ゲスト
(ka0000)
暗中模索のマスケラータ
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/16 07:30
- 完成日
- 2018/10/30 01:21
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
同盟第一の港湾都市との呼び名も高く、美味い魚介料理を出す店がひしめくポルトワール。
今は夜更けとあって、賑わいも裏通りに主役を譲り、いずれの料理屋も既に明かりを落とし、戸締りを終えつつあった。
通りに面した店のひとつ、『金色のカモメ亭』も同様だったが、鎧戸を締め切った店の2階では店主のジャンが大げさな溜息をつく。
「あ・の・ね。これだけしょっちゅう集まってたら、流石にバレてると思うわヨ?」
「ごめんなさい、ジャン。でもどうせ貴方の店だもの、最初から監視されてると思って。それに今は、監視されていたほうが都合がいいの」
営業用の完璧な笑顔でそう返したのは、同盟軍報道官のメリンダ・ドナーティ(kz0041)だ。
室内にはメリンダの依頼を受けたハンター達と、ほかに2人の男女。
そのうちのひとり、ヴァネッサ(kz0030)がからからと笑う。
「悪いね。私のヤサに軍の監視はさすがに遠慮したいんだ」
「仕方ないわネ。その代わり、ちゃんと食事していくのヨ!」
金髪の大男はそう言って、逞しい腕を組む。
メリンダは軽く肩をすくめてみせて、話し始めた。
「ハンターの皆様を巻き込んでしまってすみません。ですが今となっては、皆様しか信用できる人がいないのです」
メリンダは笑いを収め、ひとりひとりの顔を見つめる。
先日、リアルブルー崑崙基地の伝手であるアスタリスク(kz0234)から送られてきた報告によると、押収された薬品はやはり某国の軍で廃棄処分になった興奮剤だった。
戦場での恐怖を和らげるための薬だが、人によっては正常な判断力を著しく損なうことがあり、また依存性が高いことから採用が中止されたものだという。その廃棄を任された業者が、何らかの方法でクリムゾンウェスト――化学薬品の知識に乏しく、そこに住む人々の薬剤耐性も低い――の商人に横流ししたものと推測された。
当然、まともな薬ではないのだから、商人を捕まえてしまえばいい。
だが売り渡した相手が同盟陸軍の将校ネスタ大佐だったことが、話を複雑にしていた。
ジャンが鼻を鳴らす。
「ケンカするなら、上手くやらないと逆に潰されるわネ」
メリンダも頷いた。
「そうなるでしょうね」
ポルトワール界隈での騒ぎには陸軍が出動することも多い。実際、ネスタ大佐はその守備隊の責任者だ。
薬をばらまきながら、都合の悪い証拠を握りつぶしてしまえる立場なのだから、これまで発覚しなかったのも当然といえる。
「だから告発するにせよ、大佐に自ら退いていただくにせよ、もう少し証拠固めが必要になります」
メリンダに伝手が全くない訳ではない。
だが組織の中で戦うには、巻き込む相手の安全も図る必要があった。少なくとも、大佐”個人”が私腹を肥やすためにやっていたことなのかを確認したかった。
ヴァネッサがうんざりという様子で手を振る。
「自分の懐をあっためるんじゃなきゃ何だっての? 軍のもっとエライ奴が、そんなヤバい薬を使おうとしてるって訳だ? たまんないね」
メリンダ個人に対しての嫌悪感はハンター達のおかげで薄れたが、『自分の街』で偉そうにしている軍人を好む理由はない。
「そうでなければいい、と個人的には願っています」
答えるメリンダの表情は人形のように硬かった。
そうではない、とメリンダが言いきれない理由があった。
ヒントをくれたのは、情報部将校のフィンツィ少佐である。
『覚醒者ではない軍人を歪虚に対応させるのは、無駄であるだけでなく人命軽視ではないのか?』
これまで幾度かほのめかされた疑問は、誰もが感じていることだろう。
その解決策を軍が全く考えていないはずもない。
ネスタ大佐が、もし――。
メリンダの思考は男の声で中断された。
「ところで、ピエリ商会もそろそろ不審に思って騒ぎ出しかねませんが」
崑崙基地でハンター達によって救出されたマネッティ曹長だ。
かつての部下たちと再会し、互いの無事を確認できたことで、今度はハンター達に協力させてほしいと申し出たのだ。
「ロッソがもう崑崙へ出撃したのですから、コンテナだけを残してあのニルデとかいう女が戻らなければ、面倒なことになりますよ」
ニルデとは、崑崙基地で捕まえた密輸犯の名だ。ピエリ商会の担当者として崑崙基地に訪れるうちにこの取引に関わり、雇い主に無断で随分と儲けていたようだ。
「仰る通りですね。……ひとつ提案があります。彼女を使って、逆に取引相手を炙り出すというのは如何でしょうか」
メリンダは目前の事項を順に片付けていくことに決めた。
