ゲスト
(ka0000)
超人蹴球・前半戦!(帝国側)
マスター:DoLLer
- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/11 07:30
- 完成日
- 2018/10/19 11:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「龍園のドラグーンが?」
「はい、星の運命のために共に戦ってきたが、よくよく考えたらまだ西方地域と文化交流したことがないということで改めて、ということだそうです」
帝国第一師団の副師団長室でシグルドはそんな報告を受けていた。
「そりゃあオモテナシしなきゃならないだろうね。グリューエリンに踊ってもらうとか」
「スケジュールがいっぱいだそうです」
「カミラに言って、エルフハイムを案内してもらうとか」
「スケジュールがいっぱいだそうです」
「イズンに……」
「スケジュールがいっぱいだそうです」
「ヴ」
「スケジュールがいっぱいだそうです」
「せめて皆まで言わせてくれよ。わかった僕の方でなんとかするよ」
落語でもしているかのような頓珍漢な会話にシグルドはひらひらと手を振って、政務官を退出させた。
「にしてもね、ジャガイモパーティーだけじゃ喜んでくれんだろう」
文化交流といえば風土を感じてもらうのが一般的なものだが、それぞれの名所にはそれぞれ責任者がいるし、残っている当たり障りのないネタといえば、メシマズさをアピールするジャガイモパーティーかジンギスカン、最近息を吹き返してきたヴルツァライヒとのバトルとくらいしかない。
「帝国なんて基本武人の国なんだから……」
そういえばドラグーンといえば老化現象がほとんどなくかわりに寿命は短い。種族全体が戦いに特化したようなものだ。
帝国と龍園のつながる線を見出して、シグルドはふむ。と考えた。
殴り合いは大変楽しいが、さすがに怪我人を出したら後がややこしい。
「楽しく交流できる、体を使った……」
季節はちょうど暑さも和らぎ、秋らしさ感じさせ始めている。
読書の秋、食べ物の秋などと様々なことに都合よいとされる秋、それはもちろんスポーツにも当てはまる。
「よし、交流試合としよう」
スポーツの上での怪我は事故だ、事故。
シグルドは満面の笑みを浮かべていた。
●
「このボールを蹴って相手陣地の枠に入れたら勝ちというゲームがあるんだ。サッカーって言うんだけどね。ボールを保持する技術、誰がどこにいるのかを把握する視野、仲間との連携性。戦いにも通じるところがあるだろう」
「なるほど、確かに仰る通りですね」
龍園の異文化交流チームとして派遣されたシャンカラは手にしたサッカーボールをキラキラとした目で見つめて答えた。
「ルールは他に何があるんだ?」
「手を使っちゃいけない、休憩を挟んで前半と後半で戦う。それくらいだね」
シグルドが軽くウィンクしながら話すと、ダルマはそれに応じるようにして豪快な笑顔を作った。
「いよーっし、わかった。細かいところはやってみりゃわかるだろ」
ダルマはシャンカラの持っていたボールを奪い取り、そして地面に置くとおもむろに大きく足を後ろに蹴り上げた。その足が覚醒の力を伴って大きく光る。
「どぉぉぉりゃああああっ!!!!!!」
ちゅどんっ!!!
白と黒の2トーンでしかなかったボールはたちまちダルマのエネルギーによって光り輝くオーラに包まれ、弾丸のようにしてシグルドの後ろにあるゴールへと突き進んでいった。
「そうそう、それでいいんだ」
そのボールが青と緑を重ねたような風のオーラとぶつかりあい、急減速した。
そう、空中でシグルドがそのボールを脚一本で受け止めて見せたのだ。シグルドはそのまま足首をフックのようにしてボールを足元に留めて着地する。
「すごい……あの一撃を止めるなんて」
あれが魂の一撃だったら? もしくは、大切な守るべきものだったら?
様々な想いがシャンカラの中で膨れ上がっていく。
スポーツは、戦い、そして生きる道と何かしらの重なりがあるように見えた時、シャンカラの胸が高鳴った。
「……全力でこのスポーツ交流試合、させていただきます」
「いいね、その顔だ」
シグルドは笑うと、シャンカラに蹴ってよこし、そしてそのまま言葉を続けた。
「ただ人数は僕たちだけでは少ないかな。僕たちをつなげてくれたハンターも呼んで、盛大にやろうと思うんだけど、どうたろう」
差し出されたシグルドの手を、シャンカラとダルマはしっかりと握り返した。
――そしてシグルドが説明を中途半端で終わらせてしまったばかりに(意図的との見方もアリ)、手以外ならあらゆる手段を認める超人サッカーが交流試合として設定されたのであった。
よーし、みんな。死ぬ覚悟はできてるか?
それじゃ、プレーオフ☆
「はい、星の運命のために共に戦ってきたが、よくよく考えたらまだ西方地域と文化交流したことがないということで改めて、ということだそうです」
帝国第一師団の副師団長室でシグルドはそんな報告を受けていた。
「そりゃあオモテナシしなきゃならないだろうね。グリューエリンに踊ってもらうとか」
「スケジュールがいっぱいだそうです」
「カミラに言って、エルフハイムを案内してもらうとか」
「スケジュールがいっぱいだそうです」
「イズンに……」
「スケジュールがいっぱいだそうです」
「ヴ」
「スケジュールがいっぱいだそうです」
「せめて皆まで言わせてくれよ。わかった僕の方でなんとかするよ」
落語でもしているかのような頓珍漢な会話にシグルドはひらひらと手を振って、政務官を退出させた。
「にしてもね、ジャガイモパーティーだけじゃ喜んでくれんだろう」
文化交流といえば風土を感じてもらうのが一般的なものだが、それぞれの名所にはそれぞれ責任者がいるし、残っている当たり障りのないネタといえば、メシマズさをアピールするジャガイモパーティーかジンギスカン、最近息を吹き返してきたヴルツァライヒとのバトルとくらいしかない。
「帝国なんて基本武人の国なんだから……」
そういえばドラグーンといえば老化現象がほとんどなくかわりに寿命は短い。種族全体が戦いに特化したようなものだ。
帝国と龍園のつながる線を見出して、シグルドはふむ。と考えた。
殴り合いは大変楽しいが、さすがに怪我人を出したら後がややこしい。
「楽しく交流できる、体を使った……」
季節はちょうど暑さも和らぎ、秋らしさ感じさせ始めている。
読書の秋、食べ物の秋などと様々なことに都合よいとされる秋、それはもちろんスポーツにも当てはまる。
「よし、交流試合としよう」
スポーツの上での怪我は事故だ、事故。
シグルドは満面の笑みを浮かべていた。
●
「このボールを蹴って相手陣地の枠に入れたら勝ちというゲームがあるんだ。サッカーって言うんだけどね。ボールを保持する技術、誰がどこにいるのかを把握する視野、仲間との連携性。戦いにも通じるところがあるだろう」
「なるほど、確かに仰る通りですね」
龍園の異文化交流チームとして派遣されたシャンカラは手にしたサッカーボールをキラキラとした目で見つめて答えた。
「ルールは他に何があるんだ?」
「手を使っちゃいけない、休憩を挟んで前半と後半で戦う。それくらいだね」
シグルドが軽くウィンクしながら話すと、ダルマはそれに応じるようにして豪快な笑顔を作った。
「いよーっし、わかった。細かいところはやってみりゃわかるだろ」
ダルマはシャンカラの持っていたボールを奪い取り、そして地面に置くとおもむろに大きく足を後ろに蹴り上げた。その足が覚醒の力を伴って大きく光る。
「どぉぉぉりゃああああっ!!!!!!」
ちゅどんっ!!!
白と黒の2トーンでしかなかったボールはたちまちダルマのエネルギーによって光り輝くオーラに包まれ、弾丸のようにしてシグルドの後ろにあるゴールへと突き進んでいった。
「そうそう、それでいいんだ」
そのボールが青と緑を重ねたような風のオーラとぶつかりあい、急減速した。
そう、空中でシグルドがそのボールを脚一本で受け止めて見せたのだ。シグルドはそのまま足首をフックのようにしてボールを足元に留めて着地する。
「すごい……あの一撃を止めるなんて」
あれが魂の一撃だったら? もしくは、大切な守るべきものだったら?
様々な想いがシャンカラの中で膨れ上がっていく。
スポーツは、戦い、そして生きる道と何かしらの重なりがあるように見えた時、シャンカラの胸が高鳴った。
「……全力でこのスポーツ交流試合、させていただきます」
「いいね、その顔だ」
シグルドは笑うと、シャンカラに蹴ってよこし、そしてそのまま言葉を続けた。
「ただ人数は僕たちだけでは少ないかな。僕たちをつなげてくれたハンターも呼んで、盛大にやろうと思うんだけど、どうたろう」
差し出されたシグルドの手を、シャンカラとダルマはしっかりと握り返した。
――そしてシグルドが説明を中途半端で終わらせてしまったばかりに(意図的との見方もアリ)、手以外ならあらゆる手段を認める超人サッカーが交流試合として設定されたのであった。
よーし、みんな。死ぬ覚悟はできてるか?
