るとある ・それはそれがしが知っている
』という紙。
「僕にはお見通しダヨ♪」
「ふむ」
アルヴィンの言葉にダリオは素直に、背嚢を下した。隠すと思わせて隠さないのが用兵の妙、と入れてあったのだ。
それに満足げな笑顔になるアルヴィン達に、ユリアンが濃い目に入れた紅茶や果物のティーパンチを渡す。それを飲みながらルナの演奏を聞きに行くというアルヴィンを見送り、エアルドフリスは思案顔。
実はジュードにだけこっそり、革表紙の分厚い手帳を別に用意していて。いつ渡そうか、そして日頃心配させてる彼にまた心配させてしまう事を内密にしなければ、と息を吐き。
その眼差しの先でルナは休憩に頂いた料理やケーキの皿を片付け、次の曲の準備をする。エティの横笛や、飛び入り参加でやって来たシアーシャとも合わせ、奏でるのはリアルブルーの曲。
笑顔で楽しく、幸せに。リアルブルーでもこんなクリスマスなのかなと、思いながら息を通すエティの横笛が、伸びやかに会場を抜けて響き渡る。
その曲を耳にして、ふとケイは微笑んだ。彼女も知っているその曲の、歌詞も彼女の中にある。
故にそっと歌い出した声は、中庭へと響いて広がった。おや、と面白そうな顔になったアルヴィンに微笑んで、ルナは合わせるように奏でていく。
伸びやかに、彩りを添えるように。歌いながら、結局自分は歌わずにはいられないのだと、ケイの唇が笑みを描く。
これが彼女流のクリスマスプレゼントだと、さらに高らかに歌う彼女の声に、きっとケイ様ですわね、とクリスティンは嬉しくなった。周りで不思議そうな顔をしている子供達に、一緒に歌いましょう、と声をかけて彼女もまた歌声を紡ぐ。
リアルブルーの歌、そして教えて貰ったクリムゾンウェストの歌。子供達の幼い声と共に、楽しげに響くそれが会場を彩って。
――その歌声に耳を澄ませ、ああ、とユキヤは中庭で微笑んでいた。ケイの歌声を聴き分けて、素敵ですね、と微笑む。
響く冬の夜空は高く、舞い降る雪が冷たく輝き美しい。澄み渡る空も良いけれど、いつか消えてしまうと知ってなお雪の空も良いと思う。
やはり空は良いですねと、だからユキヤは小さく呟いた。この空のどこかにあるだろう、青の世界を想いながら。
●
3人のデートは再び、主にざくろにとっての危機を迎えていた。ようやく機会を見つけたアデリシアが、プレゼントを渡したのだ。
「これ……良かったら……」
「ありがとう! ざくろも、これ。気に入って貰えたら」
「……むぅ」
それにざくろもまた用意してきた、綺麗に包んだ彼の髪飾りとお揃いのブローチをアデリシアに渡し。残された巴はそれに複雑な顔。
突然現れた自分が悪いのは解っているが、それでも面白くはない。そんな空気に気付いてざくろは、咄嗟にわたわた髪から愛用の髪飾りを外すと、これ、と彼女に手渡した。
「巴にはざくろの髪飾り…これで、いつも一緒だよ」
「……その、ありがとうございますわ」
にこッ、と笑ったざくろに照れ隠しでそっぽを向きながらしっかり受け取る、巴をちらり見るアデリシア。このまま3人でずっと居たいけれども、ざくろの1番を譲りたくもない。
そう思いながらアデリシアは、いっそ泊まっていきませんか、と提案した。
「隅っこの方の部屋を借りて」
「あら、良いですね」
「え……えぇ!?」
意気投合する女子2人に、ざくろが真っ赤になる。そんな3人にメーナは「メリークリスマス!」と声掛け、お菓子の包みを手渡した。
そうやってサンタ姿のメーナと義明が笑顔で、どんどんお菓子を配っていくうちに、袋はあっという間に空になる。それを手に、メーナは感慨深く頷いた。
「飾付けもキラキラ、とっても綺麗ね!」
「まったくだねぇ……ッと」
それに頷く義明が取り出した、最後の包みは彼女への物。この為に、お菓子を別に自分で作った。
それを、渡して笑う。
「メーナ、メリークリスマスだねぇ」
「ありがとう! 私もヨシアキに用意してきたのよ!」
それにメーナもまた、邪気を払うという柊モチーフの腕飾りを笑顔で渡した。ありがとうだねぇ、と受け取る義明もまた、笑顔。
そんな2人の隣を飲み物を手に通り過ぎ、部屋に戻った現は軽い驚きに目を見開いた。待っていた悠貴が、日頃とは異なる大胆なサンタドレスに着替えていたのだ。
恥ずかしそうな悠貴の震える眼差しに、驚きを通り過ぎて愛おしさを感じる。その衝動のまま、抱き寄せそっと口付けた。
「――似合ってるよ」
「その、恥ずかしいですけど似合うと言ってくれるなら嬉しい、です」
柔らかな感触に頬を赤らめ、悠貴はそっと彼の背中に手を回す。灯りを消して良いかと聞かれ、ますます赤くなって頷く彼女の額に、現はもう1つ口づけを落とし。
