王国最強CAM――新技術導入編

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/11/02 09:00
完成日
2018/11/07 21:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 秘儀とされていた知識や技術が惜しげも無く公開されている。
 リアルブルーの合理主義に感化された研究者達が議論を交わす。
 強力な歪虚が王国に宣戦し、リアルブルーが危地に陥った今だからこそ、気力と体力を燃やし尽くすようにして国産CAM開発が進んでいた。
「操縦系の改善は頭打ちです」
「ハンター抜きの実験ではではだろう」
「実験が短時間で済むよう予め私達が実験方針を決めておくべきです」
「全ての組み合わせを試すのにどれだけかかると思っている。一線で活躍できるハンターを半年以上拘束する気かっ!?」
 普段より熱が入っている。
 必要以上に熱くならないよう宥めてくれるはずの研究所所長が、先程から全く動いていないからだ。
「邪神は無理でも王都を恐喝した歪虚を倒せる機体を造るしかないんです」
「その間の被害をどう考えて」
「話が本題から逸れているぞ。所長、やはりここは……所長?」
 異常に気づく者がようやく現れた。
 技術後進国である王国に乗り込み、研究所1つを我が物としたリチャード博士が目を開いたまま動かない。
「ん……ああ、すまない。話はどこまで進んで」
 一度小さく震えてから博士が動き出す。
 全く異常がないように見えるのが逆に怖くて、部下達はどうすべきか判断できずに戸惑う。
 深刻な雰囲気に気付いたのだろう。
 本来の知性を取り戻した老博士が静かに問いかける。
「私は何秒惚けていた? ……何分、か?」
「は、いいえ、おそらく十数分です」
 博士の瞳が大きく見開かれ、重々しいため息が1つ漏れる。
「副所長に全権限を渡す。ハンターにはよろしく伝えてくれ」
 引き継ぎを終えた直後に倒れ、病院へ運ばれた。

●病状
「過労ですな」
「過労」
「ボケの兆候はないですね」
「ボケではない! よし!」
「いやそんなに喜ばれても。もう72なんですから無理すりゃ一気にきかねないですからね。というか何やってたんですかあんた」
「仮眠はとったのだがなぁ。……今更守秘義務もないか。地球からの技術と人材疎開のサポートだ」
 競争で蹴り落とし蹴り落とされるのは無数に経験してきたが、ああいう形で切り捨てる対象を選ぶのは二度と経験したくない。
「また派手な冗談を」
 医者が笑う。
 博士のことを都落ちしてきた都落ちしてきた退職者と思っているのだ。
「まあそんなものだ」
 連合宇宙軍の1部門を束ねる彼は曖昧に答える。
 他人にどう思われようが目的が達成できるなら気にもしないしその余裕もなくなった。
「しかし参った。注意力が落ちすぎていて重要な連絡や報告を見落としているぞこれは」
「まず休むことですよ。焦っても悪化するだけです。医者ではなく個人的な意見ですけどね」
 お大事にと言い残し、リゼリオから単身赴任中の医者が次の病室へ向かった。