今は夜更けとあって、賑わいも裏通りに主役を譲り、いずれの料理屋も既に明かりを落とし、戸締りを終えつつあった。
通りに面した店のひとつ、『金色のカモメ亭』も同様だったが、鎧戸を締め切った店の2階では店主のジャンが大げさな溜息をつく。
「あ・の・ね。これだけしょっちゅう集まってたら、流石にバレてると思うわヨ?」
「ごめんなさい、ジャン。でもどうせ貴方の店だもの、最初から監視されてると思って。それに今は、監視されていたほうが都合がいいの」
営業用の完璧な笑顔でそう返したのは、同盟軍報道官のメリンダ・ドナーティ(kz0041)だ。
室内にはメリンダの依頼を受けたハンター達と、ほかに2人の男女。
そのうちのひとり、ヴァネッサ(kz0030)がからからと笑う。
「悪いね。私のヤサに軍の監視はさすがに遠慮したいんだ」
「仕方ないわネ。その代わり、ちゃんと食事していくのヨ!」
金髪の大男はそう言って、逞しい腕を組む。
メリンダは軽く肩をすくめてみせて、話し始めた。
「ハンターの皆様を巻き込んでしまってすみません。ですが今となっては、皆様しか信用できる人がいないのです」
メリンダは笑いを収め、ひとりひとりの顔を見つめる。
先日、リアルブルー崑崙基地の伝手であるアスタリスク(kz0234)から送られてきた報告によると、押収された薬品はやはり某国の軍で廃棄処分になった興奮剤だった。
戦場での恐怖を和らげるための薬だが、人によっては正常な判断力を著しく損なうことがあり、また依存性が高いことから採用が中止されたものだという。その廃棄を任された業者が、何らかの方法でクリムゾンウェスト――化学薬品の知識に乏しく、そこに住む人々の薬剤耐性も低い――の商人に横流ししたものと推測された。
当然、まともな薬ではないのだから、商人を捕まえてしまえばいい。
だが売り渡した相手が同盟陸軍の将校ネスタ大佐だったことが、話を複雑にしていた。
ジャンが鼻を鳴らす。
「ケンカするなら、上手くやらないと逆に潰されるわネ」
メリンダも頷いた。
「そうなるでしょうね」
ポルトワール界隈での騒ぎには陸軍が出動することも多い。実際、ネスタ大佐はその守備隊の責任者だ。
薬をばらまきながら、都合の悪い証拠を握りつぶしてしまえる立場なのだから、これまで発覚しなかったのも当然といえる。
「だから告発するにせよ、大佐に自ら退いていただくにせよ、もう少し証拠固めが必要になります」
メリンダに伝手が全くない訳ではない。
だが組織の中で戦うには、巻き込む相手の安全も図る必要があった。少なくとも、大佐”個人”が私腹を肥やすためにやっていたことなのかを確認したかった。
ヴァネッサがうんざりという様子で手を振る。
「自分の懐をあっためるんじゃなきゃ何だっての? 軍のもっとエライ奴が、そんなヤバい薬を使おうとしてるって訳だ? たまんないね」
メリンダ個人に対しての嫌悪感はハンター達のおかげで薄れたが、『自分の街』で偉そうにしている軍人を好む理由はない。
「そうでなければいい、と個人的には願っています」
答えるメリンダの表情は人形のように硬かった。
そうではない、とメリンダが言いきれない理由があった。
ヒントをくれたのは、情報部将校のフィンツィ少佐である。
『覚醒者ではない軍人を歪虚に対応させるのは、無駄であるだけでなく人命軽視ではないのか?』
これまで幾度かほのめかされた疑問は、誰もが感じていることだろう。
その解決策を軍が全く考えていないはずもない。
ネスタ大佐が、もし――。
メリンダの思考は男の声で中断された。
「ところで、ピエリ商会もそろそろ不審に思って騒ぎ出しかねませんが」
崑崙基地でハンター達によって救出されたマネッティ曹長だ。
かつての部下たちと再会し、互いの無事を確認できたことで、今度はハンター達に協力させてほしいと申し出たのだ。
「ロッソがもう崑崙へ出撃したのですから、コンテナだけを残してあのニルデとかいう女が戻らなければ、面倒なことになりますよ」
ニルデとは、崑崙基地で捕まえた密輸犯の名だ。ピエリ商会の担当者として崑崙基地に訪れるうちにこの取引に関わり、雇い主に無断で随分と儲けていたようだ。
「仰る通りですね。……ひとつ提案があります。彼女を使って、逆に取引相手を炙り出すというのは如何でしょうか」
メリンダは目前の事項を順に片付けていくことに決めた。
リプレイ本文
●
トルステン=L=ユピテル(ka3946)が腕を組んだ。
「まだわかんねーコトいっぱいあるし、今回は捕獲より『追跡』でいきたいな。目標は取引相手からネスタ大佐って奴に繋がる証拠を握ることだ」
直接顔を合わせた人物が、トカゲの尻尾よろしく切られる恐れもある。そうなれば巨大な敵までたどり着けなくなるだろう。
