ゲスト
(ka0000)
【落葉】ライジング・オール
マスター:石田まきば
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/10/16 12:00
- 完成日
- 2018/10/23 10:06
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●地下遺跡の攻略
ゾンネンシュトラール帝国における一大事業……と言ってもいいものだろうか。浄化術の安定供給が可能になった今、ラズビルナムの浄化作戦は計画通りに進んでいると考えてよいだろう。
地上部、つまり森林地域の浄化は成果が目に見えるようになってきていた。過去の足跡を見出したり、ややこしい敵に相対したり。汚染により目が眩まされていた部分が少しずつ、明らかになってきている。
その中でも特に重要と思われるのは地下遺跡への入り口を発見したことだろう。
そこは異界に酷似しており、クリピクロウズの存在が色濃く表れており……しかしそれらの情報はあくまでも状況判断と推測によるものであるため、なぜこの地に在るのか等、詳細は解明されていない。
それはこれから取り掛かるべき事柄だ。
おのずと、浄化作戦は第二段階へと移行していくことになる。
地上部の浄化は完全とは言えず、遺跡内部から漏れ出る負のマテリアル、つまり歪虚達の存在があるために継続される。
同時に、地下遺跡部分への侵入、内部探索、敵の威力偵察……むしろ為すべき事柄は増えた。指示を出す上層部の悲鳴はいかほどだろうか。
しかし、幸い――と呼ぶにはいささか不謹慎だが――遺跡内部は異界であろうという事実が、担う者達を自然とより分けていく。
遺跡内部での対応は覚醒者に。外部では非覚醒者に。勿論担う者達の立場や希望も考慮され、人員の手配は止まることはなかった。
●浄化キャンプは数多い
ラズビルナムの地下へと向かう調査隊の中に、エルフハイムの巫女達の姿もあった。
とはいっても、地下に潜る為ではない。なにせラズビルナムの地下遺跡は異界だと目されている。浄化ができる場所ではないはずだ。
彼女達は調査隊の拠点、浄化キャンプの設置と維持要員として派遣されていたのだった。
しかしその拠点も複数ある中のひとつである。
ラズビルナムには歪虚達が漏れ出てくるポイントがいくつも存在していた。継続した調査の結果、それがすべて地下遺跡への出入り口であることが分かったのだ。
全ての遺跡が繋がっているという保証があるわけではない。しかし全ての出入り口が、はじめに確認の行われた出入り口と同じように異界に似ていると判断され、どの遺跡にもスケルトンやそれに類する歪虚の存在が確認されたのである。
どれか一つでも出入り口の監視を怠れば、そこから歪虚が溢れ出す可能性は否定できない。
よって、歪虚達にとっては出口であり、人類にとっては突入口である遺跡の出入り口。それらの監視を兼ねて、浄化キャンプがいくつも設置されることとなったのである。
●少女達よ心よ育て
「スケルトン……やはり恐ろしいのでしょうか」
深く息を吸ったあと、ゆっくりと吐きだす用に零れた言葉。生真面目な顔をした巫女が小さく肩を震わせる。
「あら? デリア、貴女は料理もするのではなかったかしら」
弟子でもある少女の声に、年相応の怯えが見えて。フュネは常よりもゆっくりと声をかける。
「森の恵みを、獣たちの血肉を頂いた後に骨が残るでしょう? 彼等の生きた証を見た覚えがある筈よ」
勿論、全てのスケルトンに生来の命があったかどうか、知ることはできないけれど。
「似たものだと思えば……」
途中でデリアの笑い声が零れた。
「ふふっ……もう、フュネ様ってば」
戦闘を料理と結びつける荒業に耐えきれなかったらしい。
「……でも、少し安心しました」
師匠の意外なヒトらしいユーモアに気付いて、敵のことばかり考えていた自分の視野に気付いて。戦うのは自分達だけではないと、思い出したから。
戦う術を持たない事が多い巫女達は、たとえ覚醒者であったとしても戦闘経験が少ない。フュネだって、規模の大きい術の柱として過ごすあの時まで、剣戟をあれほど身近に感じたことはなかった。
(確かに、今の私達は戦いの傍に身を置くことが増えましたわ)
浄化術の輸出が決まってからの行動は基本的に、手厚い護衛をつけられてのものになる。なかでも見習いだった少女達は術の練度が低かったこともあり、危険の多い場所に出すタイミングの見極めは困難を極めた。多少でも危険度が高くなる場所へは、念入りな先行調査も行われ、術の行使に万全を期すのが当たり前だった。そうして少しずつ実地を兼ねた修業を重ね、経験を積み、今の巫女達がある。
それらは彼女達が被害者とも呼べる立場であった事にも由来するだろうけれど、なにより。巫女である少女達の大半は、十歳前後の外見であることが大きな理由なのではないだろうか。なにせはじめは「保護」という名目が持ち出されていたはずだ。
彼女達はエルフハイムの巫女で、全員がエルフである。実年齢が外見より上なのは間違いないが、大半の者達は外見通りの精神年齢であることも多い。 口調や所作が大人びて居たり、行動が静謐な巫女であっても。ヒトとしての常識が足りないことは往々にして有りえた。
(私は流石に慣れてきましたけれど)
少女達を危険な地域に派遣できない間、その役を担っていたのはフュネ達年長の巫女達である。数少ない彼女達が手分けして場を繋ぎ、少女達の成長を待って、今がある。
後輩達の戦闘への不安など、精神的なフォローに気をつける時期。デリアにとってはまさに今がその転換期なのだろう。他の同僚達よりも早く外を見ることができた自分は、困惑する者達のほんの少し前を歩かなければならない。
(皆が自分を見失わないように。考えも感情も育まなければなりませんわ。二度と過ちを繰り返さないように)
かつての自分への戒めを胸に。ひとつの糧として。
(……目論見は外してしまいましたけど)