それじゃ、プレーオフ☆
リプレイ本文
帝国チーム、龍園チームの選手入場を祝福して、両チームのチアガールが花道に立って花びらを降らせた。
「どちらの方々にも楽しいひと時になりますように」
いつもはゆったりした吟遊詩人らしい衣装のユメリア(ka7010)も、赤いシャツにミニスカート、金色のリボンで髪をまとめた姿で、大いに目を引いた。ちょっと恥ずかしい……。
「みんなー、がんばれー!!」
しかしやっぱりみんなを虜にするのは当チームのチアリーダー、ジュード・エアハート(ka0410)だ。この衣装も彼考案のものであるし、試合開始前から、くるんくるんと踊りながら花をまき散らす様子は、両チームの胸を躍らせるのに十分な効果があった。
「いえーっ」
ジュードは目線を一手に集めたところでポンポンを上に掲げる中、ユメリアにウィンクしてみせた。恥ずかしがることないよっ。ってね。
「あれ、サッカーの試合って言ってなかったっけ……何この重武装……大規模と間違えてない?」
フラワーシャワー中、キヅカ・リク(ka0038)は選手という役割であるはずのハンターたちの武装に舌を巻いた。どうすんの、これ。
「えとえと、がんばってー! なのですっ」
しかし唖然とするのもつかの間。見目麗しい面々がお揃いのチアガール衣装でフラワーシャワーを贈ってくれると男として反射的に何でもない風を装ってしまうし。ずっと仲良くしてる羊谷 めい(ka0669)がチアガール姿がもう。ジャンプする度たゆんたゆんする姿がもう。
「お、おう」
「うおー、帝国チームのチアガールめっちゃレベル高ぇ。俺頑張っちゃおうかな」
めいの目線と応援に気をよくしたのはリクの横にいたロジャー=ウィステリアランド(ka2900)も同じで、盛大に手を振ってこたえる。
「あの子めっちゃ可愛いなー。見た? 胸のたゆんたゆんしてるとこ」
「!!」
見てたけどっ!! めいちゃんの応援はお前のためじゃねぇっ!!!
思わず牙をむいてしまいそうになるリクだが、そっと言葉を飲み込んで思い直した。仲間同士で喧嘩は良くない。ならばむしろカッコイイ姿を見せてめいちゃんの期待に応えるべきだっ。
そんなチアガールたちが高瀬 未悠(ka3199)の声に合わせて軽快なダンスを踊り出す。
「「SDA・SKS!」」
リズムよく前後にステップしたあと、くるりとターンしてぽんぽんが上がってポンポンがふりふりして帝国チームに応援が降り注ぐ。
「ジュードの姿……最高じゃあないか。副師団長殿のチームに参加してしまったこともちょっと悩んだが、間違いではなかったな」
こちらデレデレ第2号のエアルドフリス(ka1856)。こら、振り上げた足をアオリ視点で覗き込んじゃダメだ。ジュードもそれを分かりながらオマケしちゃダメ。
「まあ……無理しない程度にね」
そんな師匠に声をかけるユリアン(ka1664)はボールをリフティングでつま先から膝、肩、頭とまるでボールと親しみながら、ボールの硬さや反応を感じ取っていた。
楽しむことが重要だし、熱くなりすぎて試合に負けたくもない。周りに流されずにやることをやっていくんだ。
そんなユリアンの耳に未悠とアーシュラ・クリオール(ka0226)の会話が耳に飛び込む。
「ねぇ、そのSDAとSKSって何の略? 『シグルドチーム・ドンドン・アタック』とか『ステキな・キックよ・冴えわたれ 』とか?」
「違うわよ。『シグルド・大好き・愛してる 』と『幸せにするから・結婚して・シグルド 』よっ」
え、それチアチーム全員で言ったの?
ユリアンがはっとして顔を上げると、師匠の顔がすごいことになっていた。
アーシュラはケタケタ笑っていたが、なんかもう今からやばい空気があちこちで発生している気がする。
「まあ……いいか」
ユリアンは未来の風を感じつつ、ボールをヘディングして空高く飛ばした。
●試合開始。
真っ先にボールを得たリクはいきなり帯電するように光をまとうと持ちうる機導力を全開にして、マテリアルをボールに収束させる。誰ださっきまで「え、マジですか」みたいなことを言ってたやつは。
そして、まだコートのど真ん中にも拘わらず、いきなりビームのようなシュートをぶちかました。
まずは決定力のアピール。全部の目をくぎ付けにしてやる!!
雷球と化したボールは草を薙ぎながら一直線にゴールへ向かった。……が、突如肝心のゴールがパタリと寝かせられてしまったではないか。
「はぁっ!!!?」
外角高めを狙ったシュートはそのままゴールの上をすっ飛んでいき、壁を黒こげにしただけで終わった。
「あんなんありかよっ!!」
激しい抗議だが、シグルドは笑って首を振るばかり。
「君は歪虚がルール違反したら抗議するのかい?」
……なるほど、あれがシグルドか。血管を浮き上がらせたリクはすぐさま走り出した。
飛んでくる烈風。剣撃、魔法にビーム。
サッカーとは何なのだろうか。岩井崎 メル(ka0520)はお弁当とお薬を大量に持ってきた自分の読みの良さを実感しつつも、ちょっとばかり哲学的思考に陥っていた。
「これってサッカーっていうより、その起源だよね」
「その通り。スポーツっていうのはね、殺し合いの決着を好まなかった紳士の遊びさ。相手を殺さないとわかりあっている気の置けない仲間同士なら、こうしたものだってアリさ」
レオーネ・ティラトーレ(ka7249)は唖然とするメルにウィンクをしてそう解説してあげた。
「なるほど……なるほど?」
メルが小首をかしげつつ頷いた。
「納得しかねる」
応援席のやり取りを聞いているはずもないはずの、戦場の真っ只中にいるアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がそう答えて、踏鳴で勢いをつけて跳躍すると、蒼い斬撃を躱した。
「直接攻撃してくる人間はあんまりいないと思ったんだがな」
アルトは空中で体をひねって回転すると鞭を放って、剣撃を操る女を牽制し、ボールを制して地上へ共に降り立つと、待ち受けるようにして敵が群がり、あっという間にマテリアルの激しい光が飛び交った。
ボールは……みんな奪うのを忘れたのか、そのまま転がり出てくるのをすかさず時音 ざくろ(ka1250)が拾って攻め立てる。
「必殺シュートで制させてもらうよ」
見知らぬ世界同士の交流なんて最初はすれ違いだからねっ。相手がマジの攻撃一辺倒だろうが、サッカーの試合らしい動きで魅せるんだ。
「悪いねっ」
襲い掛かる敵に対してざくろは横目でタイミングを見計らってマテリアルを結集させると、疾影士のスライディングを光の壁によって派手な衝撃音と共に跳ね飛ばした。
そして完全にフリーになったところで、ボールを高く飛ばすと超重錬成で巨大化させたレガースが空気を叩き切るようにしてオーバーヘッドシュートを決めて見せた。
「必っ殺っ!! 機導解放……アルケミックタイガー!」
マテリアルの力は龍のように暴れ狂い伏せたままのゴールをつきやぶ……
「そんな甘ぁないで!!」
ゴールの目前に巨大な土壁がそそり立った。
「負けるかぁっ!!!」
マテリアルの力を解放して気合いで押し込むざくろの気迫が勝ったか、土壁は爆散した。
が、そこで推進力を失ったボールはすぐさま相手のキーパーに取られて、そのままセンターに戻された。
「念願のサッカーの試合。キーパーのポジションを手に入れたぞ」
グラブをつけた手をパンっと叩きながら、クレール・ディンセルフ(ka0586)はゴールの前で力を貯めていた。間もなく敵がやってくる。そしたらゴールポストを掴んでの三角跳び、必殺WAKABAYASHIガードを見せる瞬間がくるのだ。準備も万端、イメージトレーニングも万全。
そして敵がDFの防衛を突破してくる。
「よっし、来い! 高さも機動力もばっちりです」
おもむろにゴールポストの上辺に掴まるクレール。だが、その次の瞬間。
「な、なにをするー!?」
揺れた。
違う、ゴールそのものが移動しているではないか!! 慌てて敵をぶん殴るも、キーパー役として武器を携帯してないのが災いして、まったくダメージを与えられずゴールを持ち運ばれてしまう。
そうこうしているうちに敵方の必殺シュートが飛んできた!
