ゲスト
(ka0000)
愛おしき人形―dianthus1F―
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~9人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/13 22:00
- 完成日
- 2018/10/27 01:42
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●或る、オフィス職員の証言
幾重にも重なった笑い声が聞こえてきました。子どもの声だったように思います。
屋根から9名のハンターが潜入、2階の状況を突破、1階にてバリケードを突破したこちらの応援と合流することを計画していました。精霊ラヴェルの協力も有り、2階の敵戦力についてある程度の把握と、計画を立ててからの潜入が可能でした。
こちらとの連携は取り辛くなりますが、こちらの準備が整い次第、ラヴェルが伝言を届ける手はずでした。
ハンター達の姿が屋根から見えなくなって10分……いいえ、もっと経っていたと思います。こちらへ加勢がありました。手の空いている者は職員もハンターも駆り出されているような状況でしたから、非常に有り難かったです。
その彼等と交代で私はその場を離れました。大凡の合流の機をラヴェルから内部のハンターへ伝えて貰おうと思ったからです。その為にバリケードの全体を見ようと下がっていたところでした。
子どもの笑うような声が幾つも、いくつも聞こえてきました。
声の振動で瓦礫は崩れました。そのうちの1つは、家屋が全て見える所にいた私のところまで飛んできました。
……ええ、この額の怪我はその時に。煉瓦でした。少しずれて目に当たっていたら潰れていたと思います。
怪我人は大勢。幸い死者はいませんが、すぐに動ける者も少なく、手当てと状況の把握と伝達に奔走している状態です。未だ、窓も扉も埋まっています。中の様子が覗えないので、こちらから迂闊な指示も出せません。
あとは、頼みます。
●
笑い声が収まり、微かな泣き声を聞いた。1階への階段を見付けたハンターたちは、それを雑に隠した板へ手を掛けて剥がそうとしたところだ。
今は静かな子ども部屋へヴェールを被った小さな老婆が降りてきた。ハンター達に協力しているその精霊はラヴェルと名乗っている。
建物の表の状況をハンター達に伝え、ハンター達の首尾を尋ねた。
敵の全滅とそこここに残る不審物について話すと、ラヴェルはハンターに不審物はどれだと言って案内を命じた。
「……是れは土の下で生まれて、切り出されて、使われて、再び埋められようとしておった。古い古い砂粒が人に手を貸して遣った成れの果て、切れ端の残り滓だ」
だから扱える力は大きくない。そう言いながら、ラヴェルは子ども部屋のベッドに置かれた手鏡に手を翳す。皺だらけの小さな手を映したそれは、手から零れる砂粒に埋もれた。
砂に包んで丸くなった手鏡を持ち上げた途端、どん、と音が鳴ってラヴェルの身体が転げそうな程大きく傾き、蹈鞴を踏んで踏み止まった。
ラヴェルの手から崩れて零れる砂は黒く焼け焦げて、手鏡は跡形も無い。砂を払った手は仄かに赤みを帯びていた。
「接触での爆発か。罠だな。他にも見付けていただろう。是れに教えておけ」
帰り道が安全なようにしておこう。
下の階にも有るだろうから、触れないように。ヴェール越しの目がハンター達を見上げた。
必要があれば表から人手を借りてくる。1人2人なら何とかなるだろう。ラヴェルはハンター達を見送った。
是れを起こした奴は、この下にいる。
※
※
※
●
衿と裾に小花のレースをあしらう、Aラインが可憐な桃色のドレスを纏って、金の髪を纏めた女。右手にはその細腕にそぐわない剣を、左手には全身を覆うほどの盾を持って佇んでいる。
青い硝子玉を埋め込んだような生気の無い目が空間をぼうと眺めている。
その目が微かに上向いて、瞑った。
血の気の無い白い頬で笑い、紫色の唇が弧を描く。
彼女の回りで走り回っている全身に包帯を巻いた子どもたち。彼等の得物は銃に短刀、剣と様々。更にそれぞれが数個の玩具を腰に吊している。
彼等が一斉に笑うのを煩そうにしながら、彼女の表情も楽しそうだ。
足元でカーペットが捲れ上がる。木の扉を押し上げて小さな手と顔が覗いた。
その隙間から細い泣き声が零れ出てくる。
――友達が泣いて仕舞ったから私は戻ります。誰もここへ通しては駄目よ。……ユリア?――
小さな手と顔はそう言い残して重い扉を閉めた。
「…………はい、畏まりました」
ハンター達が1階へ到着する。