関節などの弱点を見極める力になるし、怖がる必要がなくなる……と続けるつもりだったのだが。結果的に良い方に転んだようだから構わないだろう。
●クリピクロウズ的な=分体
タングラムの言葉では毎度毎度言いにくい……ということで、遺跡内部のスケルトン系歪虚は「分体」と呼称される機会が増えた。これはあまりにも骨系統の歪虚を発見することが多いことに由来している。クリピクロウズがスケルトン系の歪虚であり、発見されるスケルトン系歪虚が種類も数も多すぎて情報を纏める方が追い付かない。とりあえず全てを纏めて呼ぶ方法を作ってしまおう、というのが現実だった。ちなみに遺跡内部では、スケルトン系に比べると数が少ないけれども、他の歪虚も発見される。情報管理部が匙を投げたのかもしれなかった。
「新たな分体が出たぞ!」
「よし、すぐに戦闘開始だ! 我々帝国軍も加勢するからな。お前達も気を抜かずに装備を整えておけ!」
偵察からの報告に、ハンター達が武器を構える。後方では兵長の檄が飛んでいた。
遺跡の出入り口は浄化キャンプを拠点とした者達によって監視されている。今もまた、ハンター達の前に新たな分体達が迫ってきているのだ。
ゾンネンシュトラール帝国における一大事業……と言ってもいいものだろうか。浄化術の安定供給が可能になった今、ラズビルナムの浄化作戦は計画通りに進んでいると考えてよいだろう。
地上部、つまり森林地域の浄化は成果が目に見えるようになってきていた。過去の足跡を見出したり、ややこしい敵に相対したり。汚染により目が眩まされていた部分が少しずつ、明らかになってきている。
その中でも特に重要と思われるのは地下遺跡への入り口を発見したことだろう。
そこは異界に酷似しており、クリピクロウズの存在が色濃く表れており……しかしそれらの情報はあくまでも状況判断と推測によるものであるため、なぜこの地に在るのか等、詳細は解明されていない。
それはこれから取り掛かるべき事柄だ。
おのずと、浄化作戦は第二段階へと移行していくことになる。
地上部の浄化は完全とは言えず、遺跡内部から漏れ出る負のマテリアル、つまり歪虚達の存在があるために継続される。
同時に、地下遺跡部分への侵入、内部探索、敵の威力偵察……むしろ為すべき事柄は増えた。指示を出す上層部の悲鳴はいかほどだろうか。
しかし、幸い――と呼ぶにはいささか不謹慎だが――遺跡内部は異界であろうという事実が、担う者達を自然とより分けていく。
遺跡内部での対応は覚醒者に。外部では非覚醒者に。勿論担う者達の立場や希望も考慮され、人員の手配は止まることはなかった。
●浄化キャンプは数多い
ラズビルナムの地下へと向かう調査隊の中に、エルフハイムの巫女達の姿もあった。
とはいっても、地下に潜る為ではない。なにせラズビルナムの地下遺跡は異界だと目されている。浄化ができる場所ではないはずだ。
彼女達は調査隊の拠点、浄化キャンプの設置と維持要員として派遣されていたのだった。
しかしその拠点も複数ある中のひとつである。
ラズビルナムには歪虚達が漏れ出てくるポイントがいくつも存在していた。継続した調査の結果、それがすべて地下遺跡への出入り口であることが分かったのだ。
全ての遺跡が繋がっているという保証があるわけではない。しかし全ての出入り口が、はじめに確認の行われた出入り口と同じように異界に似ていると判断され、どの遺跡にもスケルトンやそれに類する歪虚の存在が確認されたのである。
どれか一つでも出入り口の監視を怠れば、そこから歪虚が溢れ出す可能性は否定できない。
よって、歪虚達にとっては出口であり、人類にとっては突入口である遺跡の出入り口。それらの監視を兼ねて、浄化キャンプがいくつも設置されることとなったのである。
●少女達よ心よ育て
「スケルトン……やはり恐ろしいのでしょうか」
深く息を吸ったあと、ゆっくりと吐きだす用に零れた言葉。生真面目な顔をした巫女が小さく肩を震わせる。
「あら? デリア、貴女は料理もするのではなかったかしら」
弟子でもある少女の声に、年相応の怯えが見えて。フュネは常よりもゆっくりと声をかける。
「森の恵みを、獣たちの血肉を頂いた後に骨が残るでしょう? 彼等の生きた証を見た覚えがある筈よ」
勿論、全てのスケルトンに生来の命があったかどうか、知ることはできないけれど。
「似たものだと思えば……」
途中でデリアの笑い声が零れた。
「ふふっ……もう、フュネ様ってば」
戦闘を料理と結びつける荒業に耐えきれなかったらしい。
「……でも、少し安心しました」
師匠の意外なヒトらしいユーモアに気付いて、敵のことばかり考えていた自分の視野に気付いて。戦うのは自分達だけではないと、思い出したから。
戦う術を持たない事が多い巫女達は、たとえ覚醒者であったとしても戦闘経験が少ない。フュネだって、規模の大きい術の柱として過ごすあの時まで、剣戟をあれほど身近に感じたことはなかった。
(確かに、今の私達は戦いの傍に身を置くことが増えましたわ)
浄化術の輸出が決まってからの行動は基本的に、手厚い護衛をつけられてのものになる。なかでも見習いだった少女達は術の練度が低かったこともあり、危険の多い場所に出すタイミングの見極めは困難を極めた。多少でも危険度が高くなる場所へは、念入りな先行調査も行われ、術の行使に万全を期すのが当たり前だった。そうして少しずつ実地を兼ねた修業を重ね、経験を積み、今の巫女達がある。
それらは彼女達が被害者とも呼べる立場であった事にも由来するだろうけれど、なにより。巫女である少女達の大半は、十歳前後の外見であることが大きな理由なのではないだろうか。なにせはじめは「保護」という名目が持ち出されていたはずだ。
彼女達はエルフハイムの巫女で、全員がエルフである。実年齢が外見より上なのは間違いないが、大半の者達は外見通りの精神年齢であることも多い。 口調や所作が大人びて居たり、行動が静謐な巫女であっても。ヒトとしての常識が足りないことは往々にして有りえた。
(私は流石に慣れてきましたけれど)