闇に落ちた部屋の中、雪明りの中でしっかりと抱き締める。彼らを邪魔するものは、この場には居ない。
密やかに大人の時を過ごす、恋人達とは違ってリューナは、乾杯、とグラスを掲げた。それからふと、ビスマに尋ねる。
「ビスマの料理も美味しいわよね。どこで覚えたの?」
「あぁ、亡くなった妻の看病中に身に着けた物が大きいかな」
「……そう。奥さんがいらしたの」
思い出すような眼差しのビスマに、リューナが瞳を伏せる。素敵な女性だったのだろうと呟いたのに、ビスマは微笑んだ。
自分と同じように、彼女にも背負う過去があるに違いない。だがこの場で聞くのは野暮だろうと気遣う彼に、リューナは自らヴォイドに襲われ死んだ夫の話をし。
くすり、笑う。
「そんな顔しないで。もう大分前の話よ。良くある話でしょ?」
それより踊ろうと差し伸べた、リューナの手をビスマは取った。そうして踊り出す広間の音楽が、聞こえてリィンは新たにサラダを作りながら、ほわりと胸の面影に想いを馳せる。
うふふ、と桜子が楽しげに音楽を口ずさんで言った。
「パーティーの手伝いも楽しくて好きよ、私!」
「はい。皆がニコニコして……楽しそうですね」
「楽しそうです……!」
頷いたリィンの前で、桜子に教わった照り焼きチキンを作りながらマリエルも大きく頷く。お互いに知っている料理を教え合って、新しい知識に驚いて、そんな時間はひどく楽しい。
記憶のないマリエルにとって、きっと今日は忘れ難いひと時になる。何もない自分が新しく積み重ねる、新たな友達との思い出のひと時。
そんな予感に胸を躍らせる、マリエルにくすくす笑って桜子は、リィンのサラダをひょいと覗いた。
「美味しそう! うちのもリィンさんに作って欲しいわー」
「サラダは得意なんです」
その言葉に、リィンははにかみながら言う。彼女の育った里のエルフは野菜を好んでいたので、自然と肉料理等よりは野菜料理が得意になったのだ。
そう説明するリィンに、へぇ、と桜子とマリエルが相槌を打った。そんな風に楽しくお料理する、3人と同じようにコーネリアと星垂も仲良しの友人同士で、今日を思い切り楽しんでいて。
常とは違って洋風の、大きめのリボンコサージュがついたドレスに居心地悪げな、星垂にけれども選んだコーネリアは満足げ。この妹分には、可愛らしいものも良く似合う。
「ふふ、ほたるん、可愛いです♪」
「うぅ……」
幾度目かの褒め言葉に、星垂はもぞりと身を捩じらせる。このフリフリひらひらした服は、本当に自分に似合っているのだろうか。
そんな居心地悪さも、だがパーティーの賑やかな雰囲気に浸れば薄れる。こういった催しには今まで縁がなかったし。
「コーニーさん、何食べてるの?」
「ケーキです。ほたるんも食べます?」
お姉さんの様に世話を焼く、コーネリアにこくり頷く星垂から少し離れた所で、ソアレはアシェに、ルアお手製の菓子包みを渡していた。が、眼差しはアシェの手の中に釘付けで。
ルアが小さな息を吐く。
「……それはお嬢様へのプレゼントではありませんよ?」
「はは。じゃぁ、僕からはこれを。2人で食べてねー」
そんな2人に笑って、アシェはお返しに道すがら買ってきたクリスマス用のお菓子BOXを渡した。そうしてひらりと手を振って、再び屋敷の探索へ出発する。
吹き抜けの階段を昇れば、階下にまだ見える2人の姿。それにまたくすくす笑い、聞こえてきた音楽に耳を傾ければ、自然と歌が口から流れ出す。
それは、この日への感謝と祝福の歌。伸び行く声は中性的で、つと眼差しを向けたソアレをルアが呼び。
「同じお菓子を差し上げます。――それからこれを」
そうして彼が出したのは、もう1袋のお菓子と柔らかな陽のように輝くネックレス。背後からつけ、「俺からのプレゼントだよ」と幼馴染の口調で囁けば、ソアレがほのかに赤くなり。
それから満面の笑みで彼女もまた、彼の瞳に合わせたカフスボタンの包みを取り出した。いつもありがとうね、と告げる彼女に目を細める。
そんな2人の頭上から続く、バルコニーでシェリアとティーアは、雪の夜空を見上げていて。降ったり止んだりを繰り返す、真白の雪が美しいと、シェリアは素直に思う。
素直に。――今日くらいは彼にも素直に。
「わ……私の事、いつも気にかけて頂いて、感謝しておりますの……」
「気にするな。俺が好きでやってることだからな」
そんなシェリアに、ティーアも今日ばかりはからかわず、真面目にそう返す。そうして細い腰を抱き寄せて、え、と戸惑う彼女の耳に、笑みを含んだ言葉を吹き込んだ。
『Shall we dance?』。踊りませんかと小さく意味も添えた彼に、彼女が返す答えはもちろん1つだけ。