●スポンサー
「奴は王国を舐めている!」
 目を血走らせて官僚が叫んでも、賛同する者の割合は1割にも満たなかった。
 王国国産CAMのパイロット候補者に至っては0割だ。
「私はCAMに乗るより生身の方が戦えます。パイロットがハンター限定でも……」
「君が操縦下手なだけだろう!」
 金髪女騎士を怒鳴りつける官僚に、王国騎士と聖堂戦士から非友好的な目が向けられた。
「反論できません」
 己の不器用に自覚があるので素直に肯定する。
 もうちょっと反論しろよという目が、隊長格と司教以上の聖職者から向けられた。
「私が知っているハンターと私では操縦技術に大きな差があります」
 彼女は多くの面で足りていないが、誠意と忠誠心は騎士に相応しいものを持っている。
 なので普通の神経をしていたら口に出せない事実も話してしまった。
「私も訓練は重ねていますがハンターは訓練と実戦をこなしています。差は広がる一方です」
「だからと言って!」
 さらに反論しようとする官僚を、その上司が宥めて座らせた。
「君個人の感想で構わない。このCAMは使えるCAMになると思うか?」
「はい。……今読んでも?」
 許可を得て機密文書に目を通す。
 試作品の性能は魔導型デュミナス以下だが、形にすらできなかった以前の計画とは雲泥の差だ。
 今後目指すのは、活動中のハンターに行き渡る程度には量産可能な高コスト機。
 マテリアルに反応する特殊金属を最大限に活かし、基本性能の高さと可能であれば本人スキルの高レベルな反映を目指す。
 飛行機能や自爆機能の搭載は検討中。
「読みました」
「うむ」
「すごいなぁ、と」
 文章も平易で、直感的な理解を助ける図もついていたので分かり易かった。
「そうではなくでだな、これが造られたとして扱える人間はどの程度いる? 機体はどの程度使える?」
「はい、私では無理です。他の騎士については分かりません。機体自体については……」
 これまでの操縦経験と見聞きしたハンターの機体と操縦を思い出す。
「今のCAMよりは強くなります」
「どの程度強くなるかは分からないと」
「はい」
「ありがとう。よく分かった」
 古参官僚が決断を下す。
「私は成功の見込みがあると判断した。乗り手のハンターの中に王国出身者がいれば辻褄をあわせるのも容易だ。予算の倍増を念頭に動いて欲しい」
 これまで反対はしていなかった者達も騒ぎ出す。
 現時点でもかなりの額が使われているのだ。
 これ以上となるとどこかを削るしかなくなる。
「問題があるのは分かっている。だが時間がないのだ」
 王国を挑発する、イヴの配下と名乗る高位歪虚を倒すどころか見つけることもできていない。
 王国とは価値観が異なるとはいえ、巨大な人口と力を持つリアルブルーからの助けも期待できなくなった。
「現実に役に立つ力が必要だ。できるだけ早くな」
 多くの者がしわ寄せで苦しむのは分かっている。
 それでも、これよりマシな手段を見つけられなかった。


「……そうか」
 アポイントメントを取ろうとして門前払いされたことを知らされ、アダム・マンスフィールドは静かにうなずいた。
 予算が削られようが邪険に扱われようが、研究を辞めることなどあり得ない。
 ただ、足踏みが続く現状が歯痒かった。