少女達を危険な地域に派遣できない間、その役を担っていたのはフュネ達年長の巫女達である。数少ない彼女達が手分けして場を繋ぎ、少女達の成長を待って、今がある。
後輩達の戦闘への不安など、精神的なフォローに気をつける時期。デリアにとってはまさに今がその転換期なのだろう。他の同僚達よりも早く外を見ることができた自分は、困惑する者達のほんの少し前を歩かなければならない。
(皆が自分を見失わないように。考えも感情も育まなければなりませんわ。二度と過ちを繰り返さないように)
かつての自分への戒めを胸に。ひとつの糧として。
(……目論見は外してしまいましたけど)
関節などの弱点を見極める力になるし、怖がる必要がなくなる……と続けるつもりだったのだが。結果的に良い方に転んだようだから構わないだろう。
●クリピクロウズ的な=分体
タングラムの言葉では毎度毎度言いにくい……ということで、遺跡内部のスケルトン系歪虚は「分体」と呼称される機会が増えた。これはあまりにも骨系統の歪虚を発見することが多いことに由来している。クリピクロウズがスケルトン系の歪虚であり、発見されるスケルトン系歪虚が種類も数も多すぎて情報を纏める方が追い付かない。とりあえず全てを纏めて呼ぶ方法を作ってしまおう、というのが現実だった。ちなみに遺跡内部では、スケルトン系に比べると数が少ないけれども、他の歪虚も発見される。情報管理部が匙を投げたのかもしれなかった。
「新たな分体が出たぞ!」
「よし、すぐに戦闘開始だ! 我々帝国軍も加勢するからな。お前達も気を抜かずに装備を整えておけ!」
偵察からの報告に、ハンター達が武器を構える。後方では兵長の檄が飛んでいた。
遺跡の出入り口は浄化キャンプを拠点とした者達によって監視されている。今もまた、ハンター達の前に新たな分体達が迫ってきているのだ。
リプレイ本文
●
「報告書によると本体は随分と性能が良かったみたいだけれど……分体はどうなのかしらね?」
「本体ほどではないそうだよ」
シルヴェイラ(ka0726)にエルティア・ホープナー(ka0727)が視線を向ける。続きを急かす視線に熱を帯びているのは、遺跡が目と鼻の先にあるからだ。
物語の予感に逸る気持ちを抑えながら分体の排除を目指す幼馴染。同意を覚えながらシーラは続ける。
「そのかわりと言っていいのかわからないけれど、スケルトンらしくない能力もあったようだね」
スケルトンの特徴を持ちつつも、他の歪虚を彷彿とさせる存在なんてまだいい方だ。スケルトンと共に居るだけだとか、骨の部分があるだけの歪虚なんて分体と呼んでいいのかもわからない……いや流石にそれは分体には数えない、か?
「予想外が起きる可能性もある、ということだろうね」
警戒はし過ぎても無駄にならない。皆にも伝えておこう。
「無駄にはならなそうでよかったよ」
色粉を付けた真星を構えながらユリアン(ka1664)が呟く。よく見れば個々の差は見つけることができるのかもしれない。けれど戦闘中にその差を見極めて連携するなんて自ら状況を難しくする気なんてなかった。
(ヴォールじゃないんだから)
合成された感じといい能力解析の状況といい、友の兄を思わせる。
(仲間の経験と目があるのだから、大丈夫)
今は目の前の敵を。
クレール・ディンセルフ(ka0586)が思うのはクリピクロウズの本体のこと。学習能力を持っていることを忘れるわけがない。数はすぐに確かめた。
6体。ならばフルスペックじゃないと予測する。
「まずは能力を見極める!」
分体の話を聞いてからずっと方法を考えていた。仲間達との連携も入念に行った。あとは想定通りに事が進むことを祈りながら倒すのみ。
「皆さん、お願いします!」
ユリアンの背を追い駆けだす。
ほんの6体とみるか、より多くを想定するか。
「いったい、この分体ってどれだけ居るんでしょうね……」
既に言葉には節がついている。声に出しながら、脳内では階名が言葉に添って舞っている。足も基礎のステップを踏みはじめ、喉の調子を整えながらルナ・レンフィールド(ka1565)は目指す位置を見極める。
「私は私の得意なことで」
ミファソソミファソソドレミミレレド♪
ただ正のマテリアルに引き寄せられているような直進にアンネマリー・リースロッド(ka0519)が安堵の息を零す。
(浄化を担う巫女達を襲うわけじゃなかったのは幸いと言えましょうか)
守ってくれる人が怪我を負うことも自分達が怪我を負うこともどちらも慣れないものだ、特に前者、犠牲と呼ぶまでの事態になったらと思うと。
(幼い時分の人格形成には影響大きいですよね)
彼女達はこれからも、そして今後も護衛をされながら各地を回っているわけで。今後の被害を抑えるために、自身の胸の内に意思を固める。
巫女と帝国兵達に、キャンプの奥へと下がる様に伝えるのは深守・H・大樹(ka7084)。
「僕達も突破されない様注意するけど、射程範囲に入ってきたら巫女達とキャンプの危機……」
牽制してもらえるだけでも助かるから、その時は撃って欲しいと兵長に添えれば、任せてくれとの返事。
「あと……ないよりいいよね」
敵の接近より前にと地面にマテリアルを注ぎ込めば、地面がせり上がってくるのだった。
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利」
土壁がせり上がり僅かに振動を伝えてくる。ビブラートを効かせてルナの歌声が戦場に響く。ステップはその場に留まる形で簡潔に。詩を止めても続けるための布石であり、敵の位置を詩の中に捉えるための準備運動。
「奏で謳いましょう」
未知を解き明かす物語を。
フワ ハヤテ(ka0004)はひとり思考する。
(従来のクリピクロウズは一度受けた攻撃を完全に学習するという)
だが分体だ。学習精度が低い乃至変化がみられる可能性がある。よってその検証を行うために観察ありきで先に攻撃する……
「だめだ!!」
(ボクにはどうしても初手に同スキル別属性で攻撃する意味を見いだせない!)