そんな2人の眼下に広がる中庭の片隅で、プレゼント交換をしながらセレスティアはそわそわと、自分の所には誰のプレゼントが来るのだろう、と考える。そして自分のプレゼントは、一体誰に行くのだろうとも。
母の祖国の髪飾りである、桜の意匠の簪。きっと、誰が付けても似合うだろう。
ぐるぐると歌いながら回すプレゼントを、歌い終わると共に止める。そうして、せーの、で開けた千春へのプレゼントは、水玉の可愛いラッピングの施されたもの。
「わ、可愛い!」
『私のです』
出て来たたぬきのぬいぐるみに、歓声を上げた千春二名がそうスケッチブックを見せた。そっかー、と嬉しそうに大切に胸に抱き、大事にするねと笑顔になる。
それに笑顔で頷いた、メイにやって来たプレゼントはセレスティアの簪。微笑んだセレスティアが髪に着けてくれるのを、くすぐったく待っていたメイはお返しにと、セレスティア自身の元にやって来た髪飾りをつけてあげる。
わぁ、とそれにクレールが嬉しそうな顔になった。鍛冶の腕を目一杯ふるって、試行錯誤しながら全力で作り上げた、雪の花を模したその髪飾りには、実はこっそり見えない所にうっすらと、皆の名前が彫ってある。
この1年が本当に、皆のおかげで楽しくて。何とかしてその感謝を表現したくて――
「これも、大事にしますね!」
「うん! ミィリアが好きだなーッて思ったのを選んじゃったけど!」
エプロンと、花とリボンと鈴が可愛いストラップを手に嬉しそうに言ったクレールに、千春が編んだ手乗りサイズのクマのあみぐるみを見ていたミィリアが大きく頷いた。気に入って貰えると良いな、と照れたような笑顔の彼女ももちろん、貰ったあみぐるみを多いに気に入った様子。
ふふ、とそれぞれの手にしたプレゼントを見せ合って、幸せそうに微笑み合った。きっと次の新たしき1年だって、これと同じくらい――否、もっともっと楽しい日々になるに違いない。
それが確信出来て、嬉しくなってまた笑い合う、友人達と同じように紅狼もルシエドに、彼の為にと選んできたプレゼントを渡す。
「ほら、俺からクリスマスプレゼントだ。文字が勉強できる絵本。これを見ながらなら覚えやすいだろ」
「俺に、プレゼント…? 勉強もできる本か! すげー! ありがと紅狼!」
キョトンとした顔で受け取った、ルシエドはけれどもすぐに紅狼の言葉を聞いて、ぱっと顔を輝かせた。そのまま彼の首に抱き付き、大はしゃぎするルシエドに苦笑して、まずはこの本に自分の名前を書いてみるといい、と頭を撫でる。
そんな賑やかな様子を、八代はどこか気だるげな様子で眺めていて。けれども内心ではどこか、この時間が穏やかな心地がしていたりして。
不思議なものだと思いながら、自分で淹れたコーヒーを片手に窓の外へと視線を戻す。雪の白に染まる中庭も悪くないし、配られたクッキーも悪くないというか。
「……てか、美味しいな。このクッキー」
感心してもう1枚、と手を伸ばす八代の眺める窓の外では、ニルと霧華がせっせと人目につかないように、大きな靴下に見立てた袋にプレゼントを詰めていた。正確には、どこかから冬の海が見えないかとバルコニー始め、あちこち歩き回っていたニルとばったり出会った霧華が、強引に協力者に巻き込んだ。
それも悪くはないのかも知れない、とニルは思う。冬の刺すような澄み切った空気は嫌いじゃないし、その中で動き回るのも悪くはないし。
「あっちの木に吊るしても良いと思うんですよね。どう思います? 気付かれにくいでしょうか」
「え、と……」
ニルにそう意見を求める霧華は、人目についても誤魔化せるようにとサンタ姿。可能な限り沢山、と用意したプレゼントを見つけてもらうにはどうすれば良いか、真剣に考えを巡らせる。
きっと翌朝になれば、お酒を飲み過ぎて眠ってしまった者も起きてきて、このプレゼントに気付くだろう。はしゃぎ過ぎて、お腹が一杯で眠ってしまった者だって、大事な人の腕に抱かれてきっと、サンタに会う夢を見るに違いない。
今年の聖輝節の夜は、そんな風に過ぎてゆくのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 18人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/31 18:56:01 |
|
![]() |
Let's Party! 守原 有希弥(ka0562) 人間(リアルブルー)|19才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/01/01 02:58:27 |