リプレイ本文

●病床
「彼は使えないよ」
 悪意も善意もなく純粋な損得勘定で切り捨てた。
「貴重な資源の無駄だ。実験に関わったハンターから直接聞き取り、研究は私が引き継ぐ」
 複数分野の博士号と数多の業績を持つ老博士が、アダム・マンスフィールドの全てを踏みつけすることを宣言した。
「という感じの内容を、1ヶ月前なら言っただろうがな」
 安楽椅子の上で力を抜く。
 椅子が微かにきしんで心地よい揺れをもたらすが、精神的には全く楽になれない。
「じゃあ、博士の下について貰ったらという提案をうけるの? それで博士の負担が多少なりとも緩和されるなら、そうして貰っても良いんじゃないかと思うの」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)の確認に、リチャード・クラフトマン(72)は軽く肩をすくめて否定した。
「判断は保留する」
 エルバッハ・リオン(ka2434)が運んで来た珈琲を受け取る。
 産地が凍結されたそれは、適度な苦みと旨味で鼻と舌を楽しませる。
 これが最後の手持ちだ。
 歪虚に勝っても負けても、高齢な彼が彼が再び味わえる確率はかなり近い。
「どの程度使えるか判断する材料もない。論文を回線経由で取り寄せできるリアルブルーとは違い過ぎる」
 カップをサイドテーブルに置いたタイミングで、ディーナがインク臭のする紙束を差し出した。
「執務室と資料室から集めてまとめました」
 かなりの重労働だった。
 高位覚醒者の気力体力と若さがあるエルバッハでも、濃いくまが出来てしまうほどだ。
 博士は礼を言うのもそこそこに読み進める。
 常人より倍以上速く、エルバッハ達と比べると少し遅い。
「まったく、これだから異文化交流は……」
 博士から見れば必要な情報が足りていない。
 エルバッハの失敗ではない。もともとこの程度の情報しか流通していないのだ。
 紙束をエルバッハに渡し、目頭を揉みながらカップに手を伸ばして中身が空であることに気付く。
「操縦系統開発の進展の切っ掛けになるかもしれませんよ」
「否定はしないがね」
 気合いを入れて珈琲への未練を断ち切る。
「リアルブルーは事実上の失陥。王国では傲慢の歪虚王が動き出そうとしています。しかしながら、今ここで強力な新型CAMが登場すれば、一躍脚光を浴びることになります。所長は栄誉には興味はないようですが、せっかくCAMを開発するからには関心を持たれた方が良いですよね?」
「君たちが望むなら止めはしない。邪神と直接戦う連中に渡せるなら私はそれで十分だよ」
 ディーナの意図に気付いた上でこの返事だ。
 博士は王国を一方的に利用し尽くすつもりだった。
「相変わらず畜生なの」
 ディーナがじとりと見て、博士がふふんと笑う。
「私が猫を被る必要がなくなるほど追い詰められているということさ」
 精気にあふれた視線がぶつかり火花を散らす。
「CAMの設計や合金の技術は博士が世界一なのかなって思うけど」
 精霊まで巻き込んで技術を開発したアダムと比べてどうかなと、言葉ではなく態度でつつく。
「評価してくれるのは嬉しいがな。才が私より下でもそれのみに人生を捧げた相手には負けることもあるさ」
 傲慢な発言だが目が暗くなっている。
 見捨てざるを得なかった同業者のことを思い出していた。
「会話を楽しむのはいいですが回復を第1に考えて下さい。博士が倒れてどれほど支障が出たか、想像できますよね?」
 エルバッハの目は博士とは別方向に暗い。
 研究所で資料をまとめるだけでなく、王宮に出向いて官僚に話を通すことまでやったのだ。この程度の厭みを言う資格は十分にあった。
 我が意を得たりと微笑むディーナ。
 不吉な気配を感じ取りごまかそうとする博士。
 そして、忍び寄ってきた美少女パイロットが博士を背後から捕まえた。
「ありがとうウーナちゃん。実はね、フルリカバリーやゴッドブレスで疲労が回復するかは試したことがないの。所長さんには早く良くなってほしいから試してみるの」
「待ちなさい。君たちのスキルは戦闘向きでその手の効果は……いやほんと待ちなさい、マテリアル光が不自然に眩しいんだが、ねぇ!」
 ディーナが止まるわけが無い。
 えい、と気の抜けるかけ声と共に、大聖堂の仰々しい儀式の中で行われるはずの法術が実行される。
「過労っていうより負傷レベルのダメージかぁ……所長、けっこう真面目に人助けしてたんだね」
 ウーナ(ka1439)の手の下で筋肉や神経が蠢いている。
 ディーナの強力な法術により超高速で回復しているのだ。
「わ、私は仮面ヒーローの趣味はないんだがっ」
「改造手術じゃないから大丈夫なの」
 精霊が気合いを入れて助力してくれている気がするが、それは気のせいということにしておく。
「この計画は所長ありきで始まったの。所長が倒れたらもう誰もこの計画を進められなくなるの。私達は邪神と戦わなくてはならない、そのために最強のCAMが要るの。でもそれで所長に無理をさせたら、結局私達はCAMを手に入れる機会を失うの。今回のことはいい薬だったと思うの。きっちり休んでから、三食必ず食べて6時間の睡眠もきっちりとる生活習慣に慣れたら退院しましょうなの」
 反論は許さない。
 ユグディラの睡眠の術を叩き込まれ、リチャード・クラフトマンは慌てた間抜けな表情のまま眠りに落ちた。
「これでいいかしら?」
「必要な署名はもらいました。私達の判断でアダム氏の扱いを決めてもいいことにはなりましたが……」
 エルバッハが書類を鞄に収めて肩にかける。
 ディーナは警備の聖堂戦士に挨拶してから、ウーナと一緒に博士をベッドへ運ぶ。
「アダムさんを直接見た博士の意見も聞きたいものね。明日の朝には自然に目が覚めると思う」
「承知しました。それを前提に手続きを進めておきます」
 翌朝。
 完全に回復した博士が退院した。