小柄な身体を寄せ合って歪虚の女を取り囲む小さな包帯の子どもたちが一斉に得物を向けた。
「こんにちは」
その中で、異様に穏やかな声が出迎える。
歪虚の女はハンター達を見回すと、いらっしゃいませ。そう言って光の無い目を細めた。
ええっと、と、何かを思い出すように首を捻り、思い出した顔は一層楽しげに笑っていた。
「ご注文はお決まりですか? 生憎、ご用意出来るものが限られてしまいますけれど……」
軽々と翻す鈍色の剣の鋭利な切っ先をハンターへ伸ばしながら。
斬るのと刺すのどちらがお好き。まるで珈琲の好みを尋ねる様に。
幾重にも重なった笑い声が聞こえてきました。子どもの声だったように思います。
屋根から9名のハンターが潜入、2階の状況を突破、1階にてバリケードを突破したこちらの応援と合流することを計画していました。精霊ラヴェルの協力も有り、2階の敵戦力についてある程度の把握と、計画を立ててからの潜入が可能でした。
こちらとの連携は取り辛くなりますが、こちらの準備が整い次第、ラヴェルが伝言を届ける手はずでした。
ハンター達の姿が屋根から見えなくなって10分……いいえ、もっと経っていたと思います。こちらへ加勢がありました。手の空いている者は職員もハンターも駆り出されているような状況でしたから、非常に有り難かったです。
その彼等と交代で私はその場を離れました。大凡の合流の機をラヴェルから内部のハンターへ伝えて貰おうと思ったからです。その為にバリケードの全体を見ようと下がっていたところでした。
子どもの笑うような声が幾つも、いくつも聞こえてきました。
声の振動で瓦礫は崩れました。そのうちの1つは、家屋が全て見える所にいた私のところまで飛んできました。
……ええ、この額の怪我はその時に。煉瓦でした。少しずれて目に当たっていたら潰れていたと思います。
怪我人は大勢。幸い死者はいませんが、すぐに動ける者も少なく、手当てと状況の把握と伝達に奔走している状態です。未だ、窓も扉も埋まっています。中の様子が覗えないので、こちらから迂闊な指示も出せません。
あとは、頼みます。
●
笑い声が収まり、微かな泣き声を聞いた。1階への階段を見付けたハンターたちは、それを雑に隠した板へ手を掛けて剥がそうとしたところだ。
今は静かな子ども部屋へヴェールを被った小さな老婆が降りてきた。ハンター達に協力しているその精霊はラヴェルと名乗っている。
建物の表の状況をハンター達に伝え、ハンター達の首尾を尋ねた。
敵の全滅とそこここに残る不審物について話すと、ラヴェルはハンターに不審物はどれだと言って案内を命じた。
「……是れは土の下で生まれて、切り出されて、使われて、再び埋められようとしておった。古い古い砂粒が人に手を貸して遣った成れの果て、切れ端の残り滓だ」
だから扱える力は大きくない。そう言いながら、ラヴェルは子ども部屋のベッドに置かれた手鏡に手を翳す。皺だらけの小さな手を映したそれは、手から零れる砂粒に埋もれた。
砂に包んで丸くなった手鏡を持ち上げた途端、どん、と音が鳴ってラヴェルの身体が転げそうな程大きく傾き、蹈鞴を踏んで踏み止まった。
ラヴェルの手から崩れて零れる砂は黒く焼け焦げて、手鏡は跡形も無い。砂を払った手は仄かに赤みを帯びていた。
「接触での爆発か。罠だな。他にも見付けていただろう。是れに教えておけ」
帰り道が安全なようにしておこう。
下の階にも有るだろうから、触れないように。ヴェール越しの目がハンター達を見上げた。
必要があれば表から人手を借りてくる。1人2人なら何とかなるだろう。ラヴェルはハンター達を見送った。
是れを起こした奴は、この下にいる。
※
※
※
●
衿と裾に小花のレースをあしらう、Aラインが可憐な桃色のドレスを纏って、金の髪を纏めた女。右手にはその細腕にそぐわない剣を、左手には全身を覆うほどの盾を持って佇んでいる。
青い硝子玉を埋め込んだような生気の無い目が空間をぼうと眺めている。
その目が微かに上向いて、瞑った。
血の気の無い白い頬で笑い、紫色の唇が弧を描く。
彼女の回りで走り回っている全身に包帯を巻いた子どもたち。彼等の得物は銃に短刀、剣と様々。更にそれぞれが数個の玩具を腰に吊している。
彼等が一斉に笑うのを煩そうにしながら、彼女の表情も楽しそうだ。
足元でカーペットが捲れ上がる。木の扉を押し上げて小さな手と顔が覗いた。
その隙間から細い泣き声が零れ出てくる。
――友達が泣いて仕舞ったから私は戻ります。誰もここへ通しては駄目よ。……ユリア?――
小さな手と顔はそう言い残して重い扉を閉めた。
「…………はい、畏まりました」
ハンター達が1階へ到着する。
