• 東幕

【東幕】転換への道標

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/10/17 19:00
完成日
2018/11/05 16:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●詩天の一角で
 東方は詩天、寂れた宿場町。
 着流しを来た遊び人風の男と、袴姿の少年が歩いていた。
「……いや、マジで助かったわ」
「そうですか? お役に立てて良かったです」
 頭をボリボリと掻きながら言うスメラギ(kz0158)に笑みを返す三条 真美(kz0198)。
 今回は謎の遊び人のスーさんと、貧乏武家の三男坊のシンといういつもの偽名でこの地を訪れていた。
 要するにお忍び、ということである。
 無言で歩く2人。木々に囲まれた素朴な宿の前で足を止める。
「……スメr……」
「おっと待った。今日の俺様は『スーさん』だぜ、シン」
「ああ、そうでした。失礼しました、スーさん」
「で、お前が言ってた宿ってのはここか?」
「はい。ここは武徳が昔からお世話になっている宿ですので、女将も信用が置けますよ」
「へー。それにしても、どうして俺様がハンターと合う場所を探してるって知ってたんだ?」
「私もよく分からないのですが、武徳がスメラギ様をお助けするようにと言うものですから……」
「は? あのおっさんがそう言ったのか?」
「はい」
 こくりと頷く真美。スメラギは少し考えてからため息をつく。
「……あのタヌキ親父。さてはこっちの動き探ってやがったな」
「あの、武徳が何か失礼を……?」
「いや、結果的に協力してもらえんなら渡りに船だ。水野に礼を言っといてくれ」
「承りました」
 ――そう。スメラギは、ハンター達にとある話をする為に、場所を探していた。
 そこに、わが国を使いませんかと声をかけて来たのが真美だった。
 スメラギがこれからしようとしていることは、東方の今後を左右する話だ。
 その上、朝廷の左大臣である足柄 天晴がこちらの動きを探るような様子を見せている。
 更に、詩天の軍師である水野 武徳(kz0196)がスメラギの動きを察知していることから考えて――まあ、詩天はその上で協力の姿勢を示してくれたので結果的には良かったのだが――こういったことを鑑みても、あちこちから草の者が放たれていると思っていた方がいい。
 なるべく分かりにくく、何でもないことを装って――慎重にことを進めなければならない。
 この話が固まる前に下手に明るみに出れば、いままで協力を示していた武家や公家が一気に反抗勢力に回りかねない。
 朝廷や幕府の者達が納得するような策を立てなければならない。
 宿に通されたスメラギ。秋の色が濃くなる中庭を眺めつつ、ハンター達の到着を待った。


●転換への道標
 ハンターズソサエティに張り出されたスメラギからの招集に応え、ハンター達は宿に集まっていた。
「こんなとこに呼び出してどうしたんだ?」
「しかも観光を装え、だなんて……一体何があったの?」
「おう、良く来たな。それはこれから説明する」
 現れたハンター達に手を挙げたスメラギ。一瞬の間を置いて、再び口を開く。
「……単刀直入に聞く。お前達、この国の体制をどう思う?」
「……どう思うって急に聞かれてもな」
 突然のスメラギの問いに困惑するハンター達。東方の帝は、彼らを見据えたまま続ける。
「俺様はな、このエトファリカという国を根本から変えたいんだ。幕府とか朝廷とか、そんなつまらない権力争いも。誰かを生贄にして国を守ることも。全部……。だって、おかしいじゃねえか。民が歪虚に苦しめられてるって時に、誰がエライとかそんな話してる場合じゃねえだろうに」
「スメラギ、お前……」