こうなりゃキーパーの意地を見せるのみっ
「でやぁぁぁぁっ!!!!」
ゴールポストを蹴ってマテリアルの光をまとったシュートを弾いたっ。
「ふぁいとっ ふぁいとっ てーいーこーくーっ」
「待ってて、龍園」
「追いつけ、帝国」
ジュードの掛け声と共に、帝国のチアガールチームが、両手のポンポンと脚を交互に上げてぴょんぴょんと飛び跳ね、リズムに合わせて軽快な歌で応援すると、赤地に金が刺繍どられた長いリボンがいっせいにはためいて、軍旗が翻るようだ。龍園チームからもエール交換が届く。
「みんな がんばってー」
そう思うはリラ(ka5679)も一緒。向こうにも友達がいるから。できればひとところだけ応援するのはしのびなくて。
祈りを込めるようにして全力で声とぽんぽんを上げた。
しかしこぼれ球はすぐさま敵に拾われ、またゴールがもっとシュートしやすい位置に移動していく。DF諸氏も必死になって振り払うがシュートは抑えきれない。
「うおぉぉぉぉ!!!」
かくなる上は仕方あるまい。
クレールはゴールポストの上辺に掴まったまま左右に体をふってその体でボールを受け止めた。そうでもしなければ運ばれるゴールに対処できない。これぞ人間の盾、いや守護神っ!
ゴブリンくらいならまとめて殺せるような必殺シュートが計4回。クレールは受け止めてみせた。
「が、ガッツが足りない……ぐふっ」
5回目のシュートにて、ついにクレールの手はポストから落ちてしまった。
「帝国の守護神が落ちたっ!!」
帝国、先制されるっ!!
「いけないっ」
メルは立ち上がると、用意しておいた救急箱を持ってクレールの元に走った。
「クレールさん大丈夫ですか!!」
クレールは気絶していた。
気を失っているのに、手はボールを受け止めようとしているのか浮いたままだ。その雄姿にメルは口元に手を当てながらも必死に治療をしていく。
「こんなになってまで……絶対に治して見せます。衛生兵、えいせいへーい」
その言葉にチアをしていたリラも駆け寄って回復する。
「クレールさん頑張ってください。貴方の命は、ガッツはまだ尽きていないからっ」
温かい力が注ぎ込まれ、真っ白に燃え尽きていたクレールの体に虹色の光が宿っていく。
「気持ちで負けるな。反撃に移るぞっ。相手のやり方はわかって来たんだ。確実に防げーっ」
ヴァイス(ka0364)は声を上げて鼓舞をしていく。
「こんなトンデモサッカーと思ったけど、なるほど」
サッカーならリアルブルーでもやっていた央崎 枢(ka5153)にはヴァイスの言葉に口元を微笑ませた。対処の方法がないわけじゃない。枢は手を大きく振って、できるだけ離れるように指示を出していく。ボールを持つ相手を積極的に狙う相手の戦法の欠点をついてやればいい。
相手の攻撃は再び苛烈を極める。
「シガレット!! 止めろっ」
ボールの行き先を見てヴァイスがシガレット=ウナギパイ(ka2884)に声をかける。
「言われなくとも分かってんぜェ」
もはや相手にとってはタダの戦闘。ならば止める手だてはいくらでもある。シガレットは聖導士とは思えない藪睨みでボールをキープするMFに立ちはだかった。同時に排除しようとするのが3人。
タイミングを見計らってシガレットはディヴァインウィルを展開した。
「ここは通行止めだ。他を当たってくんな」
まとめて移動を妨害して棒立ちにさせた瞬間、神代 誠一(ka2086)がすかさず横から飛び込んでボールを奪っていく。
「すみませんね、もらっていきますよ、っと」
怒涛のように襲い掛かる攻撃の数々をアクセルオーバーで残像を残してシガレットの背後へと消える誠一。
「行くなら前に行けってんだよ。全くよォ」
確かに一度下がるのは手は手だと思うのだが、傍若無人を極まる敵の攻撃を引き受けねばならないシガレットはちょっとばかり気が重たい。だが……
「まあ、行かせねェんだがよ」
何度でも。それが矜持ってもんだ。
相手の疾影士に真正面からぶつかりそうになった時、誠一は残念ながら自分の体を満たした力が収束していくのを感じ取っていた。このままぶつかってもボールをすんなり奪われるのは目に見えている。
「俺の役割はここまでなんで」
さらっとパスをしてロジャーに引き継いだ。さりげなさを演出して相手を悔しがらせたのを爽やかに笑ったあと。
「おーっ、任せとけっ!!!」
ロジャーはボールを受け取る思い切り、ボールを高く蹴った。
素早く空中へ飛ぶ疾影士。ボールの軌道に空中で受け止めて空戦一つ……だろうが。
「魔弾の射手ならぬ、魔球の蹴手の力を見せてやるぜ」
ロジャーがくるりと転身して指を鳴らすと、ボールは物理法則を無視していきなり降下したではないか。これには面喰う疾影士。そしてグラウンドに待ち構えていたのは。
「はーっはははは。すみませんね。ここからまた俺の出番のようです」
再び体をマテリアルで満たし、残像を浮かべた誠一が走り始めていた。策士という言葉が彼には正しいのかもしれないが、大半の見ている人は『ボールを奪われるのはどうしてもイヤだったんだろうなー』という感想であったが、彼は知る由もなく全力でコートを駆け抜けていった。
「準備は良いな」
「ふっ、言われずとも」
リュー・グランフェスト(ka2419)とレイア・アローネ(ka4082)はセンター近くで軽く握り拳を合わせた。
そしてリューが息を吐き出すとケイオスチューンによって炎をまとわせる。
「俺を超えるのは……俺だけだ」
両目から炎をたぎらせた力を一気に開放すると、そのまま勢いもつけずリューは空へと旅立った。まるでフライトパックをつけたロボットのようだ。そして同様にレイアも赤い炎をたぎらせ、回転しながら空へと旅立っていく。
「この技は私一人では成り立たぬ。しかし我がギルドに人事を尽くさぬものなどいないっ」
絶対の信頼と、呼吸を一つにして、レイアは蒼空へと飛び立った。
「あれは……いったい」
クレールを解放しながら、燃え盛る二つの炎を見上げてリラが呟いた。
「おおっと、こいつはいいところを狙ってきたね。力を溜めるには時間がかかる。だけれどもボールを抱えているとボールを守りながらという動作が必要になる。最大限の力を溜めるにはボールを持っていてはならない。そう、恋を語る瞬間には瞳だけを見つめるように、ね」
レオーネは炎によって生まれる風に髪をなびかせ、またスコアボードでその光を防ぎながら、高らかに語った。……実はレオーネも初めて見るんだけど!
「いっけぇぇぇぇぇ」
ボールを遥か高くで捉えたリューが爆炎と共にボールをリリースした。
縦、横、斜めの回転全てを加えた、台風の卵となったレイアの元に。どこにぶつかってこぼれてしまうかもしれないのに、それはきっちりレイアの足首に収まり、そしてっ。
「「グラン・レボリューーーーーーション!!!」」
最大まで溜めたマテリアルの力、そしてリューのマテリアルの力も上乗せされたシュートは爆炎となって、防ぐもの全てを貫き、そして伏せたゴールすら吹き飛ばした。
「ごぉぉぉぉぉぉーーーーーーーる!!!」
●選手交代……ではなく選手追加
「いい調子だ、がんばっていくぞーっ」
ヴァイスが声を上げて、再び戦いがスタートする。
次の瞬間ホイッスルがなった。
「ごぉぉぉぉぉぉーーーーーーーる!!」
敵がいきなり歓声を上げた。
はい?