本体の性質を知っていればこそ模倣されるとしか思えない初手に違和感ばかり覚える。
けれど作戦は決まった後だし、なによりハヤテは作戦段階で異を唱えなかった。何故って?
(そう、ボクの頭は今だけバナナだ!!!)
その方が検証し甲斐があるというものだ!
実際は『本体と違う』という検証にもなるからだけれど。
この時ハヤテは混乱していたのかもしれない。
数年越しに検証を行う機会に恵まれたのだ。答えを求める行為を好む彼にとって『クリピクロウズの分体』はこれ以上ないほど気分が高揚する事態。
内心では忙しいハヤテだが、実際に表情には出していない。だからこれはあくまでも彼の心の中を渦巻く感情がマテリアルを練るように広がっているのであって彼の心情は本人以外他の誰にも慮ることはできないのである。つまり他の皆は彼が珍しく大声を上げても触れてはいけない! なぜなら研究馬……バナナだからだ!
●
ユリアンが後方を伺えば、効き手に銃を、もう一方の手に軍用双眼鏡を構えた兵長が見える。
「気付いたことがあったら教えてほしい」
防衛に徹して貰う上で余裕があればと頼んだが、こちらへの協力も前向きに取り掛かってくれるようだ。
(その双眼鏡を離さないで済むように)
敵を通させるつもりはない。
改めて向き直る。そろそろ迎え撃てる距離だ。
そう思えば瞬時にマテリアルが体中を巡り始める。駆けて振るわれるのは二撃。風の勢いに乗せた初撃は助骨を薙ぎ掃う。確か過ぎる手応えは分体のバランス崩し、あからさまな隙をついた二撃目は脊椎まで届くかと思われたのに。
「なっ!?」
避けられて思わず声が出た。学習が早すぎる!?
(思考する脳も無いのに学習するなんて……面白いわね)
その性質も十分物語たりえるのではないかとエアは考え始めていた。本体ほどではないにしても学習する様子を見せる分体。観察するに値すると言えばいいのだろうか。
(長々と相手したいわけではないわ)
幸いにも巫女の方に足を向ける様子はなさそうだ。シーラと目線を合わせ、頷きあう。今は確実に攻撃をあてることを優先させなければ。
マーキングされた1体に向けてマトリカリアを構える。クレールの息遣いを意識して、歩幅と距離を試算する。分体の骨のつき方を動物標本や図鑑から得た知識と照らし合わせて、可能な動きを予想して。
(……今!)
ダメージとはならないほんの少しの差を狙って撃ちだす。予想通りの軌道に載せられた筈だ。
アクケルテの銃身と呼応するように瞳の紋章が輝く。射出の反動を確かに感じながら分体の動きに注視するクレール。
発動前の風属性を感じ取ったのか分体の頭だけが弾丸へと向いた。エアの牽制もある、先の動き通りなら当たる軌道だ。
「またか!」
寸でのところで分体が身を捻る。トラロックは分体の足先を通り抜け、地面に電撃を散らした。
(私の攻撃に対して明らかに反応が速い!)
同じ属性で同じ人物、そして別の人物からの攻撃どちらにも速くなっている。そして近接と射撃は同等に認識しているようだ。
「……牽制しても、学習してあがった速さの方が上なのかしら」
ぽつりと零したエアの言葉を拾うのはシーラ。互いに射線を重ねない都合もあり、最も近い場所に居るのだ。
「一度で決めるのは早計だろう。せめて私も試行してからにしないか」
「そうね」
「全く……急いて無理はしないでくれよ、エア」
額の黄玉に集めるようにしてマテリアルを練れば、大樹の神経が研ぎ澄まされていく。自分の出来る最善をつくす為にも分体の動きがすべて視界に入るよう、睨みつける。肋骨に緑で彩られていない5体。彼らがなるべく近い場所で纏まって居るうちに。
(命中より反応を見る!)
