ゲスト
(ka0000)
【HW】脱出せよ!?
マスター:石田まきば
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
●いだいなるはつめいひん
大きな国の大きな森、そのまた深い奥深く。誰も知らない洞窟に、その男はひとりで住んでいました。
洞窟を掘り進めた棲家には実験器具なのか調理器具なのかどちらともつかない、沢山の道具が置いてあります。
そんな棲家の中でも大きなスペースを確保してあるその部屋で、男は大きな大きな鍋をかき混ぜておりました。
ぽいっ……ぐるぐる……ぐつぐつ……ひょいっ
「色が変わらないのである。もう少しでであろうか?」
ぐるぐる……ぐつぐつ……ちょいっ、ぴかー!
「これが合図の筈であるな」
すっ……くんくん……
「ついに完成したのである!」
高らかに上げた声は洞窟の中を反響し、ずいぶんと長い間響きあっていました。
ぱちり
男が指を鳴らした途端、全ての音が止まります。
「製品検査は大事であるな。良い検体を探しに行くとするのである」
そう言った男は粛々と、完成した薬を小瓶に分けていくのでした。
●みいらとりがみいら
「「「モニター募集詐欺!?」」」
ハンター達の目の前で、オフィスの事務員はしっかりと頷いていました。
謝礼を出すからとモニターを募集し、怪しい薬品を飲まされた。そんな被害ばかりが噂話となっているのです。
肝心の薬品の効果については、何故だか詳しい話が分かっていないのが不思議です。
被害者は確かに居るらしいのに、その実態が不明。そのせいでしっかりとした調査ができていないのです。
しかも狙われているのはハンターばかりだという話。なのに情報がないのはどうしてなのでしょうか。
ハンターの皆さんに注意喚起しかできないのが申し訳ない限りです。そう、事務員は困って言っていました。
(調べようとした途端にこれかあ)
あるハンターはリアルブルーの探偵ものの小説に嵌っていました。
噂話を聞きつけて、我こそは謎を解き明かす! なんて張り切って繰り出した記憶があります。
(親切な人にエネルギードリンクを貰っただけなんだけどなあ)
あるハンターは疲れていたところを狙われたみたいです。
ちょっと……いやかなり警戒心脆過ぎじゃないでしょうか。
(噂話流してる本人とか聞いてない!)
あるハンターは酒場で件の噂話を聞いていたところでした。
どうやら飲み物に薬を混入させられたみたいです、おごりだからって安心しちゃいけませんね。
ともかくいろんな理由で噂話に触れたハンターさん達ですが、皆被害者の一員になってしまったみたいです。
なぜそれがわかるのかって?
皆さん、見覚えのない森の中に置き去りにされているからです!
それだけなら誘拐事件の可能性がありました。いえ、ハンターさんを誘拐ってどんな相手だと思いますけれど。
皆さん、目を覚ましたらユニットの身体になっていたのです!
なんてファンタジックな出来事なのでしょう!
頬をつねって現実かを確認したいところですが、あいにくヒトの頬はないのが現状。
確かめるには……ええと、どうしましょうか?
●うえからめせんのてんのこえ
バサバサバサッ……
困惑しきりのハンターさん達は、全員同じ場所に集められていました。
幸い言葉を離すことができましたので、被害者同士、お互いの外見を確認し合います。
そうして分かったことですが、ハンターさん達は自分のユニットの身体そのままの外見になっているという事でした。
『現状確認は終わったようであるな』
「「「!?」」」
近くの樹に舞い降りてきていた鴉から、声がしました。機械的なノイズが混じっているようですが、男声。
よくよく見れば、鴉の頭部は機械的な部品がたくさんついていました。つまり、歪虚です。
目のあたりには強固なレンズとライトらしきもの。嘴は開くと被膜が見えて、ラッパのようになるようです。
移動式のカメラと拡声器の役割をもっているようでした。
『名誉ある検体であるところの汝等には、これから己の肉体を追いかけてもらうのである』
唐突な命令に、ハンター達は一瞬呆気にとられました。
『汝らの肉体は、汝等の相棒たるユニットが所持し、汝らに掴まらぬよう森の中を逃げまわっているはずなのである』
それは狙ったものなのか素なのかわかりませんが。ハンター達が黙っている隙に、声は楽しそうに説明を続けています。
『相棒達の身体が空虚になった隙に、歪虚が入り込んで悪鬼羅刹の如く悪さをしていると教えたのである。心構えにもよるだろうが、汝等を斃そうとして来るかもしれぬな?』
クックックッ
それはもう楽しそうな声です。正気に戻ったハンターが目的を聞きました。
『何のためも何も、研究成果は実行してこそ意味があるのである。使わなければただの塵よ。至高の研究成果を体感する栄誉をとくと味わうがいいのである』
つまりマッドサイエンティストで愉快犯だということでしょうか?
別のハンターが聞きました。元に戻れる方法はあるのかと。
被害者は居るはずですが、その後についての噂はありませんでした。行方不明とは聞いていませんし、戻れると信じてはいるのですけれども。
『我の研究に死角等あるはずがないのである。安心安全、後遺症なしに元に戻れるよう設計は完璧である。正しき肉体と精神を揃え、口接によりマテリアルの循環を行えばよいのである』
つまりマウス・トゥ・マウス。
物語の定番だとも言えます。ハンターさん達は皆、登場人物になりたいと願ったつもりはありませんでしたが。
『汝等の足掻く姿をとくと堪能させてもらうのである。親切な我は予め伝えておくが、撮影担当は無数に居るのであるからして、斃しても無駄と心得るといいのである』
全ての説明を終えたようで、鴉の嘴は閉じられました。
どこまでも鼻につく、イラッとさせる話し方でした。
仕方がないのでハンターさん達は、状況を整理することにして静かに考えを巡らせます。
●どくくわばさらまで、たぶん
(((……自分の顔にキス……?)))
自分の身体が別のものになっていたとしても、普段自覚している自分の身体に攻撃したり、捕まえて動けなくしたり、挙句の果てにはキス。きっとバードレベルでは終われないキス。
合流までは、もしかすれば説得でどうにかなるかもしれませんが、キスは避けられないようです。
被害者が名乗り出ない理由。薬品の詳細が不明な理由。ハンターさん達はこういう事かと思いました。
被害に遭った後どうやって戻ったのか、対処法を聞かれても答えにくいのは明らかでした。
ハンターさん達はおずおずと、互いの顔を見比べました。
しばしの沈黙。
示し合わせたかのように、同時に頷きます。
「「「今日何があっても、(互いに)見なかったふりをしよう」」」
その上で、状況解決を目指そう。手助けの余裕があれば助け合おう。
ここに精神的同盟が組まれ、肉体的協力関係が生まれました。
彼等は運命共同体。黒歴史なんて、だれしも増やしたくありませんからね。
リプレイ本文
●
「なんてコト吹き込んでくれんのよバカーーー!!!」
無機質な声に精一杯の感情をのせたクレール・ディンセルフ(ka0586)の声が響き渡る。
(間違いなく殺しに来る!)
なぜならクレール自身がそうするからだ。歪虚と聞けば滅殺、これ鉄則。
愛機だからこそ搭乗回数も多い。親和性を考えればハンターの性格に影響を受けている可能性が高いのだ。
「とにかく! 戻るためのキス! さっそく出げっ」
ドガシャァ!