ヴァイスが慌てて振り返ると、動き回っていたゴールはとうとうセンターラインの真ん前まで移動してきていた。蹴ったら即ゴールも仕方ないといえる距離。
「仕方ないわけあるかーっ!!!!」
帝国チームから一斉にブーイングがあがるが、確かにボールには手を触れていない。副師団長による判定は『あり』だった。
「あの御仁……、仲間を売るのは得意だったな、俺としたことが忘れていた」
ぴきぴきと浮き出た血管を今にも千切ってしまいそうなほどの冷たい顔色になってエアルドフリスがぼやいた。シグルドは劉 厳靖(ka4574)の指示によって後ろに待機して、こちらがぼこぼこになろうがスキルがそろそろ尽きてしまう心配をしているというのに、のんびりしているのだから。
しかも続いてアースウォールを放って横入りすら許さないスタイルにエアルドフリスは完全に隔離された形となってしまった。
「少々オイタが過ぎるようですね……」
ユメリアはふぅとため息をついた。ルール無用とはいえ節度と言うものは必要である。
「許しがたいよね」
ジュードもキレていた。
こんなサッカーがまかり通っていいわけがない。というか、エアさんを隠すだなんて万死に値する。ユニフォーム姿のエアさんは貴重なんだぞ、わかってるのか。
「よし、その想いぶつけてきな。おおい選手こう……違うな、選手追加だ」
厳靖がにやりと笑うとそう宣言し、今までチアをしていたジュードやユメリア、リラが観客席からコートへと移動してきた。
「♪共に戦おう 誇りと夢を抱いて」
めいがくるりと回って踊り、歌声が大きく響く中、ユメリアがまずアースウォールの内側に香水瓶を放った。息もできない香りに包まれる。詠唱は止まり、走っていた選手は酸欠でのたうち回る中、香水には十分慣れているジュードがボールを奪い天空へと打ち上げる。
「とめ……誰か止め……」
香りの爆撃を受けた相手チームのの不利に加えて、めいの歌の支援を受けたチアガールチームの動きはすさまじく誰も止められない。
「サッカーはこんな壁を作る競技じゃ、あ、り、ま、せ、んっ!!!」
リラがその間を駆け抜け、アースウォールを次々と蹴り砕いていく。
「いいですか、貴方たちの振る舞いは後世まで龍園に残るのですよ」
そして負けじと支援射撃をしようとした相手をディヴァインウィルで押しとどめてユメリアが説教を入れた。
敵陣は一時ほぼ身動きを完全に停止させられた姿の恐ろしさに、こちらのチームも恐怖に震えた。このチアチーム……怖ぇ。
●
「よし、いい頃合いだ。あんがとよ」
チアガールたちが応援席へと引き返すと、続いて厳靖は控えに顔を向けて「じゃ、頼むぜ」と声をかけた。そして立ち上がったのは……。
「きゃー、シグルドー!!!」
未悠が黄色い悲鳴を上げた。
「む」
反対に面白くない顔をするのはエアルドフリス。今日まだ良いところ見せてないのに。これは……いたし方あるまい。
「お、空気が変わった」
枢は微妙なチームの、そして相手方も弱冠空気が変わったことを読んで、タイムを入れると、円陣の中央にPDAを動かした。
「相手の動きは選手を仕留めようというやり方が多いから、積極的にパス回しすることで対処できると思う。パス回しは基本MFでやろう。ボールが奪われたらDFで防ぐ。この仕事をきっちりすることで相手を圧倒できるはずだ。ラフプレイはリアルブルーでもあったけど戦略で淘汰されたんだしさ」
さすがはサッカー経験者の枢。の言葉に全員が頷く。
「残り時間も少ない。各自自分の仕事をしっかりやっていこうぜ」
フィールドで戦いながら、これだけの戦況分析ができるとは。枢の軍師っぷりに全員が胸を預ける気持ちを一つにした。
「では均等な勝負にせんといかんねぇ」
コートの半分は使われていなかった。移動しまくっていた帝国側ゴールはついに龍園側ゴールの目の前に立ちはだかっていたからだ。エアルドフリスはふむ。と肩を鳴らす。
「あー、副師団長殿にはぜひ頑張ってもらいたいところですが、よろしいかな」
ちょうどいい具合に、ゴールを動かした相手はシグルドを目で追っている。
ということでシグルドの先陣を切って帝国のゴールを操る闘狩人に襲い掛かる。
「悪いわね、今日はご褒美の為に、あなたとは敵対させてもらうわ」
正面からの未悠のキックは受け止められた。だが、次の瞬間、クレールが補修用の網を投げてゴールを捕獲する。
「このゴールは誰にも渡しませんっ、SIMADUの名においてっ。メルさん、回復ありがとっ」
自分でもどこがSIMADUなのかはわかっていないけれど、そんなものはものの勢いだ。
そのままゴールポストを網でつかむとアルケミックフライトでそのまま空中へとジャンプして移動していく。それを追いすがるのを止めるのはシグルドだ。
「悪いね」
「悪いね」
シグルドとエアルドフリスの声が重なった。シグルドはもちろん闘狩人に向けて、そしてエアルドフリスの方は。
そしてエアルドフリスは印を結ぶと、シグルドと闘狩人をまとめて六華鎖にて封じ込めた。
「活躍の場がなくなると物騒になる、俺だけのチアリーダーがいるもんでね」
今まで溜めた分の返礼だ。
「ボール、ボールはどこだっ」
そのドタバタに目が良き、全員が次の瞬間ボールを見失っていた。
「ああ、もう戦いが済んじゃったのか。もう少しやり合ってくれると思ったのに」
全員が改めて気配を察知し始めて、ようやく空気からふわりと現れるようにして存在を露にしたユリアンが呟いた。そしてその目の前には今回は敵同士となった友人が前を阻む。
「見つかっちゃったか」
ユリアンはすぐさま空中にも関わらず、急角度で方向を変えて回避する。
「逃がさないかんねっ」
と、勢い込む相手にユリアンは手を上げて降参のポーズをとった。
ボールは方向を変えた瞬間に逆に逃がしてある。これぞ虚をうつ姿勢、無影の技だ。
しかし、そのボールはあえなく敵に掴まってしまった。相手もガウスジェイルでボールをコントロールしそのままパス。そして闘狩人により爆発力を伴った攻撃で守備を無理やりこじ開けてくる。
「球遊びでもやり取りは一緒のようだな。なら道は……あるっ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は攻撃を真正面からこの攻撃に飛び込む。マテリアルの力を脚で受け止め、吹き飛びそうになるも意志は……折れない。
「そのまま返して……やるよっ!! 必殺シュート返し!!!!」
マテリアルを込めて全力で押し返すっ。
乗せられた分の力もまとめてレイオスはボールを叩き返すと、はるか果てで血潮が飛んだ。
「よし、そのまま押し返すぞっ」
一人をカウンターでダウンさせたとしても、サッカーとしての試合はこちらが追いかける形だし、ボールは相手に渡ったままだ。箒に乗って空中で移動する相手のドリブルに対し、ざくろがジェットブーツで突撃した。これはかわされたが空中での回避でバランスを崩してボールは地面に落ちた。
そこに群がる選手をアルトが一閃して蹴散らしていく。
「空も大地も、私には関係ない」
相手選手を踏み台にして立体空間全体を支配する鬼神のごとき戦いで敵の足を止めたが、
「もらった!!」
ナイトカーテンで難を逃れた相手チームの選手が歓声を上げ、そのまま必殺、分身ボールでゴールを狙った。
しかし、その瞬間、桜のはなびらがボールを包んだ。
「サクラディフェンス!! なんてね」
桜幕符を発動させた龍堂 神火(ka5693)がにこりと笑うと、すぐさまスライディングでそのボールを奪い去った。その一瞬の事にシュートを仕掛けていた相手はまだぼうとっしたままだ。
「よっし、返せ返せ」
大きく手を振るヴァイスに龍堂が手を上げて答える。
すると相手はヴァイスに行くと読んだのか、一斉にヴァイスへ、また龍堂へと攻撃を仕掛けてきた。
「悪いな。もうそっちの攻撃は読めてんだ!!」
ヴァイスは交錯するマテリアルをコントロールしていなすと、そのまま相手を弾き飛ばした。また龍堂も十分その攻撃を読んでいた。準備型の符術士をなめてもらっては困る。
「残念だけど、そこは通れないよ!絡みつけ、ジャルガ!」
パスの為に移動したのではなく、そこにはそうした攻撃者を阻む装火竜を準備しておいたのだ。
溶岩竜に飲み込まれる相手を一瞥すると、龍堂はフリーの特性を活かしてパスを出した。
「よぉし、やっと俺の出番だな」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)がそのボールを見上げて、気炎を上げて助走をつけた。
「ここで絶対良いところみせてやる」
リクもまたサイドから上がってボールをおいかけ始める。
「俺の道を邪魔する奴は、わかってんだろうな」
「ボルちゃんの邪魔をする気はないけど、ここは僕が決めるのっ」
出会った二人は炎と電撃を散らしながらぶつかり合う。そこに飛び込もうとする敵などいるはずもない。というか飛び込もうとする奴らはリューとアルトに吹き飛ばされた。