「壁に耳ありニンジャの目ありっ! 証拠固めはニンジャか刑事にお任せなんだからっ!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がびしっとカードを手に決めポーズ。カケジクの裏に潜むのは本望。『話は全て聞かせてもらったー!』ができるチャンス……かもしれない。
そこで役犬原 昶(ka0268)が大きな体を屈め、似合わないひそひそ声で囁いた。
「証拠っていや、ニルデは今回の件で裏切ったりしねぇの? そもそもニルデって、今どういう立場なんだ?」
するとマネッティが苦笑いしながら答える。
「あー……ええ、今回は大丈夫じゃないでしょうか。一言で言うと、清々しい程の金の亡者ですから」
曰く、このまま犯罪者として財産を没収されるぐらいなら、全力でこちらに協力するだろうという訳だ。
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は思案顔で髭を撫でていた。
(今回の作戦、カギを握っているのはニルデだな)
ニルデの語ったことが全て嘘、もしくは今後裏切るようなら、全てが無駄になってしまう。
どうしても直接会って、彼女が「裏切らない」方策を考えたかった。
「ニルデは俺に任せてくれないか? 少し話をしてみようと思う」
どういうことかと集まる視線に、僅かに口元を緩めた。
「大人には大人の話があるってことさ」
「ほだらネ、オハナシで訊いてほしいコトがあるのよ」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が『大人の』ところをすっ飛ばして身を乗り出した。
「えっとネ。取引されたお薬の量を知りたいの」
「それから実際の取引の手順ね」
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が手元のメモにペンを走らせる。
「いつも同じ人が現場に来るのか、信用できる相手なのか」
パトリシアはぎゅっと眉間にしわを寄せた。
「他に、何があればお薬の使用を止められる?」
トルステンはパトリシアの表情をちらりと横目で見て、表情を変えないままで逸らす。
(蒼界のモノがコッチで迷惑かけてるとか、なんかな……モヤモヤするんだよな)
きっとパトリシアも同じだろう。
昶は何事か考えていたが、メリンダに向き直った。
「そういや可能な範囲でいいんだけどさ、メリンダって陸軍の動向を探る事は出来るか? 危ない橋を渡る必要はねぇけど、本来出動していない部隊が来てるとかそういうの」
「軍の大部隊が動けばもちろんわかります。ですが、ネスタ大佐にはポルトワール全域に兵を派遣できる権限があり、他から大軍を動かす必要はないでしょう。そして現場に駆け付ける実働班は『そこにいる怪しい奴を捕まえてこい』とだけ命じられていたはずです」
だからこそ、今日までネスタ大佐の件は知られることがなかったのだ。
昶は少し苛立ったように無造作に髪をかき回す。
「んじゃ、メリンダはどうしたいんだ? 大佐を告発してぇのか? それに必要なものはなんだ? このままうやむやで終わったんじゃ、座りが悪くて好かねぇんだ」
「……告発したいとは思っています」
メリンダは膝の上で固く拳を握りしめた。
パトリシアが小さくつぶやく。
「問題ハ、どれだけのヒトが、この事を知ってテ。どういうつもりで使ってるかってコト?」
「そうですね。私は軍自体の決定ではない、と信じます」
「……仲間を疑わなきゃ、ハ、辛いよネ」
メリンダが微笑む。
「ありがとうございます。でも悪いことは悪い。まして今回は、一般市民に迷惑をかけているのですから」
「じゃあそのためにも逃げられないぐらいの証拠を固めないとね」
マチルダがメモから顔を上げる。
「はい。それと並行して、私なりに動いてみます」
ハンターたちはそれぞれが自分の調査を進め、また集まることを約束した。
●
各自が準備を整え、決行日を迎えた。
ルンルンが片目をつぶって、皆に『口伝符』を配る。
「ジュゲームリリカル、ルンルン忍法ニンジャテレカ!! 何かあったらこれでも連絡できるように渡しておきますね」
1時間以内とはいえ、受ける相手が音を出さずに言葉を受け取ることができる。これはかなり便利だ。
「じゃあ行こうか」
ヴァージルが馴れ馴れしく、ニルデの肩に手をかけた。
ニルデは黒ずくめの男装で黒いつば広の帽子をかぶっている。
「私だって危ない橋を渡ってるんだから、しっかり保護してもらわなきゃ」
密輸もこなす商売人だけあって、言葉ほど動じている様子はない。
「ニルデも、怪我しないよーに、ネ」
パトリシアがにっこり笑った。
「お商売ダメになっちゃっテ、複雑だと思うケド。いっぱい協力してくれタラ、ヴァネッサがなるたけ上手いことしてくれるハズなのよ」
「おほほ、期待してるわ」
ニルデはパトリシアの金髪が黒いフードから見えないように直す。
ヴァージルが『大人のお話』で確認したところによると、ニルデはマネッティの言う通り、まさに商人だった。