小柄な身体を寄せ合って歪虚の女を取り囲む小さな包帯の子どもたちが一斉に得物を向けた。
「こんにちは」
その中で、異様に穏やかな声が出迎える。
歪虚の女はハンター達を見回すと、いらっしゃいませ。そう言って光の無い目を細めた。
ええっと、と、何かを思い出すように首を捻り、思い出した顔は一層楽しげに笑っていた。
「ご注文はお決まりですか? 生憎、ご用意出来るものが限られてしまいますけれど……」
軽々と翻す鈍色の剣の鋭利な切っ先をハンターへ伸ばしながら。
斬るのと刺すのどちらがお好き。まるで珈琲の好みを尋ねる様に。
リプレイ本文
●
階段を隠していたと思しき板が剥がされ、下階へ進もうとするハンター達の中、星野 ハナ(ka5852)だけはその足を止める。
「もし上にお戻りになるならそこまで送りますよぅ? ラヴェルさんが害される方がよっぽど被害甚大ですぅ」
会話も出来て、ハンター達に加護の包みを渡せる程度の力を持った精霊へ、失礼を承知でと言いながら。
仲間からの反対も無く、星野と精霊は留まってハンター達を見送った。
待っていろと言い残して外へ出た精霊が連れてきたハンターは、椎木です、と手短に挨拶し、芳しくは無い表の状況を完結に星野へ伝えながら、室内を見回してアレ、ソレ、と異質な物品を指し示す。
「……それから、後程もう1人都合が付くようです。妹がこちらで戦っているとかで」
そうか、と室内を歩き回りながら答えた精霊に、星野は気丈な笑みを向けた。向こうには頼れるハンターが8人もいる。負けたりしないと。
「ただ爆発させるだけなら多分私の式神でもお手伝いできる気がしますからぁ」
アレですね、と椎木が指して精霊が頷いた人形。艶やかに微笑む繊細な白磁のバレリーナ。遊び盛りの男の子の部屋には不釣り合いに感じる。
ふわりと髪を揺らめかせ、扇に構えた符を放つ星野のマテリアルで作られた人型の式神。何をするのかと精霊と椎木が止めるよりも早く、それはバレリーナを捕まえて。
「――止めろ」
壁へ投じた。
踊るように回転しながら砕けた人形の白い面が星野へ向いて。それは嗤った様に見えた。
溢れた負のマテリアルが爆ぜ、押し込められていた金属片が壁と床へ強い衝撃を与え――――
●
茶褐色の突撃銃、銃床を肩に据えてスコープを覗きながら仲間の最後尾を進むマリィア・バルデス(ka5848)。そのフロントサイトが捕らえた包帯の子ども。感じるマテリアルは生きた人間のそれでは無い。唇から細く安堵の息が零れた。
「生きている子供じゃない。……敵が敵で良かったわ」
敵の全滅を。コマンドを冷静に、緑の瞳が敵の只中へ狙いを定める。
後方、家具の配置や仲間の射程や互いの距離を推し測り、玲瓏(ka7114)は白い指輪に手を重ねた厚いグローブ越しであっても象られた龍の凹凸を感じ取ることが出来る。
狭い屋内での戦いは敵にとっても同じ。大きくは動けないだろうが、小柄な彼等に背後を取られないように。
2人の近く、カリアナ・ノート(ka3733)も後方で鍵盤へ指を置いた。カリアナのマテリアルの覚醒を表す灰色の球体は回転を続けているが、鍵を叩く指がどこか覚束ない。
部屋の狭さに前を仲間に譲る形でやや後退し、ブリジット(ka4843)は吊したレイピアの柄に手を置いて敵を伺う。
マリィアの放つ弾丸が光りの帯を棚引かせて敵へ迫る。銃身を抱えるように全弾を撃ち尽くし、降り注ぐような光りが包帯に覆われた小さな的を掠めるとそれだけで向かう動きを、構えた得物の動きを止めた。
光りから逃れた敵も全て包み込むように玲瓏は鎮魂歌を詠う。
清廉な旋律が絡み付く様に敵の動きを妨げ、指輪に込められた力が更にその歌から逃れた敵へも玲瓏の声を届かせる。
悪い夢でも見ているのかしら。カリアナの青い双眸が見開いたまま震えている。
鍵を叩く指が強張って動かない。とん、と、ブーツの踵を鳴らす。
その小さな音で自身を奮い立たせるように、カリアナは音を奏でた。敵へ届かせる為にあと一歩、あともう一歩だけ竦む足を叱咤して、ステップを踏む。
敵の後方、首を振って歌を振り切るように銃を構えた包帯の腕。
体格にそぐわぬ大振りの銃を軽く扱い、その銃口がカリアナを捕らえた。
庇おうと前へ動くブリジットの脇を擦り抜ける様に、黒い弾丸は細い腕を貫いた。
敵の只中へ駆けるボルディア・コンフラムス(ka0796)の腕が炎を纏う。
その炎が鎖の形に定まると、敵をその得物諸共捕らえた。
「これがこの家流の歓迎か? 客のもてなしがなってねぇな!」
動く敵から捕らえて、引き寄せて、咄嗟に放り投げられた玩具の閃光に目を眇めながら、撓らせた脚は違わず敵を横薙ぎにする。
「そう……子供」