『……クッ』
盛大に転んだクレールに精神攻撃!
「マスタースレーブ越しじゃこんなの知らない……!」
人の認識のままで動こうとしたからバランスが崩れたのだ。同時にヤタガラスの事が気になってくるクレール。
「脚が少ないの、ちゃんと慣れてるといいけど」
「人間とは違う大きさだな」
いつも護って貰ってるんだよなぁ。軽く腕を動かして具合を確かめるカイン・シュミート(ka6967)。
(感謝しねぇとな)
ただの言葉だけじゃなくて、もっと労う態度も必要だろう。
「楽しく飲んでるところを邪魔するなんてゆるすまじ!」
ミィリア(ka2689)にとっては何よりもお酒である。そもそも飲み代はどうなってしまったのか!
「明朗会計楽しく晩酌でござる。お店の迷惑ダメ絶対!」
『それは我が下僕が委細つつがなく処理している筈である』
「じゃあよーし!」
『……えぇ……』
呆れた天の声ちょうだいましたー。
「これは……」
絶句する天央 観智(ka0896)だが、その表情、とくに瞳には喜色が溢れている。
「良い練習機会を頂きました。ありがとうございます」
『聞き間違いであるかな』
耳を疑ったような気配も意に介さず、観智は行動を開始していた。
まずは脳内で再現したメロディにあわせながら、体操を一通り試してみる。どれだけ人体と同じように、スムーズに動かすことができるのか。それを確かめるためでもあり、自身の感覚と体を馴染ませるためでもある。
「操縦や操作の練習に成らない……のは、少し残念ですが」
次はストレッチに近い動き。流石に伸ばすような動きを試す時は抵抗を感じるが、近いところまでは行えるようだと頷く。
「身体の延長線上のように思い通りに動かせるのは……良いですね」
むしろ今後も同じような体験ができたら良いのにと思うくらいだ。流石に聞かないけれど。
とにかく気付いたことを記憶に刻み付けようと、強く意識する。
(ストレッチに近い動きの分は……機体のリーチをしっかり認識する必要がありそうです)
数名を運びながらルネ(ka4202)は思う。
「にしてもー、ふしーぎねー」
意識して声を出してみたが。どこからでも声が出せるらしい。全身が魔導機械だからなのか?
「るね、とらっくのことぜんぜんしらなかった……」
想定外の事態だけれど、今日は嬉しくもあったりする。何故って新しくトラックの事がわかるのだから!
目を閉じればついさっきの事のように思い出せる。
「アウローラ、お前の名前はアウローラにしよう。宜しくな、アウローラ……」
そうして私が首を抱き、アウローラもぎゃぁと鳴いて私を受け入れてくれた。
カッ!
目を見開きレイア・アローネ(ka4082)は慟哭を込める。
アンギャーーーーー!!!
(関係が一歩進んだばかりだったのに! どうしてだ!)
あまりの音量に周囲の小動物(小型歪虚含む)が一斉に逃げ出した!
鴉型歪虚もあまりの騒音に辟易して逃げ出……したかったが強制的に留められた!
『音声スイッチオフにするのである』
無慈悲にぽちっとな♪
すんすん……くん……
(自分のにおいを追いかけるって……)
鞍馬 真(ka5819)の心境は複雑だ。
『地味過ぎるのである』
天の声は正直気にしたくない。が、ウザったいので毛を逆立て威嚇ついでに咆哮をあげておく。
ウォォー……!
去っていく歪虚達。逃げていく程度の雑魚に構っていられないから一石二鳥というもの。鴉は去らなかったのは残念だが。
においの強くなる方向へと走り出す真。
(意外と楽しいかも)
思うようにしなやかに動くレグルスの身体。それは本質が似ているからだろうか?
準備運動と称して、軽くイェジドの身体に意識を馴染ませるミィリア。
(こうなったら楽しんでやらなくちゃ)
自分の身体と戦える、なんて面白おかしい好機!
「しかも自分は別の武器と身体! 貴重でござる!」
興奮しすぎて声に出た。次は武装の取り回しだ。いつも叢雲の装着を手伝っているから理屈はわかる。あとはそれを実践あるのみ。
(あれ、これってかなり凄いことなんじゃない?)
装備メンテナンスの面でもいいことばかりだ。
「さーて、そろそろ頃合いでござる!」
きっと叢雲も戦いたいはずだ。ミィリアは身体の性能に任せて手当たり次第に森を走り始めた。
●
人であればかいくぐる程度で済む樹の枝も邪魔になる。視界は遮られ、避けるのに失敗すると関節部分に入り込んでくる。
「そうだ……フライトシステム!」
高空からなら視認範囲も稼げて、ヤタガラスの眼なら木々の隙間もものともしないはず。
(どこ!?)
目を凝らすように意識すれば望遠拡大もできる。しかし簡単に見つかるものではなくて。
ガクン!
焦るあまり滞空時間が切れたクレールは今、落ちているのです!
「待ってアラートが無かっ……いぇあー!?」
少しでも効果時間を気にかけていれば良かったのだ。探すことに演算能力を割き過ぎたのが運のつき。
最大限可能な高さにのぼっていたクレールは一直線に落ちていく、勿論森が最終地点。
(これって森林破壊かな……悪さしてる歪虚そのもの?)
叫んじゃったけど大丈夫かな!?
グスッ……スン……
涙を湛えた瞳をゴシゴシ擦るエプイは考えを纏めていた。
(私がご主人様の姿になってるなんて)
本格的に泣いたら止められない気がして、必死に涙を袖口で拭う。
「あっ汚しちゃた、かな。でも他に拭くもの……」
ツナギのポケットを探って見つけ出したハンカチを顔に当てる。
「……ご主人様のにおいだ」
余計に一人の今が強調される気がして、涙がにじむ。
「駄目。泣いていられない」
私の身体、歪虚から返してもらわなきゃ。
「まずは、私を探さなきゃ」
とても優しいご主人様。温かい人。そんなあの人の身体は絶対に傷つけないようにしないと!
頬を染めるエプイはうんと頷いて、自分の身体を探し始めた。
すぅー……すぅー……
「観智なら状況を楽しんでるに決まってる。だから俺も自由にするわ!」
デュナミスは説明を聞いて早々にのたまった。
「なにせ久しぶりの休暇だからなぁ! 仕事はなくても改修の提案ばかりで休みって言えないんだよ」
悪いことじゃないし嫌いじゃないけどたまにはなー。あっこれ超休みやすい!
音がするほど勢いよく地面に倒れ込んで、すぐさま寝始めた。
『……あの主にしてこの機体である』
鴉型歪虚はそっとその場を去っていった……
(見つけた!)
自分の嗅覚が鋭いと考えたことはないけれど、念のために風下から慎重に近づいていく真。
「ん? ああ、私か」
「なぜばれた!?」
ゆっくりと振り返るレグルス。しかしその目が警戒を解いてないことは真も気づいている。
「慣れ親しんだ自分のマテリアルくらいわかる」
レグルスすごい。いやでも今私の身体だから私がすごい?
「ぶちのめして返して貰えばいいのだろう」
(えっ?)
ブォン!
「ッ!」
頭が理解するより早く身体が動く。それはレグルスの培った戦闘経験が身体に染みついていたからなのか、真の本能がギリギリのところで生に向いたのか。
向けられる双剣に毛が逆立つのも無意識で、二撃、そして三撃……避けれた!