「おーれーのーっ」
「ぼーくーのーっ」
二人の距離がさらに縮まって肩を押し合い、頭をごりごりせめぎ合う。
そんな二人の目の前にボールが良いタイミングで振ってくる。
「頼んだよ」
ユリアンが真上からボールをホールドして、そんな2人の熱を最高潮にあわせる位置でセッティングしていく。あの二人ならきっとやってくれるはず。
そしてその目論見通り。二人のシュートのタイミングは完全に同じとなった。
「でぇりぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!」
そして二人は叫んだ。
「「ツインドライブ ショットーーーーーっ!!!!」」
龍園ゴールの網が吹き飛んだ。
「やれやれ、素直じゃないんだから」
結局一つになって技を叫ぶ当たり。ユリアンはハイタッチを交わしながら笑った。
「なんとしても取り返すわよっ」
敵もますます躍起になって襲い掛かってくる。
「くっ、シグルド、早く……ふぬーっ」
から解き放とうと必死になる未悠。そんな2人に攻撃の嵐がやってくる。
「未悠さん、いったん退避」
「できるわけないわ。シグルドを置いてなんて……いけないっ」
敵の刺突一閃が迫るのを感じても、アーシュラが声をかけても未悠は絶対にあきらめなかった。
そして、肉を切る斬撃音が響いた。
「!!!」
未悠が目を見開いた。
「悪い子にはお仕置きが必要かな」
封印が解けたシグルドが未悠を庇ったのだ。
それを見ていたアーシュラはにやりと笑って、機導を二人に注ぎ込むと、マテリアルの力が氷の粒に反射して煙のように2人を包む。
「ねえシグルド。お仕置きよりもご褒美よ。もし私が活躍出来たら、ご褒美……くれる?」
「できるならね」
その言葉に霧は爆発的に膨れ上がり、そして爆炎と姿を変えた。
恋に燃える女、未悠。誕生。
「いけるっ、いや、絶っっっっ対!!!! やるっ」
アーシュラはニヒヒと笑うと今度はシグルドにもマテリアルを送り込んだ。
二人は渦巻き霧はペガサスとなってコートを走った。それは敵も笛の音も弾き返し、
「二人の愛の力をみなさいっ。ラブラブ 天 號 拳 !!!! ふぁいあーーーーーっ」
ゴールまで一直線に飛んでいった。
「やったわ! ご褒美は絶対よ。えとねえとね」
もじもじする未悠に、レオーネがこほんとスコアボードを振って話し出した。
「残念だが、レディ。今のはホイッスルの後だから無効なんだ」
「あー、残念だなあ。ご褒美はまた今度かな」
へたりこむ未悠に厳靖は頭をかいた。
「ちっとばかり選手追加が遅すぎたかなぁ」
これも全部計算済みだったが、一秒だけ足りなかったのは本当に残念である。
●ハーフタイム
「お疲れさまでした。痛いところはないですか」
リラは控室に入ると、チャクラヒールで傷を負った選手を癒していく。
「戦士たちに休息を、安らかなれ」
またユメリアが歌うと、キラキラと光が生まれ、まとめて傷を癒していき、疲れを取っていくが、誠一はそのどちらの回復を受けてもまだ回復しきれなかった。
「大丈夫?」
「み、水……」
マテリアルを完全に放出することも生死を分けたような戦いも何回も経験してるが、ちょっとハッスルしすぎたようだ。
「もう。自分のペースを掴めないようじゃ、ハンターとしても大変ですよ」
龍堂が自分に用意された濡れタオルを額に当ててやりながら話しかけると誠一はうーんと唸った。
「まあいいじゃねえの。悔いのないよう全力を尽くすってなァ、どこでもいえることだ」
シガレットは煙草に火をつけながらそう話した。と、その煙草をレイアに取り上げられる。
「なら、その煙草は止めとくんだな。体力の回復が遅れるぞ」
「そういえばクレールのヤツはどうした。あいつだいぶんダメージ食らってたはずだが」
リューが周りを見ても守護神の姿は見えない。
「あいつならゴールネットの補修に行ったぜ。綺麗なゴールだから守る価値があるとかなんとか」
ボルディアはミネラルウォーターを頭から被った後、残りを誠一の口に押し込んだ。
「さぁ、皆さん。お疲れさまでしたっ。お料理の用意もできていますよーっ」
そこに大量のお弁当を持ったメルの元気な声が響くと、疲れ切った選手たちの顔色もみるみる輝いた。
「ひゃー、ほんと嬉しいな。ねえねえ、俺ロジャー。もし良かったらさ今度……」
料理をがっつくのもそこそこにハッパをかけるロジャーにメルは手を突き出して首を振った。
「残念ながらメルは人妻なので、それには乗れません。でも……トリックエンドを使ったボール回しは素敵でしたよ」
飛び切りの笑顔にロジャーは飛び跳ねた。
「さあて、後半はどうなりますかね」
レオーネも談笑に交わりつつ、自分のスコアボードに目をやった。
2-2
引き分けのまま、試合は後半へとうつる。
「どちらの方々にも楽しいひと時になりますように」
いつもはゆったりした吟遊詩人らしい衣装のユメリア(ka7010)も、赤いシャツにミニスカート、金色のリボンで髪をまとめた姿で、大いに目を引いた。ちょっと恥ずかしい……。
「みんなー、がんばれー!!」
しかしやっぱりみんなを虜にするのは当チームのチアリーダー、ジュード・エアハート(ka0410)だ。この衣装も彼考案のものであるし、試合開始前から、くるんくるんと踊りながら花をまき散らす様子は、両チームの胸を躍らせるのに十分な効果があった。
「いえーっ」
ジュードは目線を一手に集めたところでポンポンを上に掲げる中、ユメリアにウィンクしてみせた。恥ずかしがることないよっ。ってね。
「あれ、サッカーの試合って言ってなかったっけ……何この重武装……大規模と間違えてない?」
フラワーシャワー中、キヅカ・リク(ka0038)は選手という役割であるはずのハンターたちの武装に舌を巻いた。どうすんの、これ。
「えとえと、がんばってー! なのですっ」
しかし唖然とするのもつかの間。見目麗しい面々がお揃いのチアガール衣装でフラワーシャワーを贈ってくれると男として反射的に何でもない風を装ってしまうし。ずっと仲良くしてる羊谷 めい(ka0669)がチアガール姿がもう。ジャンプする度たゆんたゆんする姿がもう。
「お、おう」
「うおー、帝国チームのチアガールめっちゃレベル高ぇ。俺頑張っちゃおうかな」
めいの目線と応援に気をよくしたのはリクの横にいたロジャー=ウィステリアランド(ka2900)も同じで、盛大に手を振ってこたえる。
「あの子めっちゃ可愛いなー。見た? 胸のたゆんたゆんしてるとこ」
「!!」
見てたけどっ!! めいちゃんの応援はお前のためじゃねぇっ!!!
思わず牙をむいてしまいそうになるリクだが、そっと言葉を飲み込んで思い直した。仲間同士で喧嘩は良くない。ならばむしろカッコイイ姿を見せてめいちゃんの期待に応えるべきだっ。
そんなチアガールたちが高瀬 未悠(ka3199)の声に合わせて軽快なダンスを踊り出す。
「「SDA・SKS!」」
リズムよく前後にステップしたあと、くるりとターンしてぽんぽんが上がってポンポンがふりふりして帝国チームに応援が降り注ぐ。
「ジュードの姿……最高じゃあないか。副師団長殿のチームに参加してしまったこともちょっと悩んだが、間違いではなかったな」
こちらデレデレ第2号のエアルドフリス(ka1856)。こら、振り上げた足をアオリ視点で覗き込んじゃダメだ。ジュードもそれを分かりながらオマケしちゃダメ。
「まあ……無理しない程度にね」
そんな師匠に声をかけるユリアン(ka1664)はボールをリフティングでつま先から膝、肩、頭とまるでボールと親しみながら、ボールの硬さや反応を感じ取っていた。
楽しむことが重要だし、熱くなりすぎて試合に負けたくもない。周りに流されずにやることをやっていくんだ。
そんなユリアンの耳に未悠とアーシュラ・クリオール(ka0226)の会話が耳に飛び込む。
「ねぇ、そのSDAとSKSって何の略? 『シグルドチーム・ドンドン・アタック』とか『ステキな・キックよ・冴えわたれ 』とか?」
「違うわよ。『シグルド・大好き・愛してる 』と『幸せにするから・結婚して・シグルド 』よっ」
え、それチアチーム全員で言ったの?
ユリアンがはっとして顔を上げると、師匠の顔がすごいことになっていた。
アーシュラはケタケタ笑っていたが、なんかもう今からやばい空気があちこちで発生している気がする。
「まあ……いいか」
ユリアンは未来の風を感じつつ、ボールをヘディングして空高く飛ばした。
●試合開始。
真っ先にボールを得たリクはいきなり帯電するように光をまとうと持ちうる機導力を全開にして、マテリアルをボールに収束させる。誰ださっきまで「え、マジですか」みたいなことを言ってたやつは。
そして、まだコートのど真ん中にも拘わらず、いきなりビームのようなシュートをぶちかました。
まずは決定力のアピール。全部の目をくぎ付けにしてやる!!