「そうは言っても、何から手つけていいか分からなかったんでよ。俺様、西方に渡って色々国の仕組みについて勉強したんだ。帝国や王国、同盟、辺境……国が違えば全部政の方法が違う。で、東方の国をどうしたいかと考えてよ。1つの結論にたどり着いた訳だ」
「……何がいいと思ったの?」
「お前達、共和制って知ってるか?」
「ああ。王様とか君主じゃない、代表を決めて、みんなで話し合って決める方式のことだよな」
「そ。それそれ。それを東方に取り入れられないかと思ったんだけど、いまいちピンと来なくてよ。共和制について、お前達の知ってることを教えてくれねえか?」
「共和制ね……。それなら確かに民の意見も多く取り入れられるようになるかもしれないけど……幕府や朝廷から反発が出るんじゃない?」
「ああ、そうなんだよ。だから、それを封じる方法をお前達に一緒に考えて貰いたくてさ。出来れば武家や公家たちも納得できるような方法を探したいんだ」
「……スメラギよ。随分と難題をふっかけて来たもんだな」
「俺様一人じゃいい考えが浮かばねえんだよ! しょーがねえだろ!?」
 困惑を隠しきれないハンターに、叫ぶスメラギ。
 今まで黙って話を聞いていた真美が、くすりと笑う。
「……武徳がスメラギ様に協力しろ、と言った意味が今分かりました。とても良いお考えですね」
「ああ。何か急に大人になったよなー」
「褒めても何もでねぇぞ!? そういうならお前も何か素案出せよな!」
「ふふふ。そうね。三人寄れば文殊の知恵って言うわよね。いいわよ。考えてみましょう」
 真美とハンターに持ち上げられて赤面するスメラギ。
 ――詩天の一角で、エトファリカの未来を変える為の話し合いが始まろうとしていた。

リプレイ本文

 旅館の庭先にある木々の葉も色づき、感じる秋の気配。
 その様はまるで一枚の絵のようで――。
 どこか懐かしさを感じるその光景に、リューリ・ハルマ(ka0502)は縁側に腰かけて目を細める。
「もうすっかり秋だね」
「ああ、そうだね」
「アルトちゃん、身体大丈夫?」
「うん。流石に動くとちょっと響くけどね。……あ。後で湯治しようかな。ここの温泉傷に効くって女将さんが言ってたし」
「わあ、それいいね! そうしよう!」
 包帯姿が痛々しいアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)に笑みを返すリューリ。
 この宿に湯治に来ているようにしか見えない2人だが、目的は別にあって――。
「初めまして! 君が真……」
「ダメですよ! 今日はシンさんです!」
 袴姿の三条 真美(kz0198)に人懐っこい笑みを浮かべるグラディート(ka6433)の口を慌てて押さえるエステル・ソル(ka3983)。
 幼馴染の指摘に、彼は悪びれる様子もなく続ける。
「ああ、そうだったね。エスティの話の通り可愛い人だなあ。ねえねえ、この後一緒にお茶とかどうかな?」
「あっ。あの……」
 流れるように続いたお誘いに固まる真美。
 そこにスッと金鹿(ka5959)と七葵(ka4740)が割って入る。
「申し訳ないのですけれど、シンさんはこの後私と約束がございますのよ」
「……そういうことでしたら自分も同行いたしますが」
「えっ。そうなの? じゃあ皆でお茶する??」
「……ディ、皆さんを困らせちゃダメです」
 お姉ちゃんガードと忠臣ガードを素でスルーするグラディート。
 アワアワと慌てるエステルに、バジル・フィルビー(ka4977)がくすりと笑う。
「皆、相変わらずだね」
「そうだね……」
 久しぶりに見るやりとりに嬉しそうなバジルに苦笑しつつ頷く龍堂 神火(ka5693)。
 九代目詩天の周りは賑やかだなーなんて考えながら、キヅカ・リク(ka0038)はスメラギ(kz0158)に声をかける。