数を多く同時に確認できる今が狙い時だ。視線の先へ魔法の矢が次々に飛んでゆく。
5本のうち3本が、腕や胴に向かい違わず飛んでゆく。腕を振り避けようとした1体にはシーラが素早く牽制し邪魔をする。それでも実際に攻撃を受けたのは2体だ。
「避け方そのものは、さっきと変わらないね」
ユリアンの攻撃を受けた時の分体と比べて近く、クレールの時よりは鈍い、と言えるだろう。
大樹の魔法の1矢にあわせた弾丸は並走するように分体に向かっていた。避ける動きが一瞬ぎこちなく見えた上で矢が命中したのを見るに、牽制の効果はあったのだと考えられる。
(本体ほどではないのは確実。ただ特殊かと言われると疑問があるね)
分体とはいえクリピクロウズの目撃は久しぶりだ。その期間にハンター達が強くなったと見るべきか、単純にこの分体が弱いだけとみるか。
(両方だとすれば、本体の今の力を読むには情報が足りないか)
短い時間で得られる情報をどれだけ増やすか。シーラは見極めようとしている。
アルマンダルの属性を同期させながら魔法の矢を撃ちだすハヤテ。特に注目するのは大樹の矢が当たった分体だ。速さはそう変わらないと見たところですぐにクレールの声が上がった。
「別属性なら同じスキルでも強化なし!」
「しかし……脆いな!?」
消えた1体の呆気なさに思わず声を上げるハヤテ。わざと効果の弱い武器を使ったというのに。
検証が進んでいるのは幸いだろうか……
(では守りを固めます)
茨の幻影がワンダーランドを彩るように広がって、ハンター達の視界を遮らず包み込む。花が綻ぶように茨が開けば、アンネマリーの籠めた護りの魔力が仲間達を覆う。
分体達の腕の先から爪のように伸びた骨が、前衛の2人へと向けられた。
1体は反撃としてユリアンへ、そして4体の攻撃は全てクレールへ。
同時攻撃になるほどの連携がないことを幸いと感じながら、クレールは情報を整理する。回避しながら思考する余裕があった。
(属性違いで同じスキルを向けても、反応は変わらなかった)
強いて言えば一体の動きが鈍っているが、これはダメージによる負荷だろう。むしろ気になるのは回避時の動きだ。
5本のマジックアローは同時着弾とはならない。そして1矢目が命中したのは幸いだった。2体目以降の動きに変化はないように見えた。
「学習は伝播しない!」
「シーラにも見えたかしら」
「1体か」
「あれ、2回攻撃よね」
幼馴染2人の会話が聞こえた大樹は考える。
(実際に起きたのは2割? だけど、単純に運で繰り出されるなのか、2回攻撃を試して成功した結果が2割なのか……難しいな)
●
鈴を伴う声が響く。普段は浮かばぬ感情が声と瞳に宿る。歌い慣れたフレーズは例え目が見えず音が聞こえなくなったとしても完璧に仕上げる自信を持つほど繰り返してきたもの。
鎮魂の祈りは歌の中で清浄なマテリアルを薄く長くのばし、アンネマリーの舞台を作り上げる。舞台の中で敵と明確に示された分体達はびくりと体を震わせ、音に囚われたかのように動きを鈍らせていく。元からダメージの蓄積が多い1体は、壊れた体を引きずっていたせいで違いが判らなかったけれど。
(スケルトンに永らえる願望なんてあるんでしょうか)
歌い手のアンネマリーだけが1体の抵抗に気付いている。その1体の地点だけがマテリアルの通りが悪いせいだ。
変則的に歌詞を変え指で示せば。後衛の者達が頷いた。
持ち替えて向かうのは無傷の分体。ナイフに切り替えて確実なマーキングを狙うユリアン。関節を壊せればと意識した斬撃は肩に走る。
「これで赤が、1体っ……!」
手ごたえは初撃より弱い。あれは互いに運がぶつかり合ったのかもしれないと推測がよぎった。
(続けて調べる余裕があるといいんだけど)
先の1体の様子を伺う。骨さばきはかわらずとも、マテリアルの量が減っている……弱っているようにも。
「あと少しだよっ!」
巫女の応援が聞こえてくる。感知能力の高い彼女達の言葉は予想が正解だと告げているのか。
属性なしの魔法と属性なしの近接攻撃を終えた結果で、回避能力が読み切れた。
「属性と性質さえずらせば、反応は強化されない! 引き出しの多さで1体ずつ潰しましょう!」
クレールが叫び、次の攻撃の為にマテリアルを練っていた大樹が声を上げる。
「纏めて狙うから、回避直後を利用して!」
魔法の矢で牽制効果を齎そうとしているのだ。当たれば少しでもダメージになることはわかっているので矢を分体の数より減らすことはしない。残った分体全てに隙を作るのが主目的、ダメージがついて来れば幸運と思うくらいで丁度いい。
割り切ったからこそ降った幸運なのか。もっとも弱っていた1体が逃げ遅れ、消滅していく。
「動きを封じさせてもらおうか」
シーラの練り上げたマテリアルがRJBSを覆う。雷撃を纏った弾丸を放つ瞬間、決められた道を行くように軌道が綺麗だと感じられた。だからこそ当たることを疑いもせず行く末を見つめ……
「まだ余裕があるのか!」
動きを阻害されてもなお僅かな動きで避ける分体。学習前の攻撃の筈とはいえ奇跡に近い動きだ。
「シーラ、面白い顔をしているわよ?」
驚いた表情を認めて小さく微笑むエアに、シーラが気を引き締める。
「敵……ではないけれど、討ってあげるわね」
トラロックを選んだのは紅鳴に属性を揃えたからだ。今まさに避けたばかりの分体に狙いを定め、撃ち抜いた。
(脆いなら攻勢に切り替えた方がいいのかも)
ハヤテの一撃で消えた分体を思い出すルナ。敵の能力を確認するための手加減はもう必要ないだろうし、味方を尖らせるほうが有効に思う。相手はスケルトンなのだから、いくら避けやすくなろうとも火や光に弱いはずだ。