(この脳筋め!)
身軽さに感心する暇もない。そもそも速攻で転倒させるつもりだった真は人の事を言えないのだが。
大きく跳び退いた後の一呼吸。
「レグルス! 話を聞いて!」
このタイミングなら届くはず!
ブンッ!
「聞けってば!?」
「……面倒だ」
本気でそう思ったからこそ叢雲は声に出した。
(いつか何かやらかすとは思っていたがこれはなんだ)
見下ろす身体はちんちくりん。声もさっきの響きを思い出せば……間違いない、俺の主人のものだと結論付ける。
歪虚に入り込まれた? 冗談だろう。
(アイツがそんなに柔な構造してるハズがない)
そんな簡単に大人しくなるタマじゃない。勝手に自我を取り戻すなりして探しに来るに決まっている。
「……休んでおくか」
言いながらも、理想の場所を探しに歩き出す叢雲。
(見ただけじゃあ正体はわからんからな)
出会い頭に主人が得意とする刺突をかませる場所が最良だ。主人なら理解した上で対応するだろう。歪虚ならそのまま倒せばいいのだから問題あるまい。
(なにこれ、なんだよこれー!?)
俺の身体おかしい! 御主人が悪者になったってどういうことだ!
「あんぎゃあー! ぎゃあ!」
アウローラは森の中を徘徊していた。レイアの身体であることは既に頭から消えている。いつもの身体と同じつもりで歩こうとしてすっころび、ぎこちない四足歩行。チリチリと体をひっかく草や枝に辟易して、空に向かって羽ばたきながらジャンプ。
「ぎゃぁーーーお!」
着々と怪我を増やし、満身創痍である。顔までしっかり傷が走っている。
(痛い! 飛べない!)
喋れることも理解していない。声が違う事で気付きそうだが痛みと混乱で気にも留めていないのだ。
(疲れた! おなかすいた! ……ごはん!)
本能のままに移動するアウローラの目の前。その樹の根元には、怪しい雰囲気のきのこが……
「ッ!?」
強烈な寒気を感じたレイアは自らの身体を抱きしめようとして、うっかり周囲の樹を薙ぎ払った。
「いけない……しかし、なんだこの嫌な予感は」
『ド・ピンク色の茸を喰おうとしているのであるな』
無慈悲なる実況!
「ぬぁっ! 場所はどこだ!」
教えたら面白くないとばかりの沈黙。
「アウローラぁぁぁ!!! どこだ、返事をしてくれえぇぇ!」
レイアは大空へと飛び立った!
(私の名誉にかけて、仲間より先に見つけなければ!)
「すごいすごいすごい!」
トレーネはくるくる回ってみた。感激した彼女は飛び跳ねてはしゃぎだす。
「流石魔女様なの、何やっても様になるの!」
トレーネの思う『魔女様の素敵過ぎる厳選10ポーズ』を実際にやってみる。一部は残念ながら再現できないけれど。
「エヒトに自慢できるの。魔女様の身体の負担まで気遣える完璧使い魔に一歩近づいたの!」
ガッツポーズ♪
(でも、ご主人様はどこ行っちゃのかなー……?)
(早く止めなきゃとは思うんじゃが)
身を潜めながら自分のにおいを辿ってきたヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は躊躇っていた。
とても楽しそうにはしゃぐ自分の身体から視線を逸らす。どう説得するかを考えなければいけないのだが。
(見ていられないのじゃー)
むしろ見たくなかった。トレーネの愛情……執着……いや、忠誠は感じられたが、気恥ずかしさが勝った。
(先にルネから離脱しておいてよかったのじゃ)
いくら約束があっても他の誰にも見せられない姿である。
すーはー、深呼吸。
(早く何とかするのじゃ……こうかの)
霧の扱いには慣れている。練り上げたマテリアルを広げて、幻夢術として完成させた。
「この霧……魔女様!?」
「!?」
あっさり気付かれた! ちゃんと発動した筈!?
「あーっ歪虚でしょ! あたしの身体からでてってよー!」
勘違いしちゃったじゃない、と両手を腰に当てて頬を膨らませるトレーネ。
「その衣装魔女様とお揃いのやつなんだからー! 汚したら怒っちゃうんだからね!」
言葉と一緒にトレーネの周りが煌めく。氷の結晶が陽射しを反射したのだと気づいたヴィルマは大慌てで声を上げた。
「ま、待て、感情のままに術を使うのではないのじゃ! 我はヴィルマじゃ!」
自分の使う魔法の威力はよく分かっている。この身体では耐えられるはずがない。
「えっ!?」
驚きでマテリアルが霧散したことに安堵しつつも急いで話す。
「ヴィルマ・レーヴェシュタインじゃ。トレーネ、そなた我の身体に入っておるじゃろ」
マテリアルの感じでわからぬか? 汚染されたものではないじゃろ?
「我にはまだやることがある、じゃからその身体明け渡す訳にはいかなくてのぅ」
「本当に……魔女様……?」
「そうじゃ。信じてくれるか?」
がばっ! ぎゅぅー!
「魔女様ぁぁぁ! よかったー!」
アッ苦しい! ぎぶじゃぎぶ、トレーネー!
「とらっくのほんもうね!」
荷物だとか、ヒトだとか。とにかく誰かのために何かを運ぶのがお仕事できっと、生きがい。
「よいどらいばーには、よいどらいばーの生き方。どらっくには、とらっくの生き方があるはず」
安全運転は勿論だけど、誰かの大切のために走るならきっとよい生き方。
(ほかのお方のきょうりょく、できてよかったーね)
一台になってからはのんびりと森の中を走り回ることにしたルネ。道らしい道はないが、はうんどの車体なら悪路もへっちゃら。
(おからだにもどるのは……どうしよ?)
正直、見通しは全然だ。
「きっすひつよう。でもとらっくがひとにぶつかるのはよくない……」
交通事故になってしまうし。
「おくちとおかお、どこ……?」
声が出るところは意識すれば変わる。つまり口だと思う所は分からない。
考え込むと同時に、ルネの車体は次第に速度を落としていった。停車して、じっと考え込む。
(おくち……たべるところ。うごくための、ちから?)
むーん、うぅーん。
「ちからは、まどーえんじん、だよねー。たべてるのかな……」
「飴ヲタベテルカンジ、ダヨ」
コロコロ、口の中で転がすでしょ、と声がした。
●
演算領域は結局のところ使い方次第である。使用命令を出せばほんの少しの意識でも汲み取るし、何か一つに意識を絞り込んでしまえばすぐに他のすべてを放り出してしまう。ヒトの意識で使いこなすとするなら、それは普段から並列思考を意識しているか否かの違い……かもしれない。
「視界・視覚情報と、レーダー認知が、自然と同期するのは良いですね」
結論から言えば、観智は使いこなせていた。『そうなるのが当たり前である』という認識が強かったからなのかもしれないが。真実は誰にもわからない。
「レーダーに新たな動体反応……レーダーに任せましょう」
雑魔らしき反応と認識すれば追尾を行う。充分な距離と見通しを確保してからプラズマキャノンでの狙撃。徐々に一連の動作に慣れが生まれ演算処理の本来なら目まぐるしいはずのマテリアルの揺らぎにも慣れていく。そして着実に、撃破数を稼いでいる。
戦闘訓練にはうってつけだ。遠まわしではあるが、観智がこうして雑魔達を殲滅することで仲間達の合流に雑魔という邪魔が入らない結果を導いていた。
「いた!」
胸元に光る首飾りを見て自分の身体と確信するエプイ。ご主人様が付けてくれたもので、戦い以外でもずっと身に着けている大事な宝物。
でもどうしよう? 銃はあるけど、あれは私の身体だ。傷を付けたらご主人様は悲しむと思う。
でも中身は歪虚だって。ここで止めないと誰かを傷つけちゃうかも。私の意思じゃなくてもあれは私の身体だから、ご主人様を悲しませちゃう。
歪虚を追い出すためにどうすればいいの? 知らない。
今の私は私の身体を止めることってできるの? お互い怪我もせず?