「やあ、スーさん久しぶり。元気だった?」
「おう。リクか。お前こそ調子はどうよ」
「お陰様で元気にやってるよ」
「包帯だらけの癖に良く言うぜ」
「これは頑張った証なの!」
 和気あいあいと続く会話。天竜寺 舞(ka0377)は東方帝をガン見する。

 ――ふーん。これがスメラギか。
 妹はこいつの何を気に入ってるのかね。
 まあいいや。ちょっと観察してればそれも分かるだろ……。

「ところで、あんた雑談する為にあたし達をここに呼んだ訳じゃないだろ? 本題に入らなくていいのか?」
「ああ、そうだったな」
 頷くスメラギの前に、レイア・アローネ(ka4082)が歩み出て一礼する。
「お初にお目にかかる。レイアという。今回はわざわざ我々のような者までお呼び頂き光栄だ」
「あー。堅苦しい挨拶はなしで頼む。今日の俺様はただの遊び人だしな。それに……お前達に頼るより他になかったんだ。こっちこそ付き合わせて悪ィ」
「本当めんどくせぇ話振ってくれやがりますねぇ。まあ、そうも言ってはいられねーですか。しょーがないからお手伝いさせて戴くですよ」
「それにしても、随分思い切った事を考えているんだね。その心意気は良いと思うけど……」
 ずけずけと言うシレークス(ka0752)に言葉を探すように口を開くレオン(ka5108)。龍華 狼(ka4940)は真っ直ぐ東方帝を見て切り出す。
「すみません。1つ聞きたいんですが……。この計画の遂行、何年かけて行うおつもりですか?」
「えっ。そりゃあなるべく早くって思ってるが……」
「その『なるべく』がどれくらいなのかちょっと分かり兼ねますが……少なくとも1年や2年で実現するのは難しいと思いますよ?」
 狼の言葉にキョトンとするスメラギ。
 星野 ハナ(ka5852)はため息をついて東方帝を一瞥する。
「えっと。思いついた最短ルートを言いますけどぉ。朝廷と幕府のトップが婚姻等で一本化してぇ、武力を背景に知事を任命してぇ、法整備してスーさんも他の知事と同じ権限しか持たないと宣言して議会を始めれば早いと思いますぅ。でも失敗すれば血塗れ戦国時代の始まりですねぇ」
「血塗れ……って、だから、そうならない道を探してるんじゃねーか」
「ですからぁ、スーさんの言う『なるべく早く実現する』を優先するとそうなるっていう話ですよぅ。だって誰も知らないことをお上の権限だけで始めようとするんですよぅ? これまで上に立っていた人達は自分の力の制限としか思わないでしょうしぃ、民だってお上が西洋かぶれになって訳の分からないことを始めたって恨むと思いますぅ。そういうのを黙らせる意味でも、すぐ断行するなら武力で、ってことになりますけどぉ……スーさんはそれでいいんですかぁ?」
 ハナの問いに絶句するスメラギ。
 元々『皆が平等に』と考えていた彼のことだ。その手段は頭から抜け落ちていたのだろう。
 レイアも静かな声で続ける。
「ハナの物言いは乱暴だが……間違ったことは言っていないな。やはり大きな問題は武家や公家に賛同する理由がない事だ。反発を抑え込む方法と言っていたが、性急に事を進めればそれを防ぐ方法はないだろう。対抗するには一点、武力に頼ることになる」
 彼女の言葉に唸るスメラギ。レオンも真面目な顔で口を開く。
「僕からも聴きたい事がある。その改正は……本当に民が望んでいる事なのかな?」
「……どういう意味だ?」
「言ってしまうと上が決めてそれに従うというのは楽な事だと思うんだ。自分達で考える必要がない。誰かが守ってくれるからね」
 ――そう。東方の民達は、永いこと『誰かに従う』生活をしてきた。
 それに対する不満も勿論あったであろうが、それで日々の生活には困っていなかったのだ。
 誰かが何とかしてくれる世の中で、民達が政についてを考えたりするだろうか?