つまり、手持ちの物はなるだけ高く買う相手に売る。この先のない軍との密輸取引より、ハンター達との協力を選んだのだ。
取引の手順も、これまでの取引量も、全て教えてくれた。ただし、タダではない、と念を押したそうだ。
「ほら行くわよ。約束は厳守。商売の鉄則よ!」
「オッス、姐さん」
昶はやや大げさに頷く。見事にニルデの用心棒の役になり切っていた。
ヴァージルは、帽子の下に付け髭で渋い表情のマネッティに肩をすくめて見せる。
「お前さんは複雑だろうが、少しの間辛抱してくれ」
相手がもし軍の関係者なら『マネッティ曹長』を知っている可能性がある。暗い場所とはいえ、変装は必要だ。
パトリシアが、口伝符と、フードと外套の下に隠したヘッドセットに囁く。
「感度リョーコー、おっけ?」
「問題なし」
ヴァネッサが応答した。ポルトワールをよく知る手下たちが、あちらこちらの辻をさり気なく見張る。
「聞こえてる。声を出せない緊急時には、先に決めた合図を送るから」
トルステンは一行から少し離れて追跡。
昼間の内に下見しておいたので、暗くても歩くのに問題はない。
(それにしても真っ暗だな)
足音がやけに響くようで、トルステンは慎重に足を運ぶ。
「ばっちりなのです! こちらは屋根の上、不審な人物を見かけたらすぐにお知らせしちゃいますね!」
ルンルンは倉庫街の屋根の上だ。
弱い光の街路灯がある通りの上で、双眼鏡を持って伏せている。このルートからくれば、真っ先に接近が確認できる位置だ。
「まだ誰も来ていないね。どっちから来るかわからないから注意してね」
マチルダは黒い仮面をかぶり、ルンルンからは死角になるポイントに潜む。そこからなら取引場所の倉庫が直接見えた。
暗視機能のあるマスクを用意したお陰で、暗がりでも近づく人影があれば確認できるだろう。
果たして、約束の時間ちょうどに、3つの黒い人影が闇から滲み出すのが見えた。
●
男達は廃屋の中を弱い光で照らし、ニルデとその付き添いを値踏みするように見渡す。
「随分と連絡が遅かったな。見慣れん顔だが、いつもの連中はどうした」
口調は乱暴で、粗野な印象だ。体つきもきちんと鍛えた軍人のものではない。
昶が肩をいからせ、ニルデの番犬のように威嚇する。
「姐さん、こいつが今日の相手っスか? なんか偉そうっすね?」
それから絡むように、男達の顔を見上げる形で体を屈めた。
(写真の顔じゃねえか……まあそりゃそうだよな)
事前に関係者と思われる軍人の写真を見ていたが、ニルデには言われていたのだ。
『そんな大物自ら取引に来るわけないでしょ? 私ですら、たった一度、遠くから会釈しただけよ』
当のニルデは薄い笑みすら浮かべて、堂々としたものだ。
「いいのよ。あの、実は……あっ!?」
ヴァージルがニルデの肩を強く抱き寄せていた。
「野暮なこと聞くんじゃねえよ。俺じゃあ何か都合が悪いのか?」
いかにも伊達男というにやけ顔のまま、ニルデの身体を押さえつけることで、手つきや目線で何か合図を送るのを阻む。
男は鼻を鳴らし、荷物を要求してきた。
マネッティが相手とスーツケースを交換する。弱い光の下、その場で互いが中を改めるとすぐにまた蓋を閉じた。
「次に荷物が手に入ったら、また連絡するわ」
「その必要はない」
黒い手袋の手が、ぐんと伸びた。手袋を突き破って、刃が光る。
パトリシアが無言のまま飛び出した。御霊符「影装」で鎧と化した式神が、刃の切っ先を受け止める。
「チッ!!」
舌打ちした男が次撃を繰り出そうとした瞬間、姿勢を崩す。昶が「ファントムハンド」で男の足元をとらえて引き寄せていた。
「姐さんに何しようってんだ!!」
演技を続ける昶。この場で捕獲するにせよ、こちらの情報はなるべく与えるべきではないだろう。
パトリシアがニルデを背後に匿い、別の男にヴァージルが斬りつける間に、残るひとりがスーツケースを掴んで身を翻す。
そのとき、全員の耳にヴァネッサの声が届いた。
『ちょっと面倒なのが来た。例のサリムって男だ』
かつて『金色のカモメ亭』で、その後の倉庫で見かけた、ハンター崩れ。
今日の取引相手側にいても、何ら不思議はなかった。
ニルデの無事を知ると、マチルダはすぐに廃屋へ走る。後からトルステンも駆け付けた。
「襲撃者が何人かわからねえし。固まっていたほうがいいだろ」
明かりを消し、ニルデを囲んで息をひそめる。やがて数人の足音が近づいてくるのが分かった。
「右手から3人か? それと正面から……2人?」
昶がモフロウの視界を借りて数えるが、建物の影に潜んでいる者まではさすがのモフロウでも見えない。
それでも嫌な気配が廃屋に近づいてくるのは分かる。
互いの息を探るような時間ののち、不意に建物が揺れ、扉がきしんだ。と思う間に、新鮮な夜気と足音が流れ込んでくる。
扉を破壊して誰かが入って来たのだ。
その瞬間、そのうちの何人かが、へなへなとその場に倒れこんだ。
「しばらく邪魔しないで」