「うわあああああん!」
私ひとりじゃわからない。戦うくらいしか役に立てないのに、それでも私を気遣ってくれる大好きなご主人様の為に、今だって何とかしたいと思っているのに。
「ご主人様あああああどこにいるのおおお!」
泣いたら駄目なのに、止まらないよおッ!
(見つかったはいいが、なんで何もしに来ねぇんだ?)
様子を伺っていたカインは、泣き出したエプイに慌て始める。
「え、ちょ」
構えていたはずの銃は既に下されている。ならばと近づいて、抱き寄せるように触れた。顔を近づけて、囁くように懇願する。
「おい、泣くなよ……」
困ったすえに舌を伸ばし涙をぬぐう。力加減は慎重に、出来るだけ優しく。
「……ご主人様?」
ぱちくりと見上げてくるエプイにほっと息を吐く。
「落ち着け、俺だ。エプイだろ? いい女が泣くな」
今は俺の面だけどなと笑うような声に、じんわり笑顔を見せるエプイ。
(俺の身体なのに別人みてぇだ、表情ってすげぇな)
目を閉じていたはずの叢雲の周囲に桜吹雪が、思うと同時にミィリアは身体を横へと跳ねさせる。
(見つけたと思ったら!)
春霞の閃きは先ほどまでミィリアの居た場所を素通りしてゆく。樹を蹴ることで勢いを変え牙を向ければ、叢雲もすぐに身を翻している!
(新鮮かも。ううん、楽しい!)
普段ならこんなに風を感じることはない。むしろ一体化したように感じる程身体が軽い。蕾の幻影を視界が捉えて、叢雲も同じだと気づきにやり口元を歪ませた。
むしゃむしゃごっくん♪
(色は変だけど美味しいなコレ)
アウローラは食欲のままに茸をむさぼっていた。
(しかも力が沸いてくる気がするぜ! しかし熱いな!)
毒々しいピンク色で、回復っぽい効果のある茸である。
(この布? 服? が邪魔だな……御主人なんでこんなもん貼り付けてんだろー……な……)
「あっつぅ……」
何故かアウローラの意識は朦朧としている。彼の意識が薄い方がヒトの言葉が出るようだ。ある意味不運なことに!
ルネは近くにいないみたいだし、思うように早く走れない。何より物を満足に運べなくて、とてもとても不便。
(ダカラ、るねノ役ニタッテイルッテ、ワカッテウレシイ)
早くルネに会いたくて、いつものお手入れにお礼を言いたくて、探し回って。疲労を知って、空腹を知って、動けないもどかしさを知って。
(デモ、るね、キテクレタ)
なんていう幸運だろう。すぐ近くにルネのマテリアルが感じられて、嬉しくて。動けなかった身体に力が出る気がした。魔導エンジンはこの身体にないのに。
「るね、デショ?」
自分の車体が見えて、すぐに近寄った。変な声の言葉なんて気にならなかった。ルネだと確信があった。
「モドル、ドウスレバ……イイ?」
「……はうんど?」
「ソウ、るねノハウンド、ココ」
ぐぅぅ……はうんどのお腹から腹ペコ虫の声がする。
「おゆーはんまでに、帰らなきゃー、ねー」
笑い声の代わりに魔導エンジンをぐーるぐる。
「おくちとおくちできっすだけど……はうんど、やってもらえるー?」
どう考えてもルネからは出来そうにない。頷くはうんどにルネが続ける。
「でも、もーすこしあとでーね」
乗ってとはうんどを急かすルネ。もう少しだけ、はうんどのままで走りたい。せめて森を出るまでくらいは。
「かえったら、きれいにおそうじとわっくすかけるーね」
「ウレシイ。るね、ツカレナイ?」
「いつもはこんでくれて、ありがとーね」
大丈夫。そう言えばはうんども笑って。
ラストスパート、はじめよう!
「やっと見つけました。歪虚は滅殺! です」
大事なマイボディ。マスターから与えられた名前の通り翼ある身体。
ヤタガラスはカリスマリスを向けてマテリアルを込める。ボディの中のマスターの残存マテリアルに身を委ねれば活動に困ることはなく。
「待ッ!?」
寸でのところで避けられても。
「私のボディは後から直せます。速やかに出て行きなさい」
ためらいなく関節へと狙いを定める。
「空なら追ってこれないでしょ! 一旦落ち着」
「速やかに捕縛します」
「きゃあっ!?」
ヒールからマテリアルを噴射させフライトに移行。飛び立つマイボディへ手をかけることに成功だ!
(隙は今しかない……!)
しがみついてきたヤタガラスに必死に頭部を近づける。このチャンスを逃すと、多分また攻撃されるだろう。さっきの台詞が物語っている。
(着地後に確実なトドメが待ってる……刀で!)
可動域ギリギリ、限界に挑戦だ。
ぐぐ……ぐ……
不思議そうにこちらを見るヤタガラス。目は警戒しているが、唇は無防備!
(ファーストキスがこれじゃ、あんまりだよね……)
だがクレールは覚悟を決めた。
(ここだ! 極小スペルスラスター! アンド、キッスゥゥゥ!)
「むぐっ? ん……」
スペルシールドの応用でマテリアルを送り込む。マテリアル的超絶技巧……クレールはヤタガラスの声を聞かないよう集中する!
(機械と人だから……ノーカンにしよ? 私も、そうするから……)
戦うのに言葉は要らないと思う。一対一ならなおさらだ。
(何の意味がある? 必要なら勝って黙らせてから言えばいい)
自分の身体ながらよく避けるものだと思う。同時にレグルスは主の身体の性能にも内心驚いていた。動かしやすい。人の身体に最初こそ戸惑ったが、動かすほどによく馴染む。桜吹雪の幻影の必要性には疑問が生じるけれど。それが主の趣味かどうか、細かいところまでレグルスは気にしたことがない。
「……む」
自分の身体から幾度も繰り返される言葉。流石にもうレグルスにだって届いていたし相手が主なのだと分かっていたが、なんとなく。勝敗がつくまでは続けようと思っていた。
そしてほんの少し、戦闘への集中が解けたその隙が勝敗を分けた。見上げる先には主の瞳に似た蒼が広がる。
「どうした?」
何を迷っている?
転倒させ乗りかかれば後は口付けるだけ。転移前の記憶がない真は自分の顔への認識が薄い。だからこそ自分の顔じゃないと強く思えば……
(いける訳が無いだろ! 三年も過ごせば見慣れるわ!)