●研究所
 熟練の拷問官により破壊された人体のようだった。
 名医の技術を、苦しみが長引く方向に使った跡にしか見えない。
「ありがとう」
 黙祷を終えたジーナ(ka1643)は、そう言い残して倉庫を後にする。
 データ取りに使い尽くされた前試作機が、静かに眠りについていた。
「こうも状況が変わるとはな」
 研究員と挨拶を交わしながら実験場に向かう。
 邪神本体の出現と地球凍結により多くのものが変わった。
 いくつもの国家や企業が消え去り、最期まで秘匿されるはずだった技術や物資まで表に出てきている。
「王国は勿論、紅の大地に退路はない。元は監視だと聞いているがこの計画、否が応でも成功させなくては」
 最後まで言い終える前に、ルベーノ・バルバライン(ka6752)のうめき声がジーナの声を掻き消した。
「嫌がらせか貴様等」
「嫌がらせならセンサー系の計算も混ぜているっ。変態装備をつけたいなら自力でなんとかしろぉっ!」
 研究員が激高していた。
 新型機に自爆装置をつけるつもりなら、最終的にはクリムゾンウェスト連合軍を説得する必要が有る。
 つまり説得材料として豊富なデータが必要な訳で、ルベーノが研究員に設計と計算をやらせようとしてこの結果である。
「何が変態装備だ。自爆装置は使いこなせる者が少ないだけだ」
 ルベーノの目の前には一抱えはある特大ディスプレイ。
 現実と見まごう爆発が何度も繰り返され、1分の1スケールのコンフェッサー改造機がコクピットを失ったり失わなかったりしている。
「専門家ではないのだがな。……金剛不壊でも両足を持っていかれるか。爆薬をこれ以上減らせないなら配置を、こうか」
 初めて扱うはずのソフトを、器用に操るルベーノであった。
「ウーナ女史が戻ってくるまで後何分だ!」
「おい馬鹿2番の設定が前のままだっ、入れ替え、いや俺がやるっ」
 研究所と研究員は殺気立っている。
 そこにジーナが口を挟む。
「操縦桿と脳波とやらで駄目ならハンターの身体で動かせばいい」
「マスタースレーブか? 連合宇宙軍で一般的で無いのには相応の理由があるぞ」
「機導式マスタースレーブだ」
 ジーナが自機を指差す。
 CAMを帝国流に理解し解釈し製作された魔導アーマー「プラヴァー」だ。
「この機体は腕だけだが、戦闘にも作業にも使えるほど高い操作性と追従性を備えているのは間違いない。全身に応用できればあの素材を従えて人機一体も出来るはずだ」
 クリムゾンウェストでCAMを動かせる可能性があるCAM以外のシステムなど、心当たりはこれしかない。
「ばらしても?」
「良いわけがなかろう。あぁ、この情報を流したのが私というのは内密にな。帝国と王国の政争に巻き込まれたいなら止めはしないが」
「命がいくつあっても足りねぇな……」
 桑原桑原(精霊翻訳済)とつぶやき、開放型コクピットを覗き込む研究員たち。
「帝国もかなりいかれてるな」
「俺たちも人のこと言えねーよ。……あの金属使うなら電気に変換せずに済む分こっちのがマシか」
 ジーナが提供したデータを元に、新たな実験内容が瞬く間に組み上げられていく。
「よし! この内容で連合宙軍に実験させておけ!」
 ルベーノが立ち上がり自分のプラヴァーに乗り込む。
 到着したウーナと研究員の指示に従い、プラヴァーを器用な重機として扱い試作機を組み上げる。
「相っ変わらず癖が強いんだから」
 赤く輝く幾何学的な模様が、ウーナの四肢から試作機コクピットに広がった。
 外付けされたCAMの感覚が五感に流れ込む。
 人機一体抜きでも負担が重いのに、データを取り終えた後すぐに人機一体を使用する。
 赤い輝きが強くなり、ウーナの口から熱い吐息が漏れた。