雷球と化したボールは草を薙ぎながら一直線にゴールへ向かった。……が、突如肝心のゴールがパタリと寝かせられてしまったではないか。
「はぁっ!!!?」
外角高めを狙ったシュートはそのままゴールの上をすっ飛んでいき、壁を黒こげにしただけで終わった。
「あんなんありかよっ!!」
激しい抗議だが、シグルドは笑って首を振るばかり。
「君は歪虚がルール違反したら抗議するのかい?」
……なるほど、あれがシグルドか。血管を浮き上がらせたリクはすぐさま走り出した。
飛んでくる烈風。剣撃、魔法にビーム。
サッカーとは何なのだろうか。岩井崎 メル(ka0520)はお弁当とお薬を大量に持ってきた自分の読みの良さを実感しつつも、ちょっとばかり哲学的思考に陥っていた。
「これってサッカーっていうより、その起源だよね」
「その通り。スポーツっていうのはね、殺し合いの決着を好まなかった紳士の遊びさ。相手を殺さないとわかりあっている気の置けない仲間同士なら、こうしたものだってアリさ」
レオーネ・ティラトーレ(ka7249)は唖然とするメルにウィンクをしてそう解説してあげた。
「なるほど……なるほど?」
メルが小首をかしげつつ頷いた。
「納得しかねる」
応援席のやり取りを聞いているはずもないはずの、戦場の真っ只中にいるアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がそう答えて、踏鳴で勢いをつけて跳躍すると、蒼い斬撃を躱した。
「直接攻撃してくる人間はあんまりいないと思ったんだがな」
アルトは空中で体をひねって回転すると鞭を放って、剣撃を操る女を牽制し、ボールを制して地上へ共に降り立つと、待ち受けるようにして敵が群がり、あっという間にマテリアルの激しい光が飛び交った。
ボールは……みんな奪うのを忘れたのか、そのまま転がり出てくるのをすかさず時音 ざくろ(ka1250)が拾って攻め立てる。
「必殺シュートで制させてもらうよ」
見知らぬ世界同士の交流なんて最初はすれ違いだからねっ。相手がマジの攻撃一辺倒だろうが、サッカーの試合らしい動きで魅せるんだ。
「悪いねっ」
襲い掛かる敵に対してざくろは横目でタイミングを見計らってマテリアルを結集させると、疾影士のスライディングを光の壁によって派手な衝撃音と共に跳ね飛ばした。
そして完全にフリーになったところで、ボールを高く飛ばすと超重錬成で巨大化させたレガースが空気を叩き切るようにしてオーバーヘッドシュートを決めて見せた。
「必っ殺っ!! 機導解放……アルケミックタイガー!」
マテリアルの力は龍のように暴れ狂い伏せたままのゴールをつきやぶ……
「そんな甘ぁないで!!」
ゴールの目前に巨大な土壁がそそり立った。
「負けるかぁっ!!!」
マテリアルの力を解放して気合いで押し込むざくろの気迫が勝ったか、土壁は爆散した。
が、そこで推進力を失ったボールはすぐさま相手のキーパーに取られて、そのままセンターに戻された。
「念願のサッカーの試合。キーパーのポジションを手に入れたぞ」
グラブをつけた手をパンっと叩きながら、クレール・ディンセルフ(ka0586)はゴールの前で力を貯めていた。間もなく敵がやってくる。そしたらゴールポストを掴んでの三角跳び、必殺WAKABAYASHIガードを見せる瞬間がくるのだ。準備も万端、イメージトレーニングも万全。
そして敵がDFの防衛を突破してくる。
「よっし、来い! 高さも機動力もばっちりです」
おもむろにゴールポストの上辺に掴まるクレール。だが、その次の瞬間。
「な、なにをするー!?」
揺れた。
違う、ゴールそのものが移動しているではないか!! 慌てて敵をぶん殴るも、キーパー役として武器を携帯してないのが災いして、まったくダメージを与えられずゴールを持ち運ばれてしまう。
そうこうしているうちに敵方の必殺シュートが飛んできた!
こうなりゃキーパーの意地を見せるのみっ
「でやぁぁぁぁっ!!!!」
ゴールポストを蹴ってマテリアルの光をまとったシュートを弾いたっ。
「ふぁいとっ ふぁいとっ てーいーこーくーっ」
「待ってて、龍園」
「追いつけ、帝国」
ジュードの掛け声と共に、帝国のチアガールチームが、両手のポンポンと脚を交互に上げてぴょんぴょんと飛び跳ね、リズムに合わせて軽快な歌で応援すると、赤地に金が刺繍どられた長いリボンがいっせいにはためいて、軍旗が翻るようだ。龍園チームからもエール交換が届く。
「みんな がんばってー」
そう思うはリラ(ka5679)も一緒。向こうにも友達がいるから。できればひとところだけ応援するのはしのびなくて。
祈りを込めるようにして全力で声とぽんぽんを上げた。
しかしこぼれ球はすぐさま敵に拾われ、またゴールがもっとシュートしやすい位置に移動していく。DF諸氏も必死になって振り払うがシュートは抑えきれない。
「うおぉぉぉぉ!!!」
かくなる上は仕方あるまい。
クレールはゴールポストの上辺に掴まったまま左右に体をふってその体でボールを受け止めた。そうでもしなければ運ばれるゴールに対処できない。これぞ人間の盾、いや守護神っ!
ゴブリンくらいならまとめて殺せるような必殺シュートが計4回。クレールは受け止めてみせた。
「が、ガッツが足りない……ぐふっ」
5回目のシュートにて、ついにクレールの手はポストから落ちてしまった。
「帝国の守護神が落ちたっ!!」
帝国、先制されるっ!!
「いけないっ」
メルは立ち上がると、用意しておいた救急箱を持ってクレールの元に走った。
「クレールさん大丈夫ですか!!」
クレールは気絶していた。
気を失っているのに、手はボールを受け止めようとしているのか浮いたままだ。その雄姿にメルは口元に手を当てながらも必死に治療をしていく。
「こんなになってまで……絶対に治して見せます。衛生兵、えいせいへーい」
その言葉にチアをしていたリラも駆け寄って回復する。
「クレールさん頑張ってください。貴方の命は、ガッツはまだ尽きていないからっ」
温かい力が注ぎ込まれ、真っ白に燃え尽きていたクレールの体に虹色の光が宿っていく。
「気持ちで負けるな。反撃に移るぞっ。相手のやり方はわかって来たんだ。確実に防げーっ」
ヴァイス(ka0364)は声を上げて鼓舞をしていく。
「こんなトンデモサッカーと思ったけど、なるほど」
サッカーならリアルブルーでもやっていた央崎 枢(ka5153)にはヴァイスの言葉に口元を微笑ませた。対処の方法がないわけじゃない。枢は手を大きく振って、できるだけ離れるように指示を出していく。ボールを持つ相手を積極的に狙う相手の戦法の欠点をついてやればいい。
相手の攻撃は再び苛烈を極める。
「シガレット!! 止めろっ」
ボールの行き先を見てヴァイスがシガレット=ウナギパイ(ka2884)に声をかける。
「言われなくとも分かってんぜェ」
もはや相手にとってはタダの戦闘。ならば止める手だてはいくらでもある。シガレットは聖導士とは思えない藪睨みでボールをキープするMFに立ちはだかった。同時に排除しようとするのが3人。
タイミングを見計らってシガレットはディヴァインウィルを展開した。
「ここは通行止めだ。他を当たってくんな」
まとめて移動を妨害して棒立ちにさせた瞬間、神代 誠一(ka2086)がすかさず横から飛び込んでボールを奪っていく。
「すみませんね、もらっていきますよ、っと」
怒涛のように襲い掛かる攻撃の数々をアクセルオーバーで残像を残してシガレットの背後へと消える誠一。
「行くなら前に行けってんだよ。全くよォ」
確かに一度下がるのは手は手だと思うのだが、傍若無人を極まる敵の攻撃を引き受けねばならないシガレットはちょっとばかり気が重たい。だが……
「まあ、行かせねェんだがよ」
何度でも。それが矜持ってもんだ。
相手の疾影士に真正面からぶつかりそうになった時、誠一は残念ながら自分の体を満たした力が収束していくのを感じ取っていた。このままぶつかってもボールをすんなり奪われるのは目に見えている。
「俺の役割はここまでなんで」
さらっとパスをしてロジャーに引き継いだ。さりげなさを演出して相手を悔しがらせたのを爽やかに笑ったあと。
「おーっ、任せとけっ!!!」
ロジャーはボールを受け取る思い切り、ボールを高く蹴った。
素早く空中へ飛ぶ疾影士。ボールの軌道に空中で受け止めて空戦一つ……だろうが。
「魔弾の射手ならぬ、魔球の蹴手の力を見せてやるぜ」
ロジャーがくるりと転身して指を鳴らすと、ボールは物理法則を無視していきなり降下したではないか。これには面喰う疾影士。そしてグラウンドに待ち構えていたのは。
「はーっはははは。すみませんね。ここからまた俺の出番のようです」
再び体をマテリアルで満たし、残像を浮かべた誠一が走り始めていた。策士という言葉が彼には正しいのかもしれないが、大半の見ている人は『ボールを奪われるのはどうしてもイヤだったんだろうなー』という感想であったが、彼は知る由もなく全力でコートを駆け抜けていった。
「準備は良いな」
「ふっ、言われずとも」
リュー・グランフェスト(ka2419)とレイア・アローネ(ka4082)はセンター近くで軽く握り拳を合わせた。
そしてリューが息を吐き出すとケイオスチューンによって炎をまとわせる。
「俺を超えるのは……俺だけだ」
両目から炎をたぎらせた力を一気に開放すると、そのまま勢いもつけずリューは空へと旅立った。まるでフライトパックをつけたロボットのようだ。そして同様にレイアも赤い炎をたぎらせ、回転しながら空へと旅立っていく。
「この技は私一人では成り立たぬ。しかし我がギルドに人事を尽くさぬものなどいないっ」
絶対の信頼と、呼吸を一つにして、レイアは蒼空へと飛び立った。
「あれは……いったい」
クレールを解放しながら、燃え盛る二つの炎を見上げてリラが呟いた。
「おおっと、こいつはいいところを狙ってきたね。力を溜めるには時間がかかる。だけれどもボールを抱えているとボールを守りながらという動作が必要になる。最大限の力を溜めるにはボールを持っていてはならない。そう、恋を語る瞬間には瞳だけを見つめるように、ね」
レオーネは炎によって生まれる風に髪をなびかせ、またスコアボードでその光を防ぎながら、高らかに語った。……実はレオーネも初めて見るんだけど!