マテリアルの光りを纏い、アリア・セリウス(ka6424)が爬虫類の如き瞳を細め、眉根を振るわせた。
ボルディアの攻撃で剥がれた包帯から覗くのは、黒い靄と爛れた肉。既に祈りの及ぶところでは無いならば、速やかに終わらせて眠らせるまで。
閉じ込めるように動くのが良いだろう、両腕に構えた剣を閃かせる。
「知り合いですか?」
ブリジットと代わるようにグローブの模様にマテリアルを走らせて盾を作り、Gacrux(ka2726)がカリアナに尋ねた。
「話し掛けてきましたし、何か訊いてみましょう」
玲瓏もカリアナの傷を癒やすと、敵の中央に佇む歪虚へ目を向けた。
視線に気付いた歪虚はにこりと微笑んだままで剣を翻す。
楽しそうなことになっている。
動きを止めて仕舞ったままの敵も多いが、あの辺り、あの拳銃の奴と剣の奴は動けそうだ。
今度は俺様ちゃんも、面白がらせてくれじゃん。
ゾファル・G・初火(ka4407)は口角を釣り上げ、床を蹴って敵の只中へ。
手首までを覆おうナックルにマテリアルの刃を作り、擦れ違い様に斬り付けながら狙いを付けた敵へ迫る。飛び込んできたゾファルを獲物と見たのか、動きを阻んだ光りと歌を振り切った者から、切っ先を向けてくる。
敵の刃を構わず、鎧を圧して骨へ響く衝撃にさえぞくぞくと笑いながら。
「一発殴ってから話をしてやろうじゃん」
マテリアルの刃が起こす竜巻が回りの敵を巻き込んでふらつかせ、そこへ振り上げた拳を叩き込んだ。
距離を取っていても視界にちらつく閃光と爆風に舞う埃は厄介だとスコープを覗いたマリィアが眉を寄せた。
敵の中で暴れすぎて、全身に傷を負ったゾファルへ、玲瓏が駆けつけて癒やす。
荒らした部屋の中、動けるようになった敵は、ボルディアの素早い蹴りに裂かれ、或いはアリアに追い詰められて切られている。
不意の光りに苦戦していたマリィアも、隙を見付ければ狙い澄まして銃弾を放つ。
その攻撃で、動き出していた者の3体が足を止めた。
本命の前にもう少しだけ、暴れられそうだ。
ブリジットが抑えていた敵へ加勢し、その勢いのままマテリアルの刃で刺し貫く。
「ありがとうございます」
ゾファルへ告げながら、気に掛かるのは背後のカリアナと、部屋の違和感だった。
傷も回復し、大丈夫だと言い聞かせるように歌い続けているが、表情から混乱は消えていない。
カリアナの近くにも、2階で見たような玩具があった。歌のマテリアルに触れそうなそれに、危ないと言いかけたが間に合わず、しかしその玩具が爆ぜることも無かった。
見間違えたかと過ぎるが、部屋にはその類いの、キッチンでは、リビングでは使わないような雑貨が様々に散らかっていた。おかしいとも判ぜられるが、その異質さの正体が得られない。落ち付いて、レイピアを握り直してゆっくりと息を吐いた。
――建物が揺れた。
「今、……っ」
揺れませんでしたか。ブリジットは近くの仲間に声を掛け、その原因を探るように周囲を見る。
真逆というように2階へも目を向け、表を覗う様に窓も見る。
落ち付いて。もう一度言い聞かせるように、ブリジットは敵へ視線を向け直し、白い翼の幻影を煌めかせ、レイピアを振るう。探るには少し騒がしさが過ぎる。
敵を殴りつけた勢いのままに傾いでいたゾファルがその揺れに蹈鞴を踏み、敵を捕まえてアリアの前へ引きずり出していたボルディアと、双剣を構えたアリアも構えこそ解かずとも、僅かに視線を揺らす。
「何か有ったようですねぇ」
生命力を力に。飾る双眸を敵へ据えて拳を振り抜いたガクルックスが呟いた。
カリアナはそれでも歌を止めることはなく、マリィアはぶれた狙いを定め直す。
玲瓏もブリジット同様に部屋の違和感を見て、揺れに思わず天井を見上げるが、すぐにその視線は部屋を探る。
「……今のは、彼女では無さそうですね」
揺れた瞬間、慌てたように盾を突いて身を支えた歪虚を見ると、やっぱりと思い直すように2階の方へと目が向いた。
●
それ以上建物が揺れることは無かった。小柄な包帯は半数以上が倒れ、残りも相応の傷を負っている。
倒れた者は包帯の隙間から黒い靄を零し、暫くはそこに肉や骨を見せていたが、やがて、そう時間の経たない内に包帯の欠片さえ残さずに消えてしまった。
「死体だろうとは思っていましたがねぇ」
そう呼ぶには、負のマテリアルの影響を強く受け過ぎていたようだ。骨の一片さえ残せずに、子ども達は消えてしまった。ガクルックスは表情を変えず呟いて、歪虚へと視線を移した。
「ここに住んでいた子どもを知りませんか?」
ガクルックスの動きを隠す様に、玲瓏が歪虚へ話し掛ける。
今まで戦いを眺め、流れ弾を庇う程度にしか動かなかった歪虚が首を傾げて玲瓏を見た。