火のマテリアルを練り上げる。精霊の力を感じ共に踊るように紡いだ力をクレールの得物へと飛ばした。
「希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん」
無意識に口をついて出たのは、赤の謳歌の詩だった。
「それじゃあ思いっきり、行きます!」
クレールがカリスマリスを振り被れば、ルナの謳ったようにマテリアルが燃え上がる。脚を薙ぎ落すように振るわれ、巨大化の瞬間斬り飛ばす。勢いよく飛んだ後、着地前に露と消えた。
残った3体はハヤテの魔法の矢がとどめを刺していた。生命の泉のもつ3属性を載せて大盤振る舞いだったけれど。
「対応する属性耐性持ちが残ってないとかどういう事かな……バナナ!」
運は仕方ない。
●
スウィートを取り出したルナが爪弾いて、アンネマリーが鈴音を転がす。二人の声が互いを伺うように重なって、次第にユニゾンが完成する。
ユリアンが兵長を、大樹が巫女達を言葉で労い、クレールとハヤテは皆の見識を元に検証結果を纏め資料を作る。遺跡に潜りたそうにしているエアはシーラが止めていた。
穏やかな音色と共に時間が流れていく。今ひと時の休息を終えたら、街へ帰ろう。
「報告書によると本体は随分と性能が良かったみたいだけれど……分体はどうなのかしらね?」
「本体ほどではないそうだよ」
シルヴェイラ(ka0726)にエルティア・ホープナー(ka0727)が視線を向ける。続きを急かす視線に熱を帯びているのは、遺跡が目と鼻の先にあるからだ。
物語の予感に逸る気持ちを抑えながら分体の排除を目指す幼馴染。同意を覚えながらシーラは続ける。
「そのかわりと言っていいのかわからないけれど、スケルトンらしくない能力もあったようだね」
スケルトンの特徴を持ちつつも、他の歪虚を彷彿とさせる存在なんてまだいい方だ。スケルトンと共に居るだけだとか、骨の部分があるだけの歪虚なんて分体と呼んでいいのかもわからない……いや流石にそれは分体には数えない、か?
「予想外が起きる可能性もある、ということだろうね」
警戒はし過ぎても無駄にならない。皆にも伝えておこう。
「無駄にはならなそうでよかったよ」
色粉を付けた真星を構えながらユリアン(ka1664)が呟く。よく見れば個々の差は見つけることができるのかもしれない。けれど戦闘中にその差を見極めて連携するなんて自ら状況を難しくする気なんてなかった。
(ヴォールじゃないんだから)
合成された感じといい能力解析の状況といい、友の兄を思わせる。
(仲間の経験と目があるのだから、大丈夫)
今は目の前の敵を。
クレール・ディンセルフ(ka0586)が思うのはクリピクロウズの本体のこと。学習能力を持っていることを忘れるわけがない。数はすぐに確かめた。
6体。ならばフルスペックじゃないと予測する。
「まずは能力を見極める!」
分体の話を聞いてからずっと方法を考えていた。仲間達との連携も入念に行った。あとは想定通りに事が進むことを祈りながら倒すのみ。
「皆さん、お願いします!」
ユリアンの背を追い駆けだす。
ほんの6体とみるか、より多くを想定するか。
「いったい、この分体ってどれだけ居るんでしょうね……」
既に言葉には節がついている。声に出しながら、脳内では階名が言葉に添って舞っている。足も基礎のステップを踏みはじめ、喉の調子を整えながらルナ・レンフィールド(ka1565)は目指す位置を見極める。
「私は私の得意なことで」
ミファソソミファソソドレミミレレド♪
ただ正のマテリアルに引き寄せられているような直進にアンネマリー・リースロッド(ka0519)が安堵の息を零す。
(浄化を担う巫女達を襲うわけじゃなかったのは幸いと言えましょうか)
守ってくれる人が怪我を負うことも自分達が怪我を負うこともどちらも慣れないものだ、特に前者、犠牲と呼ぶまでの事態になったらと思うと。
(幼い時分の人格形成には影響大きいですよね)
彼女達はこれからも、そして今後も護衛をされながら各地を回っているわけで。今後の被害を抑えるために、自身の胸の内に意思を固める。
巫女と帝国兵達に、キャンプの奥へと下がる様に伝えるのは深守・H・大樹(ka7084)。
「僕達も突破されない様注意するけど、射程範囲に入ってきたら巫女達とキャンプの危機……」
牽制してもらえるだけでも助かるから、その時は撃って欲しいと兵長に添えれば、任せてくれとの返事。
「あと……ないよりいいよね」
敵の接近より前にと地面にマテリアルを注ぎ込めば、地面がせり上がってくるのだった。
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利」
土壁がせり上がり僅かに振動を伝えてくる。ビブラートを効かせてルナの歌声が戦場に響く。ステップはその場に留まる形で簡潔に。詩を止めても続けるための布石であり、敵の位置を詩の中に捉えるための準備運動。
「奏で謳いましょう」
未知を解き明かす物語を。
フワ ハヤテ(ka0004)はひとり思考する。
(従来のクリピクロウズは一度受けた攻撃を完全に学習するという)
だが分体だ。学習精度が低い乃至変化がみられる可能性がある。よってその検証を行うために観察ありきで先に攻撃する……
「だめだ!!」
(ボクにはどうしても初手に同スキル別属性で攻撃する意味を見いだせない!)
本体の性質を知っていればこそ模倣されるとしか思えない初手に違和感ばかり覚える。
けれど作戦は決まった後だし、なによりハヤテは作戦段階で異を唱えなかった。何故って?