「君達は、民が政に関心を寄せる事をしているかい? ……していないのであれば、残念ながら君の一人相撲ということになる。共和制を敷いても形だけのモノになってしまうよ」
 レオンの指摘に頭を抱える帝。そんな彼に、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が鋭い目線を向ける。
「おい、お前。俺からも1つ聞きてぇんだが……何でこの話を『俺等』にした? 幕府でも朝廷でもねぇ俺等に、だ」
「そりゃあお前達は中立の立場だし、こういう話するには適切かなって」
「中立の立場だから? だから何だよ。この国を背負ってるのは誰だって聞いてんだ。……お前は、自分の家臣を信用してねぇのか?」
「俺様は……」
「物事には通すべき筋ってモンがあるだろうが。お前がハンターとばかり話をして、ないがしろにされた部下は、どう思う?」
「……私は帝都で商いをしている者だがね。弊社は母様が現社長を務める軍需企業で長らくワンマン経営が続いてきたが、近頃は株主と役員会への権限移譲が進みつつある。……まあ、これも準備があってようやくだ」
 答えを探しているスメラギを見据えるボルディア。アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が肩を竦めて続ける。
「そう言えば此方の老舗でも似た話を聞いた。商い中口喧嘩ばかりの奉公人に痺れを切らした旦那さん、店の事は道行く人や客の話を聞いて決める、と言ったとか。……いきなりそりゃあ無理だと思いませんかね。どれ程上客でも、帳簿の付け方を知らない人に商売は出来ないものだよ」
「アウレール。お前の話遠回しすぎて良く分かんねぇ」
「そりゃ遠回しに言ってるからね。要はボルディアと一緒さ」
「その、部下にうまいこと話をする為にお前達に意見聞いてるんだけどよ。……そっか。信じられる部下が紫草しかいねぇんだな、俺」
 ――黒龍の巫という逃れられない道に従うのが嫌だった。
 だからそれこそ、手当たり次第なんにでも反発した。
 それでも、民達を放り出すのは嫌で、彼らの為に戦うと決めて――その結果、黒龍を喪って。
 こうして動き出した今……ずっと親代わりだった紫草以外、誰が味方で、誰が敵なのかすら分からない。
 ――これはきっと、紫草の後ろに隠れて逃げ回って、部下達と話して来なかったツケなのだ。
 ハハハ、と力なく笑うスメラギをアシェ-ル(ka2983)が元気づけるように背を叩く。
「スーさん。味方は1人じゃないですよ。シンさんは協力の意向を示してくれてるじゃないですか」
「シンさんは武家の方でしたっけ。公家にはどなたかいらっしゃらないのですか?」
「んー。右大臣の天晴のおっさんは親戚筋だが……昔から口喧しくてよ」
「そりゃあ、テメェが『一緒に国を作る相手』として見てねぇからウザく感じるんだろうがよ」
 Uisca Amhran(ka0754)の問いに己の髪をかき混ぜるスメラギ。
 ズバッと切り捨てたボルディアを、リクがまあまあと宥める。
「皆容赦ないなー。そんなボッコボコにしてやるなよ。スーさん泣いちゃうだろー?」
「うっせえリク! 泣かねぇわ!! ……ただ、考えが甘かったのは認める」
「自覚して戴いて大いに結構。こんな大ごとを何となくで始められて泣くのは旦那の店の奉公人と店を贔屓にしてる客だ」
 涼しい顔で答えるアウレール。天央 観智(ka0896)が腕を組んで考え込む。
「……ふむ。現時点で問題が山積していることは分かっていますが、とりあえずスーさんの参考になるかもしれませんし……。この制度の話については分かる限りしてみましょうか」
「そうだな……。似たような手段はリアルブルーの国でも執られているが、あの世界の苦境からも分かるように決して万能な制度ではないのは承知してほしい」
「はい。いずれにせよ、利点と欠点があります。……ちょっと長くなりますが、蒼の世界の各国の歴史をお話します」
 八島 陽(ka1442)と十 音子(ka0537)に頷き返すスメラギ。
 2人によるリアルブルーの各国の歴史の解説に仲間達も聞き入る。
「……という訳だ。投票は権利であって義務じゃない」
「ですが、投票しても、しなくても国民に責が生じます」
「ふーん。皆平等に、っていうのはすげえことだと思ったんだけど、やっぱり欠点ってのもあるんだな」
「そりゃあそうさ。まず1つは有事の際の決定に時間がかかるようになる。あとは、レオンが言っていたことにも通じるが、民にも物事を判断する高度な教養が必要になるぞ」