「いっけぇぇぇぇぇ」
ボールを遥か高くで捉えたリューが爆炎と共にボールをリリースした。
縦、横、斜めの回転全てを加えた、台風の卵となったレイアの元に。どこにぶつかってこぼれてしまうかもしれないのに、それはきっちりレイアの足首に収まり、そしてっ。
「「グラン・レボリューーーーーーション!!!」」
最大まで溜めたマテリアルの力、そしてリューのマテリアルの力も上乗せされたシュートは爆炎となって、防ぐもの全てを貫き、そして伏せたゴールすら吹き飛ばした。
「ごぉぉぉぉぉぉーーーーーーーる!!!」
●選手交代……ではなく選手追加
「いい調子だ、がんばっていくぞーっ」
ヴァイスが声を上げて、再び戦いがスタートする。
次の瞬間ホイッスルがなった。
「ごぉぉぉぉぉぉーーーーーーーる!!」
敵がいきなり歓声を上げた。
はい?
ヴァイスが慌てて振り返ると、動き回っていたゴールはとうとうセンターラインの真ん前まで移動してきていた。蹴ったら即ゴールも仕方ないといえる距離。
「仕方ないわけあるかーっ!!!!」
帝国チームから一斉にブーイングがあがるが、確かにボールには手を触れていない。副師団長による判定は『あり』だった。
「あの御仁……、仲間を売るのは得意だったな、俺としたことが忘れていた」
ぴきぴきと浮き出た血管を今にも千切ってしまいそうなほどの冷たい顔色になってエアルドフリスがぼやいた。シグルドは劉 厳靖(ka4574)の指示によって後ろに待機して、こちらがぼこぼこになろうがスキルがそろそろ尽きてしまう心配をしているというのに、のんびりしているのだから。
しかも続いてアースウォールを放って横入りすら許さないスタイルにエアルドフリスは完全に隔離された形となってしまった。
「少々オイタが過ぎるようですね……」
ユメリアはふぅとため息をついた。ルール無用とはいえ節度と言うものは必要である。
「許しがたいよね」
ジュードもキレていた。
こんなサッカーがまかり通っていいわけがない。というか、エアさんを隠すだなんて万死に値する。ユニフォーム姿のエアさんは貴重なんだぞ、わかってるのか。
「よし、その想いぶつけてきな。おおい選手こう……違うな、選手追加だ」
厳靖がにやりと笑うとそう宣言し、今までチアをしていたジュードやユメリア、リラが観客席からコートへと移動してきた。
「♪共に戦おう 誇りと夢を抱いて」
めいがくるりと回って踊り、歌声が大きく響く中、ユメリアがまずアースウォールの内側に香水瓶を放った。息もできない香りに包まれる。詠唱は止まり、走っていた選手は酸欠でのたうち回る中、香水には十分慣れているジュードがボールを奪い天空へと打ち上げる。
「とめ……誰か止め……」
香りの爆撃を受けた相手チームのの不利に加えて、めいの歌の支援を受けたチアガールチームの動きはすさまじく誰も止められない。
「サッカーはこんな壁を作る競技じゃ、あ、り、ま、せ、んっ!!!」
リラがその間を駆け抜け、アースウォールを次々と蹴り砕いていく。
「いいですか、貴方たちの振る舞いは後世まで龍園に残るのですよ」
そして負けじと支援射撃をしようとした相手をディヴァインウィルで押しとどめてユメリアが説教を入れた。
敵陣は一時ほぼ身動きを完全に停止させられた姿の恐ろしさに、こちらのチームも恐怖に震えた。このチアチーム……怖ぇ。
●
「よし、いい頃合いだ。あんがとよ」
チアガールたちが応援席へと引き返すと、続いて厳靖は控えに顔を向けて「じゃ、頼むぜ」と声をかけた。そして立ち上がったのは……。
「きゃー、シグルドー!!!」
未悠が黄色い悲鳴を上げた。
「む」
反対に面白くない顔をするのはエアルドフリス。今日まだ良いところ見せてないのに。これは……いたし方あるまい。
「お、空気が変わった」
枢は微妙なチームの、そして相手方も弱冠空気が変わったことを読んで、タイムを入れると、円陣の中央にPDAを動かした。
「相手の動きは選手を仕留めようというやり方が多いから、積極的にパス回しすることで対処できると思う。パス回しは基本MFでやろう。ボールが奪われたらDFで防ぐ。この仕事をきっちりすることで相手を圧倒できるはずだ。ラフプレイはリアルブルーでもあったけど戦略で淘汰されたんだしさ」
さすがはサッカー経験者の枢。の言葉に全員が頷く。
「残り時間も少ない。各自自分の仕事をしっかりやっていこうぜ」
フィールドで戦いながら、これだけの戦況分析ができるとは。枢の軍師っぷりに全員が胸を預ける気持ちを一つにした。
「では均等な勝負にせんといかんねぇ」
コートの半分は使われていなかった。移動しまくっていた帝国側ゴールはついに龍園側ゴールの目の前に立ちはだかっていたからだ。エアルドフリスはふむ。と肩を鳴らす。
「あー、副師団長殿にはぜひ頑張ってもらいたいところですが、よろしいかな」
ちょうどいい具合に、ゴールを動かした相手はシグルドを目で追っている。
ということでシグルドの先陣を切って帝国のゴールを操る闘狩人に襲い掛かる。
「悪いわね、今日はご褒美の為に、あなたとは敵対させてもらうわ」
正面からの未悠のキックは受け止められた。だが、次の瞬間、クレールが補修用の網を投げてゴールを捕獲する。
「このゴールは誰にも渡しませんっ、SIMADUの名においてっ。メルさん、回復ありがとっ」
自分でもどこがSIMADUなのかはわかっていないけれど、そんなものはものの勢いだ。
そのままゴールポストを網でつかむとアルケミックフライトでそのまま空中へとジャンプして移動していく。それを追いすがるのを止めるのはシグルドだ。
「悪いね」
「悪いね」
シグルドとエアルドフリスの声が重なった。シグルドはもちろん闘狩人に向けて、そしてエアルドフリスの方は。
そしてエアルドフリスは印を結ぶと、シグルドと闘狩人をまとめて六華鎖にて封じ込めた。
「活躍の場がなくなると物騒になる、俺だけのチアリーダーがいるもんでね」
今まで溜めた分の返礼だ。
「ボール、ボールはどこだっ」
そのドタバタに目が良き、全員が次の瞬間ボールを見失っていた。
「ああ、もう戦いが済んじゃったのか。もう少しやり合ってくれると思ったのに」
全員が改めて気配を察知し始めて、ようやく空気からふわりと現れるようにして存在を露にしたユリアンが呟いた。そしてその目の前には今回は敵同士となった友人が前を阻む。
「見つかっちゃったか」
ユリアンはすぐさま空中にも関わらず、急角度で方向を変えて回避する。
「逃がさないかんねっ」
と、勢い込む相手にユリアンは手を上げて降参のポーズをとった。
ボールは方向を変えた瞬間に逆に逃がしてある。これぞ虚をうつ姿勢、無影の技だ。
しかし、そのボールはあえなく敵に掴まってしまった。相手もガウスジェイルでボールをコントロールしそのままパス。そして闘狩人により爆発力を伴った攻撃で守備を無理やりこじ開けてくる。
「球遊びでもやり取りは一緒のようだな。なら道は……あるっ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は攻撃を真正面からこの攻撃に飛び込む。マテリアルの力を脚で受け止め、吹き飛びそうになるも意志は……折れない。
「そのまま返して……やるよっ!! 必殺シュート返し!!!!」
マテリアルを込めて全力で押し返すっ。
乗せられた分の力もまとめてレイオスはボールを叩き返すと、はるか果てで血潮が飛んだ。
「よし、そのまま押し返すぞっ」
一人をカウンターでダウンさせたとしても、サッカーとしての試合はこちらが追いかける形だし、ボールは相手に渡ったままだ。箒に乗って空中で移動する相手のドリブルに対し、ざくろがジェットブーツで突撃した。これはかわされたが空中での回避でバランスを崩してボールは地面に落ちた。