マチルダが眠りに誘う光で動きを止めたのだ。どうやら覚醒者ではない者もいたようだ。
だが賊は仲間を踏み越え、勢いよく雪崩れ込んできた。ニルデを見つけると無言のまま頷きあい、得物を構える。
「最初っからそのつもりだったのかよ」
トルステンが唸りながらニルデを「ホーリーヴェール」で守る。とはいえ、ニルデ自身が攻撃を受ければ気休め程度の効果しかないだろう。
トルステンは更に、「制圧射撃」で弾幕を張り、相手の動きを封じようと試みた。
「ヴァネッサ、退路はあるか?」
『今、うちの連中が賊の反対側から窓を破る。そっちから離脱するんだ』
激しい物音と共に、ぽっかりと空間が開けた。
ニルデとマネッティを助けて、パトリシアとトルステンが先に出る。
敵のひとりがその背中に狙いを定めて、銃を構えた。
「この、やろー!」
昶は銃を構えた腕を引き寄せ、男を引き倒す。
なおも男が落とした銃に手を伸ばすのを見て、それを思い切り蹴り飛ばした。
マチルダ、そして昶とヴァージルが離脱した後、廃屋の中には黒服の男達が幾人も膝をついたまま呻いたり、床に倒れたりしていた。
ルンルンは廃屋から飛び出した男の目の前に、屋根の上から瓦を落としてやった。
スーツケースを抱えていた男が、驚いて腰を抜かす。ヴァネッサの仲間が駆け付け、男と荷物を確保した。
「よしっ、大成功!!」
満足しながら見下ろすと、また別の影が早く走り去るのを認めた。
屋根の上のルンルンには気づいていないようだ。
「いよいよニンジャお得意の追跡開始なんだよっ!」
ヴァネッサに方角などを報告し、男を見失わないように後を追う。
路地から路地へ、複雑な経路を走り、男は一軒の建物の中へと消えた。
「うーん暗いなあ。ちゃんと写るかな?」
ルンルンはその建物の場所が分かるように魔導カメラのシャッターを切った。
●
その後、一同はヴァネッサの隠れ家に集まった。
ヴァネッサはルンルンが撮影した建物の写真を確認する。
「ここは最近店が変わってね、でもまた地下道なんかもあるかもしれない」
とりあえず店主の経歴などを調べてみると請け合ってくれた。
ニルデが不意に何か思いついたように声を上げる。
「これにも何かついているかもしれないわね」
ニルデはあの騒ぎの中で、しっかりと「お代」のスーツケースを持ち出していた。流石の逞しさである。
薄い金の板を持ち上げ、中敷きを引きはがす。そこにはリアルブルー産の小型発信機が取り付けられていた。
翌日、ハンター達はメリンダを呼んで昨夜の出来事を報告した。
「そうですか。あの男が……」
どうやら陸軍とつながりがあるらしい、ハンター崩れの男。
逃げ込んだ先の店主は、やはり最近軍を辞めた人物だった。しかも元の所属は、ネスタ大佐の管轄である。
そして廃屋の外に落ちていた昶が蹴飛ばした銃は、覚醒者専用ではなく、同盟陸軍の備品だったのだ。
おまけに、スーツケースから出てきたのはリアルブルー産の発信機。
状況証拠的には、限りなく黒寄りのグレー。しかしネスタ大佐個人が出てこない。
襲撃犯たちは、またしても雇われのごろつきだったのだ。交渉役はいつの間にか姿を消している。
「とにかく、この銃も調べてみますね」
メリンダは銃を油紙で厳重に包んだ。少なくとも誰が管理していたものかわかるという。
トルステンが呻いた。もやもやが晴れないのがどうにも苛立たしい。
「俺は、何が何処まで繋がってんのか、知らずに済ますのは納得いかない」
この場にいる全員が、そう思っているだろう。
「といっても、首を突っ込んで一番危なくなるのはメリンダだ。無理強いはできねーんだケド」
「なあメリンダ。例の『番頭』には頼めないのか?」
ヴァージルが言うのは、何度か「商人」として顔を合わせたフィンツィ少佐のことだ。
大佐個人の所業なら、此方が複数なら何とか追い込めるのではないかと思ったのだ。
メリンダは何かを言い淀み、口をつぐむ。
マネッティがその意を汲んだように、代わりに答えた。
「もう少し情報が集まればそれもいいかもしれません。ですが現時点では、彼が大佐の仲間ではない、とは言い切れないのです」
「……成程。伏魔殿だな、組織って奴は」
ヴァージルが苦笑いで手を振った。
そのとき、メリンダが目を閉じたままきっぱりと言った。
「大佐を告発します」
一同は無言のまま、メリンダを見つめた。
<了>
トルステン=L=ユピテル(ka3946)が腕を組んだ。
「まだわかんねーコトいっぱいあるし、今回は捕獲より『追跡』でいきたいな。目標は取引相手からネスタ大佐って奴に繋がる証拠を握ることだ」
直接顔を合わせた人物が、トカゲの尻尾よろしく切られる恐れもある。そうなれば巨大な敵までたどり着けなくなるだろう。