「そうですね。議会を作るには代表者の選出が不可欠ですから。誰が自分達の代表に適しているかと判断するのも……やはり教育が必須かと思います」
「教育か……」
 そう呟いたきり、黙り込む帝。観智が助け舟を出すように続ける。
「その上で、この制度をこの国に適用して行く場合の手段や懸念事項を考えましょうか」
「その前にさ、まずは今までの制度……幕府や朝廷の在り方を認識する所から始めた方がいいんじゃねえのか」
 徐に切り出した輝羽・零次(ka5974)に仲間達の目線が集まる。
「今の制度にも利点はある。変えるにしてもその利点を意識しなきゃダメだ」
「ふむ。それは確かにその通りで御座るな」
「お、お前もそう思うか?」
「うむ。戦働きしか出来ぬ武骨者であるし、この国に産まれ育った身なれば、言える事も少のうござるが……今の制度も、欠点ばかりではないと思うで御座るよ。事実今日まで国は続いて来たので御座るし、そこは評価すべきかと」
 零次の言葉に首を縦に振る黒戌(ka4131)。神火は頭に浮かんだ考えを整理するかのように呟く。
「えーっと……スーさんが今一番気にしてることって何?」
「ん……? まあ武家と公家のやつらがどうでもいいことで争ってることかな。国に再び歪虚が溢れてる今、喧嘩なんかしてる場合じゃねえだろうによ」
「そっか……。じゃあ、それは分けて考えたらどうかな」
「あ?」
「歪虚に一丸となって対応するのと、政の話はまた別問題だと思うんだよ。一緒にするから焦るし混乱するんじゃないかなって」
 思わぬ指摘に口をあんぐりと開けるスメラギ。その様子に、アウレールが薄く笑う。
「これは一本取られたね、旦那さん。旦那さんがまずやることは、奉公人を一喝することじゃないかね」
「何度か怒鳴ってんだけどな」
「ただ一喝するんじゃ意味がない。喧嘩を収めるには相手が何を求めているのか理解する必要があるぞ、旦那さん」


 仲間達の話し合いが進む中、そっと抜け出した狼と舞は別室で待機しているアルトに声をかけた。
「お疲れ様です!」
「そっちは何かあったかい?」
「お疲れ様。今のところ変化なしだよ」
「それは良かったです」
「見張りを交代しよう」
「何かお話白熱してるけど、2人共抜けて来ちゃっていいの?」
「はい。言いたいことは言って来ましたし」
「ああ。あたしも狼と大体同じ意見だったしね」
 心配そうなリューリに頷き返す狼と舞。
 共和制を導入するには長い時間をかけるべきということ。
 そして、地盤固めという意味でも、国民の教育を進める為に教育機関の拡充を提言してきた。
 後は仲間達が上手いこと纏めてくれるだろう。
 どうせなら、皆が笑える国になればいいと思う。
 舞的には矢張り、妹が何故あの男が気に入っているのか良く分からないが……自分の不勉強や経験不足を素直に認めて反省出来るのは美徳なのかもしれない。
「そっか。皆ちゃんと考えてるんだね。そういえばアルトちゃんはこの件で何か言うことないの?」
「ん? 意見は出尽くしてるだろうけど。そうだな……。上の方は民衆の目線が足りてないかもしれないが、実際に国を動かしてきた実績とノウハウはある。逆に民衆はそういった知識はないが改善案は沢山持ってるだろう。その上で上手く回そうと考えたら……どうバランスを取るのか考えるべきかな」
 問題を道筋立てて考えるアルトに、リューリも真美も感心したように頷く。
「なるほどー。さすがアルトちゃん」
「皆さん、博識でいらっしゃいますね。私、普段武徳に頼り切りなせいか話について行くのが精一杯で……」
「あー。シンさん、頭いっぱいって顔してる! 一緒に休憩しよう! あ、シンさんってお料理興味ある??」
「リューリちゃん、そんなに矢継ぎ早に話しかけたらシンさん返事出来ないよ」
 人懐っこさを爆発させる親友に、くすくすと笑うアルト。
 ――こうして仲間達が警戒を続けている間も、話し合いは続いていて……。


「……私の案ですが、まず幕府が政権を返上し帝に権力を集中させて、朝廷や幕府と関係のない新政府の常備軍を作ってはどうでしょうか。その軍事力で諸侯とその家族を都に呼び寄せて……と思いましたが、この手段はスーさんはあまりお好きじゃないでしょうか」
「そうだね……。軍の編成は歪虚にも対抗できる力になるからいいと思うけど、軍事力を盾に家族を呼ぶんじゃ人質って思われても文句言えないからね」
 Uiscaの提案に少し考えてから口を開くリク。七葵もそれに頷く。