身嗜みを整えるための鏡やらなにやら。それだけの月日があれば自覚だってでるわけで。
「なんで真っ直ぐ見てくるかなレグルスぅ?」
やりにくい! でもそれしか方法が無いのだからやってやるよ! ディープなやつだろ!
「男は度胸!」
目を閉じていざ! 何度か場所を間違えた挙句、目を開けて真っ赤になりながら唇を捉えたのは……通算で五回目だった。
「戻るためにもキスせねばならんのじゃ」
互いに自分の身体なのでさほど大きな抵抗はない。
「魔女様、その前にお願いが!」
「なんじゃ?」
トレーネの頼みは『魔女様の格好いい厳選3ポーズ~トレーネと一緒編~』をやることだったが、詳細は敢えて省こう。
『……ぷっ』
堪えるような声が聞こえてヴィルマの眼光が強くなる。
「流石魔女様、私の顔の格好いいとこ分かってくれてますー!」
「そうじゃな……トレーネ、後でむかつくあの声の主に仕返しに行くのじゃ」
「魔女様のおっしゃるとおりに!」
互いに緊張なくマテリアルの交換を……残念ながら、そこで意識は途切れてしまった。
「あああアウローラぁぁぁ!」
「ぁ、ご主人ー……?」
間一髪、最後の一枚に手がかかったところでレイアが到着した!
(止められるなら何でもいい! そうだ、サイドワインダー!!!)
超速で接近したレイアがアウローラを力いっぱい押し倒す。そのまま顔に頭突き! いや噛みつき! 違ったキスだ!
(森林で良かった! 人目から少しでも隠れられる場所で良かった!)
黒幕はなます切りにしてやらなければ! 強い決意と共にレイアの意識が途切れた。
●
「キス? いつものご主人様に戻れるなら、いいよ……大好き」
ご主人様がいつも頬や額にしてくれる、優しいもののこと、みたい。
背伸びをして、首に腕を回す。
顔はおろしてくれているけれど、私からする方がいいよね。ご主人様きっと気にしちゃうから。
「ありがとな、いい女にキスしてもらえるのは役得だ」
私も、ご主人様に好きって言えてよかった。こうしてキスも出来てよかった。好きって気持ち、いっぱい籠めるね。
(元に戻ったら、また、ご主人様のこと……護るね……)
体躯の差、速度の差。動くうちにイェジドの身体を掌握したミィリアが叢雲の肩を抑え地に押し倒した。勝負、いや手合わせが終わる。
「楽しかったでござる!」
明るい声音で事情説明まで終えたのだが。
(あれ、急に恥ずかしくなってきたというかなんというか、いや自分の顔なんだけど!)
ずっと押さえつけたままのやり取りである。傍から見たら、これは……
「~~~!!!」
「……まったく」
小さな呟きの後、赤面と共に硬直したミィリアの口元に叢雲の唇が触れた。
(叢雲ったらやっぱり男前! 好き……)
気持ちよかったのはマテリアルの循環か、戻った後の叢雲の毛並みか……ミィリアの意識は途切れた。
『最後の一人になったのである』
「おや……潮時、ですか」
森林を駆け巡る間も、声はかかっていた。けれど観智が返答したのはこれが最初であった。多分最後でもあるのだが。
「帰りますね」
ずっと前から気付いていた、全く動かない生体反応。きっと己の身体でありデュナミスの位置だろうと目算付けていたその場所へと向かっていった。
「なんてコト吹き込んでくれんのよバカーーー!!!」
無機質な声に精一杯の感情をのせたクレール・ディンセルフ(ka0586)の声が響き渡る。
(間違いなく殺しに来る!)
なぜならクレール自身がそうするからだ。歪虚と聞けば滅殺、これ鉄則。
愛機だからこそ搭乗回数も多い。親和性を考えればハンターの性格に影響を受けている可能性が高いのだ。
「とにかく! 戻るためのキス! さっそく出げっ」
ドガシャァ!
『……クッ』
盛大に転んだクレールに精神攻撃!
「マスタースレーブ越しじゃこんなの知らない……!」
人の認識のままで動こうとしたからバランスが崩れたのだ。同時にヤタガラスの事が気になってくるクレール。
「脚が少ないの、ちゃんと慣れてるといいけど」
「人間とは違う大きさだな」
いつも護って貰ってるんだよなぁ。軽く腕を動かして具合を確かめるカイン・シュミート(ka6967)。
(感謝しねぇとな)
ただの言葉だけじゃなくて、もっと労う態度も必要だろう。
「楽しく飲んでるところを邪魔するなんてゆるすまじ!」
ミィリア(ka2689)にとっては何よりもお酒である。そもそも飲み代はどうなってしまったのか!
「明朗会計楽しく晩酌でござる。お店の迷惑ダメ絶対!」
『それは我が下僕が委細つつがなく処理している筈である』
「じゃあよーし!」
『……えぇ……』
呆れた天の声ちょうだいましたー。
「これは……」
絶句する天央 観智(ka0896)だが、その表情、とくに瞳には喜色が溢れている。
「良い練習機会を頂きました。ありがとうございます」
『聞き間違いであるかな』
耳を疑ったような気配も意に介さず、観智は行動を開始していた。
まずは脳内で再現したメロディにあわせながら、体操を一通り試してみる。どれだけ人体と同じように、スムーズに動かすことができるのか。それを確かめるためでもあり、自身の感覚と体を馴染ませるためでもある。
「操縦や操作の練習に成らない……のは、少し残念ですが」
次はストレッチに近い動き。流石に伸ばすような動きを試す時は抵抗を感じるが、近いところまでは行えるようだと頷く。
「身体の延長線上のように思い通りに動かせるのは……良いですね」
むしろ今後も同じような体験ができたら良いのにと思うくらいだ。流石に聞かないけれど。
とにかく気付いたことを記憶に刻み付けようと、強く意識する。
(ストレッチに近い動きの分は……機体のリーチをしっかり認識する必要がありそうです)
数名を運びながらルネ(ka4202)は思う。
「にしてもー、ふしーぎねー」
意識して声を出してみたが。どこからでも声が出せるらしい。全身が魔導機械だからなのか?
「るね、とらっくのことぜんぜんしらなかった……」
想定外の事態だけれど、今日は嬉しくもあったりする。何故って新しくトラックの事がわかるのだから!
目を閉じればついさっきの事のように思い出せる。
「アウローラ、お前の名前はアウローラにしよう。宜しくな、アウローラ……」
そうして私が首を抱き、アウローラもぎゃぁと鳴いて私を受け入れてくれた。
カッ!
目を見開きレイア・アローネ(ka4082)は慟哭を込める。
アンギャーーーーー!!!
(関係が一歩進んだばかりだったのに! どうしてだ!)
あまりの音量に周囲の小動物(小型歪虚含む)が一斉に逃げ出した!
鴉型歪虚もあまりの騒音に辟易して逃げ出……したかったが強制的に留められた!
『音声スイッチオフにするのである』
無慈悲にぽちっとな♪
すんすん……くん……
(自分のにおいを追いかけるって……)
鞍馬 真(ka5819)の心境は複雑だ。
『地味過ぎるのである』
天の声は正直気にしたくない。が、ウザったいので毛を逆立て威嚇ついでに咆哮をあげておく。
ウォォー……!