(そう、ボクの頭は今だけバナナだ!!!)
その方が検証し甲斐があるというものだ!
実際は『本体と違う』という検証にもなるからだけれど。
この時ハヤテは混乱していたのかもしれない。
数年越しに検証を行う機会に恵まれたのだ。答えを求める行為を好む彼にとって『クリピクロウズの分体』はこれ以上ないほど気分が高揚する事態。
内心では忙しいハヤテだが、実際に表情には出していない。だからこれはあくまでも彼の心の中を渦巻く感情がマテリアルを練るように広がっているのであって彼の心情は本人以外他の誰にも慮ることはできないのである。つまり他の皆は彼が珍しく大声を上げても触れてはいけない! なぜなら研究馬……バナナだからだ!
●
ユリアンが後方を伺えば、効き手に銃を、もう一方の手に軍用双眼鏡を構えた兵長が見える。
「気付いたことがあったら教えてほしい」
防衛に徹して貰う上で余裕があればと頼んだが、こちらへの協力も前向きに取り掛かってくれるようだ。
(その双眼鏡を離さないで済むように)
敵を通させるつもりはない。
改めて向き直る。そろそろ迎え撃てる距離だ。
そう思えば瞬時にマテリアルが体中を巡り始める。駆けて振るわれるのは二撃。風の勢いに乗せた初撃は助骨を薙ぎ掃う。確か過ぎる手応えは分体のバランス崩し、あからさまな隙をついた二撃目は脊椎まで届くかと思われたのに。
「なっ!?」
避けられて思わず声が出た。学習が早すぎる!?
(思考する脳も無いのに学習するなんて……面白いわね)
その性質も十分物語たりえるのではないかとエアは考え始めていた。本体ほどではないにしても学習する様子を見せる分体。観察するに値すると言えばいいのだろうか。
(長々と相手したいわけではないわ)
幸いにも巫女の方に足を向ける様子はなさそうだ。シーラと目線を合わせ、頷きあう。今は確実に攻撃をあてることを優先させなければ。
マーキングされた1体に向けてマトリカリアを構える。クレールの息遣いを意識して、歩幅と距離を試算する。分体の骨のつき方を動物標本や図鑑から得た知識と照らし合わせて、可能な動きを予想して。
(……今!)
ダメージとはならないほんの少しの差を狙って撃ちだす。予想通りの軌道に載せられた筈だ。
アクケルテの銃身と呼応するように瞳の紋章が輝く。射出の反動を確かに感じながら分体の動きに注視するクレール。
発動前の風属性を感じ取ったのか分体の頭だけが弾丸へと向いた。エアの牽制もある、先の動き通りなら当たる軌道だ。
「またか!」
寸でのところで分体が身を捻る。トラロックは分体の足先を通り抜け、地面に電撃を散らした。
(私の攻撃に対して明らかに反応が速い!)
同じ属性で同じ人物、そして別の人物からの攻撃どちらにも速くなっている。そして近接と射撃は同等に認識しているようだ。
「……牽制しても、学習してあがった速さの方が上なのかしら」
ぽつりと零したエアの言葉を拾うのはシーラ。互いに射線を重ねない都合もあり、最も近い場所に居るのだ。
「一度で決めるのは早計だろう。せめて私も試行してからにしないか」
「そうね」
「全く……急いて無理はしないでくれよ、エア」
額の黄玉に集めるようにしてマテリアルを練れば、大樹の神経が研ぎ澄まされていく。自分の出来る最善をつくす為にも分体の動きがすべて視界に入るよう、睨みつける。肋骨に緑で彩られていない5体。彼らがなるべく近い場所で纏まって居るうちに。
(命中より反応を見る!)
数を多く同時に確認できる今が狙い時だ。視線の先へ魔法の矢が次々に飛んでゆく。
5本のうち3本が、腕や胴に向かい違わず飛んでゆく。腕を振り避けようとした1体にはシーラが素早く牽制し邪魔をする。それでも実際に攻撃を受けたのは2体だ。
「避け方そのものは、さっきと変わらないね」
ユリアンの攻撃を受けた時の分体と比べて近く、クレールの時よりは鈍い、と言えるだろう。
大樹の魔法の1矢にあわせた弾丸は並走するように分体に向かっていた。避ける動きが一瞬ぎこちなく見えた上で矢が命中したのを見るに、牽制の効果はあったのだと考えられる。
(本体ほどではないのは確実。ただ特殊かと言われると疑問があるね)
分体とはいえクリピクロウズの目撃は久しぶりだ。その期間にハンター達が強くなったと見るべきか、単純にこの分体が弱いだけとみるか。
(両方だとすれば、本体の今の力を読むには情報が足りないか)
短い時間で得られる情報をどれだけ増やすか。シーラは見極めようとしている。
アルマンダルの属性を同期させながら魔法の矢を撃ちだすハヤテ。特に注目するのは大樹の矢が当たった分体だ。速さはそう変わらないと見たところですぐにクレールの声が上がった。
「別属性なら同じスキルでも強化なし!」
「しかし……脆いな!?」
消えた1体の呆気なさに思わず声を上げるハヤテ。わざと効果の弱い武器を使ったというのに。
検証が進んでいるのは幸いだろうか……
(では守りを固めます)
茨の幻影がワンダーランドを彩るように広がって、ハンター達の視界を遮らず包み込む。花が綻ぶように茨が開けば、アンネマリーの籠めた護りの魔力が仲間達を覆う。
分体達の腕の先から爪のように伸びた骨が、前衛の2人へと向けられた。
1体は反撃としてユリアンへ、そして4体の攻撃は全てクレールへ。
同時攻撃になるほどの連携がないことを幸いと感じながら、クレールは情報を整理する。回避しながら思考する余裕があった。
(属性違いで同じスキルを向けても、反応は変わらなかった)