「武力による弾圧は反発を生みます。特権階級の権利や財を一気に削ぐことは避けた方が良いかと。その上で政に関わる主権者の選出を広い間口で行うべきでしょう。単純な手段を挙げますと、主権者はこれまでの特権階級から選ばれる席と、そうでない者から選ばれる席を用意するということですね」
「んっと。貴族制の共和制から徐々に進めるってのも有りだよ。まず武家や公家の人たちを貴族に据えるの。はじめは貴族の方から多めに、後々民間も入れるようにすれば反発は少ないんじゃない?」
「私も同じようなことを考えておりましたわ。ただ貴族に据えると言っても、何の利点もなければ皆さま納得しないでしょうから……。武勲をあげることによる地位、ひいては政治的影響力の上昇に代わる報酬の提示……例えば、税緩和や商業的な優位性など統治に関わるもので利点を作ることは出来ないでしょうか」
 続いたグラディートと金鹿の言葉に、エステルが目を輝かせる。
「あ! それなら武家さんも公家さんも損がなさそうです!」
「そうだな。権力者達を蔑ろにしない形での体制改革は必須だと思う」
「性急な変化は大概不幸な結末を招く事が多い印象はありますし……段階的に、移行するのが良いと思います。最終的に君主の位を廃する方向性で、充分な予行練習をする機会を作るのが良いかと。そうすれば反抗勢力の動きに対しても対策が取りやすくなりますしね」
 頷くレイア。続いた観智に、アシェールがはいはーい! と元気に挙手する。
「反対勢力が出てくるなら負けない位にスメラギ様が強くなればいいかと!」
「俺様だけが強くなってどうすんだよ」
「……腹筋を鍛えろって話じゃないですよ?」
「誰もそんなこと言ってねえよ!!」
「強いていうならば、スーさんにしかない力……みたいな感じですかね」
 スメラギをスルーして話を続けるアシェール。それにバジルはうーん……と考え込む。
「スーさんにしかない力、か……。東方にとって黒龍の巫って特別な意味があるんでしょう? 後々黒龍が生まれて来た時のことを考えても、これは残すべきなんじゃないのかな」
「……うーん。気が進まねえな。俺様達は散々黒龍を利用してきた。その結果がこのザマだ。……次の黒龍には苦労かけたくねーんだよ」
「うん。そういうと思った。だから、政治から離れた名誉職にすればいいんじゃないかな? それこそ龍のお世話係みたいなね」
「そうですね。東方統合の『象徴』になってもいいかと思いますよ。リアルブルーでも、実際そういう立場の人がいる国がありますし」
 バジルに助け舟を出すUisca。黒狗もぽつぽつと言葉を紡ぎ、思いを吐露する。
「……今後、この国が共和制となり、幕府も武家も、身分の別さえなくなる日が来るとしても。帝や、各家の当主歴々、敬い尊ぶ気持ちは持っていたい、とは思うでござる。……人は強くも弱い。心の拠り所として、帝や主君を仰ぐ事が支えとなる事もあるゆえ」
「そんなもんなのか?」
「東方は長らく主君に仕えることを誉としてきたお国柄だろう。そういう意味でも、突然何もかもぶっ壊すのは得策じゃない。立場があるっていうのも悪いことばかりじゃないしな」
「そうだな。偉い奴がいるってのは行動が速いってのが利点だと思う」
 力強く断言する陽と零次に、ピンと来ないのか首を傾げるスメラギ。
 陽は補足するように続ける。
「さっき欠点について話しただろ。議会制は緊急事態に即座に対応できない。緊急事態専門の強権組織が別に必要だと思うんだ。もちろん、制度がきちんと運用できるようになるまでの期間限定で構わない」
「わたくしも、歪虚の侵攻などの有事に関しては、当分スーさんが決裁した方が良いと思います」
「そうだな。皆の意見を尊重するのは勿論良いことなんだ。けど、政治ってのはすぐに動けなきゃ意味が無い事もある。それを如何にクリアしていくか、だと思うぜ」
 エステルの話を継いで補足する零次。彼女もコクコクと頷き……シレークスも真面目な顔で切り出す。
「これは共和制がこの国に浸透してきてからの話になりやがりますが……共和制の欠点は、その中で纏まりを欠きやがった時にも出やがります。ゆくゆくは中立の立場で、仲裁を担う役割を置いたらどうですかね。あくまでも仲裁、調停役なんで基準となるものの整備は要りやがりますし、どう任命するかも考えていかないといけないとは思いやがりますけどね」
「んー。そっか。色々考えねえとならねえんだな」
「そりゃそうです。そんな簡単な話じゃねーですよ。あ、そういや都さん、まだ話してやがらねえんじゃないです?」
「あ、はい。それじゃ失礼して……。私は政には直接関係のない話なんですが……東方の医療についてです」