去っていく歪虚達。逃げていく程度の雑魚に構っていられないから一石二鳥というもの。鴉は去らなかったのは残念だが。
においの強くなる方向へと走り出す真。
(意外と楽しいかも)
思うようにしなやかに動くレグルスの身体。それは本質が似ているからだろうか?
準備運動と称して、軽くイェジドの身体に意識を馴染ませるミィリア。
(こうなったら楽しんでやらなくちゃ)
自分の身体と戦える、なんて面白おかしい好機!
「しかも自分は別の武器と身体! 貴重でござる!」
興奮しすぎて声に出た。次は武装の取り回しだ。いつも叢雲の装着を手伝っているから理屈はわかる。あとはそれを実践あるのみ。
(あれ、これってかなり凄いことなんじゃない?)
装備メンテナンスの面でもいいことばかりだ。
「さーて、そろそろ頃合いでござる!」
きっと叢雲も戦いたいはずだ。ミィリアは身体の性能に任せて手当たり次第に森を走り始めた。
●
人であればかいくぐる程度で済む樹の枝も邪魔になる。視界は遮られ、避けるのに失敗すると関節部分に入り込んでくる。
「そうだ……フライトシステム!」
高空からなら視認範囲も稼げて、ヤタガラスの眼なら木々の隙間もものともしないはず。
(どこ!?)
目を凝らすように意識すれば望遠拡大もできる。しかし簡単に見つかるものではなくて。
ガクン!
焦るあまり滞空時間が切れたクレールは今、落ちているのです!
「待ってアラートが無かっ……いぇあー!?」
少しでも効果時間を気にかけていれば良かったのだ。探すことに演算能力を割き過ぎたのが運のつき。
最大限可能な高さにのぼっていたクレールは一直線に落ちていく、勿論森が最終地点。
(これって森林破壊かな……悪さしてる歪虚そのもの?)
叫んじゃったけど大丈夫かな!?
グスッ……スン……
涙を湛えた瞳をゴシゴシ擦るエプイは考えを纏めていた。
(私がご主人様の姿になってるなんて)
本格的に泣いたら止められない気がして、必死に涙を袖口で拭う。
「あっ汚しちゃた、かな。でも他に拭くもの……」
ツナギのポケットを探って見つけ出したハンカチを顔に当てる。
「……ご主人様のにおいだ」
余計に一人の今が強調される気がして、涙がにじむ。
「駄目。泣いていられない」
私の身体、歪虚から返してもらわなきゃ。
「まずは、私を探さなきゃ」
とても優しいご主人様。温かい人。そんなあの人の身体は絶対に傷つけないようにしないと!
頬を染めるエプイはうんと頷いて、自分の身体を探し始めた。
すぅー……すぅー……
「観智なら状況を楽しんでるに決まってる。だから俺も自由にするわ!」
デュナミスは説明を聞いて早々にのたまった。
「なにせ久しぶりの休暇だからなぁ! 仕事はなくても改修の提案ばかりで休みって言えないんだよ」
悪いことじゃないし嫌いじゃないけどたまにはなー。あっこれ超休みやすい!
音がするほど勢いよく地面に倒れ込んで、すぐさま寝始めた。
『……あの主にしてこの機体である』
鴉型歪虚はそっとその場を去っていった……
(見つけた!)
自分の嗅覚が鋭いと考えたことはないけれど、念のために風下から慎重に近づいていく真。
「ん? ああ、私か」
「なぜばれた!?」
ゆっくりと振り返るレグルス。しかしその目が警戒を解いてないことは真も気づいている。
「慣れ親しんだ自分のマテリアルくらいわかる」
レグルスすごい。いやでも今私の身体だから私がすごい?
「ぶちのめして返して貰えばいいのだろう」
(えっ?)
ブォン!
「ッ!」
頭が理解するより早く身体が動く。それはレグルスの培った戦闘経験が身体に染みついていたからなのか、真の本能がギリギリのところで生に向いたのか。
向けられる双剣に毛が逆立つのも無意識で、二撃、そして三撃……避けれた!
(この脳筋め!)
身軽さに感心する暇もない。そもそも速攻で転倒させるつもりだった真は人の事を言えないのだが。
大きく跳び退いた後の一呼吸。
「レグルス! 話を聞いて!」
このタイミングなら届くはず!
ブンッ!
「聞けってば!?」
「……面倒だ」
本気でそう思ったからこそ叢雲は声に出した。
(いつか何かやらかすとは思っていたがこれはなんだ)
見下ろす身体はちんちくりん。声もさっきの響きを思い出せば……間違いない、俺の主人のものだと結論付ける。
歪虚に入り込まれた? 冗談だろう。
(アイツがそんなに柔な構造してるハズがない)
そんな簡単に大人しくなるタマじゃない。勝手に自我を取り戻すなりして探しに来るに決まっている。
「……休んでおくか」
言いながらも、理想の場所を探しに歩き出す叢雲。
(見ただけじゃあ正体はわからんからな)
出会い頭に主人が得意とする刺突をかませる場所が最良だ。主人なら理解した上で対応するだろう。歪虚ならそのまま倒せばいいのだから問題あるまい。
(なにこれ、なんだよこれー!?)
俺の身体おかしい! 御主人が悪者になったってどういうことだ!
「あんぎゃあー! ぎゃあ!」
アウローラは森の中を徘徊していた。レイアの身体であることは既に頭から消えている。いつもの身体と同じつもりで歩こうとしてすっころび、ぎこちない四足歩行。チリチリと体をひっかく草や枝に辟易して、空に向かって羽ばたきながらジャンプ。
「ぎゃぁーーーお!」
着々と怪我を増やし、満身創痍である。顔までしっかり傷が走っている。
(痛い! 飛べない!)
喋れることも理解していない。声が違う事で気付きそうだが痛みと混乱で気にも留めていないのだ。
(疲れた! おなかすいた! ……ごはん!)
本能のままに移動するアウローラの目の前。その樹の根元には、怪しい雰囲気のきのこが……
「ッ!?」
強烈な寒気を感じたレイアは自らの身体を抱きしめようとして、うっかり周囲の樹を薙ぎ払った。
「いけない……しかし、なんだこの嫌な予感は」
『ド・ピンク色の茸を喰おうとしているのであるな』
無慈悲なる実況!
「ぬぁっ! 場所はどこだ!」
教えたら面白くないとばかりの沈黙。
「アウローラぁぁぁ!!! どこだ、返事をしてくれえぇぇ!」
レイアは大空へと飛び立った!
(私の名誉にかけて、仲間より先に見つけなければ!)
「すごいすごいすごい!」
トレーネはくるくる回ってみた。感激した彼女は飛び跳ねてはしゃぎだす。
「流石魔女様なの、何やっても様になるの!」
トレーネの思う『魔女様の素敵過ぎる厳選10ポーズ』を実際にやってみる。一部は残念ながら再現できないけれど。
「エヒトに自慢できるの。魔女様の身体の負担まで気遣える完璧使い魔に一歩近づいたの!」
ガッツポーズ♪
(でも、ご主人様はどこ行っちゃのかなー……?)