「お嬢様のお友達の事かしら?」
「貴女がどこかへやったの?」
「今はお嬢様と一緒にいます。私はお世話を手伝っただけですから」
柔らかく微笑む歪虚の手はその剣と盾をこちらへ向けて、とても隙が出来たようにも思えない。
足元を掬おうと、ガクルックスが絨毯を引くと捲れた所を盾で押さえ付けて、悪戯っ子ですねと楽しそうに言う。
「貴女と、その後ろに庇うモノの名前、を礼儀としてまずは教えてくれるかしら」
アリアが剣を向けながら問う。その近くで傷を残したままのゾファルもうずうずと構えた拳を揺らしている。
「お嬢様のお名前は私からはお答え出来ません。……私のことは、どうぞユリアとお呼び下さいませ」
そう、と呟いたのは、残りの包帯を崩そうと銃を構えたマリィアだった。
「……モニカの知り合いのお姉さんの名前じゃなかったかしら」
契約させられて、助け出されて静養していると聞いたことがある。
対面した時から怯えていたのはその為だったのかと、顔を顰めてカリアナの様子を覗った。
口が渇いていく。手が、足が、動かない。歌わないと、動かないと。
「アノヒト……」
この歪虚が。似ているだけ。名前も同じだけ。過ぎる記憶に正しく狙いを付けられないまま放った魔法の矢は、大きく逸れて絨毯に落ちた。
この歪虚があの死体も操っていたのだろうか。世話の手伝いの為に。しかしそれでは、と、ガクルックスは2階を見る。眷属違いだと。
眷属違いを配下にしたのかと、どこかに潜んでいるだろう人形の歪虚、或いはその更に上位の存在を思う。
ふと、何かが引っ掛かった。酷い違和感を感じた。
そんなことは関係無いとばかりに、ゾファルが歪虚へ刃を向けた。続けざまに繰り出したそれは一つは躱され、もう1つは盾に弾かれた。
「オラァ」
3度目からは拳を無数に、まだ残っていた包帯が大声で笑いながら飛び出してきてそれを身に浴びる。
既に深傷を負っていたそれは更に幾つも傷を加えて、絨毯に落ちると同時に黒い灰に変わると崩れて消えた。
「笑ってンじゃねぇ。お前等の笑いは、人を不快にさせるだけのただの雑音だ」
誘う様に強く歪虚を蹴りつければ、包帯はまた笑いながら飛び出してくる。
残りの包帯と歪虚を狙い、マリィアの弾丸が降り注ぐ。動きを止められた瞬間を狙ってアリアが刃を向けた。
月光を思わせるような軌跡を描き振るう切っ先が敵を捕らえた。
盾を向けようとすれば阻まれ、解放されて一撃を防いでも、最初の傷が腕を軋ませる。
「まずは主人が出てきて挨拶するモンだろうがよ!」
接近すれば振り向けられた剣を弾き、ボルディアは肩を聳やかして歪虚を睨む。
傷を庇う様な動きで歪虚は腰を屈め、今は忙しくてと答えた。
蹴りに合わせて構築されたマテリアルの刃に歪虚が盾を向ける。重い音を響かせて、白い面に浮かんだ表情が険しい。
推理は途中だが、倒してからでも構わない。ガクルックスはもう一度生命力をこの歪虚に相対するに相応しい攻撃の力に換え、マテリアルを込めて槍を振り抜く。
消耗は見られるが、微笑みも崩れていない。
「何度でも殴り倒してやらぁ」
泣いて謝るまでだ、とゾファルが拳を叩き付ける。盾を両腕で押さえるように身を屈め、無数の拳を防いでいるが、肌の表面に罅が見えた。
ブリジットは一度収めたレイピアにマテリアルを込める。
その抜き様の不意打ちに、反応の遅れた脇を細く鋭い切っ先が裂いた。
「人違いだと良いのだけれどね」
リロードを済ませた銃を歪虚へ向け、その1体へ静かに狙いを定める。
本人なのか、或いは。どちらにしても、そう名乗る存在が人形に加担している事に違いは無い。
理由も、真実も、倒してから。既に盾には罅が入っていた。
切り結ぶように剣を受ける、その身の細さからは想像の付かないほど重い一撃に膝を突きそうになり、抑えたはずの腕がじんと痺れた。アリアの背に玲瓏の手が添えられた。マテリアルが温かく傷を癒やす。失い掛けた指の感覚が戻り、柄を確りと握り締めた。
「自分の趣味を、姿と想いを貫くというのなら、私もまた」
最後です、と潜めた声で告げて玲瓏は手に拳銃を握る。アリアはそっと首を横に揺らした。
こちらこそ、最後だというように。祈りマテリアルを重ね合わせて刃を研ぎ澄ます。
一閃、更にもう一閃。
盾は砕けて、白い面が割れるように崩れた。
晒した素顔を隠した歪虚をボルディアの鎖が捕らえ、アリアが最後の一太刀を加えた。
黒い灰に靄に変わった歪虚の傍ら、薄汚れた桃色のドレスが所々その形を残していた。
絨毯を捲れば下階への扉が伺えるが、室内には調べ残した物が幾つも有る。
戦闘の中触れていたはずのマテリアルに反応しなかった異質な物。