●アダム
「新たな技術者を招聘?」
 配給のブドウ糖液のグラスを手に、ルベーノが眉間に皺を寄せた。
「それは所長も知っているのか? 戻る前に入り込まれてはあの御仁は絶対へそを曲げると思うが」
 元コンフェッサーが見慣れぬ動きで飛び跳ねている。
 予めプログラムされた動きではない。
 両手拳銃を前提に、移動を重視して攻撃のバリエーションを披露中だ。
 もっとも、操縦者がオファニムを使ったときと比べると児戯以下。
 新しい技術は確立されつつあるが、兵器としての完成はあまりに遠い。
「それに技術者に一家言のない奴は居るまい? 所長を立てて盛り立ててくれる相手なら良いのだが」
 偉大な業績を残せる者は分野を問わずそんなものだ。
 確実に発生するはずの衝突を想像すると、精神的に頑強なルベーノでも頭が痛くなる。
 どむ、と重い音が響いた。
 ミグ・ロマイヤー(ka0665)が見慣れぬ男の肩を叩いて歓迎している。
 かなりの力を込めているのにふらついていないことに気付き、ルベーノがほうと感心した。
「一瞥以来であるな、息災かや、アダム博士?」
「ああ。これが入場許可証だ」
「確認した。あれが所長だ。後はいいようにやれ」
 非戦闘員なら骨まで響きそうな歓迎なのにアダム・マンスフィールドは少し揺れる程度で倒れもしない。非常に、筋骨逞しい。
 好意的に表現してインテリヤクザな所長に、古の時代の勇者じみたアダムが近づいた。
「放って置いていいのか?」
「構い過ぎるのは奴に対する侮辱になる。おーい、ここの端末を使うぞ? 何電力が足りない? ソーラーパネルと蓄電池を1セット借りるぞ」
 オートソルジャーに資材を持たせて中庭に向かう。
 試作装甲やフレームが無造作に積まれ置き場所がないので、梯子をかけて屋上に向かわせた。
「ふむ」
 ルベーノが考え込む。
 所長とアダムの挨拶は終わり、世間話という形で知識と意図の探り合いが始まっている。
「うまくいけばよいが」
「現状必要なのはブレイクスルー。そいつは劇薬であればあるほどいい。ゆえに白羽の矢がアダムに立ったのは自明の理よ」
 ミグだけが屋上から飛び降りてきた。
 地球から運び込まれたコンピューターが1つ、送風機の低い音と共に立ち上がる。
「奴が目指しているのはCAMではないがな。予算的にも実績的にもこの研究に噛まないという選択はあり得んよ」
「嬉しそうだな」
「あれほどの成果が放置されていたのを見るとな。日の目を見ることをある意味心待ちにしていたし、それに……うむ」
 何かを言いかけて止め、席について図面を引き始める。
 筋肉ムキムキで汗臭くさ且つ暑苦しそうなのをリチャードに押しつけることができて、内心思いっきりほっとしていた。
「うまくいってる?」
 ウーナがひょいと顔を出す。
 ディーナにしっかり治療して貰ったので、ウーナ流人機一体による後遺症は無い。
「コメントし辛いな」
 揉めてはいない。
 どちらも人類がおかれた状況を理解しているので、利害のぶつかり合いは最小限に抑えられている。
 が、精霊による翻訳で意味は通じているはずなのに、会話はできても話が通じていない。
「専門用語が多く話の速度が速いので分かりにくいが」
 ルベーノが腕を組む。
「書式が違うのか?」
「電気のリアルブルーにマテリアルのクリムゾンウェストだからねー」
 所長もアダムも議論にならない議論に疲れて息が荒くなり、少し休憩をとることに同意する。
「やっほー所長、先やってるよー」
 老博士はコンフェッサー改造機を見て何か言いたげになる。
「所長だってあたしに黙って勝手したでしょ?」
 適度に冷えた飲み物(ブドウ糖液カフェイン入り)を投げ渡す。
 結構な勢いがあったのに、72歳の彼は危なげ無く受け取り一息で飲み干した。
「そろそろワンマンお仕舞いにしたら? もうちょい人を信じてもいいんじゃない? うまく人使えば便利な手足が増えるよ?」
 地球じゃ指揮して研究させる側だったのでしょと、軽い口調で重い内容を突きつける。
「楽しかったんだ」
 老人が研究所を見渡す。
 連合宙軍の1部門の長として動かしてきたものと比べると桁が2つ3つ少ない。
 しかし時代の最前線で直接現場に関わるのは、夢だけに溢れていた学生時代に似た最高の時間だった。
 ウーナは特に促しはせず、次の実験のための内容を頭に詰め込んでいた。
「アダム、と言ったな」
 ルベーノがアダムに近づく。
 アダムの視線は、機体内のAIが表示されたディスプレイに固定されている。
「俺は不勉強ゆえお前のことを知らぬ。お前は主に何を担当する技術者だ。お前は所長を立てて仕事ができるのか」
「刻令術だ」
「ほう」
 ルベーノが目を輝かせる。
 対邪神戦で猛威を振るったVolcaniusは刻令ゴーレムだ。
 多くが中破以上の損傷を負ったとはいえ、1機10殺以上の戦果をあげたのは記憶に新しい。
「状況が状況だ。忠実に動くつもりはある」
 言い訳の響きはない。
 ただ、成功は難しいと理性で判断してしまっている。
「これはな」
 ルベーノがコンフェッサー改造機の装甲を叩く。
「神を倒す最強の最新兵器であるだけではない。未完成とはいえ、何人もの漢の夢と希望と血と汗が詰まった機体なのだ。特に俺達は、あの所長の声掛けから集まった。どんなに有用な技術であろうと、全てを御破算にして入替えて済ませられる物ではないのだ」
 稀少な人材の時間と物資が大量に注ぎ込まれている。
「研究に命と情熱を捧げたあの所長を、俺は偉大な男だと思っている。多少……いやかなり迷走するがな。それを立てられる男でなければ、一緒に仕事をするのは難しかろうよ」
「立てる、か」
 アダムは悩んでいた。
 精霊を立てなければ新たな操縦系が成立しないという事実が、全く伝わっていない気がしていた。