(早く止めなきゃとは思うんじゃが)
身を潜めながら自分のにおいを辿ってきたヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は躊躇っていた。
とても楽しそうにはしゃぐ自分の身体から視線を逸らす。どう説得するかを考えなければいけないのだが。
(見ていられないのじゃー)
むしろ見たくなかった。トレーネの愛情……執着……いや、忠誠は感じられたが、気恥ずかしさが勝った。
(先にルネから離脱しておいてよかったのじゃ)
いくら約束があっても他の誰にも見せられない姿である。
すーはー、深呼吸。
(早く何とかするのじゃ……こうかの)
霧の扱いには慣れている。練り上げたマテリアルを広げて、幻夢術として完成させた。
「この霧……魔女様!?」
「!?」
あっさり気付かれた! ちゃんと発動した筈!?
「あーっ歪虚でしょ! あたしの身体からでてってよー!」
勘違いしちゃったじゃない、と両手を腰に当てて頬を膨らませるトレーネ。
「その衣装魔女様とお揃いのやつなんだからー! 汚したら怒っちゃうんだからね!」
言葉と一緒にトレーネの周りが煌めく。氷の結晶が陽射しを反射したのだと気づいたヴィルマは大慌てで声を上げた。
「ま、待て、感情のままに術を使うのではないのじゃ! 我はヴィルマじゃ!」
自分の使う魔法の威力はよく分かっている。この身体では耐えられるはずがない。
「えっ!?」
驚きでマテリアルが霧散したことに安堵しつつも急いで話す。
「ヴィルマ・レーヴェシュタインじゃ。トレーネ、そなた我の身体に入っておるじゃろ」
マテリアルの感じでわからぬか? 汚染されたものではないじゃろ?
「我にはまだやることがある、じゃからその身体明け渡す訳にはいかなくてのぅ」
「本当に……魔女様……?」
「そうじゃ。信じてくれるか?」
がばっ! ぎゅぅー!
「魔女様ぁぁぁ! よかったー!」
アッ苦しい! ぎぶじゃぎぶ、トレーネー!
「とらっくのほんもうね!」
荷物だとか、ヒトだとか。とにかく誰かのために何かを運ぶのがお仕事できっと、生きがい。
「よいどらいばーには、よいどらいばーの生き方。どらっくには、とらっくの生き方があるはず」
安全運転は勿論だけど、誰かの大切のために走るならきっとよい生き方。
(ほかのお方のきょうりょく、できてよかったーね)
一台になってからはのんびりと森の中を走り回ることにしたルネ。道らしい道はないが、はうんどの車体なら悪路もへっちゃら。
(おからだにもどるのは……どうしよ?)
正直、見通しは全然だ。
「きっすひつよう。でもとらっくがひとにぶつかるのはよくない……」
交通事故になってしまうし。
「おくちとおかお、どこ……?」
声が出るところは意識すれば変わる。つまり口だと思う所は分からない。
考え込むと同時に、ルネの車体は次第に速度を落としていった。停車して、じっと考え込む。
(おくち……たべるところ。うごくための、ちから?)
むーん、うぅーん。
「ちからは、まどーえんじん、だよねー。たべてるのかな……」
「飴ヲタベテルカンジ、ダヨ」
コロコロ、口の中で転がすでしょ、と声がした。
●
演算領域は結局のところ使い方次第である。使用命令を出せばほんの少しの意識でも汲み取るし、何か一つに意識を絞り込んでしまえばすぐに他のすべてを放り出してしまう。ヒトの意識で使いこなすとするなら、それは普段から並列思考を意識しているか否かの違い……かもしれない。
「視界・視覚情報と、レーダー認知が、自然と同期するのは良いですね」
結論から言えば、観智は使いこなせていた。『そうなるのが当たり前である』という認識が強かったからなのかもしれないが。真実は誰にもわからない。
「レーダーに新たな動体反応……レーダーに任せましょう」
雑魔らしき反応と認識すれば追尾を行う。充分な距離と見通しを確保してからプラズマキャノンでの狙撃。徐々に一連の動作に慣れが生まれ演算処理の本来なら目まぐるしいはずのマテリアルの揺らぎにも慣れていく。そして着実に、撃破数を稼いでいる。
戦闘訓練にはうってつけだ。遠まわしではあるが、観智がこうして雑魔達を殲滅することで仲間達の合流に雑魔という邪魔が入らない結果を導いていた。
「いた!」
胸元に光る首飾りを見て自分の身体と確信するエプイ。ご主人様が付けてくれたもので、戦い以外でもずっと身に着けている大事な宝物。
でもどうしよう? 銃はあるけど、あれは私の身体だ。傷を付けたらご主人様は悲しむと思う。
でも中身は歪虚だって。ここで止めないと誰かを傷つけちゃうかも。私の意思じゃなくてもあれは私の身体だから、ご主人様を悲しませちゃう。
歪虚を追い出すためにどうすればいいの? 知らない。
今の私は私の身体を止めることってできるの? お互い怪我もせず?
「うわあああああん!」
私ひとりじゃわからない。戦うくらいしか役に立てないのに、それでも私を気遣ってくれる大好きなご主人様の為に、今だって何とかしたいと思っているのに。
「ご主人様あああああどこにいるのおおお!」
泣いたら駄目なのに、止まらないよおッ!
(見つかったはいいが、なんで何もしに来ねぇんだ?)
様子を伺っていたカインは、泣き出したエプイに慌て始める。
「え、ちょ」
構えていたはずの銃は既に下されている。ならばと近づいて、抱き寄せるように触れた。顔を近づけて、囁くように懇願する。
「おい、泣くなよ……」
困ったすえに舌を伸ばし涙をぬぐう。力加減は慎重に、出来るだけ優しく。
「……ご主人様?」
ぱちくりと見上げてくるエプイにほっと息を吐く。
「落ち着け、俺だ。エプイだろ? いい女が泣くな」
今は俺の面だけどなと笑うような声に、じんわり笑顔を見せるエプイ。
(俺の身体なのに別人みてぇだ、表情ってすげぇな)
目を閉じていたはずの叢雲の周囲に桜吹雪が、思うと同時にミィリアは身体を横へと跳ねさせる。
(見つけたと思ったら!)
春霞の閃きは先ほどまでミィリアの居た場所を素通りしてゆく。樹を蹴ることで勢いを変え牙を向ければ、叢雲もすぐに身を翻している!
(新鮮かも。ううん、楽しい!)
普段ならこんなに風を感じることはない。むしろ一体化したように感じる程身体が軽い。蕾の幻影を視界が捉えて、叢雲も同じだと気づきにやり口元を歪ませた。
むしゃむしゃごっくん♪
(色は変だけど美味しいなコレ)
アウローラは食欲のままに茸をむさぼっていた。
(しかも力が沸いてくる気がするぜ! しかし熱いな!)
毒々しいピンク色で、回復っぽい効果のある茸である。
(この布? 服? が邪魔だな……御主人なんでこんなもん貼り付けてんだろー……な……)
「あっつぅ……」
何故かアウローラの意識は朦朧としている。彼の意識が薄い方がヒトの言葉が出るようだ。ある意味不運なことに!