ブリジットはそれを指して、仲間に違和感を打ち明けた。
その時。
階段さえもどかしがって飛び降りてきた若いハンターが、青ざめた顔で至急の撤退を伝えた。
階段を隠していたと思しき板が剥がされ、下階へ進もうとするハンター達の中、星野 ハナ(ka5852)だけはその足を止める。
「もし上にお戻りになるならそこまで送りますよぅ? ラヴェルさんが害される方がよっぽど被害甚大ですぅ」
会話も出来て、ハンター達に加護の包みを渡せる程度の力を持った精霊へ、失礼を承知でと言いながら。
仲間からの反対も無く、星野と精霊は留まってハンター達を見送った。
待っていろと言い残して外へ出た精霊が連れてきたハンターは、椎木です、と手短に挨拶し、芳しくは無い表の状況を完結に星野へ伝えながら、室内を見回してアレ、ソレ、と異質な物品を指し示す。
「……それから、後程もう1人都合が付くようです。妹がこちらで戦っているとかで」
そうか、と室内を歩き回りながら答えた精霊に、星野は気丈な笑みを向けた。向こうには頼れるハンターが8人もいる。負けたりしないと。
「ただ爆発させるだけなら多分私の式神でもお手伝いできる気がしますからぁ」
アレですね、と椎木が指して精霊が頷いた人形。艶やかに微笑む繊細な白磁のバレリーナ。遊び盛りの男の子の部屋には不釣り合いに感じる。
ふわりと髪を揺らめかせ、扇に構えた符を放つ星野のマテリアルで作られた人型の式神。何をするのかと精霊と椎木が止めるよりも早く、それはバレリーナを捕まえて。
「――止めろ」
壁へ投じた。
踊るように回転しながら砕けた人形の白い面が星野へ向いて。それは嗤った様に見えた。
溢れた負のマテリアルが爆ぜ、押し込められていた金属片が壁と床へ強い衝撃を与え――――
●
茶褐色の突撃銃、銃床を肩に据えてスコープを覗きながら仲間の最後尾を進むマリィア・バルデス(ka5848)。そのフロントサイトが捕らえた包帯の子ども。感じるマテリアルは生きた人間のそれでは無い。唇から細く安堵の息が零れた。
「生きている子供じゃない。……敵が敵で良かったわ」
敵の全滅を。コマンドを冷静に、緑の瞳が敵の只中へ狙いを定める。
後方、家具の配置や仲間の射程や互いの距離を推し測り、玲瓏(ka7114)は白い指輪に手を重ねた厚いグローブ越しであっても象られた龍の凹凸を感じ取ることが出来る。
狭い屋内での戦いは敵にとっても同じ。大きくは動けないだろうが、小柄な彼等に背後を取られないように。
2人の近く、カリアナ・ノート(ka3733)も後方で鍵盤へ指を置いた。カリアナのマテリアルの覚醒を表す灰色の球体は回転を続けているが、鍵を叩く指がどこか覚束ない。
部屋の狭さに前を仲間に譲る形でやや後退し、ブリジット(ka4843)は吊したレイピアの柄に手を置いて敵を伺う。
マリィアの放つ弾丸が光りの帯を棚引かせて敵へ迫る。銃身を抱えるように全弾を撃ち尽くし、降り注ぐような光りが包帯に覆われた小さな的を掠めるとそれだけで向かう動きを、構えた得物の動きを止めた。
光りから逃れた敵も全て包み込むように玲瓏は鎮魂歌を詠う。
清廉な旋律が絡み付く様に敵の動きを妨げ、指輪に込められた力が更にその歌から逃れた敵へも玲瓏の声を届かせる。
悪い夢でも見ているのかしら。カリアナの青い双眸が見開いたまま震えている。
鍵を叩く指が強張って動かない。とん、と、ブーツの踵を鳴らす。
その小さな音で自身を奮い立たせるように、カリアナは音を奏でた。敵へ届かせる為にあと一歩、あともう一歩だけ竦む足を叱咤して、ステップを踏む。
敵の後方、首を振って歌を振り切るように銃を構えた包帯の腕。
体格にそぐわぬ大振りの銃を軽く扱い、その銃口がカリアナを捕らえた。
庇おうと前へ動くブリジットの脇を擦り抜ける様に、黒い弾丸は細い腕を貫いた。
敵の只中へ駆けるボルディア・コンフラムス(ka0796)の腕が炎を纏う。
その炎が鎖の形に定まると、敵をその得物諸共捕らえた。
「これがこの家流の歓迎か? 客のもてなしがなってねぇな!」
動く敵から捕らえて、引き寄せて、咄嗟に放り投げられた玩具の閃光に目を眇めながら、撓らせた脚は違わず敵を横薙ぎにする。
「そう……子供」
マテリアルの光りを纏い、アリア・セリウス(ka6424)が爬虫類の如き瞳を細め、眉根を振るわせた。
ボルディアの攻撃で剥がれた包帯から覗くのは、黒い靄と爛れた肉。既に祈りの及ぶところでは無いならば、速やかに終わらせて眠らせるまで。
閉じ込めるように動くのが良いだろう、両腕に構えた剣を閃かせる。
「知り合いですか?」
ブリジットと代わるようにグローブの模様にマテリアルを走らせて盾を作り、Gacrux(ka2726)がカリアナに尋ねた。