●試作機
「これが今の成果物です」
 エルバッハに連れてこられた官僚達が、ポーカーフェースも忘れて歓声をあげた。
 改造と破損と修理の繰り返しで原型が分からなくなった試作機が、走り、跳び、構え、切り払う動作を素早く繰り返す。
 平均的な魔導型デュミナスより動きがよい。
 現時点で計画を終了させても、官僚基準では失敗にはならないことが確定した。
「これでは……」
 搭乗中のジーナは渋い顔だ。
 あの素材を使ってこの性能では話にならない。
 開発費を0として計算しても1機のコストが魔導型デュミナスの倍以上だ。
 これを量産するのは人類に対する破壊工作同然である。
「次の設定はこれで頼む」
 口で言うより速いので、数値を入力したPDAを研究者に渡す。
「過敏になります。扱い切れますか?」
「この程度なら問題ない。しかしこのままでは来年になっても目標スペックに届きそうにないな」
 打倒邪神が目標なので目標が高いのである。
「ですね。アダム氏の操縦系も意味不明ですし」
「おいそりゃ失礼だ。ハンターズソサエティーも実験成功を確認してるんだから、俺たちの技術が足りないんだろ?」
 研究員が揉めだす。
 アダムが資材一式を持ち込んでくれたのに全くCAMに反映できていない。
 なお、アダムはCAMどころかリアルブルー技術の習得から始める必要が有るので現時点では役に立たない。
「悪影響もないなら起動していないのではないか?」
 ジーナが椅子に座ると疲労感が襲ってくる。
 実際に戦闘をしたときよりも疲れている。
 戦闘能力以外の面でも、実戦投入可能な水準に達していない。
「次回にするつもりのアレを試してみるか?」
「無茶を言う」
 ミグの提案に所長の顔が引き攣った。
「アダム、刻令術でいけるか?」
「使い捨てになる。その……高価そうだが」
 試作機がどういう理屈で動いているは分からないが、いくらかかっているかは分かる。
 目的のためなら禁忌も冒す彼でもためらうほどの、とんでもない額だ。
「時間が惜しい。内容説明」
「うむ。端的にいうと乗れるオートソルジャーだ。多量の武器を扱えるCAMは一つの理想。だが機体制御も武器もと言うと1人の乗り手で扱える両には限りがある。であるなら手を増やせばいい。基本的な動作を自動制御部分にゆだね、人間は武器の選択や扱いなどを担当する。複座型の攻撃ヘリのような関係だ」
 所長がCAMや攻撃ヘリの設計図を表示させる。
 この時点で法律や条約をいくつか無視している気がするが、非難や報復を行うリアルブルー諸国は凍結されているのでとりあえず問題は無い。
「……全力を尽くそう」
 金銭感覚が狂うと半ば確信しながら、アダムは試作機に対して術を行使した。
「あたし!」
 ウーナが手を上げるだけでなく操縦席に潜り込む。
「骨は拾ってやる」
「それはディーナちゃん限定ね。ここで骨になるつもりもないけど」
 元コンフェッサーが跳ね起きた。
 天井にめり込む寸前でウーナが左手の掌握を終え、天井を殴りつけるようにして不幸な事故を回避する。
「暴れても無駄だよー。半自律から制御へ切り替え開始」
 体の感覚が消え機体の感覚だけが残る。
 かつてアダムが成功させた実験には全く及ばないが、新しい操縦系が動いていることは喜ばしい。
「懐かしい作品を思い出すな」
「オートソルジャーの自動制御はたしか精霊が絡んでおるじゃろ? あの制御システムはこの部分を補完する形でも都合がいいはずじゃ。適宜自律と制御を使い分けることができれば一気に完成に近づく……のじゃが」