 ぺこりと頭を下げる志鷹 都(ka1140)。穏やかな笑みを称えて口を開く。
「私はこの国で主に本道について学びました。しかしそれだけでは患者は救えぬと思い、他の医療も学んでいます。……今の治療法も悪くはないと思うんですが、西方やリアルブルーには東方にはない良い治療法が沢山あります。それを取り入れていけば、今よりも多くの人々を救えるようになるんじゃないかと思います」
「医療か……。そうだな。急務じゃないがゆくゆくは考えねーとならねえな。それも参考にさせて貰うな」
「はい。お役に立てましたら幸いです」
 スメラギに向けて一礼する都。仲間達を順番に見て観智は続ける。
「さて、意見はこれで出揃いましたかね」
「そうだね。色々話したけど……どのみち、長い目で見ないといけないよ」
「素地がなければどれだけ頑張っても無理だからな」
「うん。この国、他人がこうだから自分も……ってなりやすい国民性なのでそこの意識改革も重要だよね」
 バジルとレイアの一言に、うんうんと頷くリク。考えをまとめながら確認するように語る。
 ――国を変える為に必要なのは『育成』と『保護』。
 育成とは国民の教育。習字率、仕組みへの理解と、国がそれに対応する仕組み。
 保護とはそれを護る統治。法律による。武力による。時には見えない力による国民の保護――。
「多分、どんなに急いでも10年はかかるよ。それでもスーさんはやりたいと思う?」
「ここから先はきれい事じゃ済まないし、一度掲げたら降ろせない。それは、国の破たんを意味するからね。その覚悟はあるのかな」
 グラディートとリクの確認するような声に、黙りこむスメラギ。
 一瞬目を閉じた彼は、再びハンター達を見据える。
「……やらなきゃダメだろ。今までこの国は、誰かを犠牲にすることで成り立ってきたんだ。変えてかなきゃ、次の世代に安心して渡せねえだろ」
「そう。分かった。突っぱしる覚悟があるなら付き合うよ。それこそ地獄の底までね」
「俺様、地獄に行くならお前みたいなむさ苦しいのより可愛い子と一緒がいいわ」
「あ、それ同感。だけどさー。そこはお礼言っとくもんじゃないの!?」
 軽口を叩き合うリクとスメラギ。ふと、今まで黙って話を聞いていた赤毛の女戦士と帝国の商人を見る。
「……ボルディア。アウレール」
「あ?」
「何だい?」
「……ありがとな。俺様、今日の話、ちゃんと紫草や皆に話してみるわ」
「ん。そうかい。テメェならできる。俺はそう信じてるぜ。だから、お前も信じてやってみろ」
「そうだね。まずは奉公人について知るべきだ。改変はそこからかな」
「いって! ボルディア! 全力で叩くな!」
「軽く叩いただけだろ。大袈裟だな」
「ボルディアの『軽い』は普通の人間なら吹っ飛ぶんだけどね……」
 ボルディアに満面の笑みで背中を叩かれて悲鳴をあげるスメラギ。
 そんな彼にアウレールは同情交じりの目線を送った。


「あ、皆お話終わったかな? お茶用意するね!」
「あぁ、私も手伝おう」
「ちょ! 怪我人座ってなよ!!?」
「そうですよ! 僕達がやりますから!」
 仲間達の動きを察知してパタパタと走り出したリューリ。その背を追おうとしたアルトを、舞と狼が慌てて止める。
「スーさん、シンさん。ちょっと気になることがあるんですが……」
「ん? どうした?」
「……私も関係することですか?」
 首を傾げるスメラギと真美。アシェールは真面目な顔で頷き返す。
「ハイ。今のところ間者は現れていないようですが、スーさんはこのことを部下の方に話されるのでしょう? だったら遅かれ早かれ、ここでの出来事が知られることになると思うんです。そうなった時……恐らく狙われるのはシンさんだと思います」
 ハッと息を飲む仲間達。
 この席に真美が同席するということは、スメラギの行おうとしていることに賛同していることを示す。
 それを覚られれば、この改変を良く思わない者に命を狙われてもおかしくはないのだ。
「お二人にはお見合いの話もあります。この話し合いを『二人の今後の関係の在り方を相談した場』とすれば、誤魔化しも効くかなと思います。国同士の話ですから完全に嘘ではないですし、シンさんが妃になるという可能性があるなら安易に手出しもできないはずですから」
「……そっか。そうだな。この会合を面白くねえって言うやつがいたらそうやって言うか。妃については分かんねーけどな。なんて言ったって九代目詩天に求婚したやつがいるからな。なぁ、神火?」
 続くアシェールの進言に眉根を寄せつつ答えるスメラギ。神火は突然話を振られて目をぱちくりさせる。