「話し掛けてきましたし、何か訊いてみましょう」
玲瓏もカリアナの傷を癒やすと、敵の中央に佇む歪虚へ目を向けた。
視線に気付いた歪虚はにこりと微笑んだままで剣を翻す。
楽しそうなことになっている。
動きを止めて仕舞ったままの敵も多いが、あの辺り、あの拳銃の奴と剣の奴は動けそうだ。
今度は俺様ちゃんも、面白がらせてくれじゃん。
ゾファル・G・初火(ka4407)は口角を釣り上げ、床を蹴って敵の只中へ。
手首までを覆おうナックルにマテリアルの刃を作り、擦れ違い様に斬り付けながら狙いを付けた敵へ迫る。飛び込んできたゾファルを獲物と見たのか、動きを阻んだ光りと歌を振り切った者から、切っ先を向けてくる。
敵の刃を構わず、鎧を圧して骨へ響く衝撃にさえぞくぞくと笑いながら。
「一発殴ってから話をしてやろうじゃん」
マテリアルの刃が起こす竜巻が回りの敵を巻き込んでふらつかせ、そこへ振り上げた拳を叩き込んだ。
距離を取っていても視界にちらつく閃光と爆風に舞う埃は厄介だとスコープを覗いたマリィアが眉を寄せた。
敵の中で暴れすぎて、全身に傷を負ったゾファルへ、玲瓏が駆けつけて癒やす。
荒らした部屋の中、動けるようになった敵は、ボルディアの素早い蹴りに裂かれ、或いはアリアに追い詰められて切られている。
不意の光りに苦戦していたマリィアも、隙を見付ければ狙い澄まして銃弾を放つ。
その攻撃で、動き出していた者の3体が足を止めた。
本命の前にもう少しだけ、暴れられそうだ。
ブリジットが抑えていた敵へ加勢し、その勢いのままマテリアルの刃で刺し貫く。
「ありがとうございます」
ゾファルへ告げながら、気に掛かるのは背後のカリアナと、部屋の違和感だった。
傷も回復し、大丈夫だと言い聞かせるように歌い続けているが、表情から混乱は消えていない。
カリアナの近くにも、2階で見たような玩具があった。歌のマテリアルに触れそうなそれに、危ないと言いかけたが間に合わず、しかしその玩具が爆ぜることも無かった。
見間違えたかと過ぎるが、部屋にはその類いの、キッチンでは、リビングでは使わないような雑貨が様々に散らかっていた。おかしいとも判ぜられるが、その異質さの正体が得られない。落ち付いて、レイピアを握り直してゆっくりと息を吐いた。
――建物が揺れた。
「今、……っ」
揺れませんでしたか。ブリジットは近くの仲間に声を掛け、その原因を探るように周囲を見る。
真逆というように2階へも目を向け、表を覗う様に窓も見る。
落ち付いて。もう一度言い聞かせるように、ブリジットは敵へ視線を向け直し、白い翼の幻影を煌めかせ、レイピアを振るう。探るには少し騒がしさが過ぎる。
敵を殴りつけた勢いのままに傾いでいたゾファルがその揺れに蹈鞴を踏み、敵を捕まえてアリアの前へ引きずり出していたボルディアと、双剣を構えたアリアも構えこそ解かずとも、僅かに視線を揺らす。
「何か有ったようですねぇ」
生命力を力に。飾る双眸を敵へ据えて拳を振り抜いたガクルックスが呟いた。
カリアナはそれでも歌を止めることはなく、マリィアはぶれた狙いを定め直す。
玲瓏もブリジット同様に部屋の違和感を見て、揺れに思わず天井を見上げるが、すぐにその視線は部屋を探る。
「……今のは、彼女では無さそうですね」
揺れた瞬間、慌てたように盾を突いて身を支えた歪虚を見ると、やっぱりと思い直すように2階の方へと目が向いた。
●
それ以上建物が揺れることは無かった。小柄な包帯は半数以上が倒れ、残りも相応の傷を負っている。
倒れた者は包帯の隙間から黒い靄を零し、暫くはそこに肉や骨を見せていたが、やがて、そう時間の経たない内に包帯の欠片さえ残さずに消えてしまった。
「死体だろうとは思っていましたがねぇ」
そう呼ぶには、負のマテリアルの影響を強く受け過ぎていたようだ。骨の一片さえ残せずに、子ども達は消えてしまった。ガクルックスは表情を変えず呟いて、歪虚へと視線を移した。
「ここに住んでいた子どもを知りませんか?」
ガクルックスの動きを隠す様に、玲瓏が歪虚へ話し掛ける。
今まで戦いを眺め、流れ弾を庇う程度にしか動かなかった歪虚が首を傾げて玲瓏を見た。
「お嬢様のお友達の事かしら?」
「貴女がどこかへやったの?」
「今はお嬢様と一緒にいます。私はお世話を手伝っただけですから」
柔らかく微笑む歪虚の手はその剣と盾をこちらへ向けて、とても隙が出来たようにも思えない。
足元を掬おうと、ガクルックスが絨毯を引くと捲れた所を盾で押さえ付けて、悪戯っ子ですねと楽しそうに言う。
「貴女と、その後ろに庇うモノの名前、を礼儀としてまずは教えてくれるかしら」