強いて言えば一体の動きが鈍っているが、これはダメージによる負荷だろう。むしろ気になるのは回避時の動きだ。
5本のマジックアローは同時着弾とはならない。そして1矢目が命中したのは幸いだった。2体目以降の動きに変化はないように見えた。
「学習は伝播しない!」
「シーラにも見えたかしら」
「1体か」
「あれ、2回攻撃よね」
幼馴染2人の会話が聞こえた大樹は考える。
(実際に起きたのは2割? だけど、単純に運で繰り出されるなのか、2回攻撃を試して成功した結果が2割なのか……難しいな)
●
鈴を伴う声が響く。普段は浮かばぬ感情が声と瞳に宿る。歌い慣れたフレーズは例え目が見えず音が聞こえなくなったとしても完璧に仕上げる自信を持つほど繰り返してきたもの。
鎮魂の祈りは歌の中で清浄なマテリアルを薄く長くのばし、アンネマリーの舞台を作り上げる。舞台の中で敵と明確に示された分体達はびくりと体を震わせ、音に囚われたかのように動きを鈍らせていく。元からダメージの蓄積が多い1体は、壊れた体を引きずっていたせいで違いが判らなかったけれど。
(スケルトンに永らえる願望なんてあるんでしょうか)
歌い手のアンネマリーだけが1体の抵抗に気付いている。その1体の地点だけがマテリアルの通りが悪いせいだ。
変則的に歌詞を変え指で示せば。後衛の者達が頷いた。
持ち替えて向かうのは無傷の分体。ナイフに切り替えて確実なマーキングを狙うユリアン。関節を壊せればと意識した斬撃は肩に走る。
「これで赤が、1体っ……!」
手ごたえは初撃より弱い。あれは互いに運がぶつかり合ったのかもしれないと推測がよぎった。
(続けて調べる余裕があるといいんだけど)
先の1体の様子を伺う。骨さばきはかわらずとも、マテリアルの量が減っている……弱っているようにも。
「あと少しだよっ!」
巫女の応援が聞こえてくる。感知能力の高い彼女達の言葉は予想が正解だと告げているのか。
属性なしの魔法と属性なしの近接攻撃を終えた結果で、回避能力が読み切れた。
「属性と性質さえずらせば、反応は強化されない! 引き出しの多さで1体ずつ潰しましょう!」
クレールが叫び、次の攻撃の為にマテリアルを練っていた大樹が声を上げる。
「纏めて狙うから、回避直後を利用して!」
魔法の矢で牽制効果を齎そうとしているのだ。当たれば少しでもダメージになることはわかっているので矢を分体の数より減らすことはしない。残った分体全てに隙を作るのが主目的、ダメージがついて来れば幸運と思うくらいで丁度いい。
割り切ったからこそ降った幸運なのか。もっとも弱っていた1体が逃げ遅れ、消滅していく。
「動きを封じさせてもらおうか」
シーラの練り上げたマテリアルがRJBSを覆う。雷撃を纏った弾丸を放つ瞬間、決められた道を行くように軌道が綺麗だと感じられた。だからこそ当たることを疑いもせず行く末を見つめ……
「まだ余裕があるのか!」
動きを阻害されてもなお僅かな動きで避ける分体。学習前の攻撃の筈とはいえ奇跡に近い動きだ。
「シーラ、面白い顔をしているわよ?」
驚いた表情を認めて小さく微笑むエアに、シーラが気を引き締める。
「敵……ではないけれど、討ってあげるわね」
トラロックを選んだのは紅鳴に属性を揃えたからだ。今まさに避けたばかりの分体に狙いを定め、撃ち抜いた。
(脆いなら攻勢に切り替えた方がいいのかも)
ハヤテの一撃で消えた分体を思い出すルナ。敵の能力を確認するための手加減はもう必要ないだろうし、味方を尖らせるほうが有効に思う。相手はスケルトンなのだから、いくら避けやすくなろうとも火や光に弱いはずだ。
火のマテリアルを練り上げる。精霊の力を感じ共に踊るように紡いだ力をクレールの得物へと飛ばした。
「希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん」
無意識に口をついて出たのは、赤の謳歌の詩だった。
「それじゃあ思いっきり、行きます!」
クレールがカリスマリスを振り被れば、ルナの謳ったようにマテリアルが燃え上がる。脚を薙ぎ落すように振るわれ、巨大化の瞬間斬り飛ばす。勢いよく飛んだ後、着地前に露と消えた。
残った3体はハヤテの魔法の矢がとどめを刺していた。生命の泉のもつ3属性を載せて大盤振る舞いだったけれど。
「対応する属性耐性持ちが残ってないとかどういう事かな……バナナ!」
運は仕方ない。
●
スウィートを取り出したルナが爪弾いて、アンネマリーが鈴音を転がす。二人の声が互いを伺うように重なって、次第にユニゾンが完成する。
ユリアンが兵長を、大樹が巫女達を言葉で労い、クレールとハヤテは皆の見識を元に検証結果を纏め資料を作る。遺跡に潜りたそうにしているエアはシーラが止めていた。
穏やかな音色と共に時間が流れていく。今ひと時の休息を終えたら、街へ帰ろう。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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分体殲滅作戦相談 クレール・ディンセルフ(ka0586) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/10/16 08:30:53 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/12 22:41:51 |