「ウーナちゃんストップ!」
 ディーナが叫ぶ。
 試作機の暴れっぷりは徐々に穏やかになってきているのだが、座席にしっかり固定されていてもウーナにかかる負担が大きい。
「聖堂教会から問い合わせです。暴れ精霊の気配がするのはどういうことだと強い口調で……」
 研究所は大混乱である。
 プラヴァーが真後ろから試作機に組み付く。
 両足が封じられ、ウーナの意思通りに動く右腕が左腕を押さえ込んで停止させる。
「武装ありなら死んでいたぞ」
 ジーナが安堵の息を吐く。
 機体の構造をネジ1本に至るまで熟知していたから取り抑えることができたが、試作機が本来の性能を発揮していればプラヴァーごと潰されていたかもしれない。
「ウーナちゃん!」
「大丈夫。心配かけてごめん」
 心配するディーナを宥めながら、ウーナは興奮した様子でコクピットから降りる。
「博士、この子くれない? 駄目?」
 単刀直入である。
 フレームは継ぎ接ぎで出力も安定しない暴れ馬だが、つきっきりで調教もとい調整をすれば使える手応えがあった。
「危険過ぎてソサエティーが許さんだろう。……このまま量産できそうか?」
「もう一段深い所まで操作できると思うのだが」
 所長もアダムも落ち着き払い、邪悪な研究者の目をしてウーナに詰め寄る。
「このままじゃ無理。多分この子に精霊が巻き込まれてる」
 突然、所内の魔導短伝話が火を吹いた。
 異様な気配が聖堂教会の方向から近づいて来る。
 歪虚ではない。
 これは、精霊の正マテリアルの気配だ。
「お、おぬしら一体なにやっとるんじゃぁぁぁっ!!」
 怒鳴り込んできた精霊プラトニスによって、研究所の機能は完全に停止した。

 次回。精霊契約交渉編

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MVP一覧

  • 青竜紅刃流師範
    ウーナka1439
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバラインka6752

重体一覧

参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    バウ・タンカー
    バウ・タンカー(ka0665unit010
    ユニット|自動兵器
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ラジエル
    Re:AZ-L(ka1439unit003
    ユニット|CAM
  • 勝利への開拓
    ジーナ(ka1643
    ドワーフ|21才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    タロン
    タロン(ka1643unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ユグディラ
    ユグディラ(ka5843unit003
    ユニット|幻獣
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ユニットアイコン
    マドウアーマー「プラヴァー」
    魔導アーマー「プラヴァー」(ka6752unit002
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