アリアが剣を向けながら問う。その近くで傷を残したままのゾファルもうずうずと構えた拳を揺らしている。
「お嬢様のお名前は私からはお答え出来ません。……私のことは、どうぞユリアとお呼び下さいませ」
そう、と呟いたのは、残りの包帯を崩そうと銃を構えたマリィアだった。
「……モニカの知り合いのお姉さんの名前じゃなかったかしら」
契約させられて、助け出されて静養していると聞いたことがある。
対面した時から怯えていたのはその為だったのかと、顔を顰めてカリアナの様子を覗った。
口が渇いていく。手が、足が、動かない。歌わないと、動かないと。
「アノヒト……」
この歪虚が。似ているだけ。名前も同じだけ。過ぎる記憶に正しく狙いを付けられないまま放った魔法の矢は、大きく逸れて絨毯に落ちた。
この歪虚があの死体も操っていたのだろうか。世話の手伝いの為に。しかしそれでは、と、ガクルックスは2階を見る。眷属違いだと。
眷属違いを配下にしたのかと、どこかに潜んでいるだろう人形の歪虚、或いはその更に上位の存在を思う。
ふと、何かが引っ掛かった。酷い違和感を感じた。
そんなことは関係無いとばかりに、ゾファルが歪虚へ刃を向けた。続けざまに繰り出したそれは一つは躱され、もう1つは盾に弾かれた。
「オラァ」
3度目からは拳を無数に、まだ残っていた包帯が大声で笑いながら飛び出してきてそれを身に浴びる。
既に深傷を負っていたそれは更に幾つも傷を加えて、絨毯に落ちると同時に黒い灰に変わると崩れて消えた。
「笑ってンじゃねぇ。お前等の笑いは、人を不快にさせるだけのただの雑音だ」
誘う様に強く歪虚を蹴りつければ、包帯はまた笑いながら飛び出してくる。
残りの包帯と歪虚を狙い、マリィアの弾丸が降り注ぐ。動きを止められた瞬間を狙ってアリアが刃を向けた。
月光を思わせるような軌跡を描き振るう切っ先が敵を捕らえた。
盾を向けようとすれば阻まれ、解放されて一撃を防いでも、最初の傷が腕を軋ませる。
「まずは主人が出てきて挨拶するモンだろうがよ!」
接近すれば振り向けられた剣を弾き、ボルディアは肩を聳やかして歪虚を睨む。
傷を庇う様な動きで歪虚は腰を屈め、今は忙しくてと答えた。
蹴りに合わせて構築されたマテリアルの刃に歪虚が盾を向ける。重い音を響かせて、白い面に浮かんだ表情が険しい。
推理は途中だが、倒してからでも構わない。ガクルックスはもう一度生命力をこの歪虚に相対するに相応しい攻撃の力に換え、マテリアルを込めて槍を振り抜く。
消耗は見られるが、微笑みも崩れていない。
「何度でも殴り倒してやらぁ」
泣いて謝るまでだ、とゾファルが拳を叩き付ける。盾を両腕で押さえるように身を屈め、無数の拳を防いでいるが、肌の表面に罅が見えた。
ブリジットは一度収めたレイピアにマテリアルを込める。
その抜き様の不意打ちに、反応の遅れた脇を細く鋭い切っ先が裂いた。
「人違いだと良いのだけれどね」
リロードを済ませた銃を歪虚へ向け、その1体へ静かに狙いを定める。
本人なのか、或いは。どちらにしても、そう名乗る存在が人形に加担している事に違いは無い。
理由も、真実も、倒してから。既に盾には罅が入っていた。
切り結ぶように剣を受ける、その身の細さからは想像の付かないほど重い一撃に膝を突きそうになり、抑えたはずの腕がじんと痺れた。アリアの背に玲瓏の手が添えられた。マテリアルが温かく傷を癒やす。失い掛けた指の感覚が戻り、柄を確りと握り締めた。
「自分の趣味を、姿と想いを貫くというのなら、私もまた」
最後です、と潜めた声で告げて玲瓏は手に拳銃を握る。アリアはそっと首を横に揺らした。
こちらこそ、最後だというように。祈りマテリアルを重ね合わせて刃を研ぎ澄ます。
一閃、更にもう一閃。
盾は砕けて、白い面が割れるように崩れた。
晒した素顔を隠した歪虚をボルディアの鎖が捕らえ、アリアが最後の一太刀を加えた。
黒い灰に靄に変わった歪虚の傍ら、薄汚れた桃色のドレスが所々その形を残していた。
絨毯を捲れば下階への扉が伺えるが、室内には調べ残した物が幾つも有る。
戦闘の中触れていたはずのマテリアルに反応しなかった異質な物。
ブリジットはそれを指して、仲間に違和感を打ち明けた。
その時。
階段さえもどかしがって飛び降りてきた若いハンターが、青ざめた顔で至急の撤退を伝えた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/10/13 21:57:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/11 22:26:46 |