そこに群がる選手をアルトが一閃して蹴散らしていく。
「空も大地も、私には関係ない」
相手選手を踏み台にして立体空間全体を支配する鬼神のごとき戦いで敵の足を止めたが、
「もらった!!」
ナイトカーテンで難を逃れた相手チームの選手が歓声を上げ、そのまま必殺、分身ボールでゴールを狙った。
しかし、その瞬間、桜のはなびらがボールを包んだ。
「サクラディフェンス!! なんてね」
桜幕符を発動させた龍堂 神火(ka5693)がにこりと笑うと、すぐさまスライディングでそのボールを奪い去った。その一瞬の事にシュートを仕掛けていた相手はまだぼうとっしたままだ。
「よっし、返せ返せ」
大きく手を振るヴァイスに龍堂が手を上げて答える。
すると相手はヴァイスに行くと読んだのか、一斉にヴァイスへ、また龍堂へと攻撃を仕掛けてきた。
「悪いな。もうそっちの攻撃は読めてんだ!!」
ヴァイスは交錯するマテリアルをコントロールしていなすと、そのまま相手を弾き飛ばした。また龍堂も十分その攻撃を読んでいた。準備型の符術士をなめてもらっては困る。
「残念だけど、そこは通れないよ!絡みつけ、ジャルガ!」
パスの為に移動したのではなく、そこにはそうした攻撃者を阻む装火竜を準備しておいたのだ。
溶岩竜に飲み込まれる相手を一瞥すると、龍堂はフリーの特性を活かしてパスを出した。
「よぉし、やっと俺の出番だな」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)がそのボールを見上げて、気炎を上げて助走をつけた。
「ここで絶対良いところみせてやる」
リクもまたサイドから上がってボールをおいかけ始める。
「俺の道を邪魔する奴は、わかってんだろうな」
「ボルちゃんの邪魔をする気はないけど、ここは僕が決めるのっ」
出会った二人は炎と電撃を散らしながらぶつかり合う。そこに飛び込もうとする敵などいるはずもない。というか飛び込もうとする奴らはリューとアルトに吹き飛ばされた。
「おーれーのーっ」
「ぼーくーのーっ」
二人の距離がさらに縮まって肩を押し合い、頭をごりごりせめぎ合う。
そんな二人の目の前にボールが良いタイミングで振ってくる。
「頼んだよ」
ユリアンが真上からボールをホールドして、そんな2人の熱を最高潮にあわせる位置でセッティングしていく。あの二人ならきっとやってくれるはず。
そしてその目論見通り。二人のシュートのタイミングは完全に同じとなった。
「でぇりぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!」
そして二人は叫んだ。
「「ツインドライブ ショットーーーーーっ!!!!」」
龍園ゴールの網が吹き飛んだ。
「やれやれ、素直じゃないんだから」
結局一つになって技を叫ぶ当たり。ユリアンはハイタッチを交わしながら笑った。
「なんとしても取り返すわよっ」
敵もますます躍起になって襲い掛かってくる。
「くっ、シグルド、早く……ふぬーっ」
から解き放とうと必死になる未悠。そんな2人に攻撃の嵐がやってくる。
「未悠さん、いったん退避」
「できるわけないわ。シグルドを置いてなんて……いけないっ」
敵の刺突一閃が迫るのを感じても、アーシュラが声をかけても未悠は絶対にあきらめなかった。
そして、肉を切る斬撃音が響いた。
「!!!」
未悠が目を見開いた。
「悪い子にはお仕置きが必要かな」
封印が解けたシグルドが未悠を庇ったのだ。
それを見ていたアーシュラはにやりと笑って、機導を二人に注ぎ込むと、マテリアルの力が氷の粒に反射して煙のように2人を包む。
「ねえシグルド。お仕置きよりもご褒美よ。もし私が活躍出来たら、ご褒美……くれる?」
「できるならね」
その言葉に霧は爆発的に膨れ上がり、そして爆炎と姿を変えた。
恋に燃える女、未悠。誕生。
「いけるっ、いや、絶っっっっ対!!!! やるっ」
アーシュラはニヒヒと笑うと今度はシグルドにもマテリアルを送り込んだ。
二人は渦巻き霧はペガサスとなってコートを走った。それは敵も笛の音も弾き返し、
「二人の愛の力をみなさいっ。ラブラブ 天 號 拳 !!!! ふぁいあーーーーーっ」
ゴールまで一直線に飛んでいった。
「やったわ! ご褒美は絶対よ。えとねえとね」
もじもじする未悠に、レオーネがこほんとスコアボードを振って話し出した。
「残念だが、レディ。今のはホイッスルの後だから無効なんだ」
「あー、残念だなあ。ご褒美はまた今度かな」
へたりこむ未悠に厳靖は頭をかいた。
「ちっとばかり選手追加が遅すぎたかなぁ」
これも全部計算済みだったが、一秒だけ足りなかったのは本当に残念である。
●ハーフタイム
「お疲れさまでした。痛いところはないですか」
リラは控室に入ると、チャクラヒールで傷を負った選手を癒していく。
「戦士たちに休息を、安らかなれ」
またユメリアが歌うと、キラキラと光が生まれ、まとめて傷を癒していき、疲れを取っていくが、誠一はそのどちらの回復を受けてもまだ回復しきれなかった。
「大丈夫?」
「み、水……」
マテリアルを完全に放出することも生死を分けたような戦いも何回も経験してるが、ちょっとハッスルしすぎたようだ。
「もう。自分のペースを掴めないようじゃ、ハンターとしても大変ですよ」
龍堂が自分に用意された濡れタオルを額に当ててやりながら話しかけると誠一はうーんと唸った。
「まあいいじゃねえの。悔いのないよう全力を尽くすってなァ、どこでもいえることだ」
シガレットは煙草に火をつけながらそう話した。と、その煙草をレイアに取り上げられる。
「なら、その煙草は止めとくんだな。体力の回復が遅れるぞ」
「そういえばクレールのヤツはどうした。あいつだいぶんダメージ食らってたはずだが」
リューが周りを見ても守護神の姿は見えない。
「あいつならゴールネットの補修に行ったぜ。綺麗なゴールだから守る価値があるとかなんとか」
ボルディアはミネラルウォーターを頭から被った後、残りを誠一の口に押し込んだ。
「さぁ、皆さん。お疲れさまでしたっ。お料理の用意もできていますよーっ」
そこに大量のお弁当を持ったメルの元気な声が響くと、疲れ切った選手たちの顔色もみるみる輝いた。
「ひゃー、ほんと嬉しいな。ねえねえ、俺ロジャー。もし良かったらさ今度……」
料理をがっつくのもそこそこにハッパをかけるロジャーにメルは手を突き出して首を振った。
「残念ながらメルは人妻なので、それには乗れません。でも……トリックエンドを使ったボール回しは素敵でしたよ」
飛び切りの笑顔にロジャーは飛び跳ねた。
「さあて、後半はどうなりますかね」
レオーネも談笑に交わりつつ、自分のスコアボードに目をやった。
2-2
引き分けのまま、試合は後半へとうつる。
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質問卓 シグルド(kz0074) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/10/06 17:50:06 |
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役割とかポジション決め卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/10/11 03:13:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/08 19:47:03 |