「壁に耳ありニンジャの目ありっ! 証拠固めはニンジャか刑事にお任せなんだからっ!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がびしっとカードを手に決めポーズ。カケジクの裏に潜むのは本望。『話は全て聞かせてもらったー!』ができるチャンス……かもしれない。
そこで役犬原 昶(ka0268)が大きな体を屈め、似合わないひそひそ声で囁いた。
「証拠っていや、ニルデは今回の件で裏切ったりしねぇの? そもそもニルデって、今どういう立場なんだ?」
するとマネッティが苦笑いしながら答える。
「あー……ええ、今回は大丈夫じゃないでしょうか。一言で言うと、清々しい程の金の亡者ですから」
曰く、このまま犯罪者として財産を没収されるぐらいなら、全力でこちらに協力するだろうという訳だ。
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は思案顔で髭を撫でていた。
(今回の作戦、カギを握っているのはニルデだな)
ニルデの語ったことが全て嘘、もしくは今後裏切るようなら、全てが無駄になってしまう。
どうしても直接会って、彼女が「裏切らない」方策を考えたかった。
「ニルデは俺に任せてくれないか? 少し話をしてみようと思う」
どういうことかと集まる視線に、僅かに口元を緩めた。
「大人には大人の話があるってことさ」
「ほだらネ、オハナシで訊いてほしいコトがあるのよ」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が『大人の』ところをすっ飛ばして身を乗り出した。
「えっとネ。取引されたお薬の量を知りたいの」
「それから実際の取引の手順ね」
マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が手元のメモにペンを走らせる。
「いつも同じ人が現場に来るのか、信用できる相手なのか」
パトリシアはぎゅっと眉間にしわを寄せた。
「他に、何があればお薬の使用を止められる?」
トルステンはパトリシアの表情をちらりと横目で見て、表情を変えないままで逸らす。
(蒼界のモノがコッチで迷惑かけてるとか、なんかな……モヤモヤするんだよな)
きっとパトリシアも同じだろう。
昶は何事か考えていたが、メリンダに向き直った。
「そういや可能な範囲でいいんだけどさ、メリンダって陸軍の動向を探る事は出来るか? 危ない橋を渡る必要はねぇけど、本来出動していない部隊が来てるとかそういうの」
「軍の大部隊が動けばもちろんわかります。ですが、ネスタ大佐にはポルトワール全域に兵を派遣できる権限があり、他から大軍を動かす必要はないでしょう。そして現場に駆け付ける実働班は『そこにいる怪しい奴を捕まえてこい』とだけ命じられていたはずです」
だからこそ、今日までネスタ大佐の件は知られることがなかったのだ。
昶は少し苛立ったように無造作に髪をかき回す。
「んじゃ、メリンダはどうしたいんだ? 大佐を告発してぇのか? それに必要なものはなんだ? このままうやむやで終わったんじゃ、座りが悪くて好かねぇんだ」
「……告発したいとは思っています」
メリンダは膝の上で固く拳を握りしめた。
パトリシアが小さくつぶやく。
「問題ハ、どれだけのヒトが、この事を知ってテ。どういうつもりで使ってるかってコト?」
「そうですね。私は軍自体の決定ではない、と信じます」
「……仲間を疑わなきゃ、ハ、辛いよネ」
メリンダが微笑む。
「ありがとうございます。でも悪いことは悪い。まして今回は、一般市民に迷惑をかけているのですから」
「じゃあそのためにも逃げられないぐらいの証拠を固めないとね」
マチルダがメモから顔を上げる。
「はい。それと並行して、私なりに動いてみます」
ハンターたちはそれぞれが自分の調査を進め、また集まることを約束した。
●
各自が準備を整え、決行日を迎えた。
ルンルンが片目をつぶって、皆に『口伝符』を配る。
「ジュゲームリリカル、ルンルン忍法ニンジャテレカ!! 何かあったらこれでも連絡できるように渡しておきますね」
1時間以内とはいえ、受ける相手が音を出さずに言葉を受け取ることができる。これはかなり便利だ。
「じゃあ行こうか」
ヴァージルが馴れ馴れしく、ニルデの肩に手をかけた。
ニルデは黒ずくめの男装で黒いつば広の帽子をかぶっている。
「私だって危ない橋を渡ってるんだから、しっかり保護してもらわなきゃ」
密輸もこなす商売人だけあって、言葉ほど動じている様子はない。
「ニルデも、怪我しないよーに、ネ」
パトリシアがにっこり笑った。
「お商売ダメになっちゃっテ、複雑だと思うケド。いっぱい協力してくれタラ、ヴァネッサがなるたけ上手いことしてくれるハズなのよ」
「おほほ、期待してるわ」
ニルデはパトリシアの金髪が黒いフードから見えないように直す。
ヴァージルが『大人のお話』で確認したところによると、ニルデはマネッティの言う通り、まさに商人だった。