「えっ? あ、うん。そうだね。流石にこの状況は黙って見ていられなかったから」
「あら。噂にはちらっと聞いてましたけど……! 三角関係ってやつですね!?」
「あ、あの。神火さんは私を守る為にしてくださったことで、深い意味はなくて……!」
「シンさん、頑張れです……!」
 思わず身を乗り出したアシェールにアワアワと弁明する真美。
 エステルの小声の応援に、少女は更に顔を赤くして……神火は不思議そうに首を傾げる。
「前も言ったけど、ボクの意思で始めたことだから気にしないで。この決断が間違いだったとは思ってないよ」
「へえ。身を張って守ってくれる奴がいるなんてお前もなかなかだなぁ、シン」
「スーさんまで……!」
 耳まで赤くなった真美にカラカラと笑うスメラギ。ふと真顔になって仲間達を見る。
「冗談はさておきだ。俺も出来る限りは手を回すが、お前達もシンを守ってやってくれ」
「……言われなくてもそのつもりですわ! 私、シンさんを守りましてよ!」
「自分もです……!」
「金鹿さん、七葵さんもボクの台詞取らないでもらえるかなーなんて」
「……うん。相変わらずだなあ」
 ぐっと握りこぶしを作る鉄壁お姉ちゃんと詩天の忠臣。
 神火のぼやきに、バジルがにこにこして――。
「それは分かりましたが、スーさんの護衛も必要なんじゃないですか?」
「俺の国内で『黒龍の巫』を屠ろうとするような馬鹿はいねえと思うけどな」
 音子の言葉に肩を竦めるスメラギ。Uiscaはうーんと考え込む。
「黒龍は国の守りの要。象徴ですから……巫も『絶対』なんですね」
「ふーん……。それは表立ってスーさんに対抗できないってこと? それはそれで厄介だね……」
「まあ、命こそ狙われないかもしれないが……身辺に注意しておいた方がいいだろうね」
 顔を顰めるリク。レオンの声に、帝は鷹揚に頷いた。


 こうして、会合は恙なく終了した。
 色々な意見が出され、それぞれの考えを交換し――その話し合いは長時間に及んだけれど。
 そこお陰か、スメラギは何かを掴んだようで……。
 ――国を変える為にまず何をすべきか。
 この国について、国を動かしている者達について知るべきだと判断した彼は、まもなく次なる一手に出るだろう。
 きっと彼の進む道は容易いものではないけれど。それでも、手が届く限りは手を貸そう、と。
 そう思うハンター達だった。

依頼結果

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重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士

  • 十 音子(ka0537
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 母のように
    都(ka1140
    人間(紅)|24才|女性|聖導士
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽(ka1442
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 黒風の守護者
    黒戌(ka4131
    人間(紅)|28才|男性|疾影士
  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • 清冽なれ、栄達なれ
    龍華 狼(ka4940
    人間(紅)|11才|男性|舞刀士
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
  • 死者へ捧ぐ楽しき祈り
    レオン(ka5108
    人間(紅)|16才|男性|闘狩人
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 拳で語る男
    輝羽・零次(ka5974
    人間(蒼)|17才|男性|格闘士
  • 思わせぶりな小悪魔
    グラディート(ka6433
    人間(紅)|15才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン お話ししたり?相談したり?
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/10/16 23:19:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/17 18:24:55