ルネは近くにいないみたいだし、思うように早く走れない。何より物を満足に運べなくて、とてもとても不便。
(ダカラ、るねノ役ニタッテイルッテ、ワカッテウレシイ)
早くルネに会いたくて、いつものお手入れにお礼を言いたくて、探し回って。疲労を知って、空腹を知って、動けないもどかしさを知って。
(デモ、るね、キテクレタ)
なんていう幸運だろう。すぐ近くにルネのマテリアルが感じられて、嬉しくて。動けなかった身体に力が出る気がした。魔導エンジンはこの身体にないのに。
「るね、デショ?」
自分の車体が見えて、すぐに近寄った。変な声の言葉なんて気にならなかった。ルネだと確信があった。
「モドル、ドウスレバ……イイ?」
「……はうんど?」
「ソウ、るねノハウンド、ココ」
ぐぅぅ……はうんどのお腹から腹ペコ虫の声がする。
「おゆーはんまでに、帰らなきゃー、ねー」
笑い声の代わりに魔導エンジンをぐーるぐる。
「おくちとおくちできっすだけど……はうんど、やってもらえるー?」
どう考えてもルネからは出来そうにない。頷くはうんどにルネが続ける。
「でも、もーすこしあとでーね」
乗ってとはうんどを急かすルネ。もう少しだけ、はうんどのままで走りたい。せめて森を出るまでくらいは。
「かえったら、きれいにおそうじとわっくすかけるーね」
「ウレシイ。るね、ツカレナイ?」
「いつもはこんでくれて、ありがとーね」
大丈夫。そう言えばはうんども笑って。
ラストスパート、はじめよう!
「やっと見つけました。歪虚は滅殺! です」
大事なマイボディ。マスターから与えられた名前の通り翼ある身体。
ヤタガラスはカリスマリスを向けてマテリアルを込める。ボディの中のマスターの残存マテリアルに身を委ねれば活動に困ることはなく。
「待ッ!?」
寸でのところで避けられても。
「私のボディは後から直せます。速やかに出て行きなさい」
ためらいなく関節へと狙いを定める。
「空なら追ってこれないでしょ! 一旦落ち着」
「速やかに捕縛します」
「きゃあっ!?」
ヒールからマテリアルを噴射させフライトに移行。飛び立つマイボディへ手をかけることに成功だ!
(隙は今しかない……!)
しがみついてきたヤタガラスに必死に頭部を近づける。このチャンスを逃すと、多分また攻撃されるだろう。さっきの台詞が物語っている。
(着地後に確実なトドメが待ってる……刀で!)
可動域ギリギリ、限界に挑戦だ。
ぐぐ……ぐ……
不思議そうにこちらを見るヤタガラス。目は警戒しているが、唇は無防備!
(ファーストキスがこれじゃ、あんまりだよね……)
だがクレールは覚悟を決めた。
(ここだ! 極小スペルスラスター! アンド、キッスゥゥゥ!)
「むぐっ? ん……」
スペルシールドの応用でマテリアルを送り込む。マテリアル的超絶技巧……クレールはヤタガラスの声を聞かないよう集中する!
(機械と人だから……ノーカンにしよ? 私も、そうするから……)
戦うのに言葉は要らないと思う。一対一ならなおさらだ。
(何の意味がある? 必要なら勝って黙らせてから言えばいい)
自分の身体ながらよく避けるものだと思う。同時にレグルスは主の身体の性能にも内心驚いていた。動かしやすい。人の身体に最初こそ戸惑ったが、動かすほどによく馴染む。桜吹雪の幻影の必要性には疑問が生じるけれど。それが主の趣味かどうか、細かいところまでレグルスは気にしたことがない。
「……む」
自分の身体から幾度も繰り返される言葉。流石にもうレグルスにだって届いていたし相手が主なのだと分かっていたが、なんとなく。勝敗がつくまでは続けようと思っていた。
そしてほんの少し、戦闘への集中が解けたその隙が勝敗を分けた。見上げる先には主の瞳に似た蒼が広がる。
「どうした?」
何を迷っている?
転倒させ乗りかかれば後は口付けるだけ。転移前の記憶がない真は自分の顔への認識が薄い。だからこそ自分の顔じゃないと強く思えば……
(いける訳が無いだろ! 三年も過ごせば見慣れるわ!)
身嗜みを整えるための鏡やらなにやら。それだけの月日があれば自覚だってでるわけで。
「なんで真っ直ぐ見てくるかなレグルスぅ?」
やりにくい! でもそれしか方法が無いのだからやってやるよ! ディープなやつだろ!
「男は度胸!」
目を閉じていざ! 何度か場所を間違えた挙句、目を開けて真っ赤になりながら唇を捉えたのは……通算で五回目だった。
「戻るためにもキスせねばならんのじゃ」
互いに自分の身体なのでさほど大きな抵抗はない。
「魔女様、その前にお願いが!」
「なんじゃ?」
トレーネの頼みは『魔女様の格好いい厳選3ポーズ~トレーネと一緒編~』をやることだったが、詳細は敢えて省こう。
『……ぷっ』
堪えるような声が聞こえてヴィルマの眼光が強くなる。
「流石魔女様、私の顔の格好いいとこ分かってくれてますー!」
「そうじゃな……トレーネ、後でむかつくあの声の主に仕返しに行くのじゃ」
「魔女様のおっしゃるとおりに!」
互いに緊張なくマテリアルの交換を……残念ながら、そこで意識は途切れてしまった。
「あああアウローラぁぁぁ!」
「ぁ、ご主人ー……?」
間一髪、最後の一枚に手がかかったところでレイアが到着した!
(止められるなら何でもいい! そうだ、サイドワインダー!!!)
超速で接近したレイアがアウローラを力いっぱい押し倒す。そのまま顔に頭突き! いや噛みつき! 違ったキスだ!
(森林で良かった! 人目から少しでも隠れられる場所で良かった!)
黒幕はなます切りにしてやらなければ! 強い決意と共にレイアの意識が途切れた。
●
「キス? いつものご主人様に戻れるなら、いいよ……大好き」
ご主人様がいつも頬や額にしてくれる、優しいもののこと、みたい。
背伸びをして、首に腕を回す。
顔はおろしてくれているけれど、私からする方がいいよね。ご主人様きっと気にしちゃうから。
「ありがとな、いい女にキスしてもらえるのは役得だ」
私も、ご主人様に好きって言えてよかった。こうしてキスも出来てよかった。好きって気持ち、いっぱい籠めるね。
(元に戻ったら、また、ご主人様のこと……護るね……)
体躯の差、速度の差。動くうちにイェジドの身体を掌握したミィリアが叢雲の肩を抑え地に押し倒した。勝負、いや手合わせが終わる。
「楽しかったでござる!」
明るい声音で事情説明まで終えたのだが。
(あれ、急に恥ずかしくなってきたというかなんというか、いや自分の顔なんだけど!)
ずっと押さえつけたままのやり取りである。傍から見たら、これは……
「~~~!!!」
「……まったく」
小さな呟きの後、赤面と共に硬直したミィリアの口元に叢雲の唇が触れた。
(叢雲ったらやっぱり男前! 好き……)
気持ちよかったのはマテリアルの循環か、戻った後の叢雲の毛並みか……ミィリアの意識は途切れた。
『最後の一人になったのである』
「おや……潮時、ですか」
森林を駆け巡る間も、声はかかっていた。けれど観智が返答したのはこれが最初であった。多分最後でもあるのだが。
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ずっと前から気付いていた、全く動かない生体反応。きっと己の身体でありデュナミスの位置だろうと目算付けていたその場所へと向かっていった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/10/31 14:25:31 |
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鴉型歪虚と一緒 ヴォール(kz0124) 歪虚|30才|男性|歪虚(ヴォイド) |
最終発言 2018/11/05 13:25:03 |