つまり、手持ちの物はなるだけ高く買う相手に売る。この先のない軍との密輸取引より、ハンター達との協力を選んだのだ。
取引の手順も、これまでの取引量も、全て教えてくれた。ただし、タダではない、と念を押したそうだ。
「ほら行くわよ。約束は厳守。商売の鉄則よ!」
「オッス、姐さん」
昶はやや大げさに頷く。見事にニルデの用心棒の役になり切っていた。
ヴァージルは、帽子の下に付け髭で渋い表情のマネッティに肩をすくめて見せる。
「お前さんは複雑だろうが、少しの間辛抱してくれ」
相手がもし軍の関係者なら『マネッティ曹長』を知っている可能性がある。暗い場所とはいえ、変装は必要だ。
パトリシアが、口伝符と、フードと外套の下に隠したヘッドセットに囁く。
「感度リョーコー、おっけ?」
「問題なし」
ヴァネッサが応答した。ポルトワールをよく知る手下たちが、あちらこちらの辻をさり気なく見張る。
「聞こえてる。声を出せない緊急時には、先に決めた合図を送るから」
トルステンは一行から少し離れて追跡。
昼間の内に下見しておいたので、暗くても歩くのに問題はない。
(それにしても真っ暗だな)
足音がやけに響くようで、トルステンは慎重に足を運ぶ。
「ばっちりなのです! こちらは屋根の上、不審な人物を見かけたらすぐにお知らせしちゃいますね!」
ルンルンは倉庫街の屋根の上だ。
弱い光の街路灯がある通りの上で、双眼鏡を持って伏せている。このルートからくれば、真っ先に接近が確認できる位置だ。
「まだ誰も来ていないね。どっちから来るかわからないから注意してね」
マチルダは黒い仮面をかぶり、ルンルンからは死角になるポイントに潜む。そこからなら取引場所の倉庫が直接見えた。
暗視機能のあるマスクを用意したお陰で、暗がりでも近づく人影があれば確認できるだろう。
果たして、約束の時間ちょうどに、3つの黒い人影が闇から滲み出すのが見えた。
●
男達は廃屋の中を弱い光で照らし、ニルデとその付き添いを値踏みするように見渡す。
「随分と連絡が遅かったな。見慣れん顔だが、いつもの連中はどうした」
口調は乱暴で、粗野な印象だ。体つきもきちんと鍛えた軍人のものではない。
昶が肩をいからせ、ニルデの番犬のように威嚇する。
「姐さん、こいつが今日の相手っスか? なんか偉そうっすね?」
それから絡むように、男達の顔を見上げる形で体を屈めた。
(写真の顔じゃねえか……まあそりゃそうだよな)
事前に関係者と思われる軍人の写真を見ていたが、ニルデには言われていたのだ。
『そんな大物自ら取引に来るわけないでしょ? 私ですら、たった一度、遠くから会釈しただけよ』
当のニルデは薄い笑みすら浮かべて、堂々としたものだ。
「いいのよ。あの、実は……あっ!?」
ヴァージルがニルデの肩を強く抱き寄せていた。
「野暮なこと聞くんじゃねえよ。俺じゃあ何か都合が悪いのか?」
いかにも伊達男というにやけ顔のまま、ニルデの身体を押さえつけることで、手つきや目線で何か合図を送るのを阻む。
男は鼻を鳴らし、荷物を要求してきた。
マネッティが相手とスーツケースを交換する。弱い光の下、その場で互いが中を改めるとすぐにまた蓋を閉じた。
「次に荷物が手に入ったら、また連絡するわ」
「その必要はない」
黒い手袋の手が、ぐんと伸びた。手袋を突き破って、刃が光る。
パトリシアが無言のまま飛び出した。御霊符「影装」で鎧と化した式神が、刃の切っ先を受け止める。
「チッ!!」
舌打ちした男が次撃を繰り出そうとした瞬間、姿勢を崩す。昶が「ファントムハンド」で男の足元をとらえて引き寄せていた。
「姐さんに何しようってんだ!!」
演技を続ける昶。この場で捕獲するにせよ、こちらの情報はなるべく与えるべきではないだろう。
パトリシアがニルデを背後に匿い、別の男にヴァージルが斬りつける間に、残るひとりがスーツケースを掴んで身を翻す。
そのとき、全員の耳にヴァネッサの声が届いた。
『ちょっと面倒なのが来た。例のサリムって男だ』
かつて『金色のカモメ亭』で、その後の倉庫で見かけた、ハンター崩れ。
今日の取引相手側にいても、何ら不思議はなかった。
ニルデの無事を知ると、マチルダはすぐに廃屋へ走る。後からトルステンも駆け付けた。
「襲撃者が何人かわからねえし。固まっていたほうがいいだろ」
明かりを消し、ニルデを囲んで息をひそめる。やがて数人の足音が近づいてくるのが分かった。
「右手から3人か? それと正面から……2人?」
昶がモフロウの視界を借りて数えるが、建物の影に潜んでいる者まではさすがのモフロウでも見えない。
それでも嫌な気配が廃屋に近づいてくるのは分かる。
互いの息を探るような時間ののち、不意に建物が揺れ、扉がきしんだ。と思う間に、新鮮な夜気と足音が流れ込んでくる。
扉を破壊して誰かが入って来たのだ。
その瞬間、そのうちの何人かが、へなへなとその場に倒れこんだ。
「しばらく邪魔しないで」
マチルダが眠りに誘う光で動きを止めたのだ。どうやら覚醒者ではない者もいたようだ。
だが賊は仲間を踏み越え、勢いよく雪崩れ込んできた。ニルデを見つけると無言のまま頷きあい、得物を構える。
「最初っからそのつもりだったのかよ」
トルステンが唸りながらニルデを「ホーリーヴェール」で守る。とはいえ、ニルデ自身が攻撃を受ければ気休め程度の効果しかないだろう。
トルステンは更に、「制圧射撃」で弾幕を張り、相手の動きを封じようと試みた。
「ヴァネッサ、退路はあるか?」
『今、うちの連中が賊の反対側から窓を破る。そっちから離脱するんだ』
激しい物音と共に、ぽっかりと空間が開けた。
ニルデとマネッティを助けて、パトリシアとトルステンが先に出る。
敵のひとりがその背中に狙いを定めて、銃を構えた。
「この、やろー!」
昶は銃を構えた腕を引き寄せ、男を引き倒す。
なおも男が落とした銃に手を伸ばすのを見て、それを思い切り蹴り飛ばした。
マチルダ、そして昶とヴァージルが離脱した後、廃屋の中には黒服の男達が幾人も膝をついたまま呻いたり、床に倒れたりしていた。
ルンルンは廃屋から飛び出した男の目の前に、屋根の上から瓦を落としてやった。
スーツケースを抱えていた男が、驚いて腰を抜かす。ヴァネッサの仲間が駆け付け、男と荷物を確保した。
「よしっ、大成功!!」
満足しながら見下ろすと、また別の影が早く走り去るのを認めた。
屋根の上のルンルンには気づいていないようだ。
「いよいよニンジャお得意の追跡開始なんだよっ!」
ヴァネッサに方角などを報告し、男を見失わないように後を追う。
路地から路地へ、複雑な経路を走り、男は一軒の建物の中へと消えた。
「うーん暗いなあ。ちゃんと写るかな?」
ルンルンはその建物の場所が分かるように魔導カメラのシャッターを切った。
●
その後、一同はヴァネッサの隠れ家に集まった。
ヴァネッサはルンルンが撮影した建物の写真を確認する。
「ここは最近店が変わってね、でもまた地下道なんかもあるかもしれない」
とりあえず店主の経歴などを調べてみると請け合ってくれた。
ニルデが不意に何か思いついたように声を上げる。
「これにも何かついているかもしれないわね」
ニルデはあの騒ぎの中で、しっかりと「お代」のスーツケースを持ち出していた。流石の逞しさである。
薄い金の板を持ち上げ、中敷きを引きはがす。そこにはリアルブルー産の小型発信機が取り付けられていた。
翌日、ハンター達はメリンダを呼んで昨夜の出来事を報告した。
「そうですか。あの男が……」
どうやら陸軍とつながりがあるらしい、ハンター崩れの男。
逃げ込んだ先の店主は、やはり最近軍を辞めた人物だった。しかも元の所属は、ネスタ大佐の管轄である。
そして廃屋の外に落ちていた昶が蹴飛ばした銃は、覚醒者専用ではなく、同盟陸軍の備品だったのだ。
おまけに、スーツケースから出てきたのはリアルブルー産の発信機。
状況証拠的には、限りなく黒寄りのグレー。しかしネスタ大佐個人が出てこない。
襲撃犯たちは、またしても雇われのごろつきだったのだ。交渉役はいつの間にか姿を消している。
「とにかく、この銃も調べてみますね」
メリンダは銃を油紙で厳重に包んだ。少なくとも誰が管理していたものかわかるという。
トルステンが呻いた。もやもやが晴れないのがどうにも苛立たしい。
「俺は、何が何処まで繋がってんのか、知らずに済ますのは納得いかない」
この場にいる全員が、そう思っているだろう。
「といっても、首を突っ込んで一番危なくなるのはメリンダだ。無理強いはできねーんだケド」
「なあメリンダ。例の『番頭』には頼めないのか?」
ヴァージルが言うのは、何度か「商人」として顔を合わせたフィンツィ少佐のことだ。
大佐個人の所業なら、此方が複数なら何とか追い込めるのではないかと思ったのだ。
メリンダは何かを言い淀み、口をつぐむ。
マネッティがその意を汲んだように、代わりに答えた。
「もう少し情報が集まればそれもいいかもしれません。ですが現時点では、彼が大佐の仲間ではない、とは言い切れないのです」
「……成程。伏魔殿だな、組織って奴は」
ヴァージルが苦笑いで手を振った。
そのとき、メリンダが目を閉じたままきっぱりと言った。
「大佐を告発します」
一同は無言のまま、メリンダを見つめた。
<了>
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/15 18:42:58 |
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金色のカモメ亭(相談卓) パトリシア=K=ポラリス(ka5996) 人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2018/10/16 